説明

汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法

【課題】 洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、高い洗浄効果が得られる汚れ洗濯性向上機能が付与されたポリエステル繊維の製造方法、該汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造された汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維、及び、該汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維を含有する繊維製品を提供する。
【解決手段】 ポリエステル繊維を、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを含有する処理液に接触させる汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、高い洗浄効果が得られる汚れ洗濯性向上機能が付与されたポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚れた繊維製品は、洗剤を用いて洗濯することが常識である。これは、洗剤の主成分である界面活性剤の効果により汚れ成分と繊維の表面との剥離を促進することにより達成される。しかし、大量の洗剤が環境中に排出された場合、海や湖沼等の環境を著しく汚染する可能性が指摘されている。これに対して、近年では、洗剤中の成分を見直して、環境に与える影響の少ない成分を主成分とする洗剤や、より少ない量で従来と同等の洗浄効果が得られる洗剤等が開発され、上市されている。しかしながら、家庭用途及び産業用途で使用され排出される洗剤の量は膨大であり、環境に与える影響をいかに軽減するかは依然として大きな課題のままであった。
【0003】
これに対して、洗濯機や洗濯方法を工夫することにより、洗剤を用いなくとも洗剤を用いた場合と同等の洗浄効果が得られる洗濯方法も検討されている。例えば、特許文献1には、ヒドロニウムイオンやヒドロキシルイオン等を含有した洗剤を入れなくとも洗浄効果を有する水と空気との混合体を高速で衣類を通過させる洗濯方法が開示されている。しかしながら、この方法は特殊な洗濯機を必要とするうえ、皮脂汚れ等の油性成分による汚れに対する洗浄効果は不充分であるとの報告もあった。とりわけポリエステル繊維のような親油性の高い繊維からなる繊維製品は、皮脂汚れ等の油性成分による汚れがとれにくく、特許文献1等に記載された方法を用いても充分な洗浄効果は得られなかった。
【特許文献1】特開2000−237485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑み、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、高い洗浄効果が得られる汚れ洗濯性向上機能が付与されたポリエステル繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリエステル繊維を、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを含有する処理液に接触させる汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことに繊維又は繊維製品に親水化処理を施すことより汚れ洗濯性向上機能を付与できることを見出した。これは、繊維又は繊維製品で問題となる汚れのほとんどが皮脂汚れをはじめとする油性成分であるところ、繊維又は繊維製品を親水化することにより汚れ成分と繊維との結合力が弱くなり、界面活性剤を用いるまでもなく水のみによっても汚れ成分を剥離できるためと考えられる。
更に、鋭意検討の結果、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)と、アルカリ金属の水酸化物とのいずれをも含む処理液を用いることにより、従来のアルカリを用いた親水化処理ではほとんど親水化できなかった親油性の高いポリエステル繊維であっても、充分な汚れ洗濯性向上機能を発揮できる程度に親水化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
なお、本明細書において汚れ洗濯性向上機能とは、洗剤を用いずに洗濯した場合であっても、洗剤を用いて洗濯した場合に近い洗浄効果が得られることを意味し、近い洗浄効果が得られるとは、本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造した汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維又は繊維製品を洗剤を用いずに洗濯した場合の洗浄効果が、未処理のポリエステル繊維又は繊維製品を洗剤を用いて洗濯した場合の洗浄効果に近いことを意味する。また、対象となるポリエステル繊維又は繊維製品が白色を含む色物である場合には、例えば、本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造した汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維又は繊維製品にオレイン酸10%owf、ゼラチン2.5%owfを付着させた後洗剤を用いずに洗濯した後のオレイン酸の残留率(%)が、未処理のポリエステル繊維又は繊維製品にオレイン酸10%owf、ゼラチン2.5%owfを付着させた後洗剤を用いて洗濯した後のオレイン酸の残留率(%)の110%以内であることを意味する。
【0008】
本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法では、ポリエステル繊維を、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを含有する処理液に接触させる。
上記原料となるポリエステル繊維は、ポリエステル繊維単独からなるものであってもよく、セルロース系繊維(綿)、麻、絹、羊毛等の天然繊維との混合繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の他の合成繊維との混合繊維であってもよい。なかでも、セルロース系繊維等との混合繊維では、セルロース系繊維自体の親水化による効果との相乗効果が期待できる。
【0009】
上記処理液中におけるモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度の好ましい下限は0.1g/L、好ましい上限は600g/Lである。0.1g/L未満であると、ポリエステル繊維をほとんど親水化できずに、所定の汚れ洗濯性向上機能が付与されないことがあり、600g/Lを超えると、得られる汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の風合いが悪化することがある。より好ましい下限は10g/L、より好ましい上限は300g/Lである。
【0010】
上記処理液中におけるアルカリ金属の水酸化物の濃度の好ましい下限は0.1g/L、好ましい上限は300g/Lである。0.1g/L未満であると、ポリエステル繊維をほとんど親水化できずに、所定の汚れ洗濯性向上機能が付与されないことがあり、300g/Lを超えると、得られる汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の風合いが悪化することがある。より好ましい下限は10g/L、より好ましい上限は300g/Lである。
【0011】
ポリエステル繊維と上記処理液とを接触させる方法としては、例えば、処理液中でポリエステル繊維を回転させる液流法;ポリエステル繊維を処理液中に浸漬した後にパディング(絞り)する方法等が挙げられる。使用効率の点で、浴比(処理液の使用割合)を下げることが有効であり、この点で浸漬した後にパディングする方法が有効である。なお、ポリエステル繊維と処理液とを接触させる際の温度条件としては特に限定されないが、好ましい下限は5℃、好ましい上限は250℃である。
【0012】
ポリエステル繊維と処理液とを接触させる時間としてはモノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度、アルカリ金属の水酸化物の濃度等の諸条件から適宜選択すればよいが、好ましい下限は1秒、好ましい上限は100時間である。
【0013】
本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法によれば、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても高い洗浄効果が得られるという汚れ洗濯性向上機能が付与されたポリエステル繊維を得ることができる。このような繊維では、また、洗剤を用いずに洗濯を行う場合には、洗剤を除去する操作(すすぎ操作)を省略することができることから、より短い時間で洗濯を行うことができる。このような洗濯時間の短縮により、水や電気等の資源を大幅に節約することができる。更に、本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造された汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維を含む繊維製品は、吸放湿性に優れ、着衣の際の快適性に優れるという副次的な効果もある。
【0014】
本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造されたものである汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維もまた、本発明の1つである。
本発明の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造された汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維を含有する繊維製品もまた、本発明の1つである。
なお、本明細書において繊維製品には、肌着、上着、靴下、パンティーストッキング、手袋、帽子、ヘアバンド、ネクタイ等の衣類の他、ハンカチ、タオル、フェイスマスク、マフラー、シーツ、枕カバー、ふとん、クッション、おむつ、おむつカバー等の通常繊維が用いられる全てのものが含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、高い洗浄効果が得られる汚れ洗濯性向上機能が付与されたポリエステル繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)
元生地として通常のポリエステル生地を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
【0018】
(実施例2)
元生地として通常のポリエステル生地を使用し、モノクロル酢酸ナトリウム(200g/L)及び水酸化ナトリウム(100g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、80℃、30分の熱処理を行い反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
【0019】
(比較例1)
元生地として通常のポリエステル生地を使用し、水酸化ナトリウム(70g/L)を含有する処理液中に1:20の浴比で浸漬し、パッダーで絞った後、25℃、24時間放置して反応させた。水洗して未反応物を除去し、乾燥させることにより処理布を得た。
【0020】
(評価)
実施例1及び比較例1で得た処理布及び対照布として未処理のポリエステル生地について以下の方法により、吸湿率試験及びオレイン酸洗浄性試験を行った。
結果を表1に示した。
【0021】
(1)吸湿率試験
10×20cm程度の大きさの試験布を秤量ビンに入れて、105℃で2時間乾燥させた後に秤量し、予め秤量しておいた秤量ビンの重量を差し引くことにより、絶乾重量を算出した。次いで、秤量ビンに入れて絶乾重量を測定した試験布を、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気に24時間放置した後に秤量し、秤量ビンの重量を差し引くことにより、公定重量を算出した。得られた絶乾重量と公定重量とから、下記式(1)により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(〔公定重量〕÷〔絶乾重量〕−1)×100 (1)
【0022】
(2)オレイン酸洗浄性試験
試験布にオレイン酸10%owf、ゼラチン2.5%owfを付着させた後、通常の家庭用洗濯機(シャープ社製、ES−S4A)を用いて、水のみの場合と、洗剤(花王社製、アタック)を0.67g/Lの濃度となるように加えた場合とで洗濯を行った。
洗濯後の各試験布を天日乾燥した後、試験布上に残存するオレイン酸をメタノールで抽出し、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC−17A)によりオレイン酸の残留量を測定し、オレイン酸残留率(%)を求めた。求めたオレイン酸残留率(%)から、以下の基準により評価した。
◎:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の80%以下
〇:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の110%以下
△:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の120%以下
×:水のみで洗濯した場合のオレイン酸残留率(%)が、洗剤を用いて対照布を洗濯した場合のオレイン酸残留率の120%を超える
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、高い洗浄効果が得られる汚れ洗濯性向上機能が付与されたポリエステル繊維の製造方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを含有する処理液に接触させることを特徴とする汚れ洗浄性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
処理液は、モノクロル酢酸又はモノクロル酢酸のアルカリ金属塩の濃度が0.1〜600g/L、アルカリ金属の水酸化物の濃度が0.1〜300g/Lであって、ポリエステル繊維と前記処理液とを、5〜250℃において1秒〜100時間接触させることを特徴とする請求項1記載の汚れ洗浄性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造されたものであることを特徴とする汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維。
【請求項4】
請求項1又は2の汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維の製造方法により製造された汚れ洗濯性向上機能付与ポリエステル繊維を含有することを特徴とする繊維製品。


【公開番号】特開2006−336145(P2006−336145A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161727(P2005−161727)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】