説明

水酸化アルミニウム充填ポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体

【課題】剛性および耐熱性に優れ、良好な成形性を有するポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂(A)50〜99重量%と、(a軸長/b軸長)が5〜50であるベーマイト構造の水酸化アルミニウム(B)1〜50重量%とを含有する水酸化アルミニウム含有樹脂(ただし、水酸化アルミニウム含有樹脂の全量を100重量%とする)と、前記水酸化アルミニウム含有樹脂100重量部に対して、多環芳香族カルボン酸(C)0.01〜10重量部を含有するポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化アルミニウム充填ポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体に関するものである。さらに詳細には、剛性および耐熱性に優れ、良好な成形性を有する水酸化アルミニウム充填ポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオレフィン樹脂にタルク等の無機充填剤を充填して、機械的強度を向上させることが知られている。
例えば、特開平6−220258号公報には、耐衝撃強度を維持し、剛性と色相を改良する手段として、ポリオレフィン樹脂に、特定の無機充填剤および特定の有機酸を配合してなるポリオレフィン樹脂組成物が記載されており、無機充填剤として水酸化アルミニウムが挙げられている。
【0003】
また、特開平10−60162号公報には、樹脂組成物の機械的性質および光学的性質を改良する手段として、結晶性熱可塑性樹脂と、芳香族カルボン酸と、金属元素含有化合物とからなる樹脂組成物が記載されており、金属元素含有化合物として水酸化アルミニウムが挙げられている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−220258号公報
【特許文献2】特開平10−60162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の公報等に記載の樹脂組成物に関して、その剛性、耐熱性および成形性については、必ずしも充分ではないこともあり、さらなる改良が望まれていた。
かかる状況の下、本発明の目的は、剛性および耐熱性に優れ、良好な成形性を有するポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
ポリオレフィン樹脂(成分(A))50〜99重量%と、(a軸長/b軸長)が5〜50であるベーマイト構造の水酸化アルミニウム(成分(B))1〜50重量%とを含有する水酸化アルミニウム含有樹脂(ただし、水酸化アルミニウム含有樹脂の全量を100重量%とする)と、前記水酸化アルミニウム含有樹脂100重量部に対して、多環芳香族カルボン酸(成分(C))0.01〜10重量部を含有するポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、剛性および耐熱性に優れ、良好な成形性を有するポリオレフィン樹脂組成物およびそれからなる成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂(A)としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、炭素数4以上のα−オレフィンを主な成分とするα−オレフィン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂として好ましくは、ポリプロピレン樹脂である。これらのポリオレフィン樹脂を単独で用いても良く、少なくとも2種を併用しても良い。また、本発明で用いるポリオレフィン樹脂(A)を、変性しても良い。
【0009】
ポリエチレン樹脂としては、エチレン単位を主成分とする重合体、具体的にはエチレンを50モル%より多く含む重合体であって、エチレン単位単独からなるエチレン単独重合体、エチレンおよびエチレンと共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体(ただし、エチレン単位の含有量とエチレンと共重合可能な他の単量体単位の含有量の合計を100モル%とする)。エチレンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、プロピレン、炭素数4〜20のα−オレフィン、アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられる。炭素数4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられ、アクリル酸エステルとしてはアクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0010】
エチレンおよびエチレンと共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、エチレン−アクリル酸エステルランダム共重合体、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体などが挙げられる。
エチレン−α−オレフィンランダム共重合体としては、例えば、エチレン−1−ブテンランダム共重合体、エチレン−1−ペンテンランダム共重合体、エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体、エチレン−1−オクテンランダム共重合体、エチレン−1−デセンランダム共重合体などが挙げられる。
【0011】
ポリプロピレン樹脂は、プロピレン単位を主成分とする重合体、具体的にはプロピレンを50モル%より多く含む重合体であって、例えば、プロピレン単位単独からなるプロピレン単独重合体、プロピレンおよびプロピレンと共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体,プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンとを共重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる(ただし、プロピレン単位の含有量とプロピレンと共重合可能な他の単量体単位の含有量の合計を100モル%とする)。
プロピレンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、炭素数4〜20のα−オレフィン、アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられる。炭素数4〜20のα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられる。
ポリプロピレン樹脂として、好ましくは、剛性や耐熱性を高めるという観点から、プロピレン単独重合体、プロピレンブロック共重合体であり、より好ましくはプロピレン単独重合体である。
【0012】
プロピレンおよびプロピレンと共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−アクリル酸エステルランダム共重合体、プロピレン−酸酸ビニルランダム共重合体などが挙げられる。
【0013】
プロピレンを単独重合した後にプロピレンおよびプロピレンと共重合可能な他の単量体を共重合して得られるプロピレンブロック共重合体としては、例えば、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレンを単独重合した後にプロピレンとブテンを共重合して得られるプロピレン−ブテンブロック共重合体、プロピレンを単独重合した後にプロピレンと1−ペンテンを共重合して得られるプロピレン−1−ペンテンブロック共重合体、プロピレンを単独重合した後にプロピレンと1−ヘキセンを共重合して得られるプロピレン−1−ヘキセンブロック共重合体が挙げられる。プロピレンおよびプロピレンと共重合可能な他の単量体を共重合して得られるポリマー成分に含有されるプロピレン単位の含有量として、好ましくは20〜90モル%であり、より好ましくは、30〜80モル%である。
【0014】
炭素数4以上のα−オレフィンを主な成分とするα−オレフィン樹脂は、炭素数4以上のα−オレフィンを50モル%より多く含む重合体であって、炭素数4以上のα−オレフィン単位単独からなる1−ブテン単独重合体、炭素数4以上のα−オレフィンおよび炭素数4以上のα−オレフィンと共重合可能な他の単量体との共重合体が挙げられる。(ただし、炭素数4以上のα−オレフィン単位の含有量と炭素数4以上のα−オレフィンと共重合可能な他の単量体単位の含有量の合計を100モル%とする)
【0015】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂(成分(A))の製造方法としては、溶液重合法、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等によって製造する方法が挙げられる。また、これらの重合法を単独で用いる方法であっても良く、少なくとも2種を組み合わせた方法であっても良い。
そして、本発明で用いられるポリオレフィン樹脂(成分A)の製造方法としては、例えば、“新ポリマー製造プロセス”(佐伯康治編集、工業調査会(1994年発行))、特開平4−323207号公報、特開昭61−287917号公報等に記載されている重合法が挙げられる。
【0016】
ポリオレフィン樹脂の製造に用いられる触媒としては、マルチサイト触媒やシングルサイト触媒が挙げられる。マルチサイト触媒として、好ましくは、チタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられ、また、シングルサイト触媒として、好ましくは、メタロセン錯体が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる水酸化アルミニウム(成分(B))は、ベーマイト構造である。ベーマイト構造は、特開平2006-62905号公報に記載されたとおり、試料をガラス製の無反射板に圧密させ、X線回折装置〔Rigaku製 「RINT 2000」〕を用いて粉末の回折パターンを測定し、JCPDS(Joint Committee on Diffraction Standards) 21-1307 と比較することによって、同定される。
【0018】
水酸化アルミニウム(成分(B))の(a軸長/b軸長)は5〜50であり、剛性等の機械的強度を高めるという観点や、成形体を製造しやすいという観点から、好ましくは5〜30、より好ましくは10〜30である。
【0019】
水酸化アルミニウム(成分(B))の(a軸長/b軸長)とは、電子顕微鏡または光学顕微鏡写真において、水酸化アルミニウム(成分(B))粒子の最も長い軸方向の長さとそれに対して直角方向に向く軸方向の長さの比である。図1に、水酸化アルミニウム(成分(B))粒子の例およびそれらの粒子のa、b、c軸(c軸とは、a、b軸双方と直角方向に向く軸を意味する)を示す。なお、a、b、c軸の長短の関係は、a軸長>b軸長≧c軸長である。
【0020】
剛性等の機械的強度を高めるという観点や、成形体を製造しやすいという観点から、水酸化アルミニウム(成分(B))のa軸長は、好ましくは0.3μm〜10μm、より好ましくは0.5μm〜5μmであり、水酸化アルミニウム(成分(B))のc軸長は、好ましくは0.005μm〜0.5μm、より好ましくは0.05μm〜0.2μmである。
【0021】
電子顕微鏡を用いた写真の撮影方法を説明する。まず、スラリー状もしくは乾粉状の水酸化アルミニウムを、固形分換算で1%以下となるように溶媒で希釈後、攪拌もしくは超音波照射といった方法により粒子同士の凝集を低減させた状態で、試料台に塗布・乾燥させて測定試料を得る。なお、希釈に用いる溶媒は水、アルコールといった、水酸化アルミニウムが分散し易い溶媒を適宜選択すればよい。その後、得られた測定試料を用いて電子顕微鏡測定を行い、互いに重なり合っていない水酸化アルミニウムを適宜選び、その長さを測定することで、水酸化アルミニウムのa軸長、b軸長、c軸長を得る。
【0022】
水酸化アルミニウム(成分(B))のBET比表面積は、剛性等の機械的強度を高めるという観点から、好ましくは10〜100m2/gであり、より好ましくは10〜80m2/gであり、さらに好ましくは30〜80m2/gであり、特に好ましくは50〜80m2/gである。
【0023】
水酸化アルミニウム(成分(B))の製造方法としては、例えば、
(1)特開2000−239014号公報に記載された、水酸化アルミニウムとともに金属酢酸塩を添加して水熱処理する方法、
(2)特開2006−160541号号公報に記載された、ベーマイト型水酸化アルミニウムとギブサイト型水酸化アルミニウムとをマグネシウムの存在下で水熱処理することにより、針状のベーマイト型水酸化アルミニウムを得る方法、
(3)水酸化アルミニウムとともに金属酢酸塩を添加した水溶液をカルボン酸等により酸性に調整後、水熱処理する方法、
などが挙げられる。
【0024】
本発明で用いられる多環芳香族カルボン酸(成分(C))とは、分子内に2つ以上の芳香族環が縮合した構造(I)とカルボキシル基を有する化合物である。また、2つ以上の芳香族環が縮合した構造(I)は、ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、多環芳香族カルボン酸(成分(C))は、少なくとも2種を併用してもよい。
2つ以上の芳香族環が縮合した構造(I)とは、例えば、インデン,ナフタレン、フルオレン、フェナントネン、アントラセン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾ[b]チオフェン、インドール、イソインドール、ベンゾオキサゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ジベンゾフラン、カルバゾール、アクリジン、フェナントリジン、1,10−フェナントリジン、フェナジン、フェノキサジン、チアントレン、インドリジン等が挙げられる。
【0025】
これらの2つ以上の芳香族環が縮合した構造(I)は、少なくとも1つの置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などのアルキル基、アセチル基などのアシル基、メトキシ基、エトキシ基、ポロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、ペンチルオキシ基などのアルキルオキシ基、水酸基、アミノ基、チオール基、スルホン酸基、シアノ基などが挙げられる。本発明で用いられる多環芳香族カルボン酸(成分(C))のカルボキシル基は、2つ以上の芳香族環が縮合した構造(I)に直接結合してもよく、また、他の置換基や連鎖を介して結合してもよく、好ましくは直接結合した構造である。他の置換基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などのアルキレン基などが挙げられ、他の連鎖としては、例えば、メトオキシ連鎖、エトオキシ連鎖などのアルキルオキシ連鎖や、ペプチド連鎖などが挙げられる。
多環芳香族カルボン酸(成分(C))には、成分(A)と成分(B)と成分(C)で構成される組成物を製造する工程内で分子構造が変化し、本発明の多環芳香族カルボン酸(成分(C))に変化するものも含む。
【0026】
本発明の多環芳香族カルボン酸(成分(C))としては、例えば、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、4−メチル−1−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ナフタル酸、1−アントラセンカルボン酸、2−アントラセンカルボン酸、9−アントラセンカルボン酸等が挙げられ、好ましくは1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、1−アントラセンカルボン酸、2−アントラセンカルボン酸、9−アントラセンカルボン酸である。
【0027】
本発明で用いられる多環芳香族カルボン酸(成分(C))は、ポリオレフィン樹脂(成分(A))と、ベーマイト構造の水酸化アルミニウム(成分(B))とを含有する水酸化アルミニウム含有樹脂(ただし、水酸化アルミニウム含有樹脂の全量を100重量%とする)100重量部に対し、0.01〜10重量部であり、剛性等の機械的強度を高めるという観点や、成形体を製造しやすいという観点から、好ましくは0.05〜5重量部であり、より好ましく0.1〜0.3重量部であり、特に好ましくは0.5〜2重量部である。
【0028】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物の製造方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂(成分(A))、水酸化アルミニウム(成分(B))および多環芳香族カルボン酸(成分(C))を次の(1)または(2)に示したように溶融混練する方法などが挙げられる。
(1)各成分の全部を混合して均一な混合物とした後、その混合物を溶融混練する方法。
(2)各成分を任意に組み合わせて、それぞれを個別に混合して均一な混合物とした後、その混合物を溶融混練する方法。
上記の(1)または(2)の方法において、均一な混合物を得る方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等によって混合する方法が挙げられる。そして、溶融混練する法としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸または二軸押出機等によって溶融混練する方法が挙げられる。
【0029】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物には、用途に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤や耐候性安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、顔料、熱安定剤、中和剤、分散剤、可塑剤、難燃剤等の改質用添加剤、顔料、染料等の着色剤を添加してもよい。また、必要に応じて、カーボンブラック、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー等の粒子状充填剤、ワラストナイト等の短繊維状充填剤、チタン酸カリウム等のウィスカー等、公知の無機粒子を充填剤として添加してもよい。また、ゴム、無水マレイン酸変性PP等の変性樹脂等、公知の改質剤を添加してもよい。これらの添加剤や充填剤や改質剤は、ペレット製造時に添加してペレット中に含有させてもよく、ペレットを成形して成形体を製造するときに添加してもよい。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例および比較例により本発明を説明する。実施例または比較例で用いた評価サンプルの製造方法を以下に示した。
(1)評価用サンプルの製造方法
評価用サンプルを下記条件で成形した。評価用サンプルの射出成形は、日本製鋼所製成形機(J28SC)を使用した。
型締力 :270kN
シリンダー温度:200℃
金型温度 :50℃
背圧 :0.5MPa
なお、実施例と比較例に用いたサンプルの組成を表1、2に示した。
【0031】
実施例および比較例での評価方法を以下に示した。
(1)曲げ弾性率(単位:MPa)
測定温度 :23℃
サンプル形状:12.7×80mm(4mm厚)
スパン :64mm
引張速度 :2mm/分
【0032】
(2)熱変形温度(HDT、単位:℃)
負荷応力 :0.45MPa
サンプル形状:12.7×80mm(4mm厚)
【0033】
(4)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
測定温度:220℃
荷重 :21.2N
【0034】
ベーマイト構造の水酸化アルミニウムの合成
参考例1
BET比表面積25m2/g、中心粒子径0.5μmのギブサイト構造の水酸化アルミニウム粒子100質量部、酢酸マグネシウム4水和物〔CH3COOMg・4H2O〕219質量部および純水2100質量部を混合し、得られたスラリーに酢酸〔CH3COOH〕を加えて水素イオン濃度をpH5.0に調整したのち、オートクレーブに入れ、100℃/時間の昇温速度で室温〔約20℃〕から200℃まで昇温し、同温度を4時間維持して水熱反応を行った。その後、冷却し、濾過操作により固形分を分取し、濾液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗した後、純水を添加して固形分濃度5質量%のスラリーとし、目開き45μmのSUS製篩で粗粒分を除去し、スプレードライヤー〔ニロジャパン社製、モービルマイナ型〕にて出口温度120℃でスプレードライし、ロータースピードミル〔フリッチュ社製「P−14」〕にて解砕して、ベーマイト構造の水酸化アルミニウムを得た。このベーマイト構造の水酸化アルミニウムのBET比表面積は66m2/g、a軸長は2170nm、b軸長は102nm、(a軸長/b軸長)は27であった。なお、BET比表面積は窒素吸着法により求めた。
【0035】
参考例2
BET比表面積25m2/g、中心粒子径0.5μmのギブサイト構造水酸化アルミニウム100重量部、酢酸マグネシウム4水和物〔CH3COOMg・4H2O〕218重量部および純水2100重量部を混合してスラリーを得た。アルミニウムアルコキシドを加水分解して調製したベーマイト型水酸化アルミニウム〔BET比表面積307m2/g〕を0.1N硝酸水〔硝酸濃度0.1モル/L〕に分散させたスラリー〔固形分濃度10質量%〕50重量部を、上記で得たスラリーに加えたところ、水素イオン濃度はpH7.0であった。その後、冷却し、濾過操作により固形分を分取し、濾液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗した後、純水を添加して固形分濃度5質量%のスラリーとし、目開き45μmのSUS製篩で粗粒分を除去し、スプレードライヤー〔ニロジャパン社製、モービルマイナ型〕にて出口温度120℃でスプレードライし、ロータースピードミル〔フリッチュ社製「P−14」〕にて解砕して、ベーマイト構造の水酸化アルミニウムを得た。得られた水酸化アルミニウムのBET比表面積は126m2/g、a軸長は103nm、b軸長は7nm、(a軸長/b軸長)は16であった。
【0036】
ポリオレフィン樹脂組成物の製造および評価
実施例1
表1に記載した配合比で、プロピレンブロック共重合体(A−1)、参考例1で得られた水酸化アルミニウム(B−1)と2−ナフトエ酸(東京化成工業株式会社製)(C−1)を混合し、成分(A−1)と成分(B−1)からなる組成物100重量部に対して、ステアリン酸カルシウム(日本油脂株式会社製)0.05重量部、イルガノックス1010(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.1重量部、イルガフォス168(チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.1重量部を添加、均一混合した後、二軸混練押出機(テクノベル社製KZW15−45MG、同方向回転型スクリュー15mm×45L/D)を用いて、設定温度220℃、スクリュー回転数500rpmの条件で溶融混練してペレットを得た。得られたペレットのMFRは表1に示した。さらに得られたペレットを、日本製鋼所製成形機(J28SC)で射出成形した。得られたサンプルの曲げ弾性率と熱変形温度を表1に示した。
なお、用いたプロピレンブロック共重合体(A−1)は、特開2006−083251号公報の実施例記載の方法に準拠して製造した。プロピレンブロック共重合体(A−1)のMFRは30g/10分であり、プロピレン−エチレン共重合体部の含有量は19重量%である。
【0037】
実施例2
実施例1において用いた多環芳香族カルボン酸(成分(C))の添加量を0.7重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして評価した。
【0038】
実施例3
実施例1において用いた多環芳香族カルボン酸(成分(C))を、2−アントラセンカルボン酸(東京化成工業株式会社製)(C−2)に変更して、その添加量を0.9重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして評価した。
【0039】
実施例4
実施例1において用いたベーマイト構造の水酸化アルミニウム(成分(B))を、参考例2で得られたベーマイト構造の水酸化アルミニウムに変更した以外は、実施例1と同様にして評価行い、結果を表1に示した。
【0040】
比較例1
多環芳香族カルボン酸(成分(C))を添加しない以外は、実施例1と同様にして評価行い、結果を表2に示した。
【0041】
比較例2
実施例1において用いたベーマイト構造の水酸化アルミニウム(成分(B))を、ベーマイト構造の水酸化アルミニウム〔住友化学社製「60P1」、(BET比表面積=49m2/g、(a軸長/b軸長)<3)〕(D−1)に変更した以外は、実施例1と同様にして評価行い、結果を表2に示した。
【0042】
比較例3
実施例1において用いたベーマイト構造の水酸化アルミニウム(成分(B))を、ギブサイト構造の水酸化アルミニウム〔住友化学社製「C−301」、粒子径1.4μm、(BET比表面積=4m2/g、(a軸長/b軸長)<3)〕(D−2)に変更した以外は、実施例1と同様にして評価行い、結果を表2に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
A−1:プロピレンブロック共重合体(MFR=30g/10分、エチレン含有量=19重量%)
B−1:ベーマイト構造の水酸化アルミニウム
(BET比表面積=66m2/g、(a軸長/b軸長)=27)
B−2:ベーマイト構造の水酸化アルミニウム
(BET比表面積=126m2/g、(a軸長/b軸長)=16)
C−1:2−ナフトエ酸(東京化成工業株式会社製)
C−2:2−アントラセンカルボン酸(東京化成工業株式会社製)
D−1:ベーマイト構造の水酸化アルミニウム
(住友化学株式会社製「60P1」、(BET比表面積=49m2/g、(a軸長/b軸長)<3))
D−2:ギブサイト構造の水酸化アルミニウム
(住友化学社製「C−301」、粒子径1.4μm(BET比表面積=4m2/g、(a軸長/b軸長)<3))
【0046】
本発明の要件を満足する実施例1〜4は、剛性および耐熱性に優れ、良好な成形性を有していることが分かる。
これに対して、本発明の要件である多環芳香族カルボン酸(成分(C))を用いなかった比較例1、および、水酸化アルミニウム(成分(B))の(a軸長/b軸長)が5〜50であり、ベーマイト構造であるという本発明の要件を満足しない比較例2および3は、剛性、耐熱性や成形性が不十分なものであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】水酸化アルミニウム粒子のa、b、c軸を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(成分(A))50〜99重量%と、(a軸長/b軸長)が5〜50であるベーマイト構造の水酸化アルミニウム(成分(B))1〜50重量%とを含有する水酸化アルミニウム含有樹脂(ただし、水酸化アルミニウム含有樹脂の全量を100重量%とする)と、前記水酸化アルミニウム含有樹脂100重量部に対して、多環芳香族カルボン酸(成分(C))0.01〜10重量部を含有するポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項2】
水酸化アルミニウム(成分(B))のBET比表面積が10〜100m2/gである請求項1記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂(成分(A))がポリプロピレン樹脂である請求項1又は2記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂組成物からなる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156549(P2008−156549A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349244(P2006−349244)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】