説明

水解紙

【課題】 清拭作業に十分耐え得る湿潤強度を有し、しかも柔らかい水解紙を提供すること。
【解決手段】 水解紙は、木材パルプ及び再生セルロース繊維を含むウエブに水溶性バインダを外添させて得られる。木材パルプの含有量は70〜95重量%で、再生セルロース繊維の含有量は5〜30重量%である。また再生セルロース繊維はその繊維長が2〜7mmで、繊維径が0.1dtex以上1dtex未満である。水溶性バインダの外添量は、木材パルプ及び再生セルロース繊維の合計量に対して5〜20%重量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水解紙及びその製造方法に関する。また本発明は、該水解紙に水性洗浄剤を含浸させてなる水解性清拭物品に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、湿式抄造によって製造され且つカルボキシル基を有する水溶性バインダを含有する水解紙に、多価金属イオンと有機溶剤を必須成分として含有する水性清浄薬剤を含浸させてなる水解性清掃物品を提案した(特許文献1参照)。また湿式抄造によって製造され且つポリビニルアルコールをバインダとして含有する水解紙に、水溶性溶剤を含有するホウ酸水溶液を含浸させてなる水解性清掃物品も提案した(特許文献2参照)。これらの水解性清掃物品は、清掃作業に耐え得る強度を有し、しかも良好な水解性も有している。
【0003】
更に本出願人は、湿潤時における水解紙の破断強度を高めることを目的として、抄紙原料に水溶性バインダを内添する水解紙の製造方法を提案した(特許文献3参照)。
【0004】
これらとは別に、再生セルロース繊維15〜55%重量%と、木材パルプ85〜45重量%とを混合して、湿式抄紙法により形成したウエブを有孔支持体上で高圧水ジェット流処理を施し、再生セルロース繊維と木材パルプとを交絡、一体化する不織布の製造方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法においては超音波伝播速度比がMD/CD=1.5〜3.5の範囲になるようにウエブを湿式抄紙する。この方法によれば、湿潤強度及び水解性が高くなるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−149237号公報
【特許文献2】特開平3−292924号公報
【特許文献3】特開2001−234457号公報
【特許文献4】特開平11−93055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した従来技術の水解紙に比較して、使用時の強度が十分に高く、また柔らかく、更に廃棄時には一層容易に崩壊する水解紙及び水解紙の製造方法並びに該水解紙を用いた水解性清拭物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、木材パルプ及び再生セルロース繊維を含むウエブに水溶性バインダを外添させて得られた水解紙であって、
前記木材パルプの含有量が70〜95重量%で、前記再生セルロース繊維の含有量が5〜30重量%であり、
また前記再生セルロース繊維はその繊維長が2〜7mmで、繊維径が0.1dtex以上1dtex未満であり、
前記水溶性バインダの外添量が、前記木材パルプ及び前記再生セルロース繊維の合計量に対して5〜20%重量である水解紙を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0008】
また本発明は、前記の水解紙の製造方法であって、木材パルプ及び再生セルロース繊維を含む紙料を湿式抄紙してウエブを形成し、該ウエブに対して有孔支持体上で高圧水ジェット流処理を施し、次いで該ウエブの片面又は両面に水溶性バインダをスプレー塗工することによって外添する水解紙の製造方法を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、前記の水溶性バインダがアニオン性バインダである前記の水解紙に、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルから選ばれる1種又は2種以上の金属イオン並びに有機溶剤を含有する水性洗浄剤を含浸させてなる水解性清拭物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水解紙を用いた水解性清拭物品は、清拭作業に十分耐え得る湿潤強度を有し、しかも柔らかいものである。即ち柔らかさと強度の高さという相反する性能を併せ持つものである。湿潤強度が高いものでありながら、前記水解性清拭物品は、これを水中へ廃棄することで迅速に繊維レベルまでばらばらに崩壊する高い水解性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。先ず、本発明の水解紙について説明する。本発明の水解紙は、木材パルプ及び再生セルロース繊維を含むウエブに水溶性バインダを外添させて得られたものである。本発明の水解紙は、特に、再生セルロース繊維として細径のものを用い且つ水溶性バインダを外添することによって特徴付けられる。このような特徴を有する本発明の水解紙を、後述する水解性清拭物品の基材として用いると、柔らかさと強度の高さという相反する性能を同時に満たすことができる。
【0012】
具体的には、再生セルロース繊維としては、その繊維径が0.1dtex以上1dtex未満のものを用い、好ましくは0.4dex以上1dtex未満、更に好ましくは0.6〜0.8dtexのものを用いる。繊維径が1dtex以上の再生セルロース繊維を用いると、水解紙の剛性が高くなり柔らかな水解紙を得ることができない。この観点から、再生セルロース繊維の繊維径は小さいほど好ましいと言えるが、細径の再生セルロース繊維はコスト高となるので、経済的観点から繊維径の下限値を前記の値としている。
【0013】
本発明の水解紙は、繊維径が前記の範囲の再生セルロース繊維を5〜30重量%含み、好ましくは5〜25重量%、更に好ましくは5〜20重量%含む。再生セルロース繊維の配合量が5重量%未満では、繊維本数が少な過ぎるので、後述する高圧水ジェット流処理を施しても、繊維の絡みが少なく湿潤強度を向上させることが困難である。逆に配合量が30重量%を超えると湿式抄紙の際に分散させづらく、やはり湿潤強度を向上させることが困難である。
【0014】
再生セルロース繊維としてはその繊維長が2〜7mmのものを用い、好ましくは3〜7mm、更に好ましくは5〜7mmのものを用いる。繊維長が2mmよりも短いと、絡みが生じにくくなり湿潤強度を向上させることが困難である。7mmよりも長いと湿式抄紙の際に分散させづらく、やはり湿潤強度を向上させることが困難である。
【0015】
このように本発明の水解紙においては、繊維径が0.1dtex以上1dtex未満で、繊維長が2〜7mmの再生セルロース繊維を5〜30重量%用いることで、柔らかさと高湿潤強度とを実現している。再生セルロース繊維としては、ビスコース法、銅アンモニア法、有機溶剤法により得られた繊維を用いることができる。例えば、ビスコース法により形成されるレーヨン繊維等を用いることができる。
【0016】
本発明の水解紙は、前述した再生セルロース繊維に加えて木材パルプを必須の構成繊維として含んでいる。木材パルプとしては、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木質パルプ、化学処理を施してアルカリ膨潤したマーセル化パルプ、螺旋構造を有する化学架橋パルプを用いることができる。
【0017】
水解紙に含まれる木材パルプの量は70〜95重量%であり、好ましくは80〜95重量%、更に好ましくは80〜90重量%である。木材パルプの量が70重量%未満では、相対的に再生セルロース繊維量が多くなり湿式抄紙の際に再生セルロース繊維を分散させづらくなる。90重量%超では、相対的に再生セルロース繊維(例えば、レーヨン繊維)の量が少なくなり、高圧水ジェット水流処理を施しても、繊維の絡みが少なく、湿潤強度を向上させることが困難となってしまう。
【0018】
本発明の水解紙の構成繊維は、前述した再生セルロース繊維及び木材パルプだけでもよく、或いは必要に応じて他の繊維、例えばコットン繊維や、生分解性を有する繊維であるポリ乳酸からなる繊維を含んでいてもよい。その他に、ポリビニルアルコール繊維や他のポリオレフイン系繊維、ポリエステル系繊維等を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の水解紙は、水溶性バインダが外添されていることによっても特徴付けられる。水溶性バインダを外添することで、内添する方法、即ち湿式抄紙に用いられる紙料中に水溶性バインダを予め添加しておく方法に比較して、多量のバインダを使用しても水解紙が硬くなりづらい。その結果、細径の再生セルロース繊維を用いることに起因して発現する水解紙の柔らかさを維持しつつ、水解紙の湿潤強度を高めることができる。
【0020】
水溶性バインダの外添量は、再生セルロース繊維及び木材パルプの合計量に対して5〜20重量%という高い割合とすることができる。これによって水解紙の湿潤強度を高めることができる。バインダを高配合することに起因する硬さの発現は、バインダを外添することで低下させることが可能である。バインダの外添量は5〜10重量%、特に5〜8重量%であることが、柔らかさと高湿潤強度とのバランスの点から好ましい。なお、後述する比較例3から明らかなように、水溶性バインダを外添することに加えて内添して、全体の添加量を5%以上にしたとしても、外添量それ自体を5%以上にしないと、湿潤強度の向上が図れない。
【0021】
水溶性バインダの外添方法に特に制限はない。例えば再生セルロース繊維及び木材パルプを含むウエブを形成した後に、該ウエブの片面又は両面に所定の添加手段によって水溶性バインダを添加することができる。この場合、水溶性バインダがウエブに点状に付着するように該バインダを添加することが、水解性の向上の点から好ましい。水溶性バインダを点状に付着させるには、例えばスプレー塗工を用いることができる。
【0022】
水溶性高分子バインダとしては、例えばカルボキシル基を有する水溶性バインダのようなアニオン性バインダ、ポリビニルアルコール、デンプンまたはその誘導体、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン、ポリエチレンオキシド、ビスコース、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のヒドロキシル化誘導体、ポリビニルピロリドン/ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらのバインダのうち、水解性が良好である点や後述する架橋剤との親和性の点からカルボキシル基を有する水溶性バインダのようなアニオン性バインダや、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0023】
カルボキシル基を有する水溶性バインダは、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンプン又はその塩などが挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテルなどが挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチンなどが挙げられる。
【0024】
カルボキシル基を有する水溶性バインダのうち特に好ましいものはカルボキシメチルセルロース(以下CMCともいう)のアルカリ金属塩である。CMCはそのエーテル化度が0.8〜1.2、特に0.85〜1.1であることがバインダとしての性能が良好となる点、及び後述する架橋剤との親和性が良好である点から好ましい。同様の理由により、CMCは25℃における1重量%水溶液の粘度が10〜40mPa・s、特に15〜35mPa・sであり、同温度における5重量%水溶液の粘度が2500〜4000mPa・s、特に2700〜3800mPa・sであり、更に60℃における5重量%水溶液の粘度が1200mPa・s以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の水解紙は、シングルプライで用いることもでき、また2層以上が積層されたマルチプライ構造であってもよい。マルチプライ構造とすることによって、柔らかさを損なうことなく厚手感やコシの強さを付与することができる。マルチプライ構造である場合には、各層すべてが一体的にエンボス加工されていることが、清拭操作性の向上の点から好ましい。またマルチプライ構造である場合、例えば2層構造である場合には、各層の水解紙はその片面側からのみ水溶性バインダが外添されており、外添された面同士が対向するように積層されることが好ましい。こうすることによって、マルチプライ構造を有する水解紙の外面に存在する水溶性バインダの量を少なくすることができ、該バインダを多量に外添することによって生じるべたつき感の発現を抑制することができる。
【0026】
水解紙がシングルプライであるか又はマルチプライであるかを問わず、水解紙はその坪量が40〜100g/m2、特に40〜60g/m2であることが、柔らかさと十分な湿潤強度とのバランスの点から好ましい。
【0027】
本発明の水解紙は、後述する水解性清拭物品の基材として好適に用いられるほか、例えばトイレや台所など水回りの拭き取り清掃用、おしり拭き用、おしぼりなどとしても好適に用いられる。
【0028】
図1には本発明の水解紙を製造するための装置が示されている。図1に示す製造装置(抄紙機)100は、フォーマー1と、ワイヤーパート2と、第1ドライパート3と、スプレーパート4と、第2ドライパート5とを備えて構成されている。フォーマー1は、調製装置(図示せず)から供給された完成紙料を所定の濃度に調節してワイヤーパート2へ供給するものである。図示しない調製装置は、再生セルロース及び木材パルプ等の原料を離叩解する装置と、離叩解された原料にサイズ剤、顔料、紙力増強剤、漂白剤、凝集剤等の添加剤を添加する添加装置とを備え、水解紙の特性に応じた所定濃度の原料からなる紙料を完成紙料として調製するように構成されている。ワイヤーパート2は、フォーマー1から供給された完成紙料を抄き網に湿紙として形成するものである。第1ドライパート3は、ワイヤーパート2において形成された湿紙を乾燥させるものである。スプレーパート4は、第1ドライパート3で乾燥された紙にバインダを噴霧するものである。第2ドライパート5は、スプレーパート4でバインダが噴霧され湿潤状態になっている紙を乾燥させるものである。また図示していないが、第2ドライパート5の下流側には、第2ドライパート5において乾燥された紙を、水解紙として巻き取るワインダーパートが設置されている。
【0029】
本製造装置100を用いた水解紙の製造方法について説明すると、フォーマー1から供給された完成紙料がワイヤーパート2において抄造され、有孔支持体としてのワイヤー21上に湿紙10aが形成される。ワイヤーパート2には、湿紙10aに対向する位置に、高圧ジェット水流の噴射装置23が設置されている。噴射装置23からは、湿紙10aに向けて高圧のジェット水流が噴射される。これによって湿紙10aの構成繊維どうしの絡み合いの程度が増し、水解紙の湿潤強度が向上する。湿紙10aは、ワイヤーパート2に設置されているサクションボックス22による吸引で水分が除去され、所定の水分率となされる。水分率は一般に60〜80重量%程度である。
【0030】
ワイヤーパート2において形成された湿紙10aは、第1ドライパート3に導入されて乾燥される。本実施形態における第1ドライパート3はスルーエアードライヤ(以下、TADという)から構成されている。なお、第1ドライパートで使用可能なものには、TAD以外にヤンキードライヤーやヒートロール等の乾燥機がある。TADは、周面が通気性を有する回転ドラム31と、該回転ドラム31をほぼ気密に覆うフード32とを備えている。TADにおいては、所定温度に加熱された空気がフード32内に供給されるようになされている。加熱された空気は回転ドラム31の外側から内部に向けて流通する。湿紙10aは、図1中、矢印方向に回転する回転ドラム31の周面に抱かれた状態で搬送される。TAD内を搬送されている間、湿紙10aにはその厚み方向へ加熱空気が貫通し、それによって湿紙10aは乾燥され紙10bとなる。つまり湿紙10aは熱風通過によって乾燥される。この乾燥過程においては、湿紙10aは圧密化を受けていないので、その嵩の減少が極力抑えられている。その結果、最終的に得られる水解紙は、高価な嵩高化原料を用いなくても十分に嵩高なものとなり、使用時に破れないという安心感を使用者に与える。また嵩高であることに起因して繊維間の結合点の数が少なくなり水解性が良好なものとなる。
【0031】
第1ドライパート3で得られた紙10bには、スプレーパート4においてバインダを含む水溶液がスプレー塗工される。スプレーパート4は第1及び第2ドライパート3,5間の位置で且つ第2ドライパート5の直ぐ上流側に設置されている。両ドライパート3,5は、コンベア41を介して連結されている。
【0032】
コンベア41は、それぞれ矢示方向に回転する上コンベアベルト42と下コンベアベルト43とを備えている。コンベア41は、第1ドライパート3のTADによって乾燥された紙10bをこれら両ベルト42,43間に挟持した状態で第2ドライパート5へ搬送するように構成されている。上コンベアベルト42の下流側の折り返し端には真空ロール44が配置されている。真空ロール44は、上コンベアベルト42の表面に紙10bを吸着させ、その吸着状態下に上コンベアベルト42を搬送させるようになっている。
【0033】
上コンベアベルト42及び下コンベアベルト43は何れもプラスチック製のネットから構成されている。一般的な水解紙の製造装置においてはこれらのベルトはフェルト製であるが、本製造装置においてはフェルト製のベルトは用いていない。この理由は次の通りである。後述するように、本発明においては、紙10bを第2ドライパート5へ導入する直前に、該紙10bにバインダを含む噴霧液を外添する。このとき、紙10bは上コンベアベルト42の表面に吸着された状態となっている。従って、上コンベアベルト42がフェルト製である場合には、紙10bに外添したバインダの多くがフェルトに吸収されてしまい、十分な量が紙10bに付着されない。これに対して上コンベアベルト42がプラスチック製のベルトであれば、そのような不都合は生ぜず十分な量のバインダが紙10bに付着する。またプラスチック製のネットはフェルト製のベルトに比べて洗浄しやすいという利点もある。同様の観点から下コンベアベルト43もプラスチック製としている。プラスチック製ベルトの材質としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン6、ナイロン610、カイナー、ポリフェニレンサルファイド、ケブラー等を用いることができ、重織、平織、綾織、朱子織の織方で、条件に応じてメッシュ、目開きを変えたワイヤーである。
【0034】
図1に示すように、スプレーパート4はスプレーノズル45を備えている。スプレーノズル45は第2ドライパート5の下方で且つ真空ロール44に対向するように配設されている。スプレーノズル45は、真空ロール44に向けてバインダを含む噴霧液を噴霧して、紙10bの幅方向全域に該噴霧液を均一にまたは所定のパターン形状で塗布するものである。噴霧液は、その噴霧に支障のない程度の粘度に希釈されて噴霧される。本製造装置においては、バインダを含む噴霧液は紙10bの片面にのみスプレー塗工されるが、必要に応じ紙10bの両面にスプレー塗工を施してもよい。
【0035】
スプレーノズル45は紙10bの幅方向にわたり複数個配置されている。スプレーノズル間の間隔は、隣り合うスプレーノズルから噴霧される噴霧液がオーバーラップするような間隔とすることが、噴霧液の均一塗布の点から好ましい。スプレーノズル45は可動になっており、スプレーノズル45の真空ロール44に対する距離や角度を適宜調節できるようになっている。噴霧液の噴射圧も調節できるようになっている。これによって、噴霧液が紙10bの内部へ浸透する程度を適宜制御することができる。噴霧液の紙10bへの浸透度は、真空ロール44の真空度を調節することによっても制御できる。
【0036】
バインダを外添すると、外添後の紙を更に乾燥させなければならず、生産効率が低下するおそれがある。そこで本発明においては、第1ドライパート3において湿紙10aを低水分率になるまで乾燥させて紙10bを得ると共に、スプレーパート4において噴霧する噴霧液中のバインダの濃度を出来るだけ高くして噴霧液の噴霧量を少なくすることが乾燥効率の面から好ましい。
【0037】
具体的には、第1ドライパート3において湿紙10aをその水分率が40重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下、特に10重量%以下となるように乾燥させることが好ましい。水分率の下限値に特に制限はなく、低ければ低いほど好ましい。例えば絶乾まで乾燥させてもよい。また噴霧液中におけるバインダの濃度は、該バインダの種類にもよるが、例えばCMCを用いる場合には3〜10重量%、特に3〜7重量%であることが均一なスプレー噴霧を達成する面から好ましい。このような濃度でバインダが溶解している噴霧液のスプレーパート4における噴霧量は、紙10bの重量(絶乾重量)に対して50〜300重量%、特に100〜200重量%程度の少量とすることが、紙への均一なバインダ添加及び第2ドライパート5における効率的な乾燥の点から好ましい。つまり、バインダが外添され且つヤンキードライヤーに導入される前の紙10bの水分率が25〜80重量%、特に40〜70重量%程度の低水分率であることが好ましい。
【0038】
スプレーパート4においてバインダが外添された後、紙10bは第2ドライヤパート5へ搬送される。第2ドライヤーパート5はヤンキードライヤーから構成されている。噴霧液が噴霧されて湿潤状態となっている紙10bは、ヤンキードライヤーの回転ドラム51の周面に抱かれた状態で搬送される。回転ドラム51に抱かれて搬送されている間に紙10bの乾燥が進行する。ヤンキードライヤーの出口にはドクターナイフ52が設置されている。ドクターナイフ52は、紙10bにクレープをかけながら、ヤンキードライヤーの回転ドラム51から紙10bを剥離させるものである。紙10bにクレープがかけられ、目的とする水解紙10が得られる。
【0039】
次に、本発明の水解性清拭物品について説明する。本発明の水解性清拭物品は、水溶性バインダとして、カルボキシル基を有する水溶性バインダのようなアニオン性バインダが外添されている本発明の水解紙に、水性洗浄剤を含浸させてなるものである。
【0040】
本発明の水解紙は水解性を有するものなので、これを水中に廃棄したり、或いはこれに水性液を含浸させると容易に崩壊してしまう。そこで本発明においては水解紙に水性洗浄剤を含浸させてウエットの水解性清拭物品を得るにあたり、該水性洗浄剤中に前記バインダの架橋剤を含有させておく。架橋剤によって該バインダが架橋して不溶化する結果、少量の水では該バインダが溶解しなくなる。しかし大量の水中に廃棄すれば不溶化していた該バインダが再び水に溶解するようになって、速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊する。
【0041】
架橋剤は、アニオン性バインダの種類に応じて適切なものが用いられる。例えば、バインダが前述したCMCなどのカルボキシル基を有する水溶性バインダである場合には、架橋剤として多価金属イオンを用いることが好ましい。特にアルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の金属イオンを用いることが、繊維間が十分に結合されて清掃作業に耐え得る強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが、一層高い湿潤強度が得られ、清拭操作を首尾良く行い得る点から特に好ましい。前記以外の金属イオン、例えば一価の金属イオン(カリウムを除く)では水解性は満足するが、清拭に耐えうる湿潤強度が得られない。また、二価の金属イオンであるCu2+、Fe2+、Sn2+、及び三価の金属イオンであるFe3+、Al3+については清拭作業に耐え得る強度は満足するが水解性能が満足されない。
【0042】
金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩などの水溶性金属塩の形で水性洗浄剤に添加される。金属イオンは、本発明の水解性清拭物品中に存するバインダにおけるカルボキシル基1モルに対して1/4モル以上、特に1/2モル以上の量となるように添加されることが、十分な架橋反応を起こさせる点から好ましい。
【0043】
水性洗浄剤には、前述した架橋剤に加えて有機溶剤が配合される。この理由は、前記のアニオン性バインダを含む水解紙に架橋剤を加えて該バインダを架橋させただけでは、清拭作業に耐え得る十分な湿潤強度を有する水解性清拭物品が得られないからである。有機溶剤を併用することによって、アニオン性バインダと架橋剤との架橋コンプレックスの生成が著しく増大し、そのコンプレックスが不溶化した状態で存在するので、水解紙に含浸される水性洗浄剤中の水の量が多くても、清拭作業に耐え得る十分な強度が発現する。
【0044】
有機溶剤は水溶性の溶剤であることが好ましい。具体的にはエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、これらグリコール類とメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールとのモノ又はジエーテル、前記グリコール類と低級脂肪酸とのエステル、グリセリンやソルビトール等の多価アルコールが挙げられる。
【0045】
水性洗浄剤中に有機溶剤を1重量%以上配合すると、水解性清拭物品の湿潤強度の増加が認められる。50重量%超配合すると水溶性汚れに対する清拭除去効果が低下する場合がある。また火気に対する危険性もある。有機溶剤を10重量%以上配合すると、水解性清拭物品の湿潤強度が著しく増加する。これらの観点から、水性洗浄剤中における有機溶剤の配合量は1〜50重量%、特に10〜50重量%であることが好ましい。
【0046】
水性洗浄剤は水を媒体として前述した架橋剤及び有機溶剤が配合されてなるものである。水性洗浄剤にはこれらの成分に加えて必要に応じ界面活性剤、殺菌剤、消臭剤などを配合して、該水性洗浄剤の性能を高めてもよい。界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の何れもが用いられる。特に洗浄性と仕上がり性の両立の面から、ポリオキシアルキレン(アルキレンオキサイド付加モル数1〜20)アルキル(炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖)エーテル、アルキル(炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖)グリコシド(平均糖縮合度1〜5)、ソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖)エステル、及びアルキル(炭素数6〜22の直鎖又は分岐鎖)グリセリルエーテル等の非イオン界面活性剤並びにアルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルアミドカルボキシベタイン、アルキルアミドスルホベタイン、アルキルアミドヒドロキシスルホベタイン等のアルキル炭素数8〜24の両性界面活性剤が好適に用いられる。
【0047】
水性洗浄剤は、水解紙の重量(乾燥基準)に対して100%〜500重量%、特に100〜300重量%含浸されることが、十分な清拭効果が発現する点から好ましい。
【0048】
このようにして得られた本発明の水解性清拭物品は、水性洗浄剤が含浸されている程度では水解しないが、大量の水中に廃棄されると速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊する。本発明の水解性清拭物品の水解の程度は、JIS P 4501−1993(トイレットペーパー)に規定されるほぐれやすさの値が好ましくは30秒未満、更に好ましくは20秒以下という極めて低い値となる。この理由は、水解紙にバインダが外添されることによって、該バインダが水解紙の表面の繊維に付着するので、水解性清拭物品を大量の水中に投入した場合、バインダが溶け出すのが容易であるためと考えられる。
【0049】
水解性が良好であることに加えて、本発明の水解性清拭物品は湿潤強度が高いものである。具体的には、湿潤時破断強度がCD方向で1〜5N/25mm、特に2〜5N/25mmという高い値を有する。MD方向の湿潤時破断強度はこれよりも高い値となる。具体的には、3〜10N/25mm、特に3〜8N/25mmとなる。
【0050】
破断強度の測定方法は次の通りである。CD方向の破断強度については、試料をCD方向に100mm、MD方向に25mm切り出し、CD方向が引っ張り方向となるように、チャック間距離50mmで引張試験機に取り付ける。引張速度300mm/minで試料を引っ張り、破断したときの強度を破断強度とする。MD方向の破断強度については、試料をMD方向に100mm、CD方向に25mm切りだし、MD方向が引っ張り方向となるように、チャック間距離50mmで引張試験機に取り付ける。その後はCD方向の破断強度と同様の方法で測定を行う。
【0051】
本発明の水解性清拭物品は、例えば身体の清拭、肛門周辺の清拭やメーク落としなどに好適に用いられる。使用後の清拭物品はそのまま水に流して廃棄すればよく、水に流すと速やかに水解するので排水管を詰まらせることはない。柔らかさを発現させ、また清拭操作を行いやすくする観点から、水解性清拭物品に用いられる水解紙は、2枚以上積層されエンボス加工されてなるマルチプライ構造であることが好ましい。また、バインダによるべたつき感の発現を抑制する観点から、マルチプライ構造である場合、例えば2層構造である場合には、各層の水解紙はその片面側からのみ水溶性バインダが外添されており、外添された面同士が対向するように積層されることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。特に断らない限り「%」は「重量%」を意味する。
【0053】
〔実施例1〕
針葉樹クラフトパルプ(NBKP)60%、針葉樹サルファイトパルプ(NBSP)30%、0.8dtex×5mmのレーヨン繊維10%(ダイワボウ社製)を水に分散させて、濃度2%のスラリーを得た。このスラリーを原料として図1に示す製造装置を用いて水解紙を抄紙した。スプレーノズル45から噴霧される噴霧液は、5%のCMCナトリウム塩(日本製紙製のサンローズ(商品名))を含むものであり、紙の片面にのみ噴霧された。得られた水解紙の坪量は31g/m2であった。CMCナトリウム塩の外添量は、水解紙の抄紙速度及び噴霧液の添加流量を調整して、パルプ及びレーヨン繊維の合計量に対して7%であった。
【0054】
得られた水解紙を2枚重ね、室温でエンボス加工を施した。2枚の水解紙は、CMCナトリウム塩が外添された面同士が対向するように積層された。エンボスパターンは幅3mmの中に3本の直線が並ぶパターンであった。この3本の直線を一組とした直線エンボス群が、所定間隔をおいて並列するようにエンボス加工を行った。直線エンボス群は、水解紙のMD方向を向くように配列していた。
【0055】
エンボス加工後の水解紙に、以下の処方からなる水性洗浄剤を含浸させた。含浸量は水解紙乾燥重量の2.3倍とした。このようにして、MD方向150mm、CD方向190mmの水解性清拭物品を得た。
〔処方〕
ジプロピレングリコール 18%
塩化カルシウム 3%
水 79%
【0056】
〔実施例2、3及び4〕
表1に示す条件とする以外は実施例1と同様にして水解紙及び水解性清拭物品を得た。
【0057】
〔比較例1〕
水解紙の配合は表1に示す通りとした。パルプ及びレーヨンの合計量に対して1.4%のCMCナトリウム塩及び以下の式(1)で示されるカチオン化ポリマー2.1%を紙料中に添加(内添)した。CMCナトリウム塩の外添は行わなかった。これら以外は実施例1と同様にして水解紙及び水解性清拭物品を得た。
【0058】
【化1】

【0059】
〔比較例2〕
表1に示す条件とする以外は実施例1と同様にして水解紙及び水解性清拭物品を得た。
【0060】
〔比較例3〕
水解紙の配合は表1に示す通りとした。パルプ及びレーヨンの合計量に対して1.4%のCMCナトリウム塩及び前記の式(1)で示されるカチオン化ポリマー2.1%を紙料中に添加(内添)した。更に、スプレーノズル45からCMCナトリウム塩を、パルプ及びレーヨンの合計量に対して4%外添した。これら以外は実施例1と同様にして水解紙及び水解性清拭物品を得た。
【0061】
〔性能評価〕
実施例及び比較例で得られた水解性清拭物品について、先に述べた方法で湿潤時破断強度を測定し、以下に述べる方法で水解性を測定すると共に風合いを評価した。これらの結果を表1に示す。
【0062】
〔水解性〕
トイレットペーパーのほぐれやすさ試験(JIS P 4501)に準じてほぐれやすさの程度(時間)を測定した。
【0063】
〔風合い〕
水解性清拭物品をMD方向に150mm、CD方向に190mm切り出しこれを試料とした。10名のパネラー試料を手で触らせて風合いを評価させた。評価段階は以下の通りである。
3:良い2:普通1:悪い
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示す結果から明らかなように、実施例の水解性清拭物品は、湿潤時破断強度が高いにもかかわらず良好な風合いを呈するものであることが判る。また水解性も良好であることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】水解紙の製造装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 フォーマー
2 ワイヤーパート
3 第1ドライパート(スルーエアードライヤー)
4 スプレーパート(バインダ)
5 第2ドライパート(ヤンキードライヤー)
10 水解紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプ及び再生セルロース繊維を含むウエブに水溶性バインダを外添させて得られた水解紙であって、
前記木材パルプの含有量が70〜95重量%で、前記再生セルロース繊維の含有量が5〜30重量%であり、
また前記再生セルロース繊維はその繊維長が2〜7mmで、繊維径が0.1dtex以上1dtex未満であり、
前記水溶性バインダの外添量が、前記木材パルプ及び前記再生セルロース繊維の合計量に対して5〜20%重量である水解紙。
【請求項2】
2枚以上積層されエンボス加工されてなるマルチプライ構造である請求項1記載の水解紙。
【請求項3】
前記水溶性バインダが片面側から外添されており、外添された面同士が対向するように積層されている請求項2記載の水解紙。
【請求項4】
前記水溶性バインダがアニオン性バインダである請求項1記載の水解紙に、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルから選ばれる1種又は2種以上の金属イオン並びに有機溶剤を含有する水性洗浄剤を含浸させてなる水解性清拭物品。
【請求項5】
CD方向の湿潤時破断強度が、1〜5N/25mmで且つJIS P 4501−1993に準じて測定されたほぐれやすさの程度が30秒未満である請求項4記載の水解性清拭物品。
【請求項6】
前記アニオン性バインダがカルボキシル基を有するバインダである請求項4又は5記載の水解性清拭物品。
【請求項7】
前記水解紙に対する前記水性洗浄剤の含浸率が100〜500重量%である4ないし6の何れかに記載の水解性清拭物品。
【請求項8】
2枚以上積層されエンボス加工されてなるマルチプライ構造である請求項4ないし7の何れかに記載の水解性清拭物品。
【請求項9】
前記水溶性バインダが片面側から外添されている前記水解紙を、外添された面同士が対向するように積層させてなる請求項8記載の水解性清拭物品。
【請求項10】
請求項1記載の水解紙の製造方法であって、木材パルプ及び再生セルロース繊維を含む紙料を湿式抄紙してウエブを形成し、該ウエブに対して有孔支持体上で高圧水ジェット流処理を施し、次いで該ウエブの片面又は両面に水溶性バインダをスプレー塗工することによって外添する水解紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−2277(P2006−2277A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178809(P2004−178809)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】