説明

水素製造装置

【課題】 亜硫酸電解器の水素製造効率を向上させる。
【解決手段】 固体高分子電解質膜1の上側にカソード側給電体2とカソード側セパレータ4を積層し、固体高分子電解質膜1の下側に、アノード側給電体3とアノード側セパレータ5を積層する。カソード側流路11を、上流側より下流側にかけて流路高さ寸法が徐々に増大するよう構成する。カソード側流路11に硫酸水溶液を供給し、アノード側流路13に水と二酸化硫黄を供給した状態で各給電体2、3に通電して、アノード側では水素イオンと硫酸イオンとを発生させて電子を奪う一方、カソード側では固体高分子電改質膜1を通過した水素イオンに電子を与えて水素を発生させ、この水素の気泡を、カソード側流路11内で浮上させてカソード側給電体2より離脱させると共に、カソード側流路11の下流側の高さ寸法が増加する部分へ受け入れることで、カソード側流路11内での滞留を防止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄系熱化学−電気化学併用法による水素製造手法で使用される亜硫酸電解器のように、二酸化硫黄と水から水素と硫酸を製造する形式の水素製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の問題や、環境問題等の観点から、水素は、直接燃焼させても水しか発生しないクリーンな燃料として、及び、燃料電池用の燃料として着目されてきている。
【0003】
水素を製造するための手法としては、炭化水素系の燃料を分解して水素を製造することが一般的に知られているが、この場合には、水素の製造に伴われてCOが発生してしまう。そこで、水素を製造するための別の手法として、熱や電気を用いて水を電気分解することで、COの発生を伴うことなく水素を製造する熱化学水素製造方法が考えられている。
【0004】
この種の熱化学水素製造方法の一つとしては、米国のウエスチングハウス(Westinghouse)社により提案された手法がある。これは、基本的に硫黄系熱化学−電気化学併用法(sulfuric acid hybrid process)に属するもので、亜硫酸水溶液電気分解(二酸化硫黄と水から水素と硫酸を生成する反応)と、硫酸熱分解(硫酸を分解して水と二酸化硫黄と酸素を生成する反応)とを組み合わせた以下の3つのプロセスにより水素及び酸素を生成する手法である。
【0005】
(1)亜硫酸水溶液電気分解 2HO+SO → HSO+H
(2)硫酸水溶液沸騰 HSO → HO+SO
(3)硫酸ガス(三酸化硫黄)熱分解 SO → SO+1/2O
したがって、上記(1)式、(2)式、(3)式の反応を順次行わせることにより、硫黄成分は閉じた系内を形態を変えて循環するのみで増減は無く、原料として水を供給し、該水の電気分解反応を進行させて、水素と酸素を製造して取り出すことができるとされている。
【0006】
なお、上記3つのプロセスのうち、最も高い温度が必要とされるのは、上記(3)式の硫酸ガス熱分解の反応であり、約800℃という高温の温度が要求される。
【0007】
そこで、近年では、上記硫黄系熱化学−電気化学併用法による水素製造方法における上記(3)式の硫酸ガス熱分解の過程を、酸素イオン伝導性に優れる固体電解質を利用した電気分解に置換することで、水素製造プロセス全体を、高速増殖炉(FBR)の冷却材温度である550℃以下で実施可能とすることにより、高速増殖炉の排熱と電力とを利用して、水素の製造を行うことができるようにしたハイブリッド熱化学法も提案されてきている。
【0008】
上記ハイブリッド熱化学法を実施するための装置構成は、図4に示す如く、主要機器として、亜硫酸(水)電解器、硫酸加熱器、SO電解器、SO吸収器とを具備した構成とされている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0009】
ところで、燃料電池の分野では、水素を燃料ガスとして、高効率で電力を得るための研究開発が進められてきている。この燃料電池において水素を燃料ガスとして電力を得る反応は、水の電気分解による水素製造とは可逆的な関係にある。このことに鑑みて、近年、効率よく水を電気分解して水素を製造できるようにするための水素製造装置として、図5に示す如きものが提案されてきている。
【0010】
すなわち、図5に示す水素製造装置は、両面に図示しない触媒電極層を備えた固体高分子電解質膜1と、その両側に相対向して設けられたカソード側給電体2及びアノード側給電体3と、該各給電体2,3にそれぞれ積層されたカソード側セパレータ4及びアノード側セパレータ5とを備えて、セル構造単位である単セル6を形成してある。更に、複数の上記単セル6を相互に積層して、絶縁部材7を介してエンドプレート8に挟持させると共に、エンドプレート8に挿通されたボルト9にナット10を螺着して締め付けることで固定した構成としてある。
【0011】
上記カソード側セパレータ4は、カソード側給電体2側の面部に、該カソード側給電体2が露出されたカソード側流路(流体通路)11と、該カソード側流路11の片方の端部に連通する水素取出口12とを備えた構成としてある。アノード側セパレータ5は、アノード側給電体3側の面部に、該アノード側給電体3が露出されたアノード側流路(流体通路)13と、該アノード側流路13の一方の端部に連通するアノード側流路入口としての給水口14と、アノード側流路13の他方の端部に連通するアノード側流路出口としての排水口15とを備えている。
【0012】
上記給水口14は、その上流側端部を分岐させて、上記積層配置された各単セル6における給水口14同士が接続してある。又、上記排水口15は、その下流側端部を分岐させて、各単セル6の排水口15同士が接続してある。これにより、給水は給水口14から各単セル6のアノード側流路13に並列に行われ、該各アノード側流路13へ供給された水(HO)は、合流して排水口15から排出されるようにしてある。
【0013】
更に、上記水素取出口12は、出口側端部を分岐させて、各単セル6の水素取出口12同士が接続してある。
【0014】
以上の構成としてある水素製造装置によれば、前述のように給水口14から各アノード側セパレータ5のアノード側流路13へ水(HO)を供給すると共に、上記カソード側とアノード側の各給電体2,3に通電すると、アノード側流路13に供給された水(HO)が、固体高分子電解質膜1のアノード側の触媒電極層で電気分解されて、水素イオン(H)、電子(e)、酸素(O)が生成される(なお、それぞれの係数の記載は省略してある。以下同様とする。)。その後、上記水素イオン(H)は、水分子を伴って固体高分子電解質膜1を透過してカソード側に移動し、カソード側の触媒電極層から電子(e)を受け取って水素(H)となる。しかる後、上記水素(H)は、カソード側給電体2を通ってカソード側セパレータ4のカソード側流路11へ移動し、該カソード側流路11に連通している水素取出口12から取り出されるようにしてある。一方、各アノード側セパレータ5のアノード側流路13からは、上記電気分解によって生成した酸素(O)を含む水(HO)が排水口15を経て排出されるようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0015】
【特許文献1】特開2006−307248号公報
【非特許文献1】中桐俊夫、「ハイブリッド法による水素製造技術開発」、動力エネルギーシステム部門ニュースレター、日本機械学会 動力エネルギーシステム部門、2005年10月25日、第31号、p.6−7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところが、従来の硫黄系熱化学−電気化学併用法を基本とする水素製造方法で使用される水素製造装置である亜硫酸電解器については、図4に示したように、単に、亜硫酸(HSO)を電気分解する考えが示されているのみであって、水素製造効率を高めるための提案は特になされていないというのが実状である。
【0017】
そこで、本発明者は、上記図5に示したような固体高分子電解質膜1と、その両側に相対向して設けられたカソード側給電体2と、アノード側給電体3と、該各給電体2,3にそれぞれ積層されたカソード側セパレータ4及びアノード側セパレータ5とからなるセル構造を備えた形式の水素製造装置を、前述した硫黄系熱化学−電気化学併用法を基本とする水素製造方法で使用される亜硫酸電解器に応用することを考えた。
【0018】
具体的には、図6に示す如く、固体高分子電解質膜1と、その両側に相対向して設けられたカソード側給電体2と、アノード側給電体3と、該各給電体2,3にそれぞれ積層されたカソード側セパレータ4、アノード側セパレータ5とからなるセル構造におけるカソード側セパレータ4のカソード側流路11の一方の端部に、カソード側流路入口16を設けると共に、他方の端部に、カソード側流路出口17を設け、更に、アノード側セパレータ5のアノード側流路13の一方の端部に、アノード側流路入口18を設けると共に、他方の端部に、アノード側流路出口19を設けて、水素製造装置としての亜硫酸電解器Iを構成する。なお、上記カソード側給電体2及びアノード側給電体3としては白金を用いるようにしてある。又、図示してないが、上記カソード側セパレータ4とアノード側セパレータ5は、所要の挟持手段により一体に挟持するようにしてある。
【0019】
そして、上記カソード側流路入口16よりカソード側流路11へ水(HO)と、該水(HO)に電解質を添加して通電を行い易くさせるための硫酸(HSO)とからなる硫酸(HSO)水溶液を供給すると共に、アノード側流路入口18よりアノード側流路13へ水(HO)と二酸化硫黄(亜硫酸ガス:SO)とを供給し、この状態で上記カソード側とアノード側の各給電体2,3に通電することにより、上記アノード側では、二酸化硫黄(SO)と水(HO)とから、水素イオン(H)、硫酸イオン(SO2−)、電子(e)を生成させて、該電子(e)が触媒電極層に奪われるようにし、これにより、アノード側セパレータ5のアノード側流路出口19からは、生成した水素イオン(H)と硫酸イオン(SO2−)とからなる硫酸(HSO)が排出されるようにする。
【0020】
上記アノード側で生成された水素イオン(H)のうち、硫酸イオン(SO2−)と対応する量以上の余剰の水素イオン(H)は、固体高分子電解質膜1を透過してカソード側に移動させて、カソード側の触媒電極層から電子(e)を受け取らせて水素(H)とさせ、この水素(H)が、カソード側給電体2を通ってカソード側セパレータ4のカソード側流路11へ移動するようにして、該カソード側流路11に連通しているカソード側流路出口17から、上記生成した水素(H)を、カソード側流路11へ供給している硫酸(HSO)と共に取り出すようにすることを試みた。
【0021】
しかし、上記図6に示した構成を有する亜硫酸電解器Iを用いて本発明者が実施した試験では、水素製造効率をあまり高めることができないというのが実状であった。
【0022】
そのため、本発明者は、水素製造効率を向上させるための更なる工夫、研究を重ねた結果、上記図6に示した如き構成の亜硫酸電解器Iで水素製造効率をあまり高めることができないのは、カソード側セパレータ4のカソード側流路11内で水素(H)がガスとして生成されるため、カソード側流路11内に水素(H)の気泡が生じ、この気泡がカソード側流路11内に滞留することによって、カソード側流路11に供給している上記硫酸水溶液の流通が阻害されると共に、該硫酸水溶液のカソード側給電体2に対する接触が阻害されて通電が妨げられていることに主因があることを見出した。
【0023】
そこで、上記カソード側セパレータ4のカソード側流路11内にて、水素(H)の気泡が滞留する虞を未然に防止すれば、水素製造効率を更に向上できることを見出して、本発明をなした。
【0024】
したがって、本発明の目的とするところは、硫黄系熱化学−電気化学併用法を基本とする水素製造手法で使用される亜硫酸電解器のような水素製造装置において、効率よく水素を製造することができる水素製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、固体高分子電解質膜の上側に設けたカソード側給電体の上側に、カソード側セパレータを積層し、上記固体高分子電解質膜の下側に設けたアノード側給電体の下側に、アノード側セパレータを積層し、且つ上記カソード側セパレータは、カソード側給電体側となる下面部に、電解質を含んだ水を供給するための上記カソード給電体が露出されたカソード側流路を備えてなる構成とすると共に、上記アノード側セパレータは、アノード側給電体側となる上面部に、水と二酸化硫黄を供給するための上記アノード側給電体が露出されたアノード側流路を備えてなる構成を有する水素製造装置とする。
【0026】
又、上記構成におけるカソード側セパレータのカソード側流路を、上流側の流路断面積に比して、下流側の流路断面積が漸次増加する構成とする。
【0027】
更に、上記構成におけるカソード側セパレータのカソード側流路を、上流側の流路高さ寸法に比して、下流側の流路高さ寸法が漸次増加する構成とする。
【0028】
上述の各構成におけるアノード側セパレータのアノード側流路を、上流側の流路高さ寸法に比して、下流側の流路高さ寸法が漸次減少する構成とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の水素製造装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)固体高分子電解質膜の上側に設けたカソード側給電体の上側に、カソード側セパレータを積層し、上記固体高分子電解質膜の下側に設けたアノード側給電体の下側に、アノード側セパレータを積層し、且つ上記カソード側セパレータは、カソード側給電体側となる下面部に、電解質を含んだ水を供給するための上記カソード給電体が露出されたカソード側流路を備えてなる構成とすると共に、上記アノード側セパレータは、アノード側給電体側となる上面部に、水と二酸化硫黄を供給するための上記アノード側給電体が露出されたアノード側流路を備えてなる構成としてあるので、上記カソード側流路へ電解質を加えた水とを供給し、アノード側流路へ水と二酸化硫黄とを供給した状態で、上記カソード側給電体とアノード側給電体に通電すると、上記アノード側では、水と二酸化硫黄から、水素イオン、硫酸イオン、電子が生成される一方、カソード側では、上記固体高分子電解質膜を透過した上記水素イオンが電子を受け取ることで水素とされる。これにより、カソード側流路より、上記水素を、電解質を含んだ水と共に回収できる。アノード側流路からは、生成した水素イオンと硫酸イオンとからなる硫酸を回収できる。
(2)しかも、上記カソード側セパレータは、カソード側給電体の上側に配置してあるため、カソード側で上記生成する水素を、カソード側流路へ供給されている電解質を含んだ水中にて速やかに浮上させて、該カソード側流路内の上部に移動させることができる。これにより、上記水素の気泡を、速やかにカソード側給電体から引き離すことができるため、上記カソード側流路に露出されたカソード側給電体と、上記電解質を含んだ水との接触性が高められる。
(3)したがって、カソード側流路内での水素の気泡が発生することにより、カソード給電体側での通電が妨げられる虞を未然に防止できるため、水素製造効率の向上化を図ることが可能になる。
(4)カソード側セパレータのカソード側流路を、上流側の流路断面積に比して、下流側の流路断面積が漸次増加する構成、より具体的には、上記カソード側流路を、上流側の流路高さ寸法に比して、下流側の流路高さ寸法が漸次増加する構成とすることにより、上記カソード側流路の上流側から下流側へ行くにしたがって、発生した水素が集められて該水素の量が徐々に多くなっても、この水素の増加分を、上記カソード側流路における流路高さ寸法が増加して流路断面積が増加する部分に受け入れて下流側へ送ることができる。これにより、上記カソード側流路内にて上記水素の気泡の滞留する虞を未然に防止することができて、該カソード側流路に供給している電解質を含んだ水の流通が阻害される虞を未然に防止できることから、水素製造効率の更なる向上化を図ることができる。
(5)アノード側セパレータのアノード側流路を、上流側の流路高さ寸法に比して、下流側の流路高さ寸法が漸次減少する構成とすることにより、アノード側流路に供給する水と二酸化硫黄のうち、二酸化硫黄が該アノード流路を上流側から下流側へ移動する間に消費されて、容積が減少するのに応じて、上記アノード側流路の高さ寸法を減少させて流路断面積を減少させることができるため、該アノード側流路へ供給される水と二酸化硫黄の流通や、アノード側で生成する硫酸のアノード側流路内における流通を、より良好に行わせることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0031】
図1(イ)(ロ)は本発明の水素製造装置の実施の一形態として、硫黄系熱化学−電気化学併用法を基本とする水素製造手法で使用される水素製造装置としての亜硫酸電解器を示すもので、以下のような構成としてある。
【0032】
すなわち、図6に示したと同様に、両面に図示しない触媒電極層を備えた固体高分子電解質膜1と、その両側に相対向して設けられたカソード側給電体2及びアノード側給電体3と、該各給電体2,3にそれぞれ積層されたカソード側セパレータ4及びアノード側セパレータ5とを備えてなるセル構造を有し、且つ上記カソード側セパレータ4のカソード側給電体2側の面部に、該カソード側給電体2を露出させたカソード側流路11を備え、上記アノード側セパレータ5のアノード側給電体3側の面部に、該アノード側給電体3を露出させたアノード側流路13を設けてなる構成において、水(HO)と二酸化硫黄(SO)を供給するためのアノード側流路13を備えたアノード側セパレータ5を、固体高分子電解質膜1とアノード側給電体3の下側に設け、又、生成する水素(H)を回収するためのカソード側流路11を備えたカソード側セパレータ4を、固体高分子電解質膜1とカソード側給電体2の上側に設けるよう、上記セル構造を、水平方向に配置する。
【0033】
更に、上記カソード側セパレータ4のカソード側流路11を、図1(ロ)に示す如く、カソード側流路入口16寄り位置における流路断面積に比して、カソード側流路出口17寄り位置に行くにしたがって、流路断面積が拡大されるようにした構成とする。
【0034】
より具体的には、上記カソード側流路11が、図1(イ)に示す如く、全長に亘りほぼ同様の幅寸法を有するようにし、且つ図1(ロ)に示す如く、該カソード側流路11にて、カソード側流路入口16寄り位置における上流側流路高さ寸法aに比して、カソード側流路出口17寄りの位置における下流側流路高さ寸法bの方が大となるように、カソード側流路11の上流側から下流側へ行くにしたがって、流路高さ寸法が漸次増加するようにしてある。
【0035】
上記図1(イ)(ロ)に示した亜硫酸電解器では、カソード側流路11のカソード側流路入口16と、アノード側流路13のアノード側流路出口19を、又、カソード側流路11のカソード側流路出口17と、アノード側流路13のアノード側流路入口18を、それぞれ対応する位置に設けることで、カソード側流路11内の流体の流れと、アノード側流路13内の流体の流れを、対向流とさせることができるようにしてある。
【0036】
なお、上記図1(ロ)では、上記カソード側流路11の流路高さ寸法を上流側から下流側へ行くにしたがって増加させる場合に、上流部、中流部、下流部に分けて3段階に変化させる場合の例を示したが、上記カソード側流路11の流路長等に応じて、高さ寸法を2段階や4段階以上に変化させるようにしてもよい。更には、図2に示すように、カソード側流路11の高さ寸法を、上流側から下流側へ行くにしたがって連続的に増加させるようにしてもよい。
【0037】
以上の構成としてある亜硫酸電解器を使用する場合には、上記カソード側流路入口16よりカソード側流路11へ水(HO)と、該水(HO)に電解質を添加して通電を行い易くさせるための硫酸(HSO)とからなる硫酸(HSO)水溶液を供給すると共に、アノード側流路入口18よりアノード側流路13へ水(HO)と二酸化硫黄(亜硫酸ガス:SO)とを供給し、この状態で上記カソード側とアノード側の各給電体2,3に通電する。これにより、上記アノード側では、二酸化硫黄(SO)と水(HO)とから、水素イオン(H)、硫酸イオン(SO2−)、電子(e)が生成されて、該電子(e)が触媒電極層に奪われるようになる。この際、上記アノード側セパレータ5は、アノード側給電体3の下側に配置してあるために、該アノード側セパレータ5のアノード側流路13内では、供給される水(HO)と二酸化硫黄(SO)のうち、ガスである二酸化硫黄(SO)が上方に位置するようになる。このため、上記アノード側流路13内にて、二酸化硫黄(SO)と水(HO)とから、水素イオン(H)、硫酸イオン(SO2−)、電子(e)が生成されて、該電子(e)が触媒電極層に奪われる反応が進行するにしたがって、上記二酸化硫黄(SO)が消費されて量が次第に少なくなる過程でも、該二酸化硫黄(SO)と上記アノード側給電体3との接触性が良好に保持される。よって、上記二酸化硫黄(SO)と水(HO)とから、水素イオン(H)、硫酸イオン(SO2−)、電子(e)が生成されて、該電子(e)が触媒電極層に奪われる反応が、アノード側流路13の上流側から下流側へかけて良好に継続されて行われる。その後、アノード側セパレータ5のアノード側流路出口19からは、生成した水素イオン(H)と硫酸イオン(SO2−)とからなる硫酸(HSO)が排出されるようになる。
【0038】
上記アノード側で生成された水素イオン(H)のうち、硫酸イオン(SO2−)と対応する量以上の余剰の水素イオン(H)は、固体高分子電解質膜1を透過してカソード側に移動されて、カソード側の触媒電極層から電子(e)を受け取ることで水素(H)とされ、この水素(H)が、カソード側給電体2を通ってカソード側セパレータ4のカソード側流路11へ移動する。この際、上記カソード側セパレータ4は、カソード側給電体2の上側に配置してあるために、上記生成したガスである水素(H)は、カソード側流路11へ供給されている硫酸(HSO)水溶液中を速やかに浮上させられて、該カソード側流路11内の上部に移動させられる。これにより、上記水素(H)の気泡は、速やかにカソード側給電体2から引き離されるようになることから、上記カソード側流路11に露出されているカソード側給電体2と、上記硫酸(HSO)水溶液との接触性が高められる。更に、上記カソード側流路11の上流側から下流側へ行くにしたがって、発生した水素(H)が集められることで、該水素(H)の量が徐々に多くなるが、上記カソード側流路11は、上流側より下流側へ行くにしたがって流路高さ寸法が次第に増加するようにしてあるため、上記水素(H)の増加分を、上記カソード側流路11における流路高さ寸法が増加する部分に受け入れて下流側へ送ることができる。よって、上記カソード側流路11内における上記水素(H)の気泡の滞留が未然に防止された状態で、該カソード側流路11に連通しているカソード側流路出口17から、上記生成された水素(H)が、カソード側流路11へ供給している硫酸(HSO)と共に取り出されるようになる。
【0039】
このように、上記亜硫酸電解器によれば、水素(H)を製造する際、カソード側流路11内に水素(H)の気泡が滞留する虞を未然に防止することができるため、カソード側流路11に供給している上記硫酸水溶液の流通自体が阻害される虞や、該硫酸水溶液のカソード側給電体2に対する接触が阻害されて通電が妨げられる虞を未然に防止できて、水素製造効率の向上化を図ることができる。
【0040】
次に、図3は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1(イ)(ロ)に示したものと同様の構成において、アノード側セパレータ5に設けるアノード側流路13を、全長に亘って同じ流路高さ寸法を有するようにした構成に代えて、アノード側流路13の流路高さ寸法が、アノード側流路入口18寄りの位置における上流側流路高さ寸法cに比して、アノード側流路出口19寄りの位置における出口側流路高さ寸法dの方が小さくなるように、アノード側流路13の上流側から下流側へ行くにしたがって、流路高さ寸法が漸次減少するようにしたものである。
【0041】
なお、上記図3では、上記アノード側流路13の流路高さ寸法を上流側から下流側へ行くにしたがって減少させる場合に、上流部、中流部、下流部に分けて3段階に変化させる場合の例を示したが、上記アノード側流路13の流路長等に応じて、高さ寸法を2段階や4段階以上に変化させるようにしてもよい。更には、流路高さ寸法を、上流側から下流側へ行くにしたがって連続的に減少させるようにしてもよい。
【0042】
その他の構成は図1(イ)(ロ)に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0043】
本実施の形態によっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。更に、アノード側流路13に供給する水(HO)と二酸化硫黄(SO)のうちの二酸化硫黄(SO)が、該アノード流路13を上流側から下流側へ移動する間に消費されて、ガスの容積が減少するのに応じて、上記アノード側流路13の高さ寸法を減少させて流路断面積を減少させることができるため、該アノード側流路13へ供給される水(HO)と二酸化硫黄(SO)や、アノード側で生成する硫酸(HSO)のアノード側流路13内における流通をより良好に行わせることが可能になる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、カソード側セパレータ4に設けるカソード側流路11と、アノード側セパレータ5に設けるアノード側流路13の流路幅寸法、流路高さ寸法、流路の経路は、適宜変更してもよい。
【0045】
固体高分子電解質膜1と、その両側に相対向して設けられたカソード側給電体2及びアノード側給電体3と、該各給電体2,3にそれぞれ積層されたカソード側セパレータ4及びアノード側セパレータ5とを備えてなるセル構造を、複数層に積層して一体化してなる構成としてもよい。
【0046】
カソード側流路11における流体の流通方向と、アノード側流路13における流体の流通方向とは、水素製造効率の観点からすると対向流とすることが好ましいが、平行流としてもよい。
【0047】
二酸化硫黄と水から水素と硫酸を製造する形式の水素製造装置であれば、硫黄系熱化学−電気化学併用法による水素製造手法で使用される亜硫酸電解器以外の水素製造装置にも適用してよい。その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の水素製造装置の実施の一形態としての亜硫酸電解器を示すもので、(イ)は概略切断平面図、(ロ)は(イ)のA−A方向矢視図である。
【図2】本発明の実施の他の形態として、図1の水素製造装置の変形例を示す図1(ロ)に対応する図である。
【図3】本発明の実施の更に他の形態を示す図1(ロ)に対応する図である。
【図4】従来提案されているハイブリッド熱化学法を実施するための装置構成を示す図である。
【図5】従来提案されている水を電気分解して水素を製造するための水素製造装置を示す概要図である。
【図6】本発明者が当初考えた亜硫酸電解器の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
I 亜硫酸電解器(水素製造装置)
1 固体高分子電解質膜
2 カソード側給電体
3 アノード側給電体
4 カソード側セパレータ
5 アノード側セパレータ
11 カソード側流路
13 アノード側流路
16 カソード側流路入口
17 カソード側流路出口
18 アノード側流路入口
19 アノード側流路出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の上側に設けたカソード側給電体の上側に、カソード側セパレータを積層し、上記固体高分子電解質膜の下側に設けたアノード側給電体の下側に、アノード側セパレータを積層し、且つ上記カソード側セパレータは、カソード側給電体側となる下面部に、電解質を含んだ水を供給するための上記カソード給電体が露出されたカソード側流路を備えてなる構成とすると共に、上記アノード側セパレータは、アノード側給電体側となる上面部に、水と二酸化硫黄を供給するための上記アノード側給電体が露出されたアノード側流路を備えてなる構成としたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
カソード側セパレータのカソード側流路を、上流側の流路断面積に比して、下流側の流路断面積が漸次増加する構成とした請求項1記載の水素製造装置。
【請求項3】
カソード側セパレータのカソード側流路を、上流側の流路高さ寸法に比して、下流側の流路高さ寸法が漸次増加する構成とした請求項2記載の水素製造装置。
【請求項4】
アノード側セパレータのアノード側流路を、上流側の流路高さ寸法に比して、下流側の流路高さ寸法が漸次減少する構成とした請求項1、2又は3記載の水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−223098(P2008−223098A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64165(P2007−64165)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】