説明

水酸化コバルト及びその製造方法並びに酸化コバルト及びその製造方法

【解決課題】二次粒子の粒径が大きくても凝集性が強い水酸化コバルト及び酸化コバルトを得ること。
【解決手段】一次粒子が凝集した二次粒子であり、該二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、タップ密度が0.80g/mL以上であることを特徴とする水酸化コバルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化コバルト又は酸化コバルト、特に、リチウム二次電池用のリチウムコバルト複合酸化物の製造原料として好適に用いられる水酸化コバルト又は酸化コバルト、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭電器においてポータブル化、コードレス化が急速に進むに従い、ラップトップ型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の小型電子機器の電源としてリチウムイオン二次電池が実用化されている。このリチウムイオン二次電池については、コバルト酸リチウム(LiCoO)がリチウムイオン二次電池の正極活物質として有用であるとの報告がなされて以来、リチウム遷移金属複合酸化物に関する研究開発が活発に進められており、これまで多くの提案がなされている。
【0003】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)などが好ましく使用されており、特にLiCoOは、その安全性、充放電容量などの面から広く使用されている。
【0004】
近年は、リチウム二次電池の高容量化の要求から、高容量化が可能なリチウム二次電池用のコバルト酸リチウム系の複合酸化物が必要となっている。
【0005】
リチウム二次電池を高容量化するための手法としては、(1)大粒子のコバルト酸リチウムと小粒子のコバルト酸リチウムとを混ぜて、正極活物質の充填率を高めることにより、体積当たりの容量を増やし、高容量化を図る方法(例えば、特許文献1)、(2)LiNi0.85Co0.15のように、LiCoOの組成を変更し、重量当たりの容量を増やすことにより高容量化を図る方法(例えば、特許文献2)等が、従来より行われていた。
【0006】
しかし、上記(1)の方法では、小粒子が電池の安全性、特に、充放電を繰り返した際に起こる非水電解液との反応に伴うガス発生が多くなるという問題があった。また、上記(2)の方法では、LiNi0.85Co0.15の製造に用いられたリチウム化合物が残存アルカリとして残存してしまうために、電池の安全性、特に、充放電を繰り返した際に起こる非水電解液との反応に伴うガス発生が多くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−182564号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−060243号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記従来方法に代わる手法が求められる。リチウム二次電池を高容量化する方法としては、LiCoOの粒径を15〜35μm程度と大きくすることにより、タップ密度を高くして、体積当たりの電池の容量を高くする方法が考えられる。
【0009】
通常、LiCoOの製造原料として用いられる水酸化コバルト又は酸化コバルトは、粒径サイズが0.1〜15μmの粒子として製造される。そして、製造原料として、粒径が0.1〜15μm程度の水酸化コバルト又は酸化コバルトを用いて、リチウム化合物を反応させて、粒径が15〜35μm程度のLiCoOを得るためには、水酸化コバルト又は酸化コバルトと反応させるリチウム化合物の量を多くして、反応の際に粒成長させる必要がある。
【0010】
そのため、このような方法では、得られるLiCoOのLi/Co比が、1.060程度となるぐらいに、リチウム化合物を使用しないと、15μm以上のLiCoOが得られない。ところが、リチウム量が過剰になり過ぎると、容量維持率が低くなるという新たな問題が生じる。
【0011】
製造原料として用いる水酸化コバルト又は酸化コバルトの粒径を大きくすれば、水酸化コバルト又は酸化コバルトと反応させるリチウム化合物の量を過剰にし過ぎることなく、粒径が15〜35μm程度のLiCoOを得ることができると考えられる。
【0012】
ところが、従来の製造方法により製造されてきた粒径が15〜40μm程度の大粒径の水酸化コバルト又は酸化コバルトは、二次粒子の粒子強度が弱い(以下、「二次粒子の凝集性が弱い」とも言う。)ために、リチウム化合物との反応前に、リチウム化合物と混合する際に、二次粒子が解れてしまい、リチウム化合物と反応させる際には、粒径が小さなものとなってしまう。
【0013】
従って、本発明の目的は、二次粒子の粒径が大きくても二次粒子の粒子強度が強い(以下、「二次粒子の凝集性が強い」とも言う。)水酸化コバルト及び酸化コバルトを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、コバルト塩を溶解させたコバルト水溶液(A液)とアルカリ水溶液(B液)との中和反応において、コバルト水溶液(A液)として、グリシンを存在させたコバルト水溶液を用い、且つ、コバルト水溶液(A液)中のコバルトとグリシンのモル比を特定の範囲とし、且つA液とB液とをグリシン水溶液(C液)へ添加することにより中和反応を行えば、一次粒子が凝集した二次粒子であり、二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、タップ密度が0.80g/mL以上である水酸化コバルトが得られ、また、該水酸化コバルトは、二次粒子の粒径が大きくても凝集性が強いものであることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0015】
すなわち、本発明(1)は、一次粒子が凝集した二次粒子であり、該二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、タップ密度が0.80g/mL以上であることを特徴とする水酸化コバルトを提供するものである。
【0016】
また、本発明(2)は、グリシンを含有するコバルト水溶液であり、グリシンの含有量が、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モルであるコバルト水溶液(A液)と、アルカリ水溶液(B液)とを、グリシン水溶液(C液)へ添加し、55〜75℃で中和反応を行うことにより、水酸化コバルトを得る中和工程を行い得られることを特徴とする水酸化コバルトを提供するものである。
【0017】
また、本発明(3)は、グリシンを含有するコバルト水溶液であり、グリシンの含有量が、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モルであるコバルト水溶液(A液)と、アルカリ水溶液(B液)とを、グリシン水溶液(C液)へ添加し、55〜75℃で中和反応を行うことにより、水酸化コバルトを得る中和工程を有することを特徴とする水酸化コバルトの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(4)は、板状、柱状又は針状の一次粒子が凝集した二次粒子であり、SEM像の画像解析において、該二次粒子を構成する一次粒子の長径の平均値が1.5μm以上であることを特徴とする酸化コバルトを提供するものである。
【0019】
また、本発明(5)は、本発明(3)の水酸化コバルトの製造方法を行い得られる水酸化コバルトを、200〜1000℃で焼成して酸化することにより、酸化コバルトを得る酸化焼成工程を有することを特徴とする酸化コバルトの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特有の一次粒子の形状を有し、二次粒子の粒径が大きくても凝集性が強い水酸化コバルト及び酸化コバルトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))の粒度分布図である。
【図2】本発明の実施例1により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))を粉砕処理した後の水酸化コバルト粒子(二次粒子(b))の粒度分布図である。
【図3】本発明の実施例5により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))の粒度分布図である。
【図4】本発明の実施例5により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))を粉砕処理した後の水酸化コバルト粒子(二次粒子(b))の粒度分布図である。
【図5】本発明の比較例1により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))の粒度分布図である。
【図6】本発明の比較例1により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))を粉砕処理した後の水酸化コバルト粒子(二次粒子(b))の粒度分布図である。
【図7】本発明の比較例2により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))の粒度分布図である。
【図8】本発明の比較例2により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))を粉砕処理した後の水酸化コバルト粒子(二次粒子(b))の粒度分布図である。
【図9】本発明の比較例3により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))の粒度分布図である。
【図10】本発明の比較例3により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))を粉砕処理した後の水酸化コバルト粒子(二次粒子(b))の粒度分布図である。
【図11】本発明の実施例1により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(3000倍)である。
【図12】本発明の実施例1により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(10000倍)である。
【図13】本発明の実施例5により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(3000倍)である。
【図14】本発明の実施例5により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(10000倍)である。
【図15】本発明の比較例1により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(3000倍)である。
【図16】本発明の比較例1により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(10000倍)である。
【図17】本発明の比較例2により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(3000倍)である。
【図18】本発明の比較例2により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(10000倍)である。
【図19】本発明の比較例3により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(3000倍)である。
【図20】本発明の比較例3により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(10000倍)である。
【図21】二次粒子を構成する一次粒子の模式的な斜視図である。
【図22】一次粒子の長径及び短径を説明するための図である。
【図23】一次粒子の長径及び短径を説明するための図である。
【図24】本発明の実施例6により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))の粒度分布図である。
【図25】本発明の実施例6により得られた水酸化コバルト粒子(二次粒子(a))を粉砕処理した後の水酸化コバルト粒子(二次粒子(b))の粒度分布図である。
【図26】本発明の実施例6により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(3000倍)である。
【図27】本発明の実施例6により得られた水酸化コバルト粒子のSEM写真(10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の水酸化コバルトは、一次粒子が凝集した二次粒子であり、該二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、タップ密度が0.80g/mL以上であることを特徴とする水酸化コバルトである。
【0023】
本発明の水酸化コバルトの粒子形状や表面状態等の粒子特性は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される。そして、水酸化コバルトの二次粒子のSEM像上で画像解析を行い、二次粒子を二次元で投影したときに、二次粒子を構成している一次粒子の長径の長さを求める。図21を参照して、一次粒子の長径の長さ及び短径の長さについて説明する。図21は、二次粒子を構成する一次粒子の模式的な斜視図であり、(A)は、二次粒子を構成する板状の一次粒子の模式的な斜視図であり、(B)は、二次粒子を構成する角柱状の一次粒子の模式的な斜視図であり、(C)は、二次粒子を構成する針状の一次粒子の模式的な斜視図である。
【0024】
図21の(A)に示す板状の一次粒子には、二次粒子の表面側の面1aと、表面側の面1aに交わる面2aがある。二次粒子の表面側の面1aは、面全体が二次粒子のSEM像に現れるが、一方、表面側の面1aに交わる面2aは、面2aの大部分が二次粒子の内部に存在するため、面の一部しか二次粒子のSEM像には現れない。そして、本発明において、一次粒子の長径の長さとは、SEM像に現れる一次粒子の面のうち、二次粒子の表面側の面1aの長い方の径xである。また、本発明において、一次粒子の短径の長さとは、SEM像に現れる一次粒子の面のうち、二次粒子の表面側の面1aの短い方の径yである。
【0025】
図22に示す板状の一次粒子が凝集した二次粒子の表面のSEM像(A)では、枠囲みした部分が、二次粒子の表面側の面1aの輪郭であり、(B)には、その枠囲み部分のみを示す。そして、図22の(B)の符号xで示す長さが一次粒子の長径の長さであり、符号yで示す長さが一次粒子の短径の長さである。また、図23に示す板状の一次粒子が凝集した二次粒子の表面のSEM像(A)では、枠囲みした部分が、二次粒子の表面側の面1aの輪郭であり、(B)には、その枠囲み部分のみを示す。そして、図23の(B)の符号xで示す長さが一次粒子の長径の長さであり、符号yで示す長さが一次粒子の短径の長さである。
【0026】
なお、図21の(A)に示す板状の一次粒子の形状は、これに限定されるものではなく、平面方向に広がりを持つ形状であれば、平面方向の形状は制限されず、また、湾曲した形状であってもよい。
【0027】
図21の(B)に示す柱状の一次粒子には、二次粒子の表面側の面1bと、表面側の面1bに交わる面2bがある。二次粒子の表面側の面1bは、面全体が二次粒子のSEM像に現れるが、一方、表面側の面1bに交わる面2bは、面2bの大部分が二次粒子の内部に存在するため、面の一部しか二次粒子のSEM像には現れない。そして、本発明において、一次粒子の長径の長さとは、SEM像に現れる一次粒子の面のうち、二次粒子の表面側の面1bの長い方の径xである。また、本発明において、一次粒子の短径の長さとは、SEM像に現れる一次粒子の面のうち、二次粒子の表面側の面1bの短い方の径yである。
【0028】
図21の(B)に示す柱状の一次粒子の形状は、四角柱状であるが、これに限定されるものではなく、円柱状や、四角柱状以外の角柱状であってもよく、また、湾曲した形状であってもよい。
【0029】
図21の(C)に示す針状の一次粒子のSEM画像には、二次粒子の表面側の面1cと、表面側の面1cに交わる面2cが現れる。そして、本発明において、一次粒子の長径の長さとは、SEM像に現れる二次粒子の表面側の面1cの長い方の径xである。また、本発明において、一次粒子の短径の長さとは、SEM像に現れる二次粒子の表面側の面1cの短い方の径yである。
【0030】
なお、本発明では、SEM像を画像解析することにより、一次粒子の長径及び短径の長さを求めるので、一次粒子の長径及び短径とは、二次粒子の表面を平面視したときの平面図中の一次粒子の形状に基づいて測定される長径及び短径である。
【0031】
本発明の水酸化コバルトは、一次粒子が凝集した二次粒子である。本発明の水酸化コバルトの二次粒子を構成する一次粒子としては、SEM画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子と、それら以外の一次粒子、すなわち、球状又は不定形の一次粒子、SEM画像解析における長径の長さが1.5μm未満の板状、柱状又は針状の一次粒子等と、がある。そして、本発明の水酸化コバルトは、二次粒子を構成する一次粒子として、SEM画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を、必ず有する。つまり、本発明の水酸化コバルトは、(I)SEM画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子が凝集した二次粒子、又は(II)SEM画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子と、球状、不定形、SEM画像解析における長径の長さが1.5μm未満の板状、柱状又は針状の一次粒子とが凝集した二次粒子である。板状、柱状又は針状の一次粒子の存在は、二次粒子のSEM像において、二次粒子の表面に現れている一次粒子の一部分の形状により確認される。
【0032】
二次粒子中のSEM画像における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の存在割合は、二次粒子全体に対して40%以上が好ましく、80%以上が特に好ましくは、100%が更に好ましい。SEM画像における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の存在割合が、上記範囲にあることにより、水酸化コバルトの圧縮強度及びタップ密度が高くなる。なお、本発明において、二次粒子中のSEM画像における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の存在割合とは、SEM画像において二次粒子の表面を平面視したときの平面図中、二次粒子の面積に対する長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の面積の割合を指す。求め方であるが、先ず、二次粒子のSEM像上で画像解析を行い、二次粒子を二次元で投影し、任意に100個の二次粒子を抽出する。次いで、抽出した二次粒子の面積と、その二次粒子中の長径の長さが1.5μm以上の一次粒子の面積とを測定する。次いで、抽出した100個分の二次粒子の総面積に対する長径の長さが1.5μm以上の一次粒子の総面積の割合を百分率で求める。
【0033】
本発明の水酸化コバルトの二次粒子を構成する板状、柱状又は針状の一次粒子の長径の平均値は、1.5μm以上、好ましくは2.0〜5.0μm、特に好ましくは2.5〜4.5μmである。板状、柱状又は針状の一次粒子の長径の平均値が、上記範囲にあることにより、水酸化コバルトの圧縮強度及びタップ密度が高くなる。
【0034】
一次粒子の長径の平均値の求め方であるが、先ず、二次粒子のSEM像上で画像解析を行い、二次粒子を二次元で投影し、任意に100個の一次粒子を抽出する。次いで、抽出した一次粒子のそれぞれについて、長径の長さを測定する。次いで、抽出した100個の一次粒子の長径の長さを平均し、その平均値を、二次粒子を構成する一次粒子の長径の平均値とする。
【0035】
本発明者らが知る限りでは、コバルトを含有する水酸化物として、コバルト及びニッケルを含有する複合水酸化物の板状又は柱状の粒子形状を有する一次粒子を凝集させて二次粒子を形成したものは知られているが(特開平10−29820号公報)、該複合酸化物の一次粒子の長径の最大値は、0.5μm未満である。これに対して本発明の水酸化コバルトは、一次粒子が凝集した二次粒子であり、二次粒子を構成する一次粒子として、板状、柱状又は針状の一次粒子の長径が1.5μm以上の一次粒子を有し、二次粒子中の板状、柱状又は針状の一次粒子の長径の平均値が、好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2.0〜5.0μmm、更に好ましくは2.5〜4.5μmである。
【0036】
本発明の水酸化コバルトに係る一次粒子の短径の平均値は、好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.2〜1.5μm、より好ましくは0.3〜1.2μmである。一次粒子の短径の平均値が、上記範囲にあることにより、水酸化コバルトの圧縮強度及びタップ密度が高くなる。なお、一次粒子の短径の平均値の求め方は、測定対象を、一次粒子の長径の長さに代えて、一次粒子の短径の長さとすること以外は、一次粒子の長径の平均値の求め方と同様である。
【0037】
本発明の水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径は、好ましくは10〜40μm、特に好ましくは15〜40μmである。水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が、特に上記15〜40μmの範囲にある場合は、水酸化コバルトとリチウム化合物を反応させて得られるコバルト酸リチウムの平均粒子径が、15〜35μmとなるので、体積当たりの容量が高いコバルト酸リチウムが得られる。なお、本発明では、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径及び酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径は、日機装社製マイクロトラックMT3300EXIIを用いるレーザー回折・散乱法で測定される値である。
【0038】
本発明の水酸化コバルトのタップ密度は、0.80g/mL以上、好ましくは1.00〜2.50g/mL、特に好ましくは1.50〜2.50g/mLである。水酸化コバルトのタップ密度が上記範囲にあることにより、水酸化コバルト及びコバルト酸リチウムの生産性が向上し、且つ、リチウム二次電池の体積当たりの容量を高くすることが可能となる。また、本発明において、タップ密度が高いことは、二次粒子中に、長径が1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子が多いことを示す。
【0039】
本発明の水酸化コバルトの二次粒子の圧縮強度は、5〜50MPa、好ましくは8〜30MPaである。水酸化コバルトの二次粒子の圧縮強度が、上記範囲にあることにより、水酸化コバルトとリチウム化合物を反応させる前に両者を混合する際に、水酸化コバルトの二次粒子が解れて、粒径が小さい二次粒子となるのを防ぐことができるので、本発明の水酸化コバルトのうち、平均粒子径が15〜40μmの大きな平均粒子径のものを適宜用いることにより、平均粒子径が15〜35μmのコバルト酸リチウムが得られる。なお、本発明では、二次粒子の圧縮強度は、島津微少圧縮試験機MTC−Wで測定される値である。
【0040】
特に、本発明の水酸化コバルトのうち、圧縮強度が上記範囲にあり、平均粒子径が15〜40μmの大きな平均粒子径のものを適宜用いることにより、平均粒子径が15〜35μmのコバルト酸リチウムが得られるため、リチウム二次電池用正極活物質の体積当たりの容量を高くすることができる。
【0041】
本発明の水酸化コバルトは、家庭用コーヒーミル程度のせん断力で粉砕処理されても、粉砕処理前後で、二次粒子の粒度分布の変化は少なく、好ましくは、粉砕処理による二次粒子の平均粒子径の低下が7.0μm以下である。そのため、コバルト酸リチウムの製造において、本発明の水酸化コバルトとリチウム化合物とを混合するときに、水酸化コバルトの二次粒子が解れ難いので、平均粒子径が大きいコバルト酸リチウムが得られる。
【0042】
本発明の水酸化コバルトは、以下に示す本発明の水酸化コバルトの製造方法により、好適に製造される。
【0043】
本発明の水酸化コバルトの製造方法は、グリシンを含有するコバルト水溶液であり、グリシンの含有量が、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モルであるコバルト水溶液(A液)と、アルカリ水溶液(B液)とを、グリシン水溶液(C液)へ添加し、55〜75℃で中和反応を行うことにより、水酸化コバルトを得る中和工程を有することを特徴とする水酸化コバルトの製造方法である。
【0044】
本発明の水酸化コバルトの製造方法に係る中和工程は、A液とB液とをC液へ添加することにより、A液中のコバルト塩とB液中のアルカリとをC液中で反応させる工程である。
【0045】
A液は、グリシン(NHCHCOOH)を含有するコバルト水溶液である。そして、A液は、グリシン及びコバルト塩を、水に溶解させることにより、調製される。
【0046】
A液に係るコバルト塩としては、特に制限されず、コバルトの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられ、これらのうち、塩素による不純物混入の無い硫酸塩が好ましい。また、必要に応じて少量の他の金属塩を共存させてもよい。共存させることができる金属塩としては、例えば、ニッケル、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、チタン等の金属塩が挙げられる。
【0047】
A液中のコバルトイオンの濃度は、特に制限されないが、原子換算で、好ましくは1.0〜2.2モル/L、特に好ましくは1.5〜2.0モル/Lである。A液中のコバルトイオン濃度が、上記範囲にあることにより、生産性が良好となり、且つ、A液からのコバルト塩の析出が起こり難くなる。一方、A液中のコバルトイオン濃度が、上記範囲未満だと、生産性が低くなり易く、また、上記範囲を超えると、A液からコバルト塩が析出し易くなる。
【0048】
A液中のコバルトに対するグリシンの含有量は、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モル、好ましくは0.050〜0.200モルである。A液中のコバルトに対するグリシンの含有量が、上記範囲にあることにより、水酸化コバルトの二次粒子径が大きなものであっても、二次粒子の凝集性を強くすることができるので、コバルト酸リチウムの製造工程で、リチウム化合物と混合する際に、二次粒子が解れず、粒子サイズを維持できるので、平均粒子径が15〜35μmと粒子径が大きなコバルト酸リチウムも得ることができる。一方、A液中のコバルトに対するグリシンの含有量が、上記範囲未満だと、水酸化コバルトの二次粒子の凝集性が弱くなり、また、上記範囲を超えると、未反応のコバルト塩が一部反応液中に残るため、生産性が悪化する。
【0049】
B液は、アルカリ水溶液である。そして、B液は、アルカリを水に溶解させることにより、調製される。
【0050】
B液に係るアルカリとしては、特に制限されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられ、これらのうち、工業的に安価である点で、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0051】
B液の濃度及びC液に添加するアルカリの総量は、A液中のコバルトイオンの濃度及び総量により、適宜選択される。
【0052】
B液の濃度は、好ましくは5〜15モル/L、特に好ましくは5〜10モル/Lである。
【0053】
C液は、グリシン水溶液である。そして、C液は、グリシンを水に溶解させることにより、調製される。
【0054】
中和工程において、A液とB液とをC液へ添加している間の反応液(C液)中のグリシン濃度は、好ましくは0.010〜0.250モル/L、特に好ましくは0.030〜0.170モル/Lである。つまり、中和工程において、反応前のC液中のグリシン濃度及び中和反応中の反応液(C液)のグリシン濃度が、好ましくは0.010〜0.250モル/L、特に好ましくは0.030〜0.170モル/Lとなるように、反応前のC液中のグリシン濃度及びA液中のグリシン濃度を調節する。A液とB液とをC液へ添加している間の反応液(C液)中のグリシン濃度が、上記範囲にあることにより、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が大きくなり易くなる。一方、A液とB液とをC液へ添加している間の反応液(C液)中のグリシン濃度が、上記範囲未満だと、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が小さくなり易く、また凝集性が弱くなり易くなり、また、上記範囲を超えると、未反応のコバルト塩が一部反応液中に残るため、生産性が低くなり易い。
【0055】
A液及びB液のC液への添加量は、A液中の原子換算のコバルトイオンの総モル数に対するB液中の水酸化物イオンの総モル数の比(B液中の総OHイオンのモル数/A液中の総Coイオンの原子換算のモル数)が、好ましくは1.8〜2.1、特に好ましくは1.9〜2.0となる量である。A液中の原子換算のコバルトイオンの総モル数に対するB液中の水酸化物イオンの総モル数の比が上記範囲であることにより、反応液(C液)中に未反応のコバルトイオンが残存することなく、目的の水酸化コバルトを得易くなる。
【0056】
そして、中和工程では、反応容器に予め、グリシン水溶液(C液)を入れておき、そのC液に対して、A液とB液とを添加する。
【0057】
中和工程において、中和反応の反応温度は、55〜75℃、好ましくは60〜75℃、特に好ましくは65〜75℃である。つまり、中和工程において、A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)の温度、すなわち、反応前のC液の温度及び中和反応中の反応液(C液)の温度は、55〜75℃、好ましくは60〜75℃、特に好ましくは65〜75℃である。A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)の温度が上記範囲内であることにより、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が大きくなる。一方、A液とB液とをC液に添加する際の反応液(C液)の温度が、上記範囲未満だと、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が小さく且つ二次粒子の凝集性が弱くなり、また、A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)の温度が、上記範囲を超えても、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が小さくなる。
【0058】
中和工程において、A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)のpH、すなわち、反応前のC液のpH及び中和反応中の反応液(C液)のpHは、9.0〜11.0、好ましくは9.5〜10.5、特に好ましくは9.8〜10.2である。A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)のpHが上記範囲であることにより、二次粒子の平均粒子径が大きく且つ凝集性が強い水酸化コバルトが得られる。一方、A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)のpHが、上記範囲より低いと、未反応のコバルトイオンが一部反応液中に残るため、生産性が低くなり易く、また、得られる水酸化コバルトが、硫酸根などの塩類を不純物として含有し易くなる。また、A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)のpHが、上記範囲より高いと、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が小さくなり易い。なお、中和工程において、A液とB液とをC液へ添加する際の反応液(C液)のpHは、例えば、B液中の水酸化物イオン濃度、A液中のコバルトイオンの濃度に対するB液中の水酸化物イオンの濃度の比、A液に対するB液のC液への添加速度の比等の条件を選択することにより、調節される。
【0059】
中和工程において、A液とB液とをC液へ添加する際のA液中のコバルトイオンの添加速度に対するB液中の水酸化物イオンの添加速度の比(B液/A液)は、好ましくは1.8〜2.1、特に好ましくは1.9〜2.0である。なお、A液中のコバルトイオンの添加速度に対するB液中の水酸化物イオンの添加速度の比とは、反応容器に添加するA液中のコバルトイオンの添加速度(モル/分)に対する反応容器に添加するB液中の水酸化物イオンの添加速度(モル/分)の比を指す。
【0060】
中和工程において、A液とB液とをC液へ添加する際に、A液とB液とをC液へ添加し始めてから、添加を終了するまでの添加時間は、特に制限されないが、工業的に有利になる観点から、好ましくは0.5〜10時間、特に好ましくは1〜5時間である。
【0061】
中和工程において、A液とB液とを混合する際の反応液(C液)の撹拌速度、すなわち、反応直前のC液の撹拌速度及び中和反応中の反応液(C液)の撹拌速度は、反応容器の大きさ、攪拌羽の径、反応液の量等により、適宜選択されるが、攪拌羽の周速0.5〜4.0m/秒が好ましく、攪拌羽の周速0.5〜2.0m/秒が特に好ましい。そして、中和工程において、A液とB液とをC液へ添加する時間帯のうち、始めの方の時間帯、好ましくは添加開始直後から1時間後までの時間帯の撹拌速度を緩やかにし、その後攪拌速度を強めることが、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径を大きくし易くなり、且つ、高充填となる点で、好ましい。
【0062】
本発明の水酸化コバルトの製造方法では、このようにして中和工程を行うことにより、水酸化コバルト(二次粒子)を得る。
【0063】
中和工程を行った後、反応液中に生成した水酸化コバルト(二次粒子)を、減圧ろ過、遠心分離等により、反応液中から水酸化コバルト粒子を分離し、必要に応じて、洗浄、乾燥する。
【0064】
本発明の水酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる水酸化コバルト、すなわち、本発明の水酸化コバルトは、一次粒子が凝集した二次粒子であり、二次粒子を構成する一次粒子として、長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、タップ密度が0.80g/mL以上であるという、特有の粒子形状を有し、また、二次粒子の平均粒子径が15〜40μmと従来のものに比べ大きいものであっても凝集性が強い。
【0065】
そのため、本発明の水酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる水酸化コバルト、すなわち、本発明の水酸化コバルトは、コバルト酸リチウムの製造工程において、リチウム化合物と混合するときに、二次粒子の平均粒子径が15〜40μmの大きなものであっても二次粒子が解れ難いので、リチウム化合物との混合後も、平均粒子径が15〜40μmという大きな平均粒子径を維持している。本発明の水酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる水酸化コバルト、すなわち、本発明の水酸化コバルトを、家庭用コーヒーミル程度のせん断力で粉砕処理を行っても、二次粒子の平均粒子径の低下は小さく、好ましくは、粉砕処理による二次粒子の平均粒子径の低下が7.0μm以下であり且つ粉砕混合前後での粒度分布の変化が少ない。
【0066】
よって、本発明の水酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる水酸化コバルト、すなわち、本発明の水酸化コバルトによれば、本発明の水酸化コバルトのうち二次粒子の平均粒子径が15〜40μmのものを適宜用いることにより、リチウム化合物と反応させる際に、粒子成長のためにリチウム化合物を多く用いる必要はないので、平均粒子径が15〜35μmと大きなコバルト酸リチウムでありながら、コバルトに対するリチウムの原子換算のモル比(Li/Co)で、0.900〜1.040と、従来の大粒子径のコバルト酸リチウムに比べ、過剰リチウム量が少ないコバルト酸リチウムを得ることができる。
【0067】
このことにより、本発明の水酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる水酸化コバルト、すなわち、本発明の水酸化コバルトによれば、体積当たりの容量が高く且つ容量維持率が高いリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0068】
また、本発明の水酸化コバルトは、前記本発明の水酸化コバルトの製造方法に係る中和工程を行い得られる水酸化コバルトである。すなわち、本発明の水酸化コバルトは、グリシンを含有するコバルト水溶液であり、グリシンの含有量が、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モルであるコバルト水溶液(A液)と、アルカリ水溶液(B液)とを、グリシン水溶液(C液)へ添加し、55〜75℃で中和反応を行うことにより、水酸化コバルトを得る中和工程を行い得られることを特徴とする水酸化コバルトである。
【0069】
本発明の酸化コバルトの製造方法は、本発明の水酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる水酸化コバルトを、200〜1000℃で焼成して酸化することにより、酸化コバルトを得る酸化焼成工程を有することを特徴とする酸化コバルトの製造方法である。
【0070】
本発明の酸化コバルトの製造方法に係る酸化焼成工程において、水酸化コバルトを焼成する際の焼成温度は、200〜1000℃、好ましくは300〜900℃である。また、焼成時間は、2〜20時間、好ましくは2〜10時間である。また、焼成雰囲気は、空気中、酸素ガス中等の酸化雰囲気である。
【0071】
本発明の酸化コバルトの製造方法を行うことにより得られる酸化コバルトを、適宜、粉砕、解砕、分級してもよい。
【0072】
本発明の酸化コバルトは、一次粒子が凝集した二次粒子であり、二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、且つ、タップ密度が0.80g/mL以上であるという、特有の粒子形状を有する。本発明の酸化コバルトにおいて、板状、柱状又は針状の一次粒子の長径の平均値は、好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2.0〜5.0μm、更に好ましくは2.5〜4.5μmである。また、本発明の酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径は、10〜40μm、好ましくは15〜40μmであり、且つ、二次粒子の圧縮強度が5〜50MPa、好ましくは8〜30MPaである。
【0073】
本発明の酸化コバルトは、家庭用コーヒーミル程度のせん断力で粉砕処理されても、粉砕処理前後で、二次粒子の粒度分布に変化は少なく、好ましくは、粉砕処理による二次粒子の平均粒子径の低下が7.0μm以下である。
【0074】
本発明の酸化コバルトは、コバルト酸リチウムの製造用の原料として用いられるので、本発明の水酸化コバルトと同様に、体積当たりの容量が高く且つ容量維持率が高いリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0075】
本発明の酸化コバルトは、例えば、本発明の水酸化コバルトの製造方法を行い得られる水酸化コバルトを、200〜700℃、好ましくは300〜500℃で焼成して酸化することにより得られる。
【0076】
次に、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトを用いて、コバルト酸リチウムを製造する方法について述べる。
【0077】
本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトを用いるコバルト酸リチウムの製造方法は、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトと、リチウム化合物と、を混合する粒子混合工程と、粒子混合工程で得られた粒子混合物を、800〜1150℃で焼成することにより、コバルト酸リチウムを得る焼成反応工程と、を有するコバルト酸リチウムの製造方法である。
【0078】
粒子混合工程は、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトと、リチウム化合物と、を混合する工程である。
【0079】
粒子混合工程に係るリチウム化合物としては、通常、コバルト酸リチウムの製造用の原料として用いられるものであれば、特に制限されず、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び有機酸塩等が挙げられ、これらのうち、工業的に安価な点で、炭酸リチウムが好ましい。
【0080】
リチウム化合物の平均粒子径は、0.1〜200μm、好ましくは2〜50μmであることが、反応性が良好であるため好ましい。
【0081】
粒子混合工程において、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトと、リチウム化合物とを混合する際、原子換算のコバルトのモル数に対する原子換算のリチウムのモル数の比(混合モル比、Li/Co)は、0.900〜1.040、好ましくは0.950〜1.030、特に好ましくは0.980〜1.020である。原子換算のコバルトのモル数に対する原子換算のリチウムのモル数の比が上記範囲にあることにより、コバルト酸リチウムの容量維持率が高くなる。一方、原子換算のコバルトのモル数に対する原子換算のリチウムのモル数の比が、上記範囲未満だと、リチウムが足りないため、未反応のコバルトが存在し、そのために重量当たりの放電容量が著しく減少する傾向となり、また、上記範囲を超えると、コバルト酸リチウムの容量維持率が低くなる。
【0082】
粒子混合工程において、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトと、リチウム化合物と、を混合する方法としては、例えば、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ナウターミキサー等が挙げられる。
【0083】
焼成反応工程は、粒子混合工程で得られた、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトとリチウム化合物との粒子混合物を、加熱することにより、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトと、リチウム化合物と、を反応させて、コバルト酸リチウムを得る工程である。
【0084】
焼成反応工程において、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトとリチウム化合物との粒子混合物を焼成反応する際、焼成反応温度は、800〜1150℃、好ましくは900〜1100℃である。また、焼成反応時間は、1〜30時間、好ましくは5〜20時間である。また、焼成反応雰囲気は、空気中、酸素ガス中等の酸化雰囲気である。
【0085】
焼成反応工程を行った後は、生成したコバルト酸リチウムを、必要に応じて、解砕又は分級して、コバルト酸リチウムを得る。
【0086】
本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトを用いて得られるコバルト酸リチウムの平均粒子径は、好ましくは15〜35μm、特に好ましくは18〜30μmであるので、高充填が可能となる。そのため、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトを用いて得られるコバルト酸リチウムによれば、リチウム二次電池の体積当たりの容量を高くすることができる。なお、本発明では、コバルト酸リチウムの平均粒子径は、日機装社製マイクロトラックMT3300EXIIを用いるレーザー回折・散乱法で測定される値である。
【0087】
更に、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトを用いて得られるコバルト酸リチウムでは、原子換算のコバルトに対する原子換算のリチウムのモル比(Li/Co)は、0.900〜1.040と、従来の大粒径のコバルト酸リチウムに比べ、過剰リチウム量が少ないので、リチウム二次電池の容量維持率が高くなる。
【0088】
また、本発明の水酸化コバルト又は本発明の酸化コバルトを用いて得られるコバルト酸リチウムのタップ密度は、好ましくは2.4g/mL以上、特に好ましくは2.6〜3.2g/mLである。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
<反応用の原料水溶液の調製>
(1)コバルト水溶液1
工業用の硫酸コバルト7水和物425.5gと、グリシン5.7gとを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を1Lにして、コバルト水溶液1を調製した。このとき、コバルト水溶液1中のコバルトイオン濃度は、原子換算で1.5モル/Lであり、グリシン濃度は0.075モル/Lであり、原子換算のコバルト1モルに対してグリシンは0.050モルであった。
(2)コバルト水溶液2
工業用の硫酸コバルト7水和物425.5gと、グリシン1.1gとを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を1Lにして、コバルト水溶液2を調製した。このとき、コバルト水溶液2中のコバルトイオン濃度は、原子換算で1.5モル/Lであり、グリシン濃度は0.015モル/Lであり、原子換算のコバルト1モルに対してグリシンは0.010モルであった。
(3)コバルト水溶液3
工業用の硫酸コバルト7水和物425.5gを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を1Lにして、コバルト水溶液3を調製した。このとき、コバルト水溶液3中のコバルトイオン濃度は、原子換算で1.5モル/Lであった。
(4)コバルト水溶液4
工業用の硫酸コバルト7水和物425.5gと、グリシン0.9gとを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を1Lにして、コバルト水溶液4を調製した。このとき、コバルト水溶液4中のコバルトイオン濃度は、原子換算で1.5モル/Lであり、グリシン濃度は0.012モル/Lであり、原子換算のコバルト1モルに対してグリシンは0.008モルであった。
(5)アルカリ水溶液1
25質量%の水酸化ナトリウム水溶液となるように、水酸化ナトリウムを水に溶解させて、アルカリ水溶液1を0.5L調製した。このとき、アルカリ水溶液1の濃度は7.9モル/Lであった。
(6)初期張込液1
グリシン1.4gを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を0.35Lにして、初期張込液1を調製した。このとき、初期張込液1中のグリシン濃度は0.054モル/Lであった。
(7)初期張込液2
グリシン0.3gを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を0.35Lにして、初期張込液2を調製した。このとき、初期張込液2中のグリシン濃度は0.011モル/Lであった。
(8)初期張込液3
0.35Lの水を、初期張込液3とした。つまり、初期張込液3は、グリシンを含有していない。
(9)初期張込液4
グリシン0.2gを、水に溶解させ、更に水を添加して全量を0.35Lにして、初期張込液4を調製した。このとき、初期張込液4中のグリシン濃度は0.008モル/Lであった。
【0091】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
<水酸化コバルトの製造>
2Lの反応容器に、0.35Lの初期張込液を入れ、表1に示す反応温度に加熱した。
次いで、反応容器中の反応液(初期張込液)を、表1に記載の撹拌速度で撹拌しながら、反応容器に対して、反応液のpHが表1の記載のpHとなるように、コバルト水溶液とアルカリ水溶液とを、表1に示す反応温度及び滴下時間で滴下し、中和反応を行った。
中和反応後、反応液を冷却し、次いで、生成物をろ過及び水洗し、次いで、70℃で乾燥して、水酸化コバルトを得た。
得られた水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径、圧縮強度、粉砕特性及びタップ密度を、表2に示す。
【0092】
(実施例6)
<水酸化コバルトの製造>
表1に示した反応条件にした以外は、実施例1〜5と同じ条件で反応を行って水酸化コバルトを得た。
得られた水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径、圧縮強度、粉砕特性及びタップ密度を、表2に示す。
【0093】
(実施例7)
<酸化コバルトの製造>
実施例3で得られた水酸化コバルトを大気中、500℃で5時間焼成し、酸化コバルト(Co)を得た。
得られた酸化コバルトの二次平均の平均粒子径、圧縮強度、粉砕特性及びタップ密度を、表2に示す。
【0094】
(実施例8〜11、比較例5〜8)
<コバルト酸リチウムの製造>
上記で得られた水酸化コバルトと、炭酸リチウムとを、表3に示すLi/Coモル比で混合し、次いで、表3に示す焼成反応温度で加熱し、コバルト酸リチウムを製造した。
得られたコバルト酸リチウムの平均粒子径、タップ密度、容量維持率、初期放電容量(重量当たり)、初期放電容量(体積当たり)及び平均作動電圧を、表3に示す。
【0095】
<評価>
(1)水酸化コバルト又は酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径、コバルト酸リチウムの平均粒子径
レーザー回折・散乱法により測定した。測定には、日機装社製マイクロトラックMT3300EXIIを用いた。
(2)水酸化コバルト又は酸化コバルトの二次粒子の圧縮強度
島津微少圧縮試験機MTC−Wにより測定した。
(3)粉砕特性
水酸化コバルト又は酸化コバルトの二次粒子(a)を、家庭用ミキサー(IFM−660DG、Iwatani社製)で、10秒間粉砕処理し、粉砕処理後の二次粒子(b)の平均粒子径を測定した。また、実施例1、実施例5、実施例6及び比較例1〜3の二次粒子の粉砕処理前後の粒度分布図を図1〜10、24、25に示した。
(4)タップ密度
JIS−K−5101に記載された見掛け密度又は見掛け比容の方法に基づいて、50mlのメスシリンダーにサンプル30gを入れ、ユアサアイオニクス社製、DUAL AUTOTAP装置にセットし、500回タップし、容量を読み取り見掛け密度を算出し、タップ密度とした。
(5)一次粒子の長径及び短径の測定
任意に100個の一次粒子を抽出し、SEM像上で画像解析を行って、SEM像上で観察される各一次粒子の長径及び短径を測定した。次いで、抽出した100個の一次粒子の長径の平均値及び短径の平均値を算出した。また、実施例1、実施例5、実施例6及び比較例1〜3で得られた水酸化コバルトのSEM写真を図11〜20、26、27に示した。
(6)長径の長さが1.5μm以上の一次粒子の存在割合の測定
任意に100個の二次粒子を抽出して、SEM像上で、抽出した二次粒子の総面積と、その二次粒子中の長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の総面積とを求め、二次粒子の総面積に対する長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の総面積の割合を算出した。
【0096】
以下のようにして、電池性能試験を行った。
<リチウム二次電池の作製>
実施例8〜11及び比較例5〜8で得られたコバルト酸リチウム91重量%、黒鉛粉末6重量%、ポリフッ化ビニリデン3重量%を混合して正極剤とし、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
この正極板を用いて、セパレーター、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混練液1リットルにLiPF61モルを溶解したものを使用した。
<電池の性能評価>
作製したコイン型リチウム二次電池を室温で下記試験条件で作動させ、下記の電池性能を評価した。
(1)サイクル特性評価の試験条件
先ず、0.5Cにて4.5Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.5Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その後、0.2Cにて2.7Vまで定電流放電(CC放電)させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に放電容量を測定した。このサイクルを20サイクル繰り返した。
(2)初期放電容量(重量当たり)
サイクル特性評価における1サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
(3)初期放電容量(体積当たり)
正極板作製時に計測された電極密度と初期放電容量(重量当たり)の積により算出した。
(4)容量維持率
サイクル特性評価における1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電容量(重量当たり)から、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
(5)平均作動電圧
サイクル特性評価における20サイクル目の平均作動電圧を平均作動電圧とした。
【0097】
【表1】

1)撹拌周速が「1.0〜2.0」とは、混合開始後1時間は1.0m/秒で、その後は2.0m/秒で撹拌したことを指す。
【0098】
【表2】

*表2中、二次粒子(a)の平均粒子径は、家庭用ミキサーでの粉砕処理前の平均粒子径を示し、二次粒子(b)の平均粒子径は家庭用ミキサーでの粉砕処理後の二次粒子の平均粒子径を示す。
**表2中、存在割合は、二次粒子の総面積に対する長径が1.5μm以上の一次粒子の総面積の割合である。
【0099】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、平均粒子径が大きくても過剰リチウム量が少ないコバルト酸リチウムも得ることができるので、体積当たりの容量が高く且つ容量維持率が高いリチウム二次電池を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集した二次粒子であり、該二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を有し、タップ密度が0.80g/mL以上であることを特徴とする水酸化コバルト。
【請求項2】
SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状及び針状の一次粒子の存在割合が、40%以上であることを特徴とする水酸化コバルト。
【請求項3】
二次粒子の平均粒子径が10〜40μmであり、且つ、圧縮強度が5〜50MPaであることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の水酸化コバルト。
【請求項4】
グリシンを含有するコバルト水溶液であり、グリシンの含有量が、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モルであるコバルト水溶液(A液)と、アルカリ水溶液(B液)とを、グリシン水溶液(C液)へ添加し、55〜75℃で中和反応を行うことにより、水酸化コバルトを得る中和工程を行い得られることを特徴とする水酸化コバルト。
【請求項5】
グリシンを含有するコバルト水溶液であり、グリシンの含有量が、原子換算のコバルト1モルに対して、0.010〜0.300モルであるコバルト水溶液(A液)と、アルカリ水溶液(B液)とを、グリシン水溶液(C液)へ添加し、55〜75℃で中和反応を行うことにより、水酸化コバルトを得る中和工程を有することを特徴とする水酸化コバルトの製造方法。
【請求項6】
前記中和工程において、pH9〜11で中和反応を行うことを特徴とする請求項5記載の水酸化コバルトの製造方法。
【請求項7】
前記中和工程において、A液とB液とをC液へ添加している間のC液中のグリシン濃度が、0.010〜0.250モル/Lであることを特徴とする請求項5又は6いずれか1項記載の水酸化コバルトの製造方法。
【請求項8】
一次粒子が凝集した二次粒子であり、該二次粒子を構成する一次粒子として、SEM像の画像解析における長径の長さが1.5μm以上の板状、柱状又は針状の一次粒子を含み、タップ密度が0.80g/mL以上であることを特徴とする酸化コバルト。
【請求項9】
二次粒子の平均粒子径が10〜40μm、且つ、圧縮強度が5〜50MPaであることを特徴とする請求項8記載の酸化コバルト。
【請求項10】
請求項5〜7いずれか1項記載の水酸化コバルトの製造方法を行い得られる水酸化コバルトを、200〜1000℃で焼成して酸化することにより、酸化コバルトを得る酸化焼成工程を有することを特徴とする酸化コバルトの製造方法。
【請求項11】
前記酸化焼成工程での焼成温度が、200〜700℃であることを特徴とする請求項10記載の酸化コバルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−72050(P2012−72050A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183780(P2011−183780)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】