説明

汎用歯科用接着促進剤組成物

【課題】ラジカル硬化性歯科材料(特に、コンポジット)と他の多くの歯科修復材料との間の良好な結合効果により特徴付けられる、汎用接着促進剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、金属またはセラミックの歯科材料をラジカル硬化性歯科材料に接合する接着剤のための、接着促進剤組成物に関する。この接着促進剤組成物は、アルコキシシランモノマー(i)、リン酸エステルモノマー(ii)、硫黄含有モノマー(iii)および有機溶媒(iv)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる金属歯科材料またはセラミック歯科材料を接合して、歯科材料(好ましくは、コンポジット)をラジカル硬化させる、接着剤のための歯科用接着促進剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科修復において、ラジカル硬化性歯科材料(例えば、ラジカル硬化性有機マトリックス中に無機充填材を含有する処方物(いわゆるコンポジット))を、他の金属ベースまたは鉱物ベースの歯科修復材料と組み合わせることが、しばしば必要である。特に、修復材料の場合、以下の材料の種類の間に区別がなされる:貴金属(例えば、金、白金、パラジウム、銀およびこれらの合金)、卑金属(例えば、クロム、ニッケル、モリブデン、チタンおよびこれらの合金)、シリカ質セラミック(例えば、長石、石英、白榴石ベースのセラミックまたはガラスセラミック)あるいは非シリカ質セラミック(例えば、イットリウム安定化酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ガラス浸潤酸化アルミニウム)。接着促進剤(プライマー)は、上記修復材料とラジカル硬化性歯科材料との間の接着を改善するために使用される。現在までに公知である、歯科修復材料を接着により固定するためのプライマーは、通常、記載された材料型のうちの1つのみについて、各場合において適切であり、他の基材への臨床的に有用な接着を与えない。
【0003】
特許文献1は、重合性基で置換された特殊なジスルフィドを含む、歯科用貴金属合金のためのプライマーを開示する。
【0004】
特許文献2は、シランを含む種々のセラミック材料(これらは加水分解して有機官能性シラノールになり得る)への接着を改善するための、プライマー組成物を記載する。金属材料への接着の改善もまた、特許文献2において実証されているが、実際には、記載されるプライマーは、シリカ質セラミックに対してのみ作用することが知られている。
【0005】
特許文献3の主題は、有機官能性シランと特別な(メタ)アクリロイルオキシ官能性リン酸モノエステルとの組み合わせを含有する、セラミックおよび金属のための歯科用プライマーである。特許文献4は、とりわけ有機官能性シラン、およびラジカル重合性二重結合を有する酸有機リン化合物を含有する、歯科用接着組成物を記載する。この組成物は、金属とセラミックとの両方に結合することを可能にすると記載されている。しかし、貴金属(例えば、金)の表面上では、上に名称を挙げた2つの組成物との化学結合は起こらず、従って、これらの組成物を用いては、金属とラジカル硬化性歯科材料との間に二重結合は存在し得ない。このことは特に、接合されるべき材料の熱膨張係数の差に起因する。
【0006】
特許文献5もまた、シランカップリング剤と特別な(メタ)アクリロイルオキシ官能性リン酸モノエステルとの組み合わせを含有する、歯科用接着組成物を開示する。この組成物は、無機材料を含む歯科用セラミックと有機組成物との両方に対して、良好な接着を示すと記載されている。
【0007】
科学文献は、特定の接着モノマーが、特殊な型の金属またはセラミックのために特に適切であることを報告している(例えば、非特許文献1;非特許文献2を参照のこと)。
【0008】
しかし、基材特異的なプライマー系を使用することの欠点は、基材の型が種々であることに起因して、対応する数のプライマーが必要となることである。しかし、臨床用途の場合、基材特異的プライマー系の数が増加するにつれて、取り違える危険性もまた増加し、従って、臨床医の失敗の危険性もまた増加する。さらに、基材特異的プライマーの正確な適用は、多くの場合(例えば、砕けたセラミックベニアを修復する場合)において、臨床的に不可能である。なぜなら、狭い空間内に、互いに直接隣接する1つより多くの基材が存在するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2005 002 750号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 224 319号明細書
【特許文献3】特許第2601254号明細書
【特許文献4】特許第2593850号明細書
【特許文献5】国際公開第2008/053990号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kern M,Wegner MS,「Bonding to Zirconia Ceramic: Adhesion Methods and Their Durability」,Dent Mater 1998,14;64−71
【非特許文献2】Yoshida K,Kamada K,Atsuta M,「Shear Bond Strength of a New Resin Bonding System to Different Ceramic Restorations」,Int.J.Prosthodont 2007,20;417−418
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、ラジカル硬化性歯科材料(特に、コンポジット)と他の多くの歯科修復材料との間の良好な結合効果により特徴付けられる、汎用接着促進剤を提供することである。良好な結合効果は、交互の熱負荷後にもまた保存されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
(i)一般式
Si(OR4−n (I)
の少なくとも1種のアルコキシシランモノマーであって、一般式(I)において、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、
は、C〜Cアルキル残基を表し、そして
nは、1、2または3であり、
該残基RおよびRは、互いに同じであっても異なっていてもよい、
少なくとも1種のアルコキシシランモノマー;
(ii)一般式
O=P(OR(OR3−m (II)
の少なくとも1種のリン酸エステルモノマーであって、一般式(II)において、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、
は、H、シリル(好ましくは、SiMe)、およびC〜C16アルキルから選択される残基を表し、そして
mは、1または2であり、
該残基RおよびRは、互いに同じであっても異なっていてもよい、
少なくとも1種のリン酸エステルモノマー;
(iii)一般式
−R−S−R−R (IIIa)
または
−R−S−R (IIIb)
の少なくとも1種の硫黄含有モノマーであって、一般式(IIIa)および(IIIb)において、
xは、1〜8の整数であり、好ましくは2であり、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、そして式(IIIa)における2つのRは、同じであっても異なっていてもよく、
は、C〜C30アルキレン残基を表し、そしてにおける式(IIIa)2つのRは、同じであっても異なっていてもよく、
は、HまたはC〜C26アルキル残基を表し、
式(IIIa)における2つのR、または式(IIIb)におけるRおよびRは、互いに結合して、Sと一緒に複素環を形成し得る、
少なくとも1種の硫黄含有モノマー、ならびに
(iv)有機溶媒、
を含有する、接着促進剤組成物。
【0013】
(項目2)
がエチレン性不飽和二重結合を有する残基を表す(i)一般式(I)のアルコキシシランモノマーを含有する、上記項目に記載の接着促進剤組成物。
【0014】
(項目3)
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、ビニル、アリルおよびスチリルから選択される基を有する残基を表す、(i)一般式(I)のアルコキシシランモノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0015】
(項目4)
が(メタ)アクリロイルオキシアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシプロピル;(メタ)アクリロイルアミノアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノプロピル;ビニルおよびアリルから選択される残基を表す、(i)一般式(I)のアルコキシシランモノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0016】
(項目5)
がエチレン性不飽和二重結合を有する残基を表す(ii)一般式(II)のリン酸エステルモノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0017】
(項目6)
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、ビニル、アリルおよびスチリルから選択される基を有する残基を表す、(ii)一般式(II)のリン酸エステルモノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0018】
(項目7)
が(メタ)アクリロイルオキシアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシC〜C16アルキル;(メタ)アクリロイルアミノアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノC〜C16アルキル;ビニル;アリルおよびスチリルから選択される残基を表す、(ii)一般式(II)のリン酸エステルモノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0019】
(項目8)
がエチレン性不飽和二重結合を有する残基を表す(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0020】
(項目9)
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、ビニル、アリルおよびスチリルから選択される基を有する残基を表す、(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0021】
(項目10)
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、非置換もしくは置換ビニル基、非置換もしくは置換アリル基、非置換もしくは置換スチリル基、非置換もしくは置換ビニルエーテル基、非置換もしくは置換ビニルエステル基、非置換もしくは置換アリルエーテル基、非置換もしくは置換アリルエステル基およびビニルシクロプロピルから選択される残基を表す、(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0022】
(項目11)
式(IIIa)における2つのR、または式(IIIb)におけるRおよびRが、Sと一緒にジチオラン環を形成する、(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0023】
(項目12)
各場合において、組成物の総重量に基づいて、
(a)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%のアルコキシシランモノマー(i);
(b)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%のリン酸エステルモノマー(ii);
(c)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の硫黄含有モノマー(iii);
(d)25重量%〜98.5重量%、好ましくは、35重量%〜97重量%、そして特に好ましくは、45重量%〜96重量%の有機溶媒(iv);
(e)0〜10重量%の充填材(v)、
(f)0.001重量%〜3重量%の重合開始剤(vi)
を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0024】
(項目13)
歯科学において使用するための、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0025】
(項目14)
金属またはセラミックの歯科材料を、ラジカル硬化性歯科材料、好ましくはコンポジットおよびコンポジットベースのセメントに接着接合するための、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0026】
(項目15)
歯科理工学において使用するための、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0027】
(項目16)
前記接着促進剤組成物が、金属またはセラミックの歯科材料を、ラジカル硬化性歯科材料、好ましくはコンポジットおよびコンポジットベースのセメントに接着接合させるために使用される、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物。
【0028】
(項目17)
歯科理工学における、上記項目のうちのいずれかに記載の接着促進剤組成物の使用。
【0029】
(項目18)
前記接着促進剤組成物が、金属またはセラミックの歯科材料を、ラジカル硬化性歯科材料、好ましくはコンポジットおよびコンポジットベースのセメントに接着接合させるために使用される、上記項目に記載の使用。
【0030】
(摘要)
本発明は、金属またはセラミックの歯科材料をラジカル硬化性歯科材料に接合する接着剤のための、接着促進剤組成物に関する。この接着促進剤組成物は、アルコキシシランモノマー(i)、リン酸エステルモノマー(ii)、硫黄含有モノマー(iii)および有機溶媒(iv)を含有する。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、ラジカル硬化性歯科材料(特に、コンポジット)と他の多くの歯科修復材料との間の良好な結合効果により特徴付けられる、汎用接着促進剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上記目的は、
(i)一般式
Si(OR4−n (I)
の少なくとも1種のアルコキシシランモノマーであって、一般式(I)において、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、
は、C〜Cアルキル残基、好ましくは、C〜Cアルキル残基を表し、そして
nは、1、2または3であり、
これらの残基RおよびRは、互いに同じであっても異なっていてもよい、
アルコキシシランモノマー;
(ii)一般式
O=P(OR(OR3−m (II)
の少なくとも1種のリン酸エステルモノマーであって、一般式(II)において、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、
は、H、シリル(好ましくはSiMe)、およびC〜C16アルキル(特に、C〜Cアルキル)から選択される残基を表し、そして
mは、1または2であり、
これらの残基RおよびRは、互いに同じであっても異なっていてもよい、
リン酸エステルモノマー;
(iii)一般式
−R−S−R−R (IIIa)
または
−R−S−R (IIIb)
の少なくとも1種の硫黄含有モノマーであって、一般式(IIIa)および(IIIb)において、
xは、1〜8の整数であり、好ましくは2であり、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、そして式(IIIa)における2つのRは、同じであっても異なっていてもよく、
は、非置換もしくは置換C〜C30アルキレン残基を表し、そして式(IIIa)における2つのRは、同じであっても異なっていてもよく、
は、Hまたは非置換もしくは置換C〜C26アルキル残基を表し、
式(IIIa)における2つの残基R、または式(IIIb)における残基RおよびRは、互いに結合して、Sと一緒に複素環を形成し得る、
硫黄含有モノマー、ならびに
(iv)有機溶媒
を含有する接着促進剤組成物により達成される。
【0033】
上記アルキレン残基またはアルキル残基(R、R)の適切な置換基は、アリール基、アルキルアリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、ヘテロアルキルアリール基、ウレタン基、ハロゲン基、イソシアネート基、ウレイド基、および/またはイミダゾリニル基、ならびにウレタン基、ハロゲン基、イソシアネート基、ウレイド基、イミダゾリニル基、アクリロイルオキシ基および/またはメタクリロイルオキシ基(特に、ウレタン基、ハロゲン基、イソシアネート基、ウレイド基、および/またはイミダゾリニル基)で置換された、アリール残基、アルキルアリール残基、ヘテロアルキル残基、ヘテロアリール残基、および/またはヘテロアルキルアリール残基である。
【0034】
本発明はまた、歯科学および歯科理工学における、接着促進剤組成物の使用に関し、特に、金属またはセラミックの歯科材料を、ラジカル硬化性歯科材料(好ましくは、コンポジットおよびコンポジットベースの固定材料(セメント))に接合する接着剤の使用に関する。
【0035】
成分(i)である、式RSi(OR4−n(I)の少なくとも1種のアルコキシシランモノマーは、加水分解可能なアルコキシ基−ORに加えて、少なくとも1つ、好ましくは1つの重合性基を含む、少なくとも1つの残基Rを有する。これは代表的に、ラジカル重合性基である。好ましくは、アルコキシシランは、1つまたは2つのR残基を有する。R残基は、好ましくは、加水分解不可能である。Rは、好ましくは、エチレン性不飽和二重結合を含む。例えば、Rは、(メタ)アクリロイルオキシ基(HC=C(R)−CO−O−であり、RはCHもしくはHである)、(メタ)アクリロイルアミノ基(HC=C(R)−CO−NH−であり、RはCHもしくはHである)、ビニル基、アリル基、またはスチリル基を含み得、これらの基は、非置換であっても、適切な置換基により置換されていてもよい。好ましい残基Rは、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシC〜C16アルキル、特に好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシプロピル);(メタ)アクリロイルアミノアルキル(好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノC〜C16アルキル、特に好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノプロピル);ビニル;アリルおよびスチリルを含む。
【0036】
式(I)におけるアルコキシ基のアルキル残基Rは、1個〜8個のC原子を有し、そして好ましくは、直鎖または分枝鎖である。Rは、好ましくは、メチル、エチル、n−C〜C残基またはi−C〜C残基であり、特に好ましくは、メチルまたはエチルである。
【0037】
本発明のために特に適切なアルコキシシランモノマー(i)は:
3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(=メタクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル)(MPTMS)
【0038】
【化1】

3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン(=メタクリル酸3−トリエトキシシリルプロピル)(MPTES)
【0039】
【化2】

ジ(3−メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシシラン(DPDMS)
【0040】
【化3】

およびメタクリル酸(3−トリメトキシシリルプロピル)アミド(MTPA)
【0041】
【化4】

である。
【0042】
最も好ましいアルコキシシランモノマーは、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0043】
成分(i)は代表的に、本発明による接着促進剤組成物中に、0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の量で存在し、各場合において、組成物の総重量に基づく。
【0044】
成分(ii)である、一般式O=P(OR(OR3−m(II)の少なくとも1種のリン酸エステルモノマーは、少なくとも1つ、好ましくは1つまたは2つの重合性基を含む、少なくとも1つの残基Rを有する。これは代表的に、ラジカル重合性基である。このリン酸エステルは、好ましくは、1つのR残基を有し、従って、以下の式(IIa)
【0045】
【化5】

を有する。
【0046】
式(II)または式(IIa)におけるRは、好ましくは、少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を含む。例えば、Rは、少なくとも1つの(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニル基、アリル基、またはスチリル基、あるいはこれらの組み合わせを含み得、これらの基は、非置換であっても、適切な置換基により置換されていてもよい。好ましい残基Rは、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシC〜C16アルキル、特に好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシC−C14アルキル、特に非常に好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシC〜C10アルキル);ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキル(好ましくは、ジ(メタ)アクリロイルオキシC〜C16アルキル、特に好ましくは、ジ(メタ)アクリロイルオキシC〜C10アルキル、特に好ましくは、ジ(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル);(メタ)アクリロイルアミノアルキル(好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノC〜C16アルキル、特に好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノC〜C14アルキル特に非常に好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノC〜C10アルキル);ビニル;アリルおよびスチリルを含む。
【0047】
残基は、H、シリル(好ましくは、SiMe)、およびC〜C16アルキルから選択され、このアルキル残基は、好ましくは、直鎖または分枝鎖であり、特に好ましくは、メチル残基、エチル残基、n−C〜C16残基またはi−C〜C16残基である。特に好ましい実施形態において、RはHであり、この場合、リン酸二水素エステル(リン酸モノエステル)が、最も好ましいリン酸エステルモノマーを表す。
【0048】
本発明のために特に適切なリン酸エステルモノマー(ii)は:
1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェート(MDP)
【0049】
【化6】

1−メタクリロイルオキシヘキサン−6−ホスフェート(MHP)
【0050】
【化7】

1−メタクリロイルアミノデカン−10−ホスフェート(MADP)
【0051】
【化8】

1−アクリロイルアミノヘキサン−6−ホスフェート(AAHP)
【0052】
【化9】

1,3−ジメタクリロイルオキシプロパン−2−ホスフェート(DMPP)
【0053】
【化10】

および1,3−ジメタクリロイルアミノプロパン−2−ホスフェート(DMAPP)
【0054】
【化11】

であり、最も好ましいリン酸エステルモノマーは、1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェートおよび1−メタクリロイルアミノデカン−10−ホスフェートである。
【0055】
成分(ii)は代表的に、0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の量で、本発明による接着促進剤組成物中に存在し、各場合において、組成物の総重量に基づく。
【0056】
成分(iii)である、一般式R−R−S−R−R(IIIa)またはR−R−S−R(IIIb)の少なくとも1種の硫黄含有モノマーもまた、少なくとも1つ、好ましくは1つの重合性基含む、少なくとも1つの残基Rを有する。この重合性基は、好ましくは、ラジカル重合性であり、従って、Rは代表的に、エチレン性不飽和二重結合を有する。例えば、Rは、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニル基、アリル基またはスチリル基を含み得、これらの基は、非置換であっても、適切な置換基により置換されていてもよい。好ましい残基Rとしては、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、非置換もしくは置換ビニル基、非置換もしくは置換アリル基、非置換もしくは置換スチリル基、非置換もしくは置換ビニルエーテル基、非置換もしくは置換ビニルエステル基、非置換もしくは置換アリルエーテル基、非置換もしくは置換アリルエステル基およびビニルシクロプロピルが挙げられる。可能な置換基は、例えば、−COORであり、ここでRは、直鎖または分枝鎖のC〜C16アルキル基であり、好ましくは、C〜Cアルキル基である。1つの実施形態において、Rは、−COOR、好ましくは−COOEtで置換された、アリルエステル基である。
【0057】
は、非置換もしくは置換C〜C30アルキレン残基であり、ここで式(IIIa)における2つのRは、同じであっても異なっていてもよい。このC〜C30アルキレン残基は代表的に、直鎖または分枝鎖である。Rは、好ましくは、C〜C15アルキレン残基、特に好ましくは、C〜Cアルキレン残基を表す。
【0058】
式(IIIb)におけるRは、Hまたは非置換もしくは置換C〜C26アルキル残基を表す。このC〜C26アルキル残基は代表的に、直鎖または分枝鎖である。Rは、好ましくは、C〜C15アルキル残基、特に好ましくは、C〜Cアルキル残基を表す。
【0059】
残基RおよびRの任意の存在する置換基は、上記のように定義される。
【0060】
好ましい硫黄含有モノマーは、ジスルフィドである。すなわち、式(IIIa)または式(IIIb)において、x=2である。
【0061】
本発明の1つの実施形態において、式(IIIa)における2つのR残基、または式(IIIb)におけるRおよびRは、互いに結合して、Sと一緒に複素環を形成する。従って、成分(iii)の硫黄含有モノマーは、好ましくは、以下の構造単位
【0062】
【化12】

を含む。この構造単位において、yは1〜8であり、そしてこれらのC原子は、Hで置換されるか、または上に記載されたように置換される。特に好ましくは、x=2かつy=1であり、すなわち、この硫黄含有モノマーは、以下の構造:
【0063】
【化13】

のジチオラン環を含む。
【0064】
1つの実施形態において、式(IIIb)において、Rは5個のCを含み、そしてRは2個のCを含み、これらが互いに結合して、Cが置換されたジチオラン環を形成する。別の実施形態において、Rは、(IIIa)において、エチレン残基である。
【0065】
本発明のために特に適切な硫黄含有モノマーは:
リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル(LSEAE)
【0066】
【化14】

および2,2−ビスアクリロイルアミノジエチルジスルフィド(BAADS)
【0067】
【化15】

である。
【0068】
成分(iii)は代表的に、0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の量で、本発明による接着促進剤組成物中に存在し、各場合において、組成物の総重量に基づく。
【0069】
本発明の接着促進剤組成物はまた、成分(i)、(ii)および(iii)として、それぞれの種類の異なるモノマーの混合物を含有し得る。
【0070】
本発明による接着促進剤組成物の成分(iv)は、有機溶媒であり、代表的に、生理学的に許容可能な溶媒である。適切な溶媒は、例えば、アルコール、ケトンおよびエステル、ならびにこれらの混合物であり、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトンおよびこれらの混合物が好ましい。エタノールが、特に好ましい。この接着促進剤組成物は代表的に、25重量%〜98.5重量%、好ましくは、35重量%〜97重量%、そして特に好ましくは、45重量%〜96重量%の有機溶媒(iv)を含有し、各場合において、組成物の総重量に基づく。
【0071】
さらに、本発明による接着促進剤は、例えば、機械特性を改善するため、または粘度を調節するために、さらなる添加剤を含有し得る。例えば、この接着促進剤組成物は、充填材(v)(好ましくは、無機粒子充填材)を含有し得る。これらの充填材は、好ましくは、10nm〜250nmの範囲の粒子サイズ(静的光散乱またはレーザー回折により決定される)を有し、球状粒子が特に好ましい。酸化物ベースの無機充填材、特に、熱分解プロセスまたは沈殿プロセスから得られる無機充填材が、好ましい。適切な材料は、例えば、ZrO、TiO、SiO、Al、TaおよびYb、ならびにSiO、ZrO、TaおよびTiOのうちの少なくとも2つの混合酸化物であるが、これらに限定されない。重合性基で表面修飾された充填材が、特に好ましい。存在する場合、充填材(v)は、好ましくは、接着促進剤組成物中に、10重量%、特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の最大量で存在し、各場合において、組成物の総重量に基づく。
【0072】
本発明による接着促進剤組成物は、好ましくは、重合開始剤(vi)を含有する。
【0073】
重合開始剤は、残基の重合のための開始剤であり、そして放射硬化(光化学ラジカル重合)が望ましいか、熱硬化が望ましいか、室温での硬化が望ましいかに依存して、選択される。「開始剤」とはまた、異なる化合物の開始剤系を意味する。
【0074】
適切な光開始剤の例としては、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびその誘導体、ならびにα−ジケトンおよびその誘導体(例えば、9,10−フェナントレンキノン、1−フェニル−プロパン−1,2−ジオン、ジアセチルおよび4,4’−ジクロロベンジル)が挙げられる。カンファーキノン、2,2−メトキシ−2−フェニルアセトフェノンまたはα−ジケトンが好ましく、各々が、還元剤としてのアミン(例えば、4−(ジメチルアミノ)−安息香酸エステル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、N,N−ジメチル−sym−キシリジンまたはトリエタノールアミン)、およびアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、モノベンゾイルゲルマニウム誘導体またはジベンゾイルゲルマニウム誘導体と組み合わせられる。
【0075】
例えば、ベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールが、熱硬化のための開始剤として適切である。
【0076】
例えば、レドックス開始剤組み合わせ(例えば、過酸化ベンゾイルと、N,N−ジメチル−sym−キシリジンまたはN,N−ジメチル−p−トルイジンとの組み合わせ)が、室温で行われる重合(低温硬化)のための開始剤として使用され得る。さらに、過酸化物と還元剤(例えば、アスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸)とからなるレドックス系もまた適切である。
【0077】
重合開始剤(vi)は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、0.001重量%〜3重量%、特に好ましくは、0.1重量%〜0.2重量%の量で使用される。
【0078】
さらに、本発明による接着促進剤組成物は、安定剤(vii)および重合防止剤(viii)(例えば、メチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)およびフェノチアジン)を含有し得る。
【0079】
好ましい実施形態によれば、本発明による接着促進剤組成物は、
(a)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%のアルコキシシランモノマー(i);
(b)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%のリン酸エステルモノマー(ii);
(c)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の硫黄含有モノマー(iii);
(d)25重量%〜98.5重量%、好ましくは、35重量%〜97重量%、そして特に好ましくは、45重量%〜96重量%の有機溶媒(iv);
(e)0〜10重量%の充填材(v)、
(f)0.001重量%〜3重量%、好ましくは、0.1重量%〜0.2重量%の重合開始剤(vi)
を含有する。各場合において、組成物の総重量に基づく。
【0080】
本発明による特に好ましい接着促進剤組成物は、
(A)(i)3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと、(ii)1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェートと、(iii)リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステルとの組み合わせ;
(B)(i)1−メタクリロイルアミノデカン−10−ホスフェートと、(ii)メタクリル酸(3−トリメトキシシリルプロピル)アミドと、(iii)リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステルとの組み合わせ、または
(C)(i)1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェートと、(ii)3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと、(iii)2,2−ビスアクリロイルアミノジエチルジスルフィドとの組み合わせ、
を含有する。
【0081】
これらの成分は、好ましくは、上に与えられた量で、必要に応じて、上記任意の添加剤と一緒に使用される。
【0082】
本発明による接着促進剤組成物は、とりわけ、歯科学および歯科理工学において使用され、そしてラジカル硬化性歯科材料と、種々の型の他の歯科修復材料との間の良好な結合効果を示す。本発明による接着促進剤組成物と共に使用するためのラジカル硬化性歯科材料は、好ましくは、歯科用充填コンポジットまたはコンポジットベースの固定材料(セメント)であるが、接着剤および他のラジカル硬化性歯科材料であってもよい。本発明による接着促進剤組成物が使用され得、次いで(交互の熱負荷後でさえも)ラジカル硬化性歯科材料との良好な結合をもたらす、歯科修復材料は、例えば、貴金属(例えば、金、白金、パラジウム、銀およびこれらの合金);卑金属(例えば、クロム、ニッケル、モリブデン、チタンおよびこれらの合金);シリカ質セラミック(例えば、長石および/または石英ベースのセラミック、白榴石含有セラミックおよびガラスセラミック(例えば、白榴石含有ガラスセラミック))、ならびに非シリカ質セラミック(酸化物セラミック)(例えば、イットリウム安定化酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムおよびガラス浸潤酸化アルミニウム)である。
【0083】
本発明による接着促進剤組成物は、好ましくは、ラジカル硬化性歯科材料と別の歯科修復材料との間に結合を生じるために、以下のように使用される。
【0084】
歯科修復材料の表面が調整され、その後、接着促進剤組成物が塗布される。この調整の性質は、修復材料の性質に依存する。従って、シリカ質セラミック(ガラスセラミックが挙げられる)は代表的に、化学的に(好ましくは、塩酸を用いて)エッチングされ、一方で、金属材料および非シリカ質セラミック(酸化物セラミック)は代表的に、(例えば、コランダムを用いて)サンドブラストされる。サンドブラスト処理中に付与される圧力は、好ましくは、高くても10Pa(1bar)である。
【0085】
次いで、修復材料の調整された表面は、水で徹底的にすすがれ、次いで例えば、油を含まない乾燥空気を吹き付けることにより、乾燥させられる。
【0086】
本発明による接着促進剤組成物は、このように調整され乾燥された修復材料の表面に、代表的に薄層で、好ましくは微細なブラシ(例えば、Microbrush(登録商標)銘柄のもの)を用いて塗布され、次いで、この表面上で短時間作用させられる。次いで、この接着促進剤層が、例えば、油を含まない乾燥空気を吹き付けることにより、乾燥させられる。
【0087】
最後に、最終工程において、ラジカル硬化性歯科材料と他の歯科修復材料との間に所望の結合を生じる目的で、ラジカル硬化性歯科材料が塗布される。このラジカル硬化性歯科材料が塗布される前に、乾燥した接着促進剤層は、好ましくは、液体(例えば、水、唾液または血液)と接触させられるべきではない。
【0088】
本発明は、実施例により、以下でより詳細に説明される。
【実施例】
【0089】
(実施形態の実施例)
(実施例1)
(メタクリル酸(3−トリメトキシシリルプロピル)アミドの調製)
77.4gの3−(アミノ)プロピルトリメトキシシラン、43.7gのトリエチルアミンおよび25mgのジ−tert−ブチル−p−クレゾールを、500mlのジクロロメタンにアルゴン下で溶解した。45.1gの塩化メタクリロイルを、1時間以内で−5℃でゆっくりと滴下し、その後、攪拌を、0℃でさらに1時間続けた。沈殿した塩酸塩を濾別し、そしてジクロロメタンで再度洗浄した。その揮発性成分を、40℃減圧下で、ロータリーエバポレーターで除去した。分離した固体(塩酸塩)を含む黄色液体が残った。塩酸塩の沈殿を、150mlのジエチルエーテルの添加により完了させ、そしてこの沈殿物を濾別し、そしてその濾液を乾燥空気を導入することにより、40℃でロータリーエバポレーターで小体積まで濃縮した。この褐色がかった液体を、残留する揮発性成分から4Pa(4×10−2mbar)で分離し、そして粗製生成物(104.2g)を0.06Pa(6×10−4mbar)の圧力で蒸留した。この生成物は、123℃〜125℃の沸点を有した。76.4gの生成物が、黄色がかった透明液体として得られた。
【0090】
(実施例2)
(リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル(LSEAE)の調製)
リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル(LSEAE)を、以下のように、2工程で調製した。
【0091】
第一の工程において、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)の存在下での、アクリル酸エチルのパラホルムアルデヒドでのヒドロキシメチル化により、2−ヒドロキシメタクリル酸エチルを調製した。
【0092】
【化16】

第二の工程において、α−リポ酸と2−ヒドロキシメタクリル酸エチルとの、4−N,N−ジメチルアミノピリジンおよびN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド−塩酸塩の存在下での反応により、リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル(LSEAE)を生成した。
【0093】
【化17】

(工程1:2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチルエステルの調製)
2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチルエステルを、L.J.Mathias,H.Kusefoglu,Macromolec.20(1987)2039−2041により指示されるように調製した。
【0094】
440g(4.4mol)のアクリル酸エチル、152g(5.1mol)のパラホルムアルデヒド、48g(0.43mol)のジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)および1gのヒドロキノンモノメチルエーテルの、750mlのジメチルスルホキシド中の溶液を、65℃で16時間攪拌した。880mlの水の添加に続いて、550mlのジエチルエーテルで抽出した。その水相を250mlずつのエーテルでさらに4回抽出した。次いで、合わせたエーテル相を200mlの0.5N HClで洗浄し、そして200mlの飽和食塩水溶液で2回洗浄し、次いで、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別した後に、その溶媒を、空気を導入しながらロータリーエバポレーターで除去し、そしてその残渣を高真空下で蒸留した。収量:168g(34%)、無色液体。
【0095】
(工程2:リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル(LSEAE)の調製)
2.60g(20mmol)の2−ヒドロキシメチルアクリル酸エチルエステル、4.13g(20mmol)のα−リポ酸、122mg(1.0mmol)の4−N,N−ジメチルアミノピリジンおよび5mgのブチルヒドロキシトルエン(BHT)を40mlの塩化メチレンに溶解し、これを4Åモレキュラーシーブで乾燥させた。次いで、4.54g(22.0mmol)のN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドの10mlの塩化メチレン中の溶液を滴下すると、白色沈殿物が形成された。次いで、この反応混合物をさらに6時間攪拌し、その後、その沈殿物を、ヌッチェフィルタによりこの反応混合物から濾過した。そのフィルターケーキを10mlずつの塩化メチレンでさらに3回洗浄し、そして合わせた濾液を、50mlずつの飽和塩化ナトリウム溶液でさらに3回洗浄した。次いで、その有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、そしてその乾燥剤を濾別した。その溶媒を、乾燥空気の弱い気流を導入しながらロータリーエバポレーターで除去し、そしてその残渣を、n−ヘキサン/酢酸エチルを用いるカラムクロマトグラフィーにより精製した。収量:4.58g(72%)の黄色油状物。
【0096】
(実施例3)
(使用したアルコキシシランモノマー(i))
3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(FlukaおよびEvonik Degussa GmbHから市販されている)、
メタクリル酸(3−トリメトキシシリルプロピル)アミド(実施例1)
(使用したリン酸エステルモノマー(ii))
1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェートを、米国特許第4,612,384号に記載されるように、75%の収率および95%の純度(HPLCにより決定した)で調製した。
【0097】
1−メタクリロイルアミノデカン−10−ホスフェートを、欧州特許第1 674 066号に記載されるように、69%の収率および93%の純度(HPLCにより決定した)で調製した。
【0098】
(使用した硫黄含有モノマー(iii))
2,2−ビスアクリロイルアミノジエチルジスルフィド(Flukaから市販されている)
リポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル(LSEAE;実施例2)
(接着促進剤(プライマー)の調製)
(接着促進剤組成物A)
96重量%エタノール(puriss)に溶解した、1.0重量%の1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェート、2.0重量%の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび1.0重量%のリポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル。
【0099】
(接着促進剤組成物B)
96重量%エタノール(puriss)に溶解した、1.0重量%の1−メタクリロイルアミノデカン−10−ホスフェート、2.0重量%のメタクリル酸(3−トリメトキシシリルプロピル)アミドおよび1.0重量%のリポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル。
【0100】
(接着促進剤組成物C)
96重量%エタノール(puriss)に溶解した、1.0重量%の1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェート、2.0重量%の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび1.0重量%の2,2−ビスアクリロイルアミノジエチルジスルフィド。
【0101】
(接着促進剤組成物D)
93.5重量%エタノール(puriss)に溶解した、1.0重量%の1−メタクリロイルオキシデカン−10−ホスフェート、3.0重量%の3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、1.0重量%のリポ酸2−エトキシカルボニルアリルエステル。これに1.5重量%のAerosil(登録商標)200(約200m/gのBET表面積および12nmの平均一次粒径を有する親水性発熱性ケイ酸、Evonik Degussa GmbHから入手可能)を添加し、そしてその接着促進剤組成物を超音波フローセル中で均質化した。
【0102】
(実施例4)
(異なる歯科修復材料に対する接着係数の決定)
接着係数を決定するために、剥ぎ取り装置(pull−off rig)を、文献(M.Kern,VP.Thompson,J.Prost.Dent.1995 73(3):240−249;M.Kern,VP.Thompson,「Eine einfache Versuchsanordnung zur universellen Pruefung des Klebeverbundes im axialen Zugtest」(「A simple test rig for the general examination of the adhesive bond in the axial tensile test」) ,Dtsch Zahnaerztl Z 1993,48:769−772)に記載されるように使用した。得られた結果を表1に与える。
【0103】
試験片を、Dtsch Zahnaerztl Z 1993,48:769−772に記載されるプロトコルに従って調製した。立方体の試験片を、グリットサイズP120〜P400〜P1000のSiC研磨紙を用いて、水で冷却しながら表面研磨した。
【0104】
個々の基材表面を、対応する製造業者の指示に従って、以下のように調整した。従って、石英質の表面を、フッ化水素酸でエッチングし、そして酸化物または金属の表面を、対応する粒度および圧力でサンドブラストした。
【0105】
− E.max CADをフッ化水素酸ゲル「Ceramic Etch」と20秒間接触させ、次いで、蒸留水で注意深くすすいだ。
【0106】
− ZirCAD、Al−Cube、Tritan、Wiron 99およびd.Sign 91を、50μmの酸化アルミニウム研磨粉末(Korox 50)で2.5×10Pa(2.5bar)の圧力で、約1cm〜2cmの距離から15秒間荒くした。
【0107】
次いで、全てのサンプルを、超音波浴中でイソプロパノール中で10分間きれいにした。イソプロパノールから取り出した後に、これらのサンプルを圧縮空気を吹き付けて乾燥させ、そして使用するまで、埃から保護した。
【0108】
これらのサンプルに、対応する接着促進剤の1回の全コーティングを、プライマーで飽和させたMicrobrush(登録商標)を用いて施し、そしてその液体を60秒間静置して、効果を及ぼさせた。次いで、上澄液を、圧縮空気を吹き付けて除去した。Dtsch Zahnaerztl Z 1993,48:769−772に記載されるように、光重合させたMulticore Flowコンポジット(Ivoclar Vivadent AG,Schaan,Liechtenstein)を満たしたプレキシグラススリーブを、プライマーを塗布した表面に適用した。この目的で、結合されるべき端部において、このスリーブを1滴のMultilink Automixセメント(Ivoclar Vivadent AG,Schaan,Liechtenstein)で覆い、そしてプレス装置により、セラミック試験片に適用した。次いで、このセメントを、ブルーフェーズ(bluephase)重合ランプに20秒間×2回曝露することにより硬化させ、そしてこれらのサンプルを、37℃で24時間、水中に保存した。次いで、引っ張り接着を、上記文献に記載される装置を用い、そしてユニバーサル試験機Z010(Zwick−Roell,Ulm,Germany)を用いて、決定した。
【0109】
連続的な応力をシミュレートするために、これらの試験片をまた、交互の熱負荷に供した。この目的で、これらの試験片を、5℃の冷水から55℃の熱水に移し、そして再度戻すことを5000回行った。各場合に、水中に60秒間入れたままにした。
【0110】
本発明による接着促進剤組成物A、B、CおよびDを、以下の市販のセラミックプライマーおよび金属プライマーと比較した:
CP=Kuraray Medical Inc.,Okayama,Japan製のClearfilセラミックプライマー(3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよびリン酸二水素10−メタクリロイルオキシデシルがベースである)
AP=Kuraray Medical Inc.,Okayama,Japan製のアロイプライマー(6−(4−ビニルベンジル−N−プロピル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオンおよびリン酸二水素10−メタクリロイルオキシ−デシルがベースである)
MZP=Ivoclar Vivadent AG,Schaan,Liechtenstein製の金属/ジルコニアプライマー(ホスホン酸メタクリレートがベースである)
MS=Ivoclar Vivadent AG,Schaan,Liechtenstein製のMonobond−Sプライマー(3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランがベースである)
【0111】
【表1】

*比較例
表1の接着係数が示すように、本発明によるプライマーA、B、CおよびDは、試験した全ての基材表面に対する非常に良好な結合により特徴付けられ、そして熱負荷に対する非常に良好な耐性を有する。これらは、市販の処方物であるCP、AP、MZPおよびMS(これらの市販の処方物は、特定の表面型に制限される)の良好な接着係数を、より容易な取り扱いと組み合わせる。従って、特製品のプライマーと比較すると、A、B、CおよびDは、得られる特性の損失を受け入れる必要なく、毎日の臨床作業における作業手順のかなりの単純化を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)一般式
Si(OR4−n (I)
の少なくとも1種のアルコキシシランモノマーであって、一般式(I)において、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、
は、C〜Cアルキル残基を表し、そして
nは、1、2または3であり、
該残基RおよびRは、互いに同じであっても異なっていてもよい、
少なくとも1種のアルコキシシランモノマー;
(ii)一般式
O=P(OR(OR3−m (II)
の少なくとも1種のリン酸エステルモノマーであって、一般式(II)において、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、
は、H、シリル(好ましくは、SiMe)、およびC〜C16アルキルから選択される残基を表し、そして
mは、1または2であり、
該残基RおよびRは、互いに同じであっても異なっていてもよい、
少なくとも1種のリン酸エステルモノマー;
(iii)一般式
−R−S−R−R (IIIa)
または
−R−S−R (IIIb)
の少なくとも1種の硫黄含有モノマーであって、一般式(IIIa)および(IIIb)において、
xは、1〜8の整数であり、好ましくは2であり、
は、少なくとも1つの重合性基を有する残基を表し、そして式(IIIa)における2つのRは、同じであっても異なっていてもよく、
は、C〜C30アルキレン残基を表し、そしてにおける式(IIIa)2つのRは、同じであっても異なっていてもよく、
は、HまたはC〜C26アルキル残基を表し、
式(IIIa)における2つのR、または式(IIIb)におけるRおよびRは、互いに結合して、Sと一緒に複素環を形成し得る、
少なくとも1種の硫黄含有モノマー、ならびに
(iv)有機溶媒、
を含有する、接着促進剤組成物。
【請求項2】
がエチレン性不飽和二重結合を有する残基を表す(i)一般式(I)のアルコキシシランモノマーを含有する、請求項1に記載の接着促進剤組成物。
【請求項3】
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、ビニル、アリルおよびスチリルから選択される基を有する残基を表す、(i)一般式(I)のアルコキシシランモノマーを含有する、請求項2に記載の接着促進剤組成物。
【請求項4】
が(メタ)アクリロイルオキシアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシプロピル;(メタ)アクリロイルアミノアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノプロピル;ビニルおよびアリルから選択される残基を表す、(i)一般式(I)のアルコキシシランモノマーを含有する、請求項3に記載の接着促進剤組成物。
【請求項5】
がエチレン性不飽和二重結合を有する残基を表す(ii)一般式(II)のリン酸エステルモノマーを含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着促進剤組成物。
【請求項6】
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、ビニル、アリルおよびスチリルから選択される基を有する残基を表す、(ii)一般式(II)のリン酸エステルモノマーを含有する、請求項5に記載の接着促進剤組成物。
【請求項7】
が(メタ)アクリロイルオキシアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシC〜C16アルキル;(メタ)アクリロイルアミノアルキル、好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノC〜C16アルキル;ビニル;アリルおよびスチリルから選択される残基を表す、(ii)一般式(II)のリン酸エステルモノマーを含有する、請求項6に記載の接着促進剤組成物。
【請求項8】
がエチレン性不飽和二重結合を有する残基を表す(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着促進剤組成物。
【請求項9】
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、ビニル、アリルおよびスチリルから選択される基を有する残基を表す、(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、請求項8に記載の接着促進剤組成物。
【請求項10】
が(メタ)アクリロイルオキシ、(メタ)アクリロイルアミノ、非置換もしくは置換ビニル基、非置換もしくは置換アリル基、非置換もしくは置換スチリル基、非置換もしくは置換ビニルエーテル基、非置換もしくは置換ビニルエステル基、非置換もしくは置換アリルエーテル基、非置換もしくは置換アリルエステル基およびビニルシクロプロピルから選択される残基を表す、(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、請求項9に記載の接着促進剤組成物。
【請求項11】
式(IIIa)における2つのR、または式(IIIb)におけるRおよびRが、Sと一緒にジチオラン環を形成する、(iii)一般式(IIIa)または(IIIb)の硫黄含有モノマーを含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の接着促進剤組成物。
【請求項12】
各場合において、組成物の総重量に基づいて、
(a)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%のアルコキシシランモノマー(i);
(b)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%のリン酸エステルモノマー(ii);
(c)0.05重量%〜25.0重量%、好ましくは、0.2重量%〜10.0重量%、そして特に好ましくは、0.5重量%〜5.0重量%の硫黄含有モノマー(iii);
(d)25重量%〜98.5重量%、好ましくは、35重量%〜97重量%、そして特に好ましくは、45重量%〜96重量%の有機溶媒(iv);
(e)0〜10重量%の充填材(v)、
(f)0.001重量%〜3重量%の重合開始剤(vi)
を含有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の接着促進剤組成物。
【請求項13】
歯科学において使用するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の接着促進剤組成物。
【請求項14】
金属またはセラミックの歯科材料を、ラジカル硬化性歯科材料、好ましくはコンポジットおよびコンポジットベースのセメントに接着接合するための、請求項13に記載の接着促進剤組成物。
【請求項15】
歯科理工学において使用するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の接着促進剤組成物。
【請求項16】
前記接着促進剤組成物が、金属またはセラミックの歯科材料を、ラジカル硬化性歯科材料、好ましくはコンポジットおよびコンポジットベースのセメントに接着接合させるために使用される、請求項15に記載の接着促進剤組成物。

【公開番号】特開2010−215624(P2010−215624A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57953(P2010−57953)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】