説明

水素貯蔵材料及びその製造方法

【課題】水との接触に起因する水素貯蔵材料の分解、及び、水素吸蔵・放出特性の劣化を抑制すること。また、水素貯蔵材料の水素の放出開始温度を低下させること。
【解決手段】M1元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第1の水素化物と、M2元素を含む1種又は2種以上の第1の塩化物とを含む水素貯蔵材料及びその製造方法。但し、前記M1元素及び前記M2元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出による地球の温暖化等の環境問題や、石油資源の枯渇等のエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーの実用化に向けて、水素を安全、かつ、効率的に貯蔵、輸送する技術の開発が重要となる。水素の貯蔵方法にはいくつかの候補があるが、中でも可逆的に水素を貯蔵・放出することのできる水素貯蔵材料を用いる方法は、最も安全に水素を貯蔵・輸送する手段と考えられており、燃料電池車に搭載する水素貯蔵媒体として期待されている。
【0003】
水素貯蔵材料としては、活性炭、フラーレン、ナノチューブ等の炭素材料や、LaNi、TiFe等の水素吸蔵合金が知られている。これらの内、水素吸蔵合金は、炭素材料に比べて単位体積当たりの水素密度が高いので、水素を貯蔵・輸送するための水素貯蔵材料として有望視されている。
しかしながら、LaNi5、TiFe等の水素吸蔵合金は、La、Ni、Ti等の希少金属を含んでいるため、その資源確保が困難であり、コストも高いという問題がある。また、従来の水素吸蔵合金は、合金自体の重量が大きいために、単位重量当たりの水素密度が小さい、すなわち、大量の水素を貯蔵するためには極めて重い合金を必要とするという問題がある。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、軽元素を含む水素貯蔵材料の開発が試みられている。これまでに開発されている軽元素を含む水素貯蔵材料としては、
(1) LiNH2、LiBH4等のリチウム(Li)を含む錯体水素化物(例えば、特許文献1、非特許文献1等参照)、
(2) NaAlH4等のナトリウム(Na)を含む錯体水素化物、
(3) Mg(NH2)2等のマグネシウム(Mg)を含む錯体水素化物、
などが知られている。
また、単相の金属間化合物ではなく、複数の相を複合化させることによって、水素吸蔵量を増大させたり、あるいは、水素の吸蔵・放出温度を低下させる試みがなされている。軽元素を含み、かつ、複数の相の複合体からなる水素貯蔵材料としては、LiNH2+LiH、LiBH4+MgH2などが知られている。
また、非特許文献2には、LiNH2+LiHの複合体が分解して水素を放出する際の反応メカニズムが提案されている。同文献には、LiNH2の分解によってNH3が放出され、放出されたNH3がLiHと速やかに反応し、水素が生成すると考えられる点、及び、複合体が相対的に低温で水素を放出するのは、LiHとLiNH2との間の相互作用によると考えられる点、が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特表2002−526658号公報
【非特許文献1】P.Chen、他4名、"Interaction of hydrogen with metal nitrides and imides"、「Nature」、2002年、vol.420/21、p.302-304
【非特許文献2】T.Ichikawa et al., J.Phys.Chem.B, 2004, 108, 7887-7892
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軽元素を含む錯体水素化物は、相対的に重量が軽く、資源確保も比較的容易であり、相対的に低コストである。しかしながら、従来知られている錯体水素化物は、熱的に過度に安定であり、水素を取り出しにくいという欠点をもつ。
また、錯体水素化物は、水と接触すると加水分解し、水素を放出すると同時に、酸化物又は水酸化物を形成しやすい。この傾向は、錯体水素化物が熱的に不安定になるほど(すなわち、水素を放出しやすい錯体水素化物であるほど)、顕著となる。錯体水素化物と水との意図しない接触は、意図しない水素の放出(すなわち、水素ロス)を招く。また、錯体水素化物の酸化又は水酸化は、水素の再吸蔵を極めて困難にさせる原因となる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、水との接触に起因する水素貯蔵材料の分解を抑制することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、水との接触に起因する水素貯蔵材料の水素吸蔵・放出特性の劣化を抑制することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、水素貯蔵材料を熱的に不安定化させ、水素の放出開始温度を低下させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水素貯蔵材料は、M1元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第1の水素化物と、M2元素を含む1種又は2種以上の第1の塩化物とを含む。但し、前記M1元素及び前記M2元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素である。
また、本発明に係る水素貯蔵材料の製造方法の1番目は、M3元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第2の水素化物と、M4元素を含む1種又は2種以上の第2の塩化物とを配合する配合工程と、該配合工程で得られた配合物を、機械的エネルギーを与えながら混合する混合粉砕工程とを備えている。但し、前記M3元素及び前記M4元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素である。
さらに、本発明に係る水素貯蔵材料の製造方法の2番目は、M7元素、ホウ素及び水素からなる1種又は2種以上の第4の水素化物と、M8元素を含む1種又は2種以上の第4の塩化物とを溶媒中に溶解させ、前記溶媒中において、前記第4の水素化物と前記第4の塩化物とを反応させる反応工程と、前記溶媒の全部又は一部を除去する溶媒除去工程とを備えている。但し、前記M7元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素である。また、前記M8元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素であって、前記M7元素とは異なる元素を含む。
【発明の効果】
【0009】
所定の比率で配合された第2の水素化物と第2の塩化物とを、機械的エネルギーを加えながら混合すると、出発原料の混合及び粉砕が進行すると同時に、両者が反応し又は反応することなく、微細な第1の水素化物と微細な第1の塩化物とが均一に分散している水素貯蔵材料が得られる。同様に、所定の比率で配合された第4の水素化物と第4の塩化物とを溶媒中に溶解させ、これらを反応させると、微細な第1の水素化物と微細な第1の塩化物とが均一に分散している水素貯蔵材料が得られる。
得られた水素貯蔵材料は、第1の塩化物によって第1の水素化物が分解促進物質である水から保護されるので、水との接触に起因する特性劣化が抑制される。また、第1の塩化物の組成を最適化すると、第1の水素化物が熱的に不安定となり、水素の放出開始温度が低下する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る水素貯蔵材料は、M1元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第1の水素化物と、M2元素を含む1種又は2種以上の第1の塩化物とを含む。
本発明において、「水素貯蔵材料」とは、貯蔵した水素を放出することができるものをいう。水素貯蔵材料は、水素を放出した後、水素を再吸蔵可能なものであっても良い。
【0011】
「第1の水素化物」とは、M1元素又はそのイオンの回りに水素を含む分子又はイオンが結合した化合物(すなわち、錯体水素化物)であって、M1元素、ホウ素及び水素を含むものをいう。
錯体水素化物を構成する陰イオンは、特に限定されるものではないが、具体的には、[BH4]-、[B1212]2-などがある。
1元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素からなる。
【0012】
第1の水素化物としては、具体的には、LiBH4、NaBH4、Zn(BH4)2、Ti(BH4)3、Zr(BH4)4、(Mg0.5Li0.5)(BH4)1.5、(Zn、Na)BH4などがある。水素貯蔵材料には、これらのいずれか1種の第1の水素化物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、水素貯蔵材料に2種以上の第1の水素化物が含まれる場合、その比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0013】
「第1の塩化物」とは、M2元素を含む塩化物をいう。
2元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素からなる。第1の塩化物に含まれるM2元素は、第1の水素化物に含まれるM1元素と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。また、M2元素とM1元素の組み合わせも特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。
【0014】
第1の塩化物としては、具体的には、NaCl、LiCl、ZnCl2、ZrCl4、TiCl3、MgCl2、(Mg0.25Li0.75)Cl1.25、(Zn、Na)Clなどがある。水素貯蔵材料には、これらのいずれか1種の第1の塩化物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、水素貯蔵材料に2種以上の第1の塩化物が含まれる場合、その比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0015】
第1の水素化物と第1の塩化物の混合比は、特に限定されるものではない。一般に、第1の塩化物の混合比が大きくなるほど、第1の塩化物が持つ保護作用又は触媒作用が高くなる。一方、第2の塩化物の混合比が大きくなりすぎると、水素貯蔵材料全体に含まれる水素量が減少し、単位重量あたりの水素密度が低下する。
相対的に高い保護作用又は触媒作用と、相対的に高い水素密度を得るためには、第1の水素化物と第1の塩化物の混合比(x=第1の塩化物のモル量/第1の水素化物のモル量)は、0.005≦x≦5.0が好ましい。
【0016】
本発明に係る水素貯蔵材料は、上述した一種又は二種以上の第1の水素化物と、一種又は二種以上の第2の塩化物が均一に分散した状態になっている。第1の水素化物及び第2の塩化物の粒径は、特に限定されるものではないが、一般に、これらの粒径が小さくなるほど、水素放出特性に優れた水素貯蔵材料となる。
【0017】
次に、本発明に係る水素貯蔵材料の製造方法について説明する。
本発明の第1の実施の形態に係る水素貯蔵材料の製造方法は、配合工程と、混合粉砕工程とを備えている。
配合工程は、M元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第2の水素化物と、M4元素を含む1種又は2種以上の第2の塩化物とを配合する工程である。
【0018】
第2の水素化物は、M1元素に代えて、M3元素を含む点以外は、第1の水素化物と同様の構成を有している。出発原料である第2の水素化物は、最終生成物である水素貯蔵材料に含まれる第1の水素化物と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
【0019】
すなわち、「第2の水素化物」とは、M3元素又はそのイオンの回りに水素を含む分子又はイオンが結合した化合物(すなわち、錯体水素化物)であって、M3元素、ホウ素及び水素を含むものをいう。
錯体水素化物を構成する陰イオンは、特に限定されるものではないが、具体的には、[BH4]-、[B1212]2-などがある。
3元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素からなる。
【0020】
第2の水素化物としては、具体的には、LiBH4、NaBH4、Zn(BH4)2、Ti(BH4)3、Zr(BH4)4、(Mg0.5Li0.5)(BH4)1.5、(Zn、Na)BH4などがある。出発原料には、これらのいずれか1種の第2の水素化物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、出発原料に2種以上の第2の水素化物が含まれる場合、その比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0021】
第2の塩化物は、M2元素に代えて、M4元素を含む点以外は、第1の塩化物と同様の構成を有している。出発原料である第2の塩化物は、最終生成物である水素貯蔵材料に含まれる第1の塩化物と同一であっても良く、あるいは、異なっていも良い。
【0022】
すなわち、「第2の塩化物」とは、M4元素を含む塩化物をいう。
4元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素からなる。第2の塩化物に含まれるM4元素は、第2の水素化物に含まれるM3元素と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。また、M4元素とM3元素の組み合わせも特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。
【0023】
第2の塩化物としては、具体的には、NaCl、LiCl、ZnCl2、ZrCl4、TiCl3、MgCl2、(Mg0.25Li0.75)Cl1.25、(Zn、Na)Clなどがある。出発原料には、これらのいずれか1種の第2の塩化物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、出発原料に2種以上の第2の塩化物が含まれる場合、その比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0024】
出発原料である第2の水素化物及び第2の塩化物の形態は、特に限定されるものではないが、通常は、粉末を用いる。
また、出発原料として粉末を用いる場合、その粒径は、特に限定されるものではない。一般に、出発原料として粒径の細かい粉末を用いるほど、混合粉砕する際の負荷を軽減することができる。一方、必要以上に細かい粉末を出発原料として用いると、粉末表面が酸化等により被毒されるおそれがある。従って、粉末の粒径は、作業性、コスト、被毒の有無等を考慮して、最適な粒径を選択するのが好ましい。
【0025】
第2の水素化物と第2の塩化物の組み合わせは、特に限定されるものではなく、作製しようとする水素貯蔵材料の組成、要求される特性等に応じて、任意に選択することができる。また、第2の水素化物と第2の塩化物の組み合わせに応じて、これらが後述する混合粉砕工程においてメカノケミカル反応する場合と、反応しない場合とがある。また、2種以上の第2の水素化物を用いる場合において、その組成によっては、これらが反応する場合もある。本発明においては、いずれの組み合わせを用いても良い。
出発原料が反応する可能性がある組み合わせとしては、具体的には、
(1) M3元素とM4元素が異なる場合、
(2) M3元素及び/又はM4元素に二種以上の元素が含まれる場合、
(3) M3元素の異なる二種以上の第2の水素化物を用いた場合、
(4) M4元素の異なる二種以上の第2の塩化物を用いた場合、
などがある。
【0026】
第2の水素化物と第2の塩化物の配合比は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
例えば、第2の水素化物と第2の塩化物が後述する混合粉砕工程において反応しない場合、配合時の組成がほぼ維持された水素貯蔵材料が得られる。すなわち、第2の水素化物に対する第2の塩化物の配合比(y=第2の塩化物のモル量/第2の水素化物のモル量)を0.005≦y≦5.0とすると、第1の水素化物に対する第1の塩化物の混合比xが0.005≦x≦5.0である水素貯蔵材料が得られる。
一方、第2の水素化物と第2の塩化物が反応する場合において、第2の水素化物に対する第2の塩化物の配合比yが化学量論比からずれたとき、又は、反応が途中で停止したときには、反応生成物である第1の水素化物及び第1の塩化物と、未反応原料である第2の水素化物及び/又は第2の塩化物の混合物からなる水素貯蔵材料が得られる。
【0027】
次の、(a)〜(e)式に、反応式の一例を示す。
2NaBH4+ZnCl2→Zn(BH4)2+2NaCl ・・・(a)
2LiBH4+ZnCl2→Zn(BH4)2+2LiCl ・・・(b)
LiBH4+yMgCl2→(Mg、Li)BH4+x(Mg、Li)Cl ・・・(c)
4LiBH4+ZrCl4→Zr(BH4)4+4LiCl ・・・(d)
NaBH4+yZnCl2→(Zn、Na)BH4+x(Zn、Na)Cl ・・・(e)
例えば、(a)式に示すように、NaBH4(第2の水素化物)に対するZnCl2(第2の塩化物)の配合比yが1/2であり、かつ、(a)式の反応を完了させた場合、理想的には、Zn(BH4)2に対するNaCl(第1の塩化物)の混合比xが2である水素貯蔵材料が得られる。一方、配合比yが1/2でない場合、あるいは、(a)式の反応が途中で停止した場合、理想的には、NaCl及びZn(BH4)2に加えて、未反応の出発原料(ZnCl2及び/又はNaBH4)を含む水素貯蔵材料が得られる。他の出発原料を用いる場合も同様である。
【0028】
混合粉砕工程は、配合工程で得られた配合物を、機械的エネルギーを与えながら混合する工程である。
「機械的エネルギーを与えながら混合する」とは、回転、振動、衝撃等を用いて出発原料に機械的応力を与え、粉砕しながら均一に混合することをいう。このような処理をするための方法としては、具体的には、
(1)遊星ボールミル、回転ミル、振動ミル等の粉砕機で原料粉末を混合粉砕する方法(いわゆる、メカニカルグラインディング(MG)処理)、
(2)乳鉢で原料粉末を混合粉砕する方法
などがある。特に、MG処理は、相対的に短時間で配合物の混合粉砕を行うことができるので、処理方法として好適である。
【0029】
混合粉砕は、出発原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、アルゴン雰囲気下、水素雰囲気下など)で行うのが好ましい。
また、混合粉砕の処理時間は、出発原料の均一かつ微細な混合物が得られるように、又は、出発原料の反応が十分に進行するように、処理方法、出発原料の種類、形態等に応じて、最適な処理時間を選択する。一般に、処理時間が長くなるほど、出発原料が微細に粉砕されるので、粉砕された粉末が均一に分散した複合体、あるいは、未反応原料の少ない複合体が得られる。但し、必要以上の処理は、効果に差がなく、実益がない。例えば、遊星ボールミルを用いて混合粉砕する場合において、出発原料として粉末を用いる時には、処理時間は、1〜十数時間が好ましい。
【0030】
混合粉砕により得られた材料は、そのまま水素貯蔵材料として使用しても良く、あるいは、第1の塩化物の一部を除去して使用しても良い。
第1の塩化物を除去する方法としては、
(1) 第1の水素化物の溶解度が相対的に大きく、かつ、第1の塩化物の溶解度が相対的に小さい溶媒(例えば、エーテル、THF(テトラヒドロフラン)など)に水素貯蔵材料を溶解させ、ろ過等により上澄み液を分離し、溶媒を除去する方法、
(2) 第1の水素化物の溶解度が相対的に小さく、かつ、第1の塩化物の溶解度が相対的に大きい溶媒に水素貯蔵材料を溶解させ、ろ過等により沈殿物を分離する方法、
などがある。
また、このようにして得られた水素貯蔵材料は、粉末状態のまま使用しても良く、あるいは、これを適当な大きさに成形した圧粉体の状態で使用しても良い。水素貯蔵材料は、エーテル、THFなどの溶媒が残留しているものでも良い。さらに、粉末の表面を他の材料(例えば、銅などの熱伝導性の良い材料)からなる被膜で被覆し、これを成形して使用しても良い。この場合、被覆方法には、PVD法、CVD法などの物理的方法を用いるのが好ましい。
【0031】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る水素貯蔵材料の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る製造方法は、配合工程と、混合粉砕工程と、分離工程と、混合工程とを備えている。これらの内、配合工程及び混合粉砕工程は、第1の実施の形態に係る製造方法と同様であるので説明を省略する。
【0032】
分離工程は、混合粉砕工程で得られた混合物を溶媒中に溶解させることによって、1種又は2種以上の第3の水素化物を分離・採取する工程である。
「第3の水素化物」とは、混合物に含まれる水素化物であって、M5元素、ホウ素及び水素を含む水素化物をいう。また、M5元素とは、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素をいう。第3の水素化物に関するその他の点については、第2の水素化物と同様であるので、説明を省略する。
第3の水素化物を分離・採取する方法としては、
(1) 第3の水素化物の溶解度が相対的に大きく、かつ、混合物に含まれる塩化物の溶解度が相対的に小さい溶媒(例えば、エーテル、THF(テトラヒドロフラン)など)に混合物を溶解させ、ろ過等により上澄み液を分離し、溶媒を除去する方法、
(2) 第3の水素化物の溶解度が相対的に小さく、かつ、混合物に含まれる塩化物の溶解度が相対的に大きい溶媒に混合物を溶解させ、ろ過等により沈殿物を分離する方法、
などがある。分離・採取した第3の水素化物には、エーテル、THFなどの溶媒が残留していても良い。また、混合物に含まれる塩化物は、完全に除去しても良く、あるいは、一部を除去しても良い。
【0033】
混合工程は、1種又は2種以上の第3の塩化物を、分離・採取された第3の水素化物に加え、これらを混合する工程である。
「第3の塩化物」とは、混合物に含まれていた塩化物とは異なる塩化物であって、M6元素を含むものをいう。また、M6元素とは、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素をいう。第3の塩化物は、第3の水素化物と反応するものであっても良く、あるいは、反応しないものでも良い。第3の塩化物に関するその他の点については、第2の塩化物と同様であるので説明を省略する。
第3の水素化物に対する第3の塩化物の添加量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。また、第3の水素化物と第3の塩化物の混合は、機械的エネルギーを付与しながら混合するものであっても良く、あるいは、実質的に機械的エネルギーを付与することなく混合するものでも良い。混合方法に関するその他の点については、混合粉砕工程と同様であるので、説明を省略する。
【0034】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る水素貯蔵材料の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る製造方法は、反応工程と、溶媒除去工程とを備えている。
反応工程は、M元素、ホウ素及び水素からなる1種又は2種以上の第4の水素化物と、M8元素を含む1種又は2種以上の第4の塩化物とを溶媒中に溶解させ、溶媒中において、第4の水素化物と第4の塩化物とを反応させる工程である。
【0035】
「第4の水素化物」とは、M7元素又はそのイオンの回りに水素を含む分子又はイオンが結合した化合物(すなわち、錯体水素化物)であって、M7元素、ホウ素及び水素を含むものをいう。
錯体水素化物を構成する陰イオンは、特に限定されるものではないが、具体的には、[BH4]-、[B1212]2-などがある。
7元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素からなる。
【0036】
本実施の形態においては、第4の水素化物には、後述する溶媒に可溶なものを用いる。出発原料には、いずれか1種の第4の水素化物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、出発原料に2種以上の第4の水素化物が含まれる場合、その比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。第4の水素化物に関するその他の点については、第2の水素化物と同様であるので、説明を省略する。
【0037】
「第4の塩化物」とは、M8元素を含む塩化物をいう。
8元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素からなる。また、第4の水素化物と第4の塩化物を反応させるという工程の性質上、M8元素は、M7元素とは異なる元素を含む。
【0038】
本実施の形態においては、第4の塩化物には、後述する溶媒に可溶なものを用いる。出発原料には、いずれか1種の第4の塩化物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。また、出発原料に2種以上の第4の塩化物が含まれる場合、その比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。第4の塩化物に関するその他の点については、第2の塩化物と同様であるので、説明を省略する。
【0039】
溶媒には、上述した第4の水素化物及び第4の塩化物を溶解させることが可能なものを用いる。また、溶媒は、反応生成物である第1の水素化物及び/又は第1の塩化物を溶解させることが可能なものであっても良く、あるいは、溶解させないものでも良い。特に、反応生成物である第1の水素化物又は第1の塩化物のいずれか一方の溶解度が相対的に高く、かつ、他方の溶解度が相対的に低いものを用いると、塩化物の混合比の制御が比較的容易になるという利点がある。このような溶媒としては、例えば、各種エーテル類、THF(テトラヒドロフラン)などがある。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
溶媒中に溶解させる第4の水素化物及び第4の塩化物の量、並びに、これらの比率は、目的とする第1の水素化物が効率よく得られるように、出発原料や溶媒の種類に応じて最適なものを選択する。
【0040】
溶媒除去工程は、反応終了後の溶液から溶媒の全部又は一部を除去する工程である。溶媒の除去は、すべての反応生成物及び未反応原料を含む状態で行っても良く、あるいは、溶媒に対する水素化物と塩化物の溶解度差を利用して、塩化物の一部を除去した後に行っても良い。
【0041】
次の(f)式に、液相合成法を用いた合成反応の一例を示す。
2NaBH4+ZnCl2→Zn(BH4)2+2NaCl ・・・(f)
NaBH4(第4の水素化物)、ZnCl2(第4の塩化物)、及び、Zn(BH4)2(第1の水素化物)は、いずれも無水エーテルに溶解する。一方、NaCl(第1の塩化物)は、無水エーテルに不溶である。従って、(f)式に従い、Zn(BH4)2を液相合成する場合において、NaClの配合比を制御するときには、溶媒として、無水エーテルを用いるのが好ましい。
【0042】
無水エーテルを用いたZn(BH4)2の合成は、具体的には、以下のような手順により行う。すなわち、まず、適量のZnCl2を無水エーテルに溶解させ、上澄み液を採取する。これとは別に、適量のNaBH4を無水エーテルに溶解させる。この溶液に、先に作っておいたZnCl2/エーテル溶液上澄み液を加えて、所定時間攪拌させる。反応を完全に進行させた後、そのまま乾燥させると、混合比xが2である水素貯蔵材料が得られる。一方、反応後に上澄み液を採取し、乾燥させる場合において、上澄みの採取条件を最適化すると、混合比xが2未満である水素貯蔵材料が得られる。他の出発原料を用いる場合も同様である。
【0043】
なお、反応により生成する第1の水素化物の組成、及び、合成に使用する溶媒の種類によっては、溶媒と第1の水素化物の複合体が得られる場合がある。例えば、第1の水素化物がCa(BH4)2であり、溶媒としてTHFを用いた場合、一般式:Ca(BH4)2・2THFで表される複合体が得られる。この複合体は、固体であり、THFは、Ca(BH4)2に配位結合している。このような複合体であっても、本発明に係る水素貯蔵材料の構成材料として用いることができる。
【0044】
液相合成法により製造された各種の第1の水素化物は、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、液相法により合成された1種又は2種以上の第1の水素化物と、液相法以外の方法により製造された1種又は2種以上の第1の水素化物とを組み合わせて用いても良い。
【0045】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る水素貯蔵材料の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る製造方法は、反応工程と、溶媒除去工程と、分離工程と、混合工程とを備えている。これらの内、反応工程及び溶媒除去工程は、第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0046】
分離工程は、溶媒除去工程で得られた混合物を溶媒中に溶解させることによって、1種又は2種以上の第5の水素化物を分離・採取する工程である。
「第5の水素化物」とは、混合物に含まれる水素化物であって、M9元素、ホウ素及び水素を含む水素化物をいう。また、M9元素とは、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素をいう。第5の水素化物のその他の点については、第4の水素化物と同様であるので、説明を省略する。また、分離工程に関するその他の点については、第2の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0047】
混合工程は、1種又は2種以上の第5の塩化物を、分離・採取された第5の水素化物に加え、これらを混合する工程である。
「第5の塩化物」とは、混合物に含まれていた塩化物とは異なる塩化物であって、M10元素を含むものをいう。また、M10元素とは、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素(La〜Lu)から選ばれる少なくとも一種以上の元素をいう。第5の塩化物は、第5の水素化物と反応するものであっても良く、あるいは、反応しないものでも良い。第5の塩化物に関するその他の点については、第2の塩化物と同様であるので、説明を省略する。また、混合工程に関するその他の点については、第2の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
次に、本発明に係る水素貯蔵材料及びその製造方法の作用について説明する。
所定の比率で配合された第2の水素化物と第2の塩化物とを、機械的エネルギーを加えながら混合すると、出発原料の混合及び粉砕が進行すると同時に、両者が反応し又は反応することなく、微細な第1の水素化物と微細な第1の塩化物とが均一に分散している水素貯蔵材料が得られる。同様に、所定の比率で配合された第4の水素化物と第4の塩化物とを溶媒中に溶解させ、これらを反応させると、微細な第1の水素化物と微細な第1の塩化物とが均一に分散している水素貯蔵材料が得られる。さらに、固相合成法又は液相合成法で得られた混合物から塩化物の全部又は一部を除去し、これに除去した塩化物とは異なる塩化物を加えて混合すると、微細な第1の水素化物と微細な第1の塩化物とが均一に分散している水素貯蔵材料が得られる。
得られた水素貯蔵材料は、第1の塩化物によって第1の水素化物が分解促進物質である水から保護されるので、水との接触に起因する特性劣化が抑制される。また、ある種の塩化物は、水素化物を熱的に不安定化させ、水素放出開始温度を低下させる作用がある。そのため、第1の水素化物と第1の塩化物とを複合化させ、かつ、これらの組成を最適化すると、相対的に低温で多量の水素を放出する水素貯蔵材料が得られる。
【0049】
また、一般式:M(BH4)n(nは、M元素の価数)で表される水素化物では、M元素が電子を(BH4)に与えてイオン結合することにより安定化している。従って、M元素からの電子供与を抑制することができれば、陽イオン/陰イオン間のイオン結合が弱まり、熱力学的安定性が低下すると考えられる。電子供与の強さは、M元素の電気陰性度と密接に関係しており、電気陰性度は、M(BH4)nの熱力学的安定性を制御するための有効な指針を与える。例えば、特願2003−319915によれば、LiBH4のLiの一部をLiより電気陰性度の大きいCuに置換することによって、熱力学的に不安定化し、水素放出温度を低温化することが可能である。
また、図1に、第一原理計算から理論的に求められた各種ボロハイドライドの生成熱ΔHと、M元素の電気陰性度χとの関係を示す(2004年度日本金属学会秋季大会概要p170より引用)。この図から、M元素の電気陰性度が大きいほど、生成熱の絶対値が小さく、M(BH4)nの熱力学的安定性が低いことが明らかである。
本発明において、第1の水素化物として、適切な電気陰性度を有するM元素を含むものを用いると、その熱力学的安定性が制御され、熱分解温度が格段に低温化すると考えられる。さらに、これと触媒作用を有する第1の塩化物とを複合化した場合には、熱分解温度がさらに低温化する。
さらに、特定のM1元素を含む第1の水素化物は、相対的に熱的に不安定であるだけでなく、他の水素化物に比べて水素量が格段に多い(約5mass%以上)。そのため、これと第1の塩化物とを複合化させると、水に対して安定であり、水素放出開始温度が低く、かつ、水素放出量の多い水素貯蔵材料が得られる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
NaBH4とZnCl2とをモル比で2:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、混合粉砕した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、NaClの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にZn(BH4)2が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解特性を測定した。比較材には、LiBH4を用いた。その結果、LiBH4の分解開始温度は580Kであるのに対し、水素貯蔵材料の分解開始温度は、350Kであることがわかった。
【0051】
(実施例2)
NaBH4に代えてLiBH4を用いた以外は、実施例1と同一条件下で複合体を作製した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、LiClの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にZn(BH4)2が生成している思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解特性を測定した。図2に、その結果を示す。なお、図2には、LiBH4の熱分解特性も併せて示した。図2より、LiBH4の分解開始温度は580Kであるのに対し、複合体の分解開始温度は、355Kであることがわかる。
【0052】
(実施例3)
LiBH4とZrCl4とをモル比で4:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、混合粉砕した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、LiClの回折パターンが認められた(図3)。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中に、Zr(BH4)4が生成していると思われる。この複合体の分解開始温度は、350Kであった。
次に、得られた水素貯蔵材料を300℃に昇温し、水素放出反応を進行させた。その後、80℃、10MPaにて再水素化を行った。再水素化の確認は、容量法(PCT測定)により行った。その結果、再水素化による圧力減少が生じており、再水素化が確認された。
【0053】
(実施例4)
LiBH4とTiCl3とをモル比で3:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間混合粉砕した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、LiClの回折パターンが認められた。また、ラマスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にTi(BH4)3が生成していると思われる。この複合体の分解開始温度は、360Kであった。
【0054】
(実施例5)
出発原料としてLiBH4とMgCl2を用いた以外は、実施例1と同一条件下で水素貯蔵材料を作製した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、(Mg0.25Li0.75)Cl1.25の回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中に、(Mg0.5Li0.5)(BH4)1.5が生成していると思われる。
【0055】
(実施例6)
NaBH4とZnCl2とをモル比で2:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて1〜12時間、混合粉砕した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、(Zn、Na)Clの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中に(Zn、Na)BH4が生成していると思われる。また、ミリング時間が長くなるほど、(Zn、Na)BH4と(Zn、Na)Clの生成量が増加した。
【0056】
(実施例7)
実施例1で得られた水素貯蔵材料をエーテル又はTHFに溶解させ、塩化物を沈殿させて所望の混合比に制御した。次いで、溶媒を揮発除去し、水素貯蔵材料を得た。得られた水素貯蔵材料は、水素化物に対する塩化物の混合比xが0.05である複合体であり、この複合体も実施例1と同様に低温での水素放出特性に優れていることがわかった。
【0057】
(実施例8)
LiBH4とZrCl4とをモル比で5:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気下で粉砕混合した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、LiClの回折パターンが認められた(図3)。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された(図4)。以上より、材料中にZrLi(BH4)5が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解性を測定した。その結果、本実施例で得られた水素貯蔵材料の分解温度は、LiBH4とZr(BH4)4+4LiCl混合体の分解温度の間にあることがわかった。
【0058】
(実施例9)
LiBH4とZrCl4とをモル比で6:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気下で粉砕混合した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、LiClの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にZrLi2(BH4)6が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解性を測定した。比較材には、LiBH4とZrLi(BH4)5+4LiCl混合体(実施例8)を用いた。その結果、本実施例で得られた水素貯蔵材料の分解温度は、LiBH4とZrLi(BH4)5+4LiCl混合体の分解温度の間にあることがわかった。
図5に、実施例3、実施例8及び実施例9で得られた水素貯蔵材料の熱分解特性を示す。図5には、LiBH4の結果も併せて示した。図5より、LiBH4の配合比が多くなるほど、分解温度が上昇することがわかる。
【0059】
(実施例10)
NaBH4とZrCl4とをモル比で5:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気下で粉砕混合した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、NaClの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にZrNa(BH4)5が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解性を測定した。比較材には、NaBH4とZr(BH4)4+4NaCl混合体(ZrCl4とNaBH4とを1:4のモル比で配合後にボールミルで5時間混合粉砕して作製)を用いた。その結果、本実施例で得られた水素貯蔵材料の分解温度は、NaBH4とZr(BH4)4+4NaCl混合体の分解温度の間にあることがわかった。
【0060】
(実施例11)
NaBH4とZrCl4とをモル比で6:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気下で粉砕混合した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、NaClの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にZrNa2(BH4)6が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解性を測定した。比較材には、NaBH4とZrNa(BH4)5+4NaCl混合体(実施例10)を用いた。その結果、本実施例で得られた水素貯蔵材料の分解温度は、NaBH4とZrNa(BH4)5+4NaCl混合体の分解温度の間にあることがわかった。
【0061】
(実施例12)
LiBH4とCaCl2とTiCl3とをモル比で5:1:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気下で粉砕混合した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、LiClの回折パターンが認められた。また、ラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にCaTi(BH4)5が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解性を測定した。比較材には、Ca(BH4)2+2LiCl混合体とTi(BH4)3+3LiCl混合体を用いた。その結果、本実施例で得られた水素貯蔵材料の分解温度は、Ca(BH4)2+2LiCl混合体とTi(BH4)3+3LiCl混合体の分解温度の間にあることがわかった。
【0062】
(実施例13)
Ca(BH4)2+0.005NaClとTi(BH4)3+0.01LiClとをモル比で1:1に配合した。配合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気下で粉砕混合した。得られた水素貯蔵材料のラマンスペクトルにおいて、B−H結合の振動モードが観測された。以上より、材料中にCaTi(BH4)5が生成していると思われる。
次に、得られた水素貯蔵材料について、昇温脱離法により熱分解性を測定した。比較材には、Ca(BH4)2とTi(BH4)3を用いた。その結果、本実施例で得られた水素貯蔵材料の分解温度は、Ca(BH4)2とTi(BH4)3の分解温度の間にあることがわかった。
【0063】
(実施例14)
LiBH4とScCl3とをモル比で3:1に混合した。混合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気で混合粉砕した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、Sc(BH4)3とLiClの回折ピークが認められた(図6(a)参照)。得られた水素貯蔵材料を150℃、真空にすると、Sc(BH4)3が分解して、水素放出反応が確認された。水素放出後の試料では、Sc(BH4)3の回折ピークは消失した(図6(b)参照)。さらに、100℃、10MPa水素雰囲気下で1時間保持すると、Sc(BH4)3の回折ピークが再び確認され(図6(c)参照)、再水素化できた。
【0064】
(実施例15)
LiBH4とScCl3とをモル比で4:1に混合した。混合物を高エネルギーボールミルにて5時間、Ar雰囲気で混合粉砕した。得られた水素貯蔵材料についてX線回折を行ったところ、Sc(BH4)3とLiClの回折ピークが認められた。得られた水素貯蔵材料について、熱分解特性を測定した。図7に、その結果を示す。なお、図7には、実施例14の水素貯蔵材料(LiBH4:ScCl3=3:1)の結果も併せて示した。図7より、本実施例で得られた水素貯蔵材料は、実施例14の水素貯蔵材料に比べて、水素放出量が多いことがわかる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る水素貯蔵材料及びその製造方法は、燃料電池システム用の水素貯蔵手段、超高純度水素製造装置、ケミカル式ヒートポンプ、アクチュエータ、金属−水素蓄電池用の水素貯蔵体等に用いられる水素貯蔵材料及びその製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】各種水素化物の生成熱ΔHと、陽イオンの電気陰性度χとの関係を示す図である。
【図2】Zn(BH4)2+2LiCl複合体、及び、LiBH4の熱分解特性を示す図である。
【図3】実施例3及び実施例8で得られた水素貯蔵材料のX線回折パターンである。
【図4】実施例8で得られた水素貯蔵材料のラマンスペクトルである。
【図5】実施例3、実施例8及び実施例9で得られた水素貯蔵材料、並びに、LiBH4の熱分解特性を示す図である。
【図6】図6(a)は、実施例14で得られた水素貯蔵材料のX線回折パターンであり、図6(b)は、この水素貯蔵材料を150℃、真空中で加熱した後のX線回折パターンであり、図6(c)は、150℃、真空中で加熱した後、さらに100℃で10MPaの水素と反応させた後のX線回折パターンである。
【図7】実施例14及び実施例15で得られた水素貯蔵材料の熱分解特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第1の水素化物と、
2元素を含む1種又は2種以上の第1の塩化物と
を含む水素貯蔵材料。
但し、前記M1元素及び前記M2元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素。
【請求項2】
前記第1の水素化物に対する前記第1の塩化物の混合比x(=前記第1の塩化物のモル量/前記第1の水素化物のモル量)が、0.005≦x≦5.0である請求項1に記載の水素貯蔵材料。
【請求項3】
3元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第2の水素化物と、M4元素を含む1種又は2種以上の第2の塩化物とを配合する配合工程と、
該配合工程で得られた配合物を、機械的エネルギーを与えながら混合する混合粉砕工程とを備えた水素貯蔵材料の製造方法。
但し、前記M3元素及び前記M4元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素。
【請求項4】
前記混合粉砕工程で得られた混合物を溶媒中に溶解させることによって、M5元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第3の水素化物を分離・採取する分離工程と、
前記混合物に含まれていた塩化物とは異なる塩化物であって、M6元素を含む1種又は2種以上の第3の塩化物を前記第3の水素化物に加え、これらを混合する混合工程と
をさらに備えた請求項3に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
但し、前記M5元素及び前記M6元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素。
【請求項5】
7元素、ホウ素及び水素からなる1種又は2種以上の第4の水素化物と、M8元素を含む1種又は2種以上の第4の塩化物とを溶媒中に溶解させ、前記溶媒中において、前記第4の水素化物と前記第4の塩化物とを反応させる反応工程と、
前記溶媒の全部又は一部を除去する溶媒除去工程と
を備えた水素貯蔵材料の製造方法。
但し、前記M7元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素。
前記M8元素は、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素であって、前記M7元素とは異なる元素を含む。
【請求項6】
前記溶媒除去工程で得られた混合物を溶媒中に溶解させることによって、M9元素、ホウ素及び水素を含む1種又は2種以上の第5の水素化物を分離・採取する分離工程と、
前記混合物に含まれていた塩化物とは異なる塩化物であって、M10元素を含む1種又は2種以上の第5の塩化物を前記第5の水素化物に加え、これらを混合する混合工程と
をさらに備えた請求項5に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
但し、前記M9元素及び前記M10元素は、それぞれ、Li、Na、K、Ca、Zn、Cu、Mg、Sc、Zr、Mn、Hf、Al、Ti、Cr、V、Ga、Fe、Co、Ni、Y、及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種以上の元素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−117989(P2007−117989A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197495(P2006−197495)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、車載可能リチウム系水素貯蔵材料の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】