説明

水耕栽培用の養液槽を用いたハウス栽培施設

【課題】 ハウス栽培において夏期の高温時には、ハウス内温度が作物に障害が発生するほど上昇するが、冷房装置でハウス内を冷房しようとすると、その設備コストや運転コストが高くなって収益性が悪くなるという問題がある。
【解決手段】 作物栽培用ハウス1内に水耕栽培用の養液Wが貯留される養液槽2を複数列設置し、各養液槽2内の養液Wを養液循環装置5で循環させるようにしたハウス栽培施設において、各養液槽2に循環させる養液Wを栽培作物に適した温度まで冷却する冷却器7を備えているとともに、各養液槽2として、槽底壁22に槽幅方向の断面が上下に凹凸する形状で槽長さ方向に長い筋状谷部26と筋状山部27とを交互に複数列形成したものを使用することにより、養液とハウス内空気との熱交換効率を高めてハウス内温度を低下させ得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水耕栽培用の養液槽を用いたハウス栽培施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作物栽培用のハウスは、周囲の壁面及び屋根面にアクリル板やガラス板等の透明板を使用してハウス内に採光できるようにしている。ところで、この種の作物栽培用ハウスでは、外気温度が低い季節には太陽光の熱でハウス内温度が上昇するので栽培作物の成長に有効であるが、外気温度が高い季節にはハウス内の温度が異常に高温になって栽培作物に悪影響をもたらす。尚、この種のハウスには側面窓や天窓を設けたものが多くあり、それらの窓を開放することでハウス内の換気を行えるようになっているが、ハウスの窓を開放してもハウス内の温度は外気温度よりかなり高いままである。
【0003】
そこで、この種のハウス栽培施設では、夏期に作物を栽培するには、ハウス内を冷房装置(例えば、エアコンや地下水の循環等)により冷却することが行われている。尚、ハウス内を冷房しない場合には、夏期の日中(晴天時)においてハウス内の温度が異常に上昇し、栽培作物に各種の障害(例えば、葉焼け、落花、玉焼け等の障害)が発生する。
【0004】
又、作物の育成に適した培地温度として、21℃前後(上下に多少の許容範囲はある)がよいとされており、ハウス栽培において、夏期の高温時には、培地温度を適宜の冷却手段で好適温度(21℃前後)に維持させるようにしたものがある。尚、培地温度を好適温度に調整するようにしたハウス栽培施設として、例えば特開2001−238548号公報(特許文献1)や特開2003−189745号公報(特許文献2)に示されるものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−238548号公報
【特許文献2】特開2003−189745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、夏期の高温時において、ハウス内を冷房装置で冷却するには、冷房装置の設備コストや運転コストが高くなり、ハウス栽培での収益性が低下するという問題がある。
【0007】
又、夏期の高温時に、培地温度を作物の育成に適した温度(21℃前後)に維持させるだけでは、ハウス内の温度を下げる機能は乏しく、別途冷房装置でハウス内を冷却する必要がある。
【0008】
他方、ハウス内で水耕栽培を行う場合は、作物を栽培する養液槽をハウス内に多数列設置し、各養液槽内にそれぞれ養液を循環させているが、この養液温度は温度調整器(夏期では冷却器)で作物に好適な21℃前後に維持させている。そして、このように温度管理(21℃前後)をした養液をハウス内に循環させると、夏期(特に日中)においては、循環される養液温度がハウス内温度よりかなり低温であるので、その低温の養液によりハウス内温度を低下させ得るという機能を有する。即ち、養液は常に低温度に管理された状態で養液槽内を循環しており、従って養液の冷熱が、該養液の水面及び養液槽の外表面を介してハウス内の空気と熱交換されて、ハウス内温度を低下させるようになる。
【0009】
ところが、従来から使用されているハウス水耕栽培用の養液槽は、その底壁が平面状であって空気に接触する表面積が比較的小さいものとなっている。このように、養液槽の外気接触面積が小さいと、その分、養液の冷熱とハウス内空気との熱交換効率が低くなるという欠点があった。
【0010】
そこで、本願発明は、ハウス内で水耕栽培をする際の養液温度(例えば21℃前後)を利用して、夏期におけるハウス内の温度を低下させるようにしたものにおいて、該ハウス内温度を効率よく低下させ得るようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、上記課題を解決するための手段として次の構成を有している。尚、本願発明は、水耕栽培用の養液槽を用いたハウス栽培施設を対象にしている。
【0012】
本願請求項1の発明
本願請求項1の発明のハウス栽培施設は、作物栽培用ハウス内に水耕栽培用の養液が貯留される長尺矩形の養液槽を複数列設置し、各養液槽内の養液をそれぞれ養液循環装置で循環させるように構成したものである。
【0013】
ハウスは、立地条件や作業性等によって適宜の大きさのものが建設できる。尚、作物栽培用ハウスは、周囲の壁面及び屋根面に透明板を使用してハウス内に採光できるようにしている関係で、特に夏期の日中にはハウス内がかなりの高温状態になる。
【0014】
ハウス内に設置される各養液槽の大きさは、特に限定するものではないが作業性の面で槽幅が1m前後で、ハウス長さに応じて適宜の長尺長さ(例えば1つが20〜50mの長さ)のものが使用される。又、養液槽の周壁の高さは、特に限定するものではないが170〜180mm程度のものを使用できる。
【0015】
この養液槽は、1つのハウス内に複数列設置されるが、各養液槽は、各養液槽間に適度の作業スペース(例えば1m前後の間隔)を確保した状態で平行に設置される。又、この各養液槽は、底壁下面を地面から所定高さだけ離間させた状態で設置される。
【0016】
各養液槽には、養液をそれぞれ養液循環装置により循環させるようにしているが、この養液循環装置は、養液を養液槽の終端部(下流端部)からポンプで吸引して、その吸引養液をパイプを通して養液槽の始端部(上流端部)上に戻すようにしたものである。尚、養液の循環流速は適宜に設定できるとともに、養液の循環は間欠的に行わせるようにしてもよい。
【0017】
本願のハウス栽培施設では、各養液槽に循環させる養液を栽培作物に適した温度まで冷却する冷却器を備えている。この冷却器は、各養液槽の始端部に設置しておき、養液循環装置により循環される養液が養液槽始端部に戻される直前に、該養液を冷却器に通すようにするとよい。尚、この冷却器で冷却される養液温度は、作物の育成に適した21℃前後が好ましい。
【0018】
又、本願のハウス栽培施設では、各養液槽として、養液槽の底壁に槽幅方向の断面が上下に凹凸する形状で槽長さ方向に長い筋状谷部と筋状山部とを交互に複数列形成したものを使用している。
【0019】
この各養液槽の材料としては、例えば鉄板やステンレス鋼板等の金属板、プラスチック板(強化繊維プラスチック板(FRP)を含む)等が使用できる。又、この養液槽における養液が接触する部分は、板厚を薄くすることが好ましい(例えば、金属板では1〜2mm厚さ、FRP製のものでは4mm厚さ程度)。尚、養液槽の板厚を薄くすると、養液槽内の養液の温度が槽外表面まで伝わり易くなる。
【0020】
上記のように、養液槽の底壁にそれぞれ複数列の筋状谷部と筋状山部を形成すると、該底壁の表面積を増大させることができる。尚、この請求項1では、各筋状谷部と各筋状山部は、槽下面の表面積を増大させるのが目的であり、筋状谷部と筋状山部の各幅及び深さ(高さ)は特に限定するものではない。
【0021】
この請求項1のハウス栽培施設では、各養液槽内にそれぞれ所定深さまで養液を貯留し、それぞれ養液循環装置で養液槽内の養液を循環させる。各養液槽内を循環させる養液は、それぞれ冷却器により作物の育成に適した温度(例えば21℃前後)に維持される。
【0022】
尚、各養液槽上には、多数の穴空きの作物保持台が載せられ、その各穴に作物の茎部分まで挿入して、該作物を穴の口縁部に支持させる。このとき、作物の根は養液中に漬けられている。
【0023】
ところで、夏期の高温時において、各養液槽内の養液を冷却しながら循環させると、該養液の水面及び養液が接触している各養液槽の外表面とハウス内の高温空気が熱交換し、養液の水温で各養液槽付近の空気温度を低下させるようになる。尚、槽外表面が冷たくてハウス内温度が高いと、槽外表面に結露し、その結露水が気化するときの気化熱を奪って養液槽近傍の空気温度を低下させる作用もある。又、各養液槽の底壁には、複数条の筋状谷部と筋状山部とが形成されていて、各養液槽の表面積が大きくなっているので、各養液槽外表面からハウス内空気と熱交換する面積が広くなり、従って、各養液槽の外表面とハウス内空気との熱交換効率が良好となる。
【0024】
他方、夏期の日中にはハウスの窓は開放されており、外気が風となってハウス内を吹き抜けるので、各養液槽の近傍で冷却された空気はハウス内に拡散して、該ハウス内の空気温度を平均化させるようになる。
【0025】
尚、ハウス内空気と熱交換した養液は、順次冷却器で冷却されるので、各養液槽内を循環する養液温度は、常に栽培作物に適した温度付近(例えば21℃前後)で維持されている。
【0026】
本願請求項2の発明
本願請求項2の発明は、上記請求項1のハウス栽培施設において、次の特徴を有している。即ち、この請求項2のハウス栽培施設では、養液槽底壁の各筋状谷部は、栽培される作物の根が十分に繁茂し得るスペースを有しているとともに、養液槽底壁の各筋状山部は、筋状谷部内に繁茂する根が隣接する筋状谷部内に侵入するのを防止し得る高さを有している。
【0027】
養液槽底壁の筋状谷部及び筋状山部の各幅は、特に限定するものではないが100〜120mm程度が適当ある。尚、下記の実施例では、各筋状谷部の幅及び各筋状山部の幅をそれぞれ110mm(幅両端の2つの筋状谷部の幅は各115mm)に設定している。この場合、養液槽の槽幅を例えば1m前後にすると、1つの養液槽に5筋の筋状谷部と4筋の筋状山部が形成される。又、各筋状山部の高さ(筋状谷部の底部から筋状山部の頂面までの高さ)は、特に限定するものではないが90〜100mm程度が適当である(養液槽の周壁高さは170〜180mmである)。尚、下記の実施例では、各筋状山部の高さを95mmに設定し、養液槽の周壁高さを175mmに設定している。
【0028】
この請求項2のハウス栽培施設で使用される各養液槽には、筋状山部の頂面を若干超える高さまで養液が収容される。又、作物は、通常、各筋状谷部が位置する部分の上部にそれぞれ植え付けられる。そして、作物の成長に伴ってその根も繁茂し、その根はそれぞれ筋状谷部内に伸長していくが、隣接する筋状谷部間にはかなりの高さ(90〜100mm程度の高さ)の筋状山部があるので、各筋状谷部内で繁茂した根が隣の筋状谷部内に侵入することがない。従って、隣の作物と根同士が絡み合うことがない。
【0029】
ところで、養液槽の底壁に上記のような凹凸部(各筋状谷部と各筋状山部)を形成し、各筋状谷部上に作物を植え付けるようにすると、根が繁茂する部分の筋状谷部は深いので、該根が養液中に十分に浸かるとともに、複数条の各筋状山部に上記のように幅(例えば110mm幅)を持たせると、養液槽内に収容する養液量を該各筋状山部による突出部分だけ少なくできる。
【発明の効果】
【0030】
本願請求項1の発明の効果
本願請求項1のハウス栽培施設では、ハウス内で使用される各養液槽内の養液を冷却器で栽培作物に適した温度(例えば21℃前後)まで冷却して循環させるとともに、各養液槽の底壁に槽幅方向の断面が上下に凹凸する形状の筋状谷部と筋状山部とを交互に複数列形成したものを使用している。
【0031】
このように、各養液槽内の養液を栽培作物に適した温度まで冷却しながら循環させると、作物に対する養液温度を好適な状態に維持できるとともに、その養液温度を利用して、夏期の高温時におけるハウス内の空気温度を低下させ得るという効果がある。
【0032】
又、本願請求項1では、各養液槽の底壁に、複数条の筋状谷部と筋状山部とを形成しているので、各養液槽の表面積が広くなってハウス内空気との熱交換面積が広くなり、夏期の高温時におけるハウス内温度を低下させる機能が一層大きくなるという効果がある。
【0033】
本願請求項2の発明の効果
本願請求項2の発明では、養液槽底壁の各筋状谷部は、栽培される作物の根が十分に繁茂し得るスペースを有しているとともに、養液槽底壁の各筋状山部は、筋状谷部内に繁茂する根が隣接する筋状谷部内に侵入するのを防止し得る高さを有している。
【0034】
従って、この請求項2のハウス栽培施設では、上記請求項1の効果に加えて次のような効果がある。
【0035】
まず、隣接する各筋状谷部間にそれぞれ筋状山部があるので、各筋状谷部内で育成した各作物の根が隣の筋状谷部内に侵入することがない。従って、隣の作物と根同士が絡み合うことがないので、作物の管理がし易くなるという効果がある。
【0036】
又、作物の根が位置する部分(筋状谷部)の深さは、根が十分に繁茂できるほど深いが、各筋状谷部間にそれぞれ筋状山部があると、養液槽内に収容する養液量として各筋状山部による突出部分の体積量だけ少なくでき、経済的であるという効果がある。
【実施例】
【0037】
以下、図1〜図8を参照して本願実施例のハウス栽培施設を説明する。
【0038】
図1は本願実施例のハウス栽培施設の概略平面図であり、図2は図1のII−II拡大断面図である。この実施例のハウス栽培施設は、図1及び図2に示すように、作物栽培用ハウス1内に合計5列の養液槽2,2・・を設置している。
【0039】
ハウス1は、立地条件等によって適宜の大きさのものが建築されるが、この実施例のハウス1は、比較的大型で、例えば長さ(図1の左右長さ)が30m、幅(図1の上下長さ)が12m、高さの平均が5m程度の大きさの容積を有している。尚、ハウス1におけるこれらの寸法は、一実施例であって特に限定するものではない。
【0040】
ハウス1の外周壁11及び屋根12には、それぞれ透明板(アクリル板やガラス板)が用いられていて、ハウス内に採光できるようにしている。従って、特に夏期の日中にはハウス1内がかなりの高温状態になる。尚、ハウス1には、外周壁11の数箇所に側面窓13,13を設ける一方、屋根12の数箇所にも天窓14を設けており、特に夏期においては、側面窓13や天窓14を開放してハウス1内を換気できるようにしている。
【0041】
ハウス1内に設置される養液槽2は、この実施例では、幅が1m、長さが23m、高さが175mm程度の大きさの長尺矩形のものが採用されている。そして、この実施例のハウス栽培施設では、ハウス1内に5本の養液槽2,2・・を所定幅(約1m幅)の作業スペースを隔てて平行に設置している。尚、この実施例では、ハウス1の床面積(30m×12m=360m2)に対する5本の養液槽2,2・・の占有面積(1m×23m×5本=115m2)は約32%である。
【0042】
又、各養液槽2,2・・は、それぞれフレーム状の支持台20,20・・により地面から所定高さだけ離間した位置で水平に設置されている。従って、各養液槽2,2・・の下方には空気が通過し得るとともに、養液槽2の下面のほぼ全面に空気が接触するようになっている。
【0043】
各養液槽2,2・・は、この実施例では4mm厚さ程度の強化繊維プラスチック板(FRP)で製作されており、図4〜図7に示すように枠状の周壁21と底壁22とで薄型容器状に成形されている。尚、養液槽2は、金属板等の適宜の材質のものに変更することができる。
【0044】
各養液槽2,2・・は、一端側(図1における左端側)の所定小長さ範囲(約60cm)が給液溜部23となり、他端側(図1における右端側)の所定小長さ範囲(約60cm)が排液溜部24となっている。この給液溜部23及び排液溜部24の底面は、平坦面となっている。給液溜部23には給液口23aが開口しており、排液溜部24には排液口24aが開口している。
【0045】
養液槽2の底壁22には、給液溜部23と排液溜部24を除く部分に凹凸形成部25を設けている。この凹凸形成部25には、それぞれ槽長さ方向に長い筋状谷部26と筋状山部27とを交互に複数列形成している。この筋状谷部26と筋状山部27は、図5及び図6に示すように、槽幅方向の断面が上下に凹凸する形状で槽幅方向に連続して形成している。この実施例では、養液槽2の槽幅が1mで、筋状谷部26及び筋状山部27の各幅をそれぞれ110mm程度に設定しており、従って1つの養液槽2につき筋状谷部26が5列と筋状山部27が4列形成されている。尚、幅両端の2つの筋状谷部26,26は、幅がそれぞれ115mmである。又、各筋状山部27,27・・の高さ(筋状谷部26の底部から筋状山部27の頂面までの高さ)は、95mmに設定している。従って、この実施例では、凹凸状底壁22の表面積が平坦底壁の表面積に比して176%程度になる。尚、養液槽2の周壁21の高さは175mmである。
【0046】
各養液槽2,2・・の給液溜部23には、図7に示すように、それぞれ養液槽2内に収容される養液Wの水位を計測する高水位センサー28と低水位センサー29とが設けられている。高水位センサー28は、養液槽2内の養液Wが補給を要しない所定高水位(図7の水位L1)になったときに検出し、低水位センサー29は、該養液槽2内の養液Wが補給を要する所定低水位(図7のL2)になったときに検出するものである。尚、この両水位センサー28,29は、後述する養液補給装置3の電磁弁34を制御する信号をコントローラ10(図4)に送信する。
【0047】
各養液槽2,2・・内には、養液補給装置3により養液Wが補給される。この養液補給装置3は、図1及び図3に示すように、養液Wを貯留する貯留タンク31と、貯留タンク31内の養液Wを供給する給液管32と、該給液管32からそれぞれ各養液槽2,2・・に分岐させた各分岐管33,33・・と、各分岐管33,33・・に取付けた各電磁弁34,34・・と、養液Wを調合する調合タンク41と、調合タンク41内の養液Wを貯留タンク31に供給する給液管42と、該給液管42に設けたポンプ43及び電磁弁44を有している。
【0048】
貯留タンク31には、貯留養液量を検出する水位センサー35(図3)が設けられている。この水位センサー35は、貯留タンク31内の高水位M1と低水位M2をそれぞれ検出でき、水位センサー35が高水位M1を検出している状態ではコントローラ10からの信号でポンプ43を停止し電磁弁44を閉にする一方、水位センサー35が低水位M2を検出するとコントローラ10からの信号で電磁弁44を開にしポンプ43を作動させるようになっている。尚、ポンプ43の停止時には調合タンク41から貯留タンク31への養液補給は停止し、ポンプ43の作動時(電磁弁44が開)には調合タンク41から貯留タンク31に養液Wが供給される。
【0049】
貯留タンク31は、ハウス1内において各養液槽2,2・・より高位置に設置されていて、水頭差によって貯留タンク31内の養液Wを各養液槽2,2・・側に自然流下させ得るようになっている。
【0050】
各分岐管33,33・・の先端は、それぞれ養液槽2,2・・の各給液溜部23にある給液口23aに接続されている。
【0051】
各分岐管33,33・・の各電磁弁34,34・・は、それぞれ各養液槽2,2・・の各両水位センサー28,29からの信号で開閉制御される。即ち、特定の養液槽2の低水位センサー29(図7)が低水位L2を検出したときに、コントローラ10からの信号で当該養液槽2に対応する電磁弁34が開弁し、貯留タンク31からの養液Wが給液管32、分岐管33を介して養液槽2の給液口23aから給液溜部23内に供給される。そして、養液槽2内の養液Wが増加して高水位L1に達すると、それを高水位センサー28が検出して、コントローラ10からの信号で当該養液槽2に対応する電磁弁34が閉弁し、養液槽2内への養液Wの供給を停止するようになっている。
【0052】
尚、貯留タンク31内及び調合タンク41内には、それぞれブロア36,45による曝気が行われ、該曝気で各タンク31,41内の養液Wを撹拌することにより、養液成分が分離しないようにしている。尚、この各曝気は、タイマーで所定時間ごと間欠作動させてもよい。
【0053】
各養液槽2,2・・には、養液Wを常に筋状山部27,27・・を若干超える高さ(図7の高水位L1と低水位L2の間)まで貯留している。そして、各養液槽2,2・・内の養液Wは、それぞれ養液循環装置5,5・・で個別に循環させるようにしている。
【0054】
各養液循環装置5には、図4に示すように、ポンプ51により、養液槽2内の養液Wを排液溜部24の排液口24aから吸引管52を介して吸引し、後述する養液活性器6及び冷却器7を通して放液管72から養液槽2の給液溜部23上に供給するようになっている。尚、排液溜部24の排液口24aから養液Wを吸引すると、そこの水位が低くなって給液溜部23側の養液Wが排液溜部24側に自然流動していき、該養液Wが養液槽2、吸引管52、ポンプ51、養液活性器6、冷却器7を順次通って循環するようになる。
【0055】
図8に示すように、養液活性器6内にはセラミックのような浄化材61が収容されており、ポンプ51から吐出された養液Wが養液活性器6内を通過中に、該養液Wが浄化材61により浄化されるようになっている。
【0056】
養液活性器6を通った養液Wは、連通管62を通って冷却器7内に導入された後、該冷却器7から吐出管71を通して放液管72から養液槽2の給液溜部23上に放液される。冷却器7は、該冷却器7に導入された養液Wの温度を作物の育成に適した21℃前後に冷却するものである。連通管62には、養液活性器6から冷却器7に導入される養液Wの温度を検出する温度センサー63が設けられている。この温度センサー63からの温度信号は、図4に示すようにコントローラ10に入力される。そして、温度センサー63の検出温度が設定温度(例えば21℃)より高いときには、コントローラ10からの信号で冷却器7を作動させる(冷却器7内に導入された養液Wを冷却する)一方、温度センサー63の検出温度が設定温度より低いときには、コントローラ10からの信号で冷却器7の作動を停止させるようになっている。尚、この実施例では、温度センサー63を養液活性器6と冷却器7との間の連通管62(冷却器7への導入側管路)に設けているが、他の実施例では冷却器7を通過した吐出管71中の養液温度を温度センサー63で検出するようにしてもよい。
【0057】
このように、循環する養液Wを冷却器7に通すことで、養液槽2の給液溜部23に常に温度21℃前後の養液Wを放液できる。尚、この低温度の養液Wは、後述するように養液槽2内を流動中にハウス内の高温空気と熱交換して養液温度が若干上昇するが、冷却器7に戻されたときに再度21℃前後まで冷却されるので、養液槽2を循環する養液の温度を作物の育成に適した温度に維持することができる。
【0058】
このハウス栽培施設で実際に作物を栽培するには、図4〜図6に示すように、養液槽2上に作物保持台8が載せられる。この作物保持台8には、各筋状谷部26,26・・に対応する位置と各筋状山部27,27・・に対応する位置に、それぞれ槽長さ方向に所定間隔(例えば20cm)をもって多数の穴81,81・・(及び82,82・・)を設けている。
【0059】
そして、根Bの長い作物Aを栽培する場合には、図5に示すように、筋状谷部26,26・・に対応する位置にある穴81,81・・にそれぞれ作物A,A・・を植え付ける。この場合、作物Aが成長するのに伴って根Bも筋状谷部26内で繁茂するが、隣接する各筋状谷部26,26間には筋状山部27があるので、作物Aの根Bが隣の筋状谷部26に侵入することはない。従って、槽幅方向に隣接する筋状谷部26,26に植え付けた作物A,Aの根B,B同士が絡み合うことがない。
【0060】
尚、この実施例で使用している養液槽2で、根Bの短い作物Aを栽培する場合には、図6に示すように、筋状山部27,27・・に対応する位置にある穴82,82・・にそれぞれ作物A,A・・を植え付けることができる。
【0061】
ところで、夏期の晴天時には、ハウス1内の温度が外気温度より高くなる傾向が強く、ハウス内温度が異常高温になると、作物に各種の障害(例えば、葉焼け、落花、玉焼け等の障害)が発生することがある。
【0062】
そこで、本願実施例のハウス栽培施設では、養液Wを21℃前後まで冷却しながら各養液槽2,2・・内を循環させるようにしているが、このようにすると低温の養液Wで養液槽2自体も冷やされ、該養液Wの水面及び養液が接触している各養液槽2,2・・の外表面とハウス1内の高温空気が熱交換し、養液Wの水温で各養液槽2,2・・付近の温度を低下させるようになる。尚、槽外表面が冷たくてハウス内温度が高いと、槽外表面に結露し、その結露水が気化するときの気化熱を奪って養液槽近傍の空気温度を低下させる作用もある。又、各養液槽2,2・・の底壁22には、それぞれ複数条の筋状谷部26,26・・と筋状山部27,27・・とからなる凹凸形成部25が形成されていて、各養液槽2,2・・の表面積が大きくなっている。従って、各養液槽2,2・・の外表面からハウス1内の空気と熱交換する面積が広くなり、各養液槽外表面とハウス内空気との熱交換効率(ハウス内温度の低下作用)が一層良好となる。又、夏期の晴天時には、ハウス1の側面窓13や天窓14を開放するが、その場合、各窓から外気が風となってハウス1内に吹き込み、その風で各養液槽2,2・・の近傍の冷却空気が撹拌されて、ハウス1内の温度を均一化させるようになる。
【0063】
上記実施例のハウス栽培施設を使用し、夏期の晴天時に実験した結果、外気温が13時〜16時のピーク時付近で38℃〜39℃であったが、ハウス内温度は同時間帯で35℃〜36℃であった。尚、ハウス内を何ら冷却しない場合には、晴天時の温度はハウス内の方が外気温より高くなるのが通常である。ところが、本願実施例のハウス栽培施設では、上記のように、底壁22に凹凸形成部25を設けた養液槽2中に、21℃前後に冷却した養液Wを循環させるという簡単な構成及び方法で、ハウス内温度を外気温より約3℃程度低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本願実施例のハウス栽培施設の概略平面図である。
【図2】図1のハウス栽培施設のII−II拡大断面図である。
【図3】図2のハウス栽培施設で使用されている養液補給装置の説明図である。
【図4】図1のハウス栽培施設に使用されている養液槽部分の拡大平面図である。
【図5】図4のV−V拡大断面図である。
【図6】図4のVI−VI拡大断面図である。
【図7】図4のVII−VII拡大断面図である。
【図8】図1のハウス栽培施設で使用されている養液循環装置部分の側面図である。
【符号の説明】
【0065】
1はハウス、2は養液槽、3は養液補給装置、5は養液循環装置、6は養液活性器、7は冷却器、10はコントローラ、21は周壁、22は底壁、23は給液溜部、24は排液溜部、25は凹凸形成部、26は筋状谷部、27は筋状山部、31は貯留タンク、Wは養液である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物栽培用ハウス(1)内に水耕栽培用の養液(W)が貯留される長尺矩形の養液槽(2)を複数列設置し、各養液槽(2)内の養液(W)をそれぞれ養液循環装置(5)で循環させるようにしたハウス栽培施設であって、
各養液槽(2)に循環させる養液(W)を栽培作物に適した温度まで冷却する冷却器(7)を備えているとともに、
各養液槽(2)として、該養液槽の底壁(22)に槽幅方向の断面が上下に凹凸する形状で槽長さ方向に長い筋状谷部(26)と筋状山部(27)とを交互に複数列形成したものを使用している、
ことを特徴とする水耕栽培用の養液槽を用いたハウス栽培施設。
【請求項2】
請求項1において、
養液槽底壁(22)の各筋状谷部(26)は、栽培される作物(A)の根(B)が十分に繁茂し得るスペースを有しているとともに、
養液槽底壁(22)の各筋状山部(27)は、筋状谷部(26)内に繁茂する根(B)が隣接する筋状谷部(26)内に侵入するのを防止し得る高さを有している、
ことを特徴とする水耕栽培用の養液槽を用いたハウス栽培施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−20442(P2007−20442A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205331(P2005−205331)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(391030077)株式会社ソアテック (30)
【Fターム(参考)】