説明

沈下基礎修復装置

【課題】膨張型鋼管の形状を工夫し、併せて補助材を用いることにより、沈下基礎の回復量を大きくすることが可能な沈下基礎修復装置を提供する。
【解決手段】両端に高水圧の付加によって破損することのない強度を有する円筒形のスリーブが装着された水密構造を有する異形の管体からなり、当該管体はスリーブに隣接する部位を除いた部分では一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面で構成されているとともに、前記スリーブの一方に注入孔が設けられた構造を有する膨張型鋼管と、当該膨張型鋼管の前記窪みの上に載置されたスペーサ棒とからなり、前記注入孔からの高圧水の注入による前記膨張型鋼管の扁平化部の円形断面への膨張変形時の管断面高さの増大を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等を構築した基礎が沈下した際の建物等の基礎をリフトアップするための膨張型鋼管を用いた沈下基礎修復装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、後背湿地,臨海埋立地,三角洲低地,おぼれ谷,海岸砂洲等を構成する地盤は、泥炭質の地盤や圧密の進行の遅い地盤等によって形成されていることから、軟弱地盤となっている場合が多い。このような軟弱地盤は、地盤保持力が小さく、また引続き圧密沈下を生じやすいことから、軟弱地盤の上方に建物等の構造物を構築した場合には、構築された構造物に不同沈下(不等沈下)等の沈下が生じやすい。
【0003】
建物等の構造物に沈下が生じた際の修復手段としては、例えば特許文献1に見られるように、沈下が生じた部分を基礎とともにジャッキを用いてリフトアップし、リフトアップすることにより生じた基礎と基礎地盤との間の隙間に、モルタル、グラウト、発泡ウレタン等の固化材を充填・固化する手法が採用されている。
しかしながら、この手法は、設置面積の狭い基礎に、設計時に想定していない過度の負荷を負わせるために、基礎を破壊するおそれがあるばかりでなく、作業そのものにも意外に手間を要している。
そこで、本出願人の一部は、予め扁平にプレスした鋼管を膨張させ、元の丸形状に戻る際の変位を利用して、沈下基礎を修復させる技術を特許文献2として提案した。
【0004】
特許文献2で提案した手法は、基礎地盤の表層部分に設けた受圧盤と建物の基礎との間の建物の沈下が予想される部分に、予め扁平にプレスされた膨張型鋼管を配設し、この膨張型鋼管に膨張用流体を圧入して扁平化された断面形状から元の断面形状に戻るように前記膨張型鋼管を膨張変形させることにより前記基礎を押し上げて、建物の沈下を修復しようとするものである。
また、前記特許文献2では、扁平にプレスされた膨張型鋼管に代わって、本出願人の一人が特許文献3で提案している、中空内部に外周面の一部を折り込んだ凹型の断面形状を有する異形管からなる膨張型鋼管が用いられ得ることも紹介されている。
【0005】
特許文献2で提案した方法も、扁平にプレスされた断面形状を有するもの、或いは中空内部に外周面の一部を折り込んだ凹型の断面形状を有する膨張型鋼管を用いても、膨張量、すなわち鋼管の膨張に伴う沈下基礎の回復量には限界がある。高い回復高さを確保しようとすると、前記のような膨張型鋼管を、2段或いはそれ以上の段数に重ねて配設する必要があり、施工が難しくなり、結果的にコストも高くなってしまう。
そこで、本出願人は、膨張量、すなわち沈下基礎の回復量を大きくするべく、膨張前の形状を工夫したものを特許文献4で提案した。管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、かつ当該管体はスリーブに隣接する部位では凹型断面で、スリーブに隣接する部位を除いた部分では扁平化された断面で構成された構造を有する膨張型の鋼管を提案した。注入孔からの高圧水の注入による前記扁平化断面部の円形断面への膨張変形時の管断面高さの増大を利用しようとするものである。
【特許文献1】特開2000−8398号公報
【特許文献2】特開2007−154525号公報
【特許文献3】特開2003−206698号公報
【特許文献4】特願2006−225137号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献4で提案した発明の沈下基礎修復用膨張型鋼管は、膨張用の扁平化された断面を有する異形の鋼管から構成している。このため、注水孔から高圧水を注入することによって前記扁平化された断面部を円形断面へ膨張変形させる際に発現する管断面高さの増大を有効に活用することができ、従来のものと比べてリフトアップ高さ、すなわち、沈下基礎の修復高さを格段に高くすることができると言う作用を発揮するために、極めて有用なものとなっている。
しかしながら、実際の沈下基礎を修復する際には、修復高さをさらに高くすることが求められる。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、膨張型鋼管の形状をさらに工夫し、併せて補助材を用いることにより、沈下基礎の回復量を大きくすることが可能な沈下基礎修復装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の沈下基礎修復装置は、その目的を達成するため、両端に高水圧の付加によって破損することのない強度を有する円筒形のスリーブが装着された水密構造を有する異形の管体からなり、当該管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、スリーブに隣接する部位を除いた部分では一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面で構成されているとともに、前記スリーブの一方に注入孔が設けられた構造を有する膨張型鋼管と、当該膨張型鋼管の前記窪みの上に載置されたスペーサ棒とからなり、前記注入孔からの高圧水の注入による前記膨張型鋼管の扁平化部の円形断面への膨張変形時の管断面高さの増大を利用することを特徴とする。
スペーサ棒としては、少なくとも膨張型鋼管の窪みの最深部付近に接触しており、かつ前記窪みの深さ以上の高さを有するものが好ましい。また、その上部が切欠かれた平坦面を有するもの、或いはその上部及び下部が切欠かれて互いに平行な平坦面を有するものが好ましい。
なお、膨張型鋼管に設けられた窪みは、スペーサ棒と膨張型鋼管で荷重を支持できるように、少なくともスペーサ棒を介して建物の荷重が窪みに作用した状態において、膨張型鋼管の幅方向中央部付近において対向する平坦面に当接する程度の深さを有することが好ましい。
【0008】
本発明の沈下基礎修復装置は、また、いずれも、両端に高水圧の付加によって破損することのない強度を有する円筒形のスリーブが装着された水密構造を有する異形の管体からなり、当該管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、スリーブに隣接する部位を除いた部分では一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面で構成されているとともに、前記スリーブの一方に注入孔が設けられた構造を有する同型であって、前記一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面の窪み部を向かい合わせた2本の膨張型鋼管と、前記向かい合った窪み部に挟み込まれたスペーサ棒とからなり、前記注入孔からの高圧水の注入による前記膨張型鋼管の扁平化部の円形断面への膨張変形時の管断面高さの増大を利用することを特徴とする。
【0009】
スペーサ棒としては、少なくとも膨張型鋼管の対向する2つの窪みの最深部付近に接触しており、かつ前記2つの窪みの深さの合計以上の高さを有するものが好ましい。また、その上部及び下部が切欠かれて互いに平行な平坦面を有するものが好ましい。
スペーサ棒としては、その上部及び下部が切欠かれて互いに平行な平坦面を有するものが好ましい。
いずれの態様であっても、スペーサ棒としては棒鋼或いは支持する荷重に耐えることのできる厚肉鋼管を用いることが好ましい。
なお、当然ながら、膨張型鋼管に設けられた窪みは、スペーサ棒と膨張型鋼管で荷重を支持できるように、少なくともスペーサ棒を介して建物の荷重が窪みに作用した状態において、膨張型鋼管の幅方向中央部付近において対向する平坦面に当接する程度の深さを有するものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の膨張型鋼管製沈下基礎修復装置は、単に扁平化された膨張型鋼管を基本構成とするのではなく、一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有するように扁平化された膨張型鋼管と当該膨張型鋼管の前記窪みの上に載置された、スペーサ棒を基本構成としている。このため膨張型鋼管の両端に取付けられたスリーブの内の一方に設けられた注水孔から高圧水を注入することによって、前記一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有するように扁平化された断面部を円形断面へ膨張変形させる際に発現する管断面高さの増大を有効に活用することができ、従来の単に扁平化されたものと比べてリフトアップ高さ、すなわち、沈下基礎の修復高さを格段に高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
先にも記載したように、本出願人は、膨張用凹部を有する異形管を予め膨張させた後にプレス成形により扁平化させた断面形状にした膨張型鋼管を提案した。この鋼管を用いれば、膨張量、すなわち鋼管の膨張に伴う沈下基礎の回復量を大幅に増大することが可能になるため、前記提案は実用的には極めて有意な技術である。しかしながら、当該技術を用いても、膨張量、すなわち鋼管の膨張に伴う沈下基礎の回復量には限界があり、さらに回復量の大きな沈下基礎修復装置が求められる。
【0012】
そこで、本発明者等は、膨張型鋼管を用いて沈下基礎を修復する際の沈下基礎の回復量を大きくすることが可能な膨張型鋼管形状及びその配置形態について種々検討を重ねてきた。
その結果、膨張型鋼管として、膨張用凹部を有する異形管を予め膨張させた後にプレス成形により一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化させた断面形状にしたものを用い、併せて前記窪みに埋めたスペーサ棒を補助的に用いれば、膨張量、すなわち鋼管の膨張に伴う沈下基礎の回復量を大幅に増大することができることを見出した。
以下にその詳細を説明する。
【0013】
本出願人の一部は、一端に水密用スリーブが装着され、他端に高圧水供給源に連結するための注水孔を有するスリーブが装着され、軸方向に延びる膨張用凹部を1以上有する中空体からなるロックボルトを提案している。軸方向に延びる膨張用の凹部を、中空内部に外周面の一部を折り込んだ断面凹型形状を備えたものとし、中空の内部に高圧水を注入して凹部を元の断面形状に戻すように膨張変形させ、このときの膨張力により鋼管の外周面を岩盤に穿った孔の内壁面に押し当てて地山に拘束力を付与しようとするものである。
【0014】
本出願人は、前記した膨張型の異形管を一旦膨張させて径を拡大した後に、上下よりプレス圧を加えて扁平化した断面形状とした沈下基礎修復用膨張型鋼管を前記特許文献4で提案した(図1参照)。この鋼管1は、スリーブ間の形状は、管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、かつ当該管体の断面形状はスリーブに隣接する部位では異形管の断面である凹型のままであり、スリーブに隣接する部位を除いた部分は図2に示されるような扁平化された断面となっている。
【0015】
この沈下基礎修復用膨張型鋼管を用いるとき、沈下基礎の回復量は次のようになる。すなわち、図3に示すように、扁平化した断面の厚さをDc、最大膨張径をDaとするとき、沈下基礎の回復量はDa−Dcとなる。
扁平化は、素材板厚tの10倍程度にまでしかできないことを想定するとき、現実的な沈下基礎回復量はDa−10tである。
【0016】
これに対して本発明は、このDa−Dcよりも沈下基礎回復量を大きくする手段として、膨張型鋼管として、一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化させた断面形状にしたものを用い、併せて前記窪みに埋めたスペーサ棒を補助的に用いることにしたものである。
膨張型鋼管とスペーサ棒を併用するとき、沈下基礎の回復量は次のようになる。すなわち、図4(a),(b)に示すように、中央に窪みを有する扁平化させた断面の窪み部の最小厚さをDs、スペーサ棒の外径をDbとするとき、沈下基礎の回復量はDa−Dsとなる。窪み部の最小厚さDsは、鋼管の内壁を当接するまでにすると2tまで可能であるから、沈下基礎回復量をDa−2tにまで大きくすることが可能となる。
【0017】
また、前記特許文献4で提案した沈下基礎修復用膨張型鋼管を、沈下が予測される箇所に予め配設しておくとき、膨張させる前の当該扁平化膨張型鋼管に過大な加重が作用しても、前記扁平化の厚さDcが10t(鋼板の厚さの10倍)を下回ることがないようにする必要がある。膨張型鋼管の扁平部両端の加工度が大きくなり過ぎると脆くなって当該箇所を起点に膨張時に破裂しやすくなるからである。このため、前記特許文献4で提案した沈下基礎修復用膨張型鋼管を用いるに当たっては、過大な加重が作用しても、薄くなり過ぎることを抑えるために、扁平化膨張型鋼管の両側に所定の高さの補助棒を配置しておく必要がある。
【0018】
一方、本発明の沈下基礎修復装置では、膨張型鋼管の窪みの上に載置されたスペーサ棒自身が邪魔材となって扁平部両端の加工度が大きくなり過ぎることはなく、安定度合いも増す結果となる。そのため、少なくもとスペーサ棒を介して建物の荷重が作用した状態において窪みの最深部は対向する平坦面に当接している必要がある。無負荷状態では隙間を設けて荷重が作用した状態で当接するようにしても良いが、その際には荷重による変形によって扁平管の高さが低くなりすぎないように留意する必要がある。
【0019】
なお、中央に窪みを有する扁平化断面で構成されている膨張型鋼管は、基本的には前記特許文献4で提案したものと同じである。扁平化断面において、中央に窪みを設けたか設けていないかの点で異なるのみである。このため、この窪みの有無以外の点では膨張型鋼管の形状・構造は特許文献4で提案した鋼管の特徴点を踏襲している。
すなわち、スリーブ間の形状は、管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、かつ当該管体の断面形状はスリーブに隣接する部位では異形管の断面である凹型のままであり、スリーブに隣接する部位を除いた部分は図4(a)に示されるような中央に窪みを有する扁平化された断面となっている。
【0020】
ここで、「その周長がほぼ同じ」と記載した理由は、次の通りである。膨張用凹部を有する異形管は、その周長はどの断面でも同じである。そして完全に元の径の円形断面まで膨張させたときも、その周長はどの断面でも同じである。しかし、本発明では、元の径以上に膨張させた後に扁平化させたものでもよい。この場合、周長はどの断面でも同じにならず、膨張量の多い部分はスリーブ隣接部に比べて僅かに長くなっている。本発明は、このような態様をも包含するものである。
このように、膨張用凹部を有する異形管を一旦膨張させて円形断面にした後に、プレスにより一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化した断面形状とし、スペーサ棒を併用することにより、単に凹部を有する異形管を用いた場合や、単に扁平化した断面形状とした鋼管と比べて膨張高さ、すなわち、沈下基礎の回復量を格段に大きくすることが可能になる。
【0021】
次に、一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面で構成された膨張型鋼管と、当該膨張型鋼管の前記窪みの上に載置されたスペーサ棒の、形状及び配置の変形態様について説明する。
基本的には、図4(a)に示すように、中央部に窪みを有する扁平化断面の前記窪みを埋めるように、丸棒からなるスペーサ棒を載置する。
丸棒に替えて、図5(a)に示すように、上部を切欠いて平坦面を形成した棒体を載置しても良い。上部を切欠いて平坦面を形成すると、沈下基礎修復装置の設置空間が図4(a)と比べて狭く(高さが低く)ても、同じ回復量を確保することができる。
また、図5(b)に示すように、上部及び下部を切欠いて互いに平行な平坦面を形成した棒体を載置しても良い。上部及び下部を切欠いて互いに平行な平坦面を形成すると、鋼管を膨張させた後、建物基礎と基礎地盤との間での安定性が良くなる。
【0022】
沈下基礎の回復量をさらに大きくするためには、膨張型鋼管を2層配置することが好ましい。その態様としては、本請求項1でその形状が特定された2本の膨張型鋼管を、図6に示すように、中央に窪みを有する扁平を対向するように、かつ、2つの窪みで形作られる空間部にスペーサ棒を収容して積み重ねる方法が挙げられる。
このような配置態様により2倍の回復量を確保することができる。なお、この際にも、スペーサ棒として、その上部及び下部に互いに平行な平坦面を形成することが好ましい。
【0023】
次に、本発明の沈下基礎修復装置を構成する膨張型鋼管を製造する方法について説明する。基本的には前記で説明したロックボルトと同様な方法で、まず膨張用の異形管が製造される。
膨張用異形管の素管としては、耐食性を向上させるために内外両面に金属めっきが施されためっき鋼管を使用することが好ましい。
金属めっきとしては、Zn系めっき,Zn−Al系合金めっき(Zn−5%Alめっき,Zn−55%Al系めっき等),Zn−Al−Mg系合金めっきされたものが好ましいが、特にMg:0.05〜10質量%,Al:4〜22質量%,残部Zn及び不可避的不純物からなるZn−Al−Mg系合金めっきが施されたものが好ましい。
【0024】
膨張用の異形管として、中空内部に外周面の一部を折り込んだ断面凹型形状のものを製造する。このような断面凹型形状の膨張用異形管は、ロール成形法や、プレス成形法と引抜き法を組み合わせた方法等により成形される。
ロール成形法を採用した場合には、例えば次のような工程を経て製造される。
図7に見られるように、まず、(a)例えば高周波溶接法等で溶接された鋼管を準備し、(b)凹異形管の凹部の周方向長さと、凹部以外の周方向長さにほぼ適合するように円弧の半径並びに角度を設定した大小2種類の凸曲面よりなる断面にロール成形する(第一工程)。その後、(c)前記2種類の凸曲面の内の曲率半径の大きい面の中央表面から円盤状ロールを当て前記曲率半径の大きい面を管の内側に窪ませるようにロール成形する(第二工程)。その後さらに、(d)、(e)中央が窪み樋状に湾曲した断面の両側にロールを当て樋状開口部を狭めて管外径を小さくロール成形して(第三工程)、半径方向に窪ませたくぼみを軸方向にわたって長く形成した膨張型異形管を製造する。
【0025】
このような方法で得られる異形管は、所定の長さに切断されて製造される。そして異形管の両端には端部開口を封止するスリーブが装着され、かつその内の一方に高圧水を注入する高圧水注入孔が穿たれる。
異形管の両端にスリーブを装着して封止するためには、次のような態様を採ることが好ましい。すなわち、図8に示すように、膨張用凹部を有する中空異形管Mの両端に、円筒形のスリーブSを圧入して装着する。装着するスリーブとしては、使用時の耐食性を考慮すると、素管と同様、耐食性が良好なZn系めっき,Zn−Al系合金めっき(Zn−5%Alめっき,Zn−55%Al系めっき等),Zn−Al−Mg系合金めっきが施されためっき鋼管を用いることが好ましい。
【0026】
次に、円筒形のスリーブSを圧入して膨張型鋼管を構成する異形管M端部の内面を変形させるために、図9に示すように、円柱形状部2と円錐形状部3が一体に組み合わされた形状の押圧金具Dを異形管の端部開口から圧入する。なお、この押圧金具Dとして、スリーブ内径寸法から板厚の4倍の寸法を差し引いた寸法の外径を有する円筒形状部2を有するものを用いると、円柱形状部2の作用により管端部の鋼管壁をスリーブ内壁に沿った密着状態に変形させることができる。
【0027】
押圧金具Dを抜いた後も、異形管Mの内面同士が、平坦部を形成して密着しているとともに、異形管Mの外面はスリーブSの内面に密着されている。この状態で、異形管M同士及び異形管Mの管端とスリーブSの内面を、例えばCO2アーク溶接等で接合し、接合部Wを形成する。その後、一方のスリーブSと異形管Mを貫通して高圧水注入孔Hをドリル等で穿設する(図10参照)。
なお、異形管端部とスリーブを溶接接合した後に高圧水注入孔Hを設けるとき、異形管やスリーブの寸法精度の影響により、あるいは密閉して溶接する際の加工や溶接の影響を受けた歪みの発生により、スリーブ内面と異形管外面とが密着せず、両者の間に空隙が生じている場合がある。このため、スリーブSと異形管Mの両者を貫通する流体注入孔Hの内壁を覆うように、中空の円筒状ピン(図示せず)を挿し込んでもよい。
【0028】
上記のような態様で得られた断面凹型の異形管からなり、両端に先端側スリーブと注水側スリーブが装着・封止された膨張型異形管の前記注水側スリーブから高圧水を注入し、断面凹型の異形管を膨張させ、本来の円形断面形状に戻す。
その後、一旦膨張させた異形管の、建築物の沈下基礎の修復に用いる部分を、例えば図11に示すようなプレス装置により扁平化され、前記修復に用いる部分を中央に窪みを有する扁平化された断面で構成された管体を得る。
【0029】
すなわち、平坦な受面を有する固定金型4と、断面半円形状の凸状押圧面5を有する移動金型6から成るプレス型を配するとともに、当該プレス型内の基台7上に、バネ8等を介してパイプ支持台9を前記プレス型に対して移動自在に取り付けた装置が使用される。プレス型内のパイプ支持台9上にパイプPを載置し(図11(a))、移動金型6を油圧シリンダcで固定金型側に強制移動させれば、パイプPは押圧され、凸状押圧面5の形状が転写された形状に扁平化される。
なお、パイプを金型の上下方向中央付近に保持すべくパイプ支持台9を図11の上方向に設けられたストッパー(図示せず)で所定位置に8によって押し付けておき、移動金型6の移動時にパイプの扁平に伴う高さの増大に応じてバネ8で支持されたパイプ支持台94が退避されるようにすると、パイプPは上下方向に拘束を受けることなく容易に扁平化される(図11(b))。
【0030】
本発明の沈下基礎修復装置を構成する他の部材であるスペーサ棒素材としては、膨張型鋼管を膨張させて沈下地盤を回復する際に潰れないような強度を有するものであれば良く、例えば棒鋼或いは支持する荷重に耐えることのできる厚肉鋼管等を用いることが好ましい。
【0031】
最後に、本発明による沈下基礎修復装置を、建物建築時に建築物の基礎に予め組込む態様、及び基礎が沈下した後、沈下基礎を修復させる態様について説明する。
図12,13に示すような住宅建築物11を基礎地盤12の表層部分に設けた受圧盤13の上に構築する際、住宅建築物11の基礎11aと受圧盤13の間に、本発明の沈下基礎修復装置20を、扁平化面を上又は下にして予め敷設しておく。そして、沈下基礎修復装置20を介在させた基礎11aの上に、住宅建築物11を構築する。なお、図7,8では、住宅建築物11について、躯体部分を省略して基礎11aのみを示している。また、住宅建築物11の基礎11aは略矩形の平面形状を備えるように簡略化して示している。
【0032】
沈下基礎修復装置20を介在させる箇所としては、予め沈下が予測される軟弱地盤上に盛土を施した部分等が挙げられるが、住宅建築物11の基礎11a全域に沈下基礎修復装置20を介在させておき、沈下した基礎領域のみ後述の膨張回復を利用することが好ましい。
配置された沈下基礎修復装置20の上方に基礎11a及び住宅建築物11を構築した後に、構築された住宅建築物11に沈下が生じた際に、沈下基礎修復装置20の膨張型鋼管内部に膨張用の高圧水を注入して当該膨張型鋼管を膨張変形させる。膨張時に扁平状態から断面円形に変形することにより、受圧盤13から基礎11aを押し上げ、受圧盤13の沈下を回復させる。住宅建築物11に沈下が局所的に進行し、住宅建築物11が傾いた際にあっても、沈下が進行した領域の沈下基礎修復装置20の鋼管のみを沈下量に合せて膨張させれば、住宅建築物の傾きを修復することができる。
【0033】
なお、上記態様は、建物建築時に建築物の基礎に予め組込んだ沈下基礎修復装置20を用いて沈下した基礎を修復させようとするものであるが、本発明沈下基礎修復装置は、既存の建築物の不同沈下修復にも使用できる。
沈下した部分の建物の外周部基礎の下面と、基礎地盤の表層部分との間に隙間を形成し、この隙間に本発明沈下基礎修復装置を挿入・配置する。その後沈下基礎修復装置を構成する膨張型鋼管内部に膨張用の高圧水を注入して当該膨張型鋼管を膨張変形させる。膨張時に扁平状態から断面円形に変形することにより、建物の外周部基礎を押し上げる。
いずれの態様にあっても、建物の基礎が押し上げられることによって形成された建物基礎下面と基礎地盤表層部分との間の隙間に、モルタル、グラウト、発泡ウレタン等の固化材を充填するか、或いはさらに大きなリフトアップ量を必要とする場合には形成された隙間を利用して他のリフトアップ手段を講じることが好ましい。
【実施例】
【0034】
本発明沈下基礎修復装置と比較例としての前記特許文献4で紹介した膨張型鋼管を膨張させたときの膨張高さの違いを、同一径の素管を用いた一例で紹介する。
板厚2mmの鋼板を素材とし、高周波誘導溶接により外径54mmのパイプに成形した後、直ちに外径約36mmの凹型断面を有する異形鋼管を成形した。
この異形鋼管を長さ2mに切断し、両管端約100mm分を縮管金型にて直径33mmに縮管した後、一端に封止側スリーブとして外径38.1mm,肉厚2.55mm,長さ70mmのパイプを被せ、さらにポンチ圧入箇所にポンチを圧入することによって管端部を封止側スリーブに沿った密着扁平状態に成形し、溶接により封止した。縮管した異形鋼管の他端にも、同様に注水側スリーブを形成するために外径41mm,肉厚4mm,長さ70mmのパイプを被せ、さらに管端の開口にポンチを圧入することによりパイプ内壁に沿った密着扁平状態に形成し、溶接により封止した後、注水側スリーブ先端より約25mmの位置で異形管の凹部を避けて径約3mmの高圧水注入孔をスリーブの肉厚4mm及び異形管の肉厚2mmを貫通するように穿設して、膨張型異形管を作製した。
そして、上記で製造された膨張型異形管の注水側スリーブから、膨張用の加圧水を付加し、最終的には25MPaにまで加圧して異形管の中ほど部を元の54mmの径まで膨張させた。
【0035】
膨張させた管内の加圧水を除き、その中ほど部を平坦な受面と断面半円形状の凸状押圧面を有するプレス型で押圧成形し、最も浅くなった部分の厚さが4mmとなった中央に窪みを有する扁平化膨張型鋼管を得た。この扁平化鋼管の中央窪み部に外径が30mmの丸棒鋼を載置し、本発明の沈下基礎修復装置を作製した。
比較例としては、膨張させた管の中ほど部を両面が平坦な押圧面を有するプレス装置に挟み、間の中ほど部分を厚さ20mmまで押圧し扁平化した膨張型鋼管をそのまま使用した。
【0036】
両膨張型鋼管に膨張用の加圧水を送り込み、最終的には25MPaにまで加圧して膨張型鋼管を膨張させた。
加圧水を送り込む過程での回復量をみると、図14に示すとおりなっている。
特許文献4で提案した技術(図14(b))では34mmの回復量しか得られないのに対して、本発明技術の採用(図14(a))により50mmの回復量が得られている。約50%もの効率アップとなっているがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】特許文献4で提案された沈下基礎修復用膨張型鋼管の形状を説明する斜視図
【図2】特許文献4で提案された沈下基礎修復用膨張型鋼管のA−A断面図
【図3】特許文献4で提案された沈下基礎修復用膨張型鋼管のリフトアップ量を説明する図
【図4】本発明沈下基礎修復装置の概略及びそのリフトアップ量を説明する図
【図5】本発明沈下基礎修復装置の変形態様を説明する図
【図6】本発明沈下基礎修復装置の他の変形態様を説明する図
【図7】鋼管を変形していく際の断面形状変化を説明する図
【図8】スリーブを装着した異形管端部の形状を説明する図
【図9】管端に押圧金具を押し込み、異形管端部を変形させる態様を説明する図
【図10】膨張型鋼管の端部構造を説明する図
【図11】一旦膨張させた鋼管を扁平化させる工程を概略的に説明する図
【図12】本発明沈下基礎修復装置を施設した建物の要部を示す略示斜視図
【図13】本発明沈下基礎修復装置を施設した建物の要部を示す略示部分断面図
【図14】実施例での沈下基礎回復量を説明する(a)本発明例と(b)従来例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に高水圧の付加によって破損することのない強度を有する円筒形のスリーブが装着された水密構造を有する異形の管体からなり、当該管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、スリーブに隣接する部位を除いた部分では一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面で構成されているとともに、前記スリーブの一方に注入孔が設けられた構造を有する膨張型鋼管と、当該膨張型鋼管の前記窪みの上に載置されたスペーサ棒とからなり、前記注入孔からの高圧水の注入による前記膨張型鋼管の扁平化部の円形断面への膨張変形時の管断面高さの増大を利用することを特徴とする沈下基礎修復装置。
【請求項2】
スペーサ棒が、少なくとも膨張型鋼管の窪みの最深部付近に接触しており、かつ前記窪みの深さ以上の高さを有するものである請求項1に記載の沈下基礎修復装置。
【請求項3】
スペーサ棒が、その上部が切欠かれた平坦面を有するものである請求項1又は2に記載の沈下基礎修復装置。
【請求項4】
スペーサ棒が、その上部及び下部が切欠かれて互いに平行な平坦面を有するものである請求項1又は2に記載の沈下基礎修復装置。
【請求項5】
いずれも、両端に高水圧の付加によって破損することのない強度を有する円筒形のスリーブが装着された水密構造を有する異形の管体からなり、当該管体長手方向のいずれの断面においてもその周長がほぼ同じであり、スリーブに隣接する部位を除いた部分では一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面で構成されているとともに、前記スリーブの一方に注入孔が設けられた構造を有する同型であって、前記一方の面が略平坦で、対向する他方の面が幅方向中央部に窪みを有する扁平化断面の窪み部を向かい合わせた2本の膨張型鋼管と、前記向かい合った窪み部に挟み込まれたスペーサ棒とからなり、前記注入孔からの高圧水の注入による前記膨張型鋼管の扁平化部の円形断面への膨張変形時の管断面高さの増大を利用することを特徴とする沈下基礎修復装置。
【請求項6】
スペーサ棒が、少なくとも2本の膨張型鋼管のそれぞれの窪みの最深部付近に接触しており、かつ2本の膨張型鋼管のそれぞれの前記窪みの深さを足し合わせた以上の高さを有するものである請求項5に記載の沈下基礎修復装置。
【請求項7】
スペーサ棒が、その上部及び下部が切欠かれて互いに平行な平坦面を有するものである請求項5又は6に記載の沈下基礎修復装置。
【請求項8】
スペーサ棒として、棒鋼を配した請求項1〜7のいずれかに記載の沈下基礎修復装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−114724(P2009−114724A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288405(P2007−288405)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(592260572)日新鋼管株式会社 (26)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【出願人】(506285541)スミリンベーステクノ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】