説明

汚泥利用の評価システム

【課題】ボイラシステムにおいて下水処理施設で生じる濃縮汚泥又は脱水汚泥を燃料として用いるに際し、経済性の観点から利用に適した汚泥を選択し得る汚泥利用の評価システムを提供する。
【解決手段】混合燃料に占める濃縮汚泥又は脱水汚泥の割合である汚泥混合率のうちボイラが運転可能な汚泥混合率の上限値に基づいて、ボイラで石炭と一緒に混焼可能な濃縮汚泥及び脱水汚泥の混焼可能量を算出し、ボイラシステム側が濃縮汚泥又は脱水汚泥を処理する費用として下水処理場側から徴収した処理費用と、ボイラシステムが下水処理場から濃縮汚泥又は脱水汚泥を搬送する際に掛かる輸送費用と、混焼可能量とに基づいて濃縮汚泥又は脱水汚泥を利用することにより得られる損益額を濃縮汚泥及び脱水汚泥のそれぞれについて算出し、この損益額が高いほうを利用に適した汚泥として表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥利用の評価システムに関し、特に、下水処理施設で生じる濃縮汚泥又は脱水汚泥を燃料に含めて有効利用する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理施設では、家庭からの生活排水や雨水などの下水を処理する過程において、大量の有機性汚泥が発生する。このような下水処理施設では下水を浄化するための種々の処理が行われており、このような汚泥の処理も行われている。かかる汚泥処理は、一般に汚泥を濃縮し、そして脱水することで、汚泥を衛生的に減量している。
【0003】
汚泥処理において、濃縮後の汚泥の組成のうち98%程度は水分であり、脱水後では水分は汚泥の80%程度となる。この濃縮後の汚泥は濃縮汚泥とも呼ばれ、脱水後の汚泥は脱水汚泥とも呼ばれる。脱水汚泥は湿った泥土状であるため搬送は容易であることから、下水処理施設から搬送されてセメントやレンガの材料、堆肥として利用されている。他にも、脱水汚泥はボイラの燃料として用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、加圧流動床ボイラを有する発電所等ではCWP(Coal Water Paste、石炭、水、石灰石からなるペースト状の燃料。)が用いられているが、脱水汚泥又は濃縮汚泥はこのCWPに混合されて有効利用される場合もある。この場合、脱水汚泥はその乾燥熱量に着目してCWPの石炭使用量を節約するために用いられ、濃縮汚泥はその水分量に着目してCWPの水使用量を節約するために用いられる。
【0005】
このように、エネルギーの有効利用の観点においては、このような脱水汚泥及び濃縮汚泥を積極的に利用することが望ましいが、経済性の観点においては、これらの汚泥をどの様に利用すべきかを判断することは容易ではない。なぜならば、下水処理場からの汚泥の輸送は、濃縮汚泥か脱水汚泥かといった汚泥の種類、さらには輸送距離によって輸送費用が異なり、また発電所における汚泥混合率上限値も汚泥の種類ごとに異なるため、経済的に最適な汚泥を選択するためには汚泥の種類ごとに経済性計算が必要だからである。さらに下水処理場での処理費用と発電所の損益の和、つまり地域全体の経済性の最適値や、複数の下水処理場から汚泥を輸送する場合を考えると、経済的な最適解の探索にはさらに複雑な計算を必要とするからである。
【0006】
【特許文献1】特開2005−321131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、ボイラシステムにおいて下水処理施設で生じる濃縮汚泥又は脱水汚泥を燃料として用いるに際し、経済性の観点から利用に適した汚泥を選択し得る汚泥利用の評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、下水処理施設で生じる濃縮汚泥又は脱水汚泥を主燃料に混合した混合燃料を焼却し得るボイラシステムで、前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を利用することによる経済的な効果を算出して表示する汚泥利用の評価システムであって、混合燃料に占める濃縮汚泥又は脱水汚泥の割合である汚泥混合率のうち前記ボイラシステムのボイラが運転可能な汚泥混合率の上限値である汚泥混合率上限値に基づいて、前記ボイラで主燃料と一緒に混焼可能な濃縮汚泥及び脱水汚泥の混焼可能量を算出し、前記ボイラシステム側が濃縮汚泥又は脱水汚泥を処理する費用として下水処理施設側から徴収した処理費用と、前記ボイラシステムが前記下水処理施設から前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を搬送する際に掛かる輸送費用と、前記混焼可能量とに基づいて前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を利用することにより得られる損益額を濃縮汚泥及び脱水汚泥のそれぞれについて算出し、この損益額が高いほうを利用に適した汚泥として表示する経済性評価手段を具備することを特徴とする汚泥利用の評価システムにある。
【0009】
かかる第1の態様では、ボイラシステム側の損益額が脱水汚泥を利用する場合、及び濃縮汚泥を利用する場合のそれぞれについて算出される。これにより、脱水汚泥と濃縮汚泥のどちらを利用するほうがボイラシステム側にとって経済的であるか否かを判断することが容易となる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、前記経済性評価手段は、前記下水処理施設で生じる濃縮汚泥及び脱水汚泥のうち前記ボイラシステム側に処理させた分の処理費用を濃縮汚泥及び脱水汚泥のそれぞれについて算出し、この処理費用が安いほうを利用に適した汚泥として表示することを特徴とする汚泥利用の評価システムにある。
【0011】
かかる第2の態様では、下水処理施設側の処理費用が脱水汚泥を利用する場合、及び濃縮汚泥を利用する場合のそれぞれについて算出される。これにより、脱水汚泥と濃縮汚泥のどちらを利用するほうが下水処理施設側にとって経済的であるか否かを判断することが容易となる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、前記経済性評価手段は、前記濃縮汚泥又は脱水汚泥のそれぞれを用いた場合について、前記損益額及び処理費用のそれぞれに所定の重み係数を乗じると共にその和を地域全体の経済負担額として算出し、これらの地域全体の経済負担額が安いほうを利用に適した汚泥として表示することを特徴とする汚泥利用の評価システムにある。
【0013】
かかる第3の態様では、ボイラシステム側及び下水処理施設から構成される地域全体の経済負担額が脱水汚泥を利用する場合、及び濃縮汚泥を利用する場合のそれぞれについて算出される。これにより、脱水汚泥と濃縮汚泥のどちらを利用するほうが地域全体にとって経済的であるか否かを判断することが容易となる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、前記下水処理施設は、複数の下水処理施設から構成され、前記経済性評価手段は、前記地域全体の経済負担額が最小となるように、前記ボイラシステムに前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を供給する下水処理施設を特定すると共に、このときの前記損益額及び前記処分費用を算出することを特徴とする汚泥利用の評価システムにある。
【0015】
かかる第4の態様では、下水処理施設が複数ある場合に適用することができ、より現実に近い環境を考慮した最適な汚泥利用を図ることができる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1乃第4の何れか一つの態様に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、前記混合燃料を構成する複数の混合燃料組成物の当該混合燃料に占める各割合が、前記主燃料を構成する複数の主燃料組成物の当該主燃料に占める各割合を越えないように前記汚泥混合率を前記混合燃料組成物毎に算出し、この算出された汚泥混合率のうち最小のものを最大混合率として選出し、当該最大混合率と前記汚泥混合率上限値とを比較して小さいほうを許容最大混合率とする許容最大混合率算出手段とを具備し、前記経済性評価手段は、前記許容最大混合率に基づいて前記混焼可能量を算出することを特徴とする汚泥利用の評価システムにある。
【0017】
かかる第5の態様では、混合燃料の汚泥混合率を、ボイラシステムが運転可能な範囲内で決定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ボイラシステム側の損益額、下水処理施設側の処理費用、及び地域全体の経済負担額が脱水汚泥を利用する場合、及び濃縮汚泥を利用する場合のそれぞれについて算出される。これにより、脱水汚泥と濃縮汚泥のどちらを利用するほうが経済的であるか否かを判断することが容易となる。このことは、既設のボイラシステムにおいて有用であることは勿論、ボイラシステムの設置を計画する際にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0020】
〈実施形態1〉
本実施形態に係る汚泥利用の評価システムを説明するに先立ち、下水処理施設における下水処理により生じる濃縮汚泥、及び脱水汚泥と、これを利用するボイラシステムとを説明する。図1は、下水処理施設における汚泥処理のフローを示す概略図である。
【0021】
まず、下水処理施設では、下水道を経由して集積された生活排水や雨水などの下水を沈殿池に貯留し、下水中に含まれる物質を沈殿させたり、エアレーション等の各種水処理を行う(ステップS1)。このような処理の結果、沈殿池などでは下水から汚泥が分離され、かかる汚泥は、汚泥処理装置に送られる。汚泥処理装置では、汚泥を濃縮処理して濃縮汚泥を生成する(ステップS2)。濃縮処理とは、汚泥を沈殿槽に滞留させ比重差と重力により濃縮を行う重力濃縮や、微細な気泡を固形物に付着させ、比重差を逆転し水面に浮き上がらせて濃縮する浮上濃縮などの処理である。こうして生成された濃縮汚泥は2%程度の有機物等の汚泥と、98%程度の水分とからなる。また、この濃縮汚泥を脱水する装置が設けられている下水処理施設では、濃縮汚泥に高分子凝集剤を添加して、含水率を低下させた脱水汚泥を生成する場合もある(ステップS3)。
【0022】
濃縮汚泥は、例えば、1kgあたりの乾燥熱量が2000kcalであるのに対し、脱水汚泥は1kgあたりの乾燥熱量が4000kcal程度である。ここで乾燥熱量とは、汚泥から水分を蒸発させた後の乾燥分の熱量のことをいう。
【0023】
ここで、火炉の一例である加圧流動床ボイラを用いたボイラシステムを具備する発電システム(発電所)について説明する。図2は、本実施形態に係るボイラシステムを備える発電システムの概略構成図である。この発電システムは、燃料を燃焼することにより蒸気を生成するボイラシステム10と、この蒸気により駆動される蒸気タービン発電機70を具備している。
【0024】
ボイラシステム10は、火炉の一例である加圧流動床ボイラ20と、この加圧流動床ボイラ20に混合燃料を供給する混合燃料供給手段30とを具備している。
【0025】
加圧流動床ボイラ20は、圧力容器と、その内部に設けられた火炉本体とを有している(何れも図示せず)。火炉本体内には、石灰石を主成分とする流動媒体が所定量収容されている。この流動媒体は、図示しない空気供給手段により火炉本体底部から吹き込まれる加圧空気で流動化されて流動床を形成している。そして、混合燃料供給手段30により流動床に投入された混合燃料は加圧状態(例えば約1MPa)で燃焼される。
【0026】
加圧流動床ボイラ20内には、蒸気タービン発電機70と接続される伝熱管(図示せず)が引き回されており、加圧流動床ボイラ20で混合燃料を燃焼することにより生じた熱を利用して伝熱管内に蒸気を発生させ、蒸気タービン発電機70はこの蒸気で稼動し、発電する。なお、蒸気タービン発電機70のみならず、加圧流動床ボイラ20内の燃焼で生じた排ガスを利用するガスタービン発電機を用いてもよい。
【0027】
混合燃料供給手段30は、混合燃料を製造し、これを加圧流動床ボイラ20へ供給するものである。ここで混合燃料とは、主燃料としての石炭と、水と、石灰石とからなるCWP(Coal Water Paste)に脱水汚泥又は濃縮汚泥を混合したものをいう。具体的には、混練機31(混合装置)が石炭、水、石灰石に脱水汚泥又は濃縮汚泥を混合して混合燃料を製造する。一方、水を貯留するタンク32と、石炭を貯蔵する石炭バンカ33と、石灰石を貯蔵する石灰石バンカ34とが設けられており、これらの装置が混合燃料の各原料を混練機31に供給している。更に、混練機31と石炭バンカ33との間には、石炭を粉砕する粗粉砕機35及び微粉砕機36とが配設されている。石炭は、粗粉砕機35により粗く砕かれた状態で混練機31に供給されるか、若しくは、粗粉砕機35で砕かれた後、微粉砕機36に送られて更に細かく粉砕されると共に水と混ぜられた状態で混練機31に供給される。
【0028】
更に、混練機31に濃縮汚泥を供給する場合には、スラリータンク37とポンプ38と流量制御弁39とが設けられている。スラリータンク37は、下水処理場40で生成された濃縮汚泥を貯留するタンクである。本実施形態では、濃縮汚泥は運搬車両41により搬送されてスラリータンク37に貯留されているが、このような形態に限定されず、例えば下水処理場40からスラリータンク37へ至るパイプラインを設け、このパイプラインを介して直接的にスラリータンク37に濃縮汚泥が供給されるようにしてもよい。
【0029】
スラリータンク37に貯留された濃縮汚泥は、スラリータンク37と混練機31との間に配設された管路を通じて、ポンプ38により昇圧されて混練機31に供給される。かかる管路には流量制御弁39が介装されており、流量制御弁39の開度を調節することで濃縮汚泥が一定の割合で混練機31に供給されるようになっている。
【0030】
なお、混練機31に脱水汚泥を供給する場合には、スラリータンク37の代わりに脱水汚泥を貯蔵するホッパ(図示せず)を設ける。この場合も、濃縮汚泥と同様に、脱水汚泥はポンプ38により昇圧されて混練機31に供給される。
【0031】
また、ボイラシステム10には、制御装置50(粘度調整手段)が設けられている。制御装置50は、一般的な機能を備える情報処理機器である。具体的にはCPUと共に、ROM、RAM及びハードディスクなどの記憶装置を具備し、液晶画面などの表示部及びキーボードなどの入力部を備えている(何れも図示せず)。
【0032】
制御装置50は、混練機31で製造された混合燃料の粘度を検出するセンサーから、この粘度を示す信号に基づいて、混合燃料の粘度が所定値となるようにタンク32から混練機31に供給される注水量を制御する。
【0033】
かかる構成のボイラシステム10を具備する発電システムでは、下水処理場40から搬送された脱水汚泥又は濃縮汚泥と、ボイラシステム10に貯蔵された水、石炭、石灰石とが混練機31により混合されて、混合燃料が製造される。加圧流動床ボイラ20は混練機31より混合燃料を供給され、火炉本体に形成された流動床内で混合燃料を燃焼する。そして、この燃焼により生じた熱エネルギーを利用して蒸気タービン発電機70を駆動し発電する。
【0034】
以上に説明したように、加圧流動床ボイラ20で燃焼される混合燃料は、従来用いられていた水、石炭、石灰石からなるCWPに脱水汚泥又は濃縮汚泥が混合されたものである。脱水汚泥を混合する場合は、その乾燥熱量により石炭の使用量を削減することができ、濃縮汚泥を混合する場合は、その水分量により水の使用量を削減することができる。
【0035】
下水処理場40側は、脱水汚泥又は濃縮汚泥の処理費用をボイラシステム10側に支払ってこれらを処分する。一方、ボイラシステム10側では、前記処理費用からこれらの汚泥を実際に搬送する際に掛かる輸送費用等を差し引いたものが損益額となる。このとき、脱水汚泥又は濃縮汚泥のどちらを用いることがボイラシステム10及び下水処理場40を含めた地域全体にとって最適であるかを判断するために、次に説明する汚泥利用の評価システムを用いる。
【0036】
ここで、本発明に係る汚泥利用の評価システムについて説明する。図3は、汚泥利用の評価システムを示す概略構成図である。汚泥利用の評価システム(以下、単に「評価システム」と称する。)90は、演算装置であるCPU81と、記憶装置であるハードディスク(図中「HDD」と略記)82及びRAM83と、キーボードやマウスなどの入力装置84と、液晶ディスプレイなどの表示装置85とを具備するコンピュータ80と、ハードディスク82に格納された汚泥利用の評価プログラム(以下、単に「評価プログラム」と称する。)86とを備えて構成されている。
【0037】
この評価プログラム86は、ボイラシステム10を稼働させるのに適した混合燃料の混合率を算出する許容最大混合率算出手段87と、脱水汚泥又は濃縮汚泥のどちらを用いるべきかを経済的な観点から評価する経済性評価手段88とを含み構成されるものであり、これらは、例えば評価プログラム86中のサブルーチンとしてそれぞれ実装されている。
【0038】
評価プログラム86は、実行時にはRAM83上に読み込まれ、CPU81により評価プログラム86の実行コードが実行される。すなわち、入力装置84を介して所定の入力情報が評価プログラム86に入力され、この入力情報に基づいて許容最大混合率算出手段87及び経済性評価手段88により所定の処理の結果算出された出力情報が表示装置85に表示される。以下、入力情報、計算結果、及び前記所定の処理について詳細に説明する。
【0039】
〈入力情報〉
入力装置84を介して、表1に示すような入力情報を取得する。
【0040】
【表1】

【0041】
「乾燥熱量」は、汚泥から水分を蒸発させた後の乾燥分の熱量である。「含水率」は、汚泥全体に含まれる水分の割合であり、「有効水分利用率」は、汚泥全体に含まれる水分のうち、CWPとして利用可能な水分の割合である。「輸送費用」は、下水処理場40からボイラシステム10へ輸送する際に掛かる費用であり、「処理費用」は、その際に下水処理場40側がボイラシステム10側へ支払う費用である。
【0042】
「発電所の評価用重み係数」及び「下水処理場の評価用重み係数」は、ボイラシステム10(発電所)側と下水処理場40側のどちらの利益を重視するかを決定するための数値である。詳細は後述する。「汚泥混合率上限値」は、混合燃料のうち脱水汚泥又は濃縮汚泥の占める割合である汚泥混合率のうち、ボイラシステム10の加圧流動床ボイラ20が運転可能な汚泥混合率の上限値である。「発電所設備減価償却費」は、ボイラシステム10の設備に関する減価償却費であり、「下水処理場設備減価償却費」は、下水処理場40の設備に関する減価償却費である。これらの入力情報は、脱水汚泥及び濃縮汚泥のそれぞれについて入力される。
【0043】
また、脱水汚泥の「元素分析結果」及び「重金属分析結果」は、脱水汚泥を構成する複数の組成物の脱水汚泥全体に占める各割合を示すものである。同様に濃縮汚泥の「元素分析結果」及び「重金属分析結果」についても、濃縮汚泥を構成する複数の組成物の脱水汚泥全体に占める各割合を示すものである。更に、石炭の「元素分析結果」及び「重金属分析結果」についても、石炭を構成する複数の組成物の石炭全体に示す各割合を示すものである。
【0044】
表2に、石炭と脱水汚泥に関する各組成を例示する。
【0045】
【表2】

【0046】
表2中、「石炭1乃至石炭3」は、ボイラシステム10で用いる石炭を3つランダムに抽出してそれぞれ組成を測定したデータである。「脱水汚泥」は、脱水汚泥の組成を測定したデータである。なお、これらの組成の単位は重量%である。
【0047】
〈許容最大混合率算出手段での処理〉
許容最大混合率算出手段は、前記入力情報から許容最大混合率を算出する。上述したような元素分析結果等からより多くの脱水汚泥又は濃縮汚泥を利用するように汚泥混合率が算出されて、この値が原則として許容最大混合率となるが、当該値が汚泥混合率上限値を超えるならば、この汚泥混合率上限値が許容最大混合率となる。
【0048】
許容最大混合率は、脱水汚泥又は濃縮汚泥の各組成を考慮して算出される。許容最大混合率は、脱水汚泥及び濃縮汚泥についてそれぞれ算出されるが、ここでは脱水汚泥について説明する。まず、サンプリングした石炭1乃至石炭3の各組成ごとにその比率の最大値を計算する。例えば表2に示した石炭1乃至石炭3の組成「窒素」に関しては、石炭2が最大である。これを窒素に関する石炭実績最大値(主燃料組成物の当該主燃料に占める各割合)といい、表3に全ての主燃料組成物についての石炭実績最大値を例示する。
【0049】
【表3】

【0050】
次に、実際の燃焼に用いる石炭(CWP)と脱水汚泥とから混合燃料を製造する際の各組成物(混合燃料組成物)の混合燃料全体に占める各割合(組成比率)を算出する。このとき、混合燃料の混合比率は、例えば0%、5%、10%、15%、20%としてそれぞれ計算する。例えば、実際の燃焼に用いる石炭は石炭1であり、且つ混合比率が5%である場合、混合燃料組成物の1つである窒素の混合燃料全体に占める割合は、
窒素の混合燃料全体に占める割合 = 石炭1の窒素の組成比率+
(脱水汚泥の窒素の組成比率−石炭1の窒素の組成比率)×混合比率(5%)
で求められる。表4に、全ての混合燃料組成物について混合燃料に占める各割合を、混合比率ごとに算出したものを示す。
【0051】
【表4】

【0052】
次に、混合燃料組成物の混合燃料に占める各割合が石炭実績最大値を超えないように汚泥混合率を混合燃料組成物ごとに算出する。図4は、窒素の組成比率と汚泥混合率との関係を示すグラフである。横軸は汚泥混合率、縦軸は窒素の組成比率を示している。図示するように、窒素の場合、汚泥混合率が高くなると窒素の組成比率も高くなるが、汚泥混合率が13%付近で、窒素の組成比率は窒素に関する石炭実績最大値(本実施形態では「1.5」)を越えている。従って、窒素に関する汚泥混合率は13%を超えない数値とする。本実施形態では、窒素に関する組成比率が石炭実績最大値と等しいときの汚泥混合率を用いる。
【0053】
同様に、窒素以外の全ての混合燃料組成物について汚泥混合率を算出する。そして、これらの汚泥混合率のうち最小のものを「成分値を考慮した最大混合率(最大混合率)」とする。さらに、この成分値を考慮した最大混合率と、入力情報である汚泥混合率上限値と比較して、小さいほうを許容最大混合率とする。
【0054】
上述のようにして、脱水汚泥に関する許容最大混合率が算出される。同様にして、濃縮汚泥に関しても許容最大混合率を算出する。
【0055】
なお、この段階で、混合燃料組成物ごとの汚泥混合率、成分値を考慮した最大混合率、及び許容最大混合率を表示装置85に表示してもよい。
【0056】
〈経済性評価手段での処理〉
次に、脱水汚泥又は濃縮汚泥のどちらを用いることが、ボイラシステム10と下水処理場40とを含む地域全体にとって有利であるかを評価する。
【0057】
まず、許容最大混合率から脱水汚泥及び濃縮汚泥について、それぞれの混焼可能量(Fsi)を算出する。具体的には次の式により算出する。
Fsi=許容最大混合率 × 年間に使用する石炭量
【0058】
次に、脱水汚泥及び濃縮汚泥について、ボイラシステム10での損益額(Pi)をそれぞれ算出する。具体的には次の式により算出する。なお、Hriは汚泥から回収可能な熱量である。
Pi=(R−T+Hri/石炭発熱量)×Fs−Mpi
Hri=(−1)×(100−汚泥初期温度+533.8)×Wi×(1−η
+Hi×(1−Wi
【0059】
これにより、脱水汚泥を用いた場合の損益額(P1)及び濃縮汚泥を用いた場合の損益額(P2)が算出される。この段階で、P1とP2とを比較して高いほうの汚泥やその損益額を表示装置85に表示してもよい。
【0060】
次に、脱水汚泥及び濃縮汚泥について、下水処理場40での処理費用(Li)をそれぞれ算出する。具体的には次の式により算出する。
Li=Fs×R−Msi
【0061】
これにより、脱水汚泥を用いた場合の下水処理場の処理費用(L1)及び濃縮汚泥を用いた場合の下水処理場の処理費用(L2)が算出される。この段階で、L1とL2とを比較して小さいほうの汚泥やその処理費用を表示装置85に表示してもよい。
【0062】
そして、脱水汚泥及び濃縮汚泥について、地域全体の経済負担額(TM)をそれぞれ算出する。具体的には次の式により算出する。
TM=Wpi×Pi―Wsi×Li
【0063】
これにより、脱水汚泥を用いた場合の地域全体の経済負担額(TM)及び濃縮汚泥を用いた場合の地域全体の経済負担額(TM)が算出される。そしてTMとTMとを比較して小さいほうの汚泥やその地域全体の経済負担額を表示装置85に表示してもよい。
【0064】
表5に、ボイラシステム10で脱水汚泥及び濃縮汚泥をそれぞれ用いた場合の損益額を例示する。
【0065】
【表5】

【0066】
表5に示すように、損益額は脱水汚泥を用いた場合のほうが高いので、脱水汚泥を用いることが経済性がよいと判断することができる。一方、表6に、下水処理場10の経済負担額を考慮した場合の、脱水汚泥及び濃縮汚泥についての地域全体の経済負担額をそれぞれ例示する。
【0067】
【表6】

【0068】
表6に示すように、地域全体の経済負担額は脱水汚泥を用いた場合のほうが低いので、脱水汚泥を用いることが経済的であると判断することができる。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態に係る汚泥利用の評価システムでは、ボイラシステム10側の損益額、下水処理場40側の処理費用、及び地域全体の経済負担額が脱水汚泥を利用する場合、及び濃縮汚泥を利用する場合のそれぞれについて算出される。これにより、脱水汚泥と濃縮汚泥のどちらを利用するほうが経済的であるか否かを判断することが容易となる。このことは、既設のボイラシステム10において有用であることは勿論、これからボイラシステム10を設置する際にも有用である。
【0070】
また、混合燃料の汚泥混合比率(許容最大混合率)は、ボイラシステム10で運転可能な範囲(汚泥混合率上限値以下)で決定されるため、現実にボイラシステム10を運転可能であり且つ経済性を考慮した最適な混合燃料をボイラシステム10に供給することができる。
【0071】
なお、混合燃料としては、水、石炭、石灰石からなるCWPに脱水汚泥又は濃縮汚泥を混合したものを用いたが、これに限定されない。例えば、CWM(Coal Water Mixture)やエマルジョン燃料に脱水汚泥や濃縮汚泥を混合したものでもよい。CWMは、石炭に水を混合したスラリー状の燃料であり、エマルジョン燃料は、重油、軽油などに水を添加して、エマルジョン化(乳化)を促進させる添加剤を添加した液体燃料である。
【0072】
〈実施形態2〉
実施形態1に係る汚泥利用の評価システムでは、ボイラシステムは1つの下水処理場から汚泥を受け入れる場合を想定して経済性を評価したが、これに限定されない。すなわち複数の下水処理場から汚泥を受け入れる場合を想定してもよい。本実施形態においても、実施形態1と同様にボイラシステム側の損益額、下水処理場側の処理費用、及び地域全体の経済負担額を算出する。以下、実施形態1と異なる部分について説明する。
【0073】
〈入力情報〉
本実施形態の入力情報は、実施形態1の入力情報のうち下水処理場に関するものが、複数個(n個)存在している。表7に本実施形態の入力情報を具体的に示す。
【0074】
【表7】

【0075】
〈許容最大混合率算出手段での処理〉
許容最大混合率は、下水処理場ごとに実施形態1に記載した許容最大混合率算出手段での処理を行うことにより算出する。つまり、下水処理場の個数だけ許容最大混合率が算出される。
【0076】
〈経済性評価手段での処理〉
本実施形態に係る経済性評価手段での処理は、最終的に算出される地域全体の経済負担額が最小となるように、脱水汚泥又は濃縮汚泥を供給する下水処理場を特定する。図5及び図6は地域全体の経済負担額を算出するフロー図である。
【0077】
まず、許容最大混合率算出手段での処理で算出した各下水処理場の許容最大混合率に基づいて、次の式に示すように脱水汚泥及び濃縮汚泥のそれぞれの混焼可能量(Fsij)を算出する(ステップS1)。
Fsij=許容最大混合率(j)×年間に使用する石炭量
許容最大混合率(j)とは、j番目の下水処理場の許容最大混合率を示している。
【0078】
次に、各下水処理場から受け入れる脱水汚泥量および濃縮汚泥量 Fstij を,混焼可能量 Fsijの範囲内で一時的に設定する(ステップS2)。そして、このFstijに対し、次式のように脱水汚泥総混焼量(Fs1total)と濃縮汚泥総混焼量(Fs2total)を算出する(ステップS3)。

【0079】
次に、これらの脱水汚泥総混焼量及び濃縮汚泥総混焼量が混焼可能量を越えていないかを比較し(ステップS4)、超えているならば(ステップS4;No)ステップS2の処理を再度行い、超えていないならば(ステップS4;Yes)次の処理を行う。
【0080】
次に、一時的に設定された Fstij に対し,下記の値を計算する(ステップS5)。

地域全体の経済負担額 TMtotal = Wp × Ptotal − Ws × Ltotal
【0081】
この地域全体の経済負担額TMtotalが前回計算したものよりも小さいか否かを比較し(ステップS6)、大きいならば(ステップS6;No)ステップS2の処理を再度行い、小さいならば(ステップS6;Yes)、そのTMtotalとその時のFstijを記憶する(ステップS7)。
【0082】
そして、十分な数のFstijが探索されたか、又は満足できるTMtotalが見つかったか否かを判断する(ステップS8)。この条件を満たすか否かは、例えば、前記十分な数を予め設定し、満足できるTMtotalを予め設定し、これと比較することで判定する。もしこの条件を満たさない場合は(ステップS8;No)、ステップS2の処理を再度行い、満たしている場合は(ステップS8;Yes)、地域全体の経済負担額TMtotalの最小のときの各下水処理場に対する脱水汚泥及び濃縮汚泥の混焼量Fstij、ボイラシステム10側の総損益額Ptotal、下水処理場の総処理費用Ltotal、地域全体の経済負担額TMtotalを表示装置85に表示する(ステップS9)。
【0083】
以上に説明したように、本実施形態に係る汚泥利用の評価システムによれば、地域全体の経済負担額が最小となるように、複数の下水処理場から生じる脱水汚泥又は濃縮汚泥の受け入れる量(Fstij)を算出することができる。この結果、複数の下水処理場が存在するという、より現実に近い環境を考慮した最適な汚泥利用を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、下水処理施設で生成される脱水汚泥又は濃縮汚泥を燃料として用いる産業で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】下水処理施設における汚泥処理のフローを示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るボイラシステムを備える発電システムの概略構成図である。
【図3】汚泥利用の評価システムを示す概略構成図である。
【図4】窒素の組成比率と汚泥混合率との関係を示すグラフである。
【図5】地域全体の経済負担額を算出するフロー図である。
【図6】地域全体の経済負担額を算出するフロー図である。
【符号の説明】
【0086】
10 ボイラシステム
20 加圧流動床ボイラ
30 混合燃料供給手段
31 混練機
32 タンク
33 石炭バンカ
34 石灰石バンカ
35 粗粉砕機
36 微粉砕機
37 スラリータンク
38 ポンプ
39 流量制御弁
40 下水処理場
41 運搬車両
50 制御装置
70 蒸気タービン発電機
80 コンピュータ
86 評価プログラム
90 汚泥利用の評価システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理施設で生じる濃縮汚泥又は脱水汚泥を主燃料に混合した混合燃料を焼却し得るボイラシステムで、前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を利用することによる経済的な効果を算出して表示する汚泥利用の評価システムであって、
混合燃料に占める濃縮汚泥又は脱水汚泥の割合である汚泥混合率のうち前記ボイラシステムのボイラが運転可能な汚泥混合率の上限値である汚泥混合率上限値に基づいて、前記ボイラで主燃料と一緒に混焼可能な濃縮汚泥及び脱水汚泥の混焼可能量を算出し、前記ボイラシステム側が濃縮汚泥又は脱水汚泥を処理する費用として下水処理施設側から徴収した処理費用と、前記ボイラシステムが前記下水処理施設から前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を搬送する際に掛かる輸送費用と、前記混焼可能量とに基づいて前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を利用することにより得られる損益額を濃縮汚泥及び脱水汚泥のそれぞれについて算出し、この損益額が高いほうを利用に適した汚泥として表示する経済性評価手段を具備することを特徴とする汚泥利用の評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、
前記経済性評価手段は、前記下水処理施設で生じる濃縮汚泥及び脱水汚泥のうち前記ボイラシステム側に処理させた分の処理費用を濃縮汚泥及び脱水汚泥のそれぞれについて算出し、この処理費用が安いほうを利用に適した汚泥として表示することを特徴とする汚泥利用の評価システム。
【請求項3】
請求項2に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、
前記経済性評価手段は、前記濃縮汚泥又は脱水汚泥のそれぞれを用いた場合について、前記損益額及び処理費用のそれぞれに所定の重み係数を乗じると共にその和を地域全体の経済負担額として算出し、これらの地域全体の経済負担額が安いほうを利用に適した汚泥として表示することを特徴とする汚泥利用の評価システム。
【請求項4】
請求項3に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、
前記下水処理施設は、複数の下水処理施設から構成され、
前記経済性評価手段は、前記地域全体の経済負担額が最小となるように、前記ボイラシステムに前記濃縮汚泥又は脱水汚泥を供給する下水処理施設を特定すると共に、このときの前記損益額及び前記処分費用を算出することを特徴とする汚泥利用の評価システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載する汚泥利用の評価システムにおいて、
前記混合燃料を構成する複数の混合燃料組成物の当該混合燃料に占める各割合が、前記主燃料を構成する複数の主燃料組成物の当該主燃料に占める各割合を越えないように前記汚泥混合率を前記混合燃料組成物毎に算出し、この算出された汚泥混合率のうち最小のものを最大混合率として選出し、当該最大混合率と前記汚泥混合率上限値とを比較して小さいほうを許容最大混合率とする許容最大混合率算出手段とを具備し、
前記経済性評価手段は、前記許容最大混合率に基づいて前記混焼可能量を算出する
ことを特徴とする汚泥利用の評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−192085(P2008−192085A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28579(P2007−28579)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】