説明

水素燃焼触媒及びその製造方法並びに水素燃焼方法

【課題】水素燃焼触媒において、雰囲気中の水分や燃焼反応による生成水の影響を考慮する必要がなく、低温での反応維持が可能なものを提供する。
【解決手段】本発明は、無機酸化物からなる担体に触媒金属が担持されてなる水素燃焼触媒において、前記担体表面の水酸基に、その末端に炭素数3以下のアルキル基を少なくとも一つ有する官能基を置換結合させたものであることを特徴とする水素燃焼触媒である。担体表面の水酸基に結合する官能基は、有機シランが好ましい。本発明に係る水素燃焼触媒は、処理対象である水素含有ガスが飽和水蒸気量以下の水分を含み、0〜40℃と室温程度であっても活性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気含有ガス中の水素(同位体を含む)を燃焼させるための触媒に関する。特に、雰囲気中の水ミストや水蒸気及び水素燃焼により生じる水の影響を受け難く、比較的低温下でも活性を保持することのできる水素燃焼触媒を提供する。
【背景技術】
【0002】
重水素(D)と3重水素(トリチウム,T)を燃料に使用する核融合プラントでは、核融合炉等が設置される建屋施設からの排気処理を行うトリチウム除去設備が必要とされている。排気中に含まれるトリチウムは放射性物質であり、これをわずかでも施設外へ放出することが出来ないからである。このトリチウム除去設備は、建屋施設からの排気を触媒層に通過させてトリチウムを含む水素を燃焼させて水とし、この水成分を除去・回収してクリーンな状態の排気を放出するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】核融合炉工学概論,2001年9月,関昌弘編,日刊工業新聞発行
【0004】
ここで、上記のトリチウム除去のための触媒としては、トリチウムが水素の同位体であり、水素と同様に燃焼可能であることから、従来から知られた水素燃焼触媒が使用されてきた。かかる水素燃焼触媒は、シリカ、アルミナ等の金属酸化物からなるペレット状の担体に、白金等の触媒金属が担持されたものが一般的である。しかしながらこれらの担体では活性のある白金を水の膜が覆ってしまい白金への水素拡散が阻害され、触媒が失活する問題があった。
【0005】
そして、上記トリチウム除去設備においては、処理対象ガスを200℃程度まで加熱して触媒層に通過させている。これは、触媒の活性は反応温度を高温とした方が高いという一般的な知見によるものであると同時に、水素燃焼により生じる水蒸気、及び、処理ガス中にもともと含まれていた水蒸気による水素の拡散の阻害を抑制するためである。即ち、これらの水分は担体である金属酸化物に吸着することとなるが、このような吸着水は触媒の活性低下の要因となる。そのため生成水を生成と同時に気化させて触媒の外へ放出させるために反応温度を高温とする必要がある。
【0006】
上記のような水素燃焼のための排気の加熱は、その反応進行を維持する上では必須であるが、核融合プラントの安全性の観点からは、安全を確保する上で重要な設備に位置づけられる触媒酸化反応器の高温化は避けたいというのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような核融合プラントの他、高純度水素精製プラント等で使用される水素燃焼触媒においては、低温での反応継続が要求される場合がある。しかしながら、低温での反応は生成水の吸着による活性低下を招くこととなる。そこで、本発明は、水素燃焼触媒において、雰囲気中の水分や燃焼反応による生成水の影響を考慮する必要がなく、低温での反応維持が可能なものを提供する
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、無機酸化物からなる担体に触媒金属が担持されてなる水素燃焼触媒において、前記担体表面の水酸基に、その末端に炭素数3以下のアルキル基を少なくとも一つ有する官能基を置換結合させたものであることを特徴とする水素燃焼触媒である。
【0009】
従来の触媒は、それ自体の活性が低い訳ではなく、反応温度を高くしなくとも水素燃焼能を有する。加熱を要するのは上記の通り、水分が担体に吸着することを回避するためである。従って、上記課題の解決にあっては、担体への水の吸着を抑制することが好ましい手法といえる。
【0010】
ここで、水吸着の抑制方法としては、担体自体を樹脂等の疎水性物質に変更する、或いは、担体に疎水性の皮膜を形成する等の対策も考えられる。しかし、樹脂製の担体は触媒層内に反応熱による局所的加熱が生じた場合に着火の危険性や耐久性に問題があり、また、トリチウム等の放射性物質による放射線損傷の問題がある。他方、皮膜形成については金属酸化物担体が持つ多孔性を維持しつつ、皮膜を形成するのは難しいという問題がある。
【0011】
そこで、本発明者等は、担体を従来のシリカやアルミナ等の金属酸化物としつつ、その表面処理による疎水化を検討した。即ち、シリカやアルミナ等の金属酸化物は、その表面に水酸基が存在する。本発明者等は、この水酸基を所定の官能基で修飾し、これにより担体を疎水性のものとすることを見出し、上記本発明とするものである。
【0012】
本発明における疎水化のための修飾処理は、金属酸化物表面の水酸基(OH基)の水素部分に、アルキル基を有する官能基を置換するものである。この水酸基を修飾する官能基は、末端にアルキル基を少なくとも1つ有する。担体表面の水酸基の末端をアルキル基とするのは、担体表面の極性を低下させる効果に優れ、担体に水分子が吸着することなく速やかに排出させることができるようになるからである。そして、アルキル基の炭素数は、3以下(メチル基、エチル基、プロピル基)とすることが必要である。本発明者等によると、アルキル基の炭素数は、触媒の疎水化効果に対する耐熱性に影響を与える。これは、炭素数が3を超えるアルキル基(ブチル基等)で修飾された担体は、高温下で疎水性を失う傾向にあり、それによる水分吸着及び触媒失活が生じることとなる。この耐熱性は、低温反応を前提とした本発明に対して直接的な問題とはならないが、触媒層に反応熱による局所的温度上昇が生じた場合に反応の不均一性を生じさせることから回避されるべきものである。但し、官能基が有するアルキル基の数は少なくとも1つあれば良いが、複数のアルキル基を有していても良い。
【0013】
また、水酸基を修飾する官能基としては、アルキル基を有する有機シランが好ましい。アルキル基を有する官能基として、多様な形態を有し、水酸基に対する反応性も良好だからである。その具体例としては、下記の製造方法にて述べる。
【0014】
本発明に係る触媒の担体は金属酸化物であり、好ましくは、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、ジルコニアである。これらの金属酸化物は、従来から触媒担体として利用されており、多孔性、耐熱性に優れたものである。尚、担体の形状については特に限定はない。円筒形、球形のペレット状に成形されたものが一般的であるが、この他、ハニカム、網等の適宜の支持体にこれら金属酸化物をコーティングし、このコーティング層に疎水化処理を施して担体とすることもできる。
【0015】
担体に担持する触媒金属としては、貴金属が好ましく、その中でも白金、パラジウム、又は、これらの合金が水素燃焼に適している。また、触媒金属は、後述する担持方法に応じて、金属塩溶液を担体に吸着させて還元して形成される原子状金属や、予め調整された金属コロイド溶液を担体に吸着させて形成するコロイド状(クラスター状)金属の状態となるが、いずれの状態でも良い。そして、これらの状態により触媒金属の、粒径は1〜100nmとなる。更に、触媒金属の担持量(担持率)についても特に限定はないが、担体重量に対して0.1〜10重量%とするのが一般的である。
【0016】
また、本発明に係る触媒の好適な物性としては、比表面積が100〜300m/g、平均細孔径が100〜300nm、細孔容積が0.3〜1.0mL/gのものが好ましい。
【0017】
以上説明した本発明に係る水素燃焼触媒の製造方法は、末端に炭素数3以下のアルキル基を有する官能基の化合物の溶液に担体となる無機酸化物を浸漬することにより、前記担体表面の水酸基に前記官能基を置換結合させる疎水化処理をし、その後、担体に触媒金属を担持する工程を含む方法とする。
【0018】
担体の疎水化処理は、無機酸化物表面の水酸基を修飾する官能基を含む化合物の溶液を吸着させるものである。疎水化処理の化合物としては、シラン無機質表面改質剤が好ましく、末端にアルキル基を有するシラン無機質表面改質剤として、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルクロロシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリプロピルクロロシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジクロロシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシランのいずれかが好ましい。プロピル基を有する化合物は直鎖状のもののみならず、分岐状のものを含む。
【0019】
担体疎水化処理の具体的な方法としては、上記化合物を溶媒に溶解させた溶液に担体を浸漬する。この際に、担体表面の水酸基の水素が疎水性官能基に置換される。その後担体を溶液から取り出し、適宜に洗浄、乾燥を行う。尚、本発明に係る触媒は、担体表面上の水酸基に全面的に置換されていることが好ましい。溶液中に混合する化合物の量は、各化合物に規定されている被覆面積(m/g)と、担体の重量(g)及び比表面積(m/g)から算出することができるが((担体重量×担体比表面積)/化合物の被覆面積)、概算で担体100gに対して1.0〜100gの化合物が使用される。また、溶液(溶媒)の液量は、担体が全面的に漬かる程度とするのが好ましい。
【0020】
そして、疎水化処理を行った担体への触媒金属の担持は、従来の触媒と同様である。触媒金属の担持方法としては、従来から、金属塩の溶液に担体を浸漬し、その後還元剤添加や熱処理により原子状金属を担持する方法がある。この場合の金属塩は、白金に対しては、ジニトロジアンミン白金、塩化白金酸等の白金塩が、パラジウムに対しては、パラジウムニトロジアンミン、塩化パラジウム等のパラジウム塩が適用される。
【0021】
触媒金属担持の方法としては、この他、金属コロイドを担持する方法がある。金属コロイドは、溶媒に金属塩及び必要に応じて保護剤となる有機化合物を添加し、これに還元剤を添加することで製造される。コロイド担持の際には、コロイド製造後の溶液又は一旦濾過して得られた金属コロイドを再度溶媒に分散させた溶液に担体を接触させて、金属コロイド粒子を吸着させ、適宜に洗浄、熱処理を施すことで触媒を調整することができる。
【0022】
以上説明した本発明に係る水素燃焼触媒は、水素燃焼反応による生成水及び雰囲気中の水の吸着を抑制するための加熱が不要であり、比較低温で水素燃焼反応を継続させることができる。そして、この水素燃焼触媒を用いて水素含有ガス中の水素を燃焼させる方法においては、処理対象となる水素含有ガスがその反応温度における飽和水蒸気量の水分を含むものに対しても有効であり、更に、反応温度を室温、具体的には0〜40℃とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上で説明したように、本発明に係る水素燃焼触媒は、担体に疎水性を具備することで、水素燃焼による生成水或いは処理ガス中の水分が担体に吸着することを抑制することができる。これにより、触媒層の温度を高温にすることなく、触媒活性を維持することができる。また同時に非常時の火災等におけるスプリンクラー等の液体水にも水を弾くため水濡劣化に抵抗性をもたせるものである。
【0024】
そして、本発明に係る水素燃焼触媒は、水素燃焼のための各種機器に適用可能であるが、上記のメリットからトリチウム利用施設からの排気中のトリチウムを酸化させ水に変換する触媒酸化反応器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】未処理及び疎水化処理したシリカ担体の赤外分光分析結果。
【図2】トリチウム燃焼試験の試験装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。本実施形態では、各種担体の疎水化処理を行った後、その疎水化の効果を確認した。そして、この担体に触媒金属を担持して触媒を製造し、水素燃焼及びトリチウム燃焼の効果を確認した。
【0027】
[担体への疎水化処理及びその効果確認]
まず、担体としてシリカ担体(被表面積230m/g)100gを用意し、これを疎水化処理した。疎水化処理は、シリカ担体に、メチルトリメトキシシラン40gと純水50gとエタノール50gとを均一に溶解した混合液を加え振とうし、攪拌することにより行った。1日経過後取り出し、純水にて洗浄した後、200℃にて乾燥する。処理前に担体を純水洗浄し、各種シラン無機質表面改質剤のエタノール溶液(濃度15重量%)に担体を24時間浸漬した。その後、担体を取り出し、純水にて洗浄後、200℃で乾燥した。尚、この場合のシラン処理による重量増加は約13%であった。
【0028】
このシリカ担体に対する疎水化処理は、上記メチルトリメトキシシランの以外のシラン無機質表面改質剤である、ジメチルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルメトキシシランを用いて同様の処理を行った。
【0029】
そして、上記各種シラン無機質表面改質剤で疎水性処理を行ったシリカ担体について、疎水化効果の確認を行った。この評価試験は、担体を水槽に投入し、担体が浮上した場合には疎水化効果有りと判断し、沈降する場合には水吸着が生じたものとした。また、この評価試験は、疎水化処理直後の担体に加えて、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃で熱処理したものについても行った。この試験結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から、各シラン無機質表面改質剤による疎水化効果が認められるが、担体を加熱した場合、結合させるアルキル基の炭素数を4(ブチル基)以上とすると、300℃以上の加熱で疎水化効果が消失することがわかる。従って、反応温度の局部的上昇の可能性を考慮すると、アルキル基の炭素数は3以下とすることが好ましいといえる。
【0032】
次に、疎水化処理を施したシリカ担体について、担体表面におけるアルキル基の存在を確認した。この試験は、未処理のシリカ担体と、ジメチルジメトキシシランで処理したシリカ担体であって未処理のものと500℃、600℃で熱処理したものとについて、赤外分光分析(IR)で分析した。その結果を図1に示すが、ジメチルジメトキシシランで処理したシリカ担体(熱処理なし、500℃熱処理)については、メチル基を示すピークがみられた。また、上記の疎水化効果確認試験では、500℃熱処理品は水に浮上するのに対し、600℃熱処理品は水に沈んでいたが、これらの分析結果おいて、600℃熱処理品はメチル基のピークが消失していることから、上記の評価結果に一致するものであった。
【0033】
[水素燃焼触媒の製造・評価]
上記試験で特に疎水化効果に優れたメチルトリメトキシシランで処理したシリカ担体を用いて触媒を製造し、その性能を評価した。また、ここでは、アルミナ担体についてもメチルトリメトキシシランで疎水化処理し、触媒を製造した。表2に各担体の疎水化処理前後の物性を示す。
【0034】
【表2】

【0035】
触媒の製造は、各担体(100g)に5%塩化白金酸エタノール溶液25gを100gのエタノールに希釈した溶液を加え含浸させる。ついでロータリーエバポレーターにてエタノールを蒸発させた後、カラムに入れ、3%水素ガス(Nバランス)を300℃で2時間流通させ還元し触媒とした。以上で製造した触媒は、白金濃度1.0重量%である。
【0036】
(吸水試験)
以上で製造した各触媒について、その疎水化効果を確認するため、各触媒を粉砕し、水の入ったデシケータへ入れ、常温で平衡水分吸着となるまで十分な時間静置し、水の吸着量を測定した。吸着量の測定は、触媒粉末について熱質量分析(TG−DTA)により行った。この吸着量の測定は、疎水化処理を行わない担体から製造された触媒についても行った。その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3から、シリカ、アルミナいずれについても疎水化処理を行わないものは、20%以上の水の吸着があったことがわかる。そして、実施例に係る触媒は、吸着量が著しく低減されており、触媒とした後も疎水化処理を有することが確認できた。
【0039】
(水素燃焼試験)
次に、上記で製造した各触媒及び製造条件を変更して製造した触媒を用いて水素混合ガスの燃焼性能を評価した。この試験で追加した触媒は、上記触媒の白金担持量を変えたものと、白金原料として白金コロイドを用いたものである。白金担持量については、塩化白金酸エタノール溶液の使用量により調整した。
【0040】
コロイドを用いた触媒の製造は、各担体に触媒金属として白金コロイド粒子を担持した。担持する白金コロイドは、ジニトロジアンミン硝酸白金溶液(4.5%白金)を44.5g(白金として2.0g)と、テトラメチルアンモニウム4.0gと、エタノール500mLを、水2000mLに混合し、オイルバス中で攪拌・加温して還元させつつ11時間反応させて製造した。反応後のコロイド溶液は、0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、更に、ロータリーエバポレーターで濃縮して2%白金コロイド溶液とした。
【0041】
担体への白金コロイドの担持は、担体100gをエタノール200mLが入ったビーカーに採り、これに上記白金コロイド溶液25gを添加して担体に白金コロイドを吸着させた。その後、溶液をロータリーエバポレーターに入れて水、エタノールを蒸発させた後、担体をカラムに入れ3%水素ガス(窒素バランス)を300℃で2時間流通させて触媒とした。以上で製造した触媒は、白金濃度1.0重量%である。
【0042】
水素燃焼試験は、触媒を充填した触媒層(触媒体積130mL)に湿分を含む水素混合ガス(相対湿度95%、窒素バランス)を導入し、触媒層通過前の混合ガス中の水素濃度を触媒層通過後の混合ガス中の水素濃度で割った分解効率を計算した。また、この試験でも比較のため、疎水化処理を行っていない担体を適用した触媒の燃焼試験を行い、更に、参考として担体として樹脂を適用した触媒の試験も行った。各実施例の性能評価は、触媒層入口濃度を触媒層出口濃度で割った値を分解効率として評価した。尚、触媒層入口及び触媒層出口の混合ガス中の水素濃度はガスクロマトグラフを用いて測定した。使用したガスクロマトグラフの性能から分解効率の有効測定上限値は1000であった。試験条件の詳細は以下の通りである。
・触媒層通過前の混合ガス中の水素濃度 10300ppm
・湿分濃度 95% 相対湿度
・触媒層入口温度 20℃

触媒層内触媒量 100cm
・ 混合ガス流量 500、2000、5000cm(STP)/min
【0043】
【表4】

【0044】
以上の水素燃焼試験結果から、各実施例にかかる疎水化処理を行った触媒は、水蒸気飽和状態の反応ガスに対しても優れた分解効率を発揮することがわかる。これは、水素燃焼反応による生成水の他、ガス中の水分の吸着も抑制されたことによる。この各実施例における疎水化効果は、参考例の樹脂担体に匹敵するものといえるが、実施例の触媒は、樹脂担体のような高温時の損傷のおそれがない点で取り扱い性に優れているといえる。
【0045】
(トリチウム燃焼試験)
次に、トリチウムの燃焼試験を行った。この試験は、上記水素燃焼試験の結果が良好であった実施例1、2、その対比のため比較例1、2、参考例1、2について行った。図2は、トリチウム燃焼試験の試験装置を示す。トリチウム燃焼試験は、試験ガス供給源からの試験ガスを、二塔の触媒塔を通過させるものであり、一塔目の触媒塔に各実施例の触媒を充填した(50cc)、また、二塔目の触媒には市販の白金触媒を充填した(100cc)。そして、各触媒塔で生じた水蒸気をHTO(トリチウム水)トラップで捕集してサンプリングし液体シンチレーションカウンターでトリチウム燃焼量を定量した。各実施例の性能評価は、一塔目の触媒塔でのトリチウム燃焼量(H1)、二塔目の触媒塔でのトリチウム燃焼量(H2)とし、(H1/(H1+H2))×100(%)を反応率として評価した。試験条件の詳細は以下の通りである。

・試験ガス中のトリチウム濃度 1000Bq/cc
(0.02ppm水素相当)
・湿分 飽和水蒸気同伴
・触媒層温度 15℃(一塔目)、250℃(二塔目)
・試験ガス流量 500、1000、2500cm(STP)/min
【0046】
【表5】

【0047】
このトリチウム燃焼試験の結果から、実施例1、2の疎水化処理を行った触媒は、疎水化処理のない触媒に比して著しい反応率の改善が見られる。また、実施例1、2の触媒は、参考例1、2の樹脂担体触媒と同等以上の性能を有し、高温時の損傷のおそれがない点と合わせて極めて有利なものといえる。尚、今回の試験の反応率は数%のレンジ内にあり、一見すると低い結果に見受けられるが、これは、試験ガスのトリチウム濃度がかなり低いこと、また、それにより反応熱が小さく反応熱による触媒活性の向上が生じないこと、によるものと推察される。しかし、反能率については、運転条件の最適化により対応可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上の通り、本発明に係る水素燃焼触媒は、雰囲気中の水分や燃焼反応による生成水による触媒活性の低下が抑制されている。よって、低温での反応継続が要求される場合等において有効であり、核融合プラントの他、高純度水素精製プラント等での活用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物からなる担体に触媒金属が担持されてなる水素燃焼触媒において、
前記担体表面の水酸基に、その末端に炭素数3以下のアルキル基を少なくとも一つ有する官能基を置換結合させたものであることを特徴とする水素燃焼触媒。
【請求項2】
担体表面の水酸基に結合する官能基は有機シランである請求項1記載の水素燃焼触媒。
【請求項3】
担体を構成する無機酸化物は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、ジルコニアのいずれかである請求項1又は請求項2のいずれかに記載の水素燃焼触媒。
【請求項4】
触媒金属は、白金、パラジウム、又はこれらの合金よりなる請求項1〜請求項3のいずれかに記載の水素燃焼触媒。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の水素燃焼触媒の製造方法であって、
末端に炭素数3以下のアルキル基を有する官能基の化合物の溶液に担体となる無機酸化物を浸漬することにより、前記担体表面の水酸基に前記官能基を置換結合させる疎水化処理をし、
その後、担体に触媒金属を担持する工程を含む方法。
【請求項6】
官能基を含む化合物は、シラン無機質表面改質剤である請求項5記載の水素燃焼触媒の製造方法。
【請求項7】
シラン無機質表面改質剤は、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルクロロシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリプロピルクロロシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジクロロシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシランのいずれかである請求項6記載の水素燃焼触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の水素燃焼触媒に水素含有ガスを通過させ、前記水素含有ガス中の水素を燃焼させる方法であって、
前記水素含有ガスはその反応温度における飽和水蒸気量以下の水分を含むものであり、
前記反応温度を0〜40℃として水素を燃焼させる水素燃焼方法。
【請求項9】
トリチウム利用施設に設置され、施設からの排気中のトリチウムを酸化させトリチウム水に変換する触媒酸化反応器であって、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の水素燃焼触媒を備える触媒酸化反応器。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−139991(P2011−139991A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2025(P2010−2025)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】