説明

水質分析装置

【課題】水質分析装置において、微量の試料または薬液を簡易かつ精度よく注入することを課題とする。
【解決手段】ポンプ・配管・切換弁・液面検知素子を配した水質分析装置の試料採取・薬液注入ラインにおいて、減圧された一定の径を有する配管に導入された試料等を、空気を媒体として移動し、所定の部材に注入する。定量性は、細管部に設けられた光学素子によって液面検知することで非常に精度を上げることができる。試料や薬液の数を増減する場合においては、特に有効な手段となる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案が属する技術分野】
本考案は、海水や河川水等の汚染状況の分析に用いられる水質分析装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、海水や河川水等の汚染状況の分析に用いられる水質分析装置においては、試料及び反応試薬(以下、「試料等」という)を各々一定量採取して所定の反応槽に注入し、両者の反応を特定のパラメータにより観測することで、試料の汚染度を測定する方法が多く用いられている。
【0003】
図7は、こうした測定方法を用いた分析装置における試料採取・注入ライン(以下、「サンプリングライン」という)のフローの従来の1例を示す。
試料貯留容器71に採取された試料等は、配管72・切換弁73・配管74を介して定量ポンプ75のダイアフラム部75aに吸引された後、配管74・切換弁73・配管76を介して反応槽(図示せず)に注入される。つまり、ダイアフラム部75aのダイアフラム75bと連結棒75cによって直結したソレノイド75dが上下方向に一定のストローク分移動すると、それに連動してダイアフラム75bが上下方向に変動し、その変動分に相応する容積の試料等が吸引・注入されることとなる。
【0004】
以下に、具体的な動作を示す。
<試料等の吸引動作>(1)試料等を貯めた容器71を配管72の一方の端部が溶液内に位置するようにセットする。
(2)切換弁73を図7の黒色状態(配管72と配管74を連結した状態)にし、予め最上方部に停止状態にあったソレノイド75dを最下方部に移動させる。
配管72・切換弁73・配管74及びダイアフラム部75aが減圧状態となり、ソレノイド75dの移動分に相当する容量の試料等が吸引されて上記部分に充当される。
<試料等の注入動作>(3)配管76の一方の端部が反応槽内上部に位置するように反応槽をセットする。
(4)切換弁73を切換えて図7の白色状態(配管74と配管76を連結した状態)にし、切換弁73・配管74及びダイアフラム部75aに混入している空気を放出する。
(5)最下部に停止状態にあったソレノイド75dを上方部に移動させる。上記空間が加圧状態となり、ソレノイド75dの移動分に相当する量の試料等が当該空間及び配管76を移動して反応槽に注入される。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
しかし、従来の技術を各種の水質分析において適用する場合においては、以下のような課題を克服する必要があった。
【0006】
一般に、上記のような定量ポンプにおいては、膜の柔軟性や成形性等の観点から樹脂製のダイアフラムを用いることが多い。しかし、試薬の移送においてはダイアフラムが直接試料等に接するため、ダイアフラムを形成する樹脂の試料等による膨潤や腐蝕が生じるおそれがある。従って、ダイアフラムの材質を耐食性材料に変更したり、表面に例えばフッ素樹脂をコーティングする等の対策を採る必要があった。これらの対策は、ポンプの性能を低下させる要因となったり、コストアップの原因となる。また、長期的な使用に対しても、不安定要素となる可能性があった。定量ポンプ自体も高価なものであり、それに代わる移送手段の要請も強くあった。
【0007】
また、図7のフローにおいては、ダイアフラム部75aの内部空間が試料等導入時にデッドスペースとなって気泡の残留が生じることがあり、試料等の移送が正確にできずに定量性が損なわれることも起りうる。また、気泡のみならず試料等の残留が生じると、試料等の変質や残留物によるコンタミネーションが生じやすくなり測定値に悪影響を及ぼすこともありうる。特に、微量試料等の測定においては、こうした影響は致命的な誤差要因となりうる。
【0008】
従って、試料等と直接接することのないポンプ機能であって、気泡や試料等の残留を生じない移送機能を有するサンプリングラインが必要となる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本考案は、かかる課題を解決するために、以下の特徴を有する水質分析装置を提供するものである。
【0010】
海水や河川水等の水質分析装置において、吸引圧送手段、定量管及び切換弁を配した試料採取・注入ラインを具備し、減圧された所定の径を有する定量管に導入された試料等を液面検知素子によって計量し、所定の部材に注入することを特徴とする。(請求項1)
こうした特徴を有する分析装置を採用することにより、高価な定量ポンプ等を用いずに定量性を有する試料等の採取・注入をすることができるようになる。
【0011】
上記〔0010〕の特徴を有する分析装置であって、吸引圧送手段に試料等を導入することなく、空気を媒体として試料等を移動することを特徴とする。(請求項2)
こうした特徴を有する分析装置を採用することにより、高価な定量ポンプ等を用いずに、かつ、試料等をダイアフラム等の樹脂部に接することなく、定量性を有する試料等の採取・注入をすることが可能となる。
【0012】
上記〔0010〕または〔0011〕の特徴を有する分析装置であって、試料採取口、切換弁、定量管及び液面検知素子からなる試料採取ラインを複数有し、かつ、内容積を異なる定量管からなる試料採取ラインを可能とすることを特徴とする。(請求項3)
こうした特徴を有する分析装置を採用することにより、高価な定量ポンプ等を用いずに、かつ、試料等をダイアフラム等の樹脂部に接することなく、1つの吸引圧送手段を用いて各々異なった容量の定量性を有する複数の試料等の採取・注入をすることが可能となる。
【0013】
上記〔0010〕乃至は〔0012〕の特徴を有する分析装置であって、定量管が取り換えが可能な構造であることを特徴とする。(請求項4)
こうした特徴を有する分析装置に採用することにより、高価な定量ポンプ等を用いずに、かつ、試料等をダイアフラム等の樹脂部に接することなく、1つの吸引圧送手段を用いて各々異なった任意の容量の定量性を有する複数の試料等の採取・注入をすることが可能となる。
【0014】
【考案の実施の形態】
以下、本考案の実施の形態について、具体例として海水や河川水の分析を行った場合について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本考案を利用した分析装置のフローの一例を示す。
試料採取管の一部を定量管として利用しつつ、空気を媒体として試料等を移動する点に特徴がある。
【0016】
試料貯留容器1に採取された試料等は、いったん配管2・切換弁3・配管(定量管)5に吸入された後、切換弁3を・配管4を介して反応槽(図示せず)に注入される。試料等の移送については、定量管5に繋がるフィルタ7・配管8・切換弁9・配管10・配管12を介したポンプ11およびポンプ11aによって行われる。試料等の定量は、定量管5及びそこに設けられた液面検知素子6によって担保される。
【0017】
以下に、具体的な動作を示す。
<試料等の吸引動作>(1)試料等を貯めた容器1を配管2の一方の端部が溶液内に位置するように、装置にセットする。
(2)切換弁3及び切換弁9を図1の白色状態(配管2と定量管5が連通し、配管8と配管10とが連通された状態)にし、ポンプ11を動作させる。
(3)試料等は、配管2から吸引され、切換弁3を経由して定量管5を徐々に充当する。液面検知素子6によってその液面を検知するまで、その状態を継続する。
(4)液面検知素子6によってその液面を検知したとき、切換弁9を図1の黒色状態(配管8と配管12が連通された状態)に切換え、ポンプ11を停止する。
<試料等の注入動作>(5)配管4の一方の端部が反応槽内上部に位置するように反応槽をセットする。
(6)切換弁3を切換え図1の黒色状態(定量管5と配管4が連通した状態)にし、ポンプ11aを動作させる。このとき、空気がフィルタ13・配管12aを経由して導入され、配管12・切換弁9・配管8・フィルタ7・定量管5・切換弁3及び配管4が加圧状態となり、定量管5内の試料等が反応槽に注入される。
【0018】
図2は、本考案を利用した分析装置のフローの他の実施例を示す。
基本的な動作は、図1に示す実施例と同様であるが、試料等の吸引・注入動作を定量管25内の圧力を検出することで、試料等の移動を確認しつつ制御することができる。
【0019】
具体的に、試料等の吸引・注入動作と圧力測定との関係を示す。
<試料等の吸引動作>(1)試料等を貯めた容器21を装置にセットしポンプ29を動作させると、定量管25内に試料等が導入され、そのとき、圧力は図3中のO−Aのように減圧度が高くなる。
(2)試料等が徐々に定量管25内を充当し、液面検知素子26が試料等の液面を検知したとき、定量管25内の圧力は図3中のAのようになる。
(3)ここで、ポンプ29を停止すると、定量管25内の圧力は図3中のA−Bの状態となる。
<試料等の注入動作>(4)ポンプ29aを動作し、切換弁23及び切換弁28を図2の黒色状態に切換えると、定量管25内にあった試料等は徐々に配管24に移動するが、このときの定量管25内の圧力は図3中のB−CからC−Dの状態となる。
(5)配管24から試料等が反応槽に注入され始めると、徐々に定量管25内の圧力は上昇し、図3中のD−Eの状態となる。。
(6)注入は、圧力計20の出力がE−F状態になったときに完了し、ポンプ29aを停止する。
【0020】
上記いずれの実施例においても、定量管は、同一内径の所定の長さを有するものを用いるのが一般的であるが、計量精度を高めるため若しくは容量が大きく弁等との配管取合いが難しい場合には、図4に示すように部分的に径を変更したものを用いることも有効である。図4は、液面検知素子45設置部の液面断面積を小さくすることで、定量管44の計量精度を非常に良くすることができる。
【0021】
液面検知素子には、いくつかの方法が実用されているが、細管部43に設けられた光学素子によって液面検知する方法がある。図4に示すように、管の径方向に光源部41と受光素子42を配置し、定量管44内にある試料等の最上面の位置46を光学的手段で検知する方法が一般的である。また、試料等が空気の導電率よりも大きい場合には、電極を用いる方法も多く用いられている。複数の電極の端面に試料等が接したときに導電率が変化することから、試料等の最上面の位置を検知することができる。
【0022】
また、上記実施例では、吸引・吐出ポンプを別体として表示したが、図5のように一定のストロークで上下運動を行う一体型ポンプ55の使用も可能である。
従来技術として明示した定量ポンプと同一構成ではあるが、ポンプの定量性は必要とされずダイアフラムを特殊な材質に変更する必要もない。連結棒55cによって直結したソレノイド55dが下方向に移動すると、それに連動してダイアフラム55bが下方向に変動して減圧状態を作り出し、上記の吸引動作が実現される。逆に、ソレノイド55dが上方向に移動すると、それに連動してダイアフラム55bが上方向に変動して加圧状態を作り出し、上記の注入動作が実現される。図1の実施例にあるような切換弁9等が不要となり、1つのポンプで試料等の吸引・注入動作が可能となる。
【0023】
以上は、1つの試料等に対する実施例について説明したが、この装置を複数の試料等を扱う場合にも適用が可能である。図6にその実施例を示す。試料等が入った各容器61、61a・・に対し、配管62・切換弁63・配管64・定量管65・液面検出素子66のセットを複数マニホールド67に接続することで、各容器内の試料等の吸引・注入を行うことができる。このとき、各定量管65、65a・・は個々に内容量を異なるものにすることができ、同一試料を異なった混合比で試薬と混ぜたり種々の分析が可能となる。
【0024】
以上のように、本考案による定量方法を用いることで、試料等は空気によって移送され、切換弁・配管・マニホールド以外にポンプ等接することはなく、また、経路に気泡や試料の残留が生じるおそれもない。また、測定終了後に、再度試料等を用いずに吸引・注入操作をすることで、サンプリングラインを空気でパージすることも可能であり、別途試料等の代りに洗浄液を吸引・注入することでラインの洗浄が可能となる。こうした、洗浄操作は、次なる分析における測定誤差の原因となる試薬の残留を防止することになる。
【0025】
【考案の効果】
以上のような特徴を有する分析装置を使用することにより、非常に安定性の高い精度のよい分析結果が得ることができる。つまり、本考案のような簡便な分析装置であっても、試料等によるサンプリングラインの腐蝕や破損がないばかりでなく、試料等の変質も生じさせることなく、気泡やコンタミネーションによる分析誤差・悪影響を発生させること防ぐことができることとなった。
【0026】
試料等の高い定量性を確保しつつ、分析の誤差要因を極端に少なくすることができることとなったことから、特に、正確な量の試薬等を注入し高度な測定精度を必要とする場合には、非常に高い有用性を有しているといえる。
【0027】
また、本考案を用いた分析装置においては、多種多様な試料等の測定に対しても特別な部材の変更を必要とせずに精度の高い分析が可能であり、複数の試料液の分析に対しても容易に対応することができる。かかる意味において、本考案は非常に高い汎用性を有しているといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の実施例を示した説明図である。
【図2】本考案の他の実施例を示した説明図である。
【図3】本考案の実施例の一部分を示した説明図である。
【図4】本考案の実施例の一部分を示した説明図である。
【図5】本考案の他の実施例を示した説明図である。
【図6】本考案の他の実施例を示した説明図である。
【図7】従来の実施例を示した説明図である。
【符号の説明】
1、21、61、71 試料容器
3、9、23、28、63、73 切換弁
5、25、65 定量管
6、26、66 液面検知素子
11、29、55 ポンプ
27 圧力計
67 マニホールド

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 海水や河川水等の水質分析装置において、吸引圧送手段、定量管及び切換弁を配した試料採取・注入ラインを具備し、減圧された所定の径を有する定量管に導入された試料や反応試薬(以下、「試料等」という)を液面検知素子によって計量し、所定の部材に注入することを特徴とする水質分析装置。
【請求項2】 海水や河川水等の水質分析装置において、吸引圧送手段に試料等を導入することなく、空気を媒体として試料等を移動することを特徴とする請求項1の水質分析装置。
【請求項3】 海水や河川水等の水質分析装置において、試料採取口、切換弁、定量管及び液面検知素子からなる試料採取ラインを複数有し、かつ、内容積を異なる定量管からなる試料採取ラインを可能とすることを特徴とする請求項1または2の水質分析装置。
【請求項4】 海水や河川水等の水質分析装置において、定量管が取り換えが可能な構造であることを特徴とする請求項1乃至は3の水質分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【登録番号】実用新案登録第3083483号(U3083483)
【登録日】平成13年11月7日(2001.11.7)
【発行日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【考案の名称】水質分析装置
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願2001−4711(U2001−4711)
【出願日】平成13年7月18日(2001.7.18)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(592187534)株式会社コス (26)