説明

汚染土壌の微生物分解評価方法、最適な土壌浄化処理方法の決定方法、ベンゼン分解微生物の増殖評価方法、及び土壌浄化管理方法

【課題】 より迅速かつ正確に汚染土壌をその存在する微生物で分解することができるか否かを評価することができる方法、並びに最適な土壌浄化処理方法の決定方法、土壌浄化管理方法、及びベンゼン分解微生物の増殖評価方法を提供すること。
【解決手段】 ベンゼンで汚染された土壌を所定量採取し、炭素源としてベンゼンのみを添加した培養培地を用いて、土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させ、その後、培養液の各々にカテコールを添加して酵素反応を行い、培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断して、MPN法を用いて、所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、所定値以上であるかどうかを判定することにより、汚染土壌の微生物を利用して分解が可能かどうかをより迅速かつ正確に評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の微生物分解評価方法、並びにその方法を利用した最適な土壌浄化処理方法の決定方法、ベンゼン分解微生物の増殖評価方法、及び土壌浄化管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染物質により汚染された土壌を浄化するための方法として、バイオレメディエーション技術が知られている。この技術は、汚染された土壌に存在する汚染物質分解微生物を利用するものであり、汚染分解微生物に必要な酸素(又は空気)や栄養源、活性化物質を汚染土壌に注入して迅速に土壌の浄化処理を行うための方法である。
【0003】
この技術を適用するには、設備投資や汚染土壌の注入物質の無駄を防止するために、あらかじめ、土壌に存在する特定の汚染物質を分解(無害化も含む)することができる微生物が汚染土壌に存在するか否かを評価する方法(例えば、特許文献1参照)を用いて、この技術が適用できるか否かを判断する必要がある。
【0004】
上述の評価方法は、汚染物質量の減少や、微生物が汚染物質を分解するのに必要とする酸素量の減少や、汚染物質が分解されることにより生じる二酸化炭素量の増加を評価対象とするものであって、直接、微生物の存在を判断したり、その数を測定したりしないので、バイオレメディエーション技術が適用できるか否かを正確かつ迅速に判断することができない。また、土壌中に微生物が存在していても評価対象の物質の変化が微量であるため、迅速に判断することができないという問題がある。そのため、バイオレメディエーション技術を有効に利用することや、浄化工事をスムーズに進行させることができなくなるという問題を伴うこともあった。
【特許文献1】特開平9−314120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、より迅速かつ正確に汚染土壌をその存在する微生物で分解することができるか否かを評価することができる方法、並びにその方法を利用した最適な土壌浄化処理方法の決定方法、ベンゼン分解微生物の増殖評価方法、及び土壌浄化管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、土壌を汚染しているベンゼンを分解できる微生物の数を計測することができれば、ベンゼンで汚染されている土壌をその土壌に存在する微生物で分解することができるか否かをより迅速かつ正確に評価することができるのではないかと考えた。しかしながら、従来においては、ベンゼンを分解することができる微生物を土壌中の全菌から選択して直接計測する方法は知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、ベンゼンを分解することができる微生物を選択的に増殖させるために、栄養源である炭素源としてベンゼンのみを用いてあらかじめ培養する処理、及びベンゼンを分解することができる微生物の増殖の有無を迅速かつ的確に判断するために、上記培養後に、酸化することにより黄色く発色するカテコールを添加して酵素反応を行い、呈色反応を用いて微生物の増殖の有無を判断する処理を含んだMPN法を用いることにより、ベンゼンを分解できる微生物の数を迅速に計測することができるのではないかと考えた。
【0008】
そこでまず、ベンゼンにより汚染された土壌を採取し、その土壌から得られた微生物をベンゼンのみを炭素源とした培養培地で培養した後、さらにカテコールを添加して酵素反応を行い、培養液が黄色く発色するか否かを確認した。なお、対照としては、炭素源として何も加えないで培養した後、カテコールを添加して酵素反応を行った。その結果、ベンゼンを添加した培地で培養した試料のみ、有意に黄色く発色した。これにより、土壌に存在するベンゼン分解微生物は、炭素源としてベンゼンのみを用いることにより増殖することができ、また、増殖したベンゼン分解微生物は、ベンゼンだけでなくカテコールも酸化することができることを見出した。このようにして、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に用いられるMPN法は、現場における土壌がベンゼンで汚染されている場合に、土壌に存在する微生物数を測るために用いられ、土壌を所定量採取し、採取した土壌を液体に懸濁することにより採取した土壌中の微生物を液体中に移行させる工程と、炭素源としてベンゼン環を有する化合物のみを添加した培養培地を用いて、微生物を移行させた液体を一定の倍率で段階的に希釈し、各希釈率の希釈培養液をそれぞれ複数培養し、土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させる培養工程と、培養工程後の培養液の各々にカテコールを添加して行う酵素反応工程と、酵素反応工程後の培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断する判断工程と、各希釈段階で、ベンゼン分解微生物が増殖した培養液の数から、微生物を移行させた液体中に存在するベンゼン分解微生物数を算出する工程と、を含む。
【0010】
前記ベンゼン環を有する化合物としては、酸化すると発色する化合物以外のものであって、ベンゼン分解微生物を特異的に増殖させるための栄養源(炭素源)であればどのようなものでもよく、例えば、ベンゼンを用いることができる。
【0011】
なお、本発明において『MPN(最確数)法』とは、微生物数を測定する方法の一つであり、特に溶液中での微生物の濃度が希薄な場合に有効である。この方法は、微生物の入った希釈溶液を複数に分画した時、各分画に入る微生物数の分布がポアソン分布にしたがっているという考え方に立脚するもので、連続した各希釈段階において複数の分画を準備し、各分画に微生物が存在するか否かを判定することにより、確率論的に微生物のMPN (最確数) 値を求め、元の溶液中の微生物数とする方法をいう。より具体的には、微生物の入った溶液を一定倍率で段階的に希釈し、連続した希釈率における希釈溶液をそれぞれ複数本の試験管にわけ、それらの試験管を十分な期間培養することにより各試験管における微生物の存在の有無を確認し、各希釈率における微生物の存在した試験管の本数から、最確数表を用いて元の溶液中の微生物の数を得ることができる。
【0012】
そして、本発明に係る汚染土壌の微生物分解評価方法は、上記MPN法を用いて所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度(土壌の単位質量当たりの微生物数)を算出し、土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度が所定値以上であるかどうかを判定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る最適な土壌浄化処理方法の決定方法は、ベンゼンで汚染された土壌を浄化する場合に、最適な土壌浄化処理方法を決定する方法であって、上記MPN法を用いて所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度が所定値以上である場合に土壌に存在するベンゼン分解微生物を利用して土壌を浄化する処理方法を選択することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係るベンゼン分解微生物の増殖評価方法は、ベンゼンで汚染された土壌の浄化処理中に、土壌におけるベンゼン分解微生物の増殖の程度を評価する方法であって、上記MPN法を用いて所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して土壌浄化処理を施している土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、算出したベンゼン分解微生物の濃度を、土壌浄化処理を施している土壌を採取する前の土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度と比較することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る土壌浄化管理方法は、ベンゼンで汚染された土壌に存在する微生物を利用して土壌を浄化するための管理方法であって、上記MPN法を用いて所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度に応じて、土壌に対する空気又は酸素の注入量を変えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より迅速かつ正確に汚染土壌をその存在する微生物で分解することができるか否かを評価することができる方法、並びにその方法を利用した最適な土壌浄化処理方法の決定方法、ベンゼン分解微生物の増殖評価方法、及び土壌浄化管理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0018】
==汚染土壌の微生物分解評価方法==
本発明の汚染土壌の微生物分解評価方法は、再開発の予定地や売買された土地などの現場において、その土壌がベンゼンで汚染されていることが確認された場合に実施される。この評価方法の実施により、ベンゼンで汚染された土壌が、その土壌に存在するベンゼン分解微生物により浄化可能かどうかを評価することが可能になる。なお、土壌がベンゼンで汚染されていることの確認は、日本工業規格K0125の5.1、5.2又は5.3.2に定める測定方法に準じてベンゼンの濃度を測定することにより行うことができる。
【0019】
汚染土壌の微生物による分解が可能かどうかの評価は、ベンゼンで汚染された土壌を所定量採取し、採取した土壌を液体に懸濁することにより採取した土壌中の微生物を液体中に移行させる工程と、炭素源としてベンゼン環を有する化合物のみを添加した培養培地を用いて、微生物を移行させた液体を一定の倍率で段階的に希釈し、各希釈率の希釈培養液をそれぞれ複数培養し、土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させる培養工程と、培養工程後の培養液の各々にカテコールを添加して行う酵素反応工程と、酵素反応工程後の培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断する判断工程と、各希釈段階で、ベンゼン分解微生物が増殖した培養液の数から、微生物を移行させた液体中に存在するベンゼン分解微生物数を算出する工程と、を含むMPN法を用いて採取した所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測し、現場における土壌のベンゼン分解微生物の濃度を算出し、算出されたベンゼン分解微生物の濃度が所定値(土壌に存在する微生物を利用して土壌中のベンゼンを分解するのに最低限必要なベンゼン分解微生物の濃度値)以上であるかどうかを判定することによって行われる。
【0020】
なお、判定により、算出されたベンゼン分解微生物の濃度が所定値以上ではない、すなわち、所定値未満であると判定された場合、ベンゼンで汚染された土壌が、その土壌に存在するベンゼン分解微生物により浄化できないと判断する。一方、判定により、算出されたベンゼン分解微生物の濃度が所定以上であると判定された場合、ベンゼンで汚染された土壌が、その土壌に存在するベンゼン分解微生物により浄化可能と判断する。
【0021】
以上のように、培養工程において、ベンゼン環を有する化合物のみを炭素源とした培養培地を用いることにより、土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させることができる。また、培養工程において、選択的に増殖されたベンゼン分解微生物にカテコールを栄養源として与えることにより、カテコールが酸化されて黄色く発色するので、簡易にベンゼン分解微生物の増殖の有無を判断することができるようになる。なお、カテコールによる発色の有無の判定は、目視して行ってもよいし、吸光度による測定によって行ってもよい。
【0022】
このように、ベンゼンにより汚染された土壌中のベンゼン分解微生物の数やベンゼン分解微生物の濃度を、呈色反応を用いたMPN法で定量することにより、ベンゼン分解微生物の数や濃度を、迅速かつ正確に判断することができるようになる。また、算出された分解微生物の濃度が所定値以上であるかどうかを判定することにより、ベンゼンにより汚染された土壌をその土壌に存在する微生物を利用して浄化することができるか否かを迅速かつ正確に評価することが可能となる。
【0023】
なお、上述のベンゼン環を有する化合物としては、ベンゼン環を1又は2以上含むものであればどのようなものでもよいが、ベンゼンを用いることが好ましい。
【0024】
また、土壌中に存在するベンゼン分解微生物を培養する際に用いられる培養培地としては、寒天培地又は液体培地を用いることができるが、液体培地を用いることが好ましい。培養培地としては、ベンゼン分解微生物を選択的に増殖させることができるものであれば特に制限されるものではない。例えば、ベンゼン環を有する化合物以外に、窒素やリンなどの微量必須要素などの栄養源を含む培養培地を用いてもよい。
【0025】
==MPN法==
以下、MPN法について例を挙げて説明する。
【0026】
所定量の土壌を滅菌水で洗浄し、付着している微生物を滅菌水に移行させる。例えば、土壌を、その重量の9倍量の滅菌水で洗浄した希釈溶液を1次希釈溶液(10希釈溶液)とし、その一部を滅菌水により10倍に希釈するという操作を段階的に(繰り返して)行い、2次からn次までの各希釈率の希釈溶液(10、10、・・・10希釈溶液)を調製する。このようにして調製された各希釈率の希釈溶液(10、10、10、・・・10希釈溶液)をそれぞれ10本の試験管に分け、栄養源として炭素源を含まない培養培地を各試験管に添加してさらに10倍に希釈する(それぞれ10、10、・・・10n+1倍に希釈した培養液が調製される。)。次に、各希釈率で調製された各10本の試験管のうち各5本の試験管に、炭素源としてベンゼンを(好ましくは、最終濃度で100ppm程度となるように)添加して、全ての試験管を(好ましくは5日以上、より好ましくは1週間程度)培養した後、カテコールを(好ましくは、最終濃度で1〜5mMとなるように)添加して酵素反応(好ましくは、30℃で30分間)を行う。その後、各希釈率の培養液において、ベンゼン環を有する化合物を添加した5本の試験管のうち何本の試験管が有意に黄色く発色したかを確認する。全ての希釈培養液の中から、連続する3段階の倍率(10、10X+1、10X+2)で希釈した培養液の結果を採用し、あらかじめ作成されたMPN表からMPN値を求め、この値を10X+1倍して、所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を算出する。このようにして、MPN法によりベンゼン分解微生物の数を算出することができる。
【0027】
なお、3段階の希釈倍率の選択は、以下のいずれかの条件を満たす希釈倍率を選択することが好ましい。
条件1:5本の試験管全てで発色が確認された最高倍率を10とする。
条件2:5本の試験管全てで発色が確認されなかった最低倍率を10X+2とする。
ただし、条件1を満たす3段階の希釈倍率と条件2を満たす3段階の希釈倍率が異なる場合、より正確を期すには、それぞれで得られたMPN値を掛け合わせて、その平方根をとることが好ましい。例えば、有意に黄色く発色した試験管の数が、低倍率から5−3−2−0という結果が得られた場合には、5−3−2を採用したときのMPN値と、3−2−0を採用したときのMPN値を掛け合わせて、その平方根をとればよい。
【0028】
==最適な土壌浄化処理方法の決定方法==
上述のように、MPN法を用いて、採取した所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出することにより、最適な土壌浄化処理方法の決定が可能となる。
【0029】
具体的に例を挙げると、土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度が所定値未満の場合、すなわち、土壌に存在するベンゼン分解微生物の量が少ない場合、バイオレメディエーション技術を適用して土壌の浄化を期待することは難しいと判断することができる。このように判断された場合には、他の方法、例えば、ベンゼン分解菌が存在する土壌を混入したり、土壌を採取して加熱処理したり、土壌を洗浄処理したり、ベンゼン分解微生物を注入したりするなどの処理方法を迅速に適用することが可能となる。
【0030】
一方、土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度が所定値以上の場合、すなわち、土壌に存在するベンゼン分解微生物の量が土壌のベンゼンを分解するのに十分である場合、土壌に存在するベンゼン分解微生物を有効に利用して土壌を浄化する処理方法(バイオレメディエーション法)を選択することが可能となる。
【0031】
以上のように、本発明により、ベンゼンで汚染された土壌に対して最適な土壌の浄化処理方法を迅速に(数週間程度で)決定することができるので、浄化工事の計画を立てやすく、迅速かつ正確に土壌の浄化を図ることが可能となる。また、本発明により、無駄な設備投資や薬剤の使用を防ぐことが期待でき、浄化工事をスムーズに進行させることが可能となる。
【0032】
==ベンゼン分解微生物の増殖評価方法==
また、上述のMPN法を適用することにより、土壌浄化処理中のベンゼン分解微生物の数の計測や、ベンゼン分解微生物の濃度の算出も可能であることから、経時的にベンゼン分解微生物が増殖しているかどうか、また、どの程度増殖しているのかを把握することができるようになる。これにより、例えば対数増殖期にあるベンゼン分解微生物等の場合、対数曲線に従って外挿することにより、将来のベンゼン分解微生物の濃度変化の予測が可能となる。それに従い、土壌におけるベンゼンの濃度の減少も予測が可能となると考えられる。もって、土壌浄化処理による浄化工事の終了時期も予測できるものと期待される。
【0033】
さらに、ベンゼン分解微生物の濃度の変化に応じて、土壌において酸素が不足するかどうか予測したり、また、酸素の供給量の増加の必要性を判断したりすることができるようになる。このようにして、本発明により、土壌におけるベンゼン分解微生物を有効に活用した土壌の浄化を効率よく運営させることが可能になる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
[実施例1]
まず、以下の工程により、工場跡地Aの土壌におけるベンゼン分解菌の数の計測を行った。
(1) 工場跡地AのGL−6mから採取し、バイオプスター及び通水工法で処理した土(全菌数3.0×104 CFU/g,含水比35%)1gを9mlの滅菌水が入った試験管に加えて懸濁した(この懸濁液を10倍希釈液とする。)。
(2) (1)で調製した希釈液1mlを滅菌水9mlに懸濁した(この懸濁液を102希釈液)。
(3) (2)の作業を繰り返し、10倍ずつの希釈率の希釈液系列(各希釈液をそれぞれ103,104,105,106希釈液とする。)を準備した。
【0036】
(4) 炭素源を含まない培地(=MBN培地;4.0g/l 硝酸アンモニウム、0.53g/l リン酸一カリウム、2.0g/l リン酸二ナトリウム・12H2O、0.17g/l 硫酸カリウム、0.10g/l 硫酸マグネシウム・7H2O、1ml/l Trace Element solu.(0.01g/l ほう酸、0.287g/l 塩化亜鉛、0.048g/l 塩化コバルト・6H2O、0.048g/l モリブデン酸ナトリウム・2H2O、0.125g/l 硫酸銅・5H2O、0.223g/l 硫酸マンガン・4H2O、1.5g/l 塩化カルシウム・2H2O、0.01g/l 塩化ナトリウム、0.83g/l ヨウ化ナトリウム))を9ml試験管に取り分けて滅菌したものを多数準備した。
(5) (4)の培地に(1)〜(3)で準備した各希釈率の希釈液を1mlずつ加え、各希釈率の培養液試料(それぞれ102,103,104,105,106,107培養液試料とする。)をそれぞれ10本の試験管に0.5 mlずつ注入した。
【0037】
(6) 各希釈倍率の培養液試料のうち、各5本の試料について、100ppmとなるようにベンゼン飽和溶液を加えて密栓した(残りの5本の試料については、ベンゼンを加えないで培養し、対照試料とする。)。
(7) 上記培養液試料を、25℃で1週間振盪培養した。
(8) 培養後、各試料から4mlを分取し、これに10mM カテコールを2ml添加して、30℃で30分間反応させ、有意に黄色く発色したものを陽性と判断して各希釈倍率において5本中(ベンゼン飽和溶液を添加したものについて)何本が陽性を示したかを数えた。その結果を表1及び表2に示す。なお、表1は目視による結果であり、表2は吸光度測定器(OD375 nm)で測定した結果である。
【0038】
[表1]

[表2]

【0039】
(9) 上記結果(P=5,P=2,P=0)から、図1に示されるMPN表に基づいて土壌中の微生物の数を計測した(微生物の数=0.49×103×2)。その結果、約10個(濃度=9.8×102個/g-土(wet))であることがわかった。
【0040】
次に、以下の工程により、工場跡地Aの土壌でベンゼンの微生物分解が可能かどうかを判定する微生物トリータビリティー試験を行った。
(1) 25℃で1日静置した工場跡地Aの土壌を乾土換算で5g計りとり、褐色耐圧ビン(容積160 ml)に入れてしっかりと密封した(標準区)。なお、工場跡地Aの土壌を滅菌した土を対照として使用した(滅菌区)。
(2) 標準区及び滅菌区に現地の地下水100 mlを加えた後、上記ビンの気相部分を酸素に置換した。
(3) 上記ビンにベンゼン濃度が10ppmになるように、ベンゼン飽和水溶液(800μl)をシリンジで添加した。
(4) 25℃で振盪培養した(140 rpm)。
【0041】
(5) 培養から、12、24、48、又は120時間後にシリンジで200μlの培養液を採取し、20 mlにメスアップして100倍希釈溶液とし、ヘッドスペース法で希釈溶液から得られた気化ガス試料200μlをポータブルガスクロマトグラフ(PID-GC:GC-8610,JEOL日本電子データム株式会社製、分離カラム キャピラリーカラムNBW-310SS30,JEOL日本電子データム株式会社製)を用いてベンゼンの濃度を測定した。その結果を図2に示す。
【0042】
図2に示すように、標準区においては経時的なベンゼンの分解が確認できたことから、ベンゼン分解微生物の濃度が少なくとも約10個/g-土(wet)以上であれば、十分な酸素を供給することにより、土壌に存在する微生物を利用して土壌中のベンゼンを分解することができることが示唆された。
【0043】
[実施例2]
工場BのGL−3mから採取し、バイオプスター及び通水工法で処理した土(全菌数2.6×104 CFU/g,含水比41%)を用いて、実施例1に記載の方法と同様にベンゼン分解菌の数の計測及び微生物トリータビリティー試験を行った。表3に目視による結果を、表4に吸光度測定器(OD375 nm)で測定した結果を、図3に、工場Bの土壌に対して微生物トリータビリティー試験を行った時のベンゼン濃度の経時的変化の結果をそれぞれ示す。
【0044】
[表3]

[表4]

【0045】
表3及び表4の結果(P=0,P=0,P=0)から、工場Bの土壌に存在するベンゼン分解微生物の数は102個未満(濃度=102個/g-土(wet)未満)であることがわかった。また、図3の結果から、ベンゼン分解微生物の濃度が少なくとも10個/g-土(wet)未満では、十分な酸素を供給しても土壌に存在する微生物を利用して土壌中のベンゼンを分解することができないことが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】MPN表を示す図である。
【図2】工場跡地Aの土壌に対して微生物トリータビリティー試験を行った時のベンゼン濃度の経時的変化の結果を示す図である。
【図3】工場Bの土壌に対して微生物トリータビリティー試験を行った時のベンゼン濃度の経時的変化の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現場における土壌がベンゼンで汚染されている場合に、前記土壌に存在する微生物を利用して前記土壌中のベンゼンを分解することができるかどうかを評価する汚染土壌の微生物分解評価方法であって、
前記土壌を所定量採取し、採取した土壌を液体に懸濁することにより前記採取した土壌中の微生物を液体中に移行させる工程と、
炭素源としてベンゼン環を有する化合物のみを添加した培養培地を用いて、前記微生物を移行させた液体を一定の倍率で段階的に希釈し、各希釈率の希釈培養液をそれぞれ複数培養し、前記土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させる培養工程と、
前記培養工程後の前記培養液の各々にカテコールを添加して行う酵素反応工程と、
前記酵素反応工程後の前記培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断する判断工程と、
前記各希釈段階で、ベンゼン分解微生物が増殖した前記培養液の数から、前記微生物を移行させた液体中に存在するベンゼン分解微生物数を算出する工程と
を含むMPN法を用いて、前記所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して、前記土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、
前記土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度が所定値以上であるかどうかを判定することを特徴とする汚染土壌の微生物分解評価方法。
【請求項2】
前記ベンゼン環を有する化合物が、ベンゼンであることを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の微生物分解評価方法。
【請求項3】
前記所定値が10個/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染土壌の微生物分解評価方法。
【請求項4】
ベンゼンで汚染された土壌を浄化する場合に、最適な土壌浄化処理方法を決定する方法であって、
前記土壌を所定量採取し、採取した土壌を液体に懸濁することにより前記採取した土壌中の微生物を液体中に移行させる工程と、
炭素源としてベンゼン環を有する化合物のみを添加した培養培地を用いて、微生物を移行させた液体を一定の倍率で段階的に希釈し、各希釈率の希釈培養液をそれぞれ複数培養し、前記土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させる培養工程と、
前記培養工程後の前記培養液の各々にカテコールを添加して行う酵素反応工程と、
前記酵素反応工程後の前記培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断する判断工程と、
前記各希釈段階で、ベンゼン分解微生物が増殖した前記培養液の数から、前記微生物を移行させた液体中に存在するベンゼン分解微生物数を算出する工程と
を含むMPN法を用いて、前記所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して、前記土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、
前記土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度が所定値以上である場合に前記土壌に存在するベンゼン分解微生物を利用して土壌を浄化する処理方法を選択することを特徴とする最適な土壌浄化処理方法の決定方法。
【請求項5】
ベンゼンで汚染された土壌の浄化処理中に、前記土壌におけるベンゼン分解微生物の増殖の程度を評価する方法であって、
前記土壌浄化処理を施している土壌を所定量採取し、採取した土壌を液体に懸濁することにより前記採取した土壌中の微生物を液体中に移行させる工程と、
炭素源としてベンゼン環を有する化合物のみを添加した培養培地を用いて、微生物を移行させた液体を一定の倍率で段階的に希釈し、各希釈率の希釈培養液をそれぞれ複数培養し、前記土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させる培養工程と、
前記培養工程後の前記培養液の各々にカテコールを添加して行う酵素反応工程と、
前記酵素反応工程後の前記培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断する判断工程と、
前記各希釈段階で、ベンゼン分解微生物が増殖した前記培養液の数から、前記微生物を移行させた液体中に存在するベンゼン分解微生物数を算出する工程と
を含むMPN法を用いて、前記所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して、前記土壌浄化処理を施している土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、
算出したベンゼン分解微生物の濃度を、前記土壌浄化処理を施している土壌を採取する前の土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度と比較することを特徴とするベンゼン分解微生物の増殖評価方法。
【請求項6】
ベンゼンで汚染された土壌に存在する微生物を利用して前記土壌を浄化するための管理方法であって、
前記土壌を所定量採取し、土壌を液体に懸濁することにより土壌中の微生物を液体中に移行させる工程と、
炭素源としてベンゼン環を有する化合物のみを添加した培養培地を用いて、微生物を移行させた液体を一定の倍率で段階的に希釈し、各希釈率の希釈培養液をそれぞれ複数培養し、前記土壌中のベンゼン分解微生物を選択的に増殖させる培養工程と、
前記培養工程後の前記培養液の各々にカテコールを添加して行う酵素反応工程と、
前記酵素反応工程後の前記培養液の各々でベンゼン分解微生物が増殖したか否かを判断する判断工程と、
前記各希釈段階で、ベンゼン分解微生物が増殖した前記培養液の数から、前記微生物を移行させた液体中に存在するベンゼン分解微生物数を算出する工程と
を含むMPN法を用いて、前記所定量の土壌に存在するベンゼン分解微生物の数を計測して、前記土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度を算出し、
前記土壌におけるベンゼン分解微生物の濃度に応じて、前記土壌に対する空気又は酸素の注入量を変えることを特徴とする土壌浄化管理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−14705(P2006−14705A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198350(P2004−198350)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】