説明

水素貯蔵のための高容量安定化錯体水素化物

Al(BH上への錯体水和物は、1種または2種以上の追加の金属元素または有機付加物の存在によって安定化され、高容量水素貯蔵材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省により与えられた契約番号DE−AC09−08SR22470の下の政府のサポートでなされた。政府は本発明にある程度の権利を有する。
【0002】
関連出願への参照
本願は、2009年7月9日に出願された米国仮特許出願第61/270、511号明細書の利益を主張し、その全内容を参照により本明細書中に取り込む。
【0003】
本発明は、水素貯蔵のための材料に関する。特に、本発明は、水素貯蔵のための錯体水素化物に関する。本発明はまた、水素貯蔵に有用な安定化された高容量錯体水素化物に向けられている。本発明は、さらに安定化された高容量錯体水素化物を製造するための方法および工程に向けられており、そうした工程および方法論は、安定化された高容量錯体水素化物の製造の経済的およびより安全な技術に向けられている。
【背景技術】
【0004】
本発明は、部分的に水素サイクルのための安定な水素容量を形成するために使用できる金属水素化物および錯体水素化物に関する。水素貯蔵容量、脱水素化温度、および水素収着および脱着サイクルの可逆性に関して金属および錯体水素化物の改善への必要性がある。例えば、独自の金属水素化物および錯体金属水素化物を形成させる溶融状態プロセスに向けられている米国特許第7、094、387号明細書に記載にあるように当該技術分野で知られている。しかし、安定化された高容量錯体水素化物を生成するために、技術および生じた材料に向けられた技術における改善と変化のための余地が残っている。
【0005】
現在のところ水素は、5、000〜10、000ポンド/インチの圧力下ビヒクル上で貯蔵される。しかし、これらの貯蔵システムは、容量の観点からは効率的でなく。例えば、10、000ポンド/インチでの水素ガスの貯蔵密度は、たった0.035g/cmであり、これは、水素の2OKの沸点での液体水素の約半分の貯蔵密度である。より高い貯蔵密度にもかかわらず、液体水素は、水素液化貯蔵損失および沸騰による2OKでの短命な休止時間の性で、望ましくない貯蔵形態である。
【0006】
アラネート(例えば、LiAlH、NaAlHおよびKAlH)およびホウ化水素(例えば、LiBH、NaBHおよびKBH)等の錯体金属水素化物は水素の固体状態貯蔵のための材料として有望である。例えば、水素化ホウ素リチウム(LiBH)中で理論上の水素体積貯蔵密度は、約0.12g/cmであり、10、000ポンド/インチにおけるガス状水素の密度の3倍超である。
【0007】
しかし、多くの錯体金属水素化物は、水素貯蔵用途のために不適当である。例えば、Al(BHは、不安定な化合物であり、そしてその蒸気は、微量の湿気のみを含む空気に曝されると自発的に発火する。
【0008】
現在のところ、最も効率的および有用な水素貯蔵材料を決定するために、他の錯体水素化物化合物および材料を用いて、大量の研究が行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
改善された化学的安定性、サイクルにおける安定的な水素容量、および自動車用および他の携帯用電源の要求と適合する高められた動力学的適合性を有する固体状態の水素貯蔵材料への要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、種々の自動車用および携帯用電源用途の搭載水素貯蔵要求を満足させるために向けることのできる改善された化学的安定性および熱力学的特徴を有する錯体金属水素化物化合物を提供する。
【0011】
本発明の錯体化合物は、通常は不安定なAl(BH化合物が、少なくとも1つのBH基、および金属からなる群から選択されたAl以外の少なくとも1種の元素の添加により安定化される組成物を有する。
【0012】
錯体化合物は、組成MX+Al3+(BH3+X、(式中、Mは、金属からなる群から選択されたAl以外の元素であり;そしてxは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数(酸化数)である。)を有することができる。この錯体化合物はまた、組成M1x+M2y+Al3+(BH3+x+y(式中、M1およびM2は、金属からなる群から選択されたAl以外の異なる元素であり;xは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数であり;そしてyは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数である。)を有することができる。
【0013】
錯体化合物はまた、Al(BH:R(式中、Rは有機付加物である。)の組成を有することができる。
【0014】
本発明の安定化された水素化ホウ素アルミニウム錯体化合物は、ルイス塩基反応によって生成できる。錯体化合物は、有機溶媒中で安定化されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の好ましい態様は、以下の図を参照して、詳細に記載される:
【図1】図1は、非溶媒和Al(BHのラマンスペクトルであり、
【図2】図2は、KBH(すなわち、KAl(BH)を使用して安定化された非溶媒和Al(BHを示すX線回折パターンであり、
【図3】図3は、TGおよびDTAの温度に対するプロットにおけるKAl(BHの熱水素貯蔵特性を示し、
【図4】図4は、トリエチレンジアミン(TEDA)とともにトルエン中で溶媒和されたAl(BHの安定化後のX線回折パターンであり、
【図5】図5は、直接合成法を使用して、KBHを使用し安定化されたAl(BHのXRD分析を示し、
【図6】図6は、直接合成法を使用して、LiBHを用いて安定化されたAl(BHのXRD分析を示し、
【図7】図7は、直接形成および溶媒法を使用して、トリエチレンジアミンC12を用いたAl(BHの安定化を示し、
【図8】図8は、本発明の種々の形態を示し、
【図9】図9は、本発明の種々の形態を示し、
【図10】図10は、本発明の種々の形態を示し、
【図11】図11は、本発明の種々の形態を示し、
【図12】図12は、本発明の種々の形態を示し、
【図13】図13は、本発明の種々の形態を示し、
【図14】図14は、本発明の種々の形態を示し、
【図15A】図15Aは、本発明の種々の形態を示し、
【図15B】図15Bは、本発明の種々の形態を示し、
【図16A】図16Aは、本発明の種々の形態を示し、
【図16B】図16Bは、本発明の種々の形態を示し、
【図17A】図17Aは、本発明の種々の形態を示し、
【図17B】図17Bは、本発明の種々の形態を示し、
【図18】図18は、本発明の種々の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の錯体化合物は、非常に不安定な液体の錯体水素化物であるAl(BHに基づく。本発明者らは、Al(BH錯体に1種または2種以上の金属元素および1つまたは2つ以上のBH基を添加すると、Al(BHより高い化学的安定性およびより高い水素貯蔵能力を有する新規な水素化ホウ素アルミニウム錯体化合物となることを見いだした。
【0017】
態様において、錯体化合物は、組成MX+Al3+(BH3+X(式中、Mは、金属からなる群から選択されたAl以外の元素であり;そしてxは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数である。)を有することができる。好ましくは、xは、例えば、1または2である。錯体化合物は、例えば、LiAl(BH、NaAl(BH、MgAl(BHであることができる。
【0018】
他の態様において、錯体化合物は、組成M1x+M2y+Al3+(BH3+x+y(式中、MlおよびM2は、金属からなる群から選択されたAl以外の異なる元素であり;xは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数であり;そしてyは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数である。)を有することができる。好ましくは、例えば、xは1または2であり、そしてyは1または2であり、錯体化合物は、例えば、LiNaAl(BH、LiMgAl(BHであることができる。
【0019】
また他の態様において、錯体化合物は、組成Mlx+M2y+Al3+(BH3+x+y(式中、M1およびM2は、金属からなる群から選択されたAl以外の同一の元素であり;そしてxおよびyは、1、2、3、4、5、6、7または8の異なる原子価数である。)を有することができる。
【0020】
上に記載したように、M、MlおよびM2は、Al以外の金属元素である。Al以外の金属元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類元素、Ga、In、Sn、PbおよびBiを含む。
好ましいアルカリ金属は、Li、NaおよびKを含む。
好ましいアルカリ土類金属は、Mg、Ca、BaおよびSrを含む。
好ましい遷移金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、PtおよびAuを含む。
好ましい希土類元素は、ランタニド系希土類元素である。
ランタニド系希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuを含む。
【0021】
また他の態様において、錯体化合物は、組成Al(BH:R(式中、Rは、有機付加物である。)を有することができる。Rは、アミンまたはホスフィンであることができる。好ましいアミンは、トリメチルアミンおよびトリエチレンジアミン(TEDA)を含む。好ましいホスフィンは、トリメチルホスフィンを含む。
【0022】
本発明の錯体化合物は、不安定な水素化ホウ素アルミニウム(Al(BH)と安定化試薬とを反応させることによって生成できる。
【0023】
本発明の安定化された錯体化合物への第1の合成経路において、非溶媒和Al(BHは、不活性な環境(例えば、商業的化学反応器および/またはシュレンクラインフラスコ)中で、塩化アルミニウム(AlCl)と水素化ホウ素リチウム(LiBH)とを混合させることによって合成される。その粒径を低下させ、そしてAl(BHの収率を高めるために、LiBHを予め粉砕できる。
【0024】
非溶媒和Al(BHの合成を含む本明細書中に記載された反応および合成は、例えば、−50〜600℃、好ましくは0〜400℃の範囲の温度において、0.1〜100時間の範囲の時間で、行うことができる。圧力は、例えば、0〜6000ポンド/インチの範囲で維持されることができる。
【0025】
非溶媒和Al(BHは、次に安定化試薬との安定化反応を受ける。組成MX+Al3+(BH3+Xの錯体化合物を生成させるために、安定化試薬は、金属Mを含む。組成Mlx+M2y+Al3+(BH3+x+yの錯体化合物の生成のために、安定化試薬は、金属MlおよびM2を含む。安定化試薬は、金属形態(例えば、金属性Naおよび金属性K)で、1種または2種以上の金属を含むことができる。安定化試薬は、1種または2種以上の金属の1種または2種以上の化合物をまた含むことができる。金属MlおよびM2の両者は、化合物の1つにあることができ、または別個の化合物にあることができる。安定化試薬は、金属のホウ化水素(例えば、LiBH、KBH、またはMg(BH)または金属のハロゲン化物(例えば、LiCl)等であることができる。
【0026】
組成Al(BH:Rの錯体化合物を生成するために、安定化試薬は、アミン化合物およびホスフィン化合物等の電子供与体配位子を有する有機化合物を含むことができる。アミン化合物の例は、トリメチルアミン(N(CH)およびトリエチレンジアミン(N(CHCHN、TEDA)を含む。ホスフィン化合物の例は、トリメチルホスフィン(P(CH)を含む。
【0027】
過剰非溶媒和Al(BHは、安定化反応中で使用できる。非溶媒和Al(BHのための安定化反応は、例えば、25〜100℃の範囲の温度で、例えば、18〜24時間の範囲の時間の間行うことができる。合成の間、圧力は、例えば、0〜1000psigの範囲で維持されることができる。
【0028】
好ましくは、安定化反応は、不活性環境下で行なわれる。非溶媒和Al(BHの合成のためおよび安定化反応のための不活性環境は、1種または2種以上の不活性ガスを含む。不活性ガスは、He、Ne、Ar、KrおよびXeを含む。好ましくは、不活性なガスは、Arである。
【0029】
安定化試薬としてアルカリ金属(例えば、金属性Naまたは金属性K)を用いる場合、安定化反応は、アルカリ金属の融点以上、かつAl(BHの分解温度未満での温度で行うことができる。そうした条件は、蒸気/液体−液体反応を通して本発明の安定化された錯体化合物の収率を高めることができる。
【0030】
本発明の錯体化合物の形成は、液体Al(BH相の安定化された錯体化合物の固体相への転化によって、目印とすることができる。
【0031】
本発明の安定化された錯体化合物への第2の合成経路において、溶媒和された水素化ホウ素アルミニウム(Al(BH)は、不活性環境(例えば、シュレンクラインフラスコ)中で、非プロトン性溶媒中に溶媒和された塩化アルミニウム(AlCl)と、非プロトン性溶媒と予じめ混合された水素化ホウ素リチウム(LiBH)とを混合することによって合成される。
【0032】
溶媒和されたAl(BHは、次に本発明の安定化された錯体化合物を生成させるために上記の安定化試薬の1種との安定化反応を受ける。
【0033】
非プロトン性溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼンまたはトルエンであることができる。好ましくは、非プロトン性溶媒は、トルエンである。
【0034】
溶媒中でのAl(BHの安定化反応は、不安定なAl(BH反応物のより安全な取り扱い、製品のより高い収率およびより高い純度を可能にする。取り扱いが困難かつ高価である場合がある揮発性中間体の形成を避けることができる。
生成された安定化された錯体化合物は、固体である。微量の溶媒は、真空を適用することによって固体生成物から分離できる。
本発明の安定化された固体水素化ホウ素アルミニウム錯体化合物は、200℃未満の温度において水素を放出できる。
【0035】
本態様の少なくとも1つの他の形態は、AlH基とBH基と化合させて水素貯蔵のための高容量水素化物を提供する方法である。
【0036】
本態様の少なくとも1つのさらなる形態は、トルエンまたはベンゼン等の有機溶媒中に溶解されたAl(BHと反応し、そして次にM(BHの微粉末と反応して、MAl(BH3+x(式中、Mは、水素貯蔵のための高容量水素化物を生成するために、Li、Na、K、またはMgからなる群から選択される。)を形成する方法および生じる生成物を提供することである。
【0037】
本態様の少なくとも1つのさらなる形態は、溶融した金属「M」(ここで、Mは、[MAl(BH3+x]の一般的形態を有する水素貯蔵のための高容量水素化物を生成するために、Li、Na、K、またはMgの群から選択される。)と液体形態またはガス形態のいずれかで、Al(BHとを化合させる反応および生じる生成物を提供することである。
【0038】
本態様の少なくとも1つのさらなる目的は、[MAl(BH3+x]の形態で高容量水素化物水素貯蔵を形成するために、高圧および高温下で、溶融した金属「M」と相互作用する有機溶媒中に溶解されたAl(BHを反応させる、方法および生じる生成物を提供することである。
【0039】
本明細書中に記載された錯体水素化物は、Al(BHの不安定な液体錯体水素化物に基づく。本発明にしたがって、Al(BH錯体に別の元素を加えることによって、さらに安定かつ高容量な、MAl(BH3+x(式中、Mは、金属であり、そしてxは、原子価数である。)の一般式を有する水素化物を形成できることを見いだした。生じた錯体は、水素貯蔵用途のための改善を提供することが見いだされた。さらに、新規な合成技術が、揮発性中間体の生成を回避し、それによって生産の困難性および揮発性中間体の取り扱い費用を低下させることを見いだした。
【0040】
直接生成
出発材料としてのAl(BHの生成は公知であり、そしてLiBHとAlClとを混合させ、そして攪拌および加熱することによって起こる。
3LiBH+AlCl→Al(BH+3LiCl (1)
Al(BHは、加熱および冷却トラッピングにより集められる。
本発明の一つの形態は、水素貯蔵のための高水素容量錯体MAl(BH3+Xを生成させることである。
【0041】
反応は、Al(BHとM(BH(例えば、M=Li、K、Na、Mg)との間で起こり、MAl(BH3+Xを生じる。例として、KAl(BHおよびCaAl(BHの生成のための残余を入れた式は次のようである。
Al(BH+KBH→KAl(BH (2)
Al(BH+Ca(BH→CaAl(BH (3)
【0042】
反応は室温で起こることができるが、複数日の反応時間を必要とするであろう。反応を加速させるために、KBH等の出発粉末をボールミル粉砕によって微細に粉砕する。例えば、KBHを不活性雰囲気下において圧力容器中に充填した。Al(BHを低温においてAl(BH蒸気から圧力容器内で凝結させた。出発材料を圧力容器中で混合させ、そして容器中の圧力が増加する70℃まで加熱した。圧力の増加は、液体状態からガス状態になるAl(BHのみによるものである。
同じ反応は、70℃でAl(BHと溶融したK等の金属との間で次のように生じることがでる:
4/3Al(BH+K(溶融)→KAl(BH+3Al (4)
【0043】
溶媒法:
Al(BH3+xを生成する同じ結果を、純粋な形態の揮発性Al(BHを直接取り扱うことを避ける類似の方法を使用して得ることができる。
【0044】
反応1を、生成物Al(BHトルエン等の溶媒中に溶かした溶液中で行い、そしてLiClをろ過する。次に、溶液をM(BH(例えばM=Li、K、Na、Mg)と反応させることができる。微細に粉砕されたKBH等の反応物を、Al(BHを含む溶媒に加え、沈殿するKAl(BHとなった。
【0045】
反応2は、Al(BHを含む溶媒中で生じることができる:
Al(BH−溶媒(例えば、トルエン)+KBH→KAl(BH (5)
4Al(BH−溶媒(例えば、トルエン)+3K(溶融)→3KAl(BH)4+4Al (6)
Al(BH−TEDA等のAl(BH付加物の生成は同様である:
Al(BH−溶媒(例えば、トルエン)+TEDA→Al(BH−TEDA
ここで、固体としてのAl(BH−TEDA沈殿物は、容易にろ過できる。
生成物は熱重量測定およびX線によって決定される。
【0046】
上記の反応および方法は、錯体金属水素化物が、水素をより低い形態の貯蔵密度に圧縮する好機を提供することを利用するように設計されている。例えば、錯体金属水素化物等の化学的に結合した形式において、水素貯蔵目的のために望まれるより優れた密度を示す。本発明は、LiBH等の水素リッチ化合物の熱力学的特性を変更し、そして改善する高貯蔵体積錯体金属水素化物を提供する。
【0047】
上記の方法および反応生成物は、熱力学的に調整した中間化合物を達成するために、熱力学的により高い安定性のホウ化水素と、より低安定性のアラネートおよび/またはAl−B化合物との化合を利用する。例えば、より電気陰性度の小さいLiおよびLiBHの、M+Xの形態のより電気陰性度の高いカチオンへの置き換えは、生じるTdes値が低くなるB−H結合のより低い結合強度と等しい。同様に、より安定でないAlHのBHへの置き換えは、水素Tdes値の低下をもたらす。
【実施例】
【0048】
例1−非溶媒和Al(BHを使用した合成
Ar雰囲気下のシュレンクラインフラスコ中で1モルの塩化アルミニウム(AlCl)と3モルの非溶媒和水素化ホウ素リチウム(LiBH)とを化合させることによって非溶媒和Al(BH合成した。合成を65℃かつ真空下で3時間行った。LiBHを予め粉砕してその粒径を低下させ、そしてAl(BHの収率を高めた。
図1は、調製された非溶媒和Al(BHでのラマンシフトを示す。
【0049】
密閉しかつ排気された容器中65℃および−14psigで72時間、非溶媒和Al(BHをKBHと反応させてKAl(BHを生成させた。必要な化学量論量の2倍存在するようにして、過剰Al(BHを使用した。
【0050】
図2は、KBHを使用して安定化された非溶媒和Al(BHのX線回折パターンを示す。X線回折パターンは、KAl(BHの存在を示す。
【0051】
図3は、生成されたKAl(BHの熱水素貯蔵特性を示す。114.9℃での4.13wt%の重量損失開始における水素放出が明らかである。
【0052】
例2−溶媒和されたAl(BHを使用した合成
Ar雰囲気下のシュレンクラインフラスコ中で、溶媒和された水素化ホウ素アルミニウム(Al(BH)を、トルエン中の1モルの塩化アルミニウム(AlCl)とトルエン中の3モルの水素化ホウ素リチウム(LiBH)とを化合させることによって合成した。
【0053】
次に、溶媒和されたAl(BHとLiBHまたはTEDAの安定化試薬とを混合することによって、安定化された錯体化合物を調製した。必要とされるより4倍の化学量論の量が存在するように、過剰溶媒和されたAl(BHを使用した。Ar雰囲気下25℃および0psigで8時間安定化反応を行った。LiAl(BHおよびAl(BH:TEDAを安定化反応によって行った。
【0054】
図4は、トリエチレンジアミン(TEDA)を用いて溶媒和されたトルエン中Al(BHの安定化後のX線回折パターンである。#で印を付けた新たな結晶の安定化されたAl(BH:TEDAの形成を見ることができる。脱着後に得られた生成物に*の印を付けた。@で印を付けた購入したTEDAと結果を比較する。
【0055】
図5は、直接合成法を使用しKBHを使用して安定化されたAl(BHのXRD分析を示す。新規な結晶化合物K[Al(BH]の形成が確認される。
【0056】
図6は、直接合成法を使用し、LiBHを用いて安定化されたAl(BHのXRD分析を示す。新規な結晶化合物Li[Al(BH]の形成(下のグラフ)が確認される。
【0057】
図7は、直接生成および溶媒法を使用して、トリエチレンジアミンC12を用いたAl(BHの安定化を示す。(A)溶媒法を使用した過剰TEDA、(B)直接生成を使用した1:1モル化学量論量のTEDAおよび(C)化学量論および過剰TEDAで安定化されたAl(BHの混合物を使用したトリエチレンジアミンを用いたAl(BHの安定化後に得られたX線回折を示す。新規な結晶性Al(BH.xTEDA(式中x=1または2モルである)化合物の形成が得られた。
【0058】
図8〜18は、反応物および反応条件を説明する多くの実験的手順、ならびに有用な錯体水素化物の形成を示す特徴的な手順を記載し、この錯体水素化物は、種々の異なる化学的方法によって製造される。さらに、米国特許第7、094、387号明細書に記述されており、そして参照により本明細書中に取り込まれる材料、反応、および条件はまた、本発明の材料および方法を用いて有用である。
【0059】
本発明の上記の記載は、当業者が同じものを製造し、そして使用できるように、様式および製造方法および使用方法を提供し、これを可能にするものは、当初の記載の一部を補う付属の請求項の主題事項のために特に提供されている。
【0060】
本明細書中で使用される場合、表現「からなる群から選択された」、「から選択された」およびその同類のものは、特定された材料の混合物を含む。「含む」およびその同類のもの等の表現は、本明細書中で使用される場合は、具体的にそうでないと記載しなければ、「少なくとも含む」を意味する限定されない語句である。表現「挙げられる」は、例示的な態様を意味し、そしてある種のものに限定しない。本明細書中で使用される場合、語句「一つ」および「一種」およびその同類のものは、「一つまたは二つ以上の」、「1種または2種以上の」の意味を有する。
【0061】
本明細書中に挙げられたすべての参照文献、特許、出願、試験、基準、文書、出版物、パンフレット、文章、物品等は、参照により本明細書中に取り込まれる。数値的限定または範囲が記載される場合、両端が含まれる。また、すべての値および数値制限または範囲内にあるこれらに準ずる範囲は、明確に除外されない場合、具体的に含まれる。
【0062】
上記の記載は本発明を作り、そして使用することを当業者に可能にするために示され、そして特別な用途およびその要求の内容において提供される。好ましい態様への種々の改変は、当業者に容易に明らかになるであろうし、そして本明細書中に規定された一般的な原理は、本発明の精神および範囲を離れることなく他の態様および用途に適用できるであろう。従って、本発明は、示された態様に限定されることを意図しないが、本明細書中に開示された原理および特徴と一致する最も広い範囲と一致する。この点で、本発明内のある態様は、広いと考えられる本発明の各利益を示さない場合がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成MX+Al3+(BH3+X(式中、Mは、金属からなる群から選択されたAl以外の元素であり、そしてxは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数である。)を有する、錯体化合物。
【請求項2】
該金属が、アルカリ金属からなる群から選択される、請求項1に記載の錯体化合物。
【請求項3】
該アルカリ金属が、Li、NaおよびKからなる群から選択され、そしてxが、1である、請求項2に記載の錯体化合物。
【請求項4】
該金属が、アルカリ土類金属からなる群から選択される、請求項1に記載の錯体化合物。
【請求項5】
該アルカリ土類金属が、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択され、そしてxが、2である、請求項4に記載の錯体化合物。
【請求項6】
錯体化合物を製造する方法であって、該方法が、Al(BHと金属からなる群から選択されたAl以外の元素を含む安定化試薬とを反応させる工程、および、
該請求項1に記載の錯体化合物を生成させる工程を含む、方法。
【請求項7】
該Al(BHが非溶媒和Al(BHであり、そして、
該非溶媒和Al(BHが不活性環境中で、AlClとLiBHとを反応させることによって合成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該Al(BHが、溶媒和されたAl(BHであり、そして、
該溶媒和されたAl(BHが、AlClとLiBHとを非プロトン性溶媒中で反応させることによって、合成される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
組成M1x+M2y+Al3+(BH3+x+y(式中、MlおよびM2は、金属からなる群から選択されたAl以外の異なる元素であり、xは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数であり、そしてyは、1、2、3、4、5、6、7または8の原子価数である。)を有する錯体化合物。
【請求項10】
該金属が、アルカリ金属からなる群から選択される、請求項9に記載の錯体化合物。
【請求項11】
該アルカリ金属が、Li、NaおよびKからなる群から選択され、xが1であり、そしてyが1である、請求項10に記載の錯体化合物。
【請求項12】
該金属が、アルカリ土類金属からなる群から選択される、請求項9に記載の錯体化合物。
【請求項13】
該アルカリ土類金属が、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択され、xが2であり、そしてyが2である、請求項12に記載の錯体化合物。
【請求項14】
錯体化合物の製造方法であって、該方法は、Al(BHと、金属からなる群から選択されたAl以外の元素を含む安定化試薬とを反応させる工程、および、
請求項9に記載の錯体化合物を生成させる工程を含む、方法。
【請求項15】
組成Al(BH:R(式中、Rは有機付加物である。)を有する錯体化合物。
【請求項16】
Rが、アミンおよびホスフィンからなる群から選択される、請求項15に記載の錯体化合物。
【請求項17】
Rが、トリメチルアミン、トリメチルホスフィンおよびトリエチレンジアミンからなる群から選択される、請求項15に記載の錯体化合物。
【請求項18】
錯体化合物を製造する方法であって、該方法は、Al(BHと有機付加物を含む安定化試薬とを反応させる工程、および
請求項15に記載の錯体化合物を生成させる工程を含む、方法。
【請求項19】
該Al(BHが、非溶媒和Al(BHであり、そして、
該非溶媒和Al(BHが、AlClとLiBHとを不活性環境中で反応させることによって合成される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該Al(BHが溶媒和されたAl(BHであり、そして、
該溶媒和されたAl(BHが、AlClと、LiBHとを非プロトン性溶媒中で反応させることによって合成される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
図5に示されたXRDスペクトルを有する式K[Al(BH]の化合物、
図6に示されたXRDスペクトルを有する式Li[Al(BH]の化合物、
図7に示されたX線回折スペクトルを有する式Al(BH.xTEDA〈式中x=1または2)の化合物
の群の化合物から選択された、化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−532825(P2012−532825A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519762(P2012−519762)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/041533
【国際公開番号】WO2011/006071
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(510168508)サバナ リバー ニュークリア ソリューションズ リミティド ライアビリティー カンパニー (2)
【Fターム(参考)】