説明

水面浮遊油自走式回収装置

【課題】産業廃棄物の発生を抑制し、しかも広範囲の浮遊油を回収可能にする水面浮遊油自走式回収装置を提供する。
【解決手段】水面に浮上可能な部材からなり、油を吸着する油吸着材16と、水面に対して略垂直方向に延びる孔部10aを有し、かつ水面に浮遊可能なフロート10と、フロート10の下部に孔部10aを覆うように設置され、孔部10a内の水を外部に送り出す水中ポンプ14と、水中ポンプ14を駆動させる電池50と、フロート10の上部に設けられ、電池50を収納する電池ホルダ12b及び油吸着材16を収納する孔部12aとを有する電池ボックス12とを備え、フロート10は、フロート10を水面に浮かべた際に外部の水を孔部10aに流入させるための水路を有し、水中ポンプ14は、孔部10a内の水を送り出し、外部からの水が孔部10aに流入することによって水対流を発生させ、油吸着材16は、水対流の経路上に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面上に浮遊する油の回収に適用する水面浮遊油自走式回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における、水面上に浮遊する油の回収に関する技術としては、特許文献1〜3に記載されている技術が提案されている。特許文献1には、水面にて水と浮上油を混合除去し陸上設置の油水分離装置により油を処理するという技術が開示されている。特許文献2には、水面(自走式)にて水と浮上油を混合除去し船上設置の油水分離装置により油を処理するという技術が開示されている。特許文献3には、バケットを水面上に浮かべ、バケット底部スクリューによる水対流を発生させて、浮遊油塊をバケット内へ回収するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−261365号公報
【特許文献2】特開平10−258275号公報
【特許文献3】特開平10−237851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、ポンプによって水・油混合除去する際に乳化が発生するため、油水分離に長い時間を要する。このため、処理能力が著しく低下する。また、油水分離装置を陸上へ設置するため回収範囲が制限される。さらに、油水分離に使用するろ過材が、大量の産業廃棄物を発生させる要因となる。
【0005】
特許文献2の技術によれば、船上に油水分離装置を設置していることから、回収範囲の問題点については解消される。しかし、特許文献1と同様の処理方法であるため、油水分離の処理時間が長く、しかも産業廃棄物が大量に発生する。
【0006】
特許文献3の技術によれば、水・油を混合させないため分離は容易である。しかし、油塊は回収可能であるが水面に薄く広がる油は回収不可能である。さらに、水対流を発生させるスクリュー電源が必要であり、これにより回収範囲が制限される。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決し、産業廃棄物の発生を抑制し、しかも広範囲の浮遊油を回収可能にすることを実現した水面浮遊油自走式回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、次に記載する構成を備えている。
【0009】
(1) 水面に浮上可能な部材からなり、油を吸着する油吸着材と、水面に対して略垂直方向に延びる孔部を有し、かつ水面に浮遊可能な浮遊部材と、前記浮遊部材の下部に前記孔部を覆うように設置され、前記孔部内の水を外部に送り出す水中ポンプと、前記水中ポンプを駆動させる電源と、前記浮遊部材の上部に設けられ、前記電源を収納する電源収納部及び前記油吸着材を収納する油吸着材収納部を有する収納体とを備え、前記浮遊部材は、前記収納体と前記浮遊部材との間に、前記浮遊部材を水面に浮かべた際に外部の水を前記孔部に流入させるための水路を有し、前記水中ポンプは、前記孔部内の水を送り出し、外部からの水が前記水路を介して前記孔部に流入することによって水対流を発生させ、前記油吸着材は、水面上における前記水対流の経路上に配置されていることを特徴とする水面浮遊油自走式回収装置。
【0010】
(1)によれば、水面浮遊油自走式回収装置に電源が内蔵されているために、外部電源の場合には必要であった電源線が必要なくなり、広範囲の移動が可能になる。その結果、広範囲の浮遊油の回収が可能になる。また、ポンプを用いて水を移動させているため、水と油をできるだけ混合させない水対流を発生させることが可能になる。さらに、水対流の経路に油吸着材が配置され、この油吸着材が油を吸着している。これにより、できるだけ乳化させずに油を分離、回収することが可能になり、産業廃棄物となる油吸着材の量を低減することが可能になる。
【0011】
(2) 前記油吸着材収納部は、前記油吸着材の移動を規制し、かつ前記孔部上の水面に前記油吸着材が浮かんだ状態を維持する壁面を有することを特徴とする請求項1記載の水面浮遊油自走式回収装置。
【0012】
(2)によれば、浮遊油が集まりやすい孔部上の水面に油吸着材を位置付けることが可能になる。これにより、効率的に油を回収することが可能になる。
【0013】
(3) 前記油吸着材は、回転体形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の水面浮遊油自走式回収装置。
【0014】
(3)によれば、油吸着材が回転体形状(例えば、球状、円筒状)であるため、水流によって油吸着材が回転することにより、浮遊油を油吸着材に効率よく吸着させることが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、産業廃棄物の発生を抑制し、しかも広範囲の浮遊油を回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における水面浮遊油自走式回収装置の内部構成を示す側面図である。
【図2】フロート10の平面図である。
【図3】フロート10の他の実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
[装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態における水面浮遊油自走式回収装置の内部構成を示す側面図である。図2は、フロート10の平面図である。
水面浮遊油自走式回収装置1は、浮遊部材に相当するフロート10、収納体に相当する電池ボックス12、水中ポンプ14、油吸着材16を備えている。
【0018】
フロート10は、円筒状の中空部材であり、中心部に円柱状の孔部10aが形成されている。この孔部10aは、フロート10を水面に浮かべた場合に、水面に対して略垂直方向に延びる。フロート10の内部は密閉されており、フロート10の内部には円筒状の空気層が形成されている。孔部10aにおける上縁部には、テーパ状の斜面10eが形成されている。また、フロート10の上面には、複数(例えば、4つ)の支持体10bが立設されており、この複数の支持体10b上に電池ボックス12が設置されている。ここで、フロート10と電池ボックス12との間に、外部の水を孔部10aに流入させるための水路10c、10c、10d、10dが形成されている。また、フロート10の下面には、孔部10aの下方の開口を覆うように水中ポンプ14が設置される。
【0019】
電池ボックス12は、円筒状の中空部材であり、中心部に、油吸着材収納部に相当する円柱状の孔部12aが形成されている。電池ボックス12の内部には、電源収納部に相当する電池ホルダ12bが設けられており、この電池ホルダ12bに電池50が収納される。ここで、電池ボックス12には、電池50を交換する際に電池ホルダ12bを開放する開閉部(図示せず)が設けられている。この開閉部(図示せず)が閉じた状態において、電池ホルダ12bは、電池ボックス12の内部に水が進入できない密閉状態となる。また、電池ボックス12には、孔部12aの上方の開口を開閉する蓋20が設けられている。この蓋20の上面にはフック22が設けられている。また、孔部12aの内部には、油吸着材16が収納される。すなわち、孔部12aは油吸着材収納部に相当する。
【0020】
油吸着材16は、油を吸着するオイルマットからなり、球状の形をなしている。また、孔部10aの中心軸と孔部12aの中心軸は同一直線上に配置されており、この同一直線上に球状の油吸着材16の中心が配置される。
【0021】
水中ポンプ14は、水面浮遊油自走式回収装置1を水面に浮かべた際に、水面浮遊油自走式回収装置1の外部から孔部10a内に流入した水を、噴射口14aを介して、水面浮遊油自走式回収装置1の外部に噴射によって送り出すものである。噴射口14aは水平方向に向けられており、噴射口14aから噴射される水流による推進力によって、水面浮遊油自走式回収装置1は水面を移動するようになる。
【0022】
水面浮遊油自走式回収装置1は、電池ボックス12や水中ポンプ14の重量やフロート10の浮力を考慮して、水面に浮かべた際に、フロート10の上面と電池ボックス12の下面との空間内に水面が位置するように設計されている。また、水面浮遊油自走式回収装置1が水面に浮いた状態においては、油吸着材16も水面に浮いた状態となる。このとき、油吸着材16の周囲は、孔部12aを構成する壁面によって囲まれているため、油吸着材16の移動は規制されており、油吸着材16の位置は、孔部10a(水中ポンプ14)の直上に維持される。
【0023】
図2は、図1の水面浮遊油自走式回収装置から電池ボックス12を取った状態を示すフロート10の平面図である。フロート10における隣り合う支持体10b、10bとの間に、中心に対して放射方向に延びる水路10c、水路10dが形成されている。本実施形態においては、水路10cと水路10dとを合わせて4つの水路が形成されており、水路10cと水路10dは互いに対向位置に配置され、水路10cと水路10c、水路10dと水路10dは互いに隣り合っている。さらに、水路10cは水路10dよりも幅が大きく形成されている。
【0024】
[装置の動作]
次に、水面浮遊油自走式回収装置1の動作について説明する。
まず、水中ポンプ14を起動させて、油が浮遊している水面に水面浮遊油自走式回収装置1を浮かべる。このとき、フロート10における孔部10a内の水が、水中ポンプ14によって外部に送り出される。さらに、外部に送り出された水を補うように、外部から水が、水路10c、10dを介して、孔部10aの内部に流入する。これにより、水面浮遊油自走式回収装置1の周囲に水対流が発生する。ここで、水とともに水面浮遊油自走式回収装置1内に流入した油は、油吸着材16に吸着することによって回収される。
【0025】
また、噴射口14aから水が噴射されることにより、水面浮遊油自走式回収装置1は、水面を不規則な方向に自走する。ここで、水面浮遊油自走式回収装置1は、電池内蔵式であるため、広範囲に移動可能であるが、水面浮遊油自走式回収装置1があまり遠くに移動しないようにフック22にひもを付けて、移動範囲を規制してもよい。
【0026】
また、水路10cは水路10dよりも幅が大きく形成されているため、水路10c、10c側の水の流量が、水路10d、10d側の水の流量より大きくなる。このため、水路10c、10c側の水圧と、水路10d、10d側の水圧に差ができるようになる。その結果、油吸着材16にかかる圧力が不均一となるため、油吸着材16は、水面上で回転するようになる。これにより、油吸着材16の全面に油が吸着するようになり、効率よく油を回収することが可能になる。
【0027】
油吸着材16を交換する場合には、蓋20を取り外し、古い油吸着材16を取り出して新しい油吸着材16を孔部12aに収納した後、蓋20を取り付ける。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限るものではない。例えば、上述した実施形態においては、油吸着材16は球状部材であるが、それに限らず、図3に示すように、ローラ体であってもよい。
【0029】
図3は他の実施形態を示す平面図であり、油吸着材16はローラ体からなる。また、油吸着材16の中心には回転軸24が設けられている。そして、この回転軸24が、孔部12aの壁面に形成された軸受(図示せず)に、回転可能に軸支されている。これにより、ローラ体からなる油吸着材16が、孔部12aの壁面に当接することなく、水流によって回転軸24を中心に回転するようになる。
【0030】
なお、回転軸24を設けず、ローラ体からなる油吸着材16をそのまま孔部12a内に収納してもよい。
【0031】
また、例えば、上述した実施形態においては、水中ポンプ14の電源として電池50を用いているが、電池50は充電電池であってもよい。この場合、電池ボックス12内に整流回路を設け、交流電源を平滑化してから電池50の充電を行うように構成する。また、上述した実施形態においては、油吸着材16は、孔部10aの直上に配置されているが、それに限らず、水面上における水対流の経路上であれば、浮遊油を回収することが可能である。また、上述した実施形態においては、1個の油吸着材16が孔部12aに収納されているが、複数の小さい球状の油吸着材16を水面に浮かべてもよい。
【0032】
以上、説明したように構成された本実施形態によれば、水面浮遊油自走式回収装置1に電池50が内蔵されているために、外部電源の場合には必要であった電源線が必要なくなり、広範囲の移動が可能になる。その結果、広範囲の浮遊油の回収が可能になる。また、油吸着材16が油を吸着することで回収することにより、できるだけ乳化させずに油を分離することが可能になる。これにより、産業廃棄物となる油吸着材の量を低減することが可能になる。
【0033】
また、孔部10aの直上という油が最も集まった位置に、油吸着材16を位置付けることが可能になる。これにより、効率的に油を回収することが可能になる。
【0034】
また、油吸着材が回転体形状(例えば、球状、円筒状)であるため、水流によって油吸着材が回転することにより、浮遊油を油吸着材16に効率よく吸着させることが可能になる。
【0035】
また、本実施形態によれば、水面浮遊油自走式回収装置1に対して他に付属装置を取り付ける必要が無いため、運搬が容易に可能となる。その結果、油が浮いているところに水面浮遊油自走式回収装置1を持ち込むことが容易に可能となり、浮遊油に対する迅速な対応が可能になる。
【符号の説明】
【0036】
1 水面浮遊油自走式回収装置
10 フロート
10a 孔部
10b 支持体
10c、10d 水路
12 電池ボックス
12a 孔部
12b
14 水中ポンプ
14a 噴射口
16 水中ポンプ
16 油吸着材
20 蓋
22 フック
50 電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮上可能な部材からなり、油を吸着する油吸着材と、
水面に対して略垂直方向に延びる孔部を有し、かつ水面に浮遊可能な浮遊部材と、
前記浮遊部材の下部に前記孔部を覆うように設置され、前記孔部内の水を外部に送り出す水中ポンプと、
前記水中ポンプを駆動させる電源と、
前記浮遊部材の上部に設けられ、前記電源を収納する電源収納部及び前記油吸着材を収納する油吸着材収納部を有する収納体とを備え、
前記浮遊部材は、前記収納体と前記浮遊部材との間に、前記浮遊部材を水面に浮かべた際に外部の水を前記孔部に流入させるための水路を有し、
前記水中ポンプは、前記孔部内の水を送り出し、外部からの水が前記水路を介して前記孔部に流入することによって水対流を発生させ、
前記油吸着材は、水面上における前記水対流の経路上に配置されていることを特徴とする水面浮遊油自走式回収装置。
【請求項2】
前記油吸着材収納部は、前記油吸着材の移動を規制し、かつ前記孔部上の水面に前記油吸着材が浮かんだ状態を維持する壁面を有することを特徴とする請求項1記載の水面浮遊油自走式回収装置。
【請求項3】
前記油吸着材は、回転体形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の水面浮遊油自走式回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−245427(P2011−245427A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121540(P2010−121540)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】