説明

水難救助用無線ヘリコプター及び水難者救助システム及びその運転方法

【課題】水難者の救助を確実に行うことができる安価な水難救助用無線ヘリコプターを提供すること。
【解決手段】遠隔操作装置200によって無線操縦される無線ヘリコプター1である。無線ヘリコプター1は座席50とシートベルト60と高度センサ120と牽引ロープ71と運転制御装置130とを有する。運転制御装置130は、遠隔操作装置200によって指示された方向・速度にて水難地点A4まで無線ヘリコプター1を飛行させる手動操縦制御手段141と、遠隔操作装置200からの降下指令によって飛び込み可能高度まで降下し停止する降下制御手段143と、飛び込み可能高度まで降下したことを高度センサ120が検出した際にシートベルト60の着脱部61のロックを解除するベルトロック制御手段145と、遠隔操作装置200から指示された救出地点A3まで自動操縦にて無線ヘリコプター1を飛行させる自動操縦制御手段147とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水難救助用無線ヘリコプター及び水難者救助システム及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば海水浴場において遊泳者が溺れた場合、ライフセーバー等の救助担当者が泳いでその水難現場に急行し、その後、遊泳者を岸まで泳いで連れ帰っていた。しかしながら上記救助方法では救助までの時間が長くかかり、水難者をもっと早く救助できる方法が求められていた。例えば沖合200mの地点で水難が発生した場合、救助担当者の到着には最低でも2分はかかり、さらに水難者と共に岸に戻るには10分程度かかっていた。
【0003】
また上記救助方法の場合、救助担当者が水難現場に到着した時点でかなりの疲労が出ており、水難者の救助の際に体力的な余裕がなく、十分な救助作業が阻害されていた。
【0004】
また別の救助方法としてモータボートを用いる方法がある。モータボートを用いれば水難現場まで急行し、モータボート内に水難者を引き上げて救助すればよいので、救助担当者が疲労することはない。しかしながらモータボートはこれを係留しておく場所が必要で、人が遊泳する砂浜から遠い場所(港など)に係留場所を設置しなければならず、水難を発見してから救助担当者がその係留場所に到着するまでに時間がかかり、このため水難を発見してから救助担当者が水難者のところまで到達するのに時間がかかっていた。またモータボートは遊泳者が泳いでいる場所を通過できないので、水難者のところへ大きく迂回して到達しなければならず、この点からも救助担当者が水難者のところまで到達するのに時間がかかっていた。また係留場所を構築するための土木工事が必要となる場合もあり、設置コストが高価になっていた。
【0005】
さらに別の救助方法としてヘリコプターを使用する方法がある。ヘリコプターを使用して水難者を救助する方法の一例は、救助担当者を有人ヘリコプターに乗せて水難現場に急行し、救助担当者をロープに吊るして水面まで降ろし、救助担当者が水難者を確保した状態で前記ロープを引き上げ、有人ヘリコプター内に両者を収容する方法である。ヘリコプターを用いれば、途中に別の遊泳者がいてもその上を通過できるので迂回する必要がない。しかしながらヘリコプターは高価であり、またヘリポートも必要でその建設・設備費用が膨大なものになってしまう。
【0006】
一方、ヘリコプターとして無線で操縦する無人ヘリコプターがある。無人ヘリコプターによれば、例えば陸地にいる無線操縦者が、救難道具(例えばフロート)を搭載した無人ヘリコプターを操縦して水難者のところまで飛行させ、遠隔操作によって前記救難道具を投下する。水難者は前記救難道具を自身に取り付けるなどし、後から来る救助担当者を待つ。または自力で海岸に戻る。しかしながらこの方法の場合、水難者の水難位置が海岸から遠かったりまたは波が荒かったりして、陸地にいる無線操縦者から明確に分からない場合がある。そのような場合、水難者の近くに救難道具を投下することが困難になる。また水難者が自分で救難道具を装着できる体力があればよいが、その体力がない場合、救難道具を装着することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−37187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、水難者の発見から救助までの時間を短くできるとともに、水難者を救助する際の救助担当者の体力に余裕があり、これらのことから水難者の救助を確実に行うことができ、且つ設置コストも安価にできる水難救助用無線ヘリコプター及び水難者救助システム及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1に記載の発明は、遠隔操作装置によって無線操縦される水難救助用無線ヘリコプターであって、前記水難救助用無線ヘリコプターは、座席と、前記座席に取り付けられるシートベルトと、水面からの高度を測定する高度センサと、牽引ロープと、前記遠隔操作装置からの指示によってこの水難救助用無線ヘリコプターを運転制御する運転制御装置とを有し、前記運転制御装置は、前記遠隔操作装置からの制御信号によって指示された方向・速度にて水難地点まで水難救助用無線ヘリコプターを飛行させる手動操縦制御手段と、前記遠隔操作装置からの制御信号によって指示された降下指令にて予め設定しておいた飛び込み可能高度まで降下し停止する降下制御手段と、前記飛び込み可能高度まで降下したことを前記高度センサが検出した際に前記シートベルトの着脱部のロックを解除するベルトロック制御手段と、前記遠隔操作装置からの制御信号によって指示された救出地点まで自動操縦にて水難救助用無線ヘリコプターを飛行させる自動操縦制御手段とを具備して構成されていることを特徴とする水難救助用無線ヘリコプターにある。
【0010】
本願請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水難救助用無線ヘリコプターと、前記水難救助用無線ヘリコプターを無線操縦する遠隔操作装置と、前記水難救助用無線ヘリコプターの座席に搭乗する救助担当者と、前記遠隔操作装置によって前記水難救助用無線ヘリコプターを操縦する無線操縦者間で無線通信を行う無線通信装置とを具備することを特徴とする水難者救助システムにある。
【0011】
本願請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の水難者救助システムの使用方法において、前記水難救助用無線ヘリコプターの座席に救助担当者を搭乗させた後、無線操縦者による前記遠隔操作装置からの指示によって水難救助用無線ヘリコプターを発進させて水難地点まで飛行させ、その際無線操縦者と救助担当者は前記無線通信装置によって通信を行い、次に前記遠隔操作装置からの指示によって水難救助用無線ヘリコプターを飛び込み可能高度まで降下させ、次に前記シートベルトを取り外して水に飛び込んだ救助担当者によって、予めこの救助担当者が投下しておいた前記牽引ロープに前記水上の水難者を連結し、次に前記遠隔操作装置からの指示によって前記水上の水難者を前記水難救助用無線ヘリコプターによってそのまま牽引しながら救出地点まで自動操縦にて牽引することを特徴とする水難者救助システムの使用方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水難救助用無線ヘリコプターによって救助担当者を水難地点まで空中を飛行して輸送するので、途中にいる他の遊泳者等が障害物になることはない。従って水難救助用無線ヘリコプターと救助担当者は早急に水難地点に到達することができる。水難地点に到達した救助担当者は疲労しておらず体力的に余裕があり、十分な救助作業が行える。救助担当者はヘリコプターの操縦を行う必要がないので、水難者の救助に専念でき、充実した救助作業が行える。また水難救助用無線ヘリコプターでありながら救助担当者を水難地点まで運ぶので、たとえ水難者が衰弱して水難者だけでは救護道具を装着等できない状態にあっても、水難者の救助を確実に行うことができる。
【0013】
水難救助用無線ヘリコプターは救助担当者だけを乗せる構造であり、また水難者(及び水に飛び込んだ救助担当者)はこの無線ヘリコプターに乗らずに牽引ロープによって水上を牽引される構造なので、水難救助用無線ヘリコプターの構造を簡素化できるばかりかエンジンやモータ等の動力装置を小型化できる。従って水難救助用無線ヘリコプターの小型化・低価格化が実現できる。また特別にヘリポートのような大がかりな施設を建設する必要はなく、例えば海水浴場となる砂浜に待機させておくことができるので、水難を発見してから救助担当者が水難救助用無線ヘリコプターに搭乗するまでの時間を短くすることができる。
【0014】
また本発明によれば、救助担当者と無線操縦者間で無線通信を行うので、救助担当者から無線操縦者に正確な水難地点を指示することができる。これによって水難救助用無線ヘリコプターを確実に水難地点まで誘導することができる。
【0015】
また本発明によれば、飛び込み可能高度まで水難救助用無線ヘリコプターが降下しないと、シートベルトの着脱部のロックが解除されないので、救助担当者の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】水難救助用無線ヘリコプター1の概略側面図である。
【図2】水難救助用無線ヘリコプター1の概略正面図である。
【図3】水難救助用無線ヘリコプター1を用いた水難者救助システムの制御系のブロック構成図である。
【図4】牽引ロープ収納装置70の1使用例を示す図である。
【図5】無線ヘリコプター1を用いた水難者救助システムの使用方法の1例を示す図である。
【図6】水難者を具体的に救助する救助方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる水難救助用無線ヘリコプター1(以下「無線ヘリコプター1」という)の概略側面図、図2は概略正面図、図3はこの無線ヘリコプター1を用いた水難者救助システムの制御系のブロック構成図である。
【0018】
図1,図2に示すように無線ヘリコプター1は、機体10と、機体10の上部に設置される角度調整機構20と、角度調整機構20の上部に取り付けられる動力装置30と、動力装置30の上部に設置されこの動力装置30によって回転駆動されるロータ40,45と、機体10に取り付けられる座席50と、前記座席50に取り付けられるシートベルト60と、機体10に取り付けられる牽引ロープ収納装置70と、機体10に取り付けられる救命具収納箱80と、機体10に取り付けられる燃料タンク90と、機体10に取り付けられるコントロールボックス100とを具備している。
【0019】
また図3に示すように上記無線ヘリコプター1を用いた水難救助システムは、前記無線ヘリコプター1の他に、前記コントロールボックス100との間で無線による送受信を行う遠隔操作装置200と、この遠隔操作装置200を操作する無線操縦者500と無線ヘリコプター1に搭乗する救助担当者520間で無線通信を行う無線通信装置300,350とを具備している。
【0020】
図1,図2に示すように、機体10は、支柱11と複数本(4本)のフレーム13とリング状の脚部15とを一体にして構成されている。フレーム13は、その上端を支柱11の外周側面の中央付近に取り付け、その下端を支柱11の下方に設置したリング状の脚部15に取り付けている。脚部15には等間隔に複数個のキャスター付きの車輪17が取り付けられている。
【0021】
角度調整機構20は、油圧などによって駆動される4組のピストン・シリンダ機構によって構成されており、その上に設置される動力装置30を前後・左右に揺動させる機能を有する。
【0022】
動力装置30はこの例ではガソリンや軽油等を燃料とするエンジンであり、前記角度調整機構20によって前後左右に揺動される。なお動力装置30は、エンジンの代わりにモータを用いて構成しても良い。モータを用いた場合は、燃料タンク90の代わりにバッテリーを搭載する。
【0023】
上下のロータ40,45は何れも前記動力装置30によって逆方向に同じ速度で回転駆動される。ロータ40,45は動力装置30内に設置した駆動力伝達機構を介して動力装置30に接続されている。動力装置30は例えば複数台のエンジンによって構成され、各エンジンはクラッチ機構を介して駆動力伝達機構に連結されている。各エンジン及びクラッチ機構は別個独立に駆動可能となっている。従って例えば何れかのエンジンが故障しても支障なく飛行できる。各ロータ40,45はそれぞれ一対のブレード41,46を備えている。
【0024】
座席50は人(下記する救助担当者520)が一人座ることができる大きさに形成されており、支柱11に背もたれが向くように機体10に固定されている。
【0025】
シートベルト60はいわゆる4点式シートベルトであり、着脱部(バックル)61の部分でシートベルト60の着脱操作が行われる。着脱部61は、基本的には手動によって着脱操作を行うものである。但し下記する運転制御装置130からの制御信号(ロック信号またはロック解除信号)によって着脱部61内に内蔵しシートベルト着脱部ロック機構63が駆動されて着脱部61はロック状態又はロック解除状態とされる。そしてロック状態の場合は手動では着脱部61を操作できない(つまりシートベルト60の取り外しができない)構造となっている。シートベルト着脱部ロック機構63は、ソレノイド等の駆動機構を具備し、下記する運転制御装置130のベルトロック制御手段145からの制御信号により、この駆動機構が駆動されて着脱部61がロック状態またはロック解除状態になる。
【0026】
図4は牽引ロープ収納装置70の1使用例を示す図である。牽引ロープ収納装置70はその中に牽引ロープ71を収納している。牽引ロープ71は、例えば牽引ロープ収納装置70内に設置したリール73に巻き付けられており、その一端は機体10に取り付けられ、その他端にはフロート75が取り付けられている。牽引ロープ収納装置70は、下記する救助担当者520が容易に牽引ロープ71を引き出せるように、座席50の側部の位置に設置されている。フロート75は略棒状であって可撓性があり手動操作で膨張して膨らむ構造を有している。牽引ロープ71の先端は2本に分かれており、それぞれの先端部分が前記フロート75の両端近傍部分に取り付けられている。
【0027】
救命具収納箱80はその中に救命具を収納している。救命具は、例えば水難者の胴体(腰)にベルト状に取り付けた後に手動操作で膨張して膨らむタイプのフロート(ウエストベルト)等である。
【0028】
燃料タンク90は前記動力装置30を駆動するのに用いる燃料を溜めておくものである。
【0029】
コントロールボックス100は機体10に取り付けられており、その内部には図3に示すように、GPS信号受信装置115と高度センサ120と運転制御装置130とが内蔵されている。
【0030】
GPS信号受信装置115は、GPS衛星からの信号を受信してそのGPS受信データを運転制御装置130に送信するものである。
【0031】
高度センサ120は、海上(地上)からの無線ヘリコプター1の高さを測定するセンサであり、その検出データは運転制御装置130に送信される。
【0032】
運転制御装置130は、位置算出手段131と、高度算出手段133と、無線送受信部135と、制御部140とを具備している。位置算出手段131は前記GPS信号受信装置115のGPS受信データを受信し、現在の無線ヘリコプター1の位置を算出し、その算出結果を制御部140に送信するものである。高度算出手段133は高度センサ120の測定データを受信し、現在の無線ヘリコプター1の海上からの高度を算出し、その算出結果を制御部140に送信するものである。
【0033】
無線送受信部135は、遠隔操作装置200からの制御信号を受信して制御部140に送信すると共に、制御部140から受信した無線ヘリコプター1のステータス情報を遠隔操作装置200に送信するものである。
【0034】
制御部140は、手動操縦制御手段141と、降下制御手段143と、ベルトロック制御手段145と、自動操縦制御手段147とを具備している。手動操縦制御手段141は遠隔操作装置200からの手動操作指令信号(速度や方向や高度を手動で指示する信号)に従って無線ヘリコプター1を操縦する制御手段である。降下制御手段143は遠隔操作装置200からの降下指令信号によって無線ヘリコプター1を予め定めておいた飛び込み可能高度(この例では高度2m)まで自動的に降下するように制御する制御手段である。ベルトロック制御手段145は前記高度算出手段133が算出した高度が前記飛び込み可能高度になった際に前記シートベルト60の着脱部61のシートベルト着脱部ロック機構63にロック解除信号を送信する制御手段である。つまり無線ヘリコプター1の高度が飛び込み可能高度よりも高い場合は、手動による着脱部61の取り外しができず、無線ヘリコプター1の高度が飛び込み可能高度まで降下した場合は、着脱部61を手動によって取り外しできるように制御する。自動操縦制御手段147は、遠隔操作装置200からの指令信号によって、水難地点A4(図5参照)から救出地点A3まで無線ヘリコプター1を自動操縦によって飛行させる制御手段である。制御部140の制御信号はヘリコプター駆動機構150に出力される。ヘリコプター駆動機構150は前記無線ヘリコプター1の動力装置30を駆動してブレード41,46を回転するとともに、角度調整機構20を駆動して動力装置30を前後・左右に揺動させる。ブレード41,46の回転速度によって無線ヘリコプター1の飛行速度が制御され、動力装置30の揺動方向によって無線ヘリコプター1の進行方向が制御される。この運転制御装置130を構成する各手段は、シーケンス回路などの各種電気回路によって構成してもよいし、プログラムを用いたコンピューター制御を用いて構成してもよい。
【0035】
遠隔操作装置200は、前記無線送受信部135との間で無線による各種データの送受信を行う無線送受信部201と、液晶パネル等からなる表示部203と、無線操縦者が操作する操作レバーや操作キー等からなる入力部205と、入力部205や無線送受信部201から入力した入力データを処理して表示部203や無線送受信部201に送信する制御部207とを具備して構成されている。制御部207から無線送受信部201には無線ヘリコプター操作用の制御信号が出力される。
【0036】
一対の無線通信装置300,350は、遠隔操作装置200を操作する無線操縦者500と、無線ヘリコプター1に搭乗する救助担当者520とがそれぞれ携帯して両者間で無線通信を行うものであり、それぞれがマイクとスピーカとを備え、音声によって相互の意思の疎通を図るものである。無線通信装置300は遠隔操作装置200に一体に取り付けておいても良いし、無線操縦者500の体に装着しておいても良い。一方無線通信装置350は救助担当者520の体に装着しておくことが望ましい。これは海や湖などに飛び込んだ後の救助担当者520と無線操縦者500とが通信できるようにするためである。
【0037】
次に上記無線ヘリコプター1を用いた水難者救助システムの使用方法を説明する。図5は無線ヘリコプター1を用いた水難者救助システムの使用方法の1例を示す図である。同図に示すように海水浴場A1の砂浜には、水難者を発見する見張り台A2があり、見張り台A2の近くには無線ヘリコプター1が配置されている。無線ヘリコプター1は小型のため、砂浜(またはその近傍位置)に邪魔にならずに設置しておくことができる。図5に示す救出地点A3は、下記する水難者510を救出する地点である。この救出地点A3は、実際に救助が必要になったときにあわてないようにするため、予め決めておくことが望ましい。
【0038】
図6は本発明を用いて水難者を具体的に救助する救助方法の一例を示すフロー図である。まず見張り台A2で海水浴場を監視している監視員(この例ではこの監視員がそのまま無線操縦者になる)500が海上で溺れている水難者510を発見する。監視員(以下「無線操縦者」という)500はそのことを救助担当者520に伝える。次に救助担当者520は無線ヘリコプター1の座席50に搭乗し(ステップ1−1)、シートベルト60を装着する。
【0039】
次に無線操縦者500は見張り台A2において遠隔操作装置200を手にし、無線ヘリコプター1を飛び上がらせて発進させ、水難者510の方角に向けて飛行させる(ステップ1−2)。このとき遠隔操作装置200からは運転制御装置130に対して手動操縦を要求する制御信号が発信され、これを受信した運転制御装置130は手動操縦制御手段141によって無線ヘリコプター1のヘリコプター駆動機構150を駆動制御する。なお無線ヘリコプター1は所定の高度の範囲(例えば高度2m〜10mの範囲)で飛行させるが、高度センサ120及び高度算出手段133が高度2m以上になったことを検出すると、ベルトロック制御手段145とシートベルト着脱部ロック機構63とによってシートベルト60の着脱部61がロックされる。これによって高い高度から救助担当者520が落下することを防止できる。そして飛び立った無線ヘリコプター1は、救助担当者520が無線操縦者500に対して無線通信装置300,350を用いて無線ヘリコプター1の進行方向を指示することで水難地点A4まで飛行する。無線通信装置300,350を用いて救助担当者520が無線操縦者500に無線ヘリコプター1の進行方向を指図するのは以下の理由による。無線操縦者500は有視界で無線ヘリコプター1を操縦するのではあるが、波が高かったり、水難地点A4が遠方であったりすると、無線操縦者500の目視だけでは水難地点A4が正確に把握できない。これに対して救助担当者520は水難地点A4に向かっているのであるから水難地点A4を正確に把握できる。そこで上記のように救助担当者520が無線操縦者500に無線ヘリコプター1の進行方向を指図することとしたのである。
【0040】
次に水難地点A4に到着したことが救助担当者520から無線操縦者500に伝えられると、無線操縦者500は無線ヘリコプター1を飛び込み可能高度(この例では高度2m)まで降下させる(ステップ1−3,1−4)。即ちこのとき遠隔操作装置200からは運転制御装置130に対して降下指令信号が発信され、これを受信した運転制御装置130は降下制御手段143によって無線ヘリコプター1のヘリコプター駆動機構150を駆動制御し、自動的に飛び込み可能高度まで降下する。無線ヘリコプター1が飛び込み可能高度まで降下したことを高度センサ120及び高度算出手段133が検出すると、ベルトロック制御手段145及びシートベルト着脱部ロック機構63によってシートベルト60の着脱部61のロックが解除される。
【0041】
次に救助担当者520はシートベルト60を取り外し、牽引ロープ収納装置70から牽引ロープ71を取り出してその先端のフロート75の部分を水難者510近傍に投下する(ステップ1−5)。また必要に応じて救命具収納箱80から救命具(例えばウエストベルト)を取り出して救助担当者520がこれを保持する。
【0042】
次に救助担当者520は海に飛び込む(ステップ1−6)。そして救助担当者520は水難者510に接近し、予め投下しておいたフロート75を図4に示すように水難者510の身体に取り付け、フロート75を膨らませる。つまり水難者510は牽引ロープ71に連結される(ステップ1−7)。このとき救命具収納箱80から取り出しておいた救命具をさらに水難者510に取り付けてもよい。
【0043】
次に救助担当者520は無線操縦者500に無線通信装置300,350によって水難者510に牽引ロープ71を連結したことを連絡する。次に無線操縦者500は予め設定しておいた救出地点A3まで無線ヘリコプター1を自動操縦するように遠隔操作装置200を用いて指示を出す。これによって自動操縦制御手段147は、救出地点A3まで自動操縦によって無線ヘリコプター1を飛行させるように制御を行い、無線ヘリコプター1は牽引ロープ71によって水上の水難者510をそのまま救出地点A3まで引っ張っていく(ステップ1−8)。一方無線ヘリコプター1を自動操縦するように指示を出した無線操縦者500は、遠隔操作装置200による無線ヘリコプター1の操縦を止め、救出地点A3に急行し、水難者510の応急処置等のための準備を行う。もちろん他の人が水難者510の応急処置等を行っても良い。
【0044】
なお救助担当者520は前記牽引ロープ71に取り付けた図示しないフックに自身を連結することで水難者510と共に救出地点A3まで牽引されるようにしても良い。または救助担当者520は牽引ロープ71のフックには連結せずに水難者510を掴むことで水難者510と共に救出地点A3まで牽引されるようにしても良い。または救出地点A3まで牽引されるのは水難者510のみとし、救助担当者520は水難地点A4に残り、救助担当者520自身の力で泳いで岸まで戻るようにしても良い。何れの方法を用いるかは水難者510の状態や海の状態等により、救助担当者520がその場で判断すればよい。
【0045】
無線ヘリコプター1は救出地点A3まで飛行した後、その救出地点A3に着陸する。救出地点A3まで牽引された水難者510は、前記無線操縦者500又はその他の人によって応急措置が行われたり、救急車への搬送作業が行われたりする。
【0046】
以上説明したように本発明によれば、無線ヘリコプター1によって救助担当者520を水難地点A4まで空中を飛行して輸送するので、途中にいる他の遊泳者等が障害物になることはない。従って無線ヘリコプター1と救助担当者520は早急に水難地点A4に到達することができる。水難地点A4に到達した救助担当者520は疲労しておらず体力的に余裕があり、十分な救助作業が行える。救助担当者520は無線ヘリコプター1の操縦を行う必要がないので、水難者510の救助に専念でき、充実した救助作業が行える。また無線ヘリコプター1でありながら救助担当者520を水難地点A4まで運ぶので、たとえ水難者520が衰弱して、水難者510だけでは救護道具を装着できない状態にあっても、水難者520の救助を確実に行うことができる。
【0047】
また無線ヘリコプター1は救助担当者520だけを乗せる構造であり、また水難者510(場合によっては水に飛び込んだ救助担当者520)はこの無線ヘリコプター1に乗せずに牽引ロープ71によって水上を牽引する構造なので、無線ヘリコプター1の構造を簡素化できるばかりか無線ヘリコプター1のエンジンやモータ等の動力装置を小型化できる。従って無線ヘリコプター1の小型化・低価格化が実現できる。また特別にヘリポートのような大がかりな施設を建設する必要はなく、例えば海水浴場となる砂浜に待機させておくことができるので、遭難を発見してから救助担当者520が無線ヘリコプター1に搭乗するまでの時間を短くすることができる。
【0048】
また救助担当者520と無線操縦者500間で無線通信を行うので、救助担当者520から無線操縦者500に正確な水難地点A4を指示することができる。これによって無線ヘリコプター1を確実に水難地点A4まで誘導することができる。
【0049】
また飛び込み可能高度まで無線ヘリコプター1が降下しないとシートベルト60の着脱部61のロックが解除されないので、救助担当者520の安全を確保することができる。
【0050】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの構成であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば上記の例では本発明を海での遭難に対して用いる場合について説明したが、本発明は、湖や川などでの水難に対しても同様に用いることができる。また上記無線通信装置300,350では、音声によって無線通信を行ったが、音声以外の、例えばブザーなどによって無線通信を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 無線ヘリコプター(水難救助用無線ヘリコプター)
10 機体
20 角度調整機構
30 動力装置
40,45 ロータ
50 座席
60 シートベルト
61 着脱部
63 シートベルト着脱部ロック機構
70 牽引ロープ収納装置
71 牽引ロープ
80 救命具収納箱
90 燃料タンク
100 コントロールボックス
115 GPS信号受信装置
120 高度センサ
130 運転制御装置
131 位置算出手段
133 高度算出手段
135 無線送受信部
140 制御部
141 手動操縦制御手段
143 降下制御手段
145 ベルトロック制御手段
147 自動操縦制御手段
150 ヘリコプター駆動機構
200 遠隔操作装置
300,350 無線通信装置
500 無線操縦者
510 水難者
520 救助担当者
A1 海水浴場
A2 見張り台
A3 救出地点
A4 水難地点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操作装置によって無線操縦される水難救助用無線ヘリコプターであって、
前記水難救助用無線ヘリコプターは、座席と、前記座席に取り付けられるシートベルトと、水面からの高度を測定する高度センサと、牽引ロープと、前記遠隔操作装置からの指示によってこの水難救助用無線ヘリコプターを運転制御する運転制御装置とを有し、
前記運転制御装置は、前記遠隔操作装置からの制御信号によって指示された方向・速度にて水難地点まで水難救助用無線ヘリコプターを飛行させる手動操縦制御手段と、前記遠隔操作装置からの制御信号によって指示された降下指令にて予め設定しておいた飛び込み可能高度まで降下し停止する降下制御手段と、前記飛び込み可能高度まで降下したことを前記高度センサが検出した際に前記シートベルトの着脱部のロックを解除するベルトロック制御手段と、前記遠隔操作装置からの制御信号によって指示された救出地点まで自動操縦にて水難救助用無線ヘリコプターを飛行させる自動操縦制御手段とを具備して構成されていることを特徴とする水難救助用無線ヘリコプター。
【請求項2】
請求項1に記載の水難救助用無線ヘリコプターと、
前記水難救助用無線ヘリコプターを無線操縦する遠隔操作装置と、
前記水難救助用無線ヘリコプターの座席に搭乗する救助担当者と、前記遠隔操作装置によって前記水難救助用無線ヘリコプターを操縦する無線操縦者間で無線通信を行う無線通信装置とを具備することを特徴とする水難者救助システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水難者救助システムの使用方法において、
前記水難救助用無線ヘリコプターの座席に救助担当者を搭乗させた後、無線操縦者による前記遠隔操作装置からの指示によって水難救助用無線ヘリコプターを発進させて水難地点まで飛行させ、その際無線操縦者と救助担当者は前記無線通信装置によって通信を行い、
次に前記遠隔操作装置からの指示によって水難救助用無線ヘリコプターを飛び込み可能高度まで降下させ、
次に前記シートベルトを取り外して水に飛び込んだ救助担当者によって、予めこの救助担当者が投下しておいた前記牽引ロープに前記水上の水難者を連結し、
次に前記遠隔操作装置からの指示によって前記水上の水難者を前記水難救助用無線ヘリコプターによってそのまま牽引しながら救出地点まで自動操縦にて牽引することを特徴とする水難者救助システムの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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