説明

水素生成用原料組成物および水素の製造方法

【課題】シクロヘキサン環を有する有機化合物の脱水素反応による水素製造における脱水素触媒の活性劣化を抑制させ、また転化率を向上し得る水素生成用有機化合物原料を提供する。
【解決手段】シクロヘキサン環を有する有機化合物を50mol%以上含有し、かつ含酸素化合物を0.1mol%以上含有する組成物を用いることにより、前記課題が達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成用原料組成物に関する。詳細には、シクロヘキサン環を有する有機化合物の脱水素反応による水素製造における脱水素触媒の活性劣化を抑制し、また転化率を向上し得る水素生成用原料組成物に関する。また、かかる原料組成物を用いた水素の製造方法に関し、さらに膜分離により水素を分離する小型化可能な水素製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は石油精製、化学産業などをはじめとしてあらゆる産業分野において広く用いられている。とくに近年、将来のエネルギーとして水素エネルギーが注目されてきており、燃料電池を中心に研究が進められているが、水素ガスは熱量あたりの体積が大きく、また液化に必要なエネルギーも大きいため、水素の貯蔵、輸送のシステムが重要な課題となっている。また水素供給のために新たなインフラストラクチャーの整備が必要である(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、液状の炭化水素は水素ガスに比べてエネルギー密度が大きく取り扱いやすいことに加え、既存のインフラストラクチャーが利用できるという利点もあることから、炭化水素を貯蔵、輸送して、必要に応じ炭化水素から水素を製造する方法は重要である。
水素の製造はメタンや軽質パラフィンの水蒸気改質法、自己熱改質法、部分酸化法など公知の技術により広く行われているが、これらの反応は高温を必要とする。さらに、COを副生するため燃料電池、特に固体高分子型燃料電池によるオンサイトでの発電を対象とした場合には、その後段にシフト反応器及び、CO選択酸化もしくはメタネーションによる一酸化炭素除去器が必要となり、非常に複雑なプロセスとなる。また、自動車用の水素ステーションを対象とした場合には、PSA(圧力スイング吸着)を用いて高純度の水素にしなければならない。これはメタノールの改質方式においても同じである。
【0004】
これに対し、液状のシクロヘキサン環を有する有機化合物を原料とし、そのシクロヘキサン環を脱水素し芳香族環にする反応は、反応が単純でCOの副生がないことから製造、精製プロセスも単純である。さらに脱水素触媒の存在下で容易に反応が進行し、生成物は気体である水素と液体である芳香族環を有する有機化合物であり両者の分離も容易であるために、小規模の水素製造に適した方法である(非特許文献2参照)。また、副生COの処理工程(たとえばCOシフト反応)が不必要であることから、水素発生までの起動時間も著しく短縮することができる。このため、水素発生システムの小型化および起動時間の短縮が非常に強く求められる用途、たとえば車上で水素を発生させ燃料電池により発電を行いモーターにより走行するオンボード水素発生方式燃料電池自動車では、前述の炭化水素の水蒸気改質法やメタノールの改質法などに比較して格段に適している。
【0005】
しかしながら、この脱水素反応において、触媒の活性劣化が問題となっており、その主要因は炭素析出であると言われている。活性劣化を抑制するために炭素析出の開始反応となる芳香環の開裂反応の進行を抑制する必要があり、例えば、シクロヘキサン環を有する炭化水素の脱水素反応に高い活性を示すと考えられている白金/アルミナ系では、アルカリ金属のカリウムを添加し、アルミナ担体上の酸点での分解反応を抑制するといった検討がなされ、耐久性が向上した結果が得られている(非特許文献3参照)。しかし脱水素反応時に水素を供給させなければならず、水素の無い条件において、劣化抑制に十分な効果があるとはいえない。
たとえば前述のオンボード水素発生燃料電池自動車に適用する場合では、脱水素反応時に水素を供給させることは水素供給システムを別に備えなければならず、水素発生システムの小型化の点できわめて不利である。このため、水素を供給することなく脱水素反応を触媒の活性劣化を抑制する方法が熱望されていた。
【非特許文献1】小林紀,「季報エネルギー総合工学」,2003年,第25巻,第4号,p.73〜87
【非特許文献2】市川勝,「工業材料」,2003年,第51巻,第4号,p.62〜69
【非特許文献3】岡田佳巳ら,「水素エネルギーシステム」,2006年,第31巻,第2号,p.3〜13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シクロヘキサン環を有する有機化合物の脱水素反応による水素製造における脱水素触媒の活性劣化を抑制し、また転化率を向上させるために、原料そのものの改良を行い、これらの問題点を解決し、効率よく、安定に水素を生成できる原料組成物を提供すると共に、該原料組成物を用いた水素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、シクロヘキサン環を有する有機化合物に含酸素化合物を配合することにより、脱水素触媒の活性劣化の抑制と転化率の向上ができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、シクロヘキサン環を有する有機化合物を50mol%以上、かつ含酸素化合物を0.1mol%以上含有してなる、当該シクロヘキサン環の脱水素反応により水素を生成する水素生成用原料組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、シクロヘキサン環を有する有機化合物が、シクロヘキサン、テトラリン、デカリンおよびこれらのアルキル置換体から選ばれる少なくとも1種の有機化合物であることを特徴とする前記の水素生成用原料組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、含酸素化合物が、アルコール、エーテルおよび水から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物であることを特徴とする前記の水素生成用原料組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、アルコールが炭素数2以上のアルコールであることを特徴とする前記の水素生成用原料組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、エーテルのアルキル基が炭素数2以上のアルキル基であることを特徴とする前記の水素生成用原料組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、脱水素触媒の存在下、前記の水素生成用原料組成物を流通させ、シクロヘキサン環を脱水素させることにより水素を発生するとともに脱水素反応生成物を得ることを特徴とする水素の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、前記の方法により得られる水素および脱水素反応生成物、ならびに脱水素反応前の水素生成用原料組成物から選ばれる少なくとも1種を燃焼させ、その燃焼熱を利用して脱水素反応を行うことを特徴とする水素の製造方法に関する。
【0015】
さらに、本発明は、前記の方法により得られる水素と脱水素反応生成物を膜分離により分離することを特徴とする水素製造システムに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による水素生成用原料組成物を脱水素反応に適用することにより、触媒の劣化を抑制し、さらに転化率を向上させた水素の製造方法を提供できる。さらに耐久性の優れた、効率のよい水素製造システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水素生成用原料組成物としては、主成分としてシクロヘキサン環を有する有機化合物が用いられる。本発明においてシクロヘキサン環とは、脱水素可能な飽和六員環を言い、脱水素反応により芳香族環を生成し、生成する芳香族環はベンゼン環になるものに限られず、2環、3環などの多環芳香族環(縮合環)となるものも含む。
本発明で用いられるシクロヘキサン環を有する有機化合物としては特に限定されるものではないが、シクロヘキサン環を有する1環または2環の化合物が好ましい。また置換基を有していてもよいが、脱水素反応に悪影響を及ぼさないものが好ましい。置換基としてはアルキル基が好ましく、アルキル基としては炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0018】
本発明で用いられるシクロヘキサン環を有する有機化合物としては、具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、テトラリン、メチルテトラリンが挙げられる。これらの中でも、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリンが好ましく、メチルシクロヘキサンが特に好ましい。また、シクロヘキサン環を有する有機化合物は複数の有機化合物の混合物であっても良く、また脱水素反応に支障のない限り、適宜に他の化合物、たとえばシクロヘキサン環を有しない炭化水素などを含んでいても良い。
【0019】
本発明の水素生成用原料組成物中のシクロヘキサン環を有する有機化合物の含有割合は、原料組成物全量基準で50mol%以上であることが必要であり、好ましくは60mol%以上であり、より好ましくは70mol%以上である。シクロヘキサン環を有する有機化合物の含有割合が50mol%未満の場合は、水素生成量が減少するため好ましくない。一方、上限は99.9mol%以下であり、好ましくは99mol%以下である。
【0020】
本発明の水素生成用原料組成物に配合される含酸素化合物としては、含酸素有機化合物および水が挙げられる。
含酸素有機化合物の場合、炭素数が2以上のものが好ましい。また、軽油クラスの炭素数16程度までは使用可能であるが、シクロヘキサン環を含む炭化水素と比べ、大幅に重質となってしまう化合物は使用上問題となる可能性があるため、炭素数8以下のものが好ましい。含酸素有機化合物としては、特にアルコールおよびエーテルが好ましい。
本発明の水素生成用原料組成物には、2種以上の異なる含酸素化合物が含まれてもよい。2種以上の含酸素化合物を用いる場合、2種以上の異なる含酸素化合物をシクロヘキサン環を有する有機化合物に個別に添加してもよいし、含酸素化合物の混合物を添加してもよい。
【0021】
含酸素有機化合物として用いられるアルコールとしては、炭素数2〜6のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセリンが挙げられる。中でもエタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコールがさらに好ましい。
【0022】
含酸素有機化合物として用いられるエーテルとしては、炭素数2〜8のエーテルが好ましい。具体的には、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、エチルブチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチルt−ブチルエーテルが挙げられる。中でもエチルイソプロピルエーテル、エチルt−ブチルエーテルがさらに好ましい。
【0023】
本発明の水素生成用原料組成物中の含酸素化合物の含有割合は、原料組成物全量基準で0.1mol%以上であることが必要である。含酸素化合物の含有割合が増えるほど脱水素触媒の劣化抑制の効果は高まるが、相対的にシクロヘキサン環を含む有機化合物の含有割合が減少するため水素生成量が減ってしまうという背反する関係にあることから、適切な範囲が存在する。含酸素化合物の含有割合は0.5mol%以上であることが好ましく、1mol%以上がさらに好ましい。また、40mol%以下が好ましく、30mol%以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明においては、脱水素触媒の存在下に、前記した水素生成用原料組成物を流通させ、シクロヘキサン環を脱水素させることにより水素を発生するとともに脱水素反応生成物を得る。
脱水素触媒における触媒活性主成分は脱水素活性を有する成分であり、任意に選択することができる。好ましくは周期表の第7A族、第8族、第1B族元素であり、具体的には鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などが挙げられる。これらの中でも、ニッケル、パラジウム、白金、レニウムが好ましい。またこれらの元素の2種類以上を組み合わせても良い。なお、本明細書では、周期表の表記はIUPAC1987年版に基づく。
【0025】
これらの触媒活性主成分は、一般的には担体に担持されて使用される。担体に担持させる方法は任意であるが、含浸法が好ましく挙げられる。具体的には、Pore‐filling法、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。
含浸法に用いる化合物は水溶性の塩が好ましく、水溶液として含浸することが好ましい。水溶性の化合物としては、塩化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩が好ましく挙げられる。また、貴金属の場合、金属のコロイド溶液を用いることも好ましく、たとえば、白金のコロイド溶液などが好ましく用いられる。この場合、白金コロイド粒子の粒子径は4nm以下であることが好ましい。
【0026】
担体としては、機械的強度が高く熱的に安定で表面積が大きい金属酸化物、複合金属酸化物が好ましく、具体的には、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどが挙げられ、アルミナ、シリカがより好ましい。また形状については、通常成型品である粒状のほか、粉状、板状、後述するようなフィン状などいかなる形状でもよい。
【0027】
脱水素触媒には必要に応じ添加剤を共存させても良い。好ましい添加剤として、スズと塩基性物質が挙げられる。スズは活性金属の凝集を抑制する。また塩基性物質が共存することにより、酸性に起因する分解などの副反応が抑制されるとともに、炭素質析出による触媒の劣化が抑制される。塩基性物質の種類は任意であるが、第1A族元素および第2A族元素の化合物が好ましく、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの化合物が挙げられる。これらの化合物としては、水溶性の物質が好ましい。塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩がさらに好ましい。塩基性物質の含有量は触媒活性主成分に対して重量比で0.1〜100の範囲が好ましい。これらの塩基性物質を触媒に含有させる調製法は任意であるが、好ましくは含浸法である。具体的には、Pore‐filling法、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。
【0028】
シクロヘキサン環の脱水素反応は、一般に可逆反応であり、また吸熱反応である。化学平衡の点では高温、低圧の条件が有利であるが、反応原料の種類、水素発生システムのシステム上の条件、材料の耐熱性、放熱量など種々の要求に応じて、反応条件は適宜選択できる。反応圧力は、下限としては、好ましくは0.1MPa以上であり、さらに好ましくは0.11MPa以上である。上限としては、好ましくは2.0MPa以下であり、さらに好ましくは1.0MPa以下である。なお、本明細書では特に断らないかぎり圧力は絶対圧で示す。反応温度は化学平衡上高温が好ましいが、エネルギー効率の点では低温の方が好ましい。好ましい反応温度は下限として200℃以上、さらに好ましくは270℃以上、最も好ましくは320℃以上であり、上限として好ましくは400℃以下、さらに好ましくは380℃以下、最も好ましくは360℃以下である。また化学平衡上は不利であるが、触媒の失活を防ぐ目的あるいは装置の運転上の理由で原料に水素を加えることもできる。なお本発明では、水素を加えなくとも触媒の劣化を抑制できることが重要な特徴でもある。
LHSV(液空間速度)の好ましい範囲は、触媒の活性に依存するが、通常は0.2hr−1以上、40hr−1以下である。
【0029】
水素製造システムについては特に制限は無いが、小型化が可能なシステムが本発明の目的に合致するため好ましい。この例として、いわゆる燃焼ガス加熱器を有した膜型反応器を用いることにより、脱水素触媒と水素分離膜を設け、脱水素反応時に同時に水素を分離し高純度水素を得るとともに、脱水素化物および非透過水素を燃焼させ、脱水素反応に必要な熱を供給できるシステムとすることができる。例えば、流通式反応管の一方から原料組成物を流通させ、内部に存在する脱水素触媒により基質(シクロヘキサン環を有する有機化合物)を脱水素して水素と反応生成物を生成させ、発生した水素を、同時に、in situで、水素分離膜により膜分離して、水素を選択的に透過させて、高純度な水素を得る。水素は迅速に分離され、吸熱反応である脱水素反応部分には、触媒燃焼および/または燃焼ガス等による適宜の加熱源により容易に熱が供給され、脱水素反応が進行する。
【0030】
水素分離膜としては、炭化水素と水素の混合ガスから水素を選択的に分離できる金属膜もしくは多孔質無機膜などが好ましく用いられる。
金属膜の場合、管状で細孔を有する多孔質金属支持体もしくは管状で細孔を有する多孔質セラミック支持体の内表面もしくは外表面に金属薄膜を形成させた水素分離膜であり、金属薄膜として、Pdを100〜10質量%含む金属膜、もしくは、Ag、Cu、V、Nb、Taより選ばれる少なくとも一種の金属を80〜10質量%含む金属膜が好ましい。
分離膜用支持体上での金属薄膜の形成方法は任意の方法を選択できるが、具体的には、無電解メッキ法、蒸着法、圧延法などが挙げられる。
【0031】
多孔質無機膜の場合、管状で細孔を有する多孔質セラミック支持体の内表面もしくは外表面に、細孔孔径の制御されたセラミック薄膜を形成させた水素分離膜が好ましい。多孔質無機膜は分子篩作用により選択的分離を行うため、薄膜部分の孔径は0.3nm以上、0.7nm以下が好ましく、0.3nm以上、0.5nm以下がさらに好ましい。セラミック膜の材質は、公知のセラミック材料が使えるが、シリカ、アルミナ、チタニア、ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素が好ましい。
【0032】
水素製造システムを構成する熱伝導性支持材料は、300Kにおける熱伝導率が10W/m・K以上の材料とすることができる。具体的には金属が好ましく、表面に酸化物などの皮膜を有するものを含む。具体的には、熱伝導性材料として通常用いられる任意の金属および合金を用いることができるが、特にアルミニウムまたは表面にアルミニウムを有する金属および合金が好ましい。
金属であるので、熱伝導性は高く、熱供給が速くなり反応効率が向上する効果がある。すなわち、脱水素反応は吸熱反応であるために、反応部分に金属管を用い、適宜の加熱手段による加熱で熱を供給し、触媒と水素分離膜の間隙内の脱水素反応に熱を付与することにより、かかる脱水素反応への熱の付与が容易となる。
【0033】
脱水素反応面に触媒を保持させるにはいかなる方法も採用することができる。例えば、脱水素反応面に、まず触媒担体を保持させた後、この保持された担体に触媒活性成分を担持させることにより脱水素触媒を脱水素反応面に保持させる方法が挙げられる。好適には、脱水素反応面を高表面積になるよう予め処理した後、触媒担体および触媒活性成分を担持させる方法を挙げることができる。脱水素反応面を高表面積にするための処理方法については公知の方法が採用できる。例えば、特開2002−119856号公報に記載されているように、陽極酸化の処理をベースにして高表面積化する方法が挙げられる。
高表面積化した外表面は、触媒担持のために、アルミナなどの安定で高表面積を有する金属酸化物の層を形成することが好ましい。このためには、例えば、高表面積処理した脱水素反応面に、アルミナ水和物ゾルを塗布・乾燥後、焼成して、担体としての金属酸化物層を形成させることができる。
【0034】
本発明にかかる脱水素反応は吸熱反応であるので、脱水素反応熱の供給を効率的に行うためには、熱供給源と触媒が直接接触することが好ましい。このため、担体の形状を脱水素反応面に直接接する板状、管状、もしくはフィン状として、原料組成物と接触する面積を大とすることが好ましい。加熱源と直接接触し、しかも原料組成物と接触する面積を大とすることが可能であるならば何れの形状も採用できる。
たとえば、フィン型としては、脱水素反応面に軸方向に長く、そして外側に向かって伸びる複数のフィン状突起を設ける構造とすることができる。該フィン表面には触媒を直接保持させる。好適には、先に述べたように金属酸化物層を表面に形成させて、該酸化物層を担体として触媒活性成分を担持させる。このようなフィン型は原料組成物と接触面積が大であるので加熱が容易となり好ましい。また管外側に加熱源を配置する場合には、この加熱源に直接接触することが可能となるので好ましい。
【0035】
シクロヘキサン環を有する有機化合物を原料とする場合の脱水素の生成物は、水素と不飽和炭化水素であり、不飽和炭化水素は主として芳香族炭化水素である。これらは回収して水素化することにより、原料の炭化水素に戻すことができる。あるいは必要に応じて脱水素反応に必要な熱源の燃料としても用いることができる。また芳香族炭化水素は一般にオクタン価が高いので、沸点が好適な物質はガソリン基材として用いることもできる。あるいは化学製品として用いることもできる。このような観点からシクロヘキサン環を有する炭化水素を原料として脱水素し、脱水素の生成物として、水素のほか芳香族炭化水素を得る方法は好ましい方法である。
【0036】
脱水素反応により生成した水素は、芳香族炭化水素等の反応生成物と混在した状態であるが、直ちに、in situで水素分離膜により、水素を分離することができる。
ここで、膜分離反応器における水素分離膜の透過側圧力は、0.2MPa以下が好ましく、0.12MPa以下がさらに好ましい。また、水素分離膜の透過側には、透過側水素分圧を低下させる目的で不活性ガスを供給することが好ましい。透過側水素分圧は、0.12MPa以下が好ましく、0.05MPa以下がさらに好ましい。もっとも好ましくは0.01MPa以下である。
【0037】
連続的に透過側(透過した方の側)からは水素を、また非透過側(透過する前の側)からは未反応原料組成物や脱水素化物を取り出すことにより、連続的な水素の製造をすることができる。脱水素化物、たとえばトルエンなどは、適宜に非透過側から、水素と共に抜き出すことができる。非透過側の未反応原料組成物等は、これを燃焼させて脱水素反応用加熱媒体とすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
γ−アルミナ担体に0.3質量%の白金を担持した平均直径1.5mmの球状市販触媒を触媒Aとした。触媒A3mlを内径8mmのステンレス製反応管に充填して固定床流通系反応装置に取り付けた。前処理として、水素を50ml/min.の流量で流し300℃で1時間還元処理をした後、窒素でパージした。メチルシクロヘキサン(MCH)にエタノールを組成物全量基準で5mol%添加した原料を実験に用いた。窒素の供給を止め、ガスを流さない状態で反応管の入口からマイクロフィーダーを用いて所定量の原料を供給し、反応温度(反応による吸熱により触媒層に温度分布が生じるため、触媒層出口の温度を反応温度とした)330℃、反応圧力0.1MPa(大気圧)、LHSV=5h−1の条件にて実験を開始し、反応管出口から得られる生成液をガスクロマトグラフで分析しMCHの転化率の経時変化を測定した。実験は1日に数時間行っていったん停止し、再スタートする方法で数日に渡って実施した。停止の際には原料の供給を止めて直ちに反応温度を下げた。再スタートの際には反応温度を上げ始めると同時に原料の供給を開始した。停止と再スタートの間には水素による還元および窒素によるパージは行わなかった。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0040】
(実施例2)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンに2−プロパノールを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンに1−ブタノールを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0042】
(実施例4)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンにイソブチルアルコールを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンにt-ブチルアルコールを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0044】
(実施例6)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンに2−プロパノールを1mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0045】
(実施例7)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンに2−プロパノールを15mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0046】
(実施例8)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンに2−プロパノールを20mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0047】
(実施例9)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンにイソプロピルエーテルを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0048】
(実施例10)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンにエチルt−ブチルエーテルを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0049】
(実施例11)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料を用いるかわりに、メチルシクロヘキサンと水を別のマイクロフィーダーから反応管入口に供給し、原料に対して水が10mol%になるようにしたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0050】
(実施例12)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりにメチルシクロヘキサンにメタノールを5mol%添加した原料を用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0051】
(比較例1)
メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料のかわりに含酸素化合物を添加していないメチルシクロヘキサンを原料として用いたほかは実施例1と同様に実験を行った。積算通油量0.05L時のMCH転化率および積算通油量0.25L時のMCH転化率を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(比較例2)
図1に試作した膜分離反応器を示した。中心部に水素透過部分の長さが12cm、外径10mmのPd系水素分離膜、その周囲に内部フィンを有する熱交換器型触媒(触媒部の長さ12cm、触媒容積24ml)を有するような構成となっている。この膜分離反応器の外周部に図2に示すように触媒燃焼部を有する加熱器を設置し、水素発生システムを試作した。脱水素反応部はトルエンを燃焼させることにより加熱される方式となっている。
この水素発生システムを用いて、メチルシクロヘキサンからの水素生成試験を実施した。燃料のトルエン量を調節することにより反応温度をコントロールしながら、LHSV=7.5h−1、反応温度(触媒部出口の温度を反応温度とした)330℃、反応圧力0.5MPaの条件で実験を行い、反応開始から約2時間で定常状態となった。このときのメチルシクロヘキサン転化率は76%であった。
【0054】
(実施例13)
比較例2に示した水素発生システムで、メチルシクロヘキサンにエタノールを5mol%添加した原料を用いた他は比較例2と同様に実験を行った。このときのメチルシクロヘキサン転化率は85%であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】比較例2で試作した膜分離反応器の概略図である。
【図2】比較例2で試作した水素発生システムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサン環を有する有機化合物を50mol%以上、かつ含酸素化合物を0.1mol%以上含有してなる、当該シクロヘキサン環の脱水素反応により水素を生成する水素生成用原料組成物。
【請求項2】
シクロヘキサン環を有する有機化合物が、シクロヘキサン、テトラリン、デカリンおよびこれらのアルキル置換体から選ばれる少なくとも1種の有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水素生成用原料組成物。
【請求項3】
含酸素化合物が、アルコール、エーテルおよび水から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素生成用原料組成物。
【請求項4】
アルコールが炭素数2以上のアルコールであることを特徴とする請求項3に記載の水素生成用原料組成物。
【請求項5】
エーテルのアルキル基が炭素数2以上のアルキル基であることを特徴とする請求項3に記載の水素生成用原料組成物。
【請求項6】
脱水素触媒の存在下、請求項1〜5のいずれかに記載の水素生成用原料組成物を流通させ、シクロヘキサン環を脱水素させることにより水素を発生するとともに脱水素反応生成物を得ることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により得られる水素および脱水素反応生成物、ならびに脱水素反応前の水素生成用原料組成物から選ばれる少なくとも1種を燃焼させ、その燃焼熱を利用して脱水素反応を行うことを特徴とする水素の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法により得られる水素と脱水素反応生成物を膜分離により分離することを特徴とする水素製造システム。

【図1】
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【図2】
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