説明

水質浄化構造

【課題】地下水に含まれる硝酸態窒素を低コストでかつ効率よく除去する。
【解決手段】水質浄化構造1は、地盤2内の透水層3に地中連続壁状の水質浄化体4を埋設し、水質浄化体4の内部通気空間と大気とが連通するように所定の窒素ガス排出管6を前記地盤内に埋設してなる。ここで、透水層3は非透水層5の上層に分布しており、該透水層内を地下水が流れているが、水質浄化体4は、かかる地下水流と直交するように地盤2内に鉛直に埋設してあるとともに、その下端を非透水層5内まで延設してある。水質浄化体4は、水硬性材料であるセメントを含むアルカリ性排泥、硫黄及び硫黄酸化細菌を、アルカリ性排泥の固化前に混合して構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として硝酸態窒素で汚染された地下水を浄化する水質浄化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地下水に含まれる有害汚染物質として硝酸態窒素が問題となっている。かかる問題は、湖沼、河川等の閉鎖性水域において窒素やリンによる水質の富栄養化が進行し、その結果、硝酸態窒素という形で地下水に流入することが原因であると考えられている。
【0003】
硝酸態窒素は、農薬、除草剤、肥料、糞尿などに含まれる窒素成分が微生物により分解を受けた結果生じてくる物質であるが、この硝酸性窒素が体内に入ると、還元されて亜硝酸性窒素に変化し、発ガン性物質であるニトロソアミンという物質を生成したり、血液中のヘモグロビンの機能を低下させて酸素欠乏を引き起こしてチアノーゼ症状に陥る、いわゆるメトヘモグロビン血症を引き起こしたりすることが指摘されている。
【0004】
そのため、地下水に含まれる硝酸態窒素をあらかじめ健康被害を生じない濃度以下となるように除去しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−232876号公報
【特許文献2】特開平10−113693号公報
【特許文献3】特開平10−286590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水に含まれる硝酸態窒素を除去する方法として、該硝酸態窒素をプラントで還元して窒素ガスに変える試みがなされており、既に実用化されているものもある。
【0007】
ここで、プラントで実用化されている手法としては、スリースラッジ法、デュアルスラッジ法、シングルスラッジ法などがあるが、いずれも、中間工程において硝酸態窒素を還元させるために水素供与体(通常、メタノール)が別途必要となる、あるいはpHを中和するアルカリ剤の添加が必要となるという問題や、その結果として反応過程が複雑になるという問題を生じており、大量の汚染水を効率よくかつ低コストに処理するには未だ改善の余地があった。
【0008】
加えて、地下水の硝酸態窒素を処理するとなると、該地下水をいったん揚水して地上プラントまで導水しなければならず、さらなるコスト増を招くという問題も生じていた。
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、地下水に含まれる硝酸態窒素を低コストでかつ効率よく除去可能な水質浄化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る水質浄化構造は請求項1に記載したように、脱窒作用を有しかつ透水性及び通気性を有する水質浄化体を、地下水が流れており又は滞留している地盤内の透水層に埋設してなる水質浄化構造であって、前記水質浄化体の内部通気空間と大気とが連通するように所定の窒素ガス排出管を前記地盤内に埋設したものである。
【0011】
また、本発明に係る水質浄化構造は、前記水質浄化体を、石灰と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成したものである。
【0012】
また、本発明に係る水質浄化構造は、前記水質浄化体を、水硬性材料を含むアルカリ性排泥と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを、前記アルカリ性排泥の固化前に混合して構成したものである。
【0013】
また、本発明に係る水質浄化構造は、前記水質浄化体を、水硬性材料を含むアルカリ性排泥が該水硬性材料の固化作用によって固化した排泥固化体と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成したものである。
【0014】
また、本発明に係る水質浄化構造は、所定の孔を地表面から掘削し、次いで、水硬性材料を含むアルカリ性排泥と硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合してなる混合物を前記孔内に投入し、次いで前記混合物を透水性及び通気性が確保されるように固化させて水質浄化体とする水質浄化構造の構築方法であって、前記孔内に前記水質浄化体が設けられる前に、該水質浄化体の内部通気空間と大気とを連通させる窒素ガス排出管を前記孔内に配置する構築方法により構築できる
【0015】
また、本発明に係る水質浄化構造の構築方法は請求項に記載したように、所定の孔を安定液によって孔壁保護を図りながら地表面から掘削し、次いで、水硬性材料を含むアルカリ性排泥と硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合してなる混合物を前記孔内に投入しつつ前記安定液と置換し、次いで、前記混合物を透水性及び通気性が確保されるように固化させて水質浄化体とする水質浄化構造の構築方法であって、前記孔内に前記水質浄化体が設けられる前に、該水質浄化体の内部通気空間と大気とを連通させる窒素ガス排出管を前記孔内に配置する構築方法により構築できる
【0016】
また、本発明に係る水質浄化構造は、所定の孔を地表面から掘削し、次いで、水硬性材料を含むアルカリ性排泥が該水硬性材料の固化作用によって透水性及び通気性が確保されるように固化した排泥固化体と硫黄及び硫黄酸化細菌とが混合されてなる混合物を前記孔内に投入して水質浄化体とする水質浄化構造の構築方法であって、前記孔内に前記水質浄化体が設けられる前に、該水質浄化体の内部通気空間と大気とを連通させる窒素ガス排出管を前記孔内に配置する構築方法により構築できる
【0017】
また、本発明に係る水質浄化構造は、所定の孔を安定液によって孔壁保護を図りながら地表面から掘削し、次いで、水硬性材料を含むアルカリ性排泥が該水硬性材料の固化作用によって透水性及び通気性が確保されるように固化した排泥固化体と硫黄及び硫黄酸化細菌とが混合されてなる混合物を前記孔内に投入しつつ前記安定液と置換して水質浄化体とする水質浄化構造の構築方法であって、前記孔内に前記水質浄化体が設けられる前に、該水質浄化体の内部通気空間と大気とを連通させる窒素ガス排出管を前記孔内に配置する構築方法により構築できる
【0018】
本発明の水質浄化構造によれば、水質浄化体の脱窒作用によって地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元する。
【0019】
例えば、水質浄化構造を構成する水質浄化体に硫黄及び硫黄酸化細菌を含む場合、かかる水質浄化体と硝酸態窒素を含む地下水とが接触すると、水質浄化体中の硫黄が硫黄酸化細菌の酵素活性によって酸化されるとともに、その酸化反応に伴って、該硫黄が電子供与体となり、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元する。
【0020】
ここで、水質浄化構造を構成する水質浄化体に硫黄及び硫黄酸化細菌を含む場合、硫黄は自ら酸化されることにより硫酸となるが、石灰やアルカリ性排泥中のアルカリ成分によって中和される。例えば、石灰やアルカリ性排泥中の炭酸カルシウムや水酸化カルシウムと中和することにより、硫酸は中性の石膏となる。そのため、硫酸によってpHが小さくなり、硫黄酸化細菌の酵素活性が低下するのを防止することができることはもちろん、アルカリ性排泥の場合は特に、従来、産業廃棄物として処分せざるを得なかったものが、本発明によれば、硝酸態窒素を無害化する原材料として有効利用することができるという顕著な作用効果を奏する。
【0021】
硝酸態窒素汚染の問題は、微生物分野では本願出願の時点で既に知られているところであるとともに、かかる硝酸態窒素を脱窒させる方法として硫黄と硫黄酸化細菌とを使用できる可能性や石灰石で硫酸を中和させることができることも知られている。
【0022】
一方、土木建築業界においては、地中連続壁工法などの泥水工法でアルカリ性排泥が大量に発生し、その廃棄処分が大きな社会的問題となっているとともに、硝酸態窒素で汚染された地下水を地上まで揚水することなく浄化可能な技術の開発が待たれていた。
【0023】
本出願人は、かかる問題や、ガソリン精製等での脱硫工程で硫黄が余剰しつつある社会状況をも踏まえつつ、上述した微生物分野における公知技術を土木建築業界で活かすことはできないかという点に着眼し、さまざまな研究開発を行った結果、上述した新規な知見を得たものであり、その知見は産業上きわめて有意義な知見であることを念のため付言しておく。
【0024】
水質浄化体は、脱窒作用を有しかつ透水性及び通気性を有するものであればどのようなものでもよいが、上述したように硫黄及び硫黄酸化細菌を含む構成がよい。
【0025】
例えば、石灰と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成する、水硬性材料を含むアルカリ性排泥が該水硬性材料の固化作用によって固化した排泥固化体と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成する、水硬性材料を含むアルカリ性排泥と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを、前記アルカリ性排泥の固化前に混合して構成するなどの態様が考えられる。なお、硫黄の酸化反応を触媒する硫黄酸化細菌の酵素活性に必要な酵素活性物質、例えば炭素源あるいは有機物については、必要に応じて適宜添加すればよい。例えば、炭、木材、サトウキビの絞りかす、廃材などが考えられる。
【0026】
水質浄化体が透水性及び通気性を備えるようにするには、例えばひび割れを生じるように成分調整する方法や、発泡剤等を添加することで多孔質体とする方法が考えられる。
【0027】
水質浄化体を埋設する地盤内の位置は、地下水と接触する可能性がある箇所、すなわち地下水が流れている透水層や、地下水が滞留している帯水層(以下、透水層に含めるものとする)とすればよい。したがって、不透水層の上方に透水層がある場合はもちろんのこと、不透水層の下方に透水層がある場合、該透水層に水質浄化体を埋設した構成も本発明に係る水質浄化構造の概念に含まれる。
【0028】
なお、本願発明でいう埋設とは、地下水が通過する深さ位置での埋設という意味であるため、水質浄化体の天端が地表面と一致することもあれば、地表面から例えば数十mの深さに埋設されることもあり、後者の場合には、水質浄化体の天端は、地表面と一致しない。
【0029】
また、水質浄化体を埋設する平面位置や埋設形状は任意であり、壁体や柱体として構成する場合をはじめ、多数の柱体を離間配置して構成したり、多数の柱体を隙間なく並列させることで壁状に構成したりといったさまざまな態様が考えられる。また、汚染地域を取り囲むように埋設する態様もあり得る。
【0030】
水硬性材料にはセメントや石灰が含まれる。
水硬性材料を含むアルカリ性排泥は、主として地中連続壁工法、泥水シールドなどの泥水工法で生じた排泥が対象となるが、運送の便宜のため、固化させる目的で水硬性材料が添加された排泥であってアルカリ性を呈しているものであれば、上述した泥水工法で生じた排泥に限定されるものではない。また、水硬性材料の固化作用は、セメントや石灰による水和反応を主として意味する。
【0031】
また、水質浄化体の内部通気空間と大気とが連通するように所定の窒素ガス排出管を前記地盤内に埋設したので、上述した脱窒反応で発生した窒素ガスをスムーズに大気中に排気することができる。
【0032】
水質浄化体を埋設してなる水質浄化構造を構築するにあたり、透水層の深さや土質性状の関係で水質浄化体を埋設するための孔を掘削するときに孔壁が崩落する可能性の有無により概ね2つに大別され、孔壁が崩落する可能性がない場合にはいわゆる素堀りで足りるが、崩落する可能性が高い場合には、孔内を安定液で満たしながら掘削することで孔壁の崩落を防止する。
【0033】
ここで、排泥固化体と硫黄及び硫黄酸化細菌とが混合されてなる混合物を孔内に投入して水質浄化体とする際、該混合物を透水性及び通気性を有する袋体に詰め、該袋体を孔内に投入するようにすれば、投入の作業性が格段に向上する。
【0034】
一方、水硬性材料を含むアルカリ性排泥と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを、アルカリ性排泥の固化前に混合して水質浄化体を構成する場合、硫黄の酸化反応を硫黄酸化細菌が触媒するには、微生物活性が高くなるまで待たねばならず、それには日数を要するため、アルカリ性排泥に添加したとしても、硫黄の酸化反応が始まるまでには、アルカリ性排泥が固化する。したがって、水質浄化構造を構築する際に硫黄が酸化されてしまう懸念はほとんどない。
【0035】
水質浄化体を埋設してなる水質浄化構造を構築するにあたって、孔内を安定液で満たしながら掘削する際、置換された安定液をあらたな水質浄化体を製造するためのアルカリ性排泥とするようにすれば、水質浄化構造を構築する領域内から排出される産業廃棄物の量を大幅に低減することができる。
【0036】
また、同様に掘削する際、孔内に前記水質浄化体が設けられる前に、該水質浄化体の内部通気空間と大気とを連通させる窒素ガス排出管を前記孔内に配置するとともに、前記安定液を置換排出するための排泥管を前記窒素ガス排出管内に挿入配置するようにすれば、排泥管と窒素ガス排出管とが同軸に配置されることとなり、設備規模を簡略化することが可能となる。
【0037】
水質浄化体を孔内に埋設してなる水質浄化構造を構築するにあたり、該孔内に前記水質浄化体を設ける前に、孔内に鉄筋籠等の補強鋼材を建込むようにすれば、水質浄化体の強度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る水質浄化構造によれば、水質浄化体と硝酸態窒素を含む地下水とが接触すると、水質浄化体中の硫黄が硫黄酸化細菌の酵素活性によって酸化されるとともに、その酸化反応に伴って、該硫黄が電子供与体となり、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元し、該地下水を浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態に係る水質浄化構造の図であり、(a)は断面図、(b)はA−A線方向から見た矢視図。
【図2】第1実施形態に係る水質浄化構造の構築方法を示した施工図。
【図3】引き続き第1実施形態に係る水質浄化構造の構築方法を示した施工図。
【図4】第1実施形態の変形例に係る水質浄化構造の鉛直断面図。
【図5】同じく他の変形例に係る水質浄化構造の平面図。
【図6】同じく他の変形例に係る水質浄化構造の平面図。
【図7】第2実施形態に係る水質浄化構造の図であり、(a)は断面図、(b)はB−B線方向から見た矢視図。
【図8】第2実施形態に係る水質浄化構造の構築方法を示した施工図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る水質浄化構造及びその構築方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0041】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る水質浄化構造を示したものである。同図でわかるように、本実施形態に係る水質浄化構造1は、地盤2内の透水層3に地中連続壁状の水質浄化体4を埋設してなる。
【0042】
ここで、透水層3は非透水層5の上層に分布しており、該透水層内を地下水が同図では右から左に流れているが、水質浄化体4は、かかる地下水流と直交するように地盤2内に鉛直に埋設してあるとともに、その下端を非透水層5内まで延設してある。
【0043】
水質浄化体4は、水硬性材料であるセメントを含むアルカリ性排泥、硫黄及び硫黄酸化細菌を、アルカリ性排泥の固化前に混合して構成してある。アルカリ性排泥と硫黄との混合比は、重量比で例えば50〜90:50〜10とすればよい。なお、硫黄の酸化反応を触媒する硫黄酸化細菌の酵素活性に必要な酵素活性物質、例えば炭素源あるいは有機物については、必要に応じて適宜添加すればよい。
【0044】
原材料であるアルカリ性排泥は、地中連続壁工事で発生した排泥を用いるのがよい。地中連続壁工事においては、地盤掘削を行う際、掘削された孔壁の崩落を防止すべく、掘削孔内に安定液として泥水を入れながら掘削を行うが、掘削終了後は、水中コンクリートを打設しながら安定液を置換回収する。
【0045】
この使用済安定液が排泥となるが、水中コンクリートと置換回収されたものであるため、排泥中にはセメントが混入しており、それゆえ、かかる排泥は、アルカリ性排泥となっている。
【0046】
水質浄化体4は、透水性及び通気性を備えるように構成する必要があるが、かかる点においては、ひび割れを生じさせる、多孔質状に形成するなど、公知の技術を用いて透水性及び通気性を確保すればよい。
【0047】
ここで、水質浄化構造1は、水質浄化体4内に貫入され上端が地上側に解放された窒素ガス排出管6を備えてあり、該窒素ガス排出管を介して水質浄化体4の内部通気空間と大気とを互いに連通させてある。
【0048】
窒素ガス排出管6は図1(b)でよくわかるように、水質浄化体4の壁芯に沿って適宜間隔で配置するのが望ましい。また、窒素ガス排出管6のうち、水質浄化体4内に貫入された部分については、同図(c)に示すように、窒素ガス排出孔7を設けておく。
【0049】
本実施形態に係る水質浄化構造1を構築するには、まず、図2(a)に示すように、所定の孔11を安定液12によって孔壁保護を図りながら地表面から掘削する。
【0050】
次に、同図(b)に示すように孔11内に窒素ガス排出管6を建て込む。
ここで、窒素ガス排出管6内に安定液を置換排出するための排泥管13を挿入配置しておく。
【0051】
一方、かかる窒素ガス排出管6及び排泥管13を建て込む前後あるいは同時に、図3(a)に示すように補強鋼材としての鉄筋籠14を孔11内に建て込む。
【0052】
次に、上述したアルカリ性排泥と硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合してなる混合物15を同図(b)に示すように孔11内に投入しつつ、排泥管13を介して安定液12を揚泥し、該安定液と置換する。
【0053】
このとき、混合物15が安定液12内で分離する懸念があるのであれば、必要に応じて混合物15内に増粘剤をあらかじめ添加しておけばよい。
【0054】
次に、混合物15を透水性及び通気性が確保されるように固化させ、図1に示すように水質浄化体4とする。なお、安定液の揚泥が終了したら、排泥管13を引き抜いて撤去する。
【0055】
本実施形態に係る水質浄化構造1においては、硝酸態窒素を含む地下水が水質浄化体4に接触すると、水質浄化体4中の硫黄が硫黄酸化細菌の酵素活性によって酸化されるとともに、その酸化反応に伴って、該硫黄が電子供与体となり、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元する。
【0056】
そして、水質浄化体4に透水した水は硝酸態窒素が除去された処理水として水質浄化体4を逆側に通り抜け、還元された窒素ガスは、窒素ガス排出孔7を介して窒素ガス排出管6に流入し、さらに該窒素ガス排出管を通って大気へと放出される。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る水質浄化構造及びその構築方法によれば、水質浄化体4と硝酸態窒素を含む地下水とが接触すると、水質浄化体4中の硫黄が硫黄酸化細菌の酵素活性によって酸化されるとともに、その酸化反応に伴って、該硫黄が電子供与体となり、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元し、かくして地下水に含まれる硝酸態窒素を低コストでかつ効率よく除去することが可能となるほか、地下水が浄化されることにより、地下水が流入する湖沼をも浄化することも可能となる。
【0058】
一方、硫黄は自ら酸化されることにより硫酸となるが、アルカリ性排泥中のアルカリ成分によって中和されるため、硫酸によってpHが小さくなり、硫黄酸化細菌の酵素活性が低下するのを防止することができる。
【0059】
なお、アルカリ性排泥はリンの吸着能が高いため、本実施形態に係る水質浄化体は、硝酸態窒素の浄化作用のみならず、リンを吸着除去する作用効果も有する。
【0060】
また、本実施形態に係る水質浄化構造及びその構築方法によれば、従来、産業廃棄物として処分せざるを得なかったアルカリ性排泥を、硝酸態窒素を無害化する原材料として有効利用することができるという顕著な作用効果を奏する。
【0061】
また、本実施形態に係る水質浄化構造及びその構築方法によれば、ガソリン精製等での脱硫工程で余剰しがちな硫黄を有効活用することもできる。
【0062】
本実施形態では、孔11が例えば20mを越える深さであって孔壁が崩落のおそれがあることを前提としたが、安定液を使用せずとも孔壁が崩落する懸念がないのであれば、安定液を使用する必要はない。この場合には、安定液を使用せず、単なる掘削(素堀り)で足りる。
【0063】
また、本実施形態では、置換された安定液について特に言及しなかったが、かかる安定液を本発明でいうところのアルカリ性排泥としてもよい。
【0064】
かかる構成によれば、硝酸態窒素で汚染された地下水を浄化するための水質浄化構造を構築するにあたり、建設残土をほとんど発生させずにすむこととなり、ゼロエミッションに寄与する。
【0065】
また、本実施形態では、窒素ガスを大気に放出するための窒素ガス排出管6を設けるようにしたが、かかる窒素ガス排出管を設けずとも窒素ガスを大気に放出させることができるのであれば、これを省略してもかまわない。
【0066】
また、本実施形態では、土圧によって水質浄化体4が破損するのを防止すべく、鉄筋籠で内部補強された水質浄化体としたが、土圧による破損の懸念がないのであれば、鉄筋籠等の補強鋼材を省略してもかまわない。
【0067】
また、本実施形態では、窒素ガス排出管内に排泥管を挿入配置するようにしたが、排泥管の配置の仕方は任意であり、上述した構成に限定されない。
【0068】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、孔11に設けた水質浄化体4を設けた後、図4に示すように、水質浄化体4の上に礫等からなる保護材16を投入するようにしてもかまわない。この場合、同図に示すように、地盤3の地表面と保護材16の天端とを揃えるのが好ましい。
【0069】
また、本実施形態では、水質浄化体4を地中連続壁状に構築したが、本発明の水質浄化体の平面形状は任意であって地下水の流れに合わせてその形状を決めるようにしてもよい。例えば、まっすぐな壁でなくても、湾曲した壁でもよい。また、柱列状としてもよい。
【0070】
特に、図5に示すように、壁状に形成された水質浄化体4を地下水の流れに対して直交配置するとともに、止水壁51,51を地下水の流れに斜めにかつ該流れを水質浄化体4の方向に導水するように該水質浄化体の両側方に接続配置するようにすることが考えられる。
【0071】
かかる構成においては、同図に示すように、上流から流れてきた地下水は、止水壁51,51によって水質浄化体4に集水されることとなり、地下水の浄化効率を大幅に高めることが可能となる。
【0072】
さらには、図6に示すように必ずしも地下水を堰き止めるような配置にせずとも、地下水が流れる領域に柱状の水質浄化体4を離散配置するようにしてもかまわない。
【0073】
かかる構成においても、地下水中の硝酸態窒素の濃度をある程度低下させることが可能である。
【0074】
また、本実施形態では、孔を掘削しその中に水質浄化体を設けるようにしたが、これに代えて原位置攪拌工法により、水質浄化体を形成するようにしてもかまわない。
【0075】
かかる構成においては、アースオーガーで地盤を掘削し、次いで、アルカリ性排泥と硫黄と硫黄酸化細菌とを混合してなる混合物をアースオーガの先端から吐出しつつ、該混合物と掘削土とを攪拌混合する。
【0076】
このような変形例によっても、上述したと同様の作用効果を奏する水質浄化体を形成することができる。
【0077】
なお、かかる水質浄化体についても、その配置について上述したようにさまざまな態様があり得ることは言うまでもない。
【0078】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0079】
図7は、本実施形態に係る水質浄化構造を示したものである。同図でわかるように、本実施形態に係る水質浄化構造41は、地盤2内の透水層3に地中連続壁状の水質浄化体44を埋設してなる。
【0080】
ここで、透水層3は非透水層5の上層に分布しており、該透水層内を地下水が同図では右から左に流れているが、水質浄化体44は、かかる地下水流と直交するように地盤2内に鉛直に埋設してあるとともに、その下端を非透水層5内まで延設してある。
【0081】
水質浄化体44は、水硬性材料であるセメントを含むアルカリ性排泥が該セメントの固化作用(水和反応による固化作用)によって固化した排泥固化体と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成してある。
【0082】
原材料であるアルカリ性排泥については第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略するが、使用済安定液は、水中コンクリートと置換回収されたものであるため、排泥中にはセメントが混入しており、それゆえ、かかる排泥は、アルカリ性排泥となっている。
【0083】
水質浄化体44を製造するには、まず、原材料の一つであるアルカリ性排泥を固化させる。アルカリ性排泥を固化させるにあたっては、地中連続壁工事で生じたアルカリ性排泥をそのまま放置してもよいし、セメントや石灰を投入して固化を早めるようにしてもよい。
【0084】
次に、アルカリ性排泥を固化してなる排泥固化体と硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合し、水質浄化体44とする。なお、硫黄の酸化反応を触媒する硫黄酸化細菌の酵素活性に必要な酵素活性物質、例えば炭素源あるいは有機物については、必要に応じて適宜添加すればよい。
排泥固化体と硫黄との混合比は、重量比で例えば50〜90:50〜10とすればよい。
【0085】
製造された水質浄化体44は、大きさ(粒径)を適宜調整しておくことが望ましい。かかる粒度調整は、排泥固化体の段階で行うことも可能であり、クラッシャー等で排泥固化体を適当な大きさに破砕しながら硫黄及び硫黄酸化細菌を混合するようにすれば、粒度調整工程と混合工程を一工程で済ませることができる。
【0086】
なお、水質浄化体44は、上述したように排泥固化体と硫黄及び硫黄酸化細菌との混合物であって互いに固結させる必要はないため、排泥固化体同士の間隙により、透水性及び通気性を確保することができる。
【0087】
ここで、水質浄化構造41は、水質浄化体44内に貫入され上端が地上側に解放された窒素ガス排出管6を備えてあり、該窒素ガス排出管を介して水質浄化体44の内部通気空間と大気とを互いに連通させてある。
【0088】
窒素ガス排出管6は図7(b)でよくわかるように、水質浄化体44の壁芯に沿って適宜間隔で配置するのが望ましい。また、窒素ガス排出管6のうち、水質浄化体44内に貫入された部分については、同図(c)に示すように、窒素ガス排出孔7を設けておく。
【0089】
本実施形態に係る水質浄化構造41を構築するには、まず、図2(a)と同様、所定の孔11を安定液12によって孔壁保護を図りながら地表面から掘削する。
【0090】
次に、図2(b)と同様、孔11内に窒素ガス排出管6を建て込む。
ここで、窒素ガス排出管6内に安定液を置換排出するための排泥管13を挿入配置しておく。
【0091】
一方、かかる窒素ガス排出管6及び排泥管13を建て込む前後あるいは同時に、図3(a)と同様、補強鋼材としての鉄筋籠14を孔11内に建て込む。
【0092】
次に、アルカリ性排泥がセメントの固化作用によって固化した排泥固化体、硫黄及び硫黄酸化細菌を混合してなる混合物45を図8に示すように孔11内に投入しつつ、排泥管13を介して安定液12を揚泥し、該安定液と置換する。
【0093】
このように安定液を揚泥したならば、図7に示す水質浄化体44が形成される。なお、安定液の揚泥が終了したら、排泥管13を引き抜いて撤去する。
【0094】
本実施形態に係る水質浄化構造41においては、硝酸態窒素を含む地下水が水質浄化体44に接触すると、水質浄化体44中の硫黄が硫黄酸化細菌の酵素活性によって酸化されるとともに、その酸化反応に伴って、該硫黄が電子供与体となり、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元する。
【0095】
そして、水質浄化体44に透水した水は硝酸態窒素が除去された処理水として水質浄化体44を逆側に通り抜け、還元された窒素ガスは、窒素ガス排出孔7を介して窒素ガス排出管6に流入し、さらに該窒素ガス排出管を通って大気へと放出される。
【0096】
以上説明したように、本実施形態に係る水質浄化構造及びその構築方法によれば、水質浄化体44と硝酸態窒素を含む地下水とが接触すると、水質浄化体44中の硫黄が硫黄酸化細菌の酵素活性によって酸化されるとともに、その酸化反応に伴って、該硫黄が電子供与体となり、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスに還元し、かくして地下水に含まれる硝酸態窒素を低コストでかつ効率よく除去することが可能となるほか、地下水が浄化されることにより、地下水が流入する湖沼をも浄化することも可能となる。
【0097】
一方、硫黄は自ら酸化されることにより硫酸となるが、アルカリ性排泥中のアルカリ成分によって中和されるため、硫酸によってpHが小さくなり、硫黄酸化細菌の酵素活性が低下するのを防止することができる。
【0098】
なお、アルカリ性排泥はリンの吸着能が高いため、本実施形態に係る水質浄化体は、硝酸態窒素の浄化作用のみならず、リンを吸着除去する作用効果も有する。
【0099】
また、本実施形態に係る水質浄化構造及びその構築方法によれば、従来、産業廃棄物として処分せざるを得なかったアルカリ性排泥を、硝酸態窒素を無害化する原材料として有効利用することができるという顕著な作用効果を奏する。
【0100】
また、本実施形態に係る水質浄化構造及びその構築方法によれば、ガソリン精製等での脱硫工程で余剰しがちな硫黄を有効活用することもできる。
【0101】
本実施形態では、孔11が例えば20mを越える深さであって孔壁が崩落のおそれがあることを前提としたが、安定液を使用せずとも孔壁が崩落する懸念がないのであれば、安定液を使用する必要はない。この場合には、安定液を使用せず、単なる掘削(素堀り)で足りる。
【0102】
また、本実施形態では、置換された安定液について特に言及しなかったが、かかる安定液を本発明でいうところのアルカリ性排泥としてもよい。
【0103】
かかる構成によれば、硝酸態窒素で汚染された地下水を浄化するための水質浄化構造を構築するにあたり、建設残土をほとんど発生させずにすむこととなり、ゼロエミッションに寄与する。
【0104】
また、本実施形態では、窒素ガスを大気に放出するための窒素ガス排出管6を設けるようにしたが、かかる窒素ガス排出管を設けずとも窒素ガスを大気に放出させることができるのであれば、これを省略してもかまわない。
【0105】
また、本実施形態では、土圧によって水質浄化体44が破損するのを防止すべく、鉄筋籠で内部補強された水質浄化体としたが、土圧による破損の懸念がないのであれば、鉄筋籠等の補強鋼材を省略してもかまわない。
【0106】
また、本実施形態では、窒素ガス排出管内に排泥管を挿入配置するようにしたが、排泥管の配置の仕方は任意であり、上述した構成に限定されない。
【0107】
また、本実施形態では、水質浄化体44を孔11にそのまま投入するようにしたが、これに代えて水質浄化体44を透水性袋体に充填した状態で投入するようにしてもよい。かかる構成によれば、投入の作業性が格段に向上するとともに、水質浄化体44の交換も容易となる。
【0108】
また、本実施形態では、水質浄化体44を、アルカリ性排泥が該その固化作用(水和反応による固化作用)によって固化した排泥固化体と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成したが、これに代えて、石灰、硫黄及び硫黄酸化細菌を混合して構成してもよい。
【0109】
そして、かかる構成においては、上述の実施形態と同様に孔11にそのまま投入するようにしてもよいし、上述のように混合されてなる水質浄化体を透水性袋体に充填した状態で投入するようにしてもよい。かかる構成によれば、やはり投入の作業性が格段に向上するとともに、石灰、硫黄及び硫黄酸化細菌からなる水質浄化体の交換も容易となる。
【0110】
以下、第1実施形態で述べた変形例、すなわち、
(1)水質浄化体4の上に保護材16を投入する変形例(図4)
(2)水質浄化体の平面形状に関する変形例
(3)壁状に形成された水質浄化体4を地下水の流れに対して直交配置するとともに、止水壁51,51を地下水の流れに斜めにかつ該流れを水質浄化体4の方向に導水するように該水質浄化体の両側方に接続配置する変形例(図5)
(4)地下水が流れる領域に柱状の水質浄化体4を離散配置する変形例(図6)
(5)原位置攪拌工法によって水質浄化体を形成する変形例
については、本実施形態の変形例としても採用することができることは言うまでもない。なお、(1)乃至(5)記載の水質浄化体4は、本実施形態の水質実施形態44に読み替えるものとする。
【符号の説明】
【0111】
1,41 水質浄化構造
2 地盤
3 透水層
4,44 水質浄化体
5 非透水層
6 窒素ガス排出管
11 孔
12 安定液
13 排泥管
14 鉄筋籠(補強鋼材)
15,45 混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱窒作用を有しかつ透水性及び通気性を有する水質浄化体を、地下水が流れており又は滞留している地盤内の透水層に埋設してなる水質浄化構造であって、
前記水質浄化体の内部通気空間と大気とが連通するように所定の窒素ガス排出管を前記地盤内に埋設したことを特徴とする水質浄化構造。
【請求項2】
前記水質浄化体を、石灰と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成した請求項1記載の水質浄化構造。
【請求項3】
前記水質浄化体を、水硬性材料を含むアルカリ性排泥と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを、前記アルカリ性排泥の固化前に混合して構成した請求項1記載の水質浄化構造。
【請求項4】
前記水質浄化体を、水硬性材料を含むアルカリ性排泥が該水硬性材料の固化作用によって固化した排泥固化体と、硫黄及び硫黄酸化細菌とを混合して構成した請求項1記載の水質浄化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−148760(P2009−148760A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18460(P2009−18460)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【分割の表示】特願2003−165174(P2003−165174)の分割
【原出願日】平成15年6月10日(2003.6.10)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】