説明

水素貯蔵装置

【課題】
不飽和炭化水素あるいは水素の供給量の変動に対応して高い生成効率を維持して有機ハイドライドを製造する。
【解決手段】
触媒存在下における不飽和炭化水素と水素との水素付加反応から有機ハイドライドを合成することにより水素を貯蔵するための水素貯蔵装置であって、水素付加反応を生じさせる反応容器3を備え、その反応容器3内部における不飽和炭化水素の移動方向に直列に、水素付加反応で必要な触媒31を配置した触媒床22,24を複数備えると共に、反応容器3における不飽和炭化水素の投入口から最初の触媒床22までの第1の空間21および触媒床22,24同士の間にある第2の空間23に、反応容器3内に水素を供給するための水素供給口7a,7b,7cと、各水素供給口7a,7b,7cからの水素の供給量を制御する制御部6とを備える水素貯蔵装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和炭化水素と水素との水素付加反応から有機ハイドライドを合成することにより水素を貯蔵するための水素貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自然エネルギーを利用した発電は天候に左右されがちである。例えば、風力発電の場合には風の強弱によって発電量が左右され、太陽光発電の場合には日照の強弱あるいは日照時間の長短によって発電量が左右される。このため、これらの自然エネルギーで得られた電力を安定的に利用するためには、バッテリーなどの電力貯蔵装置が必要になる(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−176696号公報(特許請求の範囲、要約書等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の従来技術には、次のような問題がある。それは、大量のエネルギーを貯蔵したり、遠隔地にエネルギーを送る場合には、バッテリーを用いたエネルギーの貯蔵では限界があるということである。このような課題に鑑みて、本発明者は、不飽和炭化水素に水素を付加した有機ハイドライドの形態で、エネルギーの貯蔵および輸送を行うことを考えた。しかし、自然エネルギーを利用してつくられる水素の量の他、不飽和炭化水素の供給量等は変動するため、有機ハイドライドの生成効率を常に高く維持することが強く望まれている。
【0004】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、不飽和炭化水素あるいは水素の供給量の変動に対応して高い生成効率を維持して有機ハイドライドを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、触媒存在下における不飽和炭化水素と水素との水素付加反応から有機ハイドライドを合成することにより水素を貯蔵するための水素貯蔵装置であって、水素付加反応を生じさせる反応容器を備え、その反応容器内部における不飽和炭化水素の移動方向に直列に、水素付加反応で必要な触媒を配置した触媒床を複数備えると共に、反応容器における不飽和炭化水素の投入口から最初の触媒床までの第1の空間および触媒床同士の間にある第2の空間に、反応容器内に水素を供給するための水素供給口と、各水素供給口からの水素の供給量を制御する制御部を備える水素貯蔵装置としている。
【0006】
このように、不飽和炭化水素あるいは水素等の原料供給量の変動、反応容器の入口温度の変動に対して、水素供給口の選択、各水素供給口からの水素供給量の制御を行うことにより、有機ハイドライドの生成効率を高く維持することができる。
【0007】
また、別の本発明は、先の発明において、第1の空間および第2の空間の内、少なくともいずれか一方の空間に水素供給口を複数備え、制御部は水素付加状況に応じて複数の水素供給口からの水素供給量の制御を行う水素貯蔵装置としている。このため、各触媒床への水素供給量を細かく制御でき、より一層、有機ハイドライドの生成効率を高く維持することができる。
【0008】
また、別の本発明は、先の各発明において、水素付加反応後の生成物および未反応物の少なくともいずれか一方の排出物を反応容器の上流側に戻す循環手段を備え、制御部は水素付加状況に応じて、循環手段を通じて反応容器の上流側から戻す排出物の供給量を制御する水素貯蔵装置としている。このため、反応容器内に原料を一回通過させるだけでは有機ハイドライドの生成効率を高く維持できない場合には、水素付加反応後の生成物および未反応物の少なくともいずれか一方の排出物を反応容器の上流側へと戻すことによって、有機ハイドライドの生成効率を高く維持することができるようになる。水素付加反応は発熱反応であるため、触媒の温度がある温度以上になると、有機ハイドライドの生成効率が低下する。有機ハイドライドのみを戻す場合であっても、反応容器の上流側に戻す際には、有機ハイドライドがある程度冷却されているので、反応温度の上昇を抑制でき、有機ハイドライドの生成効率を高く維持することができる。
【0009】
また、別の本発明は、先の発明において、反応容器の上流側から排出物を投入する前に、排出物を冷却する冷却手段と、反応容器の排出口側の所定位置に取り付けられる温度測定手段とを備え、制御部は温度測定手段によって測定される温度に応じて、循環手段を通じて反応容器の上流側から戻す排出物の供給量を制御する水素貯蔵装置としている。このため、循環される排出物の温度を積極的に下げることができ、有機ハイドライドの生成効率を高く維持することができる。
【0010】
また、別の本発明は、先の各発明において、触媒床内に触媒担体を配置しその触媒担体を、フィンを有する担体、ペレット状担体、リング状担体、スパイラル状担体の内少なくともいずれか1種類とする水素貯蔵装置としている。また、別の本発明は、先の発明における触媒担体をペレット状担体とし、セラミックス、コランダム、モレキュラーシーブ、アルミニウム、ステンレス、銅の内少なくともいずれか1種類の担体を用いた水素貯蔵装置としている。
【0011】
このため、触媒床の高さを維持でき、不飽和炭化水素および水素の偏流を防止できる。また、反応により発生した熱を分散させ、触媒床の均熱化を図ることができる。さらに、触媒担体の高表面積を利用して触媒の分散性を高めることができる。
【0012】
また、別の本発明は、先の各発明において、触媒床の形状を、内部側にフィンを有する形状あるいはスパイラル形状とした水素貯蔵装置としている。このため、触媒床内に触媒担体を別個投入しなくても、触媒床の内面を触媒担体として利用することができる。したがって、触媒の交換時において、触媒担体を取り出す必要が無く、触媒床ごと交換するだけで触媒の交換を実行できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不飽和炭化水素あるいは水素の供給量の変動に対応して高い生成効率を維持して有機ハイドライドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る水素貯蔵装置の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明で採用している水素付加反応について簡単に説明する。次に示す3種類の反応式は、不飽和炭化水素の水素付加反応を示す式である。これらの反応式に示すように、不飽和炭化水素への水素付加によって、飽和炭化水素が生成される。
【0016】
10+5H→C1018(ナフタレンの水素付加反応)
+3H →C12 (ベンゼンの水素付加反応)
+3H→C14(トルエンの水素付加反応)
【0017】
不飽和炭化水素のように炭素同士の結合に二重結合あるいは三重結合を含む炭化水素系の原料の水素付加反応を利用することによって、外部からの水素を貯蔵することができる。以後、デカリン、シクロヘキサンあるいはメチルシクロヘキサンのように、それ自体に存在する水素を外部に放出できる炭化水素系の原料を総称して飽和炭化水素あるいは有機ハイドライドと称し、ナフタレン、ベンゼンあるいはトルエンのように、外部からの水素と結合して水素を貯蔵できる炭化水素系の原料を総称して不飽和炭化水素と称する。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る水素貯蔵装置の構成を示す図である。図1における楕円形の点線で囲まれた領域には、内部に存在する化合物あるいは内部で起きている主な反応が描かれている。図1では、多くの反応を代表して、トルエンとメチルシクロヘキサンとの間の反応を例に描かれている。図中、六員環に付加している「Me」の部分は、メチル基を意味している。
【0019】
本発明の水素貯蔵装置は、自然エネルギーの一例である風力を利用して発電を行う風力発電装置(発電装置の一形態)1と、当該風力発電装置1からの電気を利用して水の電気分解を行い水素を生成する電気分解装置2と、水素とトルエン(不飽和炭化水素)との水素付加反応を利用してメチルシクロヘキサン(有機ハイドライド)を合成する反応容器3と、トルエンを貯蔵している原料貯蔵タンク4と、トルエンと水素との水素付加反応によって合成されたメチルシクロヘキサンを入れる生成物貯蔵タンク5と、反応容器3内の反応を制御する制御装置6とから、主に構成されている。反応容器3は、ステンレス製の筒形状の容器であり、図1の上方から下方に向かってトルエンを供給できる構造を有している。
【0020】
風力発電装置1と電気分解装置2とは電線で接続されている。電気分解装置2と反応容器3とは、水素を供給するための水素用配管7で接続されている。水素用配管7は、複数に分岐(この実施の形態では4本に分岐)し、反応容器3の内部におけるトルエンの移動方向に分散して接続されている。水素用配管7の各分岐後の枝管と反応容器3との各接続口を、トルエンを供給する上流側から順に、水素供給口7a,7b,7cという。また、水素用配管7の分岐後の枝管には、それぞれバルブ8,9,10が設けられている。バルブ8,9,10は、制御部6と配線12で接続される電磁バルブであり、制御部6の制御によって、バルブ8,9,10の開閉量を調節できるようになっている。なお、バルブ8,9,10は、電磁バルブに限定されるものではなく、エアーによって開閉調節可能なエアーバルブ等の他の形式のバルブであっても良い。水素供給口7a,7b,7cから供給される水素は、0.3MPaの圧力で反応容器3内に供給される。ただし、当該圧力に限定されるわけではなく、適宜変更可能である。
【0021】
また、水素用配管7の途中には、水素の供給量を検知可能な水素流量検知センサ13が取り付けられている。水素流量検知センサ13は、制御部6と電気配線14により接続されている。さらに、反応容器3におけるトルエンの供給側(「上流側」という。)には、反応容器3の内部の上流側の温度を測定するための温度センサ15が取り付けられている。温度センサ15は、制御部6と電気配線16により接続されている。
【0022】
また、反応容器3の上流側は、原料貯蔵タンク4と配管17によって接続されており、トルエンは、そこから反応容器3内に供給される。配管17の途中には、バルブ18が取り付けられている。このため、反応容器3には、バルブ18の開閉および開閉度に応じてトルエンを供給できる。なお、バルブ18は、メカニカルバルブ、電磁バルブ、エアーバルブ等のどのような形式のバルブでも良い。さらに、反応容器3における水素付加反応生成物を排出する側(「下流側」という。)は、生成物貯蔵タンク5と配管19によって接続されている。配管19の途中には、バルブ20が取り付けられている。このため、生成物貯蔵タンク5には、バルブ20の開閉および開閉度に応じて、メチルシクロヘキサン等の生成物を送ることができる。なお、バルブ20は、メカニカルバルブ、電磁バルブ、エアーバルブ等のどのような形式のバルブでも良い。
【0023】
図2は、反応容器3の内部を透過的に示す図である。
【0024】
図2に示すように、反応容器3の内部は、トルエンが供給される上流側から、メチルシクロヘキサンが排出される側に相当する下流側に向かって、領域(以後、「第1の空間」という。)21、領域22、領域(以後、「第2の空間」という。)23、領域24および領域25の合計5つの領域に分割されている。領域22は、触媒を備える触媒床である(以後、「触媒床22」という。)。同様に、領域24も、触媒を備える触媒床である(以後、「触媒床24」という。)。第1の空間21、第2の空間23および領域25は、触媒を備えない空間となっている。第1の空間21と触媒床22との境界には、仕切板となる網26が設けられている。同様に、触媒床22と第2の空間23との境界、第2の空間23と触媒床24との境界、触媒床24と領域25との境界、には、それぞれ仕切板となる網27、網28および網29が設けられている。
【0025】
触媒床22および触媒床24には、ともに、触媒担体30としてのアルミナ製およびコランダム製のセラミックスボールが入れられており、触媒担体30の表面には触媒31としての白金が担持されている。この実施の形態では、触媒担体30と触媒31の総重量に対して0.5重量%の比率で触媒31を用いている。ただし、当該比率は限定的なものではなく、適宜変更可能である。また、触媒担体30として、アルミナ製およびコランダム製以外の別の材料を用いても良い。また、球状以外の別の形態の触媒担体30を採用しても良い。さらに、触媒31には、白金以外の材料を用いても良い。触媒床22,24内の触媒31は、反応容器3に備えられる不図示のヒータにより、触媒31の表面温度で150〜250℃の範囲で加熱されている。
【0026】
図1に示すバルブ8、9、10から延びる枝管は、反応容器3の第1の空間21、第2の空間23および領域25における水素供給口7a,7b,7cにそれぞれ接続されている。このため、バルブ8、9および10の開閉によって、図2に示すように、第1の空間21、第2の空間23および領域25への水素の供給を個別に調節できる。トルエンに対して水素が多い場合には、バルブ18にてトルエンの供給量を制御すると共に、バルブ8を閉じて触媒床24のみでトルエンの水素付加反応を生じるようにすることもできる。このように、トルエン供給量、水素供給量、触媒温度などの変動要因に対して、少なくとも1つ以上のバルブの開閉等の制御によって、水素付加反応を調整できる。
【0027】
図3は、制御部6の構成を示す図である。
【0028】
制御部6は、その内部に、水素供給量および反応容器3の上流側の温度に関する情報を受信するインターフェイス(I/F)40と、中央演算処理装置(Central Processing Unit: CPU)41と、CPU41からコマンドを受け取ってバルブ8,9,10を制御する信号を送るバルブ制御部42と、CPU41の制御用プログラムを格納したメモリ43とを備えている。I/F40、CPU41、バルブ制御部42およびメモリ43は、信号線であるバス44によって接続されている。
【0029】
水素流量検知センサ13は、水素の供給量を検知可能な手段であれば、その検知方式は特に限定されない。水素流量検知センサ13によって水素の供給量が検知されると、その情報はI/F40を介してCPU41に送られる。CPU41は、メモリ43に格納されている制御用プログラムに基づいて、水素の供給量に応じた適切な転化率を実現するように、バルブ8,9,10の選択とそれらの開閉度を調節する。
【0030】
温度センサ15は、反応容器3内の上流側の温度を測定可能な手段であれば、その測定方式は特に限定されない。温度センサ15によって上流側の温度が測定されると、その情報はI/F40を介してCPU41に送られる。CPU41は、メモリ43に格納されている制御用プログラムに基づいて、測定温度に応じた適切な転化率を実現するように、バルブ8,9,10の選択とそれらの開閉度を調節する。
【0031】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る水素貯蔵装置の構成を示す図である。なお、第1の実施の形態と共通する構成部分については、同じ符号で示し、かつその説明については省略する。
【0032】
図4に示す水素貯蔵装置は、生成物貯蔵タンク5と反応容器3の上流側とをつなぐ循環用配管(循環手段の一つ)50を備えている。循環用配管50には、生成物貯蔵タンク5から反応容器3の上流側に向かって、生成物および未反応物の少なくともいずれか一方の排出物を当該上流側に向かって送る送液ポンプ(循環手段の一つ)51、熱交換器(冷却手段の一つ)52および生成物供給用のバルブ(循環手段の一つ)53が取り付けられている。熱交換器52は、排出物の熱を奪い、その温度を下げるための構成部材である。これらは、反応容器3内のトルエンの濃度を調整すると共に、反応熱を下げることによって、触媒床22,24の過度の温度上昇を抑え適切な転化率を維持するために用いられる。
【0033】
ただし、送液ポンプ51および熱交換器52は必須の構成部材ではない。反応容器3の下流側から上流側に向かって下方傾斜している場合には、送液ポンプ51を設けなくても、重力によって生成物を上流側に送ることができる。また、循環用配管50が反応容器3に比べて温度の低い場所に配置されている場合には、熱交換器52を用いなくても、生成物の温度を下げることができる。
【0034】
バルブ53は、電気配線54によって制御部6に接続されている。制御部6からの制御の下で、バルブ53の開閉を調節するためである。また、配管19には、反応容器3の下流側の温度を測定するための温度センサ55が取り付けられている。温度センサ55は、制御部6と電気配線56により接続されている。温度センサ55からの情報に基づいて、生成物の循環量を変えることができるようにするためである。
【0035】
図5は、図4に示す制御部6の構成を示す図である。
【0036】
制御部6は、その内部に、I/F40、CPU41、CPU41からコマンドを受け取ってバルブ8,9,10,53を制御する信号を送るバルブ制御部42およびメモリ43を備えている。I/F40、CPU41、バルブ制御部42およびCPU41の制御プログラムを格納するメモリ43は、信号線であるバス44によって接続されている。
【0037】
温度センサ55は、反応容器3内の下流側の温度を測定可能な手段であれば、その測定方式は特に限定されない。温度センサ55によって下流側の温度が測定されると、その情報はI/F40を介してCPU41に送られる。CPU41は、メモリ43に格納されている制御用プログラムに基づいて、測定温度に応じた適切な転化率を実現するように、バルブ8,9,10の選択とそれらの開閉度を調節して水素の供給量を制御する。さらに、CPU41は、バルブ53の開閉度を調節して生成物の循環量を制御する。例えば、温度センサ55による測定温度が高いと、循環する生成物の供給を多くして、触媒床22,24内の温度を所定温度範囲に保持する。逆に、測定温度が低いと、循環する生成物の供給を少なくする。ただし、温度センサ55による測定温度とバルブ53の開閉度との関係は、上述に限定されず、他の条件を考慮して適宜変更しても良い。また、制御部6は、バルブ53の開閉度ではなく、送液ポンプ51の排出能力を調節するようにしても良い。
【0038】
図6は、触媒床22,24内に入れられる触媒担体であって、先に示した触媒担体30と異なる形態を有する触媒担体60を示す図である。
【0039】
この触媒担体60は、フィン型の担体であって、軸61の周囲に複数本のフィン62が取り付けられた形態を有している。触媒担体60は、アルミニウムの表面にアルミナの薄膜層を有する。そのアルミナの薄膜層には、白金等の触媒31が担持されている。
【0040】
なお、触媒担体としては、上記フィン型の触媒担体60のみならず、種々の形態を有する触媒担体を採用可能である。例えば、リング形状やコイル形状の触媒担体を採用しても良い。また、触媒床22,24自体を中空のフィン形状あるいはスパイラル形状として、そのフィンあるいはスパイラルの内面に触媒31を担持するようにしても良い。また、触媒担体の材料として、アルミナ以外に、活性炭、金属等を採用しても良い。
【0041】
さらに、触媒31には、粒状の白金触媒を採用しているが、その形状を粉状、布状、非定形のチップ状、筒状、板状、ハニカム状、非定形の固体膜状のいずれか1つあるいは複数の組み合わせとしても良い。また、触媒31の種類は、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、レニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ニテニウム、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルトまたは鉄のいずれかあるいはこれらの任意の組み合わせであっても良い。
【0042】
トルエンに水素を付加させる場合には、反応容器3内の触媒31の温度を150〜250℃の範囲で制御するのが好ましい。水素付加反応は発熱反応であるため、250℃を超える温度になると、水素付加反応が抑制され逆に脱水素反応が優勢となり、トルエンからメチルシクロヘキサンへの転化率が低下する。したがって、触媒31の温度を150〜250℃の範囲に維持するように、循環する生成物(主に、メチルシクロヘキサン、未反応のトルエン)を反応容器3内に戻す量を調整するのが良い。
【0043】
図7は、風力発電装置1と電気分解装置2との間、および電気分解装置2と反応容器3との間に設置可能な装置を説明するための図である。
【0044】
風力発電装置1と電気分解装置2との間および電気分解装置2と反応容器3との間には、それぞれ、バッテリ70およびバッファタンク71を備えている。バッテリ70を備えることにより、電気分解装置2に供給する電気量をある程度コントロールすることができる。また、バッファタンク71を備えることにより、反応容器3への水素供給量をある程度コントロールできる。これらバッテリ70およびバッファタンク71は、必要に応じて少なくともいずれか一方を配置することができる。
【0045】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵装置は、触媒31の存在下においてトルエン(不飽和炭化水素)と水素との水素付加反応によりメチルシクロヘキサン(有機ハイドライド)を合成することにより水素を貯蔵するための水素貯蔵装置であって、水素付加反応を生じさせる反応容器3を備え、その反応容器3内部におけるトルエンの移動方向に直列に、水素付加反応で必要な触媒31を配置した触媒床22,24を備えると共に、反応容器3におけるトルエンの投入口から触媒床22までの第1の空間21および触媒床22,24同士の間にある第2の空間23と、触媒床24から反応容器3における生成物の排出口までの間にある領域25に、それぞれ水素供給口7a,7b,7cを備え、各水素供給口7a,7b,7cからの水素の供給量を制御する制御部6を備えている。
【0046】
このため、トルエンの供給量、触媒31の加熱温度、反応容器3の入口温度の変動に対して適切な水素の供給ができるようになる。トルエンの供給量が水素量に対して多かったり少なかったりする場合には、特定の枝管から水素を供給し、他の枝管からの水素供給を行わないようにすることができる。また、電気分解装置2でつくられる水素の量は変動するので、トルエンの供給量に対して水素量が多かったり少なかったりする場合もある。そのような場合にも、特定の枝管から水素を供給し、他の枝管からの水素供給を行わないようにすることができる。
【0047】
また、この水素貯蔵装置は、水素付加反応後の排出物を反応容器3の上流側に戻す循環手段として循環用配管50、送液ポンプ51およびバルブ53を備え、制御部6は水素付加状況に応じて、これら循環手段を通じて反応容器3の上流側から戻す排出物の供給量を制御するようにしている。このため、反応容器3内に原料を一回通過させるだけではメチルシクロヘキサンの生成効率を高く維持できない場合には、水素付加反応後の排出物を反応容器3の上流側へと戻すことによって、メチルシクロヘキサンの生成効率を高く維持することができるようになる。メチルシクロヘキサンのみを戻す場合であっても、反応容器3の上流側に戻す際には、メチルシクロヘキサンがある程度冷却されているので、反応温度の上昇を抑制でき、メチルシクロヘキサンの生成効率を高く維持することができる。
【0048】
また、この水素貯蔵装置は、反応容器3の上流側から排出物を投入する前に、排出物を冷却する冷却手段として熱交換器52と、反応容器3の排出口側の所定位置に取り付けられる温度測定手段としての温度センサ55とを備え、制御部6は温度センサ55によって測定される温度に応じて、先の循環手段を通じて反応容器3の上流側から戻す排出物の供給量を制御するようにしている。このため、循環される排出物の温度を積極的に下げることができ、メチルシクロへキサンの生成効率を高く維持することができる。
【0049】
また、水素貯蔵装置の反応容器3に配置される触媒床22,24内の触媒担体30をペレット状の担体としているので、触媒床22,24の高さを維持でき、トルエンおよび水素の偏流を防止できる。また、反応により発生した熱を分散させ、触媒床22,24の均熱化を図ることができる。さらに、触媒担体30の高表面積を利用して触媒31の分散性を高めることもできる。また、触媒担体30をセラミックス製担体とコランダム製担体の混合物としているので、長期間の使用にも耐えられる。
【0050】
また、触媒床22,24の形状を、内部側にフィンを有するフィン形状あるいはスパイラル形状を有するものとしても良い。この場合、ペレット形状等の触媒担体を触媒床22,24内に詰めなくても、フィンあるいはスパイラルの表面に触媒31を担持させ、その触媒31の表面にて水素付加反応を起こすようにできる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形実施可能である。
【0052】
例えば、発電装置として風力発電装置1以外に、太陽光発電装置、地熱発電装置、水力発電装置等の他の自然エネルギーを利用した発電装置を採用しても良い。また、本発明に係る水素貯蔵装置は、必ずしも発電装置および電気分解装置2を備えていなくても良い。また、触媒31の加熱手段として、電気ヒータあるいはバーナーを採用することができる。
【0053】
送液ポンプ51によって循環させる対象は、水素付加反応により生成されたメチルシクロヘキサンと未反応のトルエンの混合物とする以外に、いずれか一方としても良い。メチルシクロヘキサンを循環させる場合、転化率のさらなる向上ではなく、転化率を下げて一定の転化率に調整することができる。また、トルエンを循環させる場合には、さらに転化率を上げて一定の転化率に調整できる。メチルシクロヘキサンあるいはトルエンのみを循環させる場合には、生成物貯蔵タンク5内のメチルシクロヘキサンと未反応のトルエンの混合物を分離する必要がある。その場合、両者の比重の差を利用した遠心分離等の物理的な手法により分離したり、化学的な手法(抽出など)を用いて分離しても良い。
【0054】
また、上述の各実施の形態では、第2の空間23に1つの水素供給口7bを備えるようにしたが、2つ以上の水素供給口を備えるようにしても良い。また、第1の空間21あるいは領域25に複数の水素供給口を備えるようにしても良い。
【0055】
また、反応容器3の上方からトルエンを供給せず、下方から供給するようにしても良い。その場合、トルエンの流れは、図1および図4の下から上となるので、両図の下から上に向かって、領域21、領域22、領域23、領域24、領域25とする。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、自然エネルギーを利用して水素を貯蔵する産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る水素貯蔵装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す反応容器の内部を透過的に示す図である。
【図3】図1に示す制御部の構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る水素貯蔵装置の構成を示す図である。
【図5】図4に示す制御部の構成を示す図である。
【図6】図2に示す触媒床内に入れられる触媒担体であって、図2に示す触媒担体と異なる形態を有する触媒担体を示す図である。
【図7】図1および図4に示す風力発電装置と電気分解装置との間、および電気分解装置と反応容器との間に設置可能な装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1 風力発電装置(発電装置の一形態)
2 電気分解装置
3 反応容器
4 原料貯蔵タンク
5 生成物貯蔵タンク
6 制御部
7 水素用配管
7a,7b,7c 水素供給口
8,9,10 バルブ
13 水素流量検知センサ
15 温度センサ
17 配管
18 バルブ
19 配管
20 バルブ
21 領域(第1の空間)
22 領域(触媒床)
23 領域(第2の空間)
24 領域(触媒床)
25 領域
26,27,28,29 網
30 触媒担体
31 触媒
40 I/F
41 CPU
42 バルブ制御部
43 メモリ
44 バス
50 循環用配管(循環手段の一部)
51 送液ポンプ(循環手段の一部)
52 熱交換器(冷却手段)
53 バルブ(循環手段の一部)
55 温度センサ(温度測定手段)
60 触媒担体
61 軸
62 フィン
70 バッテリ
71 バッファタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒存在下における不飽和炭化水素と水素との水素付加反応から有機ハイドライドを合成することにより水素を貯蔵するための水素貯蔵装置であって、
上記水素付加反応を生じさせる反応容器を備え、
その反応容器内部における上記不飽和炭化水素の移動方向に直列に、水素付加反応で必要な触媒を配置した触媒床を複数備えると共に、
上記反応容器における上記不飽和炭化水素の投入口から最初の触媒床までの第1の空間および触媒床同士の間にある第2の空間に、上記反応容器内に水素を供給するための水素供給口と、
各水素供給口からの水素の供給量を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする水素貯蔵装置。
【請求項2】
前記第1の空間および前記第2の空間の内、少なくともいずれか一方の空間に、前記水素供給口を複数備え、
前記制御部は、水素付加状況に応じて、複数の前記水素供給口からの水素供給量の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵装置。
【請求項3】
前記水素付加反応後の生成物および未反応物の少なくともいずれか一方の排出物を前記反応容器の上流側に戻す循環手段を備え、
前記制御部は、水素付加状況に応じて、上記循環手段を通じて前記反応容器の上流側から戻す上記排出物の供給量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の水素貯蔵装置。
【請求項4】
前記反応容器の上流側から前記排出物を投入する前に、前記排出物を冷却する冷却手段と、
前記反応容器の排出口側の所定位置に取り付けられる温度測定手段と、
を備え、
前記制御部は、上記温度測定手段によって測定される温度に応じて、前記循環手段を通じて前記反応容器の上流側から戻す前記排出物の供給量を制御することを特徴とする請求項3に記載の水素貯蔵装置。
【請求項5】
前記触媒床内に触媒担体を配置しその触媒担体を、フィンを有する担体、ペレット状担体、リング状担体、スパイラル状担体の内少なくともいずれか1種類としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の水素貯蔵装置。
【請求項6】
前記触媒担体を前記ペレット状担体とし、セラミックス、コランダム、モレキュラーシーブ、アルミニウム、ステンレス、銅の内少なくともいずれか1種類の担体を用いていることを特徴とする請求項5に記載の水素貯蔵装置。
【請求項7】
前記触媒床の形状を、内部側にフィンを有する形状あるいはスパイラル形状としたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の水素貯蔵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate