説明

水耕栽培方法および水耕栽培装置

【課題】培養液中に含まれる鉄やマンガンが酸化されて難溶性になるのを防止した水耕栽培方法および水耕栽培装置を提供する。
【解決手段】本発明の水耕栽培方法は、空気または酸素からオゾンを生成する工程Aと、培養液タンクに貯留されている培養液に前記オゾンを供給する工程Bと、前記培養液に、キレート剤を供給する工程Cと、植物が配置された培養棚に、前記キレート剤を添加した培養液を供給する工程Dと、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンによる殺菌法を用いた水耕栽培方法および水耕栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培で発生する植物の主な病害としては、例えば、水や培養液による感染が挙げられる。培養液に病原菌が混入した場合、壊滅的な被害になることがある。そこで、近年、培養液の殺菌方法としては、オゾンを用いた殺菌方法が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】拓殖秀樹監修、「マイクロバブル・ナノバブルの最新技術」pp.204−214(2007)、シーエムシー出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オゾンを用いた殺菌法では、オゾンの強力な酸化力により、培養液中に溶解している微量要素の溶解鉄(Fe)や溶解マンガン(Mn)が酸化されて難溶性となり沈殿して培養液能を低下させるという問題があった。
溶解鉄や溶解マンガンは微量要素ではあるものの、植物の生育にとって重要な要素である。そこで、オゾン殺菌法を用いる生産者は、溶解鉄や溶解マンガンなどのミネラル成分を多く含む追肥用の肥料を、培養液タンク内に施肥することによって、微量要素の欠乏を防いでいた。しかしながら、このような対策では、生産者は高価な肥料を購入し続ける必要がある上に、水耕栽培装置内や培養液タンク内などに生じた沈殿物の除去のための労力も必要であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、培養液に含まれる溶解鉄や溶解マンガンが酸化されて難溶性になるのを防止した水耕栽培方法および水耕栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水耕栽培方法は、空気または酸素からオゾンを生成する工程Aと、培養液タンクに貯留されている培養液に前記オゾンを供給する工程Bと、前記培養液に、キレート剤を供給する工程Cと、植物が配置された培養棚に、前記キレート剤を添加した培養液を供給する工程Dと、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の水耕栽培方法において、前記工程Cは、前記工程Bの前または前記工程Bの後に行うことができるが、前記工程Bの前に行うことが好ましい。
【0008】
本発明の水耕栽培方法において、前記工程Aに続いて、前記工程Aにて生成したオゾンを、マイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する工程Eを備えたことが好ましい。
【0009】
本発明の水耕栽培装置は、植物が配置される培養棚と、前記培養棚に供給する培養液を貯留する培養液タンクと、前記培養液タンクから前記培養棚へ前記培養液を供給するための培養液供給路と、空気または酸素からオゾンを生成するオゾン発生装置と、前記培養液に供給するキレート剤を貯留するキレート剤タンクと、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の水耕栽培装置は、植物が配置される培養棚と、前記培養棚に供給する培養液を貯留する培養液タンクと、前記培養液タンクから前記培養棚へ前記培養液を供給するための培養液供給路と、空気または酸素からオゾンを生成するオゾン発生装置と、前記生成したオゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化して、前記培養液タンク内の培養液に供給するマイクロバブル発生装置と、前記培養液に供給するキレート剤を貯留するキレート剤タンクと、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の水耕栽培装置において、前記培養液タンク、または、前記培養棚と前記培養液タンクの間に設けられた培養液攪拌タンクと、前記キレート剤タンクとの間に、前記培養液タンクまたは前記培養液攪拌タンクに前記キレート剤を供給するためのキレート剤供給路が設けられたことが好ましい。
【0012】
本発明の水耕栽培装置において、前記培養液タンク内に、前記オゾン発生装置にて生成したオゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化するマイクロバブル発生装置が設けられたことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水耕栽培で用いられる培養液中に含まれる溶解鉄や溶解マンガンが沈殿する前に、培養液にキレート剤を添加するか、あるいは、沈殿物が生じた培養液にキレート剤を添加することにより、沈殿物となった鉄やマンガンの酸化物を培養液中に再溶解させることができ、沈殿物の析出を抑制でき、水耕栽培の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水耕栽培装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の水耕栽培装置の第二の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解鉄含有量との関係を示し、(a)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてEDTAを添加したときの培養液中の溶解鉄含有量を示すグラフであり、(b)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてDTPAを添加したときの培養液中の溶解鉄含有量を示すグラフである。
【図4】キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解マンガン含有量との関係を示し、(a)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてEDTAを添加したときの培養液中の溶解マンガン含有量を示すグラフであり、(b)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてDTPAを添加したときの培養液中の溶解マンガン含有量を示すグラフである。
【図5】キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解鉄含有量との関係を示し、(a)はキレート剤としてEDTAを添加し、pH調整前後の培養液中の溶解鉄含有量を示すグラフであり、(b)はキレート剤としてDTPAを添加し、pH調整前後の培養液中の溶解鉄含有量を示すグラフである。
【図6】キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解マンガン含有量との関係を示し、(a)はキレート剤としてEDTAを添加し、pH調整前後の培養液中の溶解マンガン含有量を示すグラフであり、(b)はキレート剤としてDTPAを添加し、pH調整前後の培養液中の溶解マンガン含有量を示すグラフである。
【図7】オゾン供給前の培養液中へのキレート剤添加による、オゾン供給直後の溶解鉄の残存効果を示すグラフである。
【図8】オゾン供給前の培養液中へのキレート剤添加による、オゾン供給直後の溶解マンガンの残存効果を示すグラフである。
【図9】オゾン供給前の培養液中へのキレート剤添加による、オゾン供給後の溶解マンガンの残存効果の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の植物の栽培方法および植物の栽培装置の実施の形態について説明する。
なお、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
(1)第一の実施形態
図1は、本発明の水耕栽培装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
本実施形態の水耕栽培装置10は、培養棚11と、培養液タンク12と、培養液供給路13と、オゾン発生装置14と、キレート剤タンク15と、培養液回収路16と、マイクロバブル発生装置17と、オゾン供給路20とから概略構成されている。
【0017】
培養棚11は、その上面側に、水耕栽培装置10によって栽培される植物30を配置するための部位が設けられている。また、培養棚11は、その内部に、培養液タンク12から供給された培養液40を溜めるための空間が設けられている。
【0018】
培養液タンク12は、培養棚11に供給する培養液40を貯留するためのものである。培養液タンク12は、培養液供給路13を介して、培養棚11と連結されている。そして、培養液供給路13を介して、培養液タンク12から培養棚11へ培養液40が供給される。
また、培養液供給路13の途中には、ポンプ18が設けられ、このポンプ18によって、培養液タンク12から培養棚11へ培養液40が供給される。
さらに、培養液タンク12には、培養液40内に含まれる成分を均一化するために、培養液40を攪拌する攪拌翼19が設けられている。
【0019】
オゾン発生装置14は、空気または酸素からオゾンを生成し、そのオゾンをオゾン供給路20とマイクロバブル発生装置17を介して培養液タンク12内の培養液40に供給する。
オゾン発生装置14としては、特に限定されず、公知のものが用いられる。
また、培養液タンク12内に、オゾン発生装置14にて生成したオゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化するためのマイクロバブル発生装置17が設けられている。すなわち、マイクロバブル発生装置17は、オゾン発生装置14から発生したオゾンを培養液タンク12内にて、培養液40中にマイクロまたはナノレベルの微小泡で供給可能としている。
マイクロバブル発生装置17としては、いかなる方式によってバブルを発生させるものでもよく、例えば、内部に供給された培養液とオゾンとの混合物の旋回流を発生させて、オゾンをマイクロナノバブル化する方式(例えば、特許第3682286号公報に記載された旋回流方式の微細気泡発生器)や加圧溶解方式、特開2007−229674号公報に開示されたようにフリップフロップ流によって生じるラム効果を用いてマイクロナノバブルを発生させる方式を採用してもよく、特に限定されず、公知のものが用いられる。
【0020】
キレート剤タンク15は、培養液タンク12内の培養液40に供給するキレート剤を貯留するためのものである。キレート剤タンク15は、キレート剤供給路21を介して、培養液タンク12と連結されている。そして、キレート剤供給路21を介して、キレート剤タンク15から培養液タンク12へキレート剤が供給される。
また、キレート剤供給路21の途中には、ポンプ22が設けられ、このポンプ22によって、キレート剤タンク15から培養液タンク12へキレート剤が供給される。
【0021】
培養液回収路16は、培養棚11から培養液タンク12へ、培養液40を回収するためのものである。
また、培養液回収路16の途中には、ポンプ23が設けられ、このポンプ23によって、培養棚11から培養液タンク12へ培養液40が供給される。
【0022】
水耕栽培装置10によれば、培養液タンク12内の培養液40にキレート剤を供給するためのキレート剤タンク15が設けられているので、培養液タンク12内の培養液40にキレート剤を添加して、培養液40に含まれる鉄イオン(Fe3+)やマンガンイオン(Mn2+)がキレート錯体を形成して、溶解鉄が酸化物を形成して難溶性の沈殿となることや、溶解マンガンが酸化物を形成して難溶性の沈殿となることを防止し、鉄やマンガンが培養液40に溶解可能な状態を保つことができる。
【0023】
なお、本実施形態では、オゾン発生装置14と培養液タンク12の間に、マイクロバブル発生装置17が設けられた場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、オゾン発生装置と培養液タンクの間に、マイクロバブル発生装置が設けられていなくてもよい。
【0024】
次に、図1を参照して、本発明の水耕栽培方法の第一の実施形態を説明するとともに、水耕栽培装置10の作用を説明する。
まず、培養液タンク12内に培養液40を充満する。
【0025】
培養液40は、植物30が成長するために必要な養分を含む肥料を水に溶かして調製したものである。
肥料としては、例えば、水耕(養液)栽培用肥料である、カネコ養液栽培用肥料ファームエース1号(商品名、カネコ種苗社製)およびカネコ養液栽培用肥料ファームエース2号(商品名、カネコ種苗社製)が用いられる。
【0026】
カネコ養液栽培用肥料ファームエース1号は、窒素全量10.0質量%(うちアンモニア性窒素1.7質量%、硝酸性窒素8.0質量%)、水溶性リン酸8.0質量%、水溶性カリウム26.0質量%、水溶性苦土4.0質量%、水溶性マンガン0.10質量%、水溶性鉄0.15質量%、水溶性ホウ素0.10質量%を含む粉末状の肥料である。
カネコ養液栽培用肥料ファームエース2号は、硝酸性窒素11.0質量%を含む粉末状の肥料である。
【0027】
カネコ養液栽培用肥料ファームエース1号および2号を用いて、培養液40を調製する場合、水にカネコ養液栽培用肥料ファームエース1号を溶解させた後、その溶液に、カネコ養液栽培用肥料ファームエース2号を添加して、溶解させる。
【0028】
培養液40の濃度、すわなち、培養液40における肥料の含有率は、特に限定されず、植物30の種類などに応じて適宜調整されるが、肥料メーカーの処方箋を基準にすることが好ましい。
【0029】
次いで、培養棚11の所定位置に、植物30の苗または種子を配置する。
【0030】
本発明を適用可能な植物としては、特に限定されず、野菜類、花卉類、穀類などが挙げられる。
野菜類としては、葉菜類、根菜類および果菜類が挙げられる。
【0031】
葉菜類としては、小松菜、ホウレン草、レタス、ミツバ、ネギ、ニラ、サラダ菜、パセリ、青梗菜、春菊、ペパーミント、甘草およびバジルの群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
根菜類としては、大根、二十日大根、人参、朝鮮人参、わさび、じゃがいも、サツマイモ、カブおよび生姜の群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
果菜類としては、トマト、イチゴ、胡瓜、メロン、茄子およびピーマンの群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
花卉類としては、バラ、シクラメン、チューリップ、キンギョソウ、ダリア、キク、ガーベラおよびランの群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0035】
穀類としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、マメおよび雑穀の群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0036】
次いで、オゾン発生装置14により、空気または酸素からオゾンを生成する(工程A)。
【0037】
次いで、マイクロバブル発生装置17により、工程Aにて生成したオゾンを、培養液40中でマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する(工程E)。
【0038】
なお、ここでいうマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化したオゾンとは、具体的には、殺菌効果の面で平均直径が50μm以下であることが好ましい。
【0039】
このようにして、培養液タンク12内の培養液40中に、オゾンの微小泡が供給される(工程B)。
【0040】
培養液40に供給するオゾンの量は、特に限定されず、培養液40の濃度、すなわち、培養液40における肥料の含有率、季節および植物の種類などに応じて適宜調整され、通常、オゾン供給直後の培養液中の濃度が0.1〜10ppmとなるようにする。
なお、培養液40に供給されたオゾンは、攪拌翼19によって培養液40に均一に拡散される。
【0041】
次いで、キレート剤タンク15から培養液タンク12内のオゾンを含む培養液40へキレート剤を供給する(工程C)。
【0042】
培養液40に供給するキレート剤の量は、特に限定されず、培養液40の濃度、すなわち、培養液40における肥料の含有率などに応じて適宜調整される。
なお、培養液40に供給されたキレート剤は、攪拌翼19によって培養液40に均一に拡散される。
【0043】
キレート剤としては、溶解鉄イオン(Fe3+)および溶解マンガンイオン(Mn2+)とキレート錯体を形成することができるものであれば特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が用いられる。
キレート剤は、溶解鉄イオンとキレート錯体を形成し、溶解鉄がオゾン存在下に酸化物を形成して難溶性の沈殿となることを防止し、鉄が培養液40に溶解可能な状態を保つことができる。
キレート剤は、溶解マンガンイオンとキレート錯体を形成し、溶解マンガンがオゾン存在下に酸化物を形成して難溶性の沈殿となることを防止し、マンガンが培養液40に溶解可能な状態を保つことができる。
【0044】
キレート剤としては、アミノカルボン酸系、ホスホン酸系、ポリマー系などが挙げられる。
アミノカルボン酸系のキレート剤としては、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、NTA(ニトリロ4酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン6酢酸)、PDTA(1,3−プロパンジアミン4酢酸)、DPTA−OH(1,3−ジアミン−2−ヒドロキシプロパン4酢酸)、HIDA(ヒドロキシエチルイミノ2酢酸)、DHEG(ジヒドロキシエチルグリシン)、DEGTA(グリコールエーテルジアミン4酢酸)、GyDTA(trans−シクロヘキサンジアミン4酢酸)、CMGA(ジカルボキシメチルグルタミン酸、EDDS((s、s)−エチレンジアミンジコハク酸)などが挙げられる。
ホスホン酸系のキレート剤としては、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)、NTMP(ニトリロtris(メチレンホスホン酸))、PBTC(ホスホノブタン3酢酸)、EDTMP(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))などが挙げられる。
ポリマー系のキレート剤としては、カルボキシメチルポリエチレンイミンなどが挙げられる。
これらのキレート剤は、それぞれ金属塩、例えば、ナトリウム塩であれば水溶性化するので好ましい。
【0045】
培養液40に供給するキレート剤の形態としては、粉末、あるいは、キレート剤を各種溶媒に溶解した溶液のいずれであってもよい。
キレート剤を溶液として用いる場合、溶媒としては、培養液に添加することから水が好ましい。
【0046】
ところで、水耕栽培では、培養液40が中性から微酸性であることが望ましい。したがって、培養液40にキレート剤を過剰に添加してしまい、培養液40のpHが低くなり過ぎた(培養液40が酸性に傾いた)場合、培養液40のpHを調整する必要がある。
【0047】
培養液40のpHを調整する方法としては、培養液にアルカリ溶液を添加する方法が用いられる。
アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液が用いられる。
【0048】
次いで、培養液タンク12から、植物30が配置された培養棚11へ、キレート剤を添加した培養液40を供給する(工程D)。
【0049】
培養棚11に培養液40を供給する量は、少なくとも植物30の根域が常に培養液40に浸かっている程度とし、例えば、培養棚11に設けられた培養液40を溜めるために空間が充満する程度とする。
また、培養液タンク12から培養棚11への培養液40の供給は、間欠的、あるいは、連続的のいずれであってもよい。すなわち、所定の期間毎に、培養棚11内の培養液40を入れ替えてもよく、あるいは、培養棚11内の培養液40を常に循環させていてもよい。
【0050】
次いで、培養棚11から培養液タンク12へ、培養液40を回収する。
【0051】
培養棚11から培養液タンク12への培養液40の回収は、間欠的、あるいは、連続的のいずれであってもよい。すなわち、所定の期間毎に、培養棚11内の培養液40を入れ替える毎に、培養棚11から培養液タンク12へ培養液40を回収してもよく、あるいは、培養液40を常に循環させて、培養棚11から培養液タンク12へ培養液40を回収してもよい。
【0052】
本実施形態の水耕栽培方法では、水耕栽培装置10による植物30の栽培中、上記の各工程が繰り返される。
【0053】
本実施形態の水耕栽培方法によれば、培養液40に含まれる溶解鉄や溶解マンガンが沈殿する前に、培養液タンク12内の培養液40にキレート剤を添加するか、あるいは、沈殿物が生じた培養液タンク12内の培養液40にキレート剤を添加することにより、沈殿物となった鉄やマンガンを培養液40中に再溶解させることができる。したがって、培養液40に追肥する必要がないので、追肥するよりも安価に行うことができる。
【0054】
また、本実施形態の水耕栽培方法によれば、培養棚11や培養液タンク12内に沈殿物が生じないので、培養棚11や培養液タンク12内を清掃するための労力を削減することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、工程Aに続いて、工程Aにて生成したオゾンを、マイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する工程Eを行う場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、工程Aに続いて、オゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する工程Eを行わなくてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、工程Bの後に工程Cを行う場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、工程Bの前に、工程Cにて、キレート剤タンクからオゾンを含まない培養液にキレート剤を供給してもよい。
【0057】
(2)第二の実施形態
図2は、本発明の水耕栽培装置の第二の実施形態を示す概略構成図である。
本実施形態の水耕栽培装置50は、培養棚51と、培養液タンク52と、培養液攪拌タンク53と、第一の培養液供給路54と、第二の培養液供給路55と、オゾン発生装置56と、キレート剤タンク57と、培養液回収路58と、マイクロバブル発生装置59と、オゾン供給路63とから概略構成されている。
【0058】
培養棚51は、その上面側に、水耕栽培装置50によって栽培される植物70を配置するための部位が設けられている。また、培養棚51は、その内部に、培養液攪拌タンク53から供給され、キレート剤が添加された培養液80を溜めるための空間が設けられている。
【0059】
培養液タンク52は、培養棚51に供給する培養液80A(80)を貯留するためのものである。培養液タンク52は、第一の培養液供給路54を介して、培養液攪拌タンク53と連結されている。そして、第一の培養液供給路54を介して、培養液タンク52から培養液攪拌タンク53へ培養液80A(80)が供給される。
また、第一の培養液供給路54の途中には、ポンプ60が設けられ、このポンプ60によって、培養液タンク52から培養液攪拌タンク53へ培養液80A(80)が供給される。
【0060】
培養液攪拌タンク53は、キレート剤が添加された培養液80B(80)を、攪拌して、培養液40内に含まれる成分を均一化するとともに、培養棚51に供給する培養液80B(80)を貯留するためのものである。培養液攪拌タンク53は、第二の培養液供給路55を介して、培養棚51と連結されている。そして、第二の培養液供給路55を介して、培養液攪拌タンク53から培養棚51へ培養液80B(80)が供給される。
また、第二の培養液供給路55の途中には、ポンプ61が設けられ、このポンプ61によって、培養液攪拌タンク53から培養棚51へ培養液80B(80)が供給される。
さらに、培養液攪拌タンク53には、培養液80B(80)内に含まれる成分を均一化するために、培養液80B(80)を攪拌する攪拌翼62が設けられている。
【0061】
オゾン発生装置56は、空気または酸素からオゾンを生成し、そのオゾンをオゾン供給路63とマイクロバブル発生装置59を介して培養液タンク52内の培養液80A(80)に供給する。
オゾン発生装置56としては、特に限定されず、公知のものが用いられる。
また、培養液タンク52内に、オゾン発生装置56にて生成したオゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化するためのマイクロバブル発生装置59が設けられている。すなわち、マイクロバブル発生装置59は、オゾン発生装置56から発生したオゾンを培養液タンク52内にて、培養液80(80A)中にマイクロまたはナノレベルの微小泡で供給可能としている。
マイクロバブル発生装置59としては、特に限定されず、公知のものが用いられる。
【0062】
キレート剤タンク57は、培養液攪拌タンク53内の培養液80B(80)に供給するキレート剤を貯留するためのものである。キレート剤タンク57は、キレート剤供給路64を介して、培養液攪拌タンク53と連結されている。そして、キレート剤供給路64を介して、キレート剤タンク57から培養液攪拌タンク53へキレート剤が供給される。
また、キレート剤供給路64の途中には、ポンプ65が設けられ、このポンプ65によって、キレート剤タンク57から培養液攪拌タンク53へキレート剤が供給される。
【0063】
培養液回収路58は、培養棚51から培養液タンク52へ、培養液80B(80)を回収するためのものである。
また、培養液回収路58の途中には、ポンプ66が設けられ、このポンプ66によって、培養棚51から培養液タンク52へ培養液80B(80)が供給される。
【0064】
水耕栽培装置50によれば、培養液攪拌タンク53内の培養液80B(80)にキレート剤を供給するためのキレート剤タンク57が設けられているので、培養液攪拌タンク53内の培養液80B(80)にキレート剤を添加して、培養液80B(80)に含まれる溶解鉄イオン(Fe3+)や溶解マンガンイオン(Mn2+)がキレート錯体を形成して、溶解鉄が酸化物を形成して難溶性の沈殿となることや、溶解マンガンが酸化物を形成して難溶性の沈殿となることを防止し、鉄やマンガンが培養液40に溶解可能な状態を保つことができる。
【0065】
なお、本実施形態では、培養液タンク52内に、マイクロバブル発生装置59が設けられた場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、オゾン発生装置と培養液タンクの間に、マイクロバブル発生装置が設けられていなくてもよい。
【0066】
次に、図2を参照して、本発明の水耕栽培方法の第二の実施形態を説明するとともに、水耕栽培装置50の作用を説明する。
まず、培養液タンク52内に培養液80A(80)を充満する。
【0067】
培養液80A(80)としては、上述の第一の実施形態と同様のものが用いられる。
【0068】
次いで、培養棚51の所定位置に、植物70の苗または種子を配置する。
【0069】
次いで、オゾン発生装置56により、空気または酸素からオゾンを生成する(工程A)。
【0070】
次いで、培養液タンク52内に設置したマイクロバブル発生装置59により、工程Aにて生成したオゾンを、マイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する(工程E)。
【0071】
このようにして、培養液タンク52内の培養液80A(80)中に、オゾンの微小泡を供給する(工程B)。
【0072】
次いで、培養液タンク52から培養液攪拌タンク53へオゾンを含む培養液80A(80)を供給する。
【0073】
次いで、キレート剤タンク57から培養液攪拌タンク53内のオゾンを含む培養液80A(80)にキレート剤を供給する(工程C)。
【0074】
キレート剤としては、上述の第一の実施形態と同様のものが用いられる。
【0075】
ところで、水耕栽培では、培養液80B(80)が中性から微酸性であることが望ましい。したがって、培養液80B(80)にキレート剤を過剰に添加してしまい、培養液80B(80)のpHが低くなり過ぎた(培養液80B(80)が酸性に傾いた)場合、培養液80B(80)のpHを調整する必要がある。
【0076】
キレート剤を添加した培養液80B(80)のpHを調整する方法としては、上述の第一の実施形態と同様の方法が用いられる。
【0077】
次いで、培養液攪拌タンク53から、植物70が配置された培養棚51へ、キレート剤を添加した培養液80B(80)を供給する(工程D)。
【0078】
培養棚51に培養液80B(80)を供給する量は、少なくとも植物70の根域が常に培養液80B(80)に浸かっている程度とし、例えば、培養棚51に設けられた培養液80B(80)を溜めるために空間が充満する程度とする。
また、培養液攪拌タンク53から培養棚51への培養液80B(80)の供給は、間欠的、あるいは、連続的のいずれであってもよい。すなわち、所定の期間毎に、培養棚51内の培養液80B(80)を入れ替えてもよく、あるいは、培養棚51内の培養液80B(80)を常に循環させていてもよい。
【0079】
次いで、培養棚51から培養液タンク52へ、培養液80B(80)を回収する。
【0080】
培養棚51から培養液タンク52への培養液80B(80)の回収は、間欠的、あるいは、連続的のいずれであってもよい。すなわち、所定の期間毎に、培養棚51内の培養液80B(80)を入れ替える毎に、培養棚51から培養液タンク52へ培養液80B(80)を回収してもよく、あるいは、培養液80B(80)を常に循環させて、培養棚51から培養液タンク52へ培養液80B(80)を回収してもよい。
【0081】
本実施形態の水耕栽培方法では、水耕栽培装置50による植物70の栽培中、上記の各工程が繰り返される。
【0082】
本実施形態の水耕栽培方法によれば、培養液80B(80)に含まれる溶解鉄や溶解マンガンが沈殿する前に、培養液攪拌タンク53内の培養液80B(80)にキレート剤を添加するか、あるいは、沈殿物が生じた培養液攪拌タンク53内の培養液80B(80)にキレート剤を添加することにより、沈殿物となった鉄やマンガンを培養液80B(80)中に再溶解させることができる。したがって、培養液80A(80)に追肥する必要がないので、追肥するよりも安価に行うことができる。
【0083】
また、本実施形態の水耕栽培方法によれば、培養棚51、培養液タンク52、培養液攪拌タンク53などの内部に沈殿物が生じないので、培養棚51、培養液タンク52、培養液攪拌タンク53などの内部を清掃するための労力を削減することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、工程Aに続いて、工程Aにて生成したオゾンを、マイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する工程Eを行う場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、工程Aに続いて、オゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する工程Eを行わなくてもよい。
【0085】
また、本実施形態では、工程Bの後に工程Cを行う場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、工程Bの前に、工程Cにて、キレート剤タンクからオゾンを含まない培養液にキレート剤を供給してもよい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
「実施例1」
容量10L(リットル)の容器に水道水を8L入れ、その状態で一昼夜放置して、水道水の脱塩素処理をした。
その後、その水道水に、水耕栽培用肥料(商品名:カネコ養液栽培用肥料ファームエース1号および2号、カネコ種苗社製)をメーカーの処方箋に基づく標準濃度で溶解させて、培養液を調製した。
次いで、流量2.5L/minに設定したオゾン(O)を、マイクロバブル発生装置(FS101−L1型、富喜製作所社製)を用いて、温度を20℃に設定した培養液中で5分間、オゾン微小泡を発生させた。オゾン発生から5分後の培養液の溶存オゾン濃度(DO)は、0.92ppmであった。
次いで、オゾンの供給とマイクロバブル発生装置を停止した直後に、オゾンを含む培養液を採取して、培養液100mLに対して、下記のキレート剤2種をそれぞれ0.1g、0.01g、0.005gおよび0.001g添加し、キレート剤と培養液からなる8種の溶液を攪拌、混合した。
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を主成分とするEDTA系キレート剤(商品名:クレワットN2、ナガセケムテック社製)、および、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を主成分とするDTPA系キレート剤(メルク社製)を用いた。
【0088】
一方、オゾンの供給とマイクロバブル発生装置を停止した培養液を3時間室温で放置して、培養液中に沈殿が生じたのを目視にて確認した後、培養液を採取して、培養液100mLに対して、上記キレート剤2種をそれぞれ0.1g、0.01g、0.005gおよび0.001g添加し、キレート剤と培養液からなる8種の溶液を攪拌、混合した。
キレート剤添加後の培養液のpHを測定し、その後、培養液中の溶解鉄含有量を分光光度計(UV−1700 pharma Spec、島津製作所社製)で測定した。
また、キレート剤添加後の培養液のpHを測定し、その後、培養液中の溶解マンガン含有量を原子吸光光度計(AA−7000、島津製作所社製)で測定した。
キレート剤の添加量と、培養液のpHとの関係を表1および表2に示す。
また、キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解鉄含有量との関係を図3に示す。なお、図3(a)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてEDTAを添加したときの培養液中の溶解鉄含有量を示し、図3(b)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてDTPAを添加したときの培養液中の溶解鉄含有量を示す。
また、キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解マンガン含有量との関係を図4に示す。なお、図4(a)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてEDTAを添加したときの培養液中の溶解マンガン含有量を示し、図4(b)はオゾン発生装置およびマイクロバブル発生装置を停止した直後と、培養液中に沈殿が生じた直後に、それぞれキレート剤としてDTPAを添加したときの培養液中の溶解マンガン含有量を示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1および表2の結果から、キレート剤の添加量が多くなる程、培養液のpHが低下することが確認された。また、EDTA系キレート剤を添加した場合よりも、DTPA系キレート剤を添加した場合の方が、培養液のpHが低下することが確認された。
【0092】
図3の結果から、オゾン供給前の培養液中の鉄含有量は1.88ppmであり、オゾン供給後の培養液中の溶解鉄含有量は0.44ppmであった。
また、図3の結果から、EDTA系キレート剤またはDTPA系キレート剤の添加量が多い程、培養液中における溶解鉄含有量が増加することが確認された。
さらに、図3の結果から、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液にキレート剤を添加した場合と、沈殿生成後の培養液にキレート剤を添加した場合とでは、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液にキレート剤を添加した場合に、培養液中における溶解鉄含有量が増加することが確認された。
特に、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液に、キレート剤を0.1g添加した場合、培養液中の溶解鉄含有量が、オゾン供給前の培養液中の溶解鉄含有量と同等になることが確認された。
【0093】
図4の結果から、オゾン供給前の培養液中の溶解マンガン含有量は2.4ppmであり、オゾン供給後の培養液中の溶解マンガン含有量は0.3ppmであった。
また、図4の結果から、EDTA系キレート剤またはDTPA系キレート剤の添加量が多い程、培養液中における溶解マンガン含有量が増加することが確認された。
さらに、図4の結果から、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液にキレート剤を添加した場合と、沈殿生成後の培養液にキレート剤を添加した場合とでは、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液にキレート剤を添加した場合に、培養液中における溶解マンガン含有量が増加することが確認された。
特に、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液に、キレート剤を0.1g添加した場合、培養液中の溶解マンガン含有量が、オゾン供給前の培養液中の溶解マンガン含有量と同等になることが確認された。
【0094】
以上の結果から、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置によりオゾンのマイクロバブルを供給した培養液中の溶解鉄および溶解マンガンが難溶性になり沈殿を生じる前に、培養液にキレート剤を添加することにより、培養液中に鉄およびマンガンを再溶解させることが可能であることが確認された。また、培養液に対するキレート剤の添加量が多い程、培養液中における溶解鉄含有量および溶解マンガン含有量が増加することが確認された。したがって、培養液に対するキレート剤の添加量は、培養液1トンに対して1kgで十分に効果を発揮することが確認された。
【0095】
「実施例2」
オゾンの供給とマイクロバブル発生装置を停止した直後に、オゾンを含む培養液を採取して、培養液100mLに対して、上記キレート剤2種をそれぞれ0.01g、0.005gおよび0.001g添加し、キレート剤と培養液を攪拌、混合した以外は、実施例1と同様にして、培養液中の溶解鉄含有量および溶解マンガン含有量を測定した。
また、水耕栽培における培養液が中性から微酸性であるのが望ましいことから、キレート剤を添加して酸性になった培養液のpHを7.0に調整した直後に、実施例1と同様にして、その培養液中の溶解鉄含有量および溶解マンガン含有量を測定した。
キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解鉄含有量との関係を図5に示す。なお、図5(a)はキレート剤としてEDTAを使用し、pH調整前後の培養液中の溶解鉄含有量を示し、図5(b)はキレート剤としてDTPAを使用し、pH調整前後の培養液中の溶解鉄含有量を示す。
また、キレート剤の添加量と、キレート剤添加前後の培養液中の溶解マンガン含有量との関係を図6に示す。なお、図6(a)はキレート剤としてEDTAを使用し、pH調整前後の培養液中の溶解マンガン含有量を示し、図6(b)はキレート剤としてDTPAを使用し、pH調整前後の培養液中の溶解マンガン含有量を示す。
【0096】
図5の結果から、オゾン供給前の培養液中の溶解鉄含有量は1.98ppmであり、オゾン供給後の培養液中の溶解鉄含有量は0.48ppmであった。
また、図5の結果から、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液にキレート剤を添加した場合と、pH調整後の培養液にキレート剤を添加した場合とでは、pH調整の前後において、培養液中における溶解鉄含有量に有意な差異がないことが確認された。
【0097】
図6の結果から、オゾン供給前の培養液中の溶解マンガン含有量は2.4ppmであり、オゾン供給後の培養液中の溶解マンガン含有量は0.3ppmであった。
また、図6の結果から、オゾン発生装置とマイクロバブル発生装置を停止した直後の培養液にキレート剤を添加した場合と、pH調整後の培養液にキレート剤を添加した場合とでは、pH調整の前後において、培養液中における溶解マンガン含有量に有意な差異がないことが確認された。
したがって、キレート剤を添加して酸性に傾いた培養液のpHを、培養液に水酸化ナトリウム水溶液を添加することによりpHを7.0(中性)に調整しても、一旦、再溶解した鉄やマンガンの含有量は変化しないことが確認された。
【0098】
「実施例3」
容量10L(リットル)の容器に水道水を8L入れ、その状態で一昼夜放置して、水道水の脱塩素処理をした。
その後、その水道水に、水耕栽培用肥料(商品名:カネコ養液栽培用肥料ファームエース1号および2号、カネコ種苗社製)をメーカーの処方箋に基づく標準濃度で溶解させて、培養液を調製した。
次いで、当該培養液100mLに対して、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を主成分とするEDTA系キレート剤(商品名:クレワットN2、ナガセケムテック社製)を0.01g添加し、攪拌、混合して培養液Aを調整した。
一方、同様に当該培養液100mLに対して、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を主成分とするDTPA系キレート剤(メルク社製)を0.01g添加し、攪拌、混合して培養液Bを調整した。
次いで、培養液Aと培養液Bのそれぞれに対して、流量2.5L/minに設定したオゾン(O)を、マイクロバブル発生装置(FS101−L1型、富喜製作所社製)を用いて、温度を20℃に設定した培養液中で5分間、オゾン微小泡を発生させた。オゾン供給から5分後の培養液の溶存オゾン濃度(DO)は、0.92ppmであった。
次いで、オゾンの供給とマイクロバブル発生装置を停止した直後の一部の培養液Aと培養液Bを採取した。
これらの採取液(キレート剤添加前、オゾン処理後)について、分光光度計(UV−1700 pharma Spec、島津製作所社製)を用いて溶解鉄含有量を測定し、原子吸光光度計(AA−7000、島津製作所社製)を用いて溶解マンガン含有量を測定し、上記キレート剤添加前とオゾン処理後における採取液中の各溶解鉄含有量および溶解マンガン含有量の関係を、図7および図8に示す。
【0099】
「実施例4」
実施例3における培養液Aの調製と同様の方法により、キレート剤としてEDTAを配合した培養液Cを調製した。
実施例3と同様にして、培養液Cにオゾンの微小泡を供給し、オゾンの供給とマイクロバブル発生装置を停止した直後、5分後および10分後にそれぞれ採取した培養液について、それぞれ溶解マンガン含有量を測定した。結果を図9に示す。
図9の結果から、オゾンの供給停止10分後でも、溶解マンガン含有量は、オゾン供給停止直後と変化はなかった。
なお、図9には、培養液Cと、キレート剤添加なしでオゾン供給直後の培養液C中の溶解マンガン含有量も示した。
【0100】
実施例1〜4の結果から、キレート剤は、培養液へのオゾンの供給前に添加することが効果的であることが分かった。
【符号の説明】
【0101】
10・・・水耕栽培装置、11・・・培養棚、12・・・培養液タンク、13・・・培養液供給路、14・・・オゾン発生装置、15・・・キレート剤タンク、16・・・培養液回収路、17・・・マイクロバブル発生装置、18,22,23・・・ポンプ、19・・・攪拌翼、20・・・オゾン供給路、21・・・キレート剤供給路、30・・・植物、40・・・培養液、50・・・水耕栽培装置、51・・・培養棚、52・・・培養液タンク、53・・・培養液攪拌タンク、54・・・第一の培養液供給路、55・・・第二の培養液供給路、56・・・オゾン発生装置、57・・・キレート剤タンク、58・・・培養液回収路、59・・・マイクロバブル発生装置、60,61,65,66・・・ポンプ、62・・・攪拌翼、63・・・オゾン供給路、64・・・キレート剤供給路、70・・・植物、80(80A,80B)・・・培養液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気または酸素からオゾンを生成する工程Aと、
培養液タンクに貯留されている培養液に前記オゾンを供給する工程Bと、
前記培養液に、キレート剤を供給する工程Cと、
植物が配置された培養棚に、前記キレート剤を添加した培養液を供給する工程Dと、を備えたことを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項2】
前記工程Cは、前記工程Bの前または前記工程Bの後に行うことを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培方法。
【請求項3】
前記工程Aに続いて、前記工程Aにて生成したオゾンを、マイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化する工程Eを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の水耕栽培方法。
【請求項4】
植物が配置される培養棚と、
前記培養棚に供給する培養液を貯留する培養液タンクと、
前記培養液タンクから前記培養棚へ前記培養液を供給するための培養液供給路と、
空気または酸素からオゾンを生成するオゾン発生装置と、
前記培養液に供給するキレート剤を貯留するキレート剤タンクと、を備えたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項5】
植物が配置される培養棚と、
前記培養棚に供給する培養液を貯留する培養液タンクと、
前記培養液タンクから前記培養棚へ前記培養液を供給するための培養液供給路と、
空気または酸素からオゾンを生成するオゾン発生装置と、
前記生成したオゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化して、前記培養液タンク内の培養液に供給するマイクロバブル発生装置と、
前記培養液に供給するキレート剤を貯留するキレート剤タンクと、を備えたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項6】
前記培養液タンク、または、前記培養棚と前記培養液タンクの間に設けられた培養液攪拌タンクと、前記キレート剤タンクとの間に、前記培養液タンクまたは前記培養液攪拌タンクに前記キレート剤を供給するためのキレート剤供給路が設けられたことを特徴とする請求項4または5に記載の水耕栽培装置。
【請求項7】
前記培養液タンク内に、前記オゾン発生装置にて生成したオゾンをマイクロレベルまたはナノレベルまで微小泡化するマイクロバブル発生装置が設けられたことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の水耕栽培装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−191873(P2012−191873A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56948(P2011−56948)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】