説明

汚泥脱水方法

【課題】少量の消石灰の添加で、脱水汚泥ケーキの量を増大させることなく、脱水性を改善することができる汚泥脱水方法を提供する。
【解決手段】有機性廃水の活性汚泥処理において発生する余剰汚泥と、リン酸カルシウムを含む汚泥との混合汚泥を脱水機で脱水する汚泥脱水方法において、該混合汚泥に消石灰を100〜2000mg/L添加して脱水することを特徴とする汚泥脱水方法。該有機性廃水は液晶ディスプレイ製造工場での現像廃液、レジスト剥離廃水及び有機酸エッチング廃水などであり、リン酸カルシウム含有汚泥は、該液晶ディスプレイ製造工場でのリン酸エッチング廃水を消石灰によりリン酸不溶化処理する工程で発生するリン酸カルシウム含有汚泥などである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥脱水方法に係り、特に有機性廃水の活性汚泥処理において発生する余剰汚泥と、リン酸カルシウムを含む汚泥との混合汚泥を脱水する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水等の有機性廃水を活性汚泥処理した場合に発生する余剰汚泥は、脱水性が悪いために、凝集剤で凝集処理した後、脱水機で脱水することが多い。例えば、特許文献1では、汚泥に塩化第二鉄と消石灰を添加し、フィルタプレスで脱水することが記載されている。特許文献1での添加率は、汚泥濃度1.58%の余剰汚泥に対し塩化第二鉄10%(重量%。以下、同様)、消石灰10%(実施例2)、汚泥濃度2.54%の余剰汚泥に対し塩化第二鉄12%、消石灰45%(実施例3)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−99200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来、有機性廃水の活性汚泥処理において発生する汚泥を脱水機で脱水する際に添加する消石灰量は10〜45%と多い。このため、脱水汚泥ケーキの量が増大し、ケーキ処分費が嵩む問題があった。本発明は、少量の消石灰の添加で、脱水汚泥ケーキの量を増大させることなく、汚泥の脱水性を改善することができる汚泥脱水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の汚泥脱水方法は、有機性廃水の活性汚泥処理において発生する余剰汚泥と、リン酸カルシウムを含むリン酸カルシウム含有汚泥との混合汚泥を脱水機で脱水する汚泥脱水方法において、該混合汚泥に消石灰を100〜2000mg/L添加して脱水することを特徴とするものである。
【0006】
請求項2の汚泥脱水方法は、請求項1において、消石灰を200〜500mg/L添加することを特徴とするものである。
【0007】
請求項3の汚泥脱水方法は、請求項1又は2において、有機性廃水は液晶ディスプレイ製造工場での現像廃液、レジスト剥離廃水及び有機酸エッチング廃水の少なくとも1種であり、リン酸カルシウム含有汚泥は、該液晶ディスプレイ製造工場でのリン酸エッチング廃水を消石灰によりリン酸不溶化処理する工程で発生するリン酸カルシウム含有汚泥であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4の汚泥脱水方法は、請求項3において、前記余剰汚泥と、前記リン酸カルシウム含有汚泥と、リン酸エッチング廃液を消石灰によりリン酸の不溶化処理を行った際の処理水、有機性廃水の活性汚泥処理水および、前記の混合汚泥の脱水濾液を、アルミ系凝集剤で凝集処理する工程からの凝集汚泥との混合汚泥に対し前記消石灰を添加して脱水することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
有機性廃水の活性汚泥処理において発生する余剰汚泥は、脱水性が悪いが、リン酸カルシウムを含む汚泥は脱水性が良い。従って、余剰汚泥と、リン酸カルシウムを含む汚泥とを混合することにより、汚泥の脱水性が向上する。本発明では、この余剰汚泥とリン酸カルシウム含有汚泥との混合汚泥に対し、消石灰を100〜2000mg/L添加する。このようにリン酸カルシウムによって脱水性がある程度向上している混合汚泥に対し消石灰を少量添加すると、混合汚泥の脱水性が顕著に向上することが見出された。本発明は、かかる知見に基くものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明では、有機性廃水の活性汚泥処理で発生する余剰汚泥と、リン酸カルシウムを含む汚泥との混合汚泥に対し、消石灰を100〜2000mg/L添加して(即ち、混合汚泥に対して消石灰を、添加後の汚泥中における消石灰濃度が100〜2000mg/Lとなるように添加して)脱水する。従って、本発明は、有機性廃水の活性汚泥処理と、リン酸カルシウム含有汚泥とが発生する廃水処理プロセスに適用するのに好適である。このような廃水処理プロセスとしては、液晶ディスプレイ等の電子部品製造工程廃水の処理プロセスが挙げられる。
【0013】
液晶ディスプレイ製造工場では、現像廃液、レジスト剥離廃液、有機酸エッチング廃液などの有機性廃液は、活性汚泥処理がなされており、余剰汚泥が発生する。また、リン酸エッチング廃液は、消石灰によりリン酸の不溶化処理がなされており、リン酸カルシウムを含む汚泥が発生する。
【0014】
余剰汚泥とリン酸カルシウム含有汚泥との混合割合は、混合汚泥固形分100重量部に対しリン酸カルシウム含有汚泥を固形分として70〜95重量部、特に80〜92重量部、とりわけ85〜90重量部程度が好適である。なお、通常の液晶ディスプレイ製造工場廃水の活性汚泥処理で発生する余剰汚泥の濃度は0.6〜1.5重量%程度であり、リン酸エッチング廃水の消石灰による不溶化処理工程で発生するリン酸カルシウム含有汚泥の濃度は20〜30重量%程度である。両者の容量混合割合は、リン酸カルシウム汚泥が、通常10〜40容量%程度であり、混合汚泥の濃度は通常3〜12重量%、特に5〜10重量%程度である。
【0015】
本発明を液晶ディスプレイ製造工場廃水の処理に適用する場合、有機性の活性汚泥処理の余剰汚泥とリン酸カルシウム含有汚泥との2者を混合してもよいが、さらにPAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸バンドなどのアルミ系凝集剤による凝集汚泥も加えた3者の混合汚泥に消石灰を添加して脱水処理してもよい。このアルミ系凝集剤による凝集汚泥は、リン酸エッチング廃液を消石灰によりリン酸の不溶化処理を行った際の処理水、有機性廃水の活性汚泥処理水および、前記の混合汚泥の脱水濾液を、アルミ系凝集剤で凝集処理した際に発生する汚泥のことである。
【0016】
かかる2者又は3者もしくはさらに他の汚泥を加えた混合汚泥に対し、消石灰を100〜2000mg/L添加する。この添加量は、混合汚泥の汚泥固形分量に対して約0.3〜2.6重量%程度であり、従来の一般的な消石灰添加量の1/10以下である。なお、消石灰の好ましい添加量は100〜1000mg/L、特に200〜600mg/L、とりわけ200〜500mg/Lである。また、消石灰添加後のpHが10〜11となるような消石灰添加量とするのが好ましい。
【0017】
消石灰は、粉末で添加されてもよく、スラリーとして添加されてもよい。消石灰の添加場所は、混合汚泥の貯槽であってもよく、汚泥を貯槽から脱水機まで送る配管の途中であってもよい。
【0018】
脱水機としては、フィルタープレス、ベルトプレス、遠心脱水機、電気浸透脱水、スクリュープレス、多重円板濾過などのいずれでもよい。
【0019】
消石灰の添加量は、消石灰添加後の混合汚泥の脱水性(例えば、脱水処理後のケーキ含水率や、汚泥の剥離性)に基づいて上記範囲内で調整されてもよい。
【0020】
本発明によると、上記のように少量の消石灰の添加で汚泥の脱水性が顕著に向上するので、脱水汚泥ケーキ量の増加も極めて少ない。消石灰添加量が少なくても脱水性が向上する理由については、必ずしも十分に明らかではないが、混合汚泥中のリン酸カルシウムと消石灰とが何らかの形態で反応することに起因するのではないかと推察される。
【0021】
本発明は、前述の通り、液晶ディスプレイ製造工場廃水の処理に適用するのに好適である。
【0022】
液晶製造工場では、リン酸カルシウム含有汚泥、アルミ系凝集剤による凝集汚泥及び有機性余剰汚泥を混合した混合汚泥をフィルタープレスで脱水しているが、その混合比率はその日の製造状態により毎日変化する。この有機系汚泥の比率が多くなった場合には汚泥脱水性が悪化することが多く、例えば、汚泥が濾布から剥離しにくくなったり含水率が高くなり、ひどい時には汚泥ケーキが得られず汚泥が液状のまま排出されることがあった。
【0023】
一般に、複数の処理系統の汚泥を1か所の貯留槽に貯留し混合汚泥としてフィルタープレス脱水する場合に、各処理系統の汚泥貯留量はその時の運転条件で変化し、その影響で汚泥性状も日によって変化する。脱水機による脱水性状もこの汚泥性状変化の影響を受け、ケーキ含水率の大幅な増加や濾布からの剥離性の悪化が生じる。
【0024】
脱水性状が悪化した場合には、基本的には各処理系統からの排出汚泥量の調整などにより対応するが、処理系統での調整が困難な場合もある。
【0025】
本発明によれば、有機性の活性汚泥処理の余剰汚泥とリン酸カルシウム含有汚泥との混合汚泥の脱水性が著しく向上し、各汚泥の性状変化があっても脱水ケーキの含水率を十分に低下させることができる。
【0026】
ただし、本発明は、液晶ディスプレイ製造工場廃水以外の廃水処理から発生する汚泥の脱水処理にも適用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0028】
[実施例1〜3、比較例1]
液晶ディスプレイ製造工場の現像廃水、レジスト剥離廃水及び有機酸エッチング廃水の混合廃水の活性汚泥処理の余剰汚泥と、この液晶ディスプレイ製造工場のリン酸エッチング廃水の消石灰によるリン酸不溶化処理工程からのリン酸カルシウム含有汚泥と、アルミ系凝集剤による凝集処理汚泥とを混合した混合汚泥に粉末状消石灰を添加したときの脱水性改善効果について、小型脱水機を用いて判定した。このアルミ系凝集剤による凝集処理汚泥(以下、アルミ系凝集汚泥ということがある。)は、リン酸エッチング廃液を消石灰によりリン酸の不溶化処理を行った際の処理水、有機性廃水の活性汚泥処理水および、前記の混合汚泥の脱水濾液を、PAC(ポリ塩化アルミニウム)で凝集処理した際に発生する汚泥のことである。
【0029】
なお、上記余剰汚泥は、SS濃度0.9重量%、VSS/SS約0.90である。リン酸カルシウム含有汚泥は、SS濃度22重量%、VSS/SS約0.05、P/SS約0.38、CaO/SS約0.52である。アルミ系凝集剤による凝集汚泥は、SS濃度3重量%、VSS/SS約0.35であり、Al/SSは約0.1である。
【0030】
小型脱水機の仕様及び運転条件は次の通りである。
【0031】
濾過面積:100cm(片面式)
濾過厚み:15mm
濾室容積:150cm
使用濾布:ナイロン系濾布、モノフィラメント織り
濾過圧力:0.4MPa
濾過時間:40分
圧搾圧力:0.3MPa
圧搾時間:40分
【0032】
余剰汚泥と、リン酸カルシウム含有汚泥(以下、リン酸カルシウム汚泥と記載することがある。)と、アルミ系凝集汚泥とを表1の割合で混合し、消石灰添加量を0mg/L、250mg/L、500mg/L、1000mg/L又は2000mg/Lとし、上記小型脱水機で脱水したときの脱水ケーキの含水率及び平均濾過速度を測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
結果を図1,2に示す。なお、図1のデータのうち消石灰添加率(0mg/L、250mg/L又は500mg/L)をパラメータとしてプロットしたグラフを図3に示す。また、消石灰添加後の混合汚泥のpHを表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
図1,2に示す通り、消石灰を100〜2000mg/L、特に200〜1000mg/L、とりわけ200〜500mg/L程度添加することにより、脱水ケーキの含水率が十分に低くなり、濾過速度も高くなる。また、図3の通り、リン酸カルシウム汚泥の比率が多くなるほど、脱水ケーキの含水率が低くなる。
【0037】
<消石灰をNaOHに代替した場合の混合汚泥の脱水性テスト>
上記余剰汚泥30重量%、リン酸カルシウム汚泥34重量%及びアルミ系凝集汚泥36重量%を混合した混合汚泥に消石灰又はNaOHを添加し、pHを種々変えたときのアルカリ添加後の汚泥の脱水性及び濁度を測定した。NaOHとしては5wt%水溶液を用いた。脱水性の指標値としてはCST値を用いた。濁度は光路長20mmのセルを用い、波長660nmにて測定した。
【0038】
CST値は、濾紙の両面を挟む一対の電極接点が濾紙の上下方向に複数対配置された計器(CST計)で測定された値(Capillary Suction Time:秒)である。このCST値は次のようにして計測される。上記CST計の濾紙の先端を原汚泥や脱水濾液のような試料溶液に浸漬する。そのとき、毛管現象によって試料溶液は吸いあげられるが、電極接点の位置まで上昇すると両極間が通電状態になる。したがって、複数対の電極接点間を試料溶液が通過する時間を測定することにより、試料溶液の移動速度を検知することができ、その時間の大小で試料溶液の性状を把握することができる。この通過時間がCST値であり、汚泥の脱水性の指標となる。このテストの結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3の通り、消石灰の代替としてNaOHを添加すると、CST値はNaOH添加量の増加に伴って増大してしまい、脱水性が低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水の活性汚泥処理において発生する余剰汚泥と、リン酸カルシウムを含むリン酸カルシウム含有汚泥との混合汚泥を脱水機で脱水する汚泥脱水方法において、
該混合汚泥に消石灰を100〜2000mg/L添加して脱水することを特徴とする汚泥脱水方法。
【請求項2】
請求項1において、消石灰を200〜500mg/L添加することを特徴とする汚泥脱水方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、有機性廃水は液晶ディスプレイ製造工場での現像廃液、レジスト剥離廃水及び有機酸エッチング廃水の少なくとも1種であり、
リン酸カルシウム含有汚泥は、該液晶ディスプレイ製造工場でのリン酸エッチング廃水を消石灰によりリン酸不溶化処理する工程で発生するリン酸カルシウム含有汚泥であることを特徴とする汚泥脱水方法。
【請求項4】
請求項3において、前記余剰汚泥と、前記リン酸カルシウム含有汚泥と、リン酸エッチング廃液を消石灰によりリン酸の不溶化処理を行った際の処理水、有機性廃水の活性汚泥処理水および、前記の混合汚泥の脱水濾液を、アルミ系凝集剤で凝集処理する工程からの凝集汚泥との混合汚泥に対し前記消石灰を添加して脱水することを特徴とする汚泥脱水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−166117(P2012−166117A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26943(P2011−26943)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】