説明

汚泥焼却灰からのリン回収方法および回収装置

【課題】リン回収効率を向上すると共に装置を小型化することが可能な、汚泥焼却灰からのリン回収方法およびリン回収装置を提供する。
【解決手段】少なくともリンおよびケイ素を含有する汚泥焼却灰と、アルカリ性反応液とを混合し、汚泥焼却灰に含まれているリンおよびケイ素をアルカリ性反応液中に抽出して、ケイ素含有リン抽出液を得るリン抽出工程と、ケイ素含有リン抽出液とカルシウム化合物とを30℃以上70℃以下の析出反応温度で混合して、ケイ素含有リン抽出液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させるリン酸カルシウム析出工程と、リン酸カルシウムを回収するリン酸カルシウム回収工程とを含むことを特徴とする汚泥焼却灰からのリン回収方法である。また、リン酸カルシウム析出槽と、リン酸カルシウム析出槽内の温度を30℃以上70℃以下に制御する温度制御手段と、リン酸カルシウム回収手段とを備えることを特徴とする汚泥焼却灰からのリン回収装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥焼却灰などの汚泥焼却灰からリンを回収する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場で発生する下水汚泥などの汚泥を焼却して減量化した際に生じる汚泥焼却灰は、大部分が廃棄物として埋立処分されてきた。
【0003】
しかし、下水汚泥焼却灰などの汚泥焼却灰には多量のリンが含まれているため、近年では、廃棄物である汚泥焼却灰からリンを回収し、世界的に枯渇が危惧されている資源の一つであるリン資源として再利用する手法が注目されている。
【0004】
具体的には、下水汚泥焼却灰に含まれているリンをアルカリ性反応液中に抽出して得たリン抽出液に対し、水酸化カルシウムなどのカルシウム化合物をカルシウム源として添加してリン抽出液中に含まれているリンをリン酸カルシウムとして析出させることで、下水汚泥焼却灰中のリンをリン酸カルシウムとして回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−229576号公報
【特許文献2】特開2004−203641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記従来の汚泥焼却灰からのリン回収方法では、リン抽出液とカルシウム化合物とを室温で混合してリン酸カルシウムを析出させていたが、室温におけるリン酸カルシウムの析出速度は小さいので、リン酸カルシウムを十分に析出させるのに長時間を要していた。そのため、従来のリン回収方法では、単位時間当たりに回収可能なリンの量が少なく(即ち、リンの回収効率が低く)、また、リン回収装置内でのリン抽出液の十分な滞留時間(反応時間)を確保するために装置を大型化する必要があった。
【0007】
そこで、本発明者らは、リン抽出液とカルシウム化合物とを混合した際のリン酸カルシウムの析出速度を高めてリン回収効率を向上すると共に装置を小型化することを目的として、鋭意研究を行った。
【0008】
その結果、本発明者らは、リン抽出液とカルシウム化合物とを混合してリン酸カルシウムを析出させる際の温度(以下「析出反応温度」という。)を所定の温度以上とすることで、リン酸カルシウムの析出速度を大幅に高められることを見出した。また、本発明者らは、カルシウム化合物の添加量を一定とした条件下で析出反応温度を高めてリン酸カルシウムの析出速度を高めていく過程で、析出反応温度を所定の温度より大きくすると、リン酸カルシウムの析出率(=リン酸カルシウムとして析出したリンの量/リン抽出液中のリンの量)が低下してリン回収効率が低くなることも見出した。なお、リン酸カルシウムの析出率の低下は、原理的には明らかではないが、リン抽出液中には汚泥焼却灰に含まれているケイ素(Si)がリンと共に抽出されており、析出反応温度が高いと、リン抽出液中の汚泥焼却灰由来のケイ素と、カルシウム化合物中のカルシウムとが反応してカルシウムシリケート(CaSi・nHO、x,y,z,n>0)を生成する、即ち、リン酸カルシウムの生成反応とカルシウムシリケートの生成反応とが競合するために起こると推察されている。
【0009】
そして、本発明者らは、リン酸カルシウム析出速度およびリン酸カルシウム析出率と、析出反応温度との関係についての上記知見に基づき、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法は、少なくともリンおよびケイ素を含有する汚泥焼却灰と、アルカリ性反応液とを混合し、前記汚泥焼却灰に含まれているリンおよびケイ素を前記アルカリ性反応液中に抽出して、ケイ素含有リン抽出液を得るリン抽出工程と、前記ケイ素含有リン抽出液とカルシウム化合物とを30℃以上70℃以下の析出反応温度で混合して、ケイ素含有リン抽出液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させるリン酸カルシウム析出工程と、前記リン酸カルシウムを回収するリン酸カルシウム回収工程とを含むことを特徴とする。このように、ケイ素含有リン抽出液と、カルシウム化合物とを30℃以上70℃以下の析出反応温度で混合してリン酸カルシウムを析出させれば、リン酸カルシウムの析出率が低下するのを抑制しつつリン酸カルシウムの析出速度を高めて、リン回収効率を向上すると共にリン回収装置を小型化することができる。なお、リン酸カルシウム析出工程では、リン酸カルシウムの析出速度を高める観点からは、析出反応温度を30℃以上とする必要があり、リン酸カルシウムの析出率の低下を抑制する観点からは、析出反応温度を70℃以下とする必要がある。
【0011】
ここで、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法は、前記析出反応温度を60℃以下とすることが好ましい。リン酸カルシウム析出工程における析出反応温度を60℃以下とすれば、リン酸カルシウムの析出率の低下を更に抑制して、リン回収効率を更に向上することができるからである。
【0012】
また、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法は、前記リン酸カルシウム析出工程において、前記ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対して、前記カルシウム化合物をカルシウム換算で1.0〜1.5mol添加することが好ましい。ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対するカルシウム化合物の添加量をカルシウム換算で1.0mol以上とすれば、リン酸カルシウムの析出速度および析出率を十分に高めることができるからである。また、ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対するカルシウム化合物の添加量をカルシウム換算で1.5mol以下とすれば、リン酸カルシウム回収工程で回収したリン酸カルシウムの純度が、過剰に添加したカルシウム化合物の残存により低下するのを抑制することができるからである。なお、本発明において、ケイ素含有リン抽出液中のリンの量は、JIS K0102に準拠してモリブデン青吸光光度法により測定することができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収装置は、少なくともリンおよびケイ素を含有する汚泥焼却灰からアルカリ性反応液中に前記リンおよびケイ素を抽出して得たケイ素含有リン抽出液と、カルシウム化合物とを所定の析出反応温度で混合して、ケイ素含有リン抽出液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させるリン酸カルシウム析出槽と、前記リン酸カルシウム析出槽内の前記析出反応温度を30℃以上70℃以下に制御する温度制御手段と、前記リン酸カルシウムを回収するリン酸カルシウム回収手段とを備えることを特徴とする。このように、析出反応温度を30℃以上70℃以下に制御する温度制御手段を設ければ、リン酸カルシウム析出槽内でケイ素含有リン抽出液とカルシウム化合物とを30℃以上70℃以下の析出反応温度で混合してリン酸カルシウムを析出させることができる。従って、このリン回収装置によれば、リン酸カルシウムの析出率が低下するのを抑制しつつリン酸カルシウムの析出速度を高めて、リン回収効率を向上すると共に装置(特にリン酸カルシウム析出槽)を小型化することができる。なお、析出反応温度は、リン酸カルシウムの析出速度を高める観点からは30℃以上に制御する必要があり、リン酸カルシウムの析出率の低下を抑制する観点からは70℃以下に制御する必要がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法およびリン回収装置によれば、リン回収効率を向上すると共にリン回収装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従う代表的なリン回収方法を用いて下水汚泥焼却灰からリンを回収する際の操作フローである。
【図2】本発明に従う代表的なリン回収装置の構成を示す説明図である。
【図3】様々な析出反応温度でリン酸カルシウム析出工程を実施した際の反応時間とリン酸カルシウム析出率との関係を示すグラフである。
【図4】リン酸カルシウム析出工程における、析出反応温度とリン酸カルシウム析出率が70%に達するまでの時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明に係る汚泥焼却灰からのリン回収方法は、少なくともリン(P)およびケイ素(Si)を含有する汚泥焼却灰からリンを回収する際に用いることができる。なお、本発明のリン回収方法を用いてリンを回収する汚泥焼却灰としては、特に限定されることなく、下水処理場で発生する余剰汚泥等の下水汚泥を焼却した際に生じる下水汚泥焼却灰などを挙げることができる。
【0017】
本発明に係る汚泥焼却灰からのリン回収方法の一例では、図1に操作フローチャートを示すように、まず、リンおよびケイ素を含有する汚泥焼却灰としての下水汚泥焼却灰に対し、リン抽出工程(S1)および固液分離工程(S2)を順次実施して、ケイ素含有リン抽出液と処理灰とを得る。次に、ケイ素含有リン抽出液とカルシウム化合物とを用いてリン酸カルシウム析出工程(S3)を実施して、リン酸カルシウムを含む析出物(以下「リン酸カルシウム析出物」という。)と処理液との混合物を得る。そして最後に、リン酸カルシウム回収工程(S4)を実施して、リン酸カルシウム析出物と処理液との混合物からリン酸カルシウムを回収する。
【0018】
なお、この一例のリン回収方法の固液分離工程(S2)で得た処理灰は、適当な無害化処理を施した後に、道路舗装材や下層路盤材などとして有効利用することができる。
【0019】
ここで、リン抽出工程(S1)は、下水汚泥焼却灰と、アルカリ性反応液とを例えば抽出槽内で撹拌混合し、下水汚泥焼却灰に含まれているリンおよびケイ素をアルカリ性反応液中に抽出することで、抽出されたリンおよびケイ素を含有するアルカリ性反応液からなるケイ素含有リン抽出液と、含有するリンおよびケイ素の一部が抽出された下水汚泥焼却灰からなる処理灰との混合物を得る工程である。なお、下水汚泥焼却灰中では、リンは大部分がPの形態で存在しており、ケイ素は大部分がSiOの形態で存在していると推察されている。
【0020】
このリン抽出工程(S1)で使用するアルカリ性反応液としては、水酸化ナトリウム水溶液や、水酸化カリウム水溶液などを用いることができるが、コスト低減の観点からは水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましく、リンの抽出率を向上する観点からは濃度3質量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。また、リン抽出工程(S1)におけるアルカリ性反応液と下水汚泥焼却灰との混合条件(温度、時間など)は、下水汚泥焼却灰中のリンが十分に抽出される範囲で適宜変更することができ、アルカリ性反応液と下水汚泥焼却灰とは、例えば温度60℃で30分間混合することができる。
【0021】
なお、下水汚泥焼却灰に含まれているリンのアルカリ性反応液中への抽出は、原理的には明らかではないが、下水汚泥焼却灰にPなどの形態で含まれているリンが、例えば下記反応式(1)に示すような反応によりアルカリ性反応液中へ溶出することで起きていると推察される。
+6OH → 2PO3−+3HO ・・・(1)
【0022】
一方、下水汚泥焼却灰に含まれているケイ素のアルカリ性反応液中への抽出は、下記反応式(2)に示すような反応により起こると推察されている。
SiO+2NaOH→NaSiO+HO ・・・(2)
【0023】
固液分離工程(S2)は、リン抽出工程(S1)で得たケイ素含有リン抽出液と処理灰との混合物を、例えば沈降分離やろ過などの既知の固液分離手段を用いてケイ素含有リン抽出液と処理灰とに分離する工程である。
【0024】
リン酸カルシウム析出工程(S3)は、固液分離工程(S2)で得たケイ素含有リン抽出液と、カルシウム源としてのカルシウム化合物とを、例えばリン酸カルシウム析出槽中において30℃以上70℃以下の析出反応温度で撹拌混合し、ケイ素含有リン抽出液中のリン(リン酸態リン)とカルシウム化合物由来のカルシウムとを反応させてリン酸カルシウムを析出させる工程である。なお、ケイ素含有リン抽出液とカルシウム化合物との反応条件は、析出反応温度を30℃以上70℃以下とすれば、リン酸カルシウムが十分に析出し得る範囲で適宜変更することができる。
【0025】
このリン酸カルシウム析出工程(S3)で使用するカルシウム化合物としては、特に限定されることなく、水酸化カルシウム(Ca(OH))や、塩化カルシウム(CaCl)等を挙げることができる。そして、これらのカルシウム化合物は、固体状態、スラリー状態、溶液状態の何れの状態でケイ素含有リン抽出液と混合しても良い。
【0026】
なお、ケイ素含有リン抽出液に対するカルシウム化合物の添加量は、ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対して、カルシウム換算で1.0〜1.5molの範囲内とすることが好ましく、1.3molとすることが特に好ましい。ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対するカルシウム化合物の添加量をカルシウム換算で1.0mol以上とすれば、リン酸カルシウムの析出速度および析出率を十分に高めることができるからである。また、ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対するカルシウム化合物の添加量をカルシウム換算で1.5mol以下とすれば、リン酸カルシウム析出物中に未反応のカルシウム化合物が大量に残存してリン酸カルシウム回収工程(S4)で回収するリン酸カルシウムの純度が低下するのを抑制することができるからである。
【0027】
ここで、リン酸カルシウム析出工程(S3)では、析出反応温度を30℃以上70℃以下の範囲内に制御してリン酸カルシウムを析出させる必要がある。これは、析出反応温度が30℃未満であると、リンとカルシウムとの反応速度が小さく、リン酸カルシウムの析出速度を十分に高めることができないためである。また、析出反応温度が70℃超であると、リン酸カルシウムの析出率(=リン酸カルシウムとして析出したリンの量/ケイ素含有リン抽出液中のリンの量)が低下してリン回収効率が低くなるからである。なお、70℃超の析出反応温度においてリン酸カルシウムの析出率が低減するのは、高温条件下では、ケイ素含有リン抽出液中のケイ素と、カルシウム化合物中のカルシウムとが反応してカルシウムシリケート(CaSi・nHO、x,y,z,n>0)を生成するため、リン酸カルシウムの析出反応にカルシウム化合物を十分に使用することができなくなるからであると推察されている。
【0028】
因みに、リン酸カルシウムの析出速度を更に高める観点からは、析出反応温度は40℃以上とすることが好ましい。また、カルシウムシリケートの生成を抑制してリン酸カルシウムの析出率の低下を更に抑制すると共に、温度制御に必要なエネルギーおよびコストを削減する観点からは、析出反応温度は60℃以下とすることが好ましい。なお、カルシウム化合物として固体の水酸化カルシウムを使用する場合、水酸化カルシウムは高温条件下では水への溶解度が低下するという観点からも、析出反応温度を60℃以下とすることは特に好ましい。
【0029】
そして、リン酸カルシウム回収工程(S4)は、リン酸カルシウム析出工程で得たリン酸カルシウム析出物と処理液との混合物からリン酸カルシウムを回収する工程である。そして、リン酸カルシウム回収工程(S4)では、例えば沈降分離やろ過などの手段を用いてリン酸カルシウム析出物と処理液とが分離され、リン資源として再利用可能なリン酸カルシウムが回収される。
【0030】
ここで、リン酸カルシウム回収工程(S4)では、リン酸カルシウム析出工程(S3)においてカルシウムシリケートなどの副生成物が析出していた場合や、未反応のカルシウム化合物が残存していた場合には、該副生成物や未反応のカルシウム化合物はリン酸カルシウムと一緒にリン酸カルシウム析出物として処理液から分離されて回収される。従って、前述したリン酸カルシウム析出工程(S3)では、リン酸カルシウム析出物中のリン酸カルシウムの濃度が高くなるように、副生成物の生成量および未反応カルシウム化合物の残存量が少なくなる条件下でリン酸カルシウムを析出させることが好ましい。具体的には、析出反応温度を60℃以下としてカルシウムシリケートの生成を抑制した条件や、リン1.0molに対するカルシウム化合物の添加量をカルシウム換算で1.5mol以下、好ましくは1.3molとしてカルシウム化合物の残存量を低減した条件でリン酸カルシウムを析出させることが好ましい。
【0031】
そして、上記一例の汚泥焼却灰からのリン回収方法によれば、リン酸カルシウム析出工程においてケイ素含有リン抽出液からリン酸カルシウムを析出させる際の析出反応温度を30℃以上としているので、リン酸カルシウムの析出速度を高めて単位時間当たりに回収可能なリンの量を増加させる(即ち、リンの回収効率を高める)ことができる。また、リン酸カルシウムの析出速度を高めてリン酸カルシウムの析出に要する反応時間を短くすることができるので、リン回収に使用する装置(リン酸カルシウム析出槽など)を小型化することができる。更に、析出反応温度を70℃以下としているので、カルシウムシリケートの生成によるリン酸カルシウムの析出率の低下を抑制して、リンの回収効率が低下するのを抑制することができる。また、カルシウムシリケートの生成によるリン酸カルシウム析出物中のリン酸カルシウム濃度の低下を抑制して、高純度のリン酸カルシウムを回収することもできる。
【0032】
なお、上記一例の汚泥焼却灰からのリン回収方法は、特に限定されることなく、例えば図2に示すような回分式のリン回収装置1を用いて行うことができる。なお、リン回収装置としては、連続式の装置を用いても良い。
【0033】
ここで、このリン回収装置1は、下部に沈降部3が形成されたリン酸カルシウム析出槽2と、リン酸カルシウム析出槽2の内部から液体を吸引する吸引ポンプ4と、リン酸カルシウム析出槽2内を撹拌する撹拌機5と、リン酸カルシウム析出槽2内にケイ素含有リン抽出液を供給するケイ素含有リン抽出液供給手段としてのリン抽出液供給ポンプ6と、リン酸カルシウム析出槽2内にカルシウム化合物を供給するカルシウム化合物供給手段としてのホッパー7と、下部抜き出しバルブ10とを備えている。なお、このリン回収装置1では、沈降部3と、吸引ポンプ4と、下部抜き出しバルブ10とが共同して、リン酸カルシウム析出槽2内で析出したリン酸カルシウムを回収するリン酸カルシウム回収手段として機能する。
【0034】
また、リン回収装置1は、リン酸カルシウム析出槽2内の温度(析出反応温度)を30℃以上70℃以下に制御する温度制御手段としての温度コントローラー8およびヒーター9を更に備えている。なお、温度コントローラー8は、リン酸カルシウム析出槽2内の温度を測定するための温度測定部81を有しており、該温度コントローラー8は、温度測定部81で測定したリン酸カルシウム析出槽内の温度に基づきヒーター9の加熱部91の動作を制御して、リン酸カルシウム析出槽内の温度を30℃以上70℃以下、好ましくは40℃以上60℃以下の範囲内の一定の温度に保つ。
【0035】
そして、このリン回収装置1では、例えば、リン酸カルシウム析出槽2内にリン抽出液供給ポンプ6でケイ素含有リン抽出液を投入した後、まず、ホッパー7でカルシウム化合物を添加する。そして、温度コントローラー8およびヒーター9でリン酸カルシウム析出槽2内の温度を30℃以上70℃以下に制御しつつ、リン酸カルシウムを析出させる(リン酸カルシウム析出工程)。その後、リン酸カルシウム析出工程で析出したリン酸カルシウム析出物を沈降部3に沈降させ、吸引ポンプ4を介してリン酸カルシウム析出槽2内の処理液を抜き出してから、下部抜き出しバルブ10を開いてリン酸カルシウム析出物を回収する(リン酸カルシウム回収工程)。
【0036】
なお、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法およびリン回収装置は、上記一例に限定されることなく、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法およびリン回収装置には、適宜変更を加えることができる。
【0037】
具体的には、本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法では、リン酸カルシウム析出工程において、ケイ素含有リン抽出液中にリン酸カルシウムの種結晶を添加した状態でリン酸カルシウムを析出させても良い。このように、リン酸カルシウムの種結晶の存在下でリン酸カルシウムを析出させれば、リン酸カルシウムを優先的に析出させてカルシウムシリケートの生成を抑制し、リン回収効率を更に向上することができるからである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
まず、ケイ素およびリンを含有(SiO濃度:32.9質量%、P濃度:22.9質量%)する下水汚泥焼却灰25gと、濃度4質量%の水酸化ナトリウム水溶液250mLとを温度60℃で30分間混合した後、吸引ろ過により固液分離してケイ素含有リン抽出液(PO3−濃度:11000mg/L)を得た(リン抽出工程)。
次に、ケイ素含有リン抽出液に対して水酸化カルシウムを添加してリン酸カルシウムを析出させた(リン酸カルシウム析出工程)。なお、リン酸カルシウムの析出には図2に示すリン回収装置を用い、析出反応温度は30℃、水酸化カルシウムの添加量は3.35g(ケイ素含有リン抽出液中のリンとの反応当量の1.3倍)とした。また、リン酸カルシウム析出工程では、水酸化カルシウム添加後(析出反応開始後)、任意の反応時間における処理液中のリン濃度をJIS K0102に準拠してモリブデン青吸光光度法で測定し、リン酸カルシウム析出率(=リン酸カルシウムとして析出したリンの量/ケイ素含有リン抽出液中のリンの量)を測定した。
そして最後に、得られたリン酸カルシウム析出物を回収して乾燥した(リン酸カルシウム回収工程)。
リン酸カルシウム析出工程における反応時間とリン酸カルシウム析出率との関係を表1および図3に示す。また、析出反応温度とリン酸カルシウム析出率が70%に達するまでに要した時間との関係を図4に示す。
【0040】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
リン酸カルシウム析出工程における析出反応温度を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして下水汚泥焼却灰からリンを回収した。そして、実施例1と同様にして、任意の反応時間における処理液中のリン濃度を測定し、リン酸カルシウム析出率を算出した。リン酸カルシウム析出工程における反応時間とリン酸カルシウム析出率との関係を表1および図3に示す。また、析出反応温度とリン酸カルシウム析出率が70%に達するまでに要した時間との関係を図4に示す。なお、比較例3(析出反応温度:80℃)ではリン酸カルシウム析出率が70%に達しなかったため、比較例3のデータは図4中にプロットしていない。
また、実施例2(析出反応温度:40℃)および比較例3(析出反応温度:80℃)で回収したリン酸カルシウム析出物については、リン酸カルシウム析出物1g中のSi量(SiO換算)をJIS K0101に準拠してモリブデン青吸光光度法で測定した。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1および図3、図4より、析出反応温度を30℃以上、好ましくは40℃以上とすれば、リン酸カルシウムの析出速度を増加させて短時間でリン酸カルシウムを析出させ得ることが分かる。また、析出反応温度を70℃以下、好ましくは60℃以下とすれば、短時間で効率的にリン酸カルシウムを析出させ得ることが分かる。更に、析出反応温度が80℃の条件下では、反応時間を長くしてもリン酸カルシウム析出率が60%程度までしか増加しないことが分かる。
また、表2より、析出反応温度を80℃とした場合には、析出反応温度が40℃の場合よりも約4.6倍のケイ素化合物が析出していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の汚泥焼却灰からのリン回収方法およびリン回収装置によれば、リン回収効率を向上すると共にリン回収装置を小型化することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 リン回収装置
2 リン酸カルシウム析出槽
3 沈降部
4 吸引ポンプ
5 撹拌機
6 リン抽出液供給ポンプ
7 ホッパー
8 温度コントローラー
9 ヒーター
10 下部抜き出しバルブ
81 温度測定部
91 加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリンおよびケイ素を含有する汚泥焼却灰と、アルカリ性反応液とを混合し、前記汚泥焼却灰に含まれているリンおよびケイ素を前記アルカリ性反応液中に抽出して、ケイ素含有リン抽出液を得るリン抽出工程と、
前記ケイ素含有リン抽出液とカルシウム化合物とを30℃以上70℃以下の析出反応温度で混合して、ケイ素含有リン抽出液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させるリン酸カルシウム析出工程と、
前記リン酸カルシウムを回収するリン酸カルシウム回収工程と、
を含むことを特徴とする、汚泥焼却灰からのリン回収方法。
【請求項2】
前記析出反応温度を60℃以下としたことを特徴とする、請求項1に記載の汚泥焼却灰からのリン回収方法。
【請求項3】
前記リン酸カルシウム析出工程において、前記ケイ素含有リン抽出液中のリン1.0molに対して、前記カルシウム化合物をカルシウム換算で1.0〜1.5mol添加することを特徴とする、請求項1または2に記載の汚泥焼却灰からのリン回収方法。
【請求項4】
少なくともリンおよびケイ素を含有する汚泥焼却灰からアルカリ性反応液中に前記リンおよびケイ素を抽出して得たケイ素含有リン抽出液と、カルシウム化合物とを所定の析出反応温度で混合して、ケイ素含有リン抽出液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させるリン酸カルシウム析出槽と、
前記リン酸カルシウム析出槽内の前記析出反応温度を30℃以上70℃以下に制御する温度制御手段と、
前記リン酸カルシウムを回収するリン酸カルシウム回収手段と、
を備えることを特徴とする、汚泥焼却灰からのリン回収装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−56784(P2012−56784A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200076(P2010−200076)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年6月30日発行 第47回下水道研究発表会講演集 第260ページ〜第262ページに発表
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(000220675)東京都下水道サービス株式会社 (98)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】