説明

水質浄化材料、水質浄化方法、リン酸肥料前駆体及びリン酸肥料前駆体の製造方法

【課題】下水などの排水中に大量に含まれ、資源としての枯渇性が指摘されるリンを効率良く回収するとともに、資源として低コストで再利用する。
【解決手段】鉄イオンおよびカルシウムイオン、並びに窒素イオン及び硫黄イオンの少なくとも一方を含んでなり、層状構造を呈する複合金属水酸化物と、水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方とを具え、X線結晶構造解析によって測定される前記水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方に起因するメインピーク強度が、前記複合金属水酸化物の前記層状構造に起因するメインピーク強度の1/2以下であるようにして、水質浄化材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川湖沼、下水および産業排水などの水中に含まれるリン酸イオンなどのリン化合物を選択的に吸着することができる水質浄化材料及び水質浄化方法に関し、さらに、リン化合物を吸着した後の水質浄化材料の再利用技術である、リン酸肥料前駆体及びリン酸肥料前駆体の製造方法の関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経済活動の急速なグローバル化によって、世界規模での環境汚染・水質汚染が深刻な問題となっている。また、世界規模での生産活動は同時に資源枯渇を招き、希少元素として認識される元素の種類も増加する傾向にある。最近では世界規模でのリン鉱石の減少が進んでおり、近年では、リンも希少元素として認識されてきている。
【0003】
一方、従来から湖沼や湾内など閉鎖性水域における富栄養化問題への対策として、リンに対する厳格な排出基準が設けられていた。水中からのリン(実際には、リン酸イオンの形態となっている)の除去手段としては、カルシウム化合物などを凝集剤として添加し、リン酸塩を形成した後、凝集沈殿させる方法などが広く知られている。しかしながら、一般にリン酸塩は難沈降性の浮遊物であるため、リン酸塩を迅速に沈降させるためには、フロックを形成させる必要があり、その結果、汚泥が大量に発生する。
【0004】
結果として、大量の汚泥を処理するために、必然的に処理設備の大型化が要求されるため、コスト的な負荷が増大してしまうという問題があった。さらに、凝集剤を使用することによりフロックに多種のイオン成分が取り込まれるため、汚泥からそれらを分離する処理にもコストがかかる。このような理由により、汚泥は再利用されることなく産業廃棄物として有償処理される場合が非常に多いという問題も抱えている。
【0005】
すなわち、従来の方法で例えば水中のリンを除去する場合においては、カルシウム塩の添加による凝集沈殿は多くの処理時間、設備の大型化、汚泥処理の必要など、数々の非効率な問題を抱えているといえる。
【0006】
このような問題に鑑みて、近年、水質浄化のための新しい材料が数多く提案されている。例えば、リン除去に関して、高性能なリン除去剤としてハイドロタルサイト構造を有する吸着剤が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。ハイドロタルサイトは鉱物性の層状無機化合物の一種であり、層間に含まれる陰イオンがリン酸イオンとイオン交換することで水中のリン(リン酸イオン)を除去するメカニズムを持ち、高いリン除去能力を持つことが報告されている。
【0007】
一方で、リンを吸着した後の吸着剤は、産業廃棄物として処理してしまうと、結果的に余分なコストがかかってしまい、上述した技術に比較して優位性を持たないため、再利用させることが必須の要件となる。再利用には、前記吸着剤から吸着物質、この場合はリンを離脱させる必要がある。リンを離脱させた後の吸着剤は、再度上述のようなリンの吸着除去に使用することができる。また、離脱したリン自体も、例えば他の化学成分と混合させるなどして化成肥料として再利用することができる。
【0008】
しかしながら、化成肥料として使用する場合は、化学成分との混合等の種々の工程が必要となり、肥料としての製造コストを増大させてしまう結果となる。このため、吸着剤で回収したリンを肥料として再利用しようとすると、流通肥料価格を押し上げてしまう結果となり、回収したリンの肥料としての再利用を阻む結果となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】水環境学会誌第22巻第11号875−881(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、下水などの排水中に大量に含まれ、資源としての枯渇性が指摘されるリンを効率良く回収するとともに、資源として低コストで再利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、鉄イオンおよびカルシウムイオン、並びに窒素イオン及び硫黄イオンの少なくとも一方を含んでなり、層状構造を呈する複合金属水酸化物と、水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方とを具え、X線結晶構造解析によって測定される前記水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方に起因するメインピーク強度が、前記複合金属水酸化物の前記層状構造に起因するメインピーク強度の1/2以下であることを特徴とする、水質浄化材料に関する。
【0012】
また、本発明の一態様は、前記水質浄化材料を排水に接触させ、前記排水中のリン含有物質を吸着することを特徴とする、水質浄化方法に関する。
【0013】
さらに、本発明の一態様は、前記水質浄化材料と、前記水質浄化材料に吸着したリン含有化合物と、を具えることを特徴とする、リン酸質肥料前駆体に関する。
【0014】
また、本発明の一態様は、前記水質浄化材料を排水に接触させ、前記排水中のリン含有物質を前記水質浄化材料に吸着させることによって、前記水質浄化材料と、前記水質浄化材料に吸着したリン含有化合物とを具えるリン酸質肥料前駆体を製造することを特徴とする、リン酸質肥料前駆体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、下水などの排水中に大量に含まれ、資源としての枯渇性が指摘されるリンを効率良く回収するとともに、資源として低コストで再利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施形態に基づいて説明する。
【0017】
(水質浄化材料)
本実施形態における水質浄化材料は、鉄イオンおよびカルシウムイオン、並びに窒素イオン及び硫黄イオンの少なくとも一方を含んでなり、層状構造を呈する複合金属水酸化物を具える。
【0018】
複合金属水酸化物は層状構造を呈しており、具体的にはカルシウムイオン及び鉄イオンを中心とした八面体が二次元的に連なってなる層が複数積層されたような構成を採っている。なお、カルシウムイオン及び鉄イオンは、上述した構造において同一の結晶サイトに位置するものであって、互いに置換の関係にある。また、このような状態では、複合金属水酸化物は正電荷を帯びるようになるので、前記複合金属水酸化物を構成する陰イオンが層間に介在し、全体として電気的中性を維持している。
【0019】
複合金属水酸化物の組成成分は、本発明の目的を達成することができる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば、一般式:[Ca2+1−xFe3+(OH)](SО2− NO1−2yx(0.16≦x≦0.28、0≦y<0.5、1.6<m<2.3)で表されるような組成成分とすることができる。この場合、上述したように、複合金属水酸化物は、カルシウムイオン(Ca2+)及び鉄イオン(Fe3+)を中心とした八面体が二次元的に連なってなる層が複数積層され、層間には硫酸イオン(SО2−)及び硝酸イオン(NO3−)が介在して電気的中性を維持する。
【0020】
なお、複合金属水酸化物が上述のような組成成分を有することによって、以下のような利点を奏することができる。すなわち、一般式[Ca2+1−xFe3+(OH)](SО2− NO1−2yx(0.16≦x≦0.28、0≦y<0.5、1.6<m<2.3)で表される化合物は、いわゆるハイドロタルサイト構造を採る。
【0021】
ハイドロタルサイトは、例えば一般式[MgAl(OH)]1/2CO2−・2HOで表されるものであって、マグネシウムイオンを中心とする八面体(ブルーサイト層)が二次元的に連なり、マグネシウムイオンの一部をアルミニウムイオンで置き換えた層が積層されて層状構造を形成しているものである。そして、その層間には炭酸イオンと結晶水とが存在している。このような構造を有するハイドロタルサイトは、層間の陰イオンがほかの陰イオンと交換する性質を有することが知られている。
【0022】
したがって、本実施形態における複合金属水酸化物が、上述した一般式で表されるような組成成分を有し、ハイドロタルサイト構造を呈することによって、前記一般式中の陰イオンである硫酸イオン(SО2−)及び硝酸イオン(NO3−)が、排水中に含まれるリン酸イオン(陰イオン)と交換することができるようになる。この結果、排水中のリン酸イオン、すなわちリンの吸着回収を効果的に行なうことができるようになる。
【0023】
本発明における上記一般式においては、0.16≦x≦0.28であることが望ましい。xが0.16より小さいとリン吸着後の沈降性が低下し、xの減少に伴い次第に回収が困難になる。一方、xが0.28より大きくなるとリン吸着量が極端に低下していく。高いリン吸着能力とリン吸着後の優れた沈降性とが両立するのは、上記一般式において0.16≦x≦0.28の範囲であることを実験により見出した。更に、このxの範囲において、mは1.6<m<2.3の範囲となることが組成分析の結果分かった。
【0024】
また、複合金属水酸化物は、必ずしも上記一般式で表されることを要求されるものではないが、ハイドロタルサイト構造を呈するような組成成分の場合、水質浄化材料として用いられる場合に、イオン交換によって排水中に不適当な、すなわち悪影響を与えるような陰イオンが放出することは好ましくないので、環境に対して優しい陰イオン、例えば炭酸イオンやハロゲンイオンなどを有するような組成成分を有することが好ましい。
【0025】
本実施形態における水質浄化材料は、層状水酸化物構造を基本骨格に備えており、前述のようにカルシウムイオン及び鉄イオンを中心とした八面体の水酸化物が二次元的に連なってなる層が複数積層されたような構成を採っている。この点では、従来から知られているハイドロタルサイトなどの層状水酸化物と同様であると言える。
【0026】
しかしながら、本実施形態における水質浄化材料が従来のハイドロタルサイト様化合物と異なる点は、従来の層状水酸化物は層間でのイオン交換が主な吸着原理であり、八面体の水酸化物自体は吸着に殆ど関与しないのに対して、本実施形態においてはこの八面体の水酸化物が吸着に大きく関与していることである。
【0027】
従って、本実施形態においては、カルシウムイオン及び鉄イオンによる水酸化物が二次元的に連なった層が層状構造を採っていることが重要であり、この層状構造の構築によって、優れたリン吸着量および沈降性が達成される。
【0028】
本実施形態においては、層状構造が形成されていることが優位性の支配的要因と言えるが、一方で、カルシウムイオン及び鉄イオンによる水酸化物で構成される層状構造体は結晶性が必ずしも良くないという面もある。
【0029】
そのため、層状構造を採る複合金属水酸化物の表面に水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方が部分的に存在するような状態になることもある。このような水酸化カルシウム及び水酸化鉄は、一般に上述した複合金属水酸化物の表面に形成される。これは、複合金属水酸化物の表面に存在するカルシウムイオン及び鉄イオンが、同じく複合金属水酸化物の表面に存在する水酸基との間で化学的に反応し、水酸化カルシウム及び水酸化鉄となるためである。
【0030】
本実施形態における水質浄化材料においては、この表面に存在する水酸化カルシウム及び水酸化鉄は、一定量であればリン吸着性能および沈降性を高めることができる。但し、複合金属水酸化物の表面における水酸化カルシウム及び水酸化鉄の量が多くなりすぎると、リン酸イオンを吸着させた際にリン酸鉄またはリン酸カルシウムが形成され、それらが浮遊物となって、沈降性が著しく悪化することがある。従って、これらの複合金属水酸化物の表面に存在する水酸化カルシウム及び水酸化鉄は、ある一定量より少ないほうがよい。
【0031】
なお、本実施形態における水質浄化材料の表面に存在する水酸化カルシウムおよび水酸化鉄が存在することによるリン吸着性能の向上は、原理的にはこれらが水中のリン酸イオンと配位子交換反応によってリンを直接吸着しているものと考えられる。
【0032】
水酸化カルシウム及び水酸化鉄の量は、カルシウムイオン及び鉄イオンとして、X線結晶構造解析により特定することができる。具体的には、X線結晶構造解析において、複合金属水酸化物の表面に存在するカルシウムイオン及び鉄イオンに起因したメインピーク強度が、複合金属水酸化物の層状構造に起因したメインピーク強度の1/2以下であることが好ましい。
【0033】
結果として、本実施形態の水質浄化材料は、その表面及び内部(層状構造の層間)の双方においてリン酸イオンを吸着することができるため、排水中の、比較的多量のリン(リン酸イオン)を高効率で吸着し、回収することができる。
【0034】
また、本実施形態の水質浄化材料は、上述のように特にリン酸イオンに対する吸着性が高く、リン酸イオンを選択的に吸着することができる。このようなリン酸イオンに対する高い吸着性および高い選択性は、公知のハイドロタルサイトには見られない特徴的な性質である。
【0035】
複合金属水酸化物の表面に、水酸化カルシウム及び水酸化鉄の双方が存在する場合は、カルシウムイオン及び鉄イオンに起因したメインピーク強度の合計が、層状構造に起因したメインピーク強度の1/2以下であることが好ましい。いずれか一方の場合は、一方のイオンのメインピーク強度が、層状構造に起因したメインピーク強度の1/2以下であればよい。
【0036】
なお、前述のように本実施形態における水質浄化材料が備える優れたリン吸着性能および優れた沈降性は根源的にはカルシウムイオンと鉄イオンによる水酸化物で構成される層状構造に由来するため、複合金属水酸化物の表面に存在する水酸化カルシウム及び水酸化鉄値は必ずしも必要となるものではないが、これらが一定の範囲で含まれていることで一層の性能向上が達成される。
【0037】
また、前述した吸着原理からも推察できるように、複合金属水酸化物の表面に存在するカルシウムイオン及び鉄イオンに起因したメインピーク強度は、ごく微弱であっても性能向上に寄与すると言える。従って、複合金属水酸化物の表面に存在するカルシウムイオン及び鉄イオンに起因したメインピーク強度が層状構造に起因したメインピーク強度の1/2以下でありさえすれば、その範囲は特に限定されるものではない。
【0038】
本実施形態では、本発明の作用効果を損なわない範囲で、それ以外の金属(以下、第三金属という)を含んでもよい。この第三金属は、製造過程で必然的に含まれるものの他、沈降性と密接な関係がある結晶性を制御するという観点から、カルシウムの一部を置換してなるマグネシウム等を例示することができる。但し、第三金属の含有量は、複合金属水酸化物に含まれる全金属元素に対して、10モル%以下であることが好ましい。
【0039】
本実施形態における水質浄化材料は、上述のような複合金属水酸化物を含むものであるが、その複合金属水酸化物をそのまま、例えば粉末状で使用することができる。また、必要に応じて種々の形状に成形したうえで使用することもできる。あるいはバインダーを混合して造粒する、有機系若しくは無機系膜に担持させて膜状とする、カラムに充填した構造とする、などが可能である。また、造粒する場合に必要であれば、バインダーを含ませた後に焼成するなど、従来から知られている多孔体の製造方法を適用しても良い。
【0040】
(水質浄化材料の製造方法)
次に、上記水質浄化材料の製造方法について説明する。上記水質浄化材料は、基本的に、カルシウムを含む化合物と鉄を含む化合物とを水熱反応させることにより製造することができる。ここで原料として用いることができる化合物は特に限定されるものではないが、例えば、カルシウムまたは鉄の、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。このとき、反応溶液のpHはアルカリ性であることが好ましい。このような反応は、常圧下で行うほか、オートクレーブなどを利用して高圧下で行うこともできる。
【0041】
反応条件は、目的とする複合金属水酸化物の構造や粒子径などに応じて選択されるが、一般的には、25〜200℃、好ましくは60〜95℃で反応させる。圧力は常圧であってもよく、またオートクレーブなどを利用して加圧または減圧、例えば0.01〜2.0MPaとすることもできる。
【0042】
(水質浄化材料の使用方法)
本実施形態における水質浄化材料の使用方法、すなわち、前記水質浄化材料を利用した水質浄化方法について説明する。
【0043】
本実施形態における水質浄化方法は極めて簡易であって、上述のようにして得た水質浄化材料を排水に接触させることによって実施する。これによって、上述した原理、すなわち、水質浄化材料の層間の陰イオンがリン酸イオンと交換し、さらには、複合金属水酸化物の表面に形成された水酸化カルシウム及び水酸化鉄が前記排水に接触することによって形成されてなる、水酸基とカルシウムイオン及び鉄イオンが、前記排水中のリン酸イオンと何らかの化学的な相互作用を生ぜしめ、この結果として、複合金属水酸化物の表面にも、水酸基、カルシウムイオン等に起因して、前記排水中のリン酸イオンが吸着し、回収できるものである。
【0044】
なお、上記複合金属水酸化物が、上述した一般式で表されるような組成成分を有し、ハイドロタルサイト構造を呈する場合は、前記一般式中の陰イオンである硫酸イオン(SО2−)及び硝酸イオン(NO3−)が、排水中に含まれるリン酸イオン(陰イオン)と交換することによって、排水中のリン酸イオン、すなわちリンの吸着回収を行なうものである。
【0045】
上記水質浄化材料を排水と接触させる具体的な方法としては、例えば、前記水質浄化材料の粉末、またはバインダーを用いた造粒粉を排水中に投入し、必要に応じて撹拌などをして陰イオンを吸着させたあと、沈降させる方法が挙げられる。この方法は、比較的大量の排水を処理する場合に有効な方法である。この方法によると、水質浄化設備が比較的大型になることが懸念点であるが、大量の排水を一度に処理できるという利点がある。
【0046】
また、上記水質浄化材料、具体的には、上記複合金属水酸化物の生成物自体を膜に担持させ、この膜を排水中に浸漬させることによっても、リン酸イオン、すなわちリンの回収を行うことができるようになる。さらには、上記生成物あるいは造粒粉等をカラムに充填し、このカラム中に排水を導入することで接触させ、リン酸イオン、すなわちリンの回収を行うこともできる。これらの方法は、処理装置が比較的小規模となるが、排水処理量も限定されるので、少量の排水を処理するのに好適である。
【0047】
なお、本実施形態における水質浄化材料は、任意のpHの排水に対して適用することができる。しかしながら、強酸酸性下においては水質浄化材料の溶解が生じる可能性がある。したがって、本発明による水質浄化方法を適用するのに好ましいpH範囲はpH2.0〜14.0であり、更に好ましくはpH3.0〜13.0である。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)とがCa/Feモル比=5.25の割合となるように純水に混合し、NaOH溶液で溶液がアルカリ性になるように調整しながら溶解させて200mLの溶液を得た。次に、溶液を80℃〜100℃に保ちながら数時間保持して沈殿物を生成させた。最後に、生成した沈殿物を濾別して洗浄し、90℃〜100℃で数時間乾燥して供試体1とした。供試体1は、カルシウムと鉄との複合金属水酸化物であり、一般式[Ca0.84Fe0.16(OH)](NO0.16で表すことができることをICP発光分光法およびイオンクロマトグラフ法により確認した。また、この複合金属水酸化物が層状構造を有していることをX線回折法により確認した。
【0049】
一方、リン酸イオン濃度、硫酸イオン濃度、塩素イオン濃度が夫々100mg/Lとなるよう調整された混合水溶液を排水模擬液として準備した。この排水模擬液50mLに50mgの供試体1を投入し、2時間混合撹絆して水質浄化処理を行った。処理後、供試体と上澄み液を濾別し、上澄み液中の各イオン濃度を定量分析し、各イオンの残存率およびリン吸着量を算出した。また、濾別の際に要した時間を測定し、沈降性・脱水性の評価を行った。
【0050】
さらに、このリン吸着後の供試体のく溶性を評価した。く溶性とはリン酸質肥料に求められる特性であり、液温30℃の2wt%クエン酸溶液に浸漬させた際に溶出するリンの割合を指す。リン酸質肥料は、く溶性が高いことが求められるため、クエン酸によって溶出されるリンの割合が少しでも高いほうが好ましい。く溶性の評価は、水質浄化処理試験によってリンを吸着した供試体をクエン酸溶液に浸漬し、溶出したリンの割合を算出した。これらについて得られた結果は表1に示す通りであった。
【0051】
(実施例2)
原料として、硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)とがCa/Feモル比=4.9となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体2を得た。供試体2は、一般式[Ca0.83Fe0.17(OH)](NO0.17で表すことができる複合金属水酸化物であること、および層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。この供試体2を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0052】
(実施例3)
原料として、硝酸カルシウムおよび硫酸カルシウムと硝酸鉄(III)がおよび硫酸カルシウム(III)をCa/Feモル比=4.6となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体3を得た。供試体3は、一般式[Ca0.82Fe0.18(OH)](SO42−0.2NO0.60.18で表すことができる複合金属水酸化物であること、および層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。この供試体3を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0053】
(実施例4)
原料として、硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)とがCa/Feモル比=4.0となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体4を得た。供試体4は、一般式[Ca0.80Fe0.20(OH)](NO0.20で表すことができる複合金属水酸化物であること、および層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。この供試体4を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0054】
(実施例5)
原料として、硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)とがCa/Feモル比=3.0となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体5を得た。供試体5は、一般式[Ca0.75Fe0.25(OH)](NO0.25で表すことができる複合金属水酸化物であること、および層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。この供試体5を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0055】
(実施例6)
原料として、硝酸カルシウムおよび硫酸カルシウムと硝酸鉄(III)がおよび硫酸カルシウム(III)がCa/Feモル比=2.9となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体6を得た。供試体6は、一般式[Ca0.74Fe0.26(OH)](SO42−0.25NO0.50.26で表すことができる複合金属水酸化物であること、および層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。この供試体6を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0056】
(実施例7)
原料として、硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)がCa/Feモル比=2.6となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体7を得た。供試体7は、一般式[Ca0.72Fe0.28(OH)](NO0.28で表すことができる複合金属水酸化物であること、および層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。この供試体7を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0057】
(比較例1)
塩化マグネシウムと塩化アルミニウムをMg/Al=3.0となるように純水に混合し、NaOH溶液で溶液がアルカリ性になるように調整しながら溶解させて200mLの溶液を得た。次に、溶液を80℃〜100℃に保ちながら数時間保持して沈殿物を生成させた。最後に、生成した沈殿物を濾別して洗浄し、90℃〜100℃で数時間乾燥して供試体8とした。この供試体8はマグネシウムとアルミニウムとを含むハイドロタルサイトからなるものである。この供試体8を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0058】
(比較例2)
原料として、塩化マグネシウムと塩化アルミニウムとがMg/Al=2.0となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体9を得た。供試体9は、マグネシウムとアルミニウムとを含むハイドロタルサイトからなるものである。この供試体9を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0059】
(比較例3)
原料として、硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)とがCa/Feモル比=6.0となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体10を得た。供試体10は、一般式[Ca0.86Fe0.14(OH)]で表すことができる複合水金属酸化物であること、およびわずかに層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。しかし、X線回折による分析では、水酸化カルシウム由来のピークが層状構造に由来するピークの1/2を超えていた。この供試体10を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0060】
(比較例4)
原料として、硝酸カルシウムと硝酸鉄(III)とがCa/Feモル比=2.3となるように調整した他は実施例1と同様の方法により供試体11を得た。供試体11は、一般式[Ca0.69Fe0.31(OH)]で表すことができる複合水金属酸化物であること、およびわずかに層状構造を有していることを実施例1と同様の方法により確認した。しかし、X線回折による分析では、水酸化カルシウムおよび水酸化鉄由来それぞれのピークが層状構造に由来するピークの1/2を超えていた。この供試体11を用いて実施例1と同様の方法で水質浄化処理を行った。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0061】
【表1】

表1には、X線回折パターンから算出した水酸化カルシウムおよび水酸化鉄由来それぞれのピーク強度と層状構造由来のピーク強度の比率R [R=(水酸化カルシウム由来のメインピーク強度+水酸化鉄由来のメインピーク強度)/(層状構造由来のメインピーク強度)×100(%)]、試験後の排水模擬液中のイオン種の濃度、および夫々の供試体におけるリン吸着量が示されている。更に、試験後の固液分離に要したろ過時間と、溶性評価試験の結果が合わせて示されている。
【0062】
本発明に従った実施例1〜7では、何れにおいても、リン吸着量が80[mg−P/g−供試体]であり、且つ硫酸イオン、塩素イオンの吸着量は低い結果となった。すなわち、これらはリンを極めて効率よく吸着している。また、ろ過に要した時間も短く、実用上の取り扱いにおいてもなんら問題が無いことがわかった。さらに、吸着したリンはその殆どがく溶性形態であり、吸着後にそのまま肥料としても充分な肥効性が期待できることが分かった。
【0063】
一方、比較例1〜2では、リン吸着量が充分でなく、硫酸イオンに対する選択性が高いなど、吸着剤としての性能が充分でなく、また、く溶性も充分ではなかった。比較例3〜4においても、リン酸イオン濃度が低下しているものの、水酸化鉄及び水酸化カルシウムに起因したフロックの形成によってろ過に多大な時間を要し、実用上の困難を伴うことがわかった。また、く溶性も低い結果となった。
【0064】
これらの結果から、本発明に基づく水質浄化材料は高いリン吸着性能と脱水特性(ろ過特性)を有しており、さらに高いく溶性という特性を兼ね備えている点で従来材料とは明らかに異なっており、リン吸着後に肥料転用するという観点からは極めて優れた吸着剤であると言える。
【0065】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオンおよびカルシウムイオン、並びに窒素イオン及び硫黄イオンの少なくとも一方を含んでなり、層状構造を呈する複合金属水酸化物と、
水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方とを具え、
X線結晶構造解析によって測定される前記水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方に起因するメインピーク強度が、前記複合金属水酸化物の前記層状構造に起因するメインピーク強度の1/2以下であることを特徴とする、水質浄化材料。
【請求項2】
前記複合金属水酸化物は、一般式:[Ca2+1−xFe3+(OH)](SО2− NO1−2yx(0.16≦x≦0.28、0≦y<0.5、1.6<m<2.3)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の水質浄化材料。
【請求項3】
前記複合金属水酸化物は、ハイドロタルサイト構造を呈することを特徴とする、請求項1又は2に記載の水質浄化材料。
【請求項4】
前記水酸化カルシウム及び水酸化鉄の少なくとも一方は、少なくとも前記複合金属水酸化物の表面に形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の水質浄化材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載の水質浄化材料を排水に接触させ、前記排水中のリン含有物質を吸着することを特徴とする、水質浄化方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一に記載の水質浄化材料と、
前記水質浄化材料に吸着したリン含有化合物と、
を具えることを特徴とする、リン酸質肥料前駆体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一に記載の水質浄化材料を排水に接触させ、前記排水中のリン含有物質を前記水質浄化材料に吸着させることによって、前記水質浄化材料と、前記水質浄化材料に吸着したリン含有化合物とを具えるリン酸質肥料前駆体を製造することを特徴とする、リン酸質肥料前駆体の製造方法。

【公開番号】特開2010−274206(P2010−274206A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130044(P2009−130044)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】