説明

水酸化マグネシウムリサイクル方法及び水酸化マグネシウムリサイクル装置

【課題】水酸化マグネシウムを炭酸マグネシウムMgCO3 としてリサイクルすることができ、しかも深海貯留、地中貯留に比べて簡易且つ安定的にCO2 をMgCO3 として固定化することができる水酸化マグネシウムリサイクル方法を提供する。
【解決手段】水素化マグネシウムの加水分解によって水素ガスを発生させて発電を行う燃料電池システムから、加水分解で生成した水酸化マグネシウムを回収し、回収した水酸化マグネシウムをリサイクルする水酸化マグネシウムリサイクル方法に、回収した水酸化マグネシウムを加熱することによって、水酸化マグネシウムを酸化マグネシウム及び水に熱分解する熱分解工程と、熱分解された酸化マグネシウムに二酸化炭素を接触させることによって、炭酸マグネシウムを生成する炭酸マグネシウム生成工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化マグネシウムの加水分解によって水素ガスを発生させて発電を行う燃料電池システムから、加水分解で生成した水酸化マグネシウムを回収し、回収した水酸化マグネシウムをリサイクルする水酸化マグネシウムリサイクル方法及び水酸化マグネシウムリサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止対策として、温室効果ガス、特に二酸化炭素(以下、CO2 という)の排出量を削減する種々の技術が研究開発されている。例えば、CO2 発生抑制技術、CO2 回収・貯蔵技術、CO2 吸収源拡大技術等が研究開発されている。
【0003】
CO2 発生抑制技術としては、燃料電池、バイオマス(Biomass)等が注目されている。
燃料電池は、無尽蔵に存在するバイオマスの二次エネルギーである水素をエネルギー源としており、化石燃料を燃やすことで発生する温室効果ガス、環境汚染物質等を放出しないため、地球温暖化、環境汚染、化石燃料の枯渇といった問題を解決する手段として期待されている。燃料電池のエネルギー源である水素の貯蔵方法としては、水素を例えば350気圧の高圧でボンベ内に貯蔵する高圧ボンベ方式、水素を−253℃以下の極低温で液化して貯蔵する液体水素方式、水素化マグネシウム(以下、MgH2 という)のような水素吸蔵合金に水素を吸蔵する吸蔵合金方式等が挙げられるが、特に、吸蔵合金方式は、超高圧、極低温といった特殊状態で水素を貯蔵する必要がないため、取り扱いが容易で安全性が高く、しかも単位体積当たりの水素貯蔵量が高いという優れた特徴を有している(例えば、特許文献1)。
バイオマスは、化石資源を除いた生物資源、例えば木材、紙、農業残渣、屎尿、食品廃棄物等の有機物である。バイオマスから得られるエネルギーは、いわゆる再生可能エネルギーの一つであり、バイオマスエネルギーと呼ばれている。再生可能エネルギーとは、地球規模で見て、生物によるCO2 の吸収量と、その生物に由来するバイオマスを燃焼させた場合に発生するCO2 の排出量とが同量で相殺するため、エネルギーを利用しても現在の大気中CO2 濃度が増加しないものをいう。
【0004】
CO2 回収・貯蔵技術としては、火力発電所、製鉄所等のCO2 発生源からCO2 を回収し、回収したCO2 を深海に貯留する深海貯留技術、CO2 を地中に貯留する地中貯留技術等が挙げられる。
深海貯留は、CO2 を液化し、液化したCO2 をタンカーによって貯留海域へ輸送し、輸送したCO2 を深海へ送出することによってCO2 を液体のまま貯留する技術である。CO2 は、常温、約5MPaで液化し、約27MPa以上では海水よりも高密度になるため、自重によって深海底に沈降し、深海に貯留される(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2008−44832号公報
【特許文献2】特許2896399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池のエネルギー源である水素をMgH2 の加水分解によって発生させた場合、残留物として水酸化マグネシウム(以下、Mg(OH)2 という)が生成するところ、地球温暖化防止対策の観点から有効なMg(OH)2 のリサイクル方法は未だ提案されていない。
【0006】
一方、深海貯留及び地中貯留においては、貯留したCO2 の一部が大気中に漏れ出る虞があり、また高コストであるという問題があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、MgH2 の加水分解によって生成した水酸化マグネシウムと、CO2 発生源から回収したCO2 とを用いて、水酸化マグネシウムを炭酸マグネシウム(以下、MgCO3 という)としてリサイクルすることができ、しかも深海貯留、地中貯留に比べて簡易且つ安定的にCO2 をMgCO3 として固定化することができる水酸化マグネシウムリサイクル方法及び水酸化マグネシウムリサイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る水酸化マグネシウムリサイクル方法は、水素化マグネシウムの加水分解によって水素ガスを発生させて発電を行う燃料電池システムから、加水分解で生成した水酸化マグネシウムを回収し、回収した水酸化マグネシウムをリサイクルする水酸化マグネシウムリサイクル方法であって、回収した水酸化マグネシウムを加熱することによって、水酸化マグネシウムを酸化マグネシウム及び水に熱分解する熱分解工程と、熱分解された酸化マグネシウムに二酸化炭素を接触させることによって、炭酸マグネシウムを生成する炭酸マグネシウム生成工程とを有することを特徴とする。
【0009】
第2発明に係る水酸化マグネシウムリサイクル方法は、前記炭酸マグネシウム生成工程は、化石燃料を燃焼させる設備から回収した二酸化炭素を前記酸化マグネシウムに接触させるようにしてあることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係る水酸化マグネシウムリサイクル装置は、水素化マグネシウムの加水分解によって水素ガスを発生させて発電を行う燃料電池システムから回収した水酸化マグネシウムをリサイクルする水酸化マグネシウムリサイクル装置であって、回収した水酸化マグネシウムを加熱することによって、水酸化マグネシウムを酸化マグネシウム及び水に熱分解する熱分解手段と、熱分解された酸化マグネシウムに二酸化炭素を接触させることによって、炭酸マグネシウムを生成する炭酸マグネシウム生成手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第4発明に係る水酸化マグネシウムリサイクル装置は、前記熱分解手段は、筒状をなし、一端側に水酸化マグネシウムが投入される投入口を有し、他端側に酸化マグネシウムを排出する排出口を有する回転円筒体と、該回転円筒体を加熱する燃焼炉、前記回転円筒体の径方向外側に配されており、該回転円筒体を加熱する加熱風が通流する加熱風流路、又は前記水酸化マグネシウムを加熱する加熱風を、前記排出口側から前記投入口側へ送る加熱送風器とを備えたロータリーキルン方式の熱分解装置であり、前記炭酸マグネシウム生成手段は、酸化マグネシウム及び二酸化炭素を反応させる反応室を備え、該反応室は、前記熱分解手段にて熱分解された酸化マグネシウムが投入される投入口と、該投入口よりも下方に設けられており、二酸化炭素が供給される二酸化炭素供給口と、該二酸化炭素供給口よりも更に下方に設けられており、生成された炭酸マグネシウムを排出する排出口とを有することを特徴とする。
【0012】
第1乃至第4発明にあっては、燃料電池システムにおける加水分解によって生成した水酸化マグネシウムを回収し、回収した水酸化マグネシウムを加熱することによって、酸化マグネシウム及び水に熱分解する。水酸化マグネシウムを熱分解する熱分解手段としては、例えばロータリーキルン方式の熱分解装置が挙げられる。ロータリーキルン方式の熱分解装置は回転円筒体を備え、回転円筒体は燃焼炉、加熱風流路又は加熱送風器によって加熱される。回転円筒端の一端側から投入された水酸化マグネシウムは、回転円筒体内で加熱されて熱分解する。また、水平面に対して、回転円筒体の他端側が下り傾斜しているため、熱分解された酸化マグネシウムは回転円筒体の回転によって他端側に搬送される。水酸化マグネシウムの熱分解によって生成した水は水蒸気として排出される。
次いで、熱分解された酸化マグネシウムに二酸化炭素を接触させることによって、炭酸マグネシウムを生成する。特に、化石燃料を燃焼させる設備から回収した二酸化炭素を接触させることによって、地中貯留又は深海貯留に比べて簡易且つ安定的に二酸化炭素を固定化することが可能になる。炭酸マグネシウムを生成する炭酸マグネシウム生成手段は、具体的には反応室を備えており、反応室には投入口、二酸化炭素供給口及び排出口が上方から下方に順に設けられている。反応室の投入口に投入された酸化マグネシウムは下方へ移動し、二酸化炭素供給口に供給された二酸化炭素は上方へ移動するため、二酸化炭素が酸化マグネシウムに接触し、炭酸マグネシウムが生成する。生成された炭酸マグネシウムは、更に下方へ移動し、排出口から排出される。
【発明の効果】
【0013】
第1乃至第4発明によれば、水酸化マグネシウムを炭酸マグネシウムとしてリサイクルすることができ、しかも深海貯留、地中貯留に比べて簡易且つ安定的に二酸化炭素を炭酸マグネシウムとして固定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明の実施の形態に係るリサイクルシステムを示す概念図である。本発明に係るリサイクルシステムは、H2 を吸蔵したMgH2 を製造する水素化マグネシウム製造設備(以下、MgH2 製造設備という)2と、MgH2 の加水分解によって水素を発生させて発電を行う燃料電池システム3と、化石燃料の燃焼によってCO2 を発生する火力発電所、製鉄所等のCO2 発生源5と、本発明に係る水酸化マグネシウムリサイクル装置(以下、Mg(OH)2 リサイクル装置という)1とを備える。本発明に係るMg(OH)2 リサイクル方法は、発電によって燃料電池システム3に残留したMg(OH)2 と、CO2 発生源5から回収したCO2 とを用いて、Mg(OH)2 をMgCO3 としてリサイクルすると共に、化石燃料の燃焼によって発生したCO2 を簡易且つ安定的に固定するものである。
【0015】
以下、物流に沿って、MgH2 の製造設備2及び燃料電池システム3の構成を先に説明し、次いで本発明に係るMg(OH)2 リサイクル方法及びMgH2 リサイクル装置1を説明する。
【0016】
図2は、MgH2 製造設備2の構成を模式的に示すブロック図である。MgH2 製造設備2は、パイロコーキング装置21と、水素ガス化装置22と、MgH2 製造装置23とを備え、木質資源が豊富な山間地等に建設される。MgH2 製造設備2は、再生可能なバイオマス、水等、最小限の原料で水素ガス及びエネルギーを作り出し、MgH2 を製造することを可能にする。
【0017】
パイロコーキング装置21は、バイオマスを、可燃性のタール含有ガス及びチャーに熱分解する熱分解炉21aと、タール含有ガス中のタールを多孔質無機物、例えば、多孔質アルミナに担持させることによってタールを除去すると共に、炭素担持体を生成するタール担持処理部21bと、タールが除去された可燃性ガスを燃焼させる燃焼炉21cとを備える。
【0018】
熱分解炉21aは、中空円筒状の分解反応管を有し、分解反応管は、該分解反応管を500〜600℃に加熱する加熱装置、例えば電気炉、外部熱風加熱槽方式炉等の内部に略水平の姿勢で設置されている。分解反応管の一端部には管内にバイオマスを供給するホッパが結合されており、分解反応管の内部には搬送スクリューが設けられている。分解反応管の他端部には、熱分解によって発生したタール含有ガスをタール担持処理部21bへ導く配管と、残渣であるチャーを回収する回収器とが設けられている。
タール担持処理部21bは、縦長円筒状の担持処理室を有し、担持処理室は、該担持処理室を500〜700℃に加熱する加熱装置、例えば電気炉、熱風によって担持処理室を加熱する外部加熱炉等の内部に配置されている。担持処理室の上部には、例えば、粒状の多孔質アルミナを担持処理室に供給するホッパがロータリーバルブを介して設けられている。担持処理室の下端側部には、熱分解炉21aに連通する配管が接続されており、バイオマスの熱分解によって発生したタール含有ガスが担持処理室へ流入し、多孔質アルミナの集積物中を通流するように構成されている。タール含有ガスが500〜700℃の温度下で多孔質アルミナに接触すると、タールが分解されて多孔質アルミナの表面に炭素質固体が付着してなる炭素担持体が生成する。担持処理室の上端側部には、多孔質アルミナの集積物中を通流して、タールが除去された可燃性ガスを燃焼炉21c及びMg(OH)2 リサイクル装置1に供給するための配管が接続されている。更に、担持処理室の下端部には、ロータリーバルブを介して炭素担持体を回収する回収器が設けられている。
燃焼炉21cは、タール担持処理部21bから配管を通じて供給された可燃性ガスを燃焼させ、燃焼炉21cで発生した熱及び燃焼ガス(コジェネ装置の場合は電力、又は熱)を熱分解炉21a及びMg(OH)2 リサイクル装置1に供給するように構成されている。
【0019】
水素ガス化装置22は、炭素担持体に700℃以上の水蒸気を接触させることによって、H2 及び一酸化炭素の混合ガスを発生させるガス化反応器22aと、該混合ガスからH2 を分離する水素分離器22bとを備える。
【0020】
ガス化反応器22aには炭素担持体が供給されて集積し、図示しない水蒸気発生源5から700℃以上の水蒸気が供給される。ガス化反応器22aに供給された水蒸気は、炭素担持体の集積物へ通流する。炭素担持体に高温の水蒸気が接触した場合、水蒸気と炭素との間で水性ガス化反応が起こり、水素ガス及び一酸化炭素が発生する。なお、水性ガス化反応によって、炭素担持体は多孔質アルミナに還元するため、該多孔質アルミナを回収して再利用することができる。
【0021】
水素分離器22bは、主に水素のみを透過させることにより、水素と一酸化炭素とを分離する水素分離膜、例えば、パラジウム又はパラジウム銀合金で形成された膜を備えており、ガス化反応器22aから供給された混合ガスからH2 を分離し、分離したH2 をMgH2 製造装置23に供給する。
【0022】
MgH2 製造装置23は、マグネシウムを主成分とする原料粉体及び高圧の水素ガスを封入できる封入容器23aを有し、該封入容器23aは加熱炉23b内に設置されている。封入容器23aには、水素ガス化装置22から供給された水素が供給されるように構成されている。また、封入容器23aには、減圧器及びマイクロコントローラ等からなり、封入容器23a内の水素ガス雰囲気の圧力を任意の圧力に制御することができる圧力制御部23cが設けられている。
加熱炉23bは、加熱炉23b内を加熱するためのヒータ、封入容器23a内の温度を検出する温度センサ、及び封入容器23a外の温度を検出する温度センサを備えている。ヒータ及び温度センサは、ヒータに加熱用の電流を供給する電源及びマイクロコントローラ等からなる温度制御部23dに接続されている。
圧力制御部23c及び温度制御部23dは、水素ガス雰囲気中の温度及び圧力をMgとH2 とが熱力学的に安定に共存する温度・圧力領域に維持する熱処理を行うことにより、Mg表面の被膜を除去させる。次に、水素ガス雰囲気中の温度及び圧力を変更してMgH2 が熱力学的に安定に存在する温度・圧力領域に維持する熱処理を行うことにより、被膜が除去されたMgが速やかにH2 と反応して高収率でH2 が製造される。
【0023】
MgH2 製造設備2で製造されたMgH2 は、中空円柱状のカートリッジ4内に封入され、市場に供給される。
【0024】
次に、図1に示す燃料電池システム3の構成を説明する。
燃料電池システム3は、貯水部31と、MgH2 が封入されたカートリッジ4を装着するカートリッジ装着部32と、燃料電池33とを備える。
【0025】
貯水部31は、例えば円筒状をなし、MgH2 の加水分解に必要な水を貯えている。貯水部31の底部には給水管を介してカートリッジ装着部32に接続されており、貯水部31に蓄えられた水が給水管を通じてカートリッジ4内のMgH2 に供給されるように構成されている。水がカートリッジ4内に供給された場合、MgH2 は加水分解し、H2 が発生する。加水分解反応は、下記化学反応式(1)によって表される。
MgH2 +2H2 O→Mg(OH)2 +2H2 ・・・(1)
カートリッジ装着部32は、カートリッジ4を着脱可能に装着する収容体を有する。収容体の下部には給水管が接続されており、貯水部31から供給された水が収容体及びカートリッジ4内に浸透するように構成されている。また、収容体の上部には、MgH2 の加水分解によって発生したH2 を燃料電池33に供給するH2 供給管が接続されている。
燃料電池33は、例えば低温で動作可能な固体高分子燃料電池(PEFC)である。燃料電池33は、カートリッジ装着部32の収容体から供給された水素と、図示しない空気供給部から供給された空気中の酸素とに基づいて電気エネルギーを取り出す複数の単セルを備えている。単セルの積層方向両端には、各単セルで発電した電力を集電する矩形平板状の正極集電部及び負極集電部が設けられており、所定の駆動装置、例えば電気自動車のモータ、光源、ファン等に接続されている。
このように構成された燃料電池システム3においては、MgH2 が全て反応し終えると、カートリッジ4内には残留物としてMg(OH)2 が残る。
【0026】
図3は、水酸化マグネシウムリサイクル方法を概念的に示す説明図である。まず、燃料電池システム3から使用済みのカートリッジ4に残留したMg(OH)2 を回収する。そして、回収したMg(OH)2 を、1気圧の空気中において、600℃以上で2時間以上加熱することによって、Mg(OH)2 を酸化マグネシウム(以下、MgOという)と、H2 Oとに熱分解する。熱分解の化学反応は、下記化学反応式(2)で表される。
Mg(OH)2 →MgO+H2 O・・・(2)
【0027】
なお、上記化学反応式(2)におけるギブスの自由エネルギー変化量ΔGは、27.2kJ、エンタルピー変化量ΔHは、37.2kJであり、吸熱反応である。
【0028】
次いで、熱分解されたMgOに、CO2 発生源5から回収したCO2 を常温、1気圧の下で接触させることによって、MgCO3 マグネシウムを生成する。MgCO3 の生成に係る化学反応は、下記化学反応式(3)で表される。
MgO+CO2 →MgCO3 ・・・(3)
【0029】
なお、上記化学反応式(3)におけるギブスの自由エネルギー変化量ΔGは、−48.5kJ、エンタルピー変化量ΔHは、−100.9kJであり、発熱反応である。従って、常温下でMgOに二酸化炭素を接触させるのみで、MgCO3 を生成することができる。この反応熱は化学反応式(2)の反応に利用する事が可能である。
【0030】
このようにMg(OH)2 を熱分解し、熱分解して得られたMgOにCO2 を接触させることによって、Mg(OH)2 をMgCO3 としてリサイクルすることが可能になる。
また、化石燃料の燃焼によって発生したCO2 をMgCO3 として安定的に固定することが可能になる。
【0031】
図4は、Mg(OH)2 リサイクル装置1の構成例を模式的に示す断面図である。Mg(OH)2 リサイクル装置1は、ロータリーキルン方式の熱分解装置11、コンベア12、及び炭酸マグネシウム生成機13を備え、MgH2 製造装置23に並設されている。
【0032】
熱分解装置11は、中空の回転円筒体11aを備える。回転円筒体11aはその中心軸が水平面に対して傾斜するような姿勢で、図示しない支持装置によって、回転自在に支持されている。回転円筒体11aの傾斜方向上流側の端部には、回転円筒体11aの内部にMg(OH)2 が投入される投入口11bが形成され、投入口11bにはMg(OH)2 供給用のホッパ11eが設けられている。回転円筒体11aの傾斜方向下流側の端部には、Mg(OH)2 の熱分解によって生成されたMgOが排出される排出口11cが設けられている。また、回転円筒体11aの内周面には、Mg(OH)2 を攪拌するための図示しない攪拌板が突設されている。
【0033】
回転円筒体11aの径方向外側には、回転円筒体11aの外形よりも内径が大きく、且つ中心軸方向の長さが回転円筒体11aよりも短い円筒状加熱風流路11dが回転円筒体11aと同軸的に配設されている。円筒状加熱風流路11dは、内部が中空であり、円筒状加熱風流路11dの傾斜方向下流側の端面には、所定間隔を隔てて複数の燃焼ガス供給部11fが周設されている。燃焼ガス供給部11fには、例えば、パイロコーキング装置21から送出された熱及び燃焼ガスが供給されるように構成されている。また、円筒状加熱風流路11dの傾斜方向上流側には排気筒11gが設けられている。
燃焼ガス供給部11fを通じて、パイロコーキング装置21から円筒状加熱風流路11dへ燃焼ガスが供給された場合、燃焼ガスは加熱風として円筒状加熱風流路11dを下流側から上流側へ通流し、回転円筒体11aを外周側から加熱する。
【0034】
また、回転円筒体11aは、図示しない駆動機構によって、中心軸を中心として所定速度で回転するように構成されている。例えば、駆動機構は、回転円筒体11aの外周面に形成された平歯車と、該平歯車に噛合する小歯車と、該小歯車を回転させるモータとから構成されている。なお、モータの回転速度は、投入口11bから投入されたMg(OH)2 が熱分解されて排出口11cから排出されるまでの時間が約2時間になるように設定すれば良い。
【0035】
コンベア12は、熱分解装置11の回転円筒体11aの排出口11cから排出されたMgOを炭酸マグネシウム生成機13へ搬送するベルトコンベアである。
【0036】
炭酸マグネシウム生成機13は、MgO及びCO2 を反応させてMgCO3 を生成するための反応室13aと、生成したMgCO3 を反応室13aから排出するロータリーバルブ13eと、反応室13aから排出されたMgCO3 を回収する回収容器13fとを備える。
【0037】
反応室13aは、縦長円筒状をなしており、上端部には、MgOが投入される投入口13bが形成されている。また、反応室13aの下端部は、テーパ状に縮径しており、反応室13aで生成したMgCO3 を排出するための排出口13dが形成されている。更に、反応室13aの投入口13bと、排出口13dとの間には、CO2 を反応室13a内に拡散させて供給する二酸化炭素供給部13cが設けられている。二酸化炭素供給部13cは、例えば、反応室13aよりも小径の中空円板状又は中空の環状をなし、上面側に、CO2 を反応室13aの上方へ噴射する噴射口が複数形成されたノズル部を備えている。ノズル部は、反応室13a内に固着されており、ノズル部には反応室13aの外部からノズル部にCO2 を供給する配管が接続されている。該配管には、CO2 を供給する二酸化炭素供給源、例えば二酸化炭素ボンベ6が接続される。二酸化炭素ボンベ6は、CO2 発生源5から回収したものである。
【0038】
ロータリーバルブ13eは、ロータ、該ロータを収容する収容体、及び該ロータを回転させるモータを備える。ロータは、収容体に軸受を介して回転自在に支持された円柱状の軸部と、該軸部の周面から径方向外側に突出した複数の羽板とを備え、構成されている。ロータリーバルブ13eのロータが回転した場合、反応室13aの下端部に堆積しているMgCO3 が下方へ掻き出される。
【0039】
回収容器13fは、ロータリーバルブ13eの下方に配されており、ロータリーバルブ13eにて排出されたMgCO3 を回収する。
【0040】
図5は、Mg(OH)2 リサイクル装置1を用いた水酸化マグネシウムのリサイクル工程を示す工程図である。
【0041】
まず、燃料電池システム3から使用済みのカートリッジ4に残留したMg(OH)2 を回収する(ステップS11)。具体的には、燃料電池システム3のカートリッジ装着部32から取り外されたカートリッジ4を回収して、Mg(OH)2 リサイクル装置1へ運搬する。そして、カートリッジ4からMg(OH)2 を取り出して、回収する。
【0042】
次いで、CO2 発生源5で分離、回収されたCO2 を回収する(ステップS12)。具体的には、CO2 を封入した二酸化炭素ボンベ6をCO2 発生源5からMg(OH)2 リサイクル装置1へ運搬して回収する。なお、二酸化炭素の分離は、膜分離法によって行われている。
【0043】
そして、ステップS11で回収したMg(OH)2 を投入口11bに投入し、熱分解装置11を操業することによって、Mg(OH)2 をMgO及びH2 Oに熱分解する(ステップS13)。具体的には、熱分解装置11の回転円筒体11aが所定の速度で回転することによって、投入口11bから投入されたMg(OH)2 は、投入口11bから排出口11cへ攪拌されながら移動する。また、円筒状加熱風流路11d内を下流側から上流側へ加熱風としての燃焼ガスが通流することによって、回転円筒体11aは外側から加熱されるため、Mg(OH)2 は、投入口11bから排出口11cへ移動する間に加熱され、MgO及びH2 Oに熱分解する。H2 Oは、水蒸気として排出口11cから排出される。排出口11cから排出されたMgOは、コンベア12によって炭酸マグネシウム生成機13へ搬送され、投入口13bに投入される。
【0044】
次いで、二酸化炭素供給部13cから反応室13a内にCO2 を供給し、ロータリーバルブ13eを回転させることによって、投入口13bから投入されたMgOにCO2 を接触させ、MgCO3 を生成し(ステップS14)、処理を終える。ロータリーバルブ13eが回転した場合、投入口13bから投入されたMgOは反応室13aの上方から下方へ移動し、移動している間に、MgOは、二酸化炭素供給部13cから供給されたCO2 と接触し、MgCO3 が生成される。ステップS14における化学反応は発熱反応であるため、該化学反応で発生した熱を回収し、回収した熱をステップS13の工程、即ちMg(OH)2 をMgO及びH2 Oに熱分解する工程に導入することも可能である。言い換えると、第3発明に係る水酸化マグネシウムリサイクル装置に、炭酸マグネシウム生成手段にて炭酸マグネシウムを生成させた場合に発生する熱を回収する熱回収手段を備え、熱分解手段が、前記熱回収手段にて回収した熱を用いて、水酸化マグネシウムを加熱するように構成しても良い。
【0045】
実施の形態に係るMg(OH)2 リサイクル方法、Mg(OH)2 リサイクル装置1にあっては、Mg(OH)2 をMgCO3 としてリサイクルすることができ、しかも深海貯留、地中貯留に比べて簡易且つ安定的にCO2 をMgCO3 として固定化することができる。
MgCO3は、例えば緩剤のような医薬品、滑り抑止剤、その他の工業原料等に使用される。
【0046】
(変形例1)
なお、実施の形態においては、パイロコーキング装置から供給された燃焼ガスを、燃焼ガス供給部を通じて円筒状加熱風流路に供給するように構成してあるが、パイロコーキング装置で発生した可燃性ガスを熱分解装置側で燃焼させて、回転円筒体を加熱するように構成しても良い。
具体的には、燃焼ガス供給部に代えて、パイロコーキング装置から供給された可燃性ガスを燃焼させるバーナーを備え、円筒状加熱風流路に代えて円筒状燃焼室(燃焼炉)を備えると良い。より具体的には、回転円筒体の径方向外側に、回転円筒体の外形よりも内径が大きく、且つ中心軸方向の長さが回転円筒体よりも短い円筒状燃焼室を回転円筒体と同軸的に配設する。円筒状燃焼室は、内部が中空であり、円筒状燃焼室の傾斜方向下流側の端面には、所定間隔を隔てて複数のバーナーが周設されている。また、円筒状燃焼室の傾斜方向上流側には排気筒が設けられている。
変形例1にあっては、ステップS13の工程でバーナーがパイロコーキング装置から供給された可燃性ガスを燃焼させることによって、回転円筒体は外側から加熱されるため、Mg(OH)2 は、投入口から排出口へ移動する間に加熱され、MgO及びH2 Oに熱分解する。以下、同様の工程を経て、MgCO3が生成される。
【0047】
(変形例2)
図6は、変形例2に係るMg(OH)2 リサイクル装置1の構成例を模式的に示す断面図である。変形例2に係るMg(OH)2 リサイクル装置1は、円筒状加熱風流路11d、排気筒11g、及び燃焼ガス供給部11fに代えて、Mg(OH)2を加熱する加熱風としての燃焼ガスを、排出口11c側から投入口11b側へ送る加熱送風器11hを備えている。変形例2にあっては、ステップS13の工程で回転円筒体11aへ直接、加熱風を下流側から上流側へ送風することによって、回転円筒体11aは内側から加熱されるため、Mg(OH)2 は、投入口11bから排出口11cへ移動する間に加熱され、MgO及びH2 Oに熱分解する。以下、同様の工程を経て、MgCO3が生成される。
【0048】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係るリサイクルシステムを示す概念図である。
【図2】MgH2 製造設備の構成を模式的に示すブロック図である。
【図3】水酸化マグネシウムリサイクル方法を概念的に示す説明図である。
【図4】Mg(OH)2 リサイクル装置の構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】Mg(OH)2 リサイクル装置を用いた水酸化マグネシウムのリサイクル工程を示す工程図である。
【図6】変形例2に係るMg(OH)2 リサイクル装置の構成例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 Mg(OH)2 リサイクル装置
2 MgH2 製造設備
3 燃料電池システム
4 カートリッジ
5 CO2 発生源
6 二酸化炭素ボンベ
11 熱分解装置
11a 回転円筒体
11b 投入口
11c 排出口
11d 円筒状加熱風流路
11h 加熱送風器
12 コンベア
13 炭酸マグネシウム生成機
13a 反応室
13b 投入口
13c 二酸化炭素供給部
13d 排出口
13f 回収容器
33 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化マグネシウムの加水分解によって水素ガスを発生させて発電を行う燃料電池システムから、加水分解で生成した水酸化マグネシウムを回収し、回収した水酸化マグネシウムをリサイクルする水酸化マグネシウムリサイクル方法であって、
回収した水酸化マグネシウムを加熱することによって、水酸化マグネシウムを酸化マグネシウム及び水に熱分解する熱分解工程と、
熱分解された酸化マグネシウムに二酸化炭素を接触させることによって、炭酸マグネシウムを生成する炭酸マグネシウム生成工程と
を有することを特徴とする水酸化マグネシウムリサイクル方法。
【請求項2】
前記炭酸マグネシウム生成工程は、
化石燃料を燃焼させる設備から回収した二酸化炭素を前記酸化マグネシウムに接触させるようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の水酸化マグネシウムリサイクル方法。
【請求項3】
水素化マグネシウムの加水分解によって水素ガスを発生させて発電を行う燃料電池システムから回収した水酸化マグネシウムをリサイクルする水酸化マグネシウムリサイクル装置であって、
回収した水酸化マグネシウムを加熱することによって、水酸化マグネシウムを酸化マグネシウム及び水に熱分解する熱分解手段と、
熱分解された酸化マグネシウムに二酸化炭素を接触させることによって、炭酸マグネシウムを生成する炭酸マグネシウム生成手段と
を備えることを特徴とする水酸化マグネシウムリサイクル装置。
【請求項4】
前記熱分解手段は、
筒状をなし、一端側に水酸化マグネシウムが投入される投入口を有し、他端側に酸化マグネシウムを排出する排出口を有する回転円筒体と、該回転円筒体を加熱する燃焼炉、前記回転円筒体の径方向外側に配されており、該回転円筒体を加熱する加熱風が通流する加熱風流路、又は前記水酸化マグネシウムを加熱する加熱風を、前記排出口側から前記投入口側へ送る加熱送風器とを備えたロータリーキルン方式の熱分解装置であり、
前記炭酸マグネシウム生成手段は、
酸化マグネシウム及び二酸化炭素を反応させる反応室を備え、該反応室は、前記熱分解手段にて熱分解された酸化マグネシウムが投入される投入口と、該投入口よりも下方に設けられており、二酸化炭素が供給される二酸化炭素供給口と、該二酸化炭素供給口よりも更に下方に設けられており、生成された炭酸マグネシウムを排出する排出口とを有する
ことを特徴とする請求項3に記載の水酸化マグネシウムリサイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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