水質改善機能付き蛇篭及び水質改善機能を有する護岸壁
【課題】蛇篭の持つ利点を活かしつつ、これに水中の有害物質を吸着する機能を付加することにより、該蛇篭に水質改善の機能を付加する。
【解決手段】吸着機能付き蛇篭2が、金網からなる蛇篭本体7を有し、該蛇篭本体7の内部は、仕切網16によって蛇篭の後面側に位置する大容積の第1収容室17と蛇篭の前面側に位置する小容積の第2収容室18とに区画され、上記第1収容室17の内部には石8が充填され、上記第2収容室18の内部には、水中のイオン化した有害物質22,23を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体9が収容される。
【解決手段】吸着機能付き蛇篭2が、金網からなる蛇篭本体7を有し、該蛇篭本体7の内部は、仕切網16によって蛇篭の後面側に位置する大容積の第1収容室17と蛇篭の前面側に位置する小容積の第2収容室18とに区画され、上記第1収容室17の内部には石8が充填され、上記第2収容室18の内部には、水中のイオン化した有害物質22,23を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体9が収容される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸、河岸、湖岸等の岸辺に護岸壁を構築するための技術に関するものであり、更に詳しくは、水中の有害物質を除去して水質を改善する機能を備えた護岸壁を構築するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海や河川あるいは湖沼等においては、護岸、底質改善、導水施設、資源生産力向上等のために基盤整備事業が計画され実施されている。しかし、外部からの汚染物質が流入する水域や、閉鎖性が強い水域においては、水質が貧酸素化したり富栄養化することによって環境悪化が進行しているのが実情である。これは、底質に蓄積された有害金属や、水面近くに発生する青粉(植物性プランクトン)等によって引き起こされるもので、生物の生育環境を喪失させ、水域の生産力を著しく低下させる原因になっている。このため、水質改善のための対策を施すことが急務となっている。
【0003】
一方、上記海や河川あるいは湖沼等の沿岸に構築される護岸壁には、例えば特許文献1や特許文献2等に記載されているように、従来より蛇篭が使用されている。この蛇篭は、菱形金網からなる容器形をした蛇篭本体の内部に栗石を充填したもので、海岸や河岸あるいは湖岸等の岸辺に沿って複数の蛇篭を横に並べると共に、上下に複数段段積することにより、上記護岸壁が構築されている。
【0004】
上記蛇篭による護岸壁は、非常に強固で通水性に勝れ、栗石間に生物の良好な生育環境が確保されるという利点を有するものであるが、有害金属や植物性プランクトン等を除去して水質を改善する機能までは備えていない。
【0005】
貝殻やコンクリート魂等を用いた多孔質材によって水中の有害物質を吸着させる試みも行われているが、このような多孔質材は目詰まりを起こして機能低下を来し易く、機能の持続性に難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−1925号公報
【特許文献2】特開平10−18295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は、蛇篭の持つ利点を活かしつつ、これに水中の有害物質を吸着する機能を付加することにより、該蛇篭に水質改善機能を付加させると共に、該蛇篭で水質改善機能を備えた護岸壁を構築できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によれば、金網からなる容器形の蛇篭本体を有し、該蛇篭本体の内部は、仕切網によって大容積の第1収容室と小容積の第2収容室とに区画され、上記第1収容室の内部には石が充填され、上記第2収容室の内部には、水中のイオン化した有害物質を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体が収容されていることを特徴とする水質改善機能付き蛇篭が提供される。
【0009】
本発明の具体的な実施態様によれば、上記第2収容室の内部に、負に帯電した第1種イオン吸着体が収容されるか、あるいは、正に帯電した第2種イオン吸着体が収容される。上記第1種イオン吸着体は、天然無機素材を含有するスラグセメントで形成され、上記第2種イオン吸着体は、マグネシウムを含有するスラグセメントで形成される。
【0010】
本発明において好ましくは、上記第2収容室は開閉自在の蓋網で覆われていて、該蓋網の開放によって上記イオン吸着体が上記第2収容室から取り出し可能とされていることである。
上記イオン吸着体は、板状に形成され、その板面を水と直接接触する側に向けた縦向きの姿勢で上記第2収容室内に横並び状態に配設されていることが望ましい。
【0011】
また、本発明によれば、金網からなる容器形の蛇篭本体の内部に石を充填した蛇篭を、上下の蛇篭の位置を前後にずらして複数段段積することにより、海岸、河岸、湖岸等の岸辺に沿って構築された護岸壁が提供され、この護岸壁を形成する上記蛇篭のうち少なくとも一つが上記水質改善機能付き蛇篭である。
【0012】
上記護岸壁においては、上下に段積された複数の蛇篭のうち、少なくとも水底側に位置する蛇篭が、負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有するか、又は、少なくとも水面側に位置する蛇篭が、正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有するように構成することができる。
あるいは、上下に段積された複数の蛇篭のうち、水底側に位置する蛇篭が負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有し、水面側に位置する蛇篭が正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水中のイオン化した有害物質を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体を蛇篭に保持させることにより、蛇篭特有の非常に強固で通水性に勝れかつ生物の良好な生育環境を確保できるという利点を活かしつつ、該蛇篭に上記イオン吸着体によって水中の有害物質を吸着して水質改善を行う機能を付加させることができると共に、該蛇篭で水質改善機能を備えた護岸壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る護岸壁の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の護岸壁を構築するのに使用される蛇篭の第1実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2の蛇篭における蛇篭本体を、蓋網を取り外して示す斜視図である。
【図4】図2の蛇篭の拡大断面図である。
【図5】イオン吸着体の斜視図である。
【図6】本発明に係る護岸壁の第2実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る蛇篭の第2実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7の蛇篭の断面図である。
【図9】本発明に係る蛇篭の第3実施形態を示す斜視図である。
【図10】図9の蛇篭の断面図である。
【図11】本発明に係る蛇篭の第4実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には本発明に係る護岸壁の第1実施形態が示されている。この護岸壁1Aは、複数の蛇篭2を、海岸や河岸あるいは湖岸等の岸辺に沿って横に並べると共に上下に複数段段積して形成したもので、上下段の蛇篭2の位置を前後に少しずつずらすことによって全体として階段状に形成されている。なお、蛇篭2が岸辺に沿って左右方向に設置された状態の図示は省略されている。
図1中の符号3は水、4は水底、5は背面土を示している。
【0016】
上記蛇篭2は、図2−図4に示すように、金網好ましくは菱形金網で形成された四角い容器形をした蛇篭本体7と、この蛇篭本体7の内部に収容された石8及びイオン吸着体9とからなるもので、このイオン吸着体9によって水質改善の機能が付与された「水質改善機能付き蛇篭」である。
これに対し、水質改善機能を持たない通常の蛇篭40(図6参照)は、蛇篭本体41の内部全体に石8が充填されているだけで、上記イオン吸着体9は設けられていない。
【0017】
上記蛇篭2の蛇篭本体7は、平面視形状が横に長い長方形をなすもので、上面が開放する四角い容器形をした容体10と、この容体10の上面を塞ぐ長方形状の蓋網11とからなっている。
上記容体10は、長方形状をした底面網10aと、該底面網10aの前後の長辺に連結されて互いに相対する矩形の前面網10b及び後面網10cと、上記底面網10aの左右の短辺に連結されて互いに相対する左右の矩形形状をした側面網10d,10eとからなるものである。
【0018】
上記容体10を形成する場合、上記底面網10aと前面網10b及び後面網10cと左右の側面網10d,10eとを全て別々に形成し、各々の面網の周囲に取り付けた骨線12同士を針金やクリップあるいはスクリューストッパ等の連結金具13で連結することにより該容体10を形成しても、上記底面網10aと前面網10b及び後面網10cとを1枚の菱形金網で一連に形成し、左右の側面網10d,10eは別体に形成して、それらを容器形に組み立てることにより該容体10を形成しても良い。
また、上記容体10と上記蓋網11との連結は、該蓋網11の周囲に取り付けた骨線14と、上記前面網10b及び後面網10cと左右の側面網10d,10eとの上端縁に取り付けた上記骨線12とを、上述した連結金具13で連結することにより行われる。
【0019】
上記蛇篭本体7における上記容体10の内部は、前面網10bと後面網10cとの中間の位置より前面網10b側に寄った位置に該前面網10bと平行に配置した仕切網16により、該仕切網16と後面網10cとの間に介在する大容積の第1収容室17と、該仕切網16と前面網10bとの間に介在する小容積の第2収容室18とに区画されている。上記仕切網16の下辺は底面網10aに連結され、左右の側辺は左右の側面網10d,10eにそれぞれ連結されている。
【0020】
上記蓋網11は、その前端寄りの位置に取り付けられた骨線19により、上記第1収容室17の上面を覆う第1蓋網部分11aと、上記第2収容室18の上面を覆う第2蓋網部分11bとに区分され、該第2蓋網部分11bは上記骨線19を中心にして回動自在となっている。そして、上記第1蓋網部分11aは、後面網10c及び左右の側面網10d,10eの上端の骨線12に固定的に連結されることにより開閉できないが、上記第2蓋網部分11bは、前面網10b及び左右の側面網10d,10eの上端の骨線12に開閉可能に連結されることにより、図4に鎖線で示すように、上記骨線19を支点として開閉可能に形成され、それによって上記第2収容室18から上記イオン吸着体9を取り出すことができるようになっている。
図2及び図3中の符号15は、上記底面網10aと前面網10b及び後面網10cとの中間位置に張設された補強線である。
【0021】
上記第1収容室17の内部には、蛇篭2の設置に必要な重量を確保するための上記石8が充填されている。この石8としては、金網の網目から抜け出さない程度の大きさを有するものであればどのようなものでも使用できるが、好ましくは、石材加工過程で大量に産出される端材を用いることである。このような端材は、二次加工が難しいため従来は廃棄していたものであるが、蛇篭の充填材として使用することにより、有効利用することができる。
この場合、図4に鎖線で示すように、上記仕切網16が石8の充填によって前面網10b側に膨出、変形するのを防止するため、該仕切網16の中間位置と底面網10aの中間位置との間に、1本又は複数本の補強用の張線20を張設しても良い。
【0022】
また、上記第2収容室18の内部には、水中のイオン化した有害物質を吸着する多孔質の上記イオン吸着体9が収容されている。このイオン吸着体9は、多孔状のスラグセメントに、負に帯電した添加材を含有させるか、又は、正に帯電した添加材を含有させることにより、正又は負の何れかに帯電せしめられたもので、図5に示すように板状に形成されている。そして、同じ極性に帯電する複数の上記イオン吸着体9が、板面を蛇篭本体7の前後に向けた縦向きの姿勢で上記前面網10bに沿って横並び状態に配設されている。従って、上記イオン吸着体9は、上記第2収容室18内に若干の余裕を持って収容できる程度の高さ及び厚さに形成されている。
なお、上記イオン吸着体9の厚さが第2収容室18の前後方向幅の半分より小さい場合には、該イオン吸着体9を第2収容室18内に前後方向に重ねた状態で収容することもできる。
【0023】
上記イオン吸着体9を負に帯電させるための添加材としては、天然無機素材を用いることができ、その中でも好ましくは、焼成骨粉(天然ヒドロキシアパタイト)を用いることである。一方、上記イオン吸着体9を正に帯電させるための添加材としては、例えばマグネシウムを用いることができる。
【0024】
また、上記イオン吸着体9の製造は、金属鉱石を製錬する過程で生じる粒塊状のスラグと、セメントと、上記正又は負に帯電させるための添加材とを混和し、多孔をした板状に成形して固化させることにより行われる。その場合、上記スラグの粒径や各材料の混合割合等を種々に変えることにより、スラグセメントとしての空隙率を任意に設定することができる。
【0025】
なお、以下の説明においては、負に帯電したイオン吸着体を「第1種イオン吸着体9a」又は「イオン吸着体9a」と称し、正に帯電したイオン吸着体を「第2種イオン吸着体9b」又は「イオン吸着体9b」と称することとする。しかし、特に正又は負に帯電していることを区別して説明する必要がない場合には、単に「イオン吸着体9」と称することとする。
また、必要に応じて、蛇篭2のうち、第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭には符号「2a」を付し、第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭には符号「2b」を付す。
【0026】
水中に含まれるイオン化した有害物質としては、図1に示すように、銅、鉛、カドミウム、鉄、マンガン、亜鉛、クロムなどの重金属類22と、青粉(藍藻)に代表される植物性プランクトン23とがある。このうち重金属類22は、正イオンの状態で主として水底近くに存在しており、上記植物性プランクトン23は、負イオンの状態で主として水面近くに浮遊していることが知られている。
【0027】
そこで、図1に示すように、岸辺に沿って上記蛇篭2を用いた護岸壁1Aを構築することにより、該蛇篭2に設けられた上記イオン吸着体9によって水中のイオン化した有害物質を吸着し、除去することができる。
図1の護岸壁1Aは、負に帯電した第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aと、正に帯電した第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭2bとを混用して形成したもので、水底4近くに位置する最下段の蛇篭2aに上記第1種イオン吸着体9aを保持させ、それより上段の蛇篭2bに第2種イオン吸着体9bを保持させている。
これにより、上記第1種イオン吸着体9aが、主として水底近くに存在して正に帯電した重金属類22を吸着し、上記第2種イオン吸着体9bが、水面近くや水中を浮遊する負に帯電した植物性プランクトン23を吸着する。
【0028】
しかし、本発明の護岸壁は、図6に示す第2実施形態の護岸壁1Bのように、第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aと、第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭2bと、通常の蛇篭40とを混用して形成することもできる。即ち、この護岸壁1Bは、水底4近くにおいて該水底4より上に位置する蛇篭2aに、負に帯電した上記第1種イオン吸着体9aを保持させ、水面近くに位置する蛇篭2bに、正に帯電した上記第2種イオン吸着体9bを保持させ、その他の通常の蛇篭40には、イオン吸着体9bを保持させないようにしたものである。図中の符号4aは水底に堆積した底泥である。
このように構成することにより、蛇篭本体41の内部全体に石が充填された通常の蛇篭40によって護岸壁の強度を保ちつつ、局部的に配置された上記蛇篭2a,2bによって水底4近くに存在する重金属類22と水面近くを浮遊する植物性プランクトン23とをより効率良く吸着することができる。
【0029】
また、重金属類22のみを除去すれば良い環境下においては、第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aだけを使用して護岸壁を形成するか、又はこの蛇篭2aと通常の蛇篭40とを混用して護岸壁を形成することもできる。後者においては、上記第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aが水底近くに配置される。
更に、植物性プランクトン23のみを除去すれば良い環境下においては、第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭2bだけを使用して護岸壁を形成するか、又はこの蛇篭2bと通常の蛇篭40とを混用して護岸壁を形成することもできる。後者においては、上記蛇篭2bが水面近くに配置される。
【0030】
上記第1種イオン吸着体9a又は第2種イオン吸着体9bに吸着された重金属類22及び植物性プランクトン23は、吸着された状態で安定化し、再び水3中に溶け出すことはない。このため、イオン吸着体9a,9bから溶け出す有害物質によって水3が再汚染されることがない。しかも、イオン吸着体9a,9bの空隙率を使用条件に応じて設定することにより、目詰まりを防いで吸着機能を長期間持続させることができ、その結果、確実かつ効率的に水質改善を行うことができる。
【0031】
一定期間使用された上記イオン吸着体9a,9bは、第2収容室18を覆う第2蓋網部分11bを開放することによって該第2収容室18から取り出されたあと、吸着した重金属類22又は植物性プランクトン23が洗浄等の手段により除去され、再び上記第2収容室18内に収容されて再使用されるか、粉砕処理して廃棄されたり、コンクリート用骨材等に再利用される。上記イオン吸着体9a,9bが廃棄された場合には、上記第2収容室18内には新たなイオン吸着体9a,9bが収容される。
【0032】
このようにして、イオン吸着体9を保持する蛇篭2を使用することにより、該蛇篭2に特有の利点である非常に強固で通水性に勝れかつ生物の良好な生育環境を確保できるという利点をそのまま活かしつつ、水中の有害物質を吸着して水質改善を行うことが可能な護岸壁を構築することができる。
【0033】
上記第1実施形態の蛇篭2は四角い容器形をした角形蛇篭であるが、本発明の蛇篭は、図7及び図8に示す第2実施形態の蛇篭2Aのように、横に細長い円柱形をしていても良い。この蛇篭2Aは、円筒形をした胴網25と、該胴網25の前面を塞ぐ蓋網26及び後面を塞ぐ蓋網27とからなる蛇篭本体24を有し、該蛇篭本体24の内部が、上記胴網25の内部に取り付けられた仕切網28により、該仕切網28と後面の蓋網27との間の第1収容室29と、上記仕切網28と前面の蓋網26との間の第2収容室30とに区分されている。そして、上記第1収容室29内に石8が充填され、上記第2収容室30内にイオン吸着体9が収容されている。要すれば、上記前面の蓋網26を開閉自在とすることにより、上記イオン吸着体9を第2収容室30に対して出し入れできるように構成することもできる。
【0034】
上記蛇篭2Aは、軸線を岸辺の法面の傾斜に沿わせた状態で左右に並べて配設すると共に、上下に複数段段積することにより、岸辺に沿って護岸壁を形成することができる。この場合、上段と下段の蛇篭の配置は左右に1/2ピッチずつずれていて、左右隣り合う蛇篭と蛇篭の間に上段の蛇篭が載置される。また、上下段の蛇篭の位置を前後にずらすことによって護岸壁を階段状にすることもできる。
【0035】
なお、この第2実施形態において、上記イオン吸着体9が第1種イオン吸着体9a又は第2種イオン吸着体9bの何れかであること、及び、上記蛇篭2Aで護岸壁を構築する場合に第1種イオン吸着体9aが少なくとも水底近くに配置され、第2種イオン吸着体9bが少なくとも水面近くに配置されることは、図1及び図6に示す場合と実質的に同じである。
【0036】
図9及び図10には本発明の蛇篭の第3実施形態が示されている。この第3実施形態の蛇篭2Bは、短円柱形をした蛇篭であって、軸線を縦向きにして設置されるものであり、一般に「ダルマ篭」と称されるものである。
【0037】
上記蛇篭2Bは、円筒形をした胴網32と、該胴網32の下面を塞ぐ円板形の底面網33と、上記胴網32の上面を塞ぐ円板形の蓋網34と、上記胴網32の内部に同心状に取り付けられた仕切網35とからなる蛇篭本体31を有している。該蛇篭本体31の内部には、上記仕切網35の内側の第1収容室36と、該仕切網35の外周と上記胴網32の内周との間に介在する円環状の第2収容室37とが形成され、上記第1収容室36内に石8が充填され、上記第2収容室37内にイオン吸着体9が並べて収容されている。
【0038】
上記蛇篭2Bは、軸線を縦向きにして第1実施形態の蛇篭2と同様に階段状に段積することにより、岸辺に沿って護岸壁を形成することができる。この場合、上段の蛇篭と下段の蛇篭とは、左右の同じ位置に同じピッチで配置しても、上記第2実施形態の蛇篭2Aのように1/2ピッチずつずらして配置しても良い。
【0039】
なお、この第3実施形態においても、上記イオン吸着体9が第1種イオン吸着体9a又は第2種イオン吸着体9bの何れかであること、及び、上記蛇篭2Bで護岸壁を構築する場合に第1種イオン吸着体9aが少なくとも水底近くに配置され、第2種イオン吸着体9bが少なくとも水面近くに配置されることは、図1及び図6に示す場合と実質的に同じである。
【0040】
上記蛇篭2Bで構築した護岸壁においては、下段の蛇篭2Bの蓋網34の上に上段の蛇篭2Bが載置されるため、最上段の蛇篭2B以外は蓋網34を開閉することができず、従って、第2収容室37からイオン吸着体9を取り出すことはできない。
【0041】
これに対し、図11に示す第4実施形態の蛇篭2Cは、上記ダルマ篭において、複数段段積したあとも第2収容室からイオン吸着体を取り出すことができるようにしたものである。このため、この蛇篭2Cは、胴網32の内部の一端寄りの位置に、軸線と平行する板状の仕切網35を設けることにより、該仕切網35の両側に大容積の第1収容室36と小容積の第2収容室37とが形成され、上記第1収容室36内に石8が充填され、上記第2収容室37内にイオン吸着体9が並べて収容されている。
【0042】
また、蓋網34は、骨線38を境にして、上記第1収容室36を覆う第1蓋網部分34aと、上記第2収容室37を覆う第2蓋網部分34bとに区分され、該第2蓋網部分34bが上記骨線38を中心にして開閉自在とされている。
そして、上記第2収容室37を前方に向け、上記第1収容室36の上に上段の蛇篭2Cが位置するように各蛇篭を段積して護岸壁を構築することにより、上記第2蓋網部分34bで上記第2収容室37を開閉できるようになっている。
【0043】
なお、上記各実施形態においては、上記イオン吸着体9が板状をしているが、このイオン吸着体9は、円柱状や角柱状等の柱状をしていても良く、あるいは、球状であっても、楕円体状であっても、不規則な外形形状をなす塊状をしていても良い。
【符号の説明】
【0044】
1A,1B 護岸壁
2,2a,2b,2A,2B,2C,40 蛇篭
3 水
4 水底
7,24,31,41 蛇篭本体
8 石
9 イオン吸着体
9a 第1種イオン吸着体
9b 第2種イオン吸着体
11,26,34 蓋網
16,28,35 仕切網
17,29,36 第1収容室
18,30,37 第2収容室
22 重金属類
23 植物性プランクトン
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸、河岸、湖岸等の岸辺に護岸壁を構築するための技術に関するものであり、更に詳しくは、水中の有害物質を除去して水質を改善する機能を備えた護岸壁を構築するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海や河川あるいは湖沼等においては、護岸、底質改善、導水施設、資源生産力向上等のために基盤整備事業が計画され実施されている。しかし、外部からの汚染物質が流入する水域や、閉鎖性が強い水域においては、水質が貧酸素化したり富栄養化することによって環境悪化が進行しているのが実情である。これは、底質に蓄積された有害金属や、水面近くに発生する青粉(植物性プランクトン)等によって引き起こされるもので、生物の生育環境を喪失させ、水域の生産力を著しく低下させる原因になっている。このため、水質改善のための対策を施すことが急務となっている。
【0003】
一方、上記海や河川あるいは湖沼等の沿岸に構築される護岸壁には、例えば特許文献1や特許文献2等に記載されているように、従来より蛇篭が使用されている。この蛇篭は、菱形金網からなる容器形をした蛇篭本体の内部に栗石を充填したもので、海岸や河岸あるいは湖岸等の岸辺に沿って複数の蛇篭を横に並べると共に、上下に複数段段積することにより、上記護岸壁が構築されている。
【0004】
上記蛇篭による護岸壁は、非常に強固で通水性に勝れ、栗石間に生物の良好な生育環境が確保されるという利点を有するものであるが、有害金属や植物性プランクトン等を除去して水質を改善する機能までは備えていない。
【0005】
貝殻やコンクリート魂等を用いた多孔質材によって水中の有害物質を吸着させる試みも行われているが、このような多孔質材は目詰まりを起こして機能低下を来し易く、機能の持続性に難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−1925号公報
【特許文献2】特開平10−18295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は、蛇篭の持つ利点を活かしつつ、これに水中の有害物質を吸着する機能を付加することにより、該蛇篭に水質改善機能を付加させると共に、該蛇篭で水質改善機能を備えた護岸壁を構築できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によれば、金網からなる容器形の蛇篭本体を有し、該蛇篭本体の内部は、仕切網によって大容積の第1収容室と小容積の第2収容室とに区画され、上記第1収容室の内部には石が充填され、上記第2収容室の内部には、水中のイオン化した有害物質を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体が収容されていることを特徴とする水質改善機能付き蛇篭が提供される。
【0009】
本発明の具体的な実施態様によれば、上記第2収容室の内部に、負に帯電した第1種イオン吸着体が収容されるか、あるいは、正に帯電した第2種イオン吸着体が収容される。上記第1種イオン吸着体は、天然無機素材を含有するスラグセメントで形成され、上記第2種イオン吸着体は、マグネシウムを含有するスラグセメントで形成される。
【0010】
本発明において好ましくは、上記第2収容室は開閉自在の蓋網で覆われていて、該蓋網の開放によって上記イオン吸着体が上記第2収容室から取り出し可能とされていることである。
上記イオン吸着体は、板状に形成され、その板面を水と直接接触する側に向けた縦向きの姿勢で上記第2収容室内に横並び状態に配設されていることが望ましい。
【0011】
また、本発明によれば、金網からなる容器形の蛇篭本体の内部に石を充填した蛇篭を、上下の蛇篭の位置を前後にずらして複数段段積することにより、海岸、河岸、湖岸等の岸辺に沿って構築された護岸壁が提供され、この護岸壁を形成する上記蛇篭のうち少なくとも一つが上記水質改善機能付き蛇篭である。
【0012】
上記護岸壁においては、上下に段積された複数の蛇篭のうち、少なくとも水底側に位置する蛇篭が、負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有するか、又は、少なくとも水面側に位置する蛇篭が、正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有するように構成することができる。
あるいは、上下に段積された複数の蛇篭のうち、水底側に位置する蛇篭が負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有し、水面側に位置する蛇篭が正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水中のイオン化した有害物質を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体を蛇篭に保持させることにより、蛇篭特有の非常に強固で通水性に勝れかつ生物の良好な生育環境を確保できるという利点を活かしつつ、該蛇篭に上記イオン吸着体によって水中の有害物質を吸着して水質改善を行う機能を付加させることができると共に、該蛇篭で水質改善機能を備えた護岸壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る護岸壁の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の護岸壁を構築するのに使用される蛇篭の第1実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2の蛇篭における蛇篭本体を、蓋網を取り外して示す斜視図である。
【図4】図2の蛇篭の拡大断面図である。
【図5】イオン吸着体の斜視図である。
【図6】本発明に係る護岸壁の第2実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る蛇篭の第2実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7の蛇篭の断面図である。
【図9】本発明に係る蛇篭の第3実施形態を示す斜視図である。
【図10】図9の蛇篭の断面図である。
【図11】本発明に係る蛇篭の第4実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には本発明に係る護岸壁の第1実施形態が示されている。この護岸壁1Aは、複数の蛇篭2を、海岸や河岸あるいは湖岸等の岸辺に沿って横に並べると共に上下に複数段段積して形成したもので、上下段の蛇篭2の位置を前後に少しずつずらすことによって全体として階段状に形成されている。なお、蛇篭2が岸辺に沿って左右方向に設置された状態の図示は省略されている。
図1中の符号3は水、4は水底、5は背面土を示している。
【0016】
上記蛇篭2は、図2−図4に示すように、金網好ましくは菱形金網で形成された四角い容器形をした蛇篭本体7と、この蛇篭本体7の内部に収容された石8及びイオン吸着体9とからなるもので、このイオン吸着体9によって水質改善の機能が付与された「水質改善機能付き蛇篭」である。
これに対し、水質改善機能を持たない通常の蛇篭40(図6参照)は、蛇篭本体41の内部全体に石8が充填されているだけで、上記イオン吸着体9は設けられていない。
【0017】
上記蛇篭2の蛇篭本体7は、平面視形状が横に長い長方形をなすもので、上面が開放する四角い容器形をした容体10と、この容体10の上面を塞ぐ長方形状の蓋網11とからなっている。
上記容体10は、長方形状をした底面網10aと、該底面網10aの前後の長辺に連結されて互いに相対する矩形の前面網10b及び後面網10cと、上記底面網10aの左右の短辺に連結されて互いに相対する左右の矩形形状をした側面網10d,10eとからなるものである。
【0018】
上記容体10を形成する場合、上記底面網10aと前面網10b及び後面網10cと左右の側面網10d,10eとを全て別々に形成し、各々の面網の周囲に取り付けた骨線12同士を針金やクリップあるいはスクリューストッパ等の連結金具13で連結することにより該容体10を形成しても、上記底面網10aと前面網10b及び後面網10cとを1枚の菱形金網で一連に形成し、左右の側面網10d,10eは別体に形成して、それらを容器形に組み立てることにより該容体10を形成しても良い。
また、上記容体10と上記蓋網11との連結は、該蓋網11の周囲に取り付けた骨線14と、上記前面網10b及び後面網10cと左右の側面網10d,10eとの上端縁に取り付けた上記骨線12とを、上述した連結金具13で連結することにより行われる。
【0019】
上記蛇篭本体7における上記容体10の内部は、前面網10bと後面網10cとの中間の位置より前面網10b側に寄った位置に該前面網10bと平行に配置した仕切網16により、該仕切網16と後面網10cとの間に介在する大容積の第1収容室17と、該仕切網16と前面網10bとの間に介在する小容積の第2収容室18とに区画されている。上記仕切網16の下辺は底面網10aに連結され、左右の側辺は左右の側面網10d,10eにそれぞれ連結されている。
【0020】
上記蓋網11は、その前端寄りの位置に取り付けられた骨線19により、上記第1収容室17の上面を覆う第1蓋網部分11aと、上記第2収容室18の上面を覆う第2蓋網部分11bとに区分され、該第2蓋網部分11bは上記骨線19を中心にして回動自在となっている。そして、上記第1蓋網部分11aは、後面網10c及び左右の側面網10d,10eの上端の骨線12に固定的に連結されることにより開閉できないが、上記第2蓋網部分11bは、前面網10b及び左右の側面網10d,10eの上端の骨線12に開閉可能に連結されることにより、図4に鎖線で示すように、上記骨線19を支点として開閉可能に形成され、それによって上記第2収容室18から上記イオン吸着体9を取り出すことができるようになっている。
図2及び図3中の符号15は、上記底面網10aと前面網10b及び後面網10cとの中間位置に張設された補強線である。
【0021】
上記第1収容室17の内部には、蛇篭2の設置に必要な重量を確保するための上記石8が充填されている。この石8としては、金網の網目から抜け出さない程度の大きさを有するものであればどのようなものでも使用できるが、好ましくは、石材加工過程で大量に産出される端材を用いることである。このような端材は、二次加工が難しいため従来は廃棄していたものであるが、蛇篭の充填材として使用することにより、有効利用することができる。
この場合、図4に鎖線で示すように、上記仕切網16が石8の充填によって前面網10b側に膨出、変形するのを防止するため、該仕切網16の中間位置と底面網10aの中間位置との間に、1本又は複数本の補強用の張線20を張設しても良い。
【0022】
また、上記第2収容室18の内部には、水中のイオン化した有害物質を吸着する多孔質の上記イオン吸着体9が収容されている。このイオン吸着体9は、多孔状のスラグセメントに、負に帯電した添加材を含有させるか、又は、正に帯電した添加材を含有させることにより、正又は負の何れかに帯電せしめられたもので、図5に示すように板状に形成されている。そして、同じ極性に帯電する複数の上記イオン吸着体9が、板面を蛇篭本体7の前後に向けた縦向きの姿勢で上記前面網10bに沿って横並び状態に配設されている。従って、上記イオン吸着体9は、上記第2収容室18内に若干の余裕を持って収容できる程度の高さ及び厚さに形成されている。
なお、上記イオン吸着体9の厚さが第2収容室18の前後方向幅の半分より小さい場合には、該イオン吸着体9を第2収容室18内に前後方向に重ねた状態で収容することもできる。
【0023】
上記イオン吸着体9を負に帯電させるための添加材としては、天然無機素材を用いることができ、その中でも好ましくは、焼成骨粉(天然ヒドロキシアパタイト)を用いることである。一方、上記イオン吸着体9を正に帯電させるための添加材としては、例えばマグネシウムを用いることができる。
【0024】
また、上記イオン吸着体9の製造は、金属鉱石を製錬する過程で生じる粒塊状のスラグと、セメントと、上記正又は負に帯電させるための添加材とを混和し、多孔をした板状に成形して固化させることにより行われる。その場合、上記スラグの粒径や各材料の混合割合等を種々に変えることにより、スラグセメントとしての空隙率を任意に設定することができる。
【0025】
なお、以下の説明においては、負に帯電したイオン吸着体を「第1種イオン吸着体9a」又は「イオン吸着体9a」と称し、正に帯電したイオン吸着体を「第2種イオン吸着体9b」又は「イオン吸着体9b」と称することとする。しかし、特に正又は負に帯電していることを区別して説明する必要がない場合には、単に「イオン吸着体9」と称することとする。
また、必要に応じて、蛇篭2のうち、第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭には符号「2a」を付し、第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭には符号「2b」を付す。
【0026】
水中に含まれるイオン化した有害物質としては、図1に示すように、銅、鉛、カドミウム、鉄、マンガン、亜鉛、クロムなどの重金属類22と、青粉(藍藻)に代表される植物性プランクトン23とがある。このうち重金属類22は、正イオンの状態で主として水底近くに存在しており、上記植物性プランクトン23は、負イオンの状態で主として水面近くに浮遊していることが知られている。
【0027】
そこで、図1に示すように、岸辺に沿って上記蛇篭2を用いた護岸壁1Aを構築することにより、該蛇篭2に設けられた上記イオン吸着体9によって水中のイオン化した有害物質を吸着し、除去することができる。
図1の護岸壁1Aは、負に帯電した第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aと、正に帯電した第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭2bとを混用して形成したもので、水底4近くに位置する最下段の蛇篭2aに上記第1種イオン吸着体9aを保持させ、それより上段の蛇篭2bに第2種イオン吸着体9bを保持させている。
これにより、上記第1種イオン吸着体9aが、主として水底近くに存在して正に帯電した重金属類22を吸着し、上記第2種イオン吸着体9bが、水面近くや水中を浮遊する負に帯電した植物性プランクトン23を吸着する。
【0028】
しかし、本発明の護岸壁は、図6に示す第2実施形態の護岸壁1Bのように、第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aと、第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭2bと、通常の蛇篭40とを混用して形成することもできる。即ち、この護岸壁1Bは、水底4近くにおいて該水底4より上に位置する蛇篭2aに、負に帯電した上記第1種イオン吸着体9aを保持させ、水面近くに位置する蛇篭2bに、正に帯電した上記第2種イオン吸着体9bを保持させ、その他の通常の蛇篭40には、イオン吸着体9bを保持させないようにしたものである。図中の符号4aは水底に堆積した底泥である。
このように構成することにより、蛇篭本体41の内部全体に石が充填された通常の蛇篭40によって護岸壁の強度を保ちつつ、局部的に配置された上記蛇篭2a,2bによって水底4近くに存在する重金属類22と水面近くを浮遊する植物性プランクトン23とをより効率良く吸着することができる。
【0029】
また、重金属類22のみを除去すれば良い環境下においては、第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aだけを使用して護岸壁を形成するか、又はこの蛇篭2aと通常の蛇篭40とを混用して護岸壁を形成することもできる。後者においては、上記第1種イオン吸着体9aを保持する蛇篭2aが水底近くに配置される。
更に、植物性プランクトン23のみを除去すれば良い環境下においては、第2種イオン吸着体9bを保持する蛇篭2bだけを使用して護岸壁を形成するか、又はこの蛇篭2bと通常の蛇篭40とを混用して護岸壁を形成することもできる。後者においては、上記蛇篭2bが水面近くに配置される。
【0030】
上記第1種イオン吸着体9a又は第2種イオン吸着体9bに吸着された重金属類22及び植物性プランクトン23は、吸着された状態で安定化し、再び水3中に溶け出すことはない。このため、イオン吸着体9a,9bから溶け出す有害物質によって水3が再汚染されることがない。しかも、イオン吸着体9a,9bの空隙率を使用条件に応じて設定することにより、目詰まりを防いで吸着機能を長期間持続させることができ、その結果、確実かつ効率的に水質改善を行うことができる。
【0031】
一定期間使用された上記イオン吸着体9a,9bは、第2収容室18を覆う第2蓋網部分11bを開放することによって該第2収容室18から取り出されたあと、吸着した重金属類22又は植物性プランクトン23が洗浄等の手段により除去され、再び上記第2収容室18内に収容されて再使用されるか、粉砕処理して廃棄されたり、コンクリート用骨材等に再利用される。上記イオン吸着体9a,9bが廃棄された場合には、上記第2収容室18内には新たなイオン吸着体9a,9bが収容される。
【0032】
このようにして、イオン吸着体9を保持する蛇篭2を使用することにより、該蛇篭2に特有の利点である非常に強固で通水性に勝れかつ生物の良好な生育環境を確保できるという利点をそのまま活かしつつ、水中の有害物質を吸着して水質改善を行うことが可能な護岸壁を構築することができる。
【0033】
上記第1実施形態の蛇篭2は四角い容器形をした角形蛇篭であるが、本発明の蛇篭は、図7及び図8に示す第2実施形態の蛇篭2Aのように、横に細長い円柱形をしていても良い。この蛇篭2Aは、円筒形をした胴網25と、該胴網25の前面を塞ぐ蓋網26及び後面を塞ぐ蓋網27とからなる蛇篭本体24を有し、該蛇篭本体24の内部が、上記胴網25の内部に取り付けられた仕切網28により、該仕切網28と後面の蓋網27との間の第1収容室29と、上記仕切網28と前面の蓋網26との間の第2収容室30とに区分されている。そして、上記第1収容室29内に石8が充填され、上記第2収容室30内にイオン吸着体9が収容されている。要すれば、上記前面の蓋網26を開閉自在とすることにより、上記イオン吸着体9を第2収容室30に対して出し入れできるように構成することもできる。
【0034】
上記蛇篭2Aは、軸線を岸辺の法面の傾斜に沿わせた状態で左右に並べて配設すると共に、上下に複数段段積することにより、岸辺に沿って護岸壁を形成することができる。この場合、上段と下段の蛇篭の配置は左右に1/2ピッチずつずれていて、左右隣り合う蛇篭と蛇篭の間に上段の蛇篭が載置される。また、上下段の蛇篭の位置を前後にずらすことによって護岸壁を階段状にすることもできる。
【0035】
なお、この第2実施形態において、上記イオン吸着体9が第1種イオン吸着体9a又は第2種イオン吸着体9bの何れかであること、及び、上記蛇篭2Aで護岸壁を構築する場合に第1種イオン吸着体9aが少なくとも水底近くに配置され、第2種イオン吸着体9bが少なくとも水面近くに配置されることは、図1及び図6に示す場合と実質的に同じである。
【0036】
図9及び図10には本発明の蛇篭の第3実施形態が示されている。この第3実施形態の蛇篭2Bは、短円柱形をした蛇篭であって、軸線を縦向きにして設置されるものであり、一般に「ダルマ篭」と称されるものである。
【0037】
上記蛇篭2Bは、円筒形をした胴網32と、該胴網32の下面を塞ぐ円板形の底面網33と、上記胴網32の上面を塞ぐ円板形の蓋網34と、上記胴網32の内部に同心状に取り付けられた仕切網35とからなる蛇篭本体31を有している。該蛇篭本体31の内部には、上記仕切網35の内側の第1収容室36と、該仕切網35の外周と上記胴網32の内周との間に介在する円環状の第2収容室37とが形成され、上記第1収容室36内に石8が充填され、上記第2収容室37内にイオン吸着体9が並べて収容されている。
【0038】
上記蛇篭2Bは、軸線を縦向きにして第1実施形態の蛇篭2と同様に階段状に段積することにより、岸辺に沿って護岸壁を形成することができる。この場合、上段の蛇篭と下段の蛇篭とは、左右の同じ位置に同じピッチで配置しても、上記第2実施形態の蛇篭2Aのように1/2ピッチずつずらして配置しても良い。
【0039】
なお、この第3実施形態においても、上記イオン吸着体9が第1種イオン吸着体9a又は第2種イオン吸着体9bの何れかであること、及び、上記蛇篭2Bで護岸壁を構築する場合に第1種イオン吸着体9aが少なくとも水底近くに配置され、第2種イオン吸着体9bが少なくとも水面近くに配置されることは、図1及び図6に示す場合と実質的に同じである。
【0040】
上記蛇篭2Bで構築した護岸壁においては、下段の蛇篭2Bの蓋網34の上に上段の蛇篭2Bが載置されるため、最上段の蛇篭2B以外は蓋網34を開閉することができず、従って、第2収容室37からイオン吸着体9を取り出すことはできない。
【0041】
これに対し、図11に示す第4実施形態の蛇篭2Cは、上記ダルマ篭において、複数段段積したあとも第2収容室からイオン吸着体を取り出すことができるようにしたものである。このため、この蛇篭2Cは、胴網32の内部の一端寄りの位置に、軸線と平行する板状の仕切網35を設けることにより、該仕切網35の両側に大容積の第1収容室36と小容積の第2収容室37とが形成され、上記第1収容室36内に石8が充填され、上記第2収容室37内にイオン吸着体9が並べて収容されている。
【0042】
また、蓋網34は、骨線38を境にして、上記第1収容室36を覆う第1蓋網部分34aと、上記第2収容室37を覆う第2蓋網部分34bとに区分され、該第2蓋網部分34bが上記骨線38を中心にして開閉自在とされている。
そして、上記第2収容室37を前方に向け、上記第1収容室36の上に上段の蛇篭2Cが位置するように各蛇篭を段積して護岸壁を構築することにより、上記第2蓋網部分34bで上記第2収容室37を開閉できるようになっている。
【0043】
なお、上記各実施形態においては、上記イオン吸着体9が板状をしているが、このイオン吸着体9は、円柱状や角柱状等の柱状をしていても良く、あるいは、球状であっても、楕円体状であっても、不規則な外形形状をなす塊状をしていても良い。
【符号の説明】
【0044】
1A,1B 護岸壁
2,2a,2b,2A,2B,2C,40 蛇篭
3 水
4 水底
7,24,31,41 蛇篭本体
8 石
9 イオン吸着体
9a 第1種イオン吸着体
9b 第2種イオン吸着体
11,26,34 蓋網
16,28,35 仕切網
17,29,36 第1収容室
18,30,37 第2収容室
22 重金属類
23 植物性プランクトン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金網からなる容器形の蛇篭本体を有し、該蛇篭本体の内部は、仕切網によって大容積の第1収容室と小容積の第2収容室とに区画され、
上記第1収容室の内部には石が充填され、
上記第2収容室の内部には、水中のイオン化した有害物質を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体が収容されている、
ことを特徴とする水質改善機能付き蛇篭。
【請求項2】
上記第2収容室の内部には、負に帯電した第1種イオン吸着体が収容され、該第1種イオン吸着体は、天然無機素材を含有するスラグセメントからなることを特徴とする請求項1に記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項3】
上記第2収容室の内部には、正に帯電した第2種イオン吸着体が収容され、該第2種イオン吸着体は、マグネシウムを含有するスラグセメントからなることを特徴とする請求項1に記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項4】
上記第2収容室は開閉自在の蓋網で覆われていて、該蓋網の開放によって上記イオン吸着体が上記第2収容室から取り出し可能であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項5】
上記イオン吸着体は板状に形成され、該イオン吸着体が、板面を水と直接接触する側に向けた縦向きの姿勢で上記第2収容室内に横並び状態に配設されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項6】
金網からなる容器形の蛇篭本体の内部に石を充填した蛇篭を、上下の蛇篭の位置を前後にずらして複数段段積することにより海岸、河岸、湖岸等の岸辺に沿って構築され、上記蛇篭のうち少なくとも一つが請求項1から5の何れかに記載された水質改善機能付き蛇篭であることを特徴とする水質改善機能を有する護岸壁。
【請求項7】
上下に段積された複数の蛇篭のうち、少なくとも水底側に位置する蛇篭が、負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有することを特徴とする請求項6に記載の護岸壁。
【請求項8】
上下に段積された複数の蛇篭のうち、少なくとも水面側に位置する蛇篭が、正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有することを特徴とする請求項6に記載の護岸壁。
【請求項9】
上下に段積された複数の蛇篭のうち、水底側に位置する蛇篭が負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有し、水面側に位置する蛇篭が正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有することを特徴とする請求項6に記載の護岸壁。
【請求項1】
金網からなる容器形の蛇篭本体を有し、該蛇篭本体の内部は、仕切網によって大容積の第1収容室と小容積の第2収容室とに区画され、
上記第1収容室の内部には石が充填され、
上記第2収容室の内部には、水中のイオン化した有害物質を吸着するための正又は負に帯電した多孔質のイオン吸着体が収容されている、
ことを特徴とする水質改善機能付き蛇篭。
【請求項2】
上記第2収容室の内部には、負に帯電した第1種イオン吸着体が収容され、該第1種イオン吸着体は、天然無機素材を含有するスラグセメントからなることを特徴とする請求項1に記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項3】
上記第2収容室の内部には、正に帯電した第2種イオン吸着体が収容され、該第2種イオン吸着体は、マグネシウムを含有するスラグセメントからなることを特徴とする請求項1に記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項4】
上記第2収容室は開閉自在の蓋網で覆われていて、該蓋網の開放によって上記イオン吸着体が上記第2収容室から取り出し可能であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項5】
上記イオン吸着体は板状に形成され、該イオン吸着体が、板面を水と直接接触する側に向けた縦向きの姿勢で上記第2収容室内に横並び状態に配設されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の水質改善機能付き蛇篭。
【請求項6】
金網からなる容器形の蛇篭本体の内部に石を充填した蛇篭を、上下の蛇篭の位置を前後にずらして複数段段積することにより海岸、河岸、湖岸等の岸辺に沿って構築され、上記蛇篭のうち少なくとも一つが請求項1から5の何れかに記載された水質改善機能付き蛇篭であることを特徴とする水質改善機能を有する護岸壁。
【請求項7】
上下に段積された複数の蛇篭のうち、少なくとも水底側に位置する蛇篭が、負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有することを特徴とする請求項6に記載の護岸壁。
【請求項8】
上下に段積された複数の蛇篭のうち、少なくとも水面側に位置する蛇篭が、正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有することを特徴とする請求項6に記載の護岸壁。
【請求項9】
上下に段積された複数の蛇篭のうち、水底側に位置する蛇篭が負に帯電した上記第1種イオン吸着体を有し、水面側に位置する蛇篭が正に帯電した上記第2種イオン吸着体を有することを特徴とする請求項6に記載の護岸壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−7421(P2012−7421A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145556(P2010−145556)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(390006116)瀬戸内金網商工株式会社 (18)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(390006116)瀬戸内金網商工株式会社 (18)
【Fターム(参考)】
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