説明

沸騰水型原子力プラントおよび蒸気乾燥器

【課題】タービン系へのN−16の移行を低減することでタービン系の線量を低減する沸騰水型原子力プラントを提供する。
【解決手段】本発明の沸騰水型原子力プラントは、上記課題を解決するために、原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置される蒸気乾燥器4内の蒸気が通過する領域に、放射性窒素化合物(N−16)を捕捉する材料を担持した多孔体を設置する。その一例として、蒸気乾燥器4に備えられる整流板7と10の両方又はいずれかを、このN−16を捕捉する材料を担持した多孔体で構成する。N−16を含む蒸気が整流板7,10を通過する際にN−16が捕捉され、タービン系へ移行するN−16の量が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力プラント、および該沸騰水型原子力プラントに設置された蒸気乾燥器に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラントの構成例について説明する。沸騰水型原子力プラントを構成する原子炉圧力容器内には、炉心,気水分離器,蒸気乾燥器が設置されている。炉心の上部に設置された気水分離器は、炉心で発生した蒸気を冷却水から分離し、気水分離器の上部に設置された蒸気乾燥器は、気水分離器で分離された蒸気から液滴を除去する。蒸気乾燥器で液滴量が一定値以下になるよう乾燥された蒸気は、主蒸気ノズルから主蒸気ラインを通じて蒸気タービンに供給される。
【0003】
上記のように構成された沸騰水型原子力プラントでは、炉心において、炉水の酸素(O−16)と中性子との反応により放射性窒素(N−16)が生成する。このN−16は、半減期が7.1秒で、高エネルギーガンマ線(6.129MeV)を放出する。生成したN−16のうち、揮発性が高いアンモニア(NH3)や一酸化窒素(NO)の化学形態をとるものは、炉水中に滞留せず、揮発して蒸気とともに蒸気タービンに到達するため、タービン系における線量増加の要因となっている。
【0004】
近年、沸騰水型原子力プラントでは、原子炉圧力容器内の炉水中の溶存酸素を低減させて原子炉圧力容器やその内部構造物の構造材料の応力腐食割れを防止するために、水素注入が行われている。しかし、水素注入量が増加すると、ある水素注入量の値を境に急激にタービン系の放射線線量率が上昇する傾向がある。これは、通常運転中は硝酸イオン等の揮発性の低い化学形態で炉水中に溶解しているN−16が、水素注入により還元されて揮発性が高いNH3やNOの化学形態となり、主蒸気に同伴されるためである。放射線線量率の上昇のため、注入できる水素量には上限が設定される。
【0005】
従来、タービン系に移行するN−16量を低減する技術として、気水分離器と蒸気乾燥器の間に触媒を設置し、揮発性の高いアンモニア形態のN−16を揮発性の低い窒素酸化物にする方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
さらに、N−16は半減期が短いため、蒸気乾燥器から主蒸気ノズルまで蒸気が到達する時間を物理的に遅延させ、減衰させることでタービン系への移行量を低減させる技術(例えば、特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−151898号公報
【特許文献2】特開2001−147291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、気水分離器と蒸気乾燥器の間に触媒が設置されているため、水分を多く含む蒸気が触媒表面に付着し、触媒の表面に水の膜が形成される可能性がある。このため、気相中のN−16が接触する触媒表面の面積が小さくなり、効率に困難な点があった。
【0009】
特許文献2に開示された技術により、主蒸気配管内において吸着によりN−16を低減させるためには、N−16と吸着物とが十分に接触するための面積が必要となる。しかし、そのためには蒸気流路である主蒸気配管を狭くするか、細管を複数設置する必要があり、発電効率低下につながる恐れがあった。また、特許文献2には気水分離器,蒸気乾燥器に貴金属をメッキする方法について記載されているが、仮に現行の沸騰水型原子力プラントに設置された蒸気乾燥器の構成部材である波板に貴金属をメッキした場合、乾燥蒸気は波板に接触する確率が低いため、乾燥蒸気中に含まれるN−16が波板にメッキされた貴金属に吸着する確率も低くなり、移行量低減の効率の点で課題があった。また、引用文献2において、蒸気乾燥器の構成部材である整流板に貴金属をメッキする場合も、現行の蒸気乾燥器の整流板は厚さ数mmの金属板に複数の孔を開けた構造であり、整流板と接触せず通過する蒸気もあるため、N−16の貴金属への吸着効率と移行量の低減効果に課題があった。
【0010】
本発明は上記のような状況を鑑みてなされたもので、沸騰水型原子力プラントにおいて、N−16のタービン系への移行量を低減することでタービン系の線量率を低減する沸騰水型原子力プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る沸騰水型原子力プラントは、上述した課題を解決するために、原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置される蒸気乾燥器内の蒸気が通過する領域に、N−16を含む窒素化合物を捕捉する能力を有する材料を担持した多孔体を設置する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る沸騰水型原子力プラントおよび蒸気乾燥器によれば、発電効率を維持しつつ、N−16を含む窒素化合物を捕捉する能力を有する材料とN−16を含む窒素化合物との接触効率が向上し、N−16のタービン系への移行量を低減することができ、タービン系の線量率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態である沸騰水型原子力プラントの構成を示す縦断面図である。
【図2】第1の実施例の沸騰水型原子力プラントに設置される蒸気乾燥器の構成を示す斜視図である。
【図3】第1の実施例の沸騰水型原子力プラントに設置される蒸気乾燥器の構成を示す断面図(図2のA−A断面図)である。
【図4】第1の実施例の沸騰水型原子力プラントに設置される蒸気乾燥器の縦断面図である。
【図5】ゼオライトによるアンモニア吸着試験の結果を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例である沸騰水型原子力プラントに設置される蒸気乾燥器の縦断面図である。
【図7】本発明の第3の実施例である沸騰水型原子力プラントに設置される蒸気乾燥器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0015】
(実施例1)
本発明に係る沸騰水型原子力プラントの構成を、図1,図2,図3,図4を用いて説明する。図1は沸騰水型原子力プラントの縦断面図、図2は沸騰水型原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置された蒸気乾燥器の斜視図、図3は図2の蒸気乾燥器のA−A断面図、図4は蒸気乾燥器の縦断面図を示す。
【0016】
沸騰水型原子力プラントを構成する原子炉圧力容器1内には、図1に示すように、炉心2,気水分離器3,蒸気乾燥器4が設置されている。炉心2内では、炉心2内に設置された原子燃料より放出される熱により炉心2内を循環する冷却水が加熱され、蒸気が発生する。また、原子燃料より放出される中性子は、冷却水中の酸素原子(O−16)と核反応を起こし、これにより放射性窒素(N−16)が生成する。核反応により生成したN−16は、冷却水中の水分子や、水分子が放射線分解して生成したラジカル等と反応し、アンモニアや窒素酸化物(NO,NO2,NO3-など)の化学形態をとる。これらのN−16を含む窒素化合物のうち、揮発性の高いアンモニアやNOの形態をとるものは、気体として蒸気とともに炉心2内を移動する。
【0017】
炉心2で発生した蒸気は、冷却水とともに原子炉圧力容器1内を上方へ移動し、炉心2の上部に設置された気水分離器3に達する。気水分離器3では、炉心2で発生した蒸気を冷却水から分離する。この際、蒸気中に気体として含まれるN−16を含む窒素化合物は、気水分離器3を蒸気とともに通過し、蒸気乾燥器4に達する。蒸気乾燥器4では、気水分離器3で分離された蒸気から、当該蒸気に含まれる液滴量が一定値以下になるよう、液滴を除去し蒸気を乾燥する。ここでも、気体状のN−16を含む窒素化合物は、乾燥された蒸気とともに蒸気乾燥器4を通過する。蒸気乾燥器4で乾燥されたN−16窒素化合物を含む蒸気は、主蒸気ノズル5から主蒸気ラインを通じて蒸気タービンに供給されるため、N−16から放出される高エネルギーガンマ線により、タービン系の放射線線量率が増加している。
【0018】
次に、蒸気乾燥器4の構成と蒸気乾燥器4内での蒸気の流れについて、図2,図3,図4を用いて説明する。蒸気乾燥器ユニット11は、図2に示すように、フードプレート6(以下、フード6),整流板7および10、固定棒9(図3)及び波板8を備える。蒸気の流れの上流側(入口側)に整流板7を設置し、下流側(出口側)に整流板7を設置する。波板8は、整流板7と整流板10の間に配置され、固定棒9で固定される。フード6は、蒸気乾燥器ユニット11の整流板7を覆うように設置され、下方に開口部を有する。図2では、フード6の一部の構成のみを示す。蒸気乾燥器4は、複数の蒸気乾燥器ユニット11を設置して構成されている。
【0019】
気水分離器3を通過した液滴を含む蒸気は、フード6の下方に形成された開口部より流入し、蒸気乾燥器ユニット11を通過して原子炉圧力容器1の上部へ開放される。図4に蒸気の流れを破線矢印で示す。蒸気はフード6で上向きから水平方向に流れの向きが変えられ、整流板7で分散され、波板8の間を通過して後段の整流板10を通り、原子炉圧力容器1の上部に放出される。
【0020】
本実施例の特徴の一つは、蒸気乾燥器4に設置される整流板7及び整流板10の両方、もしくは一方を、N−16を含む窒素化合物を捕捉する性能を有する材料(以下、N−16捕捉材料と記す)を担持した多孔体より構成される点にある。このような構成により、整流板7および10を通過する蒸気に含まれるN−16は、整流板7および10を通過する際に、N−16捕捉材料と接触して捕捉され、蒸気から分離される。その結果、蒸気とともにタービン系に移行するN−16の量が低減し、タービン系の放射線線量率を低減することができる。先にも述べたように、N−16は半減期が7.1秒と短く、吸着材上に7秒保持できると減衰してN−16量が1/2になるので、N−16に起因するタービン系の線量も1/2に低減できる。
【0021】
ここで、N−16捕捉材料を設置する場所が整流板7および10である理由を説明する。N−16捕捉材料を設置する場所を選定する際には、N−16の捕捉効率がよいこと、および発電効率に影響を与えないことが重要な因子となる。N−16の捕捉効率は、蒸気との接触効率がよく、蒸気との接触時間がN−16を捕捉するのに十分な時間になることで向上することができる。
【0022】
ここで、N−16の捕捉効率と蒸気との接触時間との関係について、発明者らが実施した実験の結果を基に説明する。発明者らは、N−16の代表的化学形態であるアンモニアと、アンモニア吸着材の一例としてゼオライトを用い、アンモニアがゼオライトに吸着保持される時間のガス線速依存性を実験により調べた。試験では、ゼオライトを充填した吸着塔を、蒸気乾燥器4を通過する蒸気温度を模擬して285度前後に加熱して飽和蒸気(大気圧)を流通し、吸着塔入口よりアンモニアをパルス状に1回注入して出口蒸気のアンモニア濃度を測定した。試験では、吸着塔に流通する飽和蒸気の線速度をパラメータとした。図5に出口蒸気のアンモニア濃度を時間に対してプロットした図を示すが、これより、蒸気線速度が小さいほどアンモニアの流出が遅く、また流出ピークの幅(出口蒸気からアンモニアが検出される時間)が長くなる傾向がある。このことは、蒸気線速度が小さい、すなわち吸着材であるゼオライトとの接触時間が長くなるほど、アンモニアが吸着材上に留まる時間が長くなることを示している。よって、蒸気線速度が小さい領域にN−16捕捉材料を設置することで、N−16の捕捉効率が向上できる。
【0023】
蒸気の通過割合が大きく、さらに蒸気流路の狭いほど蒸気との接触効率が大きくなる。
このことを鑑みると、蒸気乾燥器4内の整流板7および10は、原子炉圧力容器1の上部に放出されて主蒸気ラインへ進む蒸気の全量が通過すること、整流板7および10における蒸気の線速度は1m/秒以下と小さいこと、蒸気を整流する目的から蒸気流路が狭い構造になっていることから、N−16捕捉材料を設置するのに好適であり、高いN−16捕捉効率を得ることができる。
【0024】
本実施例のように整流板7及び整流板10の両方、もしくはいずれか一方に、N−16を含む窒素化合物を捕捉する機能を持たせることで、蒸気の通過割合が大きくなり、蒸気との接触効率が大きくなってN−16の捕捉効率が向上する。さらに、整流板7及び整流板10を多孔体で構成することによって、蒸気流路を狭くでき、蒸気との接触効率が大きくなって、N−16の捕捉効率をさらに向上することができる。
【0025】
発電効率の点では、従来の蒸気乾燥器4においても多孔板で構成されていることから、従来の蒸気乾燥器の整流板で使用される多孔板と同程度かそれ以下の圧力損失をもつ多孔体で整流板7および10を構成することで、発電効率を維持しつつN−16の低減が可能である。
【0026】
N−16捕捉材料としては、アンモニアや一酸化窒素といった、蒸気に同伴するN−16の化合物を吸着したり、反応により化学結合を形成したり、触媒反応で分解したりすることができる材料のうち1つ以上の材料より選定される。例えば、アンモニアに対して吸着能力をもつ化合物である、固体表面上に酸点をもつ金属酸化物やゼオライト,セピオライトなどの粘土鉱物、ヒドロキシルアパタイト,活性炭などの炭素系化合物や金属炭化物などが選定される。また、白金,ニッケル,ルテニウム,マンガンなどの金属を担持したアンモニア分解触媒も使用できる。一酸化窒素に代表される窒素酸化物に対して吸着能力を持つ金属および金属酸化物や、白金,遷移金属などを担持した窒素酸化物分解触媒も使用できる。
【0027】
N−16捕捉材料は、ステンレス鋼などの金属鋼材で製造された多孔体に担持される。
多孔体の形状は、板状の鋼材に細孔を開けたもの、ハニカム,メタルリボン,網状,発泡金属,スポンジ状などが例として挙げられる。
【0028】
N−16捕捉材料を金属鋼材に担持する方法は、バインダを使用する方法、反応により添着する方法などが例として挙げられるが、選定されるN−16捕捉材料と金属鋼材の種類により、最適な方法を選定する。
【0029】
また、蒸気乾燥器4の構造的な強度などの設計要件を満足できる場合には、N−16捕捉材料自体を多孔体に加工して、整流板7および10として使用することもできる。
【0030】
整流板7および10で使用されるN−16捕捉材料および多孔体の構造材料は、どちらも同じ材料でもよいし、それぞれ異なる材料でもよい。整流板7と整流板10を通過する蒸気は、含まれる液滴量が異なり、整流板7を通過する蒸気は整流板10を通過する蒸気より液滴量が多い。そのため、整流板7で使用するN−16捕捉材料は水を含む条件で捕捉効率の高いものを選定し、整流板10で使用するN−16捕捉材料は乾燥条件で捕捉効率の高いものを選定してもよい。
【0031】
本実施例の沸騰水型原子力プラントおよび蒸気乾燥器によれば、沸騰水型原子力プラントにおいて生成するN−16を含む窒素化合物を、当該原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置された蒸気乾燥器において捕捉することで、発電効率を維持しつつ、N−16を含む窒素化合物を捕捉する能力を有する材料とN−16を含む窒素化合物との接触効率が向上し、N−16のタービン系への移行量を低減することができ、タービン系の線量率を低減することができる。
【0032】
(実施例2)
本発明の第2の実施例を、図面を用いて説明する。原子炉圧力容器1内での蒸気の流れは実施例1と同等であり、記述を省略する。
【0033】
本実施例の蒸気乾燥器42は、図6に示すように、フード6,整流板72および102、固定棒9,固定棒9で固定される波板8を備え、さらに、N−16捕捉装置12および13を備える。本実施例の特徴の一つは、N−16捕捉装置12を蒸気の入口側の整流板72の手前に配置し、N−16捕捉装置13を蒸気の出口側整流板102の後段に設置する点にある。N−16捕捉装置12および13は、N−16捕捉材料を担持した多孔体よりなる。
【0034】
気水分離器3を通過した蒸気は、フード6からN−16捕捉装置12を通って整流板72,波板8,整流板102を通過し、N−16捕捉装置13を通って原子炉圧力容器1の上方に放出される。蒸気がN−16捕捉装置12および13を通過する際、蒸気中に含まれるN−16が吸着,反応,触媒作用等により捕捉され、タービン系に移行するN−16量が低減される。
【0035】
本実施例では、蒸気乾燥器4の空間部分にN−16捕捉装置12および13を設置するため、このN−16捕捉装置12および13を設置可能な範囲で厚みを大きくすることができる。N−16捕捉装置12および13の厚さが厚い方が、蒸気がN−16捕捉材料に接触する時間が長くなり、捕捉されるN−16量が増加するため、タービン系の線量低減効果が大きくなる。
【0036】
N−16捕捉装置12および13の厚さは、設置場所の大きさとともに、発電効率を維持できる圧力損失以下となるように規定される。
【0037】
N−16捕捉装置12および13は、実施例1と同様、蒸気に同伴するN−16の化合物を吸着,反応,触媒分解などができる材料のうち1つ以上の材料より選定されたN−16捕捉材料を、金属鋼材などで製造された多孔体に担持して製造する。構造的強度が確保できる場合は、N−16捕捉材料で多孔体を形成し、N−16捕捉装置とすることもできる。
【0038】
N−16捕捉装置12および13は、その両方を設置してもよいし、いずれか一方のみを設置してもよい。また、N−16捕捉装置12および13で使用するN−16捕捉材料および多孔体の構造材料は、同じでもよいし異なる材料でもよい。
【0039】
本実施例の沸騰水型原子力プラントおよび蒸気乾燥器によれば、沸騰水型原子力プラントにおいて生成するN−16を含む窒素化合物を、当該原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置された蒸気乾燥器において捕捉することで、発電効率を維持しつつ、N−16を含む窒素化合物を捕捉する能力を有する材料とN−16を含む窒素化合物との接触効率が向上し、N−16のタービン系への移行量を低減することができ、タービン系の線量率を低減することができる。
【0040】
また、本実施例によれば、従来の蒸気乾燥器の空間部分にN−16捕捉装置を設置するため、蒸気乾燥器を交換する必要がなく経済性が高い。また、蒸気乾燥器の空間部分に設置できる範囲でN−16捕捉装置の厚みを増やすことができ、N−16の移行およびタービン系の線量の低減効果を大きくすることができる。
【0041】
(実施例3)
本発明の第3の実施例を、図面を用いて説明する。なお、原子炉圧力容器1内での蒸気の流れは実施例1と同等であり、記述を省略する。
【0042】
第3の実施例の蒸気乾燥器43は、図7に示すように、フード6,整流板73および103、固定棒9および固定棒9で固定された波板8を備え、さらに、N−16捕捉装置22および23を備える。本実施例の特徴の一つは、N−16捕捉装置22をフード6の蒸気入口に設置し、N−16捕捉装置23を蒸気乾燥器43の蒸気出口に設置する点にある。N−16捕捉装置22および23は、N−16捕捉材料を担持した多孔体よりなる。
【0043】
気水分離器3を通過した蒸気は、N−16捕捉装置22を通ってフード6から整流板73,波板8,整流板103を通過し、N−16捕捉装置23を通って原子炉圧力容器1の上方に放出される。蒸気がN−16捕捉装置22および23を通過する際、蒸気中に含まれるN−16が吸着,反応,触媒作用等により捕捉され、タービン系に移行するN−16量が低減される。
【0044】
N−16捕捉装置22および23は、設置場所と圧力損失よりその厚さが規定される。
【0045】
N−16捕捉装置22および23は、実施例1および2と同様、蒸気に同伴するN−16の化合物を吸着,反応,触媒分解などができる材料のうち1つ以上の材料より選定されたN−16捕捉材料を、金属鋼材などで製造された多孔体に担持して製造する。構造的強度が確保できる場合は、N−16捕捉材料で多孔体を形成し、N−16捕捉装置とすることもできる。N−16捕捉装置22および23で使用されるN−16捕捉材料および多孔体の構成材料は、同じものを使用してもよいし、異なるものを使用してもよい。N−16捕捉装置22および23は、その両方を設置してもよいし、いずれか一方のみを設置してもよい。
【0046】
N−16捕捉装置22を蒸気入口に設置することで、蒸気乾燥器43に流入する蒸気が整流され、整流板73および波板8における液滴除去効果を向上することもできる。また、N−16捕捉装置23を蒸気出口に設置することで、原子炉圧力容器1の上方に放出される蒸気が整流され、蒸気が蒸気乾燥器43から主蒸気ノズル5に移動する間の摩擦等による圧力損失を低減することもできる。
【0047】
本実施例の沸騰水型原子力プラントおよび蒸気乾燥器によれば、沸騰水型原子力プラントにおいて生成するN−16を含む窒素化合物を、当該原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置された蒸気乾燥器において捕捉することで、発電効率を維持しつつ、N−16を含む窒素化合物を捕捉する能力を有する材料とN−16を含む窒素化合物との接触効率が向上し、N−16のタービン系への移行量を低減することができ、タービン系の線量率を低減することができる。
【0048】
さらに、本実施例によれば、N−16の移行およびタービン系の線量を低減できるとともに、蒸気の整流効果により機器効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 原子炉圧力容器
2 炉心
3 気水分離器
4,42,43 蒸気乾燥器
5 主蒸気ノズル
6 フード
7,10,72,73,102,103 整流板
8 波板
9 固定棒
11 蒸気乾燥器ユニット
12,13,22,23
N−16 捕捉装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子力プラントにおいて、
前記原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置される蒸気乾燥器内の蒸気が通過する領域に、放射性窒素化合物を捕捉する材料を担持した多孔体を設置することを特徴とする沸騰水型原子力プラント。
【請求項2】
放射性窒素化合物を捕捉する材料を担持した前記多孔体が、前記蒸気乾燥器に備えられる整流板であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項3】
放射性窒素化合物を捕捉する材料を担持した前記多孔体で構成される放射性窒素捕捉装置を、前記蒸気乾燥器に設置された整流板の蒸気入口側および/または蒸気出口側に設置することを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項4】
前記放射性窒素化合物を捕捉する物質は、
アンモニアおよび/または一酸化窒素を、吸着反応,化学反応,触媒作用の少なくとも一つの作用により前記放射性窒素化合物を捕捉する材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項5】
前記多孔体は、
金属,金属酸化物,金属炭化物及び金属窒化物のうちの少なくとも一つで構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項6】
前記多孔体は、
放射性窒素化合物を捕捉する物質により構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項7】
沸騰水型原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置される蒸気乾燥器において、
前記蒸気乾燥器内の蒸気が通過する領域に、放射性窒素化合物を捕捉する材料を担持した多孔体を設置することを特徴とする沸騰水型原子力プラントの蒸気乾燥器。
【請求項8】
放射性窒素化合物を捕捉する材料を担持した前記多孔体が、前記蒸気乾燥器に備えられる整流板であることを特徴とする請求項7に記載の沸騰水型原子力プラントの蒸気乾燥器。
【請求項9】
放射性窒素化合物を捕捉する材料を担持した前記多孔体で構成される放射性窒素捕捉装置を、前記蒸気乾燥器に設置された整流板の蒸気入口側および/または蒸気出口側に設置することを特徴とする請求項7に記載の沸騰水型原子力プラントの蒸気乾燥器。
【請求項10】
前記多孔体は、
放射性窒素化合物を捕捉する物質により構成されることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の沸騰水型原子力プラントの蒸気乾燥器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−185627(P2011−185627A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48564(P2010−48564)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)