説明

汚泥焼却炉排ガスの集塵方法

【課題】汚泥焼却炉排ガス中に含まれる焼却灰を、重金属類の残留量が極めて少ない低溶出灰と、重金属類を比較的多量に含む灰とに分別して回収することができる汚泥焼却炉排ガスの集塵方法を提供する。
【解決手段】汚泥焼却炉1の排ガスを700℃以上で高温セラミックフィルタ3に供給して高温集塵灰を捕集したのち、分級機4により粗粒灰と微粒灰とに分級する。分級限界粒径は10μm以上とする。粗粒の高温集塵灰からの重金属溶出量は環境基準をクリアし、低溶出灰として再利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水脱水汚泥を焼却する際に発生する汚泥焼却炉排ガスの集塵方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理場から発生する下水脱水汚泥の処理方法として、従来から様々な技術が開発されているが、主流を占めるのは焼却処理法である。この汚泥焼却炉の排ガスを集塵機で捕集した集塵灰には微量ながら重金属が含まれており、そのまま埋設処理すると特にAs、Se、F、Bが土壌環境基準に規定される溶出基準を超えて土壌中に溶出する可能性がある。ちなみに、各溶出基準値はAs及びSeが0.01mg/L、Fが0.8mg/L、Bが1.0mg/Lである。このため大量に発生する汚泥焼却灰の有効利用を図る場合には、これらの有害成分の溶出防止手段を講ずる必要があり、有効利用の障害となっていた。
【0003】
そこで本発明者等は、汚泥焼却炉の排ガスを700℃以上で高温サイクロンに供給して高温集塵灰を捕集したのち、その後段に設置されたバグフィルタなどのろ過式集塵装置で低温集塵灰を捕集する技術を開発し、特許文献1として提案済みである。この技術は、AsやSe等の重金属類は700℃以上で気化するため高温集塵灰に残留しにくいことを利用し、AsやSe等の残留量の少ない高温集塵灰を回収する方法である。排ガス中のAsやSe等は高温サイクロンをガス状態で通過するが、その後の排ガス温度の降下とともに凝結して焼却灰の表面に付着し、後段の200〜350℃程度のろ過式集塵装置で低温集塵灰とともに捕集される。
【0004】
この特許文献1の方法によれば、AsやSe等の重金属類の残留量の少ない比較的多量の高温集塵灰と、AsやSe等の重金属類(以下、単に重金属類と記す)を含む比較的少量の低温集塵灰とに分別回収が可能となり、高温集塵灰の有効利用を図ることができる。ところが最近になって、集塵灰からの重金属類の溶出量を従来よりも一段と低減したいとの要求が高まっている。このため、重金属類の溶出量を一段と低減できる新規な汚泥焼却炉排ガスの集塵方法が求められていた。
【特許文献1】特開2006‐116526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した要望に応えるためになされたものであり、汚泥焼却炉排ガス中に含まれる焼却灰を、重金属類の残留量が極めて少ない低溶出灰と、重金属類を比較的多量に含む灰とに分別して回収することができる汚泥焼却炉排ガスの集塵方法を提供することを主たる目的とするものである。また本発明のその他の目的は、排ガスからの熱エネルギの回収を効率よく行うことができる汚泥焼却炉排ガスの集塵方法を提供することである。
【0006】
本発明者等はこのような課題を解決するために検討を重ねた結果、重金属類は焼却灰のうちでも微粒灰の表面に付着しやすく、例えば高温集塵灰のうち粒径10μm以下の微粒灰をカットして粗粒灰のみとすれば、重金属類の溶出量の少ない低溶出灰を回収できることを究明した。この現象は粒径が小さくなると比表面積が増加し、単位重量あたりの重金属類の付着量が増加するためではないかと推測される。なお、本発明者等は特許文献1に明示の無いP及びF、Bにも溶出低減効果が見られることを確認している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであって、汚泥焼却炉の排ガスを700℃以上で高温セラミックフィルタに供給して高温集塵灰を捕集したうえ、捕集された高温集塵灰を粗粒灰と微粒灰とに分級し、粗粒灰を重金属類の溶出量が小さい低溶出灰として回収することを特徴とするものである。なお、粗粒灰の最小粒径を、10μm以上とすることが好ましく、また、高温集塵灰が捕集された排ガスを、高温セラミックフィルタの後段に設置された排熱回収装置に導いて排熱回収を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、高温セラミックフィルタにより700℃以上の高温状態で捕集された高温集塵灰を粗粒灰と微粒灰とに分級し、粗粒灰を低溶出灰として回収する。上記したように粒径が小さくなると比表面積が増加し、単位重量あたりのP及び重金属類の付着量が増加するため、例えば粒径が10μm以下の微粒灰をカットして最小粒径を10μm以上とすれば、高温集塵灰からのP及び重金属類の溶出量を一段と低下させることが可能となる。
【0009】
また本発明によれば、高温セラミックフィルタを用いて集塵するために微粒灰も除去され、高温セラミックフィルタの後段に設置された排熱回収装置に導いて排熱回収を行う場合にも、微粒灰が表面に付着して伝熱効率を低下させることがない。このため、排ガスからの熱エネルギの回収を効率よく行うことができる。また、通常の汚泥焼却設備では熱交換器伝面への灰付着を低減するためにシェル−チューブ型やUチューブ型等の熱交換器を用いる必要があったが,本発明においては熱交換器前段で高温セラミックフィルタによる精密集塵が行なわれ、排ガス中のばいじん濃度が低い為、プレート式等の安価な熱交換器を選択することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1において1は汚泥焼却炉であり、ここでは底部から空気を吹き込んで流動床を形成する流動床式焼却炉が用いられている。下水脱水汚泥は汚泥供給用ポンプ2により汚泥焼却炉1に投入され、800〜1000℃で焼却される。しかし汚泥焼却炉1の形式は特に限定されるものではない。
【0011】
汚泥焼却炉1の排ガスは高温セラミックフィルタ3に導かれる。高温セラミックフィルタ3としては、出願人会社製の多孔質セラッミックフィルタを用いることができる。その形状は、有底円筒状のキャンドルタイプであっても、ハニカムタイプであっても差し支えない。捕集温度は700℃以上の高温であり、好ましい捕集温度は800〜850℃である。高温セラミックフィルタ3によって、排ガス中に含まれる焼却灰を排ガスからほぼ完全に分離することができる。Pの気化温度は277℃、Asの気化温度は613℃、Seの気化温度は685℃であるから、捕集温度を700℃以上と設定しておけばP及びAsやSeは焼却灰に残留しにくく、大部分は排ガスとともに後段に移行することとなる。また、焼却灰に含有されるSOxやNOx等の酸性成分の一部も、排ガスとともに後段に移行するため、焼却灰はpH8〜9のアルカリ性を呈する。
【0012】
本発明では、この高温セラミックフィルタ3によって捕集された高温集塵灰を、分級機4によって更に粗粒灰と微粒灰とに分級する。分級機4の種類は特に限定されるものではないが、例えば風力分級機を用いることができる。粗粒灰と微粒灰との分離限界粒径は適宜に決定できるが、実験の結果によれば、粗粒灰の最小粒径を10μm以上とすることが好ましい。すなわち、粒径が10μm以下の粒子を含まない粗粒灰と、粒径が10μm以下の粒子を主体とする微粒灰とに分級することが好ましい。
【0013】
この点につき更に詳述すると、流動床焼却炉の焼却灰は平均粒度が30μm前後であり、粒径10μm以下の微粒灰が占める重量比は6〜7%程度、20μm以下の微粒灰が占める重量比は20%程度である。本発明では分離限界粒径を10μm以上の任意の値とすればよいが、分離限界粒径を30μmより大きく設定すると粗粒灰の回収率が低下することとなり、P及び重金属の溶出量の低い灰をできるだけ多量に回収したいという目的から外れることとなる。このため、分離限界粒径は10μm以上、30μm以下の範囲内に設定することが好ましい。
【0014】
本発明において高温セラミックフィルタ3で回収される粗粒灰は、700℃以上の高温状態で捕集され、しかも分離限界粒径以下の微粒灰を含まないものである。前記したように、微粒灰は比表面積が大きく単位重量当たりのP及び重金属類の付着量が比較的多いため、微粒灰をカットすることにより、回収された粗粒灰はP及び重金属類の溶出量が極めて小さい低溶出灰となる。具体的な数値は実施例のデータに示すが、5〜10μmの粒径の微粒灰はそれ以上の粒径の粗粒灰よりもP及びAsの溶出量が約10倍と大きく、これをカットすることにより特にP及びAsの溶出量を大幅に抑制することが可能となる。
【0015】
また、微粒灰は比表面積が大きく単位重量当たりのSOxやNOx等の酸性成分の付着量も比較的多いため、微粒灰をカットすることにより、回収された粗粒灰はpH10〜11のアルカリ性を呈する。このため、従来から灰の溶出抑制手段として用いられてきた石灰の添加を行うことなく、灰の溶出を抑制することが可能となる。
【0016】
このように、この粗粒灰は土壌環境基準をクリアしており、そのまま埋設することができ、また溶出防止手段を講ずることなくそのまま有効利用することもできる。更に、この粗粒灰ではP溶出量が抑制されるため、焼却灰をセメント材料やセメント系固化剤添加土木資料として用いる場合に生じていたPの混入による製品強度低下の問題が解消できる。
【0017】
しかも前記したように、全焼却灰のうち粒径10μm以下の微粒灰が占める重量比は6〜7%程度、20μm以下の微粒灰が占める重量比は20%程度であるから、分離限界粒径を10〜20μmに設定しても、回収される灰の量はさほど減少することはない。
【0018】
このようにして高温セラミックフィルタ3で高温集塵灰を捕集したのち、排ガスは高温セラミックフィルタ3の後段に設置された排熱回収装置5に導かれ、排熱回収される。この実施形態では排熱回収装置5は熱交換器であり、汚泥焼却炉1の流動用空気を加熱するために用いられる。高温セラミックフィルタ3でろ過されたガス中には焼却灰はほとんど含まれていないので、焼却灰が排熱回収装置5の伝熱面に付着して伝熱特性を低下させることはなく、長期間にわたり安定した運転が可能である。
【0019】
この実施形態では、排ガスはさらに排熱ボイラ6に導かれ、発生した蒸気で蒸気タービン7を回して発電する。排熱ボイラ6を通過した排ガスはスクラバ8で脱硫・脱塩処理され放出される。
【実施例】
【0020】
ある下水処理場から発生した比較的多量のP及びAsを含む下水汚泥脱水ケーキを、炉内温度が820℃の流動床式焼却炉で焼却し、その排ガスを図1に示した本発明方法により高温集塵温度700℃の高温セラミックフィルタで集塵した。先ず比較例として高温セラミックフィルタの捕集灰を分級せずに環境基準に規定される方法でP及び重金属の溶出試験を行ったところ、Seの溶出量は0.002mg/Lであり基準値である0.01mg/Lをクリアしたが、Asは0.016mg/Lであり基準値である0.01mgを越えていた。また、Pの溶出量は1.33mg/Lであった。
【0021】
これに対して、本発明方法により高温セラミックフィルタの捕集灰を分級し、粒径が10μm以下の微粒灰を含まない粗粒灰のみを回収すると、Seの溶出量は上記比較例と同様0.002mg/Lであったが、Pの溶出量は0.05mg/L以下となり、Asは定量限界値である0.005mg/Lを下回り、検出不能のレベルにまで低下した。
【0022】
なお、高温セラミックフィルタの捕集灰につき、粒度別にAsの溶出量を測定したところ、10μm以下の微粒灰からのAsの溶出量は0.06mg/Lに達しており、この部分を除去したことによってAs溶出量の低い低溶出灰の捕集が可能となったことが裏付けられた。
【0023】
この実施例のデータに示されるように、本発明によれば汚泥焼却炉排ガス中に含まれる焼却灰を、P及び重金属類の付着量が極めて少なく環境基準をクリアできる低溶出灰と、これらを比較的多量に含む集塵灰とに分別して回収することができ、焼却灰の有効利用を図るうえで有利である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0025】
1 汚泥焼却炉
2 汚泥供給用ポンプ
3 高温セラミックフィルタ
4 分級機
5 排熱回収装置
6 排熱ボイラ
7 蒸気タービン
8 スクラバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却炉の排ガスを700℃以上で高温セラミックフィルタに供給して高温集塵灰を捕集したうえ、捕集された高温集塵灰を粗粒灰と微粒灰とに分級し、粗粒灰を重金属類の溶出量が小さい低溶出灰として回収することを特徴とする汚泥焼却炉排ガスの集塵方法。
【請求項2】
粗粒灰の最小粒径を、10μm以上としたことを特徴とする請求項1記載の汚泥焼却炉排ガスの集塵方法。
【請求項3】
高温集塵灰が捕集された排ガスを、高温セラミックフィルタの後段に設置された排熱回収装置に導いて排熱回収を行うことを特徴とする請求項1記載の汚泥焼却炉排ガスの集塵方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−221206(P2008−221206A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26270(P2008−26270)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】