説明

水素精製法および水素吸蔵合金反応容器

【解決課題】水素吸着ならびに吸蔵機能を有する粉体充填層の圧密および固結を低減して原料である水素含有ガスの均一な流通を確保することを直接の解決課題とし、そして、高純度水素の回収効率を向上し、また粉体が充填される反応容器の劣化を抑えるとともに大型化を容易にすること。
【解決手段】水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸着吸蔵させる水素精製法において、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層に水素含有ガスを流通させる水素精製法ならびに水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層を内蔵する水素吸蔵合金反応容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料となる水素を含有する改質・変性ガスを精製し、副生する不純物を効率よく分離し、リン酸形や固体高分子形等のプロトン伝導形燃料電池の燃料等に使用される高純度の水素を製造する方法ならびにこの方法に使用される水素吸蔵合金反応容器に関する。
【背景技術】
【0002】
環境改善の見地から急速に需要が増大しようとする燃料電池の燃料等に使用される高純度水素は、一般的には、ナフサ、灯油、メタノール等の炭化水素含有燃料および水蒸気を金属触媒の存在下で改質・変性し、精製することにより製造される。
【0003】
変性後のガス中に含まれる一酸化炭素、二酸化炭素、メタンならびに水等は精製することにより除去されるが、とりわけ一酸化炭素は、上記の固体高分子形燃料電池(以下、PEFCと略記。)の電極触媒の被毒原因となるために、完全に除去する必要がある。とくに、自動車用PEFCは純水素を供給するタイプが一般的であり、また家庭用として代表的な定置式PEFCの場合、一酸化炭素以外の不純物はそのまま導入されるのが許容されるが、純水素に切り替えた方が明らかに発電効率が向上する。
【0004】
このような要求にこたえるための高純度水素を製造するには、原料となる上記炭化水素含有燃料を構成する各ガス成分の吸脱着挙動の差異を利用する水素PSA法が有効である。この方法は、モレキュラーシーブ等の吸着剤によりCO、CO、CH、HO等の不純物成分を高圧下において吸着し、次いで減圧脱着して系外に放出することによってこれらよりも吸着親和性が低い水素(H)を回収する。
【0005】
この方法は、複数の吸着塔を使用して吸着、均圧、減圧、パージならびに昇圧の各工程を組み合わせることにより、原料ガスから高純度の水素ガスを分離精製するのが一般的であるが、高純度水素ガスの収率性になお課題が残されている。すなわち、上記プロセス中の減圧工程で遂行される不純物成分の脱着ガスのパージ作用が不十分であると、後に行われる高圧下での吸着工程で残留不純物成分が再吸着され、次段の水素ガス分離工程での除去が阻害され、高純度水素ガスの収率性を低下する結果となる。
【0006】
たとえば、下記特許文献1は、この難点を改善しようとして、吸脱着をおこなう分離槽を複数使用し、脱着終了後の分離槽に、他の分離槽から導出された洗浄ガスを導入し、この洗浄ガスの一部が槽外に導出されるまでの間、洗浄を継続させるようにしている。このようにすれば、脱着した不要ガスが確実に排出除去され、吸着剤の再生効率そして水素ガスの回収効率が向上する結果になるという。
【0007】
しかし、本特許文献の実施例では、99.9%以上の高純度水素ガスが製造できるとしても、不純物成分の除去に必要とされる量の吸着剤が必要となり、そのために分離槽が大型化する。また、高純度水素ガスの収率は70%台に終始しており、なお20%を超える高純度水素の生産ロスを残している。
【0008】
上記PSA法とは異なり、下記特許文献2が開示するように、水素を選択的に吸着吸蔵するMg、Ti、希土類系合金による水素回収精製技術も知られているが、これらの合金は水素の吸蔵と放出に伴う体積膨張・収縮は体積比で15〜30%と非常に大きい。このために合金はその反復により徐々に微粉化して熱伝導性が低下するとともに合金自体の重力および水素の陰圧によって、合金体を充填する水素回収容器の底部近くに圧密されて固結化するに至り、水素回収の機能低下を招来する。
【0009】
また、この種の方法を水素貯蔵用途に適用するバッチ式で実施する場合、合金の膨張・収縮が原因して合金層にショートパスやクラックが発生することがあっても水素の拡散により大きな問題とはならない。しかし、低水素濃度の原料ガスを使用して水素を精製する目的に適用する場合は、合金充填容器を流通式とするために、合金層にショートパスやクラックが発生すると、処理ガスと合金との接触状態が悪化して水素回収率が大きく低下し、この問題は装置の大型化にともなって増大することになる。
【0010】
また、水素吸蔵合金自体が水素の吸着・吸蔵を反復するうちに微粉化してその見かけ上の体積が膨張して合金貯蔵容器が変形ないし破壊するような危険があり、同容器自体を弾性化する方法もある。しかし、たとえば下記特許文献3は、容器構造を改造することなく、容器内壁に膨張応力が過度に負荷されるのを簡単に防止する方法を提案する。すなわち、水素吸蔵合金粉末に摩擦係数の小さい粉末を混合しておくことにより、水素吸蔵中における合金粉末の熱膨張により容器内壁と合金粉末との摩擦係数が増大するのを抑制でき、その結果、容器の変形・破壊が防止できるとする。
【0011】
同様の発想は、その他下記特許文献4も提案する。すなわち、上記のような容器の変形・破壊(スウエリング)を水素吸蔵合金粉末に対して硫化物のような固体潤滑剤の粉末を混合してペレット化することにより、合金粉末の膨張にともなう合金粉末相互間の摩擦が軽減緩和できるとする。
【0012】
しかし、例示したこれらの従来発明は、いずれも水素貯蔵用の用途を想定しており、既述した水素放出時の収縮にともなうショートパスやクラックの発生が確実に抑止できることは期待できない。しかも特許文献3は、既述したように、水素の吸蔵・放出の反復にともなう合金自体の容器下方への沈降により、低摩擦係数の粉末が遊離する懸念がある。また、特許文献4は、固体潤滑剤と合金粉末とのペレットも長期にわたる粉化が確実に抑制できないので、やはりショートパスやクラックの発生が懸念される。
【0013】
以上に説明したように、従来公知の水素PSA法および水素吸着吸蔵法あるいはこの方法に使用される各種の処理容器では、満足できる高純度水素の精製分離回収効率が期待できず、また長期にわたる継続的稼動には、処理剤あるいは機器の劣化等の問題が残されている。
【特許文献1】特開2002−177726号公報
【特許文献2】特開平5−319802号公報
【特許文献3】特開平7−330302号公報
【特許文献4】特開平9−255301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、水素吸着吸蔵法により水素を精製し回収して高純度水素を製造する技術であって、水素吸着ならびに吸蔵機能を有する粉体充填層の圧密および固結を低減して原料である水素含有ガスの均一な流通を確保することを直接の解決課題とし、そして、高純度水素の回収効率を向上し、また粉体が充填される反応容器の劣化を抑えるとともに大型化を容易にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、水素吸蔵合金に対して、水素と反応してこれを実質的に吸蔵することのない金属(もしくは合金)、すなわち水素非吸蔵性の金属粉末を混合して使用することを骨子とし、具体的には下記する水素精製法およびこの方法を実施するために使用される水素吸蔵反応容器を特徴とする。
【0016】
(1)水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸着吸蔵させる水素精製法において、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層に水素含有ガスを流通させることを特徴とする水素精製法。
【0017】
(2)水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸着吸蔵させる水素精製法において、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層に水素含有ガスを流通させ、同水素含有ガス中の水素を吸蔵させて金属水素化物を生成させるとともに、水素以外のガスを充填層外に排出し、そして、充填層に減圧および加熱操作をほどこすことにより、充填層に含まれる水素吸蔵合金から水素を脱着させることを特徴とする水素精製法。
【0018】
(3)Cu、FeもしくはZnまたはこれらの合金からなる水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の水素精製法。
【0019】
(4)粒径が0.1〜20μmの水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする上記(1)(2)または(3)に記載の水素精製法。
【0020】
(5)水素吸蔵粉末の量と水素非吸蔵性金属粉末の量との混合割合が5〜50質量%となるように混合された充填層を使用することを特徴とする上記(1)(2)(3)または(4)に記載の水素精製法。
【0021】
(6)水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸蔵させる水素精製法に使用される水素吸蔵合金反応容器であって、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層を内蔵することを特徴とする水素吸蔵合金反応容器。
【0022】
(7)Cu、FeもしくはZnまたはこれらの合金からなる水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする上記(6)に記載の水素吸蔵合金反応容器。
【0023】
(8)粒径が0.1〜20μmの水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする上記(6)または(7)に記載の水素吸蔵合金反応容器。
【0024】
(9)水素吸蔵粉末の量と水素非吸蔵性金属粉末の量との混合割合が5〜50質量%となるように混合された充填層を使用することを特徴とする上記(6)(7)または(8)に記載の水素吸蔵合金反応容器。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、水素吸蔵合金粉末と水素非吸蔵性金属粉末との混合物から成る充填層を使用することを特徴とし、水素非吸蔵性金属粉末の存在により、充填層全体の膨張および収縮が機械的に緩和されて粉体充填層全体の圧密および固結を低減する。したがって、水素放出時における充填層の収縮に起因する充填層中のショートパスやクラックの発生が抑制されて水素ガスの流通が均一化する。その結果、高純度水素の回収効率のみでなく水素吸蔵合金の利用率がともに向上することになる。さらに、充填容器の劣化を抑えるとともに大型化を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明において水素吸蔵合金としてはそれ自体すでに公知の金属、合金、たとえばAB2系、AB5系、Mg系、Ti-Fe系、V系、Pd系あるいはCa系等各種のものが使用でき、これらは水素吸蔵の目的、原料となる水素含有ガスの種類や実施規模等に応じて適宜選択すればよく、とくに限定されない。しかし、本発明ではこれら水素吸蔵合金の使用の形態は、あくまでも粉末の状態で使用することが必須である。すなわち、本発明はこうした粉末の形態の水素吸蔵合金とこれに同じく粉末の形態の水素非吸蔵性金属を混合して反応容器に供給、充填し、こうして反応容器内に形成した両粉末の混合充填層を用い、この充填層に水素ガスを流通させて、水素ガスを精製するところに重要な特徴を有する。
【0027】
したがって、前記特許文献4に記載されているようなペレットに成型された形態の水素吸蔵合金は使用されない。
【0028】
上記反応容器に充填される水素吸蔵合金の粉末の粒径は充填層における流通性(通気性)と水素ガスとの接触効率すなわち水素の吸蔵効率、また充填層において発生する圧力損失等を考慮して、1〜500μmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
【0029】
一方、本発明における水素非吸蔵性金属としては、水素に対して不活性で実質的に水素を吸蔵しない金属(合金を含む)であって、この水素非吸蔵性金属を充填層として水素含有ガスを流通させる充填層方式により一定の吸蔵処理条件下において水素を吸蔵させた場合に該金属(1kg当たり)に吸蔵される水素量(NL)が下記 (1)式の量(M)以下の特性を示すものとして定義されるものである。
【0030】
水素非吸蔵性金属の水素吸蔵量(M)≦ 5.0 NL/金属1Kg ・・・(1)
但し、水素吸蔵処理条件は次の通りとする。
【0031】
水素吸蔵圧力:0.9MPa
水素吸蔵温度:20℃
保持時間:60分
流量確認:ブルックスインスツルメント社製マスフローメーター5850E
本発明に適用される上記水素非吸蔵性金属の水素吸蔵量(M)の値は小さいほど良く、好ましくは 5.0 NL/金属1Kg 以下であり、特に好ましくは1.0NL/金属1Kg以下のものが推奨される。
【0032】
そして、上記(1)式を満足する水素非吸蔵性金属の例として、Cu、Fe、Zn、Cr、Nb、銀等の金属単体もしくはこれらの合金が挙げることができる。これらにおいて、上記(1)式のM値は、Cuが0.0NL/金属1Kg、Feが0.0NL/金属1Kgであり、そのコストも安く入手が容易であるため水素非吸蔵性金属として特に有利に使用することができる。
【0033】
しかし、本発明に用いられる水素非吸蔵性金属は前記(1)式を満足する特性を備えていればその目的を達成することができ、これら特定の金属に限定されないことは言うまでもない。
【0034】
本発明が水素吸蔵合金と水素非吸蔵性金属との両粉末を混合して反応容器に供給、充填して使用するのは、前者にはもっぱら水素含有ガス中に含まれる水素を吸着吸蔵あるいは放出させる役割を負わせ、後者には同じ水素吸着作用を負担させないで、水素吸蔵合金の粉末と共存して単に物理的に混在させることが主眼である。そして、両者を混合しておくことにより、後者の存在が機能して充填層の膨張・収縮を機械的に緩和し、前者の圧密化およびそれにともなう固結化が抑制できるのである。
【0035】
なお、両粉末はともに金属体であるから、前記特許文献2に記載されているような無機質あるいは有機質の粉末を混合する場合に見られる両種粉末の分離・遊離現象が回避できる点が重要であり、上記した水素吸蔵合金粉末の圧密・固結化をほぼ確実に阻止することができる。
【0036】
水素非吸蔵性金属の粉末として上記したようなCu、Fe、Zn等が適しているのは、水素吸蔵合金と比較して水素雰囲気下での体積膨張・収縮が僅かであり、しかも熱伝導度および温度伝導度が近似しており、結果として両粉末の物理的挙動が一体化できるからである。この点、前記特許文献3に示唆されているような熱伝導度および温度伝導度の低いセラミックスやアルミナ、シリコンゴムのような材料と混合・充填した反応容器と比較すると、本発明による方が容器全体としての熱伝導度および温度伝導度がよく保持され、機材・原料ともにより低コストで実施できる利点も期待できる。
【0037】
反応容器に充填されるこの水素非吸蔵性金属粉末の粒径は0.1〜20μmの範囲とすることが好ましい。
【0038】
これは、反応容器に充填された水素吸蔵合金の粉末は当初の粒径から、その後水素吸脱着の反復に伴う膨張、収縮によりその粉化が進行した場合においては、最終的に0.1〜20μm程度の範囲、特に1〜10μmの範囲に収束するので、この際の充填層における両粉末の均一な混合状態を良好に維持するため、水素非吸蔵性金属粉末の粒径もこれに合わせて同じ範囲にするのがよい。すなわち、水素非吸蔵性金属粉末の粒径が1μm未満の微粒子では反応容器外に浸出して機械的トラブルを招くおそれがあるし、また逆に、20μm以上の場合は、水素吸蔵合金との見掛けの比重差を増し、両粉末間の分離を招く。より好ましくは、水素非吸蔵性金属粉末を1〜10μmの粒径とする。
【0039】
つぎに、本発明は、水素吸蔵合金粉末量と水素非吸蔵性金属粉末量との混合割合が5〜50質量%となるように混合された充填層を使用することが望ましい。50質量%を超えるほど多量の水素非吸蔵性金属粉末を加えると、水素吸蔵量が低下して反応容器全体の水素生成能力が不当に低下することはいうまでもない。しかし、逆に水素非吸蔵性金属粉末の混合量があまりにも少なくなると、粉末充填域におけるショートパスやクラックが発生しやすくなり、水素非吸蔵性金属粉末本来の添加混合効果が期待できないようになる。
【0040】
なお、このように、反応容器内の粉末充填域におけるショートパスやクラックが回避抑制できることは、水素放出工程における充填層の収縮に起因するこれらの減少が緩和できることを意味する点から、水素精製を目的とする流通式で実施される水素分離回収作業においては有意義な利点である。実際、充填層における水素含有ガスの均一な流通の確保が可能となり、水素回収率ならびに水素吸蔵合金の使用効率が向上する。
【0041】
図1に本発明の実施に際して使用される流通型の水素吸蔵合金反応容器が付随する配管系統とともに例示されている。反応容器(1)に上記混合型充填層(2)が収納されており、底部に水素含有ガス供給管(3)とパージ管(6)、上部にオフガス取出し管(4)と精製ガス取出し管(5)等の配管類が接続される。また、反応容器(1)の外周には冷却用ならびに加熱用熱媒流通管(7)(8)を接続する熱媒流通帯(9)が装備される。
【0042】
上記混合型充填層(2)は、本発明が特徴とする水素吸蔵合金と水素非吸蔵性金属との2種類の粉末を均一に混合したものである。
【0043】
上記装置を使用してつぎの3工程により、水素含有ガスを原料として水素が精製される。
1.水素精製工程
水素含有ガス供給管(3)より反応容器(1)内に所定の水素含有ガスが供給されて充填層(2)内を流通し、水素吸蔵合金粉末に水素含有ガス中の水素を吸蔵させ、金属水素化物を生成する。反応容器(1)内では、水素吸蔵合金による水素含有ガスの反応は発熱反応であるから、冷却用熱媒流通管(7)から反応容器外周の熱媒流通帯(9)に冷水を供給して流通させ、充填層(2)を冷却しながら水素精製をおこなう。
【0044】
なお、充填層(2)中の水素吸蔵合金が、使用温度において常圧よりも高い平衡圧を有する場合は、水素化物を生成する方向に平衡反応を進めるため、この平衡圧よりも高い圧力まで水素含有ガスを加圧状態にして反応容器(1)内に導入する。
【0045】
水素精製により分離された水素以外のオフガス成分はオフガス取出し管(4)から排出され、このオフガス中の水素濃度が所定の許容範囲を超えた時点で水素精製工程を終了させる。
2.パージ工程
水素精製工程終了後、反応容器(1)内に残存している不純物ガスをパージ管(6)から排出する。
3.水素放出工程
水素精製工程が終了次第、精製ガス取出し管(5)から高純度水素を放出し回収する。水素放出は吸熱反応であるから、熱媒流通帯(9)に適当な温度の温水を供給し、加熱しながら金属水素化物から水素を解離させることにより水素ガスのみを放出させる。
【0046】
なお、反応容器(1)内での水素精製工程が加熱加圧状態下で実施される水素吸蔵反応である場合は、加圧状態で濃縮状態となっている不純物ガスを排出させ、製品水素の純度を向上させるため容器内を減圧してから水素を放出する。
【0047】
以上は単一の反応装置によるバッチ式について説明したが、複数の反応装置を組み合わせて配管系統により連結することにより、連続して高純度水素を放出し回収することができるのはいうまでもない。
【0048】
(実施例)
以下に、水素非吸蔵性金属としてアトマイズ鉄粉および銅粉を使用した実施例を示す。
1.アトマイズ鉄粉の場合:
下記の粉末2種を用意し、これらを十分に混合し、容積500ccのSUSボンベを図1の反応容器(1)としてこれに収容して充填層(2)とした。
【0049】
・水素吸蔵合金:20℃における平衡圧が0.2MPaとなるように調整されたAB5系(MmNi4.025Co0.4Mn0.275Al0.3)水素吸蔵合金(平均粒径10μm)1kg
・アトマイズ鉄粉:平均粒径10μmのアトマイズ鉄粉300g
なお、反応容器(1)内に収容された混合粉末体に対しては、
あらかじめ 200℃×真空引き×2時間を行い、0.9MPaの圧力による純水素吸蔵・放出を5回繰り返すことによる活性化処理行なった。
【0050】
反応容器(1)の外周に銅管を巻きつけて構成された熱媒流通帯(9)に20℃の冷水を流通して充填層(2)を冷却しながら、原料となる水素含有ガスを下記条件下で流通して水素吸蔵反応をおこなわせた。
【0051】
・水素含有ガスの供給条件
圧力: 0.9MPa
温度: 10℃
流量: 2.0NL/min
組成: H 80%、CO 20%
流通時間: 30分
この間、不純物成分のCOはオフガス取出し管(4)から排出し、反応工程終了後に容器内を0.1MPaまで減圧するとともに、銅管には冷水に代えて80℃の温水を流通して充填層を加熱することにより、吸蔵されていた水素ガスを放出させた。
【0052】
以上の操作を、同じ混合粉末の充填層を継続使用し計10回に分けて同様の条件下で実施し、表1に記載の水素回収率を得た。なお、水素回収率は下式による。
【0053】
・水素回収率=水素吸蔵合金に吸蔵されたH量/反応容器に供給された水素量×100
2.銅粉の場合:
平均粒径10μmの銅粉300gを使用して実施例1と同一の条件下で水素精製操作を実施し、表1に記載の水素回収率を得た。
【0054】
なお、上記2例で使用した金属粉の粒径は、いずれも日機装(株)社製のFRA9220マイクロトラックを用いて測定し、中心粒径D50の値を平均粒径とした。
【0055】
また、上記実施例と比較する目的で、タイプの異なる下記3種の方法を実施した。
・比較例1:実施例のAB系水素吸蔵合金と同一の合金1kgのみを、同じく500ccのSUSボンベを反応容器としてこれに充填し、活性化処理したのち、実施例と同様の方法で水素の吸蔵精製・放出操作を10回実施した。
・比較例2:上記AB系水素吸蔵合金と同一の合金1kgにФ3.0mmのアルミナ製ボール100gを混合して同じく500ccのSUSボンベを反応容器としてこれに充填し、実施例と同様の活性化処理をしたのち、上例と同様に水素の吸蔵精製・放出操作を10回実施した。
・比較例3:上記AB系水素吸蔵合金と同一の合金1kgをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により加圧成型して外径22mm厚さ16mmの円柱状ペレットに加工し水素吸蔵合金を調製し、これに固体潤滑剤としてMoSの粉末100gを混合した。そして、この混合物を上例と同様に反応容器に充填し、同じく活性化処理したのち、上例と同様に水素の吸蔵精製・放出操作を10回実施した。
【0056】
以上の本発明実施例2種と比較例3種について既述の式により、1回ごとの水素回収率をそれぞれ算出した結果を表1に列挙した。
【0057】
【表1】

【0058】
本発明の実施例2種を総覧すると、水素回収率は94〜98%に達しており、きわめて効率のよいことが了解できる。実施例1は、水素吸蔵合金粉に水素非吸蔵性の鉄粉を混合したことにより、10回にわたって継続使用しても水素回収率は94%以上を達成し、水素吸蔵合金粉はなお劣化していないことがわかる。実施例2は銅粉を混合したことにより、水素回収率は94%以上とさらに増大しており、これは鉄粉より銅粉の熱伝導率がよく、反応容器内充填層の熱伝導率が向上したことによる結果で好ましい。
【0059】
他方、比較例1は水素吸蔵合金粉のみを粗充填してサイクル試験しているが、3回目で充填層にショートパスが発生し、水素回収率が大幅に低下している。
【0060】
比較例2は、アルミナボールを混用した例であるが、水素回収率機能の低下は比較例1ほど極端に不良でないが、10回目に至って42%にまでダウンしているのはよくない。なお、終了後に反応容器の上部から充填層の中身を取り出そうとしたところ、比重の軽い方のアルミナボールが先行して多量流出し、これに比重の重い水素吸蔵合金粉が後続して多量流出した。両者は最初によく混合して反応容器に装入しているから、10回のサイクル試験を反復する過程で比重差が原因して両者間に流動分離したことが示唆される。
【0061】
比較例3は水素吸蔵合金のペレットに固体潤滑剤として機能するMoSの粉末を混合した場合であるが、初回から水素回収率が大幅に低下しており、ペレット内奥の水素吸蔵合金と水素ガスとの接触反応が阻害されたことが明らかである。加えて、水素吸蔵合金をペレットに加工する段階で合金材がPTFEとの混練により水素ガスがPTFEを通過するための抵抗が反応率を低下させたことも一因と推考される。
【0062】
なお、本発明の実施に際しては、水素含有ガスの種類や水素含有量あるいは加圧条件等は限定されないし、温度ならびに水素分圧が使用される水素吸蔵合金の平衡圧以上であれば水素精製が可能である。また、水素吸蔵反応時における容器内充填層の体積膨張にともなう容器外表面へ応力を緩和する目的で、各種の緩衝材を、水素吸蔵合金粉末および水素非吸蔵性金属粉末に合わせて併添混合することがあってもよい。たとえば、シリコン樹脂粉、熱伝導性のよい金属製緩衝材、カーボンやセラミックの繊維片、MoS、ナフタレン等の固体潤滑剤を、水素吸蔵合金粉末に対し1〜10質量%の混合率で併用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明反応容器および配管系統を例示する図である。
【符号の説明】
【0064】
1…反応容器
2…混合型充填層
3…水素含有ガス供給管
4…オフガス取出し管
5…精製水素ガス取出し管
6…パージ管
7、8…加熱用熱媒流通管
9…熱媒流通帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸着吸蔵させる水素精製法において、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層に水素含有ガスを流通させることを特徴とする水素精製法。
【請求項2】
水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸着吸蔵させる水素精製法において、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層に水素含有ガスを流通させ、同水素含有ガス中の水素を吸蔵させて金属水素化物を生成させるとともに、水素以外のガスを充填層外に排出し、そして、充填層に減圧および加熱操作をほどこすことにより、充填層に含まれる水素吸蔵合金から水素を脱着させることを特徴とする水素精製法。
【請求項3】
Cu、FeもしくはZnまたはこれらの合金からなる水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする請求項1または2の水素精製法。
【請求項4】
粒径が0.1〜20μmの水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする請求項1、2または3の水素精製法。
【請求項5】
水素吸蔵粉末の量と水素非吸蔵性金属粉末の量との混合割合が5〜50質量%となるように混合された充填層を使用することを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の水素精製法。
【請求項6】
水素吸蔵合金の充填層に水素含有ガスを流通させることにより、水素含有ガス中の水素を水素吸蔵合金に吸蔵させる水素精製法に使用される水素吸蔵合金反応容器であって、水素吸蔵合金の粉末および水素非吸蔵性の金属もしくは合金の粉末を混合した充填層を内蔵することを特徴とする水素吸蔵合金反応容器。
【請求項7】
Cu、FeもしくはZnまたはこれらの合金からなる水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする請求項6の水素吸蔵合金反応容器。
【請求項8】
粒径が0.1〜20μmの水素非吸蔵性金属粉末を使用することを特徴とする請求項6または7に記載の水素吸蔵合金反応容器。
【請求項9】
水素吸蔵粉末の量と水素非吸蔵性金属粉末の量との混合割合が5〜50質量%となるように混合された充填層を使用することを特徴とする請求項6、7または8に記載の水素吸蔵合金反応容器。

【図1】
image rotate