説明

水素生成装置のメンテナンス方法

【課題】水素生成装置において、原料ガスパージを行う起動停止の繰り返しや長期の運転により、触媒が劣化する。
【解決手段】改質部2と、変成部3と、選択酸化部4とを備え、選択酸化触媒4cが粒状触媒であり、選択酸化部4内上部に触媒が移動できる選択酸化上部空間106が設けられている水素生成装置100を、メンテナンス時に、水素生成装置100の運転を停止させる工程(A)、水素生成装置100の設置状態を変化させ、倒すことで選択酸化触媒4aを移動させる工程(B)、水素生成装置100の設置状態を前記工程(A)の状態に戻す工程(C)を行うことで、選択酸化部4内の選択酸化触媒4cを混合し、水素生成装置100の性能を回復させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を含む原料と水を触媒に流通させ一酸化炭素を含有する水素リッチガスを発生させる水素生成装置のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(以下、PEFC)は、小型装置でも高効率な発電を可能とする燃料電池であり、分散型エネルギー供給源の発電システムとして開発が進められている。発電時の燃料となる水素ガス又は水素含有ガスは、一般的なインフラとして整備されていない。そこで、例えば都市ガス、プロパンガス等の既存の化石原料インフラから供給される原料を利用し、それらの原料と水との改質反応により水素含有ガスを生成させる、改質部を備える水素生成装置が併設される。
【0003】
ただ、PEFCに供給する水素含有ガス中の一酸化炭素(CO)含有量は、50ppm(容量、以下同じ)程度が限度であり、これを越えると電池性能が著しく低下するので、一酸化炭素含有量は、PEFCへ導入する前にできる限り除去する必要があり、好ましくは10ppm以下にすることが望ましい。
【0004】
そこで、水素含有ガス中の一酸化炭素を低減させる一酸化炭素低減部となる、一酸化炭素と水蒸気を水性ガスシフト反応させる変成部、および一酸化炭素を酸化させる選択酸化部を設ける構成がとられることが多い。それらの反応部には、各反応に適した触媒、例えば、改質部にはRu触媒やNi触媒、変成部にはCu−Zn触媒が用いられている。また、選択酸化触媒には、一酸化炭素を幅広い温度範囲で低濃度(10ppm以下)まで除去できるRu/Al触媒が、広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】S. H. Oh, R. M. Sinkevitch, J. Catal, 142 (1993) 254.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
選択酸化触媒のRu/Al触媒は、使用開始の初期状態では、低温(約100℃)から高温(約200℃)まで、比較的幅広い範囲で一酸化炭素を低減できる。しかし、長期間の運転に対応して、頻繁に起動停止を繰り返した場合、あるいは長期間の連続運転を行った場合、高温での触媒活性が大きく低下し、水素生成装置の出口における一酸化炭素濃度が、高くなるという課題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、長期間の運転に対応するメンテナンス時に、水素生成装置を交換させる必要のない、水素生成装置のメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の水素生成装置のメンテナンス方法は、改質触媒を有し、原料と水とを改質反応させて水素含有ガスを生成させる改質反応器と、変成触媒を有し、改質反応器後の水素含有ガス中の一酸化炭素を変成反応させる変成反応器と、選択酸化触媒を有し、変成反応器後の水素含有ガス中の一酸化炭素を選択酸化反応させる選択酸化反応器とを備え、改質触媒、変成触媒、および選択酸化触媒の少なくとも一つが粒状触媒であり、改質反応器内上部、変成反応器内上部、および選択酸化反応器内上部の少なくとも一つに、粒状触媒が移動できる空間が設けられている水素生成装置のメンテナンス方法であって、水素生成装置のメンテナンス時に、水素生成装置の運転を停止させる工程(A)、水素生成装置の設置状態を変化させ、倒すことで粒状触媒を移動させる工程(B)、水素生成装置の設置状態を前記工程(A)の状態に戻す工程(C)とを行う水素生成装置のメンテナンス方法となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水素生成装置のメンテナンス方法によれば、頻繁に起動停止を繰り返し、あるいは長期間の連続運転を行い、水素生成装置に用いられる触媒の活性が低下しても、水素生成装置として必要な触媒活性を確保できるので、装置を交換することなく、長期間の運転を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、頻繁に起動停止を繰り返し、あるいは長期間の連続運転を行った場合の水素生成装置における触媒の活性状態を、選択酸化触媒であるRu/Al触媒を用いて測定した。具体的には、頻繁に起動停止を繰り返し、あるいは長期間の連続運転させ、触媒活性が低下した水素生成装置から、選択酸化触媒を抜き出し、触媒活性を測定することで、測定した。その結果、高温活性(触媒温度180−200℃での触媒活性)が大きく低下した粒状のRu/Al触媒においても、触媒温度を120℃以下で使用した場合、選択酸化反応時の出口ガス中の酸素濃度は、検出限界以下となる。これは、触媒活性として、一酸化炭素の酸化選択性が低下していることを示す。また、最上流部以外に位置する触媒の活性低下は少なく、最上流側に位置する触媒における高温活性(180−200℃)が、水素生成装置としての酸化選択性の低下に大きな影響をおよぼしていることを見出した。
【0010】
続いて、上記結果の検証のために行った測定について、その測定方法および測定結果を説明する。
【0011】
選択酸化触媒として、直径3mm、触媒成分としてRuを2wt%担持させたRu/γ―Al触媒をマイクロリアクター(常圧固定層流通式反応器、詳細は図示せず)に充填した。流通させるガスには、改質模擬ガス(水素含有ガス)となる0.5%一酸化炭素−20%一酸化炭素/Hバランスのガスを用いた。その改質模擬ガスを加湿して露点60℃のガスを作成し、空間速度(SV)が7000h-1となるように流量を調節して、触媒に供給した。この時、O/一酸化炭素が、1.5となるように空気も供給した。触媒温度を100〜200℃の範囲で変化させ、マイクロリアクター前後での一酸化炭素濃度をガスクロマトグラフィーで測定して、一酸化炭素除去性能を測定した。なお、触媒温度は、触媒上流から4mmの点の温度を熱電対で測定した温度とした。
【0012】
一酸化炭素除去性能の測定後は、(露点調整後の)改質模擬ガス供給を停止し、ゼオライト系脱硫剤による脱硫処理を行った都市ガス(大阪瓦斯供給の13A)を供給し、室温まで冷却する停止操作を行った。その後、脱硫処理を行った都市ガスを流通させながら、電気炉温度を上昇させ、触媒が約130℃になった時点で前述の改質模擬ガスに切り換え、触媒温度150℃で反応を行った。触媒温度が安定し反応が定常状態に達してから、再び停止操作を行った。
【0013】
上記の起動停止操作を、1000回行い、100回、1000回後に、上述の反応条件で、選択酸化触媒の一酸化炭素除去性能の温度依存性を調べた。図1にその結果を示す。図1から、180〜200℃の高温での一酸化炭素除去特性が低下していることがわかる。これは、起動停止時の都市ガスの流通により、最上流に位置する触媒が最も被毒されやすく、被毒された結果、高温では水素が酸化されることで酸素が消費されたため、一酸化炭素除去特性低下したものと推察される。また、触媒温度が、120℃以下の条件では、活性は安定することがわかる。以上の結果から、最上流側に位置する触媒の高温活性(180−200℃)は低下するが、その触媒を触媒温度120℃以下で使用した場合、選択酸化反応時の出口ガス中の酸素濃度は検出限界以下となることが、検証された。
【0014】
(実施の形態1)
次に、上述の結果にもとづいた、本発明の実施の形態1について、図面を用いながら説明する。
【0015】
〈水素生成装置の構成〉
先ず、本実施の形態1に係る水素生成装置100の構成について説明する。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態1に係る水素生成装置100の構成と、これを駆動するための付加的構成を模式的に示すブロック図及び断面図である。
【0017】
図2に示すように、本実施の形態に係る水素生成装置100は、加熱部1、改質部2、変成部3、選択酸化部4、予熱蒸発部6、水トラップ部7、水供給部9、原料供給部10、燃焼用空気供給部11、選択酸化用空気供給部12、及び制御器14を備えている。又、水素生成装置100には、燃料電池、及び都市ガスのインフラストラクチャー等と接続するための配管202、203、204、及び、流路切り替え弁(バルブ)13a、13bが設けられている。
【0018】
加熱部1は、容器Zの内部に、火炎が形成される燃焼バーナ部1a、着火源となるイグナイター(図示せず)、燃焼を検知するためのフレームロッド(図示せず)を備え、燃焼用空気供給部11から供給される空気と、原料供給部10から供給される原料ガス、選択酸化部4にて生成された水素含有ガス、燃料電池201の発電時に燃料電池201で使用されずに排出されるアノードオフガス等を燃焼することにより、改質反応に必要な熱を供給する。本実施の形態では、加熱部1を円筒状構造とし、加熱部1を中心にして、容器Zの内部に改質部2等の反応部を配置し、加熱部1の側壁と容器Zの内部に設けられた内壁部Bとで燃焼ガス流路5を形成している。
【0019】
改質部2は、容器Zの内部に、Ru系改質触媒からなる改質触媒2aと、改質部2の直下に設けられ、改質触媒2aから流出した水素含有ガスの温度を検出する改質温度検出部2bとを備え、原料と水との改質反応により水素含有ガスを生成する。尚、本実施の形態では、改質温度検出部2bは、改質触媒2aから排出された直後の水素含有ガスの温度を検出することにより、改質触媒2aの温度を間接的に検出することができる。
【0020】
変成部3は、容器Zの内部に、Cu−Zn系触媒である変成触媒3aと、変成触媒3aに流入する直前の水素含有ガスの温度を検出する変成第1温度検出部3bと、変成触媒3aから流出する直前の水素含有ガスの温度、即ち、変成触媒3aの出口側温度を検出する変成第2温度検出部3cとを備え、変成反応により水素含有ガス中の一酸化炭素を低減させる。尚、変成第1温度検出部3bは、変成触媒3aに流入する直前の水素含有ガスの温度を検出することにより、変成触媒3aの温度を間接的に検出することができる。
【0021】
選択酸化部4は、容器Zの内部に、直径約3mmの2wt%のRu/γ−Alからなる選択酸化触媒4aと、この選択酸化触媒4aの入口側の温度を検出する選択酸化第1温度検出部4bとを備え、水素含有ガス中の一酸化炭素を選択的に更に低減させる。尚、選択酸化部4により一酸化炭素が更に低減された水素含有ガスは、燃料ガス取り出し口104から排出される。又、この選択酸化部4は、選択酸化触媒4aの出口側の温度を検出する選択酸化第2温度検出部4cを備えている。また、選択酸化部4の出口側には、選択酸化触媒4aが水素生成装置100から流出するのを防止するため、パンチングメタルで構成した選択酸化触媒仕切り板107が設けられている。なお、選択酸化触媒仕切り板107は、選択酸化触媒4a上部に、選択酸化触媒4a体積の40%に相当する選択酸化上部空間106が構成されるように、設置されている。
【0022】
予熱蒸発部6は、容器Zの内部に設けられた内壁部Bと隔壁部Cとにより形成される円筒状の領域に、蒸発棒6aを備え、水供給部9から供給される水を蒸発させると同時に、鉛直下方へと水及び原料供給部10より供給される原料ガスを導く。蒸発棒6aは、内壁部Bと第2の隔壁部C2とにより形成される円筒状の領域に、第2の隔壁部C2の上端から下端に向けて内壁部Bと第2の隔壁部C2とに接するように、加熱部1の周りに螺旋状に配設されている。又、予熱蒸発部6は、第2の隔壁部C2を介して変成部3と隣接して設けられることにより、予熱蒸発部6を通過する水分と、変成部3を通過する水素含有ガスとが熱交換することのできる変成水冷部として機能する。尚、第2の隔壁部C2は、安価で耐熱性の高いSUS304を基材とし、選択酸化触媒4aを第2の隔壁部C2を介して冷却し、選択酸化触媒4aを一酸化炭素低減可能な温度に保つ。尚、容器Zと第2の隔壁部C2とは、環状の第1の隔壁部C1により連結されている。
【0023】
水トラップ部7は、容器Zの内部に設けられた内壁部Bの、改質触媒2aより上方の第4の隔壁部C4と対向する面に、環状に設けられたL字型突起であり、予熱蒸発部6において蒸発し切れずに蒸発棒6aに沿って流れ落ちてきた液水をトラップする。又、水トラップ部7は、内壁部Bに設けられることにより、トラップした液水と加熱部1により発生した燃焼ガスとの熱交換を可能にする。又、第4の隔壁部C4の一部は、改質部2から流出した水素含有ガスと、予熱蒸発部6内の水及び原料ガスとの熱交換を可能にする。このように、本実施の形態では、水トラップ部7と第4の隔壁部C4の一部とが、熱交換部8として機能する。尚、第2の隔壁部C2と第4の隔壁部C4とは、環状の第3の隔壁部C3により連結されている。
【0024】
水供給部9は、インジェクションポンプ等により構成された水ポンプである。水供給部9は、異物等を除去した後の改質反応に必要な水を、供給量を適切に制御しながら、容器Zの上壁部Dに設けられた水供給口101を通じて、予熱蒸発部6に供給する。
【0025】
原料供給部10は、ダイアフラムポンプ等のポンプにより構成されたブースターポンプであって、本実施の形態では、原料ガスとしての都市ガス(13A)のインフラストラクチャーに接続されている。原料供給部10は、硫黄等の成分を脱硫剤で除去した後の改質反応に必要な原料である都市ガスを、供給量を適切に制御しながら、外壁部Aに設けられた原料供給口102を通じて、予熱蒸発部6に供給する。
【0026】
燃焼用空気供給部11は、シロッコファン等により構成され、供給量を適切に制御しながら、加熱部1に空気を供給する。
【0027】
選択酸化用空気供給部12は、ダイアフラム式ポンプ等により構成されている。選択酸化用空気供給部12は、外壁部Aに設けられた空気供給口103に接続されて、変成部3と選択酸化部4との間の空間を通過する水素含有ガスに空気を供給する。
【0028】
そして、制御部14は、本実施の形態では、CPU等からなる演算部(図示せず)と、内部メモリ等からなる記憶部(図示せず)等を有する演算装置、例えば、マイコン等とにより構成されている。制御部14は、燃料電池201の発電運転等の際、改質温度検出部2b、変成第1温度検出部3b、変成第2温度検出部3c、選択酸化温度第1温度検出部4b等からの出力信号や、記憶部に記憶されているシーケンス等に基づき、水供給部9、原料供給部10、燃焼用空気供給部11、選択酸化用空気供給部12、流路切り替え弁13a及び13b等の、水素生成装置100を構成する各構成要素の動作を適宜制御する。
【0029】
尚、改質温度検出部2b、変成第1温度検出部3b、変成第2温度検出部3c、選択酸化第1温度検出部4b、水素含有ガスの温度或いは各触媒体の温度が測定できれば、本実施の形態に示すような温度を測定する構成に限らなくてもよい。
【0030】
〈水素生成装置の動作〉
次に、本実施の形態に係る水素生成装置100の動作について説明する。
【0031】
図2に示すように、水素生成装置100の動作時には、制御器14により、水供給部9と原料供給部10とを作動させて、水と原料ガスとを予熱蒸発部6に供給する。本実施の形態では、原料ガスとして、脱硫後のメタンを主成分とする都市ガスを使用する。尚、都市ガスの流量は、1kW相当の水素含有ガスを生成する場合には4NL/minとし、300W相当の水素含有ガスを生成する場合には1.5NL/minとする。ここで、水の供給量は、原料ガスの平均組成である炭素原子に対して、約3倍量の水分子を含むこと、即ち、スチームカーボン比(S/C比)で3を目安として、その供給量を設定する。
【0032】
水素生成装置100では、水供給部9から水供給口101を通って予熱蒸発部6に供給された水は、第1の隔壁部C1に沿って流れた後、内壁部Bと第2の隔壁部C2との間を、蒸発棒6aに沿って螺旋状に旋回しながら、鉛直下方へと流れ落ちる。又、これと同時に、原料供給部10から原料供給口102を通って予熱蒸発部6に供給された原料ガスは、第1の隔壁部C1上の空間に供給された後、内壁部Bと第2の隔壁部C2との間を、蒸発棒6aに沿って螺旋状に旋回しながら、鉛直下方へと移動する。この時、予熱蒸発部6は、選択酸化第1温度調整部として機能させ、選択酸化第1温度検出部4bにより検出される選択酸化触媒4aの触媒層上流温度が任意の温度(例えば、140℃)となるように、水供給部9の動作を制御する。即ち、制御器14は、選択酸化第1温度検出部4bにより検出される温度に基づき、水分の供給量を微調整して制御する。
【0033】
又、制御部14により、加熱部1を作動させ、内壁部Bを介して改質部2における改質触媒2aを加熱する。ここで、加熱部1で発生させた燃焼ガスは、燃焼排ガス流路5を通過する際、内壁部Bを介して予熱蒸発部6内の水分及び原料ガスを加熱する。本実施の形態では、改質温度検出部2bにより検出される改質触媒2aから流出した水素含有ガスの温度が約650℃となるように、加熱部1が排出する燃焼ガスの温度を制御する。
【0034】
このように、予熱蒸発部6では、原料供給部10から供給された原料ガスは、加熱部1が排出する高温状態の燃焼ガスにより所定の温度にまで加熱されると共に、水供給部9から供給された水を蒸発させることにより得た水蒸気と十分に混合される。原料ガスと水蒸気との混合気は、上方の予熱蒸発部6から下方の改質部2に向かって流れ、改質触媒2aに供給される。
【0035】
改質部2で生成された水素含有ガスは、改質部2の下方より流出すると、容器Zの下壁部Eに沿って流れた後、外壁部Aと熱交換部8とにより形成された空間を上昇する。この際、水素含有ガスは、熱交換部8において予熱蒸発部6内の水分及び原料ガスと熱交換を行うことにより冷却された後、更に上昇して変成触媒3aに供給される。
【0036】
変成部3では、変成部3における変成第1温度検出部3bにより検出される変成触媒3aに流入する直前の水素含有ガスの温度が約250℃となるように制御され、変成部3から流出する直前の水素含有ガス、即ち、変成部3内の出口側の水素含有ガスに含まれる一酸化炭素の濃度が約0.5%(ドライガスベース)となるように、変成反応により一酸化炭素が低減される。
【0037】
変成部3から流出した水素含有ガスには、選択酸化用空気供給部12から空気供給口103を通じて、空気が供給される。本実施の形態では、変成部3から流出した水素含有ガスに供給する空気の供給量を、上記水素含有ガスに含まれる酸素量が一酸化炭素に対して約2倍のモル数となること(O/一酸化炭素で2相当)を目標とし、選択酸化用空気供給部12から空気を供給する。
【0038】
選択酸化部4では、水素含有ガスに含まれる一酸化炭素の濃度が約20ppm以下となるように、水素含有ガスが浄化される。一酸化炭素の濃度が所定値以下となった水素含有ガスは、外壁部Aに設けられた燃料ガス取り出し口105より排出され、流路切り替え弁13aを通じて、燃料電池201、或いは、加熱部1に吸入される。なお、運転初期において、1kW相当の水素含有ガスを生成させた場合、選択酸化温度検出部4bでの検知温度は、約180℃であり、水素生成装置100出口の一酸化炭素濃度は、6ppmとなった。
【0039】
尚、変成部3と選択酸化部4との間の空間、或いは、選択酸化部4に隣接する外壁部Aの外側に、選択酸化部4を冷却する空冷ファンを設け、その空冷ファンを選択酸化第1温度調整部として機能させることで、選択酸化部4の動作温度を精度良く制御する構成としてもよい。
【0040】
ここで、本実施の形態1において、水素生成装置100の通常の起動時は、脱硫都市ガスのみを流通させ、加熱部1を作動させて改質部2、変成部3、選択酸化部4の温度を最適な温度にまで昇温させ、水及び空気の供給を開始することで、水素含有ガスの生成反応を開始させる。又、水素生成装置100の停止時には、加熱部1の動作を停止させ、脱硫都市ガスを供給して水素生成装置100内を置換し冷却する動作を行う。
【0041】
〈メンテナンス方法〉
次に、上述の起動停止試験を2500回行い、水素生成装置100出口の一酸化炭素濃度を測定した。その結果、1kW相当の水素含有ガスを生成させた場合、選択酸化温度検出部4bで検出の温度は、180℃であったが、一酸化炭素濃度は28ppmとなっており、一酸化炭素除去能力が低下していることがわかった。
【0042】
そこで、図3に示す、本発明の実施の形態1おける水素生成装置100のメンテナンス方法フロー図の工程(A)、(B)、(C)に従い、メンテナンスを行った。また、図4に、水素生成装置100を水素含有ガスの供給先を燃料電池システムとした場合の、燃料電池システム筐体109内に設置させた状態、および設置を変化させ状態を示す。
【0043】
(A)水素生成装置の運転を停止させる工程
まず、水素生成装置100の運転を停止させる。この時、以降の作業性を考慮すると、水素生成装置100は、常温近くまで冷却させることが好ましい。なお、水素生成装置100の設置状態は、図4の(1)の状態なっている。
【0044】
(B)水素生成装置の設置状態を変化させ、倒すことで粒状触媒を移動させる工程
次に、水素生成装置の設置状態を変化さる。まず、図4の(2)の状態のように、燃料電池システム筐体109から切り離し、燃料電池システム筐体109前面にスライドさせる。次に、左に水素生成装置100を横倒しした後、右に水素生成装置100を横倒しした。本実施の形態1では、左右への横倒しを2回ずつ行い、最終的に、本来の方向に戻すことで、設置状態を変化させる工程とした。この時の、選択酸化触媒の状態を、図5に示す。初期は、図5(1)に示すように、選択酸化触媒4aの上部に、選択酸化上部空間106が存在させた状態となっている。図5(2)は、起動停止回数の増加、長期間の運転などにより、水素含有ガス流れの上流流に位置する選択酸化触媒4aが劣化して劣化触媒4cが存在する状態となっている。次に、水素生成装置100を横倒しにする。その状態が、図5(3)に示されている。選択酸化上部空間106が存在し、水素生成装置100横倒しすることより、劣化触媒4cの多くが、下流に移動する。これを、数回(本実施の形態1では、左右へ横倒しを2回)行うことで、最終的に図5(4)に示すように、比較的劣化の進んでいない選択酸化触媒4aが最上流に移動させることができる。
【0045】
(C)水素生成装置の設置状態を工程(A)の状態に戻す工程
次に、その後、再び水素生成装置100を燃料電池システム筐体109内に設置して、配管等を接続し、水素生成装置100の設置状態を工程(A)の状態に戻す。
【0046】
上述のメンテナンス方法を行った後、1kW相当の水素含有ガスを生成させた場合、選択酸化温度検出部4bでの検知温度は、約180℃であり、水素生成装置100出口の一酸化炭素濃度は、6ppmとなることが確認できた。
【0047】
以上のように、選択酸化触媒の反応器内上部に触媒が移動可能な空間を設け、メンテナンス時に、水素生成装置100の運転を停止させ、続いて水素生成装置100を倒し、空間に触媒を移動させ、その後水素生成装置100を元に戻すメンテナンス方法を実施することにより、水素生成装置100の一酸化炭素除去特性を回復させることが出来る。なお、起動停止回数の増加、長期間の運転などにより、上流が劣化し、約180℃で酸素が水素酸化に消費され一酸化炭素酸化選択性が低下し、水素生成装置100出口一酸化炭素が増加していたのに対し、水素生成装置100を横倒しすることにより、劣化触媒4cが下流に移動し(図5(3))、比較的劣化の進んでいない選択酸化触媒4aが最上流になったため(図5(4))、一酸化炭素酸化選択性が回復したことによるものと考えられる。
【0048】
なお、本実施の形態1では、選択酸化触媒部4a上部には、選択酸化触媒体積の40%に相当する選択酸化上部空間106を設け、水素生成装置100を倒したときに選択酸化触媒4aが選択酸化上部空間部106に移動できる設計としたが、選択酸化触媒体積に対して30%以上であることが好ましい。その体積は、粒状のRu/γ―Al触媒を焼成して、180−200℃での一酸化炭素酸化選択性が低下した触媒(劣化模擬触媒)を模擬的に作成し、その触媒を用いて触媒が移動可能な空間体積と、触媒体積の関係を調べるための実験にもとづく。以下に、その内容を説明する。水素生成装置100において、選択酸化上部空間部106を選択酸化触媒体積4aに対して、10、20、30、40%に相当する体積にした水素生成装置を作成した(各水素生成装置を、それぞれ100A、100B、100C、100Dとした)。それぞれに、選択酸化触媒4aの最上流部のみが劣化模擬触媒を充填し、その下流側に焼成していない選択酸化触媒4aを充填し、耐久後の性能を模擬した水素生成装置100A、100B、100C、100Dを作成した。
【0049】
模擬劣化触媒充填後の水素生成装置100A、100B、100C、D100を、1kW相当の水素含有ガスを生成させた場合の出口一酸化炭素濃度を測定した結果、40ppmとなった。そこで、水素生成装置100A、100B、100C、100Dを停止後、本実施の形態1に示すメンテナンス方法を実施して、再度1kW相当の水素含有ガスを生成させた場合の出口一酸化炭素濃度を測定した。その結果、各水素生成装置100A、100B、100C、100Dの出口一酸化炭素濃度は、31、21、8、6ppmとなった。すなわち、一酸化炭素酸化選択性を考慮すると、選択酸化上部空間部106の体積は、選択酸化触媒体積に対して30%以上であることが好ましいといえる。
【0050】
なお、本実施の形態1では、選択酸化部4に選択酸化上部空間部106を設ける構成におけるメンテナンス方法と、その効果について説明したが、改質触媒2a、変成触媒3aも選択酸化触媒4aと同様に、水素含有ガスの流れ上流側に位置する触媒が下流側の触媒と比較して劣化する傾向があるので、改質部2、及び変成部3にも同様の上部空間を設けて、同様のメンテナンス方法を実施しても、特性回復効果を得ることができる。
【0051】
なお、本実施の形態1では、水素生成装置100を,燃料電池システム筐体109内に立てて設置したが、作業時には本水素生成装置100を燃料電池から切り離し、燃料電池システム筐体109前面にスライド移動できるように設計し、また水素生成装置100底面を支点に燃料電池システム筐体109正面に対して左右に倒せる構成としても良い。また、燃料電池システムの燃料電池システム筐体109自体を傾けても同様の効果が得られる。また、水素生成装置100を燃料電池システム筐体109からはずし、サービス基地などに持ち帰って同様の方法で水素生成装置100を再生させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、化石原料等から一酸化炭素濃度の低い水素含有ガスを生成する、水添脱硫部を備える水素生成装置のメンテナンス方法に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明におけるRu/γ−Al選択酸化触媒の起動停止動作後の特性図
【図2】本発明の実施の形態1における水素生成装置の構成図
【図3】本発明の実施の形態1における水素生成装置のメンテナンス方法フロー図
【図4】本発明の実施の形態1における水素生成装置の設置状態と移動状態を示す模式図
【図5】本発明の実施の形態1におけるメンテナンス時の選択酸化触媒の状態を示す模式図
【符号の説明】
【0054】
1 加熱部
2 改質部
2a 改質触媒
2b 改質温度検出部
3 変成部
3a 変成触媒
3b 変成第1温度検出部
3c 変成第2温度検出部
4a 選択酸化触媒
4b 選択酸化温度検出部
4c 劣化触媒
5 排ガス流路
6 予熱蒸発部
7 蒸発安定化部
8 改質ガス流路
9 水供給部
10 原料供給部
11 燃焼用空気供給部
12 選択酸化用空気供給部
13a バルブ
13b バルブ
14 制御器
100 水素生成装置
101 第2水供給部
102 原料ガス供給部
103 空気供給部
105 生成ガス排出部
106 選択酸化上部空間
107 選択酸化触媒仕切り板
109 燃料電池システム筐体
112 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質触媒を有し、原料と水とを改質反応させて水素含有ガスを生成させる改質反応器と、
変成触媒を有し、前記改質反応器後の水素含有ガス中の一酸化炭素を変成反応させる変成反応器と、
選択酸化触媒を有し、前記変成反応器後の水素含有ガス中の一酸化炭素を選択酸化反応させる選択酸化反応器とを備え、
前記改質触媒、前記変成触媒、および前記選択酸化触媒の少なくとも一つが粒状触媒であり、
前記改質反応器内上部、前記変成反応器内上部、および前記選択酸化反応器内上部の少なくとも一つに、前記粒状触媒が移動できる空間が設けられている水素生成装置のメンテナンス方法であって、
前記水素生成装置のメンテナンス時に、
前記水素生成装置の運転を停止させる工程(A)、
前記水素生成装置の設置状態を変化させ、倒すことで粒状触媒を移動させる工程(B)、
前記水素生成装置の設置状態を前記工程(A)の状態に戻す工程(C)
とを行う水素生成装置のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記選択酸化触媒が、粒状触媒である請求項1記載の水素生成装置のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記選択酸化反応器内上部に、前記選択酸化触媒が移動できる空間が設けられている請求項2記載の水素生成装置のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記選択酸化触媒が移動できる空間が、前記選択酸化反応器に収められている前記選択酸化触媒の体積の30%以上の体積を有する空間である請求項3記載の水素生成装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−189198(P2010−189198A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32177(P2009−32177)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】