説明

水素製造装置、水素製造方法および燃料電池発電装置

【課題】低い電解電圧で水素を製造することができる水素製造装置および水素製造方法並びに低い電解電圧で製造した水素を用いる燃料電池発電装置を提供すること。
【解決手段】水Sと還元性ガスDとを導入して水素Hを製造する水素製造装置1であって、水Sを水素Hと酸素O2−に電気分解するカソード12と、還元性ガスと酸素とを反応させるアノード14と、カソードで電気分解される水を収容するカソード室20とアノードで酸素と反応する還元性ガスDを収容するアノード室40との間に配置されカソード室とアノード室とを画定する隔膜10と、電気分解された水素を水と分離する水素分離部材22とを備える水素製造装置1。水素製造装置1と、製造された水素Hを導入し発電を行う燃料電池60とを備える燃料電池発電装置6。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素製造装置、水素製造方法および燃料電池発電装置に関し、特に低い電解電圧で水素を製造することができる水素製造装置および水素製造方法並びに低い電解電圧で製造した水素を用いる燃料電池発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分散型発電システムとして開発が進められている燃料電池の多くは水素を燃料として発電している。燃料電池に用いる水素は、炭化水素系の原料を用いた改質反応により製造するのが一般的である。しかし、炭化水素系の原料として都市ガスや灯油などの化石燃料を用いる原料ガスは、二酸化炭素排出による地球温暖化への影響等を有し、環境負荷が大きいという懸念がある。そのため、廃木材・生ゴミなどのバイオマス原料の熱分解ガスを原料ガスとして用いることが好ましい。そこで、バイオマス原料を用いて還元性ガスを製造し、カソード側に水蒸気を、アノード側に還元性ガスを供給することにより、低い電解電圧で水素を製造する方法が提案されている(特許文献−1参照)。
【特許文献1】特開2004−60041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、電解装置内のガスの下流側において、カソード側では水蒸気中の水素濃度が相対的に高まり、アノード側で還元性ガス中の酸化したガスの濃度が相対的に高まるため、アノード側の酸素ポテンシャルがカソード側より高くなり、電解と逆の電位が生じ、電解電圧が増大してしまうという問題があった。そこで、本発明は、低い電解電圧で水素を製造することができる水素製造装置および水素製造方法並びに低い電解電圧で製造した水素を用いる燃料電池発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る水素製造装置は、例えば図1に示すように、水Sと還元性ガスDとを導入して水素Hを製造する水素製造装置1であって:水Sを水素Hと酸素O2−に電気分解するカソード12と;還元性ガスDと酸素O2−とを反応させるアノード14と;カソード12で電気分解される水Sを収容するカソード室20と、アノード14で酸素O2−と反応する還元性ガスDを収容するアノード室40との間に配置され、カソード室20とアノード室40とを画定する隔膜10と;電気分解された水素Hを水Sと分離する水素分離部材22とを備える。なお、ここでいう水Sとは、水蒸気を含む広い意味での水であり、典型的には水蒸気である。
【0005】
このように構成すると、カソードで分解された酸素は隔膜を透過してアノード室へ移動し、また、カソードで分解された水素は、水素分離部材により水と分離され、カソードにおける水の分圧が高く維持される。そのため、カソードの酸素ポテンシャルが高く維持され、水の電解電圧が低く保たれる。なお、水素分離部材は水素製造装置のカソード室の水から水素を分離するもので、典型的にはカソード室に設置される。
【0006】
また、請求項2に記載の発明に係る水素製造装置は、例えば図1に示すように、請求項1に記載の水素製造装置1において、水素分離部材が膜22で構成される。
【0007】
このように構成すると、水素分離部材が膜で構成されるので、水素分離部材を任意の形状に加工しやすく、水素分離部材の表面積を増やし、かつ、設置しやすい。
【0008】
また、請求項3に記載の発明に係る水素製造装置は、例えば図3に示すように、請求項1または請求項2に記載の水素製造装置3において、隔膜10がチューブ状に形成されている。
【0009】
このように構成すると、隔膜の、すなわち電気分解をするカソードとアノードの表面積を広く確保することができ、水素製造装置を小型化できる。
【0010】
また、請求項4に記載の発明に係る水素製造装置は、例えば図2に示すように、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の水素製造装置2において、カソード室20で、水Sは所定方向に流れ;アノード室40で、還元性ガスDは所定方向に流れ;水Sと還元性ガスDとが、対向流である。
【0011】
このように構成すると、水と還元性ガスとが対向流であるので、還元性ガスが酸素と反応して還元性ガスの濃度が低くなったアノードの部分に対応するカソードでは、水があまり電気分解されておらず、水素濃度が低くなる。また、水が電気分解され水素濃度が高くなったカソードの部分に対応するアノードでは、還元性ガスが酸素とあまり反応しておらず、還元性ガスの濃度は高くなる。したがって、カソード側の酸素ポテンシャルが高く維持され、電解電圧が低く保たれる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明に係る水素製造装置は、例えば図2に示すように、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の水素製造装置2において、カソード12とアノード14との間で発電する。
【0013】
このように構成すると、水素製造装置を発電装置としても使うことができ、エネルギー変換効率を高めることができる。
【0014】
また、前記目的を達成するため、請求項6に記載の発明に係る水素製造方法は、例えば図1に示すように、水Sを導入する工程と;水Sを電気分解する工程と;還元性ガスDを導入する工程と;水Sを水素Hと酸素O2−に電気分解する工程と;水素Hを水Sから分離して除去する工程と;還元性ガスDと酸素O2−とを反応させる工程とを備える。
【0015】
このように構成すると、電気分解された酸素は還元性ガスと反応し、電気分解された水素は水から分離されて除去されるので、水の分圧は高く維持される。そのため、酸素ポテンシャルは高く維持され、水の電解電圧が低く保たれる。
【0016】
また前記目的を達成するため、請求項7に記載の発明に係る燃料電池発電装置は、例えば図6に示すように、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の水素製造装置1と;製造された水素Hを導入し、発電を行う燃料電池60とを備える。
【0017】
このように構成すると、電解電圧が低減された水素製造装置で水素を製造し、製造した水素を用いて燃料電池で発電をすることができるので、電力のロスが少ない燃料電池発電装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る水と還元性ガスとを導入して水素を製造する水素製造装置によれば、水を水素と酸素に電気分解するカソードと、還元性ガスと酸素とを反応させるアノードと、カソードで電気分解される水を収容するカソード室とアノードで酸素と反応する還元性ガスを収容するアノード室との間に配置されカソード室とアノード室とを画定する隔膜と、電気分解された水素を水と分離する水素分離部材とを備えるので、カソードで分解された酸素は隔膜を透過してアノード室へ移動し、また、カソードで分解された水素は、水素分離部材により水から分離され、カソードにおける水の分圧が高く維持される。そのため、カソードの酸素ポテンシャルが高く維持され、水の電解電圧が低く保たれ、よって低い電解電圧で水素を製造する水素製造装置を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係る水素製造方法によれば、水を導入する工程と、水を電気分解する工程と、還元性ガスを導入する工程と、水を水素と酸素に電気分解する工程と、水素を水から分離して除去する工程と、還元性ガスと酸素とを反応させる工程とを備えるので、電気分解された酸素は還元性ガスと反応し、電気分解された水素は水から分離されて除去される。そのため、酸素ポテンシャルは高く維持され、水の電解電圧が低く保たれる。よって低い電解電圧で水素を製造する水素製造方法を提供することができる。
【0020】
また、本発明に係る燃料電池発電装置によれば、上記の水素製造装置と、製造された水素を導入し発電を行う燃料電池とを備えるので、低い電解電圧で水素を製造する水素製造装置で水素を製造し、製造した水素を用いて燃料電池で発電をする燃料電池発電装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において互いに同一あるいは相当する部材には同一符号あるいは類似符号を付し、重複した説明は省略する。
【0022】
図1は、水素製造装置1の構成を説明する模式的断面図である。水素製造装置1は、隔膜10を挟んでカソード12とアノード14とを有し、カソード12とアノード14との間に直流電圧を印加する電気回路50が接続する。水素製造装置1には、水蒸気Sが導入されるカソード室20と還元性ガスDが導入されるアノード室40とが備えられ、カソード室20とアノード室40とは、隔膜10で画定される。還元性ガスDは、可燃性のガスであり、例えば、メタンCH、一酸化炭素CO、水素Hなどを含む。あるいは、アルコール、ケロシン、バイオマス由来のガス化ガスやメタン発酵ガス、あるいはこれらの改質ガス、あるいはアンモニアガスなどを含んでもよい。隔膜10は、固体電解質で形成された膜であり、電気抵抗を低減するため、薄く形成することが好ましい。固体電解質としては、酸化されるイオンを伝導する、イットリウムY,カルシウムCa、あるいはスカンジウムScなどを添加した酸化ジルコニウム(YSZ、CSZ、ScSZ)などが好適に用いられる。また、カソード12およびアノード14としては、高温で酸化/還元雰囲気に曝されるため、ニッケルNi、ルテニウムRuなどの金属とセラミックスの金属サーメットが用いられ、ガスの拡散性を保つため、多孔質に形成されることが好ましい。
【0023】
カソード室20に導入された水蒸気Sは、カソード12で電気分解され、水素Hと酸素イオンO2−とに分解される。負イオンの形態である酸素イオンO2−は、固体電解質で形成された隔膜10を透過しアノード14に移動する。アノード14に移動した酸素イオンO2−は、還元性ガスDと酸化反応する。例えば、還元性ガスDとしてのメタンCHと反応し酸化ガスとしての二酸化炭素COと水HOとになり、還元性ガスDとしての一酸化炭素COと反応し酸化ガスとしての二酸化炭素COとになり、還元性ガスDとしての水素Hと反応し酸化ガスとしての水HOとになる。なお、これらの反応は、例えば500〜1100℃の高温環境下で行われる。この結果、カソード室20は水蒸気Sと水素Hとで満たされ、アノード室40は酸化ガスと酸化せずに残留する還元性ガスDとで満たされる。
【0024】
カソード室20で水素Hが増加し、その分水蒸気Sが減少すると、カソード12における酸素イオンO2−が減少する。すなわち、カソード12での酸素ポテンシャルが低くなる。また、アノード室40で酸化ガスが増加すると、アノード14での酸素ポテンシャルが高くなる。その結果、酸素イオンO2−はカソード12からアノード14へ移動しにくくなり、カソード12とアノード14との間に印加する電圧を高くしないと酸素イオンO2−が移動しなくなる。すなわち、電解電圧が高くなる。
【0025】
水素製造装置1では、カソード室20に水素分離部材として水素分離膜22を備えているので、カソード室20で電気分解により生じた水素Hは水素分離膜22を透過してカソード室20から除去される。すなわち、水蒸気Sはカソード室20に残留し、水素Hは水蒸気Sと水素Hとの混合ガスから分離され、カソード室20から除去されるので、水素分圧は低く水蒸気分圧は高く保たれる。このように水蒸気Sと水素Hとの混合ガスから水素Hが分離されることを簡単に、水素Hが水(水蒸気S)から分離されるともいう。そのため、カソード12での酸素ポテンシャルが高くなり、電解電圧は低く保たれる。
【0026】
高温環境下で用いられる水素分離膜22としては、パラジウムPd又はパラジウムPd合金膜、バナジウムV合金膜、ジルコニウムZr−ニッケルNi系アモルファス合金膜、セラミック系プロトン伝導膜等が用いられる。パラジウムPd又はパラジウムPd合金膜は、比較的高温で、高い透過性を示すので好適に用いられる。パラジウムPd合金膜としては、パラジウムPd−銀Agやさらにこれに他の金属を添加したものでもよい。また、パラジウムPd又はパラジウムPd合金膜は、自立したパラジウムPd膜でも、あるいは金属やセラミックの多孔質支持体との複合膜としてもよい。自立パラジウムPd膜は、薄肉のパラジウムPdチューブとし、内外の差圧により変形しないようにすればよい。なお、パラジウムPd又はパラジウムPd合金膜の水素分離膜22は、200〜700℃で用いるのが一般的である。カソード12、アノード14などの電解セル部が500〜1100℃で、より好ましくは600〜800℃で使用されるため、水素分離膜22はカソード室20内でカソード12から離隔し、温度が少し下がった位置に設置するのが好ましい。水素分離膜22を通して水素Hを分離するには、水素Hの圧力差が必要となる。このため水素分離膜22の下流側を減圧して、カソード室20側の水素分圧より低く保つ必要がある。なお、上記のとおりに、水素製造装置1は高温で運転されるので、熱応力の観点から、できるだけ連続運転とすることが望ましい。起動時間等をも考慮すると、運転を停止した場合にも、例えば150℃以上に保っておくことが望ましい。
【0027】
水素分離膜22を透過した水素Hは水素ガスhとして、下流側に送られる。上述の通りにカソード室20より低圧とするために、例えば吸込みファン(不図示)により水素ガスhを吸引するのが好ましい。また、アノード室40で酸素イオンO2−により酸化された還元性ガスDは、排ガスEとして排出される。
【0028】
水素製造装置1によれば、カソード室20に水素分離膜22を備え、電気分解された水素Hを選択的に水蒸気Sから分離し、水素ガスhとして排出するので、カソード12の酸素ポテンシャルを高く維持し、電解電圧を低減することができることに加え、水素ガスhとして排出される水素は純度が例えば99.999%以上の高純度水素となるので、燃料電池を始めとし半導体産業等、あらゆる水素の用途に供することができる。また、水素Hを水蒸気Sから分離する装置、例えば冷却して水蒸気Sを凝縮して気液を分離する気液分離装置が不要となる。さらに、カソード室20に導入される水蒸気Sはほぼ100%が電気分解されることになり、例えば気液分離装置で回収した水を循環したり、水蒸気Sを循環したりする装置が不要となり、加えて水の供給量を減らすことができる。よって、装置自体がコンパクトになり、また、熱効率が向上する。
【0029】
次に、図2の模式的断面図を参照して、水素製造装置2における水素分離膜22の作用をさらに説明する。図2は、図1の水素製造装置1と基本的に同一の構造を有する水素製造装置2の模式的断面図であり、カソード12の各位置における水素分圧PHをカソード12側にグラフで示す。グラフにおいて、破線は水素分離膜22を備えない場合の水素分圧を示す。水素製造装置2は、水素製造装置1と基本的に同一構造であるので、同一部分についての重複した説明は省略し、相違する構造についてのみ説明する。水素製造装置2では、カソード12とアノード14との間に直流電圧を印加する電気回路50(図1参照)の代わりに、同様に直流電圧を印加すると共に、カソード12とアノード14との間から電力を取り出すことができる電気回路52を備えている。電気回路52では、直流電圧を印加するための直流電源54と並列に、直流電圧を取り出すためのDC/ACコンバータ56を備えており、直流電源54側とDC/ACコンバータ56側とにおいてそれぞれ接続を切断するためのスイッチ55、57を備えている。水蒸気Sを電気分解する場合には、スイッチ55をオンとし、スイッチ57をオフとすることにより、カソード12とアノード14との間に直流電圧を印加する。一方、カソード12とアノード14との間から電力を取り出す場合、すなわち発電する場合には、スイッチ55をオフとし、スイッチ57をオンとするが、発電する場合については、後で説明する。
【0030】
図2では、カソード室20において、水蒸気Sは左側から右側に向って流れる。カソード室20の水素分圧PHは、水蒸気Sの上流側(図2の左側)においては0であり、カソード12で水蒸気Sが電気分解されるにつれ、水素分圧PHが上昇する。仮に水素分離膜22を備えていないとすると、水素分圧PHは、下流になるにつれ上昇を続け、破線のグラフのように単調な右上がりのグラフとなる。ここでは、簡単のために右上がりの直線で示しているが、必ずしも直線になるとは限らない。いずれにせよ、下流になればなるほど水素分圧PHは上昇する。しかし、水素分離膜22で水素Hだけを透過し、除去するので、水素分圧PHは低減される。すなわち、水素分圧PHはある値で頭打ちとなる。この値は、水素分離膜22の特性、膜面積、加圧条件および水素分離膜22の上流側と下流側との差圧等により決まり、設計値として制御することができる。例えば、水素分圧PHは、全圧の30%以下とすることが好適である。ただし、0.5%未満となると、ニッケルNiなどの金属が水蒸気酸化する可能性が高まるため、水素分圧PHは、全圧の0.5〜30%とするのが好適である。
【0031】
一方、アノード室40においては、アノード14で酸化反応が進むにつれ、還元性ガス分圧が低下する。すなわち、還元性ガスDの利用率が向上する。ここで、還元性ガスDの利用率とは、還元性ガスDに含まれる還元性ガス(可燃性ガス)中、酸化反応して酸化ガスになったガスの比率をいう。還元性ガスDの利用率は、80%以上となるように設計することが好適である。すなわち、還元性ガスDの下流側のアノード14の端部においては、還元性ガスの残留率は、20%以下となる。そのときの還元性ガスの分圧は、還元性ガスDには導入されたときから還元性を有さない水蒸気や二酸化炭素が含まれているため、全圧の20%より小さくなる。なお、還元性ガス利用率を100%に近づけることは、排気ガスEのほとんどが酸化ガスとなることであり、二酸化炭素COの回収に有利となり好適である。そこで、図2に示すように、カソード室20での水蒸気Sの流れの方向と、アノード室40での還元性ガスDの流れの方向を反対向きに、すなわち対向流にすることが好ましい。対向流とすることで、還元性ガス分圧が低下したガスは、水素分圧PHが極めて低いカソード12と対応するアノード14で酸化されることになり、カソード12からアノード14への酸素ポテンシャルを確保することができる。したがって、電解電圧を低く保つことができる。
【0032】
ここで、カソード12で生成する水素量と水素分離膜22の膜面積とを調整し、水素分圧PHを制御する具体例を説明する。カソード12で生成する水素量は、カソード12とアノード14とに印加する電圧を調整して電流を制御することで調整することができる。一方、水素分離膜22における水素Hの透過速度は、水素分離膜22の膜厚み、膜面積、温度が一定であれば上流側/下流側の圧力の平方根の差に比例する。すなわち、単位面積当りの透過速度Vは、V=K(Pu1/2−Pd1/2)となる。ここで、Kは、温度ごとに水素分離膜22により定まる定数であり、Puは水素分離膜22の上流側での水素分圧、Pdは水素分離膜22の下流側での水素分圧である。なお、下流側の水素分圧は、全圧とほぼ等しい。例えば、ある水素分離膜では、600℃、上流側の水素分圧202kPa(2atm)、下流側の水素分圧101kPa(1atm)の場合に、水素の透過速度は30ml/cm・分となる。なお、水素の透過速度30ml/cm・分とは、標準状態換算の値(25℃、100kPaにおける値)であり、以下も同様である。ここで、下流側の水素分圧を0.101kPa(0.001atm)に減圧すると、上流側の水素分圧により透過速度は下記のように変化する。
1)上流側81.1kPa(0.8atm)→V=62.5ml/cm・分
2)上流側20.3kPa(0.2atm)→V=30.1ml/cm・分
3)上流側10.1kPa(0.1atm)→V=20.6ml/cm・分
【0033】
カソード12、アノード14などの電解セル部に流す電流を1A/cmとすると、7.5ml/cm・分の水素が生成する。水素分離膜22の膜面積を電解セル部、すなわちカソード12やアノード14の1/4にすると、水素生成量と上記の上流側の水素分圧を20.3kPa(0.2atm)とした場合の水素Hの透過量とがほぼ同じになり、上流側の水素分圧は20.3kPa(0.2atm)で安定することになる。印加する電圧を高めて電流密度を増加すると、水素Hの生成量が増え、水素分圧が上昇するが、それだけ圧力差が増加し透過速度も増加するため、僅かな圧力上昇で安定する。水素Hの生成量が減少した場合も同様に、僅かな圧力低下で安定する。すなわち、電解電圧の変動に対し、カソード室20の水素分圧は安定的である。なお、カソード室20の水素分圧を低下させるには、水素分離膜22の膜面積を大きくするか、水素分離膜22の下流側の圧力を低下して圧力差を大きくし、水素Hの透過速度を増やせばよい。また、水蒸気Sの圧力を高くすることは、相対的に水蒸気分圧が高まり、酸素ポテンシャルが大きくなるので、電解電圧を低く保つのに有利となる。その結果、水素分離膜22の表面積を減少させることも可能となる。
【0034】
水素製造装置2では、カソード12における水蒸気分圧/水素分圧を、アノード14の酸化ガス分圧/還元性ガス分圧より高く保つことができれば、カソード12において水蒸気Sが化学ポテンシャルの差により電子を受取り、水素Hと酸素イオンO2−とに分解される。水素分離膜22により水素Hを選択的に透過することにより、カソード室20の水素分圧を低下することで、上記の条件が達成される。電気分解された酸素イオンO2−は隔膜10を透過してアノード14に移動する。アノード14で酸素イオンO2−と還元性ガスとが酸化反応することにより、電子を放出する。すなわち、水素Hがカソード12で生成されると共に、電子が電気回路52を流れることになり、発電を行うことができる。この場合には、電気回路52のスイッチ55をオフとし、スイッチ57をオンとする。この発電による電力は直流電流であるので、DC/ACコンバータ56により交流電流に変換し、インバータ(不図示)により所望の電圧・周波数に調整して出力する。なお、電気回路52に流れる直流電流の電圧は、0.4V以下程度である。得られる電力は、電気回路52に電流が流れたときの電圧降下から、電圧と電流の積として得られる。また、生成する水素量は、流れた電流の量により定まる。
【0035】
次に、図3〜図5の模式図を参照して、水素製造装置の構成例について説明する。図3は、チューブ状に形成された隔膜10の外側にカソード12を、内側にアノード14を配置し、水蒸気Sの下流側にチューブ状の水素分離膜22を設置した水素製造装置3を示している。水素製造装置3は、隔膜10、カソード12、アノード14および水素分離膜22を格納して水蒸気Sの流路を画定する容器30を備え、容器30には、水蒸気を導入する水蒸気導入口24が形成されている。容器30は、典型的には円筒形をしており、高温の水蒸気に対し耐食性を有するステンレス鋼のような金属製である。図3では、水平方向に中心軸を有する円筒形の容器30の断面を示している。図3では、径と長さにあまり差異がない短い円筒として容器30が示されているが、容器30は径に比し長さが長いのが一般的である。容器30の円筒形の一端面31から、チューブ状の隔膜10が、容器30の円筒形の中心軸と平行に配置される。隔膜10と端面31とは気密に接合され、隔膜10の内周側において端面31には開口が形成されている。隔膜10は、容器30より長さが短く、その先端(端面31と反対の端部)は容器30の端面まで伸びてはいない。隔膜10の先端は閉じられており、隔膜10はチューブの先が丸く閉じられた、いわば試験管のような形状となっている。この試験管のような形状も、チューブ状の概念に含まれるものとする。
【0036】
隔膜10の外周に接して円筒形のカソード12が、内周に接して円筒形のアノード14が形成されている。水素製造装置3では、カソード12およびアノード14は、隔膜10の先端には形成されていないが、形成されていてもよい。カソード12は、容器30の端面31に接することなく、隔膜10が端面31に接する手前までしか形成されていない。このようにして、カソード12は容器30と電気的に絶縁されている。容器30と電気的に絶縁することにより、アノード14と短絡するリスクを低減する。カソード12は、電気回路52(図2参照)と電気的に接続している。アノード14は、端面31を越えて形成され、そこで電気回路52と電気的に接続している。
【0037】
アノード14の内部の空間に還元性ガス管38が配置される。還元性ガス管38は、円筒形のアノード14の内部の空間で、アノード14と同心に配置される。還元性ガス管38はアノード14の内周より径の細い管で、還元性ガス管38の外周とアノード14の内周との間に流路37を形成する。流路37は、還元性ガスDがアノード14と接して流れるアノード室40(図1参照)に相当する。還元性ガス管38は端面31を越えて延伸し、さらに後述の端面42をも超えて延伸し、還元性ガス導入口34で外部の還元性ガス供給源(不図示)から導かれた配管(不図示)と接続する。また、アノード14は端面31を越えたところで開口し、流路37はそこに排ガス排出口36を構成する。還元性ガス管38は、隔膜10の先端の手前、典型的にはアノード14が形成されなくなる位置を越えて、あるいは同じ位置に開口端を有する。このように構成することにより、還元性ガス供給源から供給された還元性ガスDはチューブ形状の隔膜10先端付近に供給され、そこから端面31方向に流路37を流れる。すなわち、還元性ガスDは、アノード14に沿って先端側から端面31側に流れる。
【0038】
端面31の外側(隔膜10が配置されたのとは反対側)に容器30が延長され、そこに端面42が配設され、排ガス集積路44が形成される。排ガス集積路44は端面31と端面42とで挟まれた空間であり、排ガス排出口36で流路37と連通している。また、排ガス集積路44の位置における容器30の円筒胴には、排ガス集積路排出口46が形成される。
【0039】
水素製造装置3は、上述の隔膜10、カソード12、アノード14等で構成された電解セル部を複数備える。図3では、2組の電解セル部が示されているが、2組に限られることはなく任意の組数でよい。なお1組の電解セル部だけを備えてもよい。
【0040】
隔膜10の先端の先に、水素分離膜22が配置されている。水素分離膜22は、チューブ状に形成され、容器30の中心軸と直交する方向に配置される。水素分離膜22の一端は容器30を超えて延伸し、容器30の外部で、不図示の水素配管と接続する。水素分離膜22の他端は、容器30内で閉じられているが、水素分離膜22は、容器30を貫通し、その両端が水素配管と接続してもよい。また、水素分離膜22の形状は、チューブ状に限られず、中空円盤状、その他の形状でよいが、表面積を大きく取れる形状が好ましい。チューブ状とすると、表面積を広くしつつ形成が容易で圧力差に対し形状を安定させ易いので、好適である。水素製造装置3では、水素分離膜22を1組しか備えていないが、複数備えてもよい。なお、水蒸気導入口24は、容器30において水素分離膜22が配置された位置より離隔した位置、すなわち、容器30の端面31側に形成される。以上の説明で明らかなように、容器30の内部であって、電解セル部の周囲で水素分離膜22を含まない空間が、水蒸気Sが流れるカソード室20(図1参照)に相当する。
【0041】
続いて、水素製造装置3の作用について説明する。カソード12とアノード14との間には、電気回路52(図2参照)から所定の直流電圧が印加され、カソード12は陰に、アノード14は陽に帯電される。水蒸気導入口24から水蒸気Sが容器30内に導入される。水蒸気Sは水蒸気導入口24から隔膜10の先端方向に向って、すなわち図3の右から左に向ってカソード12に沿って流れる。水蒸気Sは、カソード12に沿って流れる間に、カソード12で水素Hと酸素イオンO2−とに電気分解される。電気分解された酸素イオンO2−は固体電解質で形成された隔膜10を透過し、アノード14に移動する。一方、還元性ガス供給源(不図示)から還元性ガス導入口34へ還元性ガスDが送られ、還元性ガスDは、還元性ガス管38を流れ、隔膜10の先端近くの開口端から流路37に流出し、流路37をアノード14に沿って、端面31に戻る方向に、すなわち図3の左から右に向って流れる。アノード14に沿って流路37を流れる還元性ガスDは、酸素イオンO2−と酸化反応し、酸化ガスとなる。還元性ガスDは、このように一部が酸化され、下流側(図3の右側)にいくほどに酸化ガスの濃度が高くなり、最終的には排ガスEとして排ガス排出口36から排ガス集積路44へ流出する。排ガス集積路44では、複数の電解セル部の排ガス排出口36から排出された排ガスEが一つになって、排ガス集積路排出口46から系外へ排出され、後段のプロセスに送られ、あるいは、排気ガスとして大気に放出される。
【0042】
水蒸気Sはカソード12で電気分解され、酸素イオンO2−はアノード14に移動して除去されるので、水素Hと混合しつつカソード12に沿って下流側(図3の左側)に流れる。カソード12に沿って下流側に流れるにつれ、水素Hの濃度が高くなっていく。しかし、電解セル部の先には、水素分離膜22が配置されている。そこでは、水素Hだけが水素分離膜22を透過しチューブ状の水素分離膜22の内側に流れる。水素Hは吸引ファン(不図示)などにより吸引され、水素ガスhとして水素排出口26から下流の用途へと供給される。水素ガスhは、高純度の水素ガスであるために、燃料電池等種々の用途に使用できる。このように、水素分離膜22を用いて水素Hを分離することにより、容易に高純度の水素Hが得られる。
【0043】
水素分離膜22の周囲では水素Hの濃度は低くなる。そのため、水素Hの濃度はカソード12に沿って下流側に行くほど高くなることはなく、ある値でほぼ一定となる。よって、カソード12において水蒸気分圧が高く維持され、電気分解が活発に行われる。その結果、酸素ポテンシャルが高く維持され、カソード12からアノード14への酸素イオンO2−の移動も活発で、カソード12とアノード14との間の電解電圧を低く保つことができる。また、カソード12に沿った水蒸気Sの流れとアノード14に沿った還元性ガスDの流れとが対向流となっているので、還元性ガスD中の酸化ガス濃度が高い端面31付近では、水蒸気Sは水蒸気導入口24から導入されたばかりで、水素Hをほとんど含んでおらず水蒸気圧が高い。すなわち、電解セル部全体にわたって酸素ポテンシャルが低くなる部分がなくなる。よって、酸素ポテンシャルが高く維持され、電解電圧を低く保つことができる。また、水素分離膜22から水素Hを吸引する力を増せば、具体的には吸引側を減圧すれば、あるいは、水蒸気Sを供給する圧力を高めれば、容器30内の水蒸気S側と水素分離膜22内側との圧力差が大きくなり、水素Hの製造速度を容易に速めることができる。
【0044】
また、水素分離膜22を透過した水素Hが容器30内から外部に排出され、水蒸気Sが排出されることがない。すなわち、容器30に導入された水蒸気Sは、電気分解された分だけが、水素Hとして水素分離膜22を透過して、また、酸素イオンO2−として隔膜10を透過し還元性ガスDと酸化反応して、排出される。そのために、電気分解され減少した分の水蒸気Sを補給すればよく、水蒸気Sの利用効率が高くなる。
【0045】
次に、図4の模式図を参照して、水素製造装置3(図3参照)の変形としての水素製造装置4の構成を説明する。水素製造装置4は、チューブ状に形成した電解セル部の周囲に、チューブ状に形成した水素分離膜22をらせん状に配置したものである。このように配置することで、水素分離膜22の表面積を増大し、水素Hの透過量を増やすと共に、容器30内の水素Hの分圧を至る所で低く抑え、水蒸気Sの電気分解をより活発にし、電解電圧を低減させることができる。
【0046】
次に、図5の模式図を参照して、チューブ状に形成した隔膜10の外周に円筒形のアノード14を、内周に円筒形のカソード12を配置した水素製造装置5について説明する。水素製造装置5も水素製造装置3(図3参照)と基本的に類似しているので、相違点を中心に説明する。水素製造装置5においても、チューブ状の隔膜10が一端面31からの容器30の中心軸に平行に配置されているが、その外周にアノード14が、内周にカソード12が配置される。アノード14は端面31に接することなく、カソード12は端面を超えて延伸する。カソード12の内部の空間にチューブ状の水素分離膜22が配置される。水素分離膜22は、円筒形のカソード12の内部の空間で、カソード12と同心に配置され、カソード12の内周より径が細く、水素分離膜22の外周とカソード12の内周との間に水蒸気Sが流れるカソード室27を形成する。カソード14の端面31を越えた端部と水素分離膜22の外周との間が、水素導入口24となる。また、端面31を越えた水素分離膜22の端部は水素排出口26を構成し、配管(不図示)と連接し、製造された水素ガスhを下流の用途に供給する。容器30には、還元性ガスDを容器30内に導入する還元性ガス導入口34と排ガスEを排出する排ガス排出口36とが形成される。還元性ガス導入口34は端面31と反対側の容器30の円筒形の端面に形成され、排ガス排出口36は、端面31に近い容器30の円筒胴に形成される。
【0047】
水素製造装置5においても、カソード12とアノード14との間には、電気回路52(図2参照)から所定の直流電圧が印加され、カソード12は陰に、アノード14は陽に帯電される。水蒸気Sは、水素導入口24よりカソード室27に導入され、カソード12に沿って隔膜10の先端方向(図5では左側)に向かって流れる。カソード室27を流れながら、水蒸気Sはカソード12により水素Hと酸素イオンO2−とに電気分解される。電気分解された酸素イオンO2−は、隔膜10を透過して外周側のアノード14に移動する。一方、還元性ガス供給源(不図示)から還元性ガス導入口34へ還元性ガスDが送られ、還元性ガスDは容器30内を隔膜10の先端方向から端面31方向に(図5では左から右に)アノード14に沿って流れる。還元性ガスDは、アノード14で酸素イオンO2−と酸化反応し、酸化ガスとなり、最終的には排ガスEとして排ガス排出口36から系外へ流出する。
【0048】
カソード室27では、水蒸気Sが水素Hと酸素イオンO2−とに電気分解されつつも、酸素イオンO2−はアノード14側に移動するので、水蒸気Sと水素Hとが残ることになる。しかし、カソード室27の中心には、水素分離膜22が配置されており、水素Hは水素分離膜22を透過し、水素分離膜22のチューブ状の内側から水素排出口26に至り下流の用途に供給される。このように、電気分解された水素Hが水素分離膜22により分離され、カソード室27の至る所で水素Hの分圧は低く、水蒸気Sの分圧は高く維持される。そのために、前述のように電解電圧は低く保たれる。また、カソード室27の水蒸気Sの流れと、容器30内でアノード14に沿った還元性ガスDの流れとが対向流となっているので、電解電圧をより低く保つことができる。なお、水素製造装置5では、水蒸気分圧が至る所で高く維持されるので、還元性ガス導入口34と排ガス排出口36との配置を変え、対向流ではなく並行流としてもよい。その場合においても、電解電圧の上昇は小さく抑えられる。
【0049】
次に、図6のブロック図を参照して、本発明に係る水素製造装置を用いた燃料電池発電装置6について説明する。図6は、水素製造装置1(図1参照)で製造された水素ガスhを用いて発電を行う燃料電池発電装置6を説明するブロック図である。燃料電池発電装置6は、原料燃料を炭化水素を含む可燃性ガスGにガス化するガス化装置74と、可燃性ガスGを水蒸気Sを用いて還元性の強い還元性ガスDに改質(軽質化すなわち小炭素数化)する改質装置72と、還元性ガスDと水蒸気Sから水素ガスhを製造する水素製造装置1と、水素製造装置1から排出された水素ガスhを冷却する熱交換器70と、水素ガスhと空気Oを用いて発電を行う燃料電池60とを備える。なお、水素製造装置1については、既に説明しているので、重複する説明は省略する。ガス化装置74は、例えば廃材などのバイオマスから可燃性ガスGを製造する装置であり、典型的には可燃性ガスGは炭化水素C、一酸化炭素CO、水素Hなどを含む。燃料電池発電装置6はガス化装置74を備えずに、系外から例えば天然ガス、都市ガス、灯油などを可燃性ガスGとして導入してもよい。改質装置72は、水蒸気Sを用いて、可燃性ガスG中の炭化水素Cを改質するものである。水蒸気Sは、水素製造装置1に供給される水蒸気Sと同じでもよいし、異なっていてもよい。還元性ガスに炭化水素系化合物が多く含まれる場合、高温で熱分解して炭素を析出し、この炭素が水素製造装置1のアノード14などに悪影響を与えるため、改質を促進することが望ましい。そのために、改質装置72では、高温の可燃性ガスGと水蒸気Sとの混合ガスを改質触媒下で改質する。改質触媒としては、ニッケルNi、ルテニウムRu、白金Pt、ロジウムRh、パラジウムPdなどの金属触媒あるいはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持したものが用いられる。なお、燃料電池発電装置6は改質装置72を備えていなくてもよい。特に、軽質の可燃性ガスGを用いる場合には、備えていなくてもよい。また、可燃性ガスGに硫黄化合物が含まれる場合には、改質触媒やアノード14の活性を低下させるため、脱硫装置(不図示)を前処理として備えることが好ましい。さらに、可燃性ガスGに有機珪素化合物が含まれる場合には、高温で分解し無機の粒子となり、多項質のアノード14に詰まり、活性を低下するため、前処理にて吸着除去することが好ましい。
【0050】
水素製造装置1は、還元性ガスDと水蒸気Sとを導入し、水素ガスhを製造する。水素製造装置1で製造された水素ガスhが燃料電池60の燃料極64に送られる。燃料電池60の空気極66には、酸化剤ガスとしての空気Oが送られる。燃料電池60は、燃料極64と空気極66との間に固体高分子電解質膜62を備えており、燃料極64の水素ガスhの水素Hと、空気極86の空気O中の酸素Oとの間の電気化学的反応により、発電が行われる。固体高分子電解質膜を用いた、いわゆる固体高分子型燃料電池は、典型的には80℃〜100℃で運転されるので、たとえば500℃で反応する水素製造装置1から排出される水素ガスhを熱交換器70で、80℃〜100℃に冷却する。さらに、熱交換器70では、空気Oを80℃〜100℃に加温するため、水素ガスhと空気Oとの熱交換を行ってもよい。
【0051】
燃料電池発電装置6では、水素製造装置1を備えているので、低い電解電圧で高純度の水素ガスhを製造することができ、水素ガスhを用いて燃料電池60で発電することができる。よって効率のよい発電装置となる。なお、上記の説明では、燃料電池発電装置6は、水素製造装置1を備えるものとして説明したが、断るまでもなく上述の他の水素製造装置2〜4等、他の水素製造装置を供えてもよい。また、酸化剤ガスとして空気Oを用いるものとして説明したが、酸化剤ガスは空気Oに限られず、水素ガスh中の水素Hを酸化する酸素Oを含有するガスであればよく、酸素ガス等も好適に用いられる。さらに、上記の説明では、燃料電池60は、固体高分子型燃料電池として説明したが、燃料電池は他のいかなるタイプの燃料電池であってもよい。
【実施例1】
【0052】
次に、図7に示す実施例を用いて本発明に係る水素製造装置の効果を確認した結果を説明する。図7は、実施例として用いた水素製造装置7を説明する断面図である。一端が閉じたチューブ型のイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を固体酸化物電解質の隔膜10として、その外周側および内周側にカソード12およびアノード14としてのニッケル−ジルコニアサーメット電極を配置した。水素製造装置7では、カソード12とアノード14とは、隔膜10の先端にも配置された。この電解セル部を、先端が閉じたチューブ状の外壁32内に配置した。外壁32の先端には、還元ガス導入口34が形成された。アノード14の内側に、片側が閉じた厚さ0.1mm、直径5mm、長さ200mmのパラジウムPd25%−銀Ag合金製のチューブを水素分離膜22として配置した。外壁32とカソード12との間の空間は、カソード室20(図1参照)を構成し、アノード14と水素分離膜22との間の空間は、アノード室40(図1参照)を構成する。水素分離膜22の開口した端部(先端と反対側)は、水素排出口26を構成する。水素排出口26には排気管(不図示)を連接し、さらに三方バルブで窒素ボンベ(不図示)と質量分析器(不図示)につないだ。カソード室20は、700℃の水蒸気を供給する高温水蒸気配管(不図示)と連接し、アノード室40は、還元性ガスとしてのメタンCHを供給するガス導入管(不図示)と連接した。
【0053】
先ず窒素ボンベから窒素を水素分離膜22内に注入し、窒素で置換した。続いて、ガス導入管からアノード室40にメタンを、高温水蒸気配管からカソード室20に水蒸気を供給して、700℃において、電気回路50よりアノード14及びカソード12に0.2Vの電圧を印加して6Aの直流電力を供給することによって高温水蒸気電解を行った。この状態で、水素分離膜22内と質量分析器とをつなぐ三方バルブを開けて、質量分析器にガスを導入してガス分析を行った。その結果、水素が存在し、水蒸気は無いことが確認できた。
【0054】
[比較例]
次に、図8に示すように、上記実施例と比較するための比較例として、水素分離膜22に代えて先端も開口した金属製の管である排気管82を設置した水素製造装置8を用いて、上記実施例と同様の測定を行った。その結果、水素が製造されるが、水素と水蒸気の混合ガスとして排気されることが確認された。また、6Aの電流を流すためにはカソード12とアノード14との間に印加した電圧は0.4Vと、本発明に係る水素製造装置7に較べて電圧が高くなることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る水素製造装置の構成を説明する模式的断面図である
【図2】本発明に係る水素製造装置の模式的断面図であり、併せて、カソードの各位置における水素分圧をグラフで示す。
【図3】水素製造装置の構成例を説明する模式図である。チューブ状に形成された隔膜の外側にカソードを、内側にアノードを配置し、水蒸気の下流側にチューブ状の水素分離膜を設置した水素製造装置を示している。
【図4】水素製造装置の構成例を説明する模式図である。図3に示す水素製造装置の変形で、チューブ状に形成した電解セル部の周囲に、チューブ状に形成した水素分離膜をらせん状に配置した。
【図5】水素製造装置の構成例を説明する模式図である。チューブ状に形成された隔膜の外周に円筒形のアノードを、内周に円筒形のカソードを配置した。
【図6】図1に示す水素製造装置で製造された水素ガスを用いて発電を行う燃料電池発電装置を説明するブロック図である。
【図7】実施例として用いた水素製造装置を説明する断面図である。
【図8】比較例として用いた水素製造装置を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1〜5 水素製造装置
6 燃料電池発電装置
10 隔膜
12 カソード
14 アノード
20 カソード室
22 水素分離膜(部材)
24 水蒸気導入口
26 水素排出口
27 カソード室
30 容器
31 端面
32 外壁
34 還元性ガス導入口
36 排ガス排出口
37 流路
38 還元性ガス管
40 アノード室
42 端面
44 排ガス集積路
44 排ガス集積路排出口
50、52 電気回路
54 電源
55、57 スイッチ
56 DC/ACコンバータ
60 燃料電池
62 固体高分子電解質膜
64 燃料極
66 空気極
70 熱交換器
72 改質装置
74 ガス化装置
82 排気管
D 還元性ガス
E 排ガス
h 水素
O 空気
S 水蒸気(水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と還元性ガスとを導入して水素を製造する水素製造装置であって:
前記水を水素と酸素に電気分解するカソードと;
前記還元性ガスと前記酸素とを反応させるアノードと;
前記カソードで電気分解される前記水を収容するカソード室と、前記アノードで前記酸素と反応する前記還元性ガスを収容するアノード室との間に配置され、該カソード室と該アノード室とを画定する隔膜と;
前記電気分解された水素を前記水と分離する水素分離部材とを備える;
水素製造装置。
【請求項2】
前記水素分離部材が、膜で構成される;
請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記隔膜がチューブ状に形成されている;
請求項1または請求項2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記カソード室で、前記水は所定方向に流れ;
前記アノード室で、前記還元性ガスは所定方向に流れ;
前記水と前記還元性ガスとが、対向流である;
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記カソードと前記アノードとの間で発電する;
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項6】
水を導入する工程と;
還元性ガスを導入する工程と;
前記水を水素と酸素に電気分解する工程と;
前記水素を前記水から分離して除去する工程と;
前記還元性ガスと前記酸素とを反応させる工程とを備える;
水素製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の水素製造装置と;
前記製造された水素を導入し、発電を行う燃料電池とを備える;
燃料電池発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−270256(P2007−270256A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97236(P2006−97236)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】