説明

汚染土壌浄化装置及びこの装置を用いた汚染土壌の浄化方法

【課題】周辺環境に優しく、かつ工期と経済性を満足できる土壌の浄化を確実に行うことができる汚染土壌浄化装置及びこの装置を用いた汚染土壌の浄化方法を提供する。
【解決手段】汚染土壌浄化装置1は、水循環回路2、浄化剤注入回路3、及び吸水・注入装置4を備えている。汚染土壌へ吸水・注入装置4を圧入し、水循環回路2及び浄化剤注入回路3を吸水・注入装置4に接続する。三方弁5の切り替え操作を行うことによって、水循環回路2を吸水・注入装置4に連通させ、土壌中の汚染物質を吸引除去する。その後、三方弁5の切り替え操作を行うことによって、浄化剤注入回路3を吸水・注入装置4に連通させ、その土壌へ汚染物質を浄化するための浄化剤を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、汚染土壌浄化装置及びこの装置を用いた汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染物質の一つである揮発性有機化合物(VOC)については、土壌汚染対策法において第一種特定有害物質に指定されており、その中には、トリクロロエチレン(TCE)、各種のジクロロエチレン、四塩化炭素等の10種類の物質が含まれている。これらの化合物は一般的に、比重が大きく、粘性が小さく、土壌への吸着性が小さく、揮発性が高い、といった特徴を持つ。そのため、土壌に浸入したVOCは、土粒子の空隙にガスとして存在するだけではなく、比重の大きい液状のVOCとして、間隙を抜けて地下水に入り地下水汚染を生じさせる。
また、VOCは常温で揮発しやすく水より比重が大きいため地中深く浸透し、さらに、VOCは水に溶解しにくいがある程度の量は溶解するため、土壌や地下水において最も拡散しやすい等の特徴がある。
【0003】
非特許文献1によれば、現在、土壌汚染対策技術として用いられる方法を概略大別すると、(1)遮断・遮水(隔離封じ込め、原位置封じ込め)、(2)固化・不溶化(化学的固化等)、(3)熱分解・固化(溶融固化・ガラス固化)、(4)分解(化学的酸化還元・バイオレメディエーション、透過性浄化壁等)、(5)分離・除去(掘削除去、地下水揚水、土壌洗浄、加熱吸引、土壌ガス吸引等)となる。
これらの技術のうち、(3)熱分解・固化(例えば、特許文献1)、(4)分解(例えば、特許文献2)、(5)分離・除去(例えば、特許文献3)が、VOCによる土壌汚染に用いられている。
【0004】
【非特許文献1】「建築技術」,株式会社建築技術,平成15年4月1日,No.639,p.135,表1
【特許文献1】特開昭57−178023号公報
【特許文献2】特開2003−305453号公報
【特許文献3】特開2003−94037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらのVOCによる土壌汚染対策技術のうち、(3)熱分解・固化(溶融固化・ガラス固化)については、溶融固化が溶融スラグ化による汚染物質揮散と固形化による技術であり、ガラス固化については原位置あるいは掘削土壌での電極による溶融ガラス固化による技術であるため、現在のところ使用例が少ないことをみると、最適な技術ではないと考えられる。(4)分解については、周辺環境に与える影響は少ないものの、修復に要する期間が長期化する傾向があるといった問題点がある。(5)の分離・除去については、VOCが地中深く浸透しやすい特徴があることから、低温加熱法では汚染地盤の掘削処理が難しく、地下水揚水による方法では、必要揚程高が大きくなって揚水が難しくなったり、地下水に細粒分が多い場合には、通常吸水管の目詰まり対策に使用しているフィルタが目詰まりを生じて揚水能力を著しく低下させてしまうといった問題点がある。また、揚水量が過大になると地盤沈下等を誘発しやすいといった問題点もある。
【0006】
これまで、VOCによる土壌汚染対策技術について述べてきたが、土壌汚染物質はVOCだけではなく、この他の重要な汚染物質として汚染油分が挙げられる。従って、VOCだけではなく、汚染油分を浄化する技術、あるいはVOCと汚染油分とを同じ装置あるいは同じ方法で浄化する技術も必要とされている。
【0007】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、周辺環境に優しく、かつ工期と経済性を満足できる土壌の浄化を行うことができる汚染土壌浄化装置及びこの装置を用いた汚染土壌の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る汚染土壌浄化装置は、水槽に貯えられた水を昇圧して循環させる高圧ポンプ、及び循環された水を浄化する浄化手段を備えた水循環回路と、浄化剤を貯蔵する貯蔵槽及び浄化剤を注入する注入ポンプを備えた浄化剤注入回路と、ノズルを有する循環水管、及びノズルを内部に包含するように取り付けられノズル上方の位置にスリットを有する外管を備えた吸水・注入装置とを備え、水循環回路と浄化剤注入回路とは切り替え可能であって、いずれか一方が吸水・注入装置に連通され、吸水・注入装置は、水循環回路が選択された場合には、スリットから汚染物質を吸引可能であり、浄化剤注入回路が選択された場合には、スリットから浄化剤を注入可能であることを特徴とする。
【0009】
この発明に係る汚染土壌の浄化方法は、この発明に係る汚染土壌浄化装置を用い、吸水・注入装置を、汚染物質が存在する深度まで貫入する工程と、水槽に貯えられた水が水循環回路を循環し、その循環された水がノズルにより流速を高められる際に発生する負圧によって、汚染物質がスリットから吸引され、循環された水と共に地上に運ばれた汚染物質が浄化手段によって浄化される工程と、汚染物質が吸引された後の地盤に、吸水・注入装置から前記浄化剤を注入する工程とを備える。
汚染物質が揮発性有機化合物を含む汚染水の場合には、浄化剤として、揮発性有機化合物を還元する還元剤を使用することが好ましい。
汚染物質が汚染油分を含む汚染水の場合には、浄化剤として、汚染油分を分解する分解剤を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、吸水・注入装置に、水循環回路及び浄化剤注入回路を切り替えて接続することによって、土壌中の汚染物質を吸引除去した後、その土壌中へ浄化剤を注入して残留汚染物質に対して長期間の浄化効果を期待するようにしたので、周辺環境に優しく、かつ工期と経済性を満足できる土壌の浄化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、この実施の形態に係る汚染土壌浄化装置1は、水循環回路2、浄化剤注入回路3、及び吸水・注入装置4を備えている。
水循環回路2は、水循環回路2を循環する水(以下、循環水と称する)が貯えられる水槽11、水槽11に貯えられた循環水を昇圧して水循環回路2中を循環させる高圧ポンプ12、循環水に混入する砂等を除去するサンドスクリーン13、循環水から汚染物質を除去する浄化槽14、及び浄化槽14において分離された汚染物質を貯蔵する貯溜槽15を備えている。ここで、サンドスクリーン13及び浄化槽14は、循環水を浄化する装置であり、浄化手段を構成する。
浄化剤注入回路3は、浄化剤を貯蔵する貯蔵槽16と、貯蔵槽16に貯蔵される浄化剤を土壌に注入する注入ポンプ17とを備えている。
【0012】
図2に示されるように、吸水・注入装置4は、H型鋼21のフランジ21aに沿うようにして、循環水管22と外管23とを備えている。循環水管22は、H型鋼21の下端部21b付近でコの字状に折り曲げられて180°向きを変え、その先端には、循環水をジェット水流として噴射するノズル24が設けられている。外管23は、ノズル24を内部に包含するように、循環水管22の先端に取り付けられ、ノズル24の上方にあたる位置にスリット25が形成されている。
【0013】
また、図1に示されるように、水循環回路2と浄化剤注入回路3とは、三方弁5によって接続され、さらに、吸水・注入装置4と接続されている。三方弁5の切り替え操作によって、水循環回路2及び浄化剤注入回路3のいずれか一方が、吸水・注入装置4と連通するようになっている。
【0014】
次に、この実施の形態に係る汚染土壌浄化装置1の動作を説明する。
事前調査を行った結果、図3(a)に示されるように、地中の深度の深い所にVOCによって汚染された土壌及び地下水が、地中の浅い所に汚染油分が存在することが分かっていると仮定する。
この地盤上にクレーン6を設置し、吸水・注入装置4を地中へ垂直に圧入する。この際、吸水・注入装置4は、VOCにより汚染された土壌及び地下水を浄化するために地中の深いところへ圧入したもの4a、及び汚染油分を浄化するために地中の浅い所へ圧入したもの4bの2種類にわけられる。この2種類の吸水・注入装置4a,4bは、地盤を上方より見た図3(b)に示されるように、例えば地盤上を等ピッチで交互になるように圧入される。
【0015】
このようにして、吸水・注入装置4を汚染土壌に圧入した後、水循環回路2及び浄化剤注入回路3を、VOCにより汚染された土壌及び地下水を浄化するための吸水・注入装置4aに接続し、三方弁5の切り替え操作を行うことによって、水循環回路2を吸水・注入装置4aに連通させる。
図1に示されるように、高圧ポンプ12を起動し、水槽11内の循環水を吸水・注入装置4aに送水する。吸水・注入装置4aに送水された循環水は、ノズル24(図2参照)から外管23(図2参照)中に噴射される。この際、ノズル24から噴射された循環水はジェット噴流となり、周囲に負圧を生じさせる。この負圧によって、外管23に形成されたスリット25(図2参照)から、土壌中のVOCによって汚染された地下水が吸引される。吸引されたVOCは外管23内を上昇し、サンドスクリーン13で土砂分を濾過された後、浄化槽14へ送られる。浄化槽14では、曝気処理等により揮発したVOCと水とに分離される。揮発したVOCは貯溜槽15へ送られ、活性炭による吸着処理がなされて適宜運搬処理される。一方、VOCと分離された循環水は、水槽11へ戻される。
この操作を、その他の吸水・注入装置4aにおいて繰り返すことにより、VOCにより汚染された地下水を除去する。
【0016】
この後、三方弁5の切り替え操作を行い、浄化剤注入回路3を吸水・注入装置4aに連通させる。
図1に示されるように、注入ポンプ17を起動することによって、貯蔵槽16内の浄化剤として鉄粉懸濁液のような還元剤が、循環水管22及び外管23の両方を通って、吸水・注入装置4aに送られる。吸水・注入装置4bに送られた鉄粉懸濁液は、VOCに汚染された地下水が吸引された土壌へ、スリット25から注入される。
土壌へ注入された鉄粉懸濁液は、残留した地下水に含まれるVOCや土粒子の空隙にガスとして存在するVOCと反応し、炭化水素へ還元する。例えば、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、四塩化炭素等のVOCは、炭化水素であるエチレンやエタンに還元される。
【0017】
このようにして、地中の深度の深い所を浄化した後、汚染油分によって汚染された地中の深度の浅い所の洗浄を行う。
水循環回路2及び浄化剤注入回路3を、汚染油分を浄化するための吸水・注入装置4bに接続する。この後、地中の深度の深い所を浄化した方法と同じ方法で、汚染油分を吸引除去した後、その土壌へ浄化剤を注入する。ここで、浄化剤として、VOCの場合と同じような還元剤を注入しても、汚染油分を分解することはできない。ここで、使用される浄化剤としては、汚染油分を分解する土壌中の微生物を増殖するための栄養塩溶液が最適である。このような栄養塩を土壌中に注入することによって、汚染油分を分解する土壌中の微生物が増殖・活性化され、汚染油分が炭素数の少ない炭化水素等へ分解される。栄養塩としては、例えば、栄養源となる窒素やリンを含んだ無機栄養塩、あるいはある種の水素供与剤等が挙げられる。
【0018】
このように、吸水・注入装置4に、水循環回路2及び浄化剤注入回路3を切り替えて連通させることによって、土壌中の汚染物質を吸引除去した後、その土壌中へ浄化剤を注入して、残留汚染物質に対して長期間の浄化効果を期待することができるため、周辺環境に優しく、かつ工期と経済性を満足できる土壌の浄化を行うことができる。また、汚染物質の存在深度において、目詰まりなく確実に、汚染物質の吸引除去および浄化剤の注入が可能である。
また、水循環回路を循環する高圧水がノズルにより流速を高められる際に発生する負圧による吸水・注入装置4は、真空ポンプに比べてはるかに大きな揚水能力を有し、10m以上の深層部からも地上へ揚水することが容易にできる。さらに、吸水と同時に、スリット25の大きさ未満の砂礫等(粒径10mm程度以内)の土粒子類をもろとも、高速で循環する循環水と共に地上へ送られる。このため、スリット25には目詰まりが生じないため、確実に汚染物質の吸引除去が可能で、フィルタを備える不要にすることができる。
【0019】
この実施の形態では、水循環回路2と浄化剤注入回路3とを三方弁5によって接続し、さらに、吸水・注入装置4に接続させ、三方弁5の切り替え操作によって、水循環回路2及び浄化剤注入回路3のいずれか一方を、吸水・注入装置4に連通するようにしたが、このような形態に限定されるものではない。水循環回路2と浄化剤注入回路3とを別々に設け、それぞれを別々に吸水・注入装置4に接続するようにしてもよい。それぞれを別々に吸水・注入装置4に接続することにより、水循環回路2及び浄化剤注入回路3のいずれか一方を、吸水・注入装置4に連通させることができる。
【0020】
この実施の形態では、還元剤として鉄粉懸濁液を用いたが、これに限定されるものではない。その他の公知の還元剤を適宜選択することができ、必要に応じて二種類の還元剤を混合させて使用することもできる。二種類の還元剤を混合させて注入する場合には、貯蔵槽16及び注入ポンプ17を二系列設け、二種類の還元剤を、それぞれ循環水管22及び外管23を介して吸水・注入装置4に供給し、スリット25から注入される直前に混合させるようにすることもできる。
【0021】
この実施の形態では、VOC及び汚染油分の双方が存在する場合について述べたが、VOCまたは汚染油分のいずれかが単独で存在しているときでも適用することができる。VOCまたは汚染油分のいずれかが単独で存在している場合についての実施の形態の概念図を、それぞれ図4及び図5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態に係る汚染土壌浄化装置の構成図である。
【図2】この実施の形態に係る汚染土壌浄化装置の吸引・注入装置の全体図である。
【図3】この実施の形態に係る汚染土壌浄化装置の吸引・注入装置を地盤に圧入する方法を説明するための図である。
【図4】土壌中のVOCを浄化するために、この実施の形態に係る汚染土壌浄化装置の吸引・注入装置を地盤に圧入する方法を説明するための図である。
【図5】土壌中の汚染油分を浄化するために、この実施の形態に係る汚染土壌浄化装置の吸引・注入装置を地盤に圧入する方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0023】
1 汚染土壌浄化装置、2 水循環回路、3 浄化剤注入回路、4,4a,4b 吸水・注入装置、11 水槽、12 高圧ポンプ、13 サンドスクリーン、14 浄化槽、15 貯溜槽、21 H型鋼、22 循環水管、23 外管、24 ノズル、25 スリット、31 貯蔵槽、32 注入ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽、前記水槽に貯えられた水を昇圧して循環させる高圧ポンプ、及び循環された前記水を浄化する浄化手段を備えた水循環回路と、
浄化剤を貯蔵する貯蔵槽及び前記浄化剤を注入する注入ポンプを備えた浄化剤注入回路と、
ノズルを有する循環水管、及び前記ノズルを内部に包含するように取り付けられノズル上方の位置にスリットを有する外管を備えた吸水・注入装置と
を備え、
前記水循環回路と前記浄化剤注入回路とは切り替え可能であって、いずれか一方が前記吸水・注入装置に連通され、
前記吸水・注入装置は、前記水循環回路が選択された場合には、前記スリットから汚染物質を吸引可能であり、前記浄化剤注入回路が選択された場合には、前記スリットから浄化剤を注入可能であることを特徴とする汚染土壌浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の汚染土壌浄化装置を用いた汚染物質を含む汚染土壌の浄化方法であって、
前記吸水・注入装置を、前記汚染物質が存在する深度まで貫入する工程と、
前記水槽に貯えられた前記水が前記水循環回路を循環し、その循環された前記水が前記ノズルにより流速を高められる際に発生する負圧によって、前記汚染物質が前記スリットから吸引され、前記循環された水と共に地上に運ばれた前記汚染物質が前記浄化手段によって浄化される工程と、
前記汚染物質が吸引された後の地盤に、前記吸水・注入装置から前記浄化剤を注入する工程と
を備える汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記汚染物質は、揮発性有機化合物を含む汚染水であり、
前記浄化剤は、前記揮発性有機化合物を還元する還元剤である
ことを特徴とする請求項2に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記汚染物質は、汚染油分を含む汚染水であり、
前記浄化剤は、前記汚染油分を分解する分解剤である
ことを特徴とする請求項2に記載の汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−15202(P2006−15202A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193930(P2004−193930)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】