説明

水素透過性金属層・電解質複合体および燃料電池

【課題】水素透過性金属層・電解質複合体における水素透過性金属層と電解質層との界面での空泡発生に起因する耐久性の低下を抑制する。
【解決手段】水素透過性金属層・電解質複合体は、一方の表面に水素原子をプロトン化させる活性を有する貴金属を備えた水素透過性金属層22であって、水素透過性金属層22における水素の溶解度係数の平均値よりも高い水素の溶解度係数を示す高溶解度係数材料から成る高溶解度係数部52を、上記一方の表面の近傍に有する水素透過性金属層22を備える。また、水素透過性金属層・電解質複合体は、水素透過性金属層22の上記一方の表面上に設けられ、プロトン伝導性を有する固体酸化物から成る電解質層21を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素透過性金属層と電解質との複合体、および、この複合体を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性を有する電解質の一種として、固体酸化物から成る電解質が知られており、このような電解質は、例えば燃料電池の電解質層として用いることができる。固体酸化物から成る電解質層を備える燃料電池としては、水素透過性金属層上に、プロトン伝導性を有する固体酸化物層を形成した燃料電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような構成とすることで、電解質層を薄型化して、電解質層におけるプロトン伝導性を向上させることが可能になる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−146337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような燃料電池を用いて長時間発電を継続すると、電池性能の低下が見られる場合がある。例えば、定電流で発電を継続するときに、次第に電圧低下が起こる場合がある。このような電池性能の低下が見られるときに、燃料電池の内部の状態を調べると、水素透過性金属層と電解質層との界面近傍に、微細な空泡(ボイド)が観察される。このような空泡は、発電を長時間にわたって継続する場合に、発電に伴って燃料電池内で何らかの気体が生じ、生じた気体によって形成されるものと考えられる。このように水素透過性金属層と電解質層との界面近傍に空泡が形成されると、界面において水素透過性金属層と電解質層との剥離が生じやすくなり、また、界面における実効面積(発電の際に、水素透過性金属層から電解質層へのプロトンの移動に実際に関わることができる界面の面積)が減少する。このような層の剥離に起因する水素透過性金属層・電解質層複合体の耐久性の低下や実効面積の減少により、電池性能が低下すると考えられる。上記界面における空泡の発生は、発電を長時間継続した場合の他、例えば、燃料電池における発電電流を増大させた場合にも、生じる場合がある。また、このような界面における空泡形成の問題は、燃料電池に限らず、水素透過性金属層と固体酸化物から成る電解質層とを備える複合体を用いた他の装置、例えば水素ポンプや水素濃度センサにおいても同様に生じ得る問題であった。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、水素透過性金属層・電解質複合体における水素透過性金属層と電解質層との界面での空泡発生に起因する耐久性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の水素透過性金属層・電解質複合体は、
一方の表面に水素原子をプロトン化させる活性を有する貴金属を備えた水素透過性金属層であって、該水素透過性金属層における水素の溶解度係数の平均値よりも高い水素の溶解度係数を示す高溶解度係数材料から成る高溶解度係数部を、前記一方の表面の近傍に有する水素透過性金属層と、
前記水素透過性金属層の前記一方の表面上に設けられ、プロトン伝導性を有する固体酸化物から成る電解質層と
を備えることを要旨とする。
【0007】
以上のように構成された本発明の水素透過性金属層・電解質複合体によれば、水素透過性金属層において、電解質層が形成される表面であって貴金属を備える表面の近傍に高溶解度係数部を備えるため、水素透過性金属層を水素が透過する際に、貴金属における水素原子をプロトン化させる活性が不十分となる場合にも、過剰な水素原子を高溶解度係数部によって吸収することができる。したがって、水素透過性金属層における電解質層との界面近傍において、水素分子が生じることに起因する空泡の生成を抑制することができ、水素透過性金属層・電解質複合体の耐久性を向上させ、性能低下を抑制することができる。
【0008】
本発明の水素透過性金属層・電解質複合体において、
前記高溶解度係数材料は、周囲の水素濃度の高まりと共により多くの水素を内部に保持し、周囲の水素濃度の低下と共に水素を放出することとしても良い。
【0009】
このような構成とすれば、水素透過性金属層・電解質複合体を継続して用いる際に、貴金属におけるプロトン化の活性が不十分となる状態と充分である状態とが繰り返されても、プロトン化の活性が不十分となるときには、所定の効果を繰り返し得ることが可能になる。
【0010】
このような本発明の水素透過性金属層・電解質複合体において、前記高溶解度係数材料は、水素吸蔵合金であることとしても良い。あるいは、本発明の水素透過性金属層・電解質複合体において、前記高溶解度係数材料は、炭素系吸着材であることとしても良い。
【0011】
このような構成とすれば、いずれの高溶解度係数材料を用いる場合にも、プロトン化の活性が不十分となるときには、水素分子の生成に起因する空泡の形成を抑制する効果を繰り返し得ることができる。
【0012】
本発明の水素透過性金属層・電解質複合体において、
前記高溶解度係数部は、前記水素透過性金属層の内部における前記電解質層との界面近傍に、連続した層状に形成され、
前記水素透過性金属層は、前記高溶解度係数部上であって、前記電解質層との界面を含む領域に、前記貴金属を備えることとしても良い。
【0013】
このような構成とすれば、高溶解度係数部を、連続した層状に形成することにより、電解質層との界面全体の近傍において、過剰な水素原子を効率良く吸収することができ、水素分子が生じることに起因する空泡の形成を抑制することができる。
【0014】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の水素透過性金属層・電解質複合体を備える燃料電池や水素ポンプ、あるいは水素濃度センサなどの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.燃料電池の構成:
B.製造方法:
C.発電時の動作:
D.変形例:
【0016】
A.燃料電池の構成:
図1は、本発明の好適な一実施例である燃料電池を構成する単セル20の構成の概略を表わす断面模式図である。単セル20は、水素透過性金属層22と電解質層21とから成る水素透過性金属層・電解質複合体23と、電解質層21上に形成されるカソード24と、ガスセパレータ27,29とを備えている。ガスセパレータ27と水素透過性金属層22との間には、水素を含有する燃料ガスが通過する単セル内燃料ガス流路30が形成されている。また、ガスセパレータ29とカソード24との間には、酸素を含有する酸化ガスが通過する単セル内酸化ガス流路32が形成されている。水素透過性金属層22、電解質層21およびカソード24から成る構造を、以下、MEA(Membrane Electrode Assembly)40と呼ぶ。図1では単セル20を示したが、実際の本実施例の燃料電池は、図1の単セル20を複数積層したスタック構造を有している。なお、図示は省略しているが、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、あるいは所定数の単セルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路を設けても良い。
【0017】
図2は、図1に示す水素透過性金属層22を拡大して、その構成をさらに詳しく示す断面模式図である。水素透過性金属層22は、水素透過性を有する金属によって形成される水素透過層50と、水素透過層50上に形成され、水素透過層50を構成する水素透過性金属における水素の溶解度係数よりも高い水素の溶解度係数を示す高溶解度係数材料から成る高溶解度係数部52と、高溶解度係数部52上に形成され、水素原子をプロトン化させる活性を有する貴金属を備える触媒層54と、を備える。このような水素透過性金属層22は、単セル内燃料ガス流路30を流れる水素を透過させ、プロトンとして電解質層21に受け渡す層であり、燃料電池におけるアノード電極としての機能を果たす。以下、水素透過性金属層22を構成する各層について、さらに詳しく説明する。
【0018】
水素透過層50は、本実施例では、パラジウム(Pd)から成る金属膜によって構成されている。パラジウムは、水素を主として水素原子として透過させる性質に加えて、水素分子を水素原子へと解離させる活性を有する。そのため、単セル内燃料ガス流路30を流れる水素は、この水素透過層50の表面において水素原子に解離され、主として水素原子として水素透過層50内部を透過する。なお、水素透過層50の厚みは、例えば、30〜100μmとすることができる。
【0019】
高溶解度係数部52は、本実施例では、水素透過層50を構成するパラジウムよりも水素の溶解度係数が大きい水素吸蔵合金から成る層によって構成されている。水素吸蔵合金とは、周囲の水素ガス濃度の高まりと共に水素を吸蔵し、周囲の水素ガス濃度の低下に伴って水素を放出する合金であり、水素が原子の状態で内部に拡散するときに、結晶格子間で水素との固溶体を形成することによって、金属水素化物を形成する合金である。一般には、水素を吸収しやすい金属と、水素を吸収し難い金属とを所定の割合で適宜組み合わせて合金化することによって、水素の吸蔵および放出を両立する水素吸蔵合金が作製されている。具体的には、高溶解度係数部52を構成する水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi5合金、TiFe合金、Mg2Ni合金あるいはFe0.9Ni0.1Ti合金を用いることができる。なお、本実施例では、高溶解度係数部52を連続した層状に形成しており、このような高溶解度係数部52の厚みは、例えば、0.1〜5μmとすることができる。
【0020】
触媒層54は、本実施例では、水素透過層50と同様にパラジウムによって形成されている。パラジウムは、既述した性質に加え、さらに、水素原子からプロトンを生じる活性を有している。そのため、水素透過層50および高溶解度係数部52を透過して触媒層54に達した水素原子は、触媒層54においてプロトン化し、電解質層21へと受け渡される。なお、触媒層54の厚みは、水素透過性金属層22における電解質層21との界面において、上記した触媒活性を実現可能な厚みであれば良く、例えば、0.01〜2μmとすることができる。
【0021】
また、既述した図1に示す電解質層21は、プロトン伝導性を有する固体電解質から成る層である。本実施例では、ペロブスカイト型固体酸化物によって電解質層21を形成しており、具体的には、例えば、BaCe0.80.23や、SrZr0.8In0.23によって電解質層21を形成することができる。電解質層21は、緻密な水素透過性金属層22上に成膜されるため、充分な薄膜化が可能となる。このように、電解質層21をより薄く形成することによって電解質層21の膜抵抗を低減することができるため、従来の固体電解質型燃料電池の運転温度よりも低い温度である約200〜600℃程度で燃料電池を運転することが可能になる。なお、電解質層21の厚みは、例えば、0.1〜5μmとすることができる。
【0022】
カソード24は、電解質層21上に成膜された金属層であり、電気化学反応を促進する触媒活性を有する貴金属により形成されている。本実施例では、カソード24はパラジウムにより形成されている。白金(Pt)等、水素透過性を有しない他種の貴金属によりカソード24を構成する場合には、カソード24を充分に薄く形成するなどにより、カソード24の外側(単セル内酸化ガス流路32側)と電解質層21との間にガス透過性を確保すればよい。
【0023】
ガスセパレータ27,29は、カーボンや金属などの導電性材料で形成されたガス不透過な部材である。ガスセパレータ27,29の表面には、既述した単セル内燃料ガス流路30や単セル内酸化ガス流路32を形成するための所定の凹凸形状が形成されている。なお、図1に示した単セル20において、MEA40とガスセパレータとの間に、さらに、導電性と共にガス透過性を有する部材、例えば発泡金属や金属メッシュなどの金属多孔質体やカーボンペーパなどのカーボン多孔質体を配置することとしても良い。
【0024】
燃料電池に供給される燃料ガスとしては、炭化水素系燃料を改質して得られる水素リッチガスを用いても良いし、純度の高い水素ガスを用いても良い。また、燃料電池に供給される酸化ガスとしては、例えば空気を用いることができる。
【0025】
B.製造方法:
以下に、単セル20の製造方法を説明する。図3は、単セル20を構成するMEA40の製造工程を表わす説明図である。
【0026】
MEA40を作成する際には、まず、水素透過層50を用意する(ステップS100)。本実施例では、水素透過層50として、パラジウムの金属膜を用意する。
【0027】
次に、ステップS100で用意した水素透過層50の一方の面上に、高溶解度係数部52、すなわち、水素吸蔵合金から成る層を形成する(ステップS110)。水素吸蔵合金から成る層は、例えば、既述した水素吸蔵合金を成膜材料として、スパッタ法、PLD法等の物理蒸着法(PVD)あるいは化学蒸着法(CVD)により形成することができる。あるいは、ステップS110に代えて、水素吸蔵合金から成る層を、水素透過層50とは別体の金属箔として用意し、この金属箔を、ステップS100で用意した水素透過層50上にクラッド接合した後に、全体を所定の膜厚へと圧延する工程を行なっても良い。
【0028】
次に、ステップS110で形成した高溶解度係数部52上に、パラジウムから成る触媒層54を形成する(ステップS120)。触媒層54は、例えば、スパッタ法、PVDあるいはCVDによって形成することができる。
【0029】
その後、水素透過性金属層22における触媒層54上に、電解質層21を形成して、水素透過性金属層・電解質複合体23を作製する(ステップS130)。電解質層21は、水素透過性金属層22上に、既述した固体酸化物を生成させつつ成膜させることによって形成される。成膜の方法としては、例えば、PVD、CVD、あるいは、スパッタ法やゾルゲル法を用いることができる。
【0030】
次に、電解質層21上にカソード24を形成して(ステップS140)、MEA40を完成する。カソード24は、例えば、PVDやCVDにより形成することができる。
【0031】
燃料電池を組み立てる際にはさらに、図3に従って作製したMEA40を挟持するようにガスセパレータ27および29を配設して単セル20を形成し、さらにこの単セル20を所定数積層する。
【0032】
C.発電時の動作:
図4は、本実施例の燃料電池の発電中における水素透過性金属層22と電解質層21との界面近傍の様子を表わす説明図である。燃料電池が発電する際には、単セル内燃料ガス流路を流れる水素ガスは、水素原子に解離して水素透過性金属層22内を透過し、プロトンとして電解質層21へと受け渡される。その際には、既述したように、水素透過性金属層22内を透過する水素原子が、電解質層21との界面においてプロトン化する。この、水素透過性金属層22表面におけるプロトン化の活性が、水素透過性金属層22内を透過する水素原子量に比べて不十分になると、水素透過性金属層22における電解質層21との界面近傍では、水素原子が蓄積されることになる。図4(A)は、水素透過性金属層22を透過する水素原子量に比べて、水素透過性金属層22における電解質層21との界面に形成される触媒層54でのプロトン化の活性が不足する様子を表わす。例えば、燃料電池における出力電流量が増大したとき、あるいは、燃料電池の発電の動作が長時間にわたって継続される場合に、触媒層54におけるプロトン化の活性が不足する状態となり易い。
【0033】
本実施例の燃料電池では、このように触媒層54におけるプロトン化の活性が不足して水素原子の濃度が部分的に高まるときには、電解質層21との界面近傍に設けた高溶解度係数部52が、界面近傍に蓄積されつつある水素原子を吸収する。図4(B)は、高溶解度係数部52に過剰な水素原子が吸収される様子を模式的に表わしている。
【0034】
これに対して、水素透過性金属層において高溶解度係数部52を設けない場合には、界面近傍に蓄積された水素原子が再結合して水素分子を生じる反応が進行するようになり、生じた水素分子(水素ガス)によって、空泡(ボイド)が形成される。図4(C)は、水素透過性金属層22において、界面近傍に、水素ガスによって空泡が形成される様子を模式的に表わしている。
【0035】
このような、水素分子の生成に起因する空泡の形成、および、高溶解度係数部52を設けることによる空泡形成の抑制の機構は、以下のように考えることができる。すなわち、水素透過性金属層22の界面近傍で水素分子を生じる反応は、結晶粒界などの結晶構造上比較的弱い部位で進行すると考えられる。ここで、粒界において生じた水素分子による水素分圧を仮想的にPH2とすると、この水素分圧PH2は、粒界周囲に存在する金属内に溶解する水素濃度(溶解量S)との間で、温度が一定の場合には、以下の(1)式が成り立つ(Sievertsの法則)関係にある。
【0036】
S=K√(PH2) …(1)
ただし、Kは粒界周囲の金属における水素の溶解度係数。
【0037】
ここで、本実施例では、水素分子が生じる粒界の周囲に、水素の溶解度係数Kがより高い水素吸蔵合金配置されているため、水素透過性金属層22内における水素濃度(溶解量S)が所定値であるときには、上記(1)式より、水素吸蔵合金を配置しない場合に比べて、粒界内における水素分圧がより低く抑えられる。これにより、水素透過性金属層22内における水素濃度(溶解量S)が上昇しても、粒界内における水素分圧の上昇を抑制し、粒界の空泡への成長を抑えることができる。
【0038】
これに対して、水素吸蔵合金から成る高溶解度係数部52を設けない場合には、粒界周囲に存在する水素透過性金属における水素濃度(溶解量S)が高まったときには、粒界内における水素分圧が、より速やかに上昇する。そして、粒界内の圧力上昇によって粒界壁面が押し広げられ、粒界から空泡への成長が進行する。
【0039】
以上のように構成された本実施例の燃料電池によれば、水素透過性金属層22において、電解質層21との界面近傍に高溶解度係数部52が配置されているため、水素透過性金属層22を透過する水素原子量に対して触媒層54におけるプロトン化の活性が不十分となる場合であっても、過剰な水素原子を高溶解度係数部52が吸収することによって、上記界面近傍で生じる水素分子に起因する空泡の生成を抑制することができる。このように、水素透過性金属層22と電解質層21との界面近傍において、水素分子の生成に起因する空泡の発生が抑えられることにより、水素透過性金属層22と電解質層21との間の剥離に起因する燃料電池の耐久性の低下や、水素透過性金属層22と電解質層21との間の実効面積の減少を抑えることができる。
【0040】
なお、水素吸蔵合金は、周囲の水素濃度に応じて水素を吸蔵する機能に優れるものの、水素の拡散係数はパラジウムに比べて小さい。すなわち、内部における水素透過速度はパラジウムに比べて遅い。そのため、水素透過性金属層22全体における水素透過速度を高め、燃料電池性能を確保するためには、高溶解度係数部52は、充分に薄く形成することが望ましい。したがって、高溶解度係数部52の厚さは、水素透過性金属層22における水素透過速度と、高溶解度係数部52が水素を吸収することによる効果とのバランスを考慮して、適宜設定すれば良い。
【0041】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0042】
D1.変形例1:
実施例では、水素透過層50上に形成される高溶解度係数部52は、水素吸蔵合金を用いて連続した層状に形成したが、非連続な形状に形成しても良い。例えば、水素透過層50の面上に形成される互いに解離した複数の層状、いわゆる島状に形成することができる。高溶解度係数部52を島状に形成するには、実施例と同様にスパッタ法やPVDあるいはCVDによって高溶解度係数部52を形成する際に、高溶解度係数部52を、充分に薄く、例えば0.01〜0.1μm程度の厚みで形成すればよい。
【0043】
水素吸蔵合金をいわゆる島状に配置する場合であっても、水素吸蔵合金を配置した部位では、実施例と同様に(1)式における溶解度係数Kが高くなることにより、粒界などにおける水素分圧の上昇が抑えられて、空泡の成長が抑制される。また、水素吸蔵合金を島状に配置する場合に、配置された水素吸蔵合金から若干離れた水素吸蔵合金の近傍領域においては、水素吸蔵合金に多くの水素原子が溶解することによって、粒界周囲の水素透過性金属内に溶解する水素濃度が相対的に低下することになる。すなわち、既述した(1)式において溶解量Sが小さくなる。そのため、このような領域においても、粒界における水素分圧が抑えられ、水素透過性金属層22の界面全体において、空泡の成長が抑制される。このように、層状以外の形状であっても、粒界近傍に高溶解度係数部を配置するならば、空泡成長を抑える効果が得られる。なお、水素吸蔵合金を島状に配置する場合には、水素透過性金属層22の界面全体にわたって空泡成長を抑える効果をより充分に得るためには、水素吸蔵合金の分散度を、より高くすることが望ましい。
【0044】
D2.変形例2:
実施例では、触媒層54は、水素透過性金属層22において電解質層21との界面全体を覆うように形成されているが、異なる形状としても良い。例えば、実施例と同様に連続した層状に形成された高溶解度係数部52上において、触媒層54を、いわゆる島状に形成しても良い。水素透過性金属層22における電解質層21との界面で、水素原子をプロトン化する活性が確保できれば良く、このような触媒層の近傍に高溶解度係数部52を設けることにより、プロトン化の活性が不十分となったときには、界面における空泡の生成を抑制することができる。
【0045】
また、触媒層54は、パラジウム以外の貴金属によって構成しても良く、水素原子をプロトン化する活性を有していればよい。ここで、用いる貴金属が、プロトン化の活性は有するが水素透過性能が充分ではない場合には、触媒層54を緻密な膜として形成するのではなく、いわゆる島状に形成すればよい。
【0046】
D3.変形例3:
実施例では、いわゆる水素吸蔵合金によって高溶解度係数部52を構成したが、異なる材料によって高溶解度係数部52を構成しても良く、水素透過性金属層22全体の平均値よりも、水素の溶解度係数が高い材料によって高溶解度係数部52を構成するならば、同様の効果が得られる。このような高溶解度係数部52を構成する材料は、金属以外の材料であっても良い。例えば、炭素系吸着材(活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等)によって高溶解度係数部52を構成しても良い。これらの炭素系吸着材から成る高溶解度係数部52を形成するには、上記炭素系吸着材を成膜材料として、例えばPLD法などのPVDや、エアロゾルデポジション法により水素透過層50上に成膜を行なえば良い。上記した炭素系吸着材や水素吸蔵合金のように、周囲の水素濃度の高まりと共により多くの水素を内部に保持し、周囲の水素濃度の低下と共に水素を放出する材料によって高溶解度係数部52を構成すれば、燃料電池による発電を継続する際に、繰り返し所定の効果を得ることができる。
【0047】
D4.変形例4:
実施例では、水素透過層50をパラジウムによって形成したが、異なる構成としても良い。例えば、Pd−Ag(23%)合金などのパラジウム合金によって水素透過層50を形成することができる。あるいは、水素透過層50を、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の水素透過性を有する5族金属、または5族金属合金から成る層の少なくとも一方の表面に、パラジウム層あるいはパラジウム合金層を形成した積層膜によって形成しても良い。上記パラジウム層あるいはパラジウム合金層は、単セル内燃料ガス流路30側の表面に配置されることにより、水素を解離させる活性を示す。なお、5族金属合金から成る層としては、例えば、V−Cr(15%)合金や、Nb−Ni(10%)合金を挙げることができる。
【0048】
D5.変形例5:
実施例では、電解質層21を構成する固体酸化物としてペロブスカイト型固体酸化物を用いているが、異なる種類の固体酸化物を用いても良い。例えば、La2Zr27、Sm2Zr1.80.27等のパイロクロア型固体酸化物、LaPO4等のモナザイト型固体酸化物、LaBO3等のアラゴナイト型固体酸化物、SiO2−P25、SiO2−H2SO4等のガラス固体酸化物を用いることができる。これらの固体酸化物を用いる場合にも、水素透過性金属層において、固体酸化物との界面近傍に、高溶解度係数部52を設けることにより、空泡の形成を抑える同様の効果が得られる。
【0049】
D6.変形例6:
実施例では、水素透過性金属層22を、水素透過性を有する金属薄膜、すなわち自立膜として形成したが、異なる構成としても良い。例えば、ガス透過性を有する板状部材(多数の穴を開けたステンレス鋼製の薄板や、金属あるいはセラミックス製の多孔質体など)の上に水素透過性金属を担持させることにより、水素透過性金属層を形成することができる。このような構成とすれば、水素透過性金属層を、さらに薄型化することができる。
【0050】
D7.変形例7:
実施例では、水素透過性金属層22と電解質層21とから成る水素透過性金属層・電解質複合体を、固体電解質型燃料電池に用いたが、異なる構成としても良い。例えば、実施例と同様の水素透過性金属層・電解質複合体を、水素ポンプや水素濃度センサなどの装置に用いることができる。一例として、本発明の水素透過性金属層・電解質複合体を備える水素ポンプの構成について以下に説明する。
【0051】
図5は本発明の水素透過性金属層・電解質層複合体を備える水素ポンプ220の概略構成を表わす断面模式図である。水素ポンプ220は、実施例と同様の水素透過性金属層・電解質複合体23を有し、実施例の単セルと類似する構成を備えている。図5の水素ポンプ220は、水素透過性金属層・電解質複合体23に加えて、さらに電極224と、ホルダ227,229と、電源250とを備えている。
【0052】
ここで、電極224は、単セル20のカソード24と同様にして形成されている。また、ホルダ227,229は、その表面に所定形状の溝を有している。水素ポンプ220内において、上記溝は、ホルダ227,229と隣接する水素透過性金属層22あるいは電極224との間で、それぞれ、混合ガス流路230あるいは水素流路232を形成する。混合ガス流路230においては、外部から供給された水素を含有する混合ガスが流れる。また、水素流路232では、水素ポンプ220の働きで上記混合ガスから抽出された水素ガスが流入し、この水素ガスは、水素流路232から水素ポンプ外部へと排出される。
【0053】
電源250は、直流定電圧電源であり、ホルダ227,229に接続されている。電源250のプラス側はホルダ229と接続されており、マイナス側はホルダ227と接続されている。水素ポンプ220の駆動時には、電源250によって両ホルダ間に電圧を印加しつつ、混合ガス流路230に対して混合ガスを供給する。これにより、混合ガス中の水素は、水素透過性金属層22において電子を失って電解質層21内をプロトンとして移動し、このプロトンは、電極224で再び電子を受け取って水素ガスとなる。このようにして、水素ポンプ220を用いることで、混合ガスから純度の高い水素が取り出される。
【0054】
上記のように、プロトン伝導性を有する電解質層を備える装置において本発明を適用し、電解質層として本発明の水素透過性金属層・電解質層複合体を備えさせることで、装置の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】単セル20の構成の概略を表わす断面模式図である。
【図2】水素透過性金属層22を拡大して示す断面模式図である。
【図3】MEA40の製造工程を表わす説明図である。
【図4】水素透過性金属層22と電解質層21との界面近傍の様子を表わす説明図である。
【図5】水素ポンプ220の概略構成を表わす断面模式図である。
【符号の説明】
【0056】
20…単セル
21…電解質層
22…水素透過性金属層
23…電解質複合体
24…カソード
27,29…ガスセパレータ
30…単セル内燃料ガス流路
32…単セル内酸化ガス流路
40…MEA
50…水素透過層
52…高溶解度係数部
54…触媒層
220…水素ポンプ
224…電極
227,229…ホルダ
230…混合ガス流路
232…水素流路
250…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素透過性金属層・電解質複合体であって、
一方の表面に水素原子をプロトン化させる活性を有する貴金属を備えた水素透過性金属層であって、該水素透過性金属層における水素の溶解度係数の平均値よりも高い水素の溶解度係数を示す高溶解度係数材料から成る高溶解度係数部を、前記一方の表面の近傍に有する水素透過性金属層と、
前記水素透過性金属層の前記一方の表面上に設けられ、プロトン伝導性を有する固体酸化物から成る電解質層と
を備える水素透過性金属層・電解質複合体。
【請求項2】
請求項1記載の水素透過性金属層・電解質複合体であって、
前記高溶解度係数材料は、周囲の水素濃度の高まりと共により多くの水素を内部に保持し、周囲の水素濃度の低下と共に水素を放出する
水素透過性金属層・電解質複合体。
【請求項3】
請求項2記載の水素透過性金属層・電解質複合体であって、
前記高溶解度係数材料は、水素吸蔵合金である
水素透過性金属層・電解質複合体。
【請求項4】
請求項2記載の水素透過性金属層・電解質複合体であって、
前記高溶解度係数材料は、炭素系吸着材である
水素透過性金属層・電解質複合体。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の水素透過性金属層・電解質複合体であって、
前記高溶解度係数部は、前記水素透過性金属層の内部における前記電解質層との界面近傍に、連続した層状に形成され、
前記水素透過性金属層は、前記高溶解度係数部上であって、前記電解質層との界面を含む領域に、前記貴金属を備える
水素透過性金属層・電解質複合体。
【請求項6】
燃料電池であって、
請求項1ないし5いずれか記載の水素透過性金属層・電解質複合体と、
前記電解質層上に設けられるカソード電極と
を備え、
前記水素透過性金属層上に、水素を含有する燃料ガスが流れる燃料ガス流路が形成されると共に、前記カソード電極上に、酸素を含有する酸化ガス流路が形成される
燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate