説明

水耕栽培装置

【課題】本発明は、水耕栽培棚ユニットに植物の発育に合わせて組成の異なる養液を循環させる独立した2循環流路を形成し、該2循環流路を切替えて使用することにより、異なる成分組成の養液を循環させて植物を栽培する水耕栽培装置を提供する。
【解決手段】本発明の水耕栽培装置は、植物を水耕栽培する栽培棚槽1を載置することが可能な複数の栽培棚2を備えた栽培棚ユニット3と、該栽培棚ユニット3の栽培棚槽1に異なる成分組成の第1養液を供給循環する第1養液補給システム4と、前記栽培棚ユニット3の栽培棚槽1に異なる成分組成の第2養液を供給循環する第2養液補給システム5と、から構成される。水耕栽培棚ユニット3に第1養液又は第2養液を循環させる独立した2循環流路を形成し、該2循環流路を植物の発育に合わせて切替えて使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる成分組成の養液を循環させて植物を栽培する水耕栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腎臓病透析患者は、体内のカリウムを十分に排泄することができないため、カリウム摂取量が制限されている。日常で私たちが食べている葉菜類にも多くのカリウムが含まれているため、腎臓病透析患者は、葉菜類を生食できず、水に曝したり茹でたりしてカリウムを除去する必要がある。しかし、これらの方法では一部のカリウムを除去できる程度であり、更に他の栄養分が溶脱や分解してしまうことが考えられる。これを改善した低カリウムホウレンソウおよびその栽培方法が開発されている(特許文献1を参照)。
この公知技術は、水耕法によってホウレンソウを栽培し、培地のカリウム含有量を調節しながら栽培することにより、カリウム含有量の少ない葉菜類を栽培するものであり、栽培期間5週間のうち、最初の2〜3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO3を加えて栽培し、その後KNO3の代わりに同濃度のHNO3またはNaNO3を加え、水耕液のPHを6.0〜6.5にNaOHを用いて調節することで、可食部の生育を維持しながらカリウム含有量を従来のものの1/3〜1/4に抑える低カリウムホウレンソウおよびその栽培方法である。
しかし、この低カリウムほうれん草を栽培する植物工場などの大規模なレベルで安定して恒常的に生産できる水耕栽培装置は、未だ開発されていない。
【0003】
また、供給する養液を植物の生育状態に応じてきめ細かく制御できるとともに、病気発生時の危険も分散でき、更に液量のみの制御で養液の組成の調整が可能となる植物の水耕栽培装置が知られている(特許文献2を参照)。
この公知技術は、植物を水耕栽培することが可能な栽培棚を備えた栽培棚ユニットと、該栽培棚ユニット毎に配設され、前記栽培棚ユニットに対し養液を循環させながら供給する循環流路と、該循環流路上に設けられ、蓄液可能な循環養液タンクと、養液を調製する養液調製装置と、前記循環養液タンクに対して前記養液調製装置から養液を供給する独立流路と、を備えており、前記循環養液タンクへの養液の流入量と流出量とを制御して前記循環流路を循環する養液の組成を調整する養液調製機能を有するようにした植物の水耕栽培装置である。
この植物の水耕栽培装置は、前記循環養液タンクに対して前記養液調製装置から養液を供給するようにした独立流路により前記循環養液タンクへの養液の流入量と流出量とを制御して前記循環流路を循環する養液の組成を調整するため、循環養液を組成の異なる養液に完全に置き換えることができず、またできるとしても長時間必要するものであり、全く異なる組成の養液に置き換えるような植物の水耕栽培装置には適さないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-61587号公報
【特許文献2】特開2009−39001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水耕栽培棚ユニットに成分組成の異なる養液を循環させる独立した2循環流路を形成し、該2循環流路を切替えて使用することにより、異なる成分組成の養液を循環させて植物を栽培する水耕栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水耕栽培装置は、植物を水耕栽培する栽培棚槽を載置することが可能な複数の栽培棚を備えた栽培棚ユニットと、該栽培棚ユニットの栽培棚槽に異なる成分組成の第1養液を供給循環する第1養液補給システムと、前記栽培棚ユニットの栽培棚槽に異なる成分組成の第2養液を供給循環する第2養液補給システムと、から構成されるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水耕栽培装置は、植物を水耕栽培する栽培棚槽を載置することが可能な複数の栽培棚を備えた栽培棚ユニットと、該栽培棚ユニットの栽培棚槽に異なる成分組成の第1養液を供給循環する第1養液補給システムと、前記栽培棚ユニットの栽培棚槽に異なる成分組成の第2養液を供給循環する第2養液補給システムと、から構成されるため、低カリウムほうれん草の栽培においては、栽培期間5週間のうち、最初の2〜3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO3を加えて栽培し、その後KNO3の代わりに同濃度のHNO3またはNaNO3を加えることで、可食部の生育を維持しながらカリウム含有量を従来のものの1/3〜1/4に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の水耕栽培装置の概略構成図である。
【図2】栽培棚の正面図である。
【図3】本発明の栽培棚の全体配置図である。
【図4】養液給水ためのフロー図である。
【図5】養液排水ためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水耕栽培装置の一実施例を添付図面に基づいて、以下に説明する。
この実施例は、培地のカリウム含有量を調節しながら栽培することにより、カリウム含有量の少ない葉菜類、例えばほうれん草、を生産する例を示す。
栽培期間5週間のうち、最初の2〜3週間は養液中のカリウム含有量を減らさずKNO3を加えて栽培し、その後KNO3の代わりに同濃度のHNO3またはNaNO3を加え、養液のPHを6.0〜6.5にNaOHを用いて調節するものである。
図1の概略構成図に示すように、本発明の水耕栽培装置は、ほうれん草を水耕栽培する栽培棚槽1を載置することが可能な複数段の栽培棚2を備えた栽培棚ユニット3と、該栽培棚ユニット3の栽培棚槽1にKNO3を含有する第1養液を供給循環する第1養液補給システム4と、前記栽培棚ユニット3の栽培棚槽1にKNO3の代わりに同濃度のHNO3またはNaNO3を含有する第2養液を供給循環する第2養液補給システム5と、から構成される。
図2の配置図に示すように、本実施例では、前記栽培棚ユニット3は、型枠で形成された矩形枠に2列4段の栽培棚2を設け、該栽培棚2の上に栽培棚槽1を載置し、各栽培棚槽1の上方には光源用ブラケット6が設けられて、該光源用ブラケット6には照明ランプ(図示せず)が取り付けられる。
図3の全体配置図に示すように、正面視(a)では2列4段、側面視(b)では11列4段の栽培棚2を備え、全体外観が直方体をなし、前記栽培棚ユニット3の何列何段は、この例に限らず適宜選択できるものである。
【0010】
前記第1養液補給システム4は、図1の右下点線囲みに示すように前記栽培棚ユニット3の栽培棚槽1を循環する第1養液を貯留する第1養液タンク7と、該第1養液タンク7に各種薬液を供給する複数の薬液供給装置8と、前記第1養液タンク7からポンプ9により前記栽培棚ユニット3へ第1養液を供給する第1養液給水管10と、該第1養液給水管10の末端に接続され、各棚列奥へ第1養液を供給する第1養液幹管11と、該第1養液幹管11途中から分岐し、各棚列へ第1養液を分配する複数の第1養液枝管12と、該第1養液枝管12に設けられ、後述する第2養液枝管21との切り替えを行う第1切替えバルブ13と、該第1切替えバルブ13の下流側に設けられ、最上部の栽培棚槽1へ第1養液を供給する養液供給管14と、前記最上部の栽培棚槽1から最下部の栽培棚槽1へ順に前記第1養液を巡回流下させる連結パイプ15と、該連結パイプ15から流下し、前記栽培棚ユニット3の最下部で第1養液を貯留する一時貯留槽16と、該一時貯留槽16の下流側から前記第1養液タンク7に戻る第1養液排水管17と、から構成される。
【0011】
前記第2養液補給システムは、図1の左下点線囲みに示すように前記栽培棚ユニット3の栽培棚槽1を循環する第2養液を貯留する第2養液タンク18と、該第2養液タンク18に各種薬液を供給する複数の薬液供給装置(図示せず)と、前記第2養液タンク18からポンプ9により前記栽培棚ユニット3へ第2養液を供給する第2養液給水管19と、該第2養液給水管19の末端に接続され、各棚列奥へ第2養液を供給する第2養液幹管20と、該第2養液幹管20の途中から分岐し、各棚列へ第2養液を分配する複数の第2養液枝管21と、該第2養液枝管21に設けられ、前述した第1養液枝管12との切り替えを行う第2切替えバルブ22と、該第2切替えバルブ22の下流側に設けられ、最上部の栽培棚槽1へ第2養液を供給する養液供給管14と、前記最上部の栽培棚槽1から最下部の栽培棚槽1へ前記第2養液を巡回流下させる連結パイプ15と、該連結パイプ15から流下し、前記栽培棚ユニット3の最下部で第2養液を貯留する一時貯留槽16と、該一時貯留槽16の下流側から前記第2養液タンク18に戻る第2養液排水管23と、から構成される。
なお、前記養液供給管14は、第1養液と第2養液を供給する共用管である。
【0012】
次に、本発明の水耕栽培装置の操作動作を添付図面に基づいて、以下に説明する。
図1に示すように、ほうれん草の栽培期間5週間のうち、最初の2〜3週間は、薬液供給装置8からKNO3を加えて調整された第1養液が第1養液タンク7に貯蔵されており、前記第1養液タンク7からポンプ9、調圧弁を介して前記第1養液が第1養液給水管10で栽培棚ユニット3に供給される。
前記第1養液給水管10から各栽培棚2の列方向に延びる第1養液幹管11に供給され、該第1養液幹管11から前後11列の栽培棚へ第1養液枝管12で供給される。
前記第1養液枝管の途中には第1切替えバルブ13が設けられており、前記第1切替えバルブ13と第2切替えバルブ22の切替開閉により第1養液と第2養液を切り替えできるようになっている。
図4の正面視(a)及び側面視(b)に示すように、前記第1切替えバルブ13がONとなっているので、第1養液は前記第1切替えバルブ13を経過して養液供給管14から各栽培棚の最上部の栽培棚槽1へ供給される。
図5の正面視(a)及び側面視(b)に示すように、前記栽培棚槽1へ供給された第1養液は、各棚段の栽培棚槽1を連結パイプ15を介して巡回流下して各栽培棚槽1に養液補給を行い、最下部の栽培棚槽1から連結パイプ15を介して一時貯留槽16へ保留される。
前記一時貯留槽16から第1養液排水管17を経て第1養液タンク7へ第1養液が戻り、前記第1養液タンク7内の各種センサーにより第1養液のKNO3濃度を測定し、前記薬液供給装置8から不足した薬液が補充される。
このようにして、ほうれん草の栽培期間5週間のうち、最初の2〜3週間は第1養液が各栽培棚槽1に循環供給される。
【0013】
次に、ほうれん草の栽培期間5週間のうち、終わりの2〜3週間はKNO3の代わりに同濃度のHNO3またはNaNO3を加えて調整された第2養液が第2養液タンク18に貯蔵されており、第2養液供給前に各栽培棚槽1から第1養液を排出し、第1切替えバルブ13をOFFとし、第2切替えバルブ22をONとする。
図1に示すように、前記第2養液タンク18からポンプ9、調圧弁を介して前記第2養液が第2養液給水管19で栽培棚ユニット3に供給される。
前記第2養液給水管19から各栽培棚2の列方向に延びる第2養液幹管20に供給され、該第2養液幹管20から前後11列の栽培棚へ第2養液枝管21で供給される。
前記第2養液枝管21の途中には第2切替えバルブ22が設けられており、前記第2切替えバルブ22がONとなっているので、第2養液は前記第2切替えバルブ22を経過して養液供給管14から各栽培棚2の最上部の栽培棚槽1へ供給される。
図5の正面視(a)及び側面視(b)に示すように、前記栽培棚槽1へ供給された第2養液は、各棚段の栽培棚槽1を連結パイプ15を介して巡回流下して各栽培棚槽1に養液補給を行い、最下部の栽培棚槽1から連結パイプ15を介して一時貯留槽16へ保留される。
前記一時貯留槽16から第2養液排水管23を経て第2養液タンク18へ第2養液が戻り、前記第2養液タンク18内の各種センサーにより第2養液のHNO3またはNaNO3濃度を測定し、前記薬液供給装置8から不足した薬液が補充される。
このようにして、ほうれん草の栽培期間5週間のうち、終わりの2〜3週間は第2養液が各栽培棚槽1に循環供給される。
【符号の説明】
【0014】
1 栽培棚槽
2 栽培棚
3 栽培棚ユニット
4 第1養液補給システム
5 第2養液補給システム
6 光源用ブラケット
7 第1養液タンク
8 薬液供給装置
9 ポンプ
10 第1養液給水管
11 第1養液幹管
12 第1養液枝管
13 第1切替えバルブ
14 養液供給管
15 連結パイプ
16 一時貯留槽
17 第1養液排水管
18 第2養液タンク
19 第2養液給水管
20 第2養液幹管
21 第2養液枝管
22 第2切替えバルブ
23 第2養液排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を水耕栽培する栽培棚槽を載置することが可能な複数段の栽培棚を備えた栽培棚ユニットと、該栽培棚ユニットの栽培棚槽に異なる成分組成の第1養液を供給循環する第1養液補給システムと、前記栽培棚ユニットの栽培棚槽に異なる成分組成の第2養液を供給循環する第2養液補給システムと、から構成されることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
前記第1養液補給システムは、前記栽培棚ユニットの栽培棚槽を循環する第1養液を貯留する第1養液タンクと、該第1養液タンクに各種薬液を供給する複数の薬液供給装置と、前記第1養液タンクからポンプにより前記栽培棚ユニットへ第1養液を供給する第1養液給水管と、該第1養液給水管の末端に接続され、各棚列奥へ第1養液を供給する第1養液幹管と、該第1養液幹管の途中から分岐し、各棚列へ第1養液を分配する複数の第1養液枝管と、該第1養液枝管に設けられ、第2養液枝管との切り替えを行う第1切替えバルブと、該第1切替えバルブの下流側に設けられ、最上部の栽培棚槽へ第1養液を供給する養液供給管と、前記最上部の栽培棚槽から最下部の栽培棚槽へ前記第1養液を巡回流下させる連結パイプと、該連結パイプから流下し、前記栽培棚ユニットの最下部で第1養液を貯留する一時貯留槽と、該一時貯留槽の下流側から前記第1養液タンクに戻る第1養液排水管と、から構成されることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。
【請求項3】
前記第2養液補給システムは、前記栽培棚ユニットの栽培棚槽を循環する第2養液を貯留する第2養液タンクと、該第2養液タンクに各種薬液を供給する複数の薬液供給装置(図示せず)と、前記第2養液タンクからポンプにより前記栽培棚ユニットへ第2養液を供給する第2養液給水管と、該第2養液給水管の末端に接続され、各棚列奥へ第2養液を供給する第2養液幹管と、該第2養液幹管の途中から分岐し、各棚列へ第2養液を分配する複数の第2養液枝管と、該第2養液枝管に設けられ、第1養液枝管との切り替えを行う第2切替えバルブと、該第2切替えバルブの下流側に設けられ、最上部の栽培棚槽へ第2養液を供給する養液供給管と、前記最上部の栽培棚槽から最下部の栽培棚槽へ前記第2養液を巡回流下させる連結パイプと、該連結パイプから流下し、前記栽培棚ユニットの最下部で第2養液を貯留する一時貯留槽と、該一時貯留槽の下流側から前記第2養液タンクに戻る第2養液排水管と、から構成されることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−250722(P2011−250722A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125533(P2010−125533)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【特許番号】特許第4792533号(P4792533)
【特許公報発行日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(503264156)横手精工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】