説明

沸騰水型原子力プラント及びタービン系の線量低減方法

【課題】タービン系へのN−16の移行を低減することでタービン系の線量を低減する沸騰水型原子力プラント及びタービン系の線量率低減方法を提供する。
【解決手段】本発明は、原子炉の圧力容器1内で発生する蒸気の通過経路に、分子骨格内に酸点を有する材料からなる吸着物質を設置し、N−16化合物を吸着,保持して減衰させることで、タービン系へ移行するN−16の量が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力プラントの放射線線量低減技術に係わり、特に沸騰水型原子炉で発生した蒸気を動力エネルギーとして受け入れる原子炉タービン系の放射線線量低減技術に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラントにおいて、炉水の酸素(O−16)と中性子との反応により放射性窒素(N−16)が生成する。このN−16は、半減期が7.1秒で、高エネルギーガンマ線(6.129MeV)を放出する。生成したN−16のうち、揮発性が高いアンモニア(NH3)や一酸化窒素(NO)の化学形態をとるものは、炉水中に滞留せず、揮発して蒸気とともに蒸気タービンに到達するため、タービン系における線量増加の要因となっている。
【0003】
近年、沸騰水型原子力プラントでは、原子炉圧力容器内の炉水中の溶存酸素を低減させて原子炉圧力容器やその内部構造物の構造材料の応力腐食割れを防止するために、水素注入が行われている。しかし、水素注入量が増加すると、ある水素注入量の値を境に急激にタービン系の放射線線量率が上昇する傾向がある。通常運転中は硝酸イオン等の揮発性の低い化学形態で炉水中に溶解しているN−16が、水素注入により還元されて主に揮発性が高いNH3の化学形態となり、主蒸気に同伴されるためである。放射線線量率の上昇のため、注入できる水素量には上限が設定される。
【0004】
従来、主蒸気に同伴してタービン系に移行するN−16量を低減する技術として、窒素化合物と反応して不揮発性窒素化合物を形成する薬剤を炉水に添加することで、蒸気とともに揮発するN−16量を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、炉心部で生じるチェレンコフ光が到達する位置にアンモニア吸着層を含む光触媒層を設置し、揮発性の高いアンモニア形態のN−16を光触媒の作用で揮発性の低い窒素酸化物に酸化する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−109318号公報
【特許文献2】特開2009−281893号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】田部浩三、触媒、17(3)、72−81(1975).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された技術のように、炉水に薬剤を添加する場合には、薬剤の添加量は炉水の水質基準値を満足する量に制限されるため、効果の程度も制限される可能性がある。また、薬剤の添加は炉水浄化系の負担を増加する懸念もある。
【0009】
特許文献2に開示された技術は、アンモニアを酸化するためには光触媒が作用するのに必要なチェレンコフ光が到達する位置に設置場所が限定されるため、効果の程度が制限される可能性があった。
【0010】
本発明は上記のような状況を鑑みてなされたもので、沸騰水型原子力プラントにおいて、N−16のタービン系への移行量を低減することでタービン系の線量率を低減する沸騰水型原子力プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明に係る沸騰水型原子力プラントでは、分子骨格中に酸点を有する固体物質を蒸気の通過経路に設置することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る沸騰水型原子力プラントのタービン系線量低減方法では、分子骨格中に酸点を有する固体物質を含む吸着体を蒸気の通過経路に設置することで、蒸気中に含まれるアンモニア形態のN−16を吸着体に吸着させて減衰させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分子骨格中に酸点を有する固体物質の酸点にアンモニアを吸着させることにより、蒸気中のN−16量を低減し、タービン系の線量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態である沸騰水型原子力プラントの構成を示す縦断面図である。
【図2】複合酸化物の一例であるSiO2−Al23における酸点構造の代表的なモデル図である。
【図3】ZrO2−TiO2によるアンモニア吸着試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図1に本発明に係る沸騰水型原子力プラントの縦断面図を示す。
【0017】
図1に示した沸騰水型原子力プラントを構成する原子炉圧力容器1内には、炉心2,気水分離器3,蒸気乾燥器4が設置されている。炉心2内では、炉心2内に設置された原子燃料より放出される熱により炉心2内を循環する冷却水が加熱され、蒸気が発生する。炉心2で発生した蒸気は、冷却水とともに原子炉圧力容器1内を上方へ移動し、炉心2の上部に設置された気水分離器3に達する。気水分離器3では、炉心2で発生した蒸気を冷却水から分離する。気水分離器3を通過した蒸気は、蒸気乾燥器4に達し、蒸気に含まれる液滴量が一定値以下になるよう、液滴が除去され乾燥される。蒸気乾燥器4で乾燥されたN−16窒素化合物を含む蒸気は、主蒸気ノズル5から主蒸気ラインを通じて蒸気タービンに供給される。
【0018】
また、炉心2内では、冷却水中の酸素原子(O−16)が、例えば式(1)に示すように、原子燃料より放出される中性子(n)と核反応を起こし、放射性窒素(N−16)と水素原子(p)を生成する。
[化1]
O−16(n,p)N−16 (1)
【0019】
生成したN−16は、冷却水中の水分子や、水分子が放射線分解して生成したラジカル等と反応し、アンモニアや窒素酸化物(NO,NO2,NO3-など)の化学形態をとる。
これらのN−16を含む窒素化合物のうち、揮発性の高いアンモニアやNOの形態をとるものは、気体として蒸気とともに炉心2内を移動する。水素注入が実施されている沸騰水型原子力プラントでは、アンモニアがN−16の主化学形態となる。蒸気中に気体として含まれるN−16を含む窒素化合物は、蒸気とともに気水分離器3,蒸気乾燥器4を通過し、主蒸気ノズル5から主蒸気ラインを通じて蒸気タービンに供給される。このため、N−16から放出される高エネルギーガンマ線により、タービン系の放射線線量率が増加する。
【0020】
ここで、N−16は半減期が7.1秒である。これは、N−16を原子炉圧力容器1内に7.1秒以上保持することで、蒸気タービンに供給されるN−16を1/2以下にできることを意味する。
【0021】
本実施例における沸騰水型原子力プラントでは、N−16を原子炉圧力容器1内に半減期の時間以上保持するために、分子骨格中に酸点を有する固体物質である、二種以上の金属酸化物からなる複合酸化物を設置する。複合酸化物としては、酸化チタン(TiO2),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化亜鉛(ZnO),酸化アルミニウム(Al23),酸化ケイ素(SiO2)の少なくとも一つ以上の酸化物と、それ以外の一種類以上の金属酸化物との混合酸化物で、例えば非特許文献1の表1に示されるような、TiO2−ZrO2,TiO2−Fe23,ZnO−MgO,Al23−SiO2,Al23−MgO,SiO2−Y23などが挙げられる。
【0022】
これらの複合酸化物は、分子骨格中にルイス酸点あるいはブレンステッド酸点を有する。図2に複合酸化物の一例であるSiO2−Al23における酸点構造の代表的なモデル図を示す。ルイス酸点は、アルミニウム原子の空軌道6であり、ブレンステッド酸点はアルミニウムに結合した水分子(H2O)上のO+の部分である。N−16の主形態であるアンモニアは塩基であり、複合酸化物が持つルイス酸点にはアンモニア分子の窒素原子が持つ非共有電子対を供与して結合し、ブレンステッド酸点には水分子が持つ水素原子を介してアンモニア分子が結合できる。アンモニアと酸点の結合がN−16の半減期以上維持されると、N−16は1/2以上が崩壊してO−16となり、水(H2O)になって結合が解離する。これにより、酸点がいわば再生された形となり、また新たにアンモニアと結合を形成できる。
【0023】
図3に、複合酸化物の例としてZrO2−TiO2を用い、アンモニアの吸着挙動を確認した試験結果を示す。この試験では、原子炉圧力容器1内の温度条件を模擬した反応器にZrO2−TiO2を充填し、アンモニアを含む水蒸気をパルス状に供給して反応器出口蒸気に含まれるアンモニア濃度を測定した。図3では、横軸にアンモニアをパルス状に供給開始した時からの経過時間、縦軸に反応器出口蒸気に含まれるアンモニア濃度の測定値を、最もアンモニア濃度が高い時を1として規格化した値を示している。図3より、複合酸化物を反応器に充填した条件の曲線のピークが観察される時間は充填しない条件より遅れており、アンモニアがZrO2−TiO2に吸着保持されたことがわかる。
【0024】
複合酸化物を設置する場所は、原子炉圧力容器内で蒸気が通過し接触できる場所であればよい。望ましくは、蒸気が乾燥された後、すなわち蒸気乾燥器から主蒸気管入口までの間がよい。さらに望ましくは、蒸気の線速度が小さい領域、例えば蒸気乾燥器から蒸気乾燥器上部付近がよい。
【0025】
複合酸化物は、それ自体を成形して設置してもよいし、金属等の構造体に塗布,添着して設置してもよい。設置する構造体は、発電効率の低下を抑制するため、圧力損失を可能な限り小さくできる構造、例えばハニカム,細管,発泡体,網目状などを選択するとよい。
【0026】
設置する複合酸化物は、一種類の複合酸化物でもよいし、複数種類の複合酸化物を混合したものでもよい。また、複合酸化物に白金等の貴金属を担持してもよい。これにより、アンモニア吸着性能が向上したり、一酸化窒素形態のN−16も吸着したりできる効果が期待できる。
【0027】
以上本実施例によれば、原子炉圧力容器内の蒸気と接触できる場所に複合酸化物を設置し、N−16を含むアンモニアを吸着,保持することでN−16が崩壊してO−16となるため、タービン系に供給されるN−16が低減し、タービン系の放射線線量率を低減することができる。
【実施例2】
【0028】
本発明の第2の実施例を説明する。なお、原子炉圧力容器1内での蒸気の流れは実施例1と同等であり、記述を省略する。
【0029】
本実施例における沸騰水型原子力プラントでは、N−16を原子炉圧力容器1内に半減期の時間以上保持するために、分子骨格中に酸点を有する固体物質である金属酸化物を設置する。金属酸化物としては、酸化チタン(TiO2),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化アルミニウム(Al23),酸化亜鉛(ZnO),酸化ケイ素(SiO2),酸化モリブデン(MoO3),酸化スズ(SnO2)のうち、いずれか一つ以上の酸化物が挙げられる。これらの酸化物は、単独の酸化物で酸性を示し、塩基であるアンモニアを結合することができる。また、アルカリ土類の酸化物、例えば酸化マグネシウム(MgO)や酸化カルシウム(CaO),ランタノイドやアクチノイドの酸化物、例えば酸化ランタン(La23),酸化イットリウム(Y23),酸化トリウム(Th23)は、主に塩基性を示す固体であるが、分子骨格中に酸点も有するので、これらの酸化物もアンモニアを結合,保持することが可能である。
【0030】
本実施例で使用する金属酸化物は、一種類のものを使用してもよいし、複数の酸化物を混合したものでもよい。
【0031】
本実施例の金属酸化物を設置する場所は、原子炉圧力容器内で蒸気が通過し接触する場所であればよく、例えば気水分離器から主蒸気管入口までの間のいずれかが選択される。
【0032】
金属酸化物は、それ自体を成形して設置してもよいし、金属等の構造体に塗布,添着して設置してもよい。ZrO2,Al23等はそれ自体を成形して金属並みの強度を持った構造体を製作できるので、原子炉圧力容器内の構造物の一部を金属酸化物で製作してもよい。
【0033】
以上本実施例によれば、金属酸化物で製作した構造体または金属等に金属酸化物を添着した構造体を原子炉圧力容器内の蒸気と接触できる場所に設置し、N−16を吸着保持することでタービン系に供給されるN−16が低減し、タービン系の放射線線量率を低減することができる。
【実施例3】
【0034】
本発明の第3の実施例を説明する。なお、原子炉圧力容器1内での蒸気の流れは実施例1と同等であり、記述を省略する。
【0035】
本実施例における沸騰水型原子力プラントでは、N−16を原子炉圧力容器1内に半減期の時間以上保持するために、固体酸であるゼオライトや、モンモリロナイトなどの粘土鉱物を設置する。これらの鉱物は、分子骨格内に酸点を有し、アンモニアを吸着,保持することができる。また、内包する陽イオンとの置換反応でアンモニアを保持することもできる。種々の金属イオンを内包したゼオライトや、種々の陽イオンを層状構造の層間に包接した粘土鉱物が合成可能であり、金属イオンや陽イオンの選択によりゼオライトや粘土鉱物の酸強度を調整することができ、N−16の保持時間を調整することができる。
【0036】
本実施例で使用するゼオライトや粘土鉱物といった鉱物は、人工的に合成したり、陽イオンを置換したりしたものでもよいし、天然に産出されるものを使用してもよい。一種類の鉱物でもよいし、複数の鉱物を混合したものでもよい。
【0037】
本実施例のゼオライトや粘土鉱物を設置する場所は、原子炉圧力容器内で蒸気が接触できる場所であればよく、例えば気水分離器から主蒸気管入口までの間のいずれかが選択される。
【0038】
鉱物は、それ自体を成形して設置してもよいし、金属等の構造体に塗布,添着して設置してもよい。
【0039】
以上本実施例によれば、ゼオライトや粘土鉱物を原子炉圧力容器内の蒸気と接触できる場所に設置し、N−16を含むアンモニアを吸着,保持することでN−16が崩壊してO−16となるため、タービン系に供給されるN−16が低減し、タービン系の放射線線量率を低減することができる。さらに、設置するゼオライトや粘土鉱物は天然に産出されるものを使用することができ、最終的に放射性廃棄物として埋設処分される際に環境への適応性が高い。
【符号の説明】
【0040】
1 原子炉圧力容器
2 炉心
3 気水分離器
4 蒸気乾燥器
5 主蒸気ノズル
6 空軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子力プラントにおいて、
原子炉の圧力容器内で発生する蒸気の通過経路に、窒素化合物を吸着する能力を有する材料を設置したことを特徴とする、沸騰水型原子力プラント。
【請求項2】
前記窒素化合物を吸着する能力を有する材料は、分子骨格内に酸点を有する材料であることを特徴とする、請求項1に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項3】
前記分子骨格内に酸点を有する材料は、チタン,ジルコニウム,亜鉛,アルミニウム,ケイ素の酸化物のうち少なくとも一つ以上の酸化物と、それ以外の金属の酸化物のうち一種類以上の金属酸化物の複合酸化物であることを特徴とする、請求項1及び2に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項4】
前記分子骨格内に酸点を有する材料はチタン,ジルコニウム,アルミニウム,亜鉛,ケイ素,モリブデン,スズの酸化物のうちいずれか一つ以上の酸化物であることを特徴とする、請求項1及び2に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項5】
前記分子骨格内に酸点を有する材料は、ゼオライトであることを特徴とする、請求項1及び2に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項6】
前記分子骨格内に酸点を有する材料は、粘土鉱物であることを特徴とする、請求項1及び2に記載の沸騰水型原子力プラント。
【請求項7】
沸騰水型原子力プラントにおいて、
原子炉の圧力容器内で発生する蒸気の通過経路に、分子骨格内に酸点を有する材料からなる窒素化合物を吸着する能力を有する材料を設置し、放射性窒素化合物を吸着保持することを特徴とする、沸騰水型原子力プラントのタービン系の線量低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247604(P2011−247604A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117915(P2010−117915)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)