説明

汚染地盤の浄化方法及び汚染地盤の浄化装置

【課題】注入障害を簡易に解消することができ、さらには、井戸近傍の透水性を改善することも可能な汚染地盤の浄化方法及び汚染地盤の浄化装置を提供する。
【解決手段】井戸20を介して汚染地盤1内に過酸化水素水を注入し、その汚染地盤1内に生息する好気性微生物を活性化させて、汚染地盤1を原位置で浄化する汚染地盤の浄化方法であって、井戸20は、その上部が密閉された状態にあり、この井戸20内に設けられた配管30を通じて汚染地盤1内に過酸化水素水を注入し、過酸化水素水の注入障害が生じた際に、井戸20の上部の密閉部分(具体的には、開放弁21)を開くこととする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染地盤の浄化方法及び汚染地盤の浄化装置に関し、特に、汚染地盤内に過酸化水素水を注入し、当該汚染地盤内に生息する好気性微生物を活性化させて、汚染地盤を原位置で浄化する汚染地盤の浄化方法及び汚染地盤の浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機汚染物質(例えば、ベンゼン、塩化エチレン類、油など)で汚染された汚染地盤については、当該汚染地盤内に生息する好気性微生物を活性化させて、原位置で浄化することが可能であり、この好気性微生物を活性化させるためには、当該汚染地盤内に酸素を十分に供給する必要がある。そこで、汚染地盤内に酸素を十分に供給する技術として、従来、汚染地盤に井戸を設け、この井戸を介して汚染地盤内に過酸化水素水を注入する技術が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−206732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、汚染地盤内に過酸化水素水を注入する際には、過酸化水素水の自己分解により酸素ガスが発生し、この気泡状の酸素ガスが土粒子の間隙を塞いでしまうため、汚染地盤内に過酸化水素水を注入しにくくなる(以下「注入障害」という。)。より具体的に説明すると、汚染地盤に設けられた井戸を介して当該汚染地盤内に過酸化水素水を注入する際には、その汚染地盤内に含まれる金属塩や鉱物類が触媒として作用し、過酸化水素水が自己酸化分解を起こすため、酸素ガスが発生する。そして、この酸素ガスが、井戸の近傍、とりわけ、井戸の外壁と汚染地盤との間に設けられるスクリーン層(このスクリーン層は珪砂などで作られることが多い。)などに留まると、酸素ガスの泡が過酸化水素水の流路を妨害し、過酸化水素水のスムースな注入が困難となる。その結果、井戸の洗浄を行う必要があるなど、特別なメンテナンスが必要となってしまう。
【0004】
また、透水性がそれ程良くない汚染地盤内に、過酸化水素水とともに薬剤(具体的には汚染地盤内に生息する好気性微生物の栄養剤など)を注入する場合には、井戸近傍の透水性が悪化すると、汚染地盤に対して注入可能な薬剤量が減少し、薬剤の影響が及ぶ範囲が狭小化してしまうことがある。そのため、このような場合には、井戸近傍の透水性を改善しながら、過酸化水素水とともに薬剤をも注入することが望ましい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、注入障害を簡易に解消することができ、さらには、井戸近傍の透水性を改善することも可能な汚染地盤の浄化方法及び汚染地盤の浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、汚染地盤に設けられた井戸を介して当該汚染地盤内に過酸化水素水を注入し、その汚染地盤内に生息する好気性微生物を活性化させて、当該汚染地盤を原位置で浄化する汚染地盤の浄化方法であって、前記井戸は、その上部が密閉された状態にあり、この井戸内に設けられた配管を通じて前記汚染地盤内に前記過酸化水素水を注入し、当該過酸化水素水の注入障害が生じた際に、前記上部の密閉部分を開くことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、汚染地盤に設けられた井戸を介して当該汚染地盤内に過酸化水素水を注入し、その汚染地盤内に生息する好気性微生物を活性化させて、当該汚染地盤を原位置で浄化する汚染地盤の浄化装置であって、前記井戸は、その上部が密閉された状態にあり、当該上部の密閉部分には開放弁が設けられ、この井戸内に設けられた配管を通じて前記汚染地盤内に前記過酸化水素水を注入し、当該過酸化水素水の注入障害が生じた際に、前記開放弁が開くように構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明において、前記開放弁は、前記井戸の上部に設けられた穴と、前記井戸の内部を仕切るように設けられた網と、前記井戸の内部のうち前記網の上方側に配置された第1のゴムボールと、前記井戸の内部のうち前記網の下方側に配置された第2のゴムボールと、第1のゴムボールと第2のゴムボールとを繋ぐ連結部と、を有し、前記配管を通じて前記汚染地盤内に前記過酸化水素水を注入し、前記井戸内の水位が低下すると、これに伴って前記第2のゴムボールが下方に移動し、続いて、前記過酸化水素水の注入障害が生じると、前記穴を塞いでいた前記第1のゴムボールが下方に引き下げられて前記穴が開放されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、注入障害を簡易に解消することができ、さらには、井戸近傍の透水性を改善することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る汚染地盤の浄化装置10を作動させて、汚染地盤1を原位置で浄化するときの様子を示す模式図、図2は、図1(c)の拡大図である。
【0011】
汚染地盤の浄化装置10は、汚染地盤1に設けられた井戸20を介して当該汚染地盤1内に過酸化水素水を注入し、汚染地盤1内に生息する好気性微生物を活性化させて、当該汚染地盤1を原位置で浄化するための装置である。
【0012】
井戸20は、その上部が密閉された状態にあり(但し、上部には穴20aが設けられている。)、当該上部には開放弁21が設けられ、この井戸20を介して汚染地盤1内に過酸化水素水を注入し、当該過酸化水素水の注入障害が生じた際に、開放弁21が開くように構成されている。また、井戸20は、表土及び汚染地盤1を貫通して難透水層まで到達し、その下方の先端側には、砂溜20bが設けられており、さらに、過酸化水素水が汚染地盤1に対して注入される注入部分には、スリット20cが設けられている。また、この井戸20には、過酸化水素水の供給するための配管30が設けられ、この配管30には、定圧ポンプ(P)及びリリーフ弁が設けられている。配管30は、その下方が砂溜20bまで到達し、その先端の噴出口には、エアの逆流を防止するためのバルブストーンが設けられている。
【0013】
開放弁21は、井戸20の上部に設けられた穴20aと、井戸20の内部を仕切るように設けられた網22と、網22の上方側の井戸内部に設けられた第1のゴムボール23と、網22の下方側の井戸内部に設けられた第2のゴムボール24と、これら第1のゴムボール23と第2のゴムボール24とを繋ぐ連結部25と、を有する。
【0014】
まず、図1(a)に示すように、配管20を介して定圧ポンプ(P)から井戸20内へ過酸化水素水を供給することにより、井戸20内の水位を上昇させて、井戸20内を過酸化水素水で充満させ、第1のゴムボール23が穴20aを塞いだ状態、すなわち、開放弁21が閉じた状態にする。
【0015】
次いで、図1(b)に示すように、開放弁21が閉じた状態のままで過酸化水素水を供給し続けると、井戸20内の内圧が上昇し、過酸化水素水の自己分解により生じた酸素ガスが井戸20の上部に溜まるとともに、この酸素ガスが配管2内の過酸化水素水を汚染地盤1側に押し出すようにして、井戸20内の水位が下がり、これに伴って第2のゴムボール24が下方に下がる。このとき、過酸化水素水は、井戸20の注入部分に設けられたスリット20cを介して汚染地盤1内に注入されることとなる一方で、酸素ガスの泡が井戸20の外壁部に溜まっていく。そのため、次第に、汚染地盤1内への過酸化水素水の注入速度が飽和状態になり、前述した注入障害が生じる。
【0016】
続いて、図1(c)に示すように、井戸20内の水位が設定値より下がると、第2のゴムボール24がこの水位の低下とともに下方に下がり、さらに、第1のゴムボール23が連結部25を介して下方に引き下げられて、穴20aが開放される(図2参照)。そうすると、この穴20aを介して井戸20内の内圧が抜け、今度は井戸20内の水位が上昇する。この際、井戸20の外壁面に定着していた泡が膨張して、土粒子を巻き込みながら井戸20内に流れ込み、当該泡が除去される。また、井戸20の下方には、砂溜20bが設けられており、この砂溜20bに巻き込んだ土粒子が溜まり、土を透くことによって井戸近傍の透水性が改善されることとなる。
【0017】
そして、図1(d)に示すように、井戸20内の内圧が抜けた状態では、水位差による作用のみで、過酸化水素水が汚染地盤1内に取り込まれることとなるが、汚染地盤1内に取り込まれる過酸化水素水よりも定圧ポンプから送り込まれる過酸化水素水の方が多いため、井戸20内の水位は上昇し、図1(a)に示した状態、すなわち、第1のゴムボール23が穴20aを塞ぎ、開放弁21が閉じた状態に戻る。
【0018】
このようにして、図1(a)〜(d)を繰り返すことにより、前述した注入障害を簡易に解消することができ、さらには、井戸近傍の透水性を改善することも可能となる。
【0019】
なお、本実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、本実施形態の説明では、開放弁として、弁の開閉が井戸内の水位に連動するものを使用することとしているが、タイマー制御された電磁弁を使用することとしてもよく、或いは、井戸内の水位センサーによって制御された弁を使用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る汚染地盤の浄化装置を作動させて、汚染地盤を原位置で浄化するときの様子を示す模式図である。
【図2】図1(c)の拡大図である。
【符号の説明】
【0021】
1 汚染土壌
10 汚染土壌の浄化装置
20 井戸
20a 穴
20b 砂溜
20c スリット
21 開放弁
22 網
23 第1のゴムボール
24 第2のゴムボール
25 連結部
30 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染地盤に設けられた井戸を介して当該汚染地盤内に過酸化水素水を注入し、その汚染地盤内に生息する好気性微生物を活性化させて、当該汚染地盤を原位置で浄化する汚染地盤の浄化方法であって、
前記井戸は、その上部が密閉された状態にあり、この井戸内に設けられた配管を通じて前記汚染地盤内に前記過酸化水素水を注入し、当該過酸化水素水の注入障害が生じた際に、前記上部の密閉部分を開くことを特徴とする汚染地盤の浄化方法。
【請求項2】
汚染地盤に設けられた井戸を介して当該汚染地盤内に過酸化水素水を注入し、その汚染地盤内に生息する好気性微生物を活性化させて、当該汚染地盤を原位置で浄化する汚染地盤の浄化装置であって、
前記井戸は、その上部が密閉された状態にあり、当該上部の密閉部分には開放弁が設けられ、この井戸内に設けられた配管を通じて前記汚染地盤内に前記過酸化水素水を注入し、当該過酸化水素水の注入障害が生じた際に、前記開放弁が開くように構成されていることを特徴とする汚染地盤の浄化装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記開放弁は、前記井戸の上部に設けられた穴と、前記井戸の内部を仕切るように設けられた網と、前記井戸の内部のうち前記網の上方側に配置された第1のゴムボールと、前記井戸の内部のうち前記網の下方側に配置された第2のゴムボールと、第1のゴムボールと第2のゴムボールとを繋ぐ連結部と、を有し、
前記配管を通じて前記汚染地盤内に前記過酸化水素水を注入し、前記井戸内の水位が低下すると、これに伴って前記第2のゴムボールが下方に移動し、続いて、前記過酸化水素水の注入障害が生じると、前記穴を塞いでいた前記第1のゴムボールが下方に引き下げられて前記穴が開放されるように構成されていることを特徴とする汚染地盤の浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115604(P2010−115604A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291300(P2008−291300)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】