沸騰水型原子炉用燃料集合体
【課題】 軸方向上部領域の冷温時反応度は十分下げることができ、尚且つ、冷温時の中性子束分布の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においても、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保したBWR用燃料集合体を提供する。
【解決手段】 可燃性毒物を含有する燃料棒が、燃料集合体の燃料有効長の上下端部を除くほぼ全長に亘って可燃性毒物を含有し、且つ、未燃焼時の可燃性毒物濃度が異なる少なくとも2つの可燃性毒物領域を含有する第1の毒物含有燃料棒と、軸方向の下部側から有効長途中までの部分軸方向領域にのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、第2の毒物含有燃料棒が可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むもの。
【解決手段】 可燃性毒物を含有する燃料棒が、燃料集合体の燃料有効長の上下端部を除くほぼ全長に亘って可燃性毒物を含有し、且つ、未燃焼時の可燃性毒物濃度が異なる少なくとも2つの可燃性毒物領域を含有する第1の毒物含有燃料棒と、軸方向の下部側から有効長途中までの部分軸方向領域にのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、第2の毒物含有燃料棒が可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉(以下、BWRと記す)に供する燃料集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、経済性向上のため、プラント高効率運転を目指した長期サイクル運転や出力向上運転への対応やウラン資源有効利用のための高燃焼度化への対応が原子燃料に対して求められている。これらは、燃焼前のウラン濃縮度を高めることで対応できるが、現在実用化されている燃料をそのまま高濃縮度化するだけでは、熱的余裕の悪化や原子炉停止余裕の悪化が発生し、原子炉プラントを安全に運転することが困難となる。
【0003】
長期サイクル運転時の軸方向出力分布を平坦化し、熱的余裕を向上する手段として、未燃焼時の可燃性毒物濃度が一様で、且つ、可燃性毒物濃度の添加領域の上端位置が異なる3種類の燃料棒を備える提案があった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この発明では、軸方向平坦化範囲を適切に行うため、軸方向下方領域と中央領域にのみ可燃性毒物を添加する燃料棒の全燃料棒本数の割合を4〜8%,軸方向下方領域にのみ可燃性毒物を添加する燃料棒の全燃料棒本数の割合を3〜6%と規定している。
【0005】
また、燃料が高濃縮度化すると一般的に、減速材ボイド係数の絶対値が増大する。減速材ボイド係数の絶対値が増大すると、負のボイドフィードバックが大きくなり炉心安定性が悪化する。
【0006】
これらの課題に対して、熱的余裕確保のため格子数を増やし、集合体あたりの燃料棒本数を増やす研究がなされている。燃料集合体に装荷される燃料棒本数が増えることにより次の利点が生じ、熱的余裕の増大につながる。
(1) 同じ集合体出力でも燃料棒本数が増えることにより、燃料棒単位長さあたりの発熱量である線出力密度を小さくでき、熱的余裕が大きくなる。
(2) 濡れぶち長さが増大することにより、冷却能力が増し、沸騰遷移をおこす限界出力が向上する。
【0007】
その一方で、濡れぶち長さが大きくなることにより摩擦圧損が増加するといったデメリットも生じる。集合体圧力損失が大きくなると、集合体内を流れる冷却材流量が少なくなり、冷却能力の減少、ひいては沸騰遷移をおこす限界出力の低下につながる。
【0008】
また、格子数を大きくして燃料棒本数を増やし、高濃縮度化が達成できたとしても、減速材ボイド係数の絶対値の増加や原子炉停止余裕が十分に確保できないといった課題は解決されない。
【0009】
これに対し、減速材ボイド係数の絶対値の増大の緩和及び十分な炉停止余裕を確保するための手段として、部分長燃料棒を集合体コーナー部や集合体外周部に配置している提案もあった(例えば、特許文献2参照)。この提案では原子炉停止余裕の改善に寄与の大きい軸方向上部領域の冷温時反応度を下げるために、この効果の大きい箇所に部分長燃料棒を配置することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3598092号
【特許文献2】特許第4078062号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図12は従来の燃料集合体の可燃性毒物配置例を示す説明図である。図12に示す通り、例えば従来の燃料集合体は、10×10の正方格子状に燃料棒1,2,3,4,5,G1,G2を束ね、チャンネルボックス7内に配置して構成されている。チャンネルボックス7の中心軸から反制御棒8側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。尚、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブラケットが設けられていおり、燃料有効長はこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とする。
【0012】
燃料棒1,2,3,4,5,G1,G2は、可燃性毒物を含有しない燃料棒1,2,3,4,5と、可燃性毒物を含有する燃料棒G1,G2との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有しない燃料棒は、濃縮度が4.90wt%の燃料棒1と4.40wt%の燃料棒2と2.40wt%の燃料棒3との長尺燃料棒と、濃縮度が4.90wt%と2.40wt%との14ノードまでの部分長燃料棒4,5とに分けられる。
【0013】
未燃焼のガドリニアを可燃性毒物として含有する2種類の燃料棒の本数は、上下1ノード分の上下端のブランケット部を除く有効長すべての領域で同一であり、これら2種類の可燃性毒物含有燃料棒の各々が、その燃料棒内に複数の可燃性毒物濃度領域を有している。また、集合体中における可燃性毒物の最高濃度の領域は、軸方向下部領域に存在する。
【0014】
即ち、可燃性毒物を含有する燃料棒は、共に濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、一方の毒物含有燃料棒G1は、下から20ノードの下部領域が8.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域であり、その上部領域が6.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域であり、他方の毒物含有燃料棒G2は、下から20ノードの下部領域が6.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域であり、その上部領域が5.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域である。
【0015】
ところで、原子炉の運転期間や出力向上割合及び目標とする取出平均燃焼度に応じて、可燃性毒物を含有する燃料棒の本数割合には最適な範囲がある。可燃性毒物燃料棒本数が過剰な場合、原子炉停止余裕は十分に確保できるが、所要の原子炉出力や運転期間を達成できず、経済性が劣ることとなる。
【0016】
一方、可燃性毒物燃料棒本数割合が不足すると、所要の原子炉出力や運転期間を満足するものの、原子炉停止余裕の確保が難しくなる。さらに、燃料集合体中の可燃性毒物を有しない一部の燃料棒に部分長燃料棒を採用した場合には、部分長燃料棒の存在により軸方向下部領域では可燃性毒物燃料棒本数割合が前記の最適範囲から不足し、反対に軸方向上部領域では過剰となる場合がある。
【0017】
上述のような従来技術を利用し、長期サイクル運転、出力向上運転、あるいは高燃焼度化を同時に達成しようとした場合であっても、軸方向上部領域の冷温時の反応度を十分に下げることは可能である。
【0018】
しかしながら、軸方向中央領域の冷温時反応度に対しては反応度を低下させるよう構造上の特段の配慮をしない場合には、冷温時の中性子束分布の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においては、原子炉停止余裕の十分な確保が難しくなる傾向があることがわかった。
【0019】
本発明は、長期サイクル運転、出力向上運転、あるいは高燃焼度化を同時に達成すると共に軸方向上部領域の冷温時反応度は十分下げることができ、尚且つ、冷温時の中性子束分布の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においても、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保したBWR用燃料集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、燃料有効長が燃料集合体の有効長と等しい全長燃料棒と、それより短い部分長燃料棒を有し、かつ、可燃性毒物を含有する燃料棒と可燃性毒物を含有しない燃料棒とを複数本束ねた沸騰水型燃料集合体において、
可燃性毒物を含有する燃料棒が、
燃料集合体の燃料有効長の上下端部を除くほぼ全長に亘って可燃性毒物を含有し、且つ、未燃焼時の可燃性毒物濃度が異なる少なくとも2つの可燃性毒物領域を含有する第1の毒物含有燃料棒と、
軸方向の下部側から有効長途中までの部分軸方向領域にのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、
第2の毒物含有燃料棒が可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むことを特徴とするものである。
【0021】
請求項2に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1に記載の少なくとも1本の第1の毒物含有燃料棒の軸方向下部側領域の可燃性毒物濃度が燃料集合体の最高濃度であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項3に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1又は2に記載の少なくとも1本の第2の毒物含有燃料棒の未燃焼時の可燃性毒物濃度が燃料集合体中の最低濃度であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項4に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜3の何れか1項に記載の第2の毒物含有燃料棒の本数割合が、下式で示されることを特徴とするものである。
FPL×FGd < α < 2×FPL×FGd
ここで、
FPL : 部分長燃料棒本数割合
FGd : 毒物含有燃料棒本数割合
α : 第2の毒物含有燃料棒本数割合
【0024】
請求項5に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜4の何れか1項に記載の第2の毒物含有燃料棒が部分長燃料棒を含むことを特徴とするものである。
【0025】
請求項6に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜5の何れか1項に記載の第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置が、
前記相対的に高位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/3〜2/3の位置、
前記相対的に低位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/4〜1/3の位置にあることを特徴とするものである。
【0026】
請求項7に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜6の何れか1項に記載の部分長燃料棒が集合体外周部に配置されていることを特徴とするものである。
【0027】
請求項8に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜7の何れか1項に記載の燃料棒が10行10列以上の格子状配列で束ねられ、且つ、燃料棒9本分の領域が角型ウォータチャンネルに置換されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、長期サイクル運転、出力向上運転、あるいは高燃焼度化を同時に達成するとともに、軸方向上部領域の冷温時反応度は十分下げることができ、尚且つ、冷温時の中性子束の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においても、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のBWR用燃料集合体の一実施例の構成を示す説明図である。
【図2】燃料集合体のサイクル初期及びサイクル末期における平衡炉心の冷温時の軸方向相対出力分布を示す線図であり、a図は図12に示す従来例、b図は図1に示す実施例である。
【図3】従来例と実施例とのサイクル初期の運転時軸方向出力分布を示す線図である。
【図4】従来例と実施例との軸方向出力ピーキング係数の燃焼変化を示す線図である。
【図5】従来例と実施例との原子炉停止余裕の燃焼変化を示す線図である。
【図6】従来例と実施例との熱的制限値のひとつである最大線出力密度の燃焼変化を示す線図である。
【図7】従来例と実施例における余剰反応度の燃焼変化を示す線図である。
【図8】第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル初期原子炉停止余裕の関係を示した図である。
【図9】第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル末期余剰反応度の関係を示した図である。
【図10】本発明のBWR用燃料集合体の別の実施例の構成を示す説明図である。
【図11】本発明のBWR用燃料集合体の更に別の実施例の構成を示す説明図である。
【図12】従来の燃料集合体の可燃性毒物配置例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明においては、BWR用燃料集合体において、
可燃性毒物を含有する燃料棒が、
燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘る軸方向領域に可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒と、
軸方向の下部側から前記燃料有効長の途中までの部分軸方向領域のみに可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、
第2の毒物含有燃料棒が、可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むため、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保することができる。
【0031】
本発明の第1の毒物含有燃料棒は、好ましくは相対的に未燃焼時の可燃性毒物濃度の異なる少なくとも2つの可燃性毒物含有領域を含み、更に好ましくは、少なくとも1本の第1の毒物含有燃料棒の軸方向下部側領域の可燃性毒物濃度が燃料集合体の最高濃度とする。このため、運転時の中性子束分布の下部ピークの程度が比較的大きいサイクル初期においても経済性を損なうことなく十分な熱的余裕を確保できる。
【0032】
また、第2の毒物含有燃料棒を適用しない場合でも、サイクル初期以外は十分な原子炉停止余裕が確保できている時には、経済性の観点から可燃性毒物濃度はできるだけ小さい方が望ましい。少なくとも1本の第2の毒物含有燃料棒の未燃焼時の可燃性毒物濃度は、好ましくは、燃料集合体中の最低濃度とすることが望ましい。
【0033】
ところで、原子炉の運転期間や出力向上割合及び目標とする取出平均燃焼度に応じて、可燃性毒物を含有する燃料棒の本数割合には最適な範囲があるが、燃料集合体中の一部の燃料棒に部分長燃料棒を採用した場合に、この部分長燃料棒の存在により、可燃性毒物本数割合が軸方向下部領域ではこの最適範囲から不足し、反対に軸方向上部領域では過剰となる。これについて、第2の毒物含有燃料棒本数割合を下式の数1の通りの範囲内とすることで、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕が確保できる。
【0034】
(数1)
FPL×FGd < α < 2×FPL×FGd
ここで、
FPL : 部分長燃料棒本数割合
FGd : 毒物含有燃料棒本数割合
α : 第2の毒物含有燃料棒本数割合
【0035】
なお、第2の毒物含有燃料棒本数割合が上式の範囲より少ない場合は、原子炉停止余裕の十分な確保に到らず、反対に上式の範囲より多い場合は、十分な原子炉停止余裕が確保できるものの、サイクル末期での可燃性毒物の燃え残りにより、目標とする取出平均燃焼度が達成できないこととなる。
【0036】
また、第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置は、冷温時軸方向出力分布の中央ピークを緩和する観点から、燃料集合体の有効長の1/3程度以上の位置で、できるだけ高い方が望ましく、運転時の軸方向出力分布の下部ピークを緩和する観点から、相対的に高位置にある第2の毒物含有燃料棒の上端位置は、燃料有効長の2/3程度以下でできるだけ低い方が望ましい。
【0037】
また、相対的に低位置にある第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置は、運転時の軸方向出力分布の下部ピークを緩和する観点から、燃料集合体の有効長の1/4程度以上の位置で、できるだけ高い方が好ましく、サイクル末期での可燃性毒物の燃え残りをできるだけ避ける観点から、相対的に低位置にある第2の毒物含有燃料棒の上端位置は、燃料有効長の1/3程度以下できるだけ低いほうが望ましい。
【0038】
したがって第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の好ましい上端位置は、相対的に高位置にある毒物含有燃料棒においては、燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/3〜2/3の位置、相対的に低位置にある毒物含有燃料棒においては、燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/4〜1/3の位置である。
【0039】
さらに、部分長燃料棒は、軸方向上部領域の冷温時反応度を抑制する観点から非沸騰領域に隣接させる配置が好ましく、集合体外周部及び/またはウォータチャンネル(ウォータロッド)周りに配置されているものである。なお、第2の毒物含有燃料棒本数割合が上式の範囲より少ない場合は、後述する図8に示す通り、原子炉停止余裕の十分な確保に到らず、反対に上式の範囲より多い場合は、十分な原子炉停止余裕が確保できるものの、後述する図9に示す通りサイクル末期での可燃性毒物の燃え残りにより、目標とする取出平均燃焼度が達成できないこととなる。
【実施例】
【0040】
1.実施例1
図1は本発明のBWR用燃料集合体の一実施例の構成を示す説明図である。図1に示す通り、本実施例1の燃料集合体10は、10×10の正方格子状に燃料棒11,12,13,14,15,G11,G12,G13,G14を束ねてチャンネルボックス内17内に配置して構成されている。チャンネルボックス17の中心軸から反制御18側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。尚、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブランケットが設けられており、燃料有効長としてはこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とした。
【0041】
燃料棒11,12,13,14,15,G11,G12,G13,G14は、可燃性毒物を含有しない燃料棒11,12,13,14,15と、可燃性毒物を含有する燃料棒G11,G12,G13,G14との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有しない燃料棒は、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒11と4.40wt%の燃料棒12と2.40wt%の燃料棒13との長尺燃料棒と、ウラン235濃縮度が4.90wt%と2.40wt%で有効長が長尺燃料棒の14/24である部分長燃料棒14,15に分けられる。
【0042】
可燃性毒物を含有する燃料棒は、燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘って、複数濃度の可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒G11,G12と、軸方向の下部側から有効長途中までにのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G13,G14との2種類に分けられる。第1の毒物含有燃料棒G11,G12はともに、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、G11のガドリニア濃度は8.0wt%と6.0wt%の2種類であり、G12のガドリニア濃度は9.0wt%と6.0wt%と5.0wt%の3種類である。なお、第1の毒物含有燃料棒G12の下部領域(9.0wt%)可燃性毒物濃度は燃料集合体中の最大濃度となっている。
【0043】
第2の毒物含有燃料棒G13,G14は、可燃性毒物を含有する領域の上端位置が相違する2種類の第2の毒物含有燃料棒G13と第2の毒物含有燃料棒G14とを備える。具体的には、第2の毒物含有燃料棒G13,G14はともにウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒である。高位置の第2の毒物含有燃料棒G13は、14/24ノードまでの部分長燃料棒であり、その部分長燃料棒のほぼ全領域でガドリニア濃度は2.0wt%である。低位置の第2の毒物含有燃料棒G14は、長尺燃料棒であり、8/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は2.0wt%である。なお、第2の毒物含有燃料棒G13,G14の可燃性毒物濃度は集合体中の最低濃度となっている。
【0044】
本実施例の燃料集合体10では、軸方向有効長の途中まで可燃性毒物を含有する部分長燃料棒の第2の毒物含有燃料棒G13を備えることにより、軸方向中央部の冷温時の反応度を低下できる。このため、サイクル初期における原子炉停止余裕が改善する。また、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物の含有領域の上端が可燃性毒物を含有しない他の部分長燃料棒14,15の有効長上端と等しくしている。
【0045】
更に上部が可燃性毒物を含まない通常の核燃料を装荷した第2の毒物含有燃料棒G14を備えることにより、サイクル初期における下部ピークを抑制し、最大線出力密度の改善を図ることができる。また、第1の毒物燃料棒G11,G12の可燃性毒物濃度を下部領域と上部領域とで相違させることにより、サイクル末期における可燃性毒物の燃え残りを改善し、目標とする取出平均燃焼度を達成することが可能となる。
【0046】
2.実施例1と従来例との比較
以下、図1の実施例と図12の従来例それぞれについて、例えばG12燃料棒の本数が異なる2種類の燃料から構成した平衡炉心について、運転期間19ヶ月の長期サイクル運転,取出平均燃焼度50GWd/t以上といった高燃焼度化を達成しようとした場合の炉心特性を比較して本発明の効果を説明する。
【0047】
図2は燃料集合体のサイクル初期及びサイクル末期における平衡炉心の冷温時の軸方向相対出力分布を示す線図であり、a図は図12に示す従来例、b図は図1に示す実施例である。a図に示す通り、サイクル初期には軸方向中央部が、サイクル末期では軸方向上部の冷温時の相対出力が高くなっている。
【0048】
これに対し、b図に示す通り、本実施例の燃料集合体では、部分長燃料棒の全領域にガドリニアを含有する第2の毒物含有燃料棒G13を備えることにより、軸方向中央部の冷温時の軸方向相対出力分布の出力ピークを図2に示す従来例より緩やかにすることが可能となる。
【0049】
図3は従来例と実施例とのサイクル初期の運転時の軸方向出力分布を示す線図である。従来例に対して実施例では下部ピークの程度を緩和することが可能である。図2に示す通り、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物含有領域の上端位置は、冷温時軸方向出力分布の中央ピークを緩和する観点から、燃料集合体の燃料有効長の1/3程度以上の位置でできるだけ高い方が望ましい。
【0050】
それに加えて、図3に示す通り、運転時の軸方向出力分布の下部ピークを緩和する観点から、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料有効長の2/3程度以下でできるだけ低いほうが望ましい。また、第2の毒物含有燃料棒G14の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料集合体の燃料有効長の1/4から1/3程度の範囲にあることが望ましい。
【0051】
これらの条件により、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料集合体の燃料有効長の1/3から2/3程度の範囲にあることが望ましく、第2の毒物含有燃料棒G14の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料集合体の燃料有効長の1/4から1/3程度の範囲にあることが望ましい。
【0052】
図4は従来例と実施例との軸方向出力ピーキング係数の燃焼変化を示す線図である。図4に示す通り、実施例はサイクル初期より、軸方向出力ピーキング係数の変化が従来例に比べて緩やかであることが解る。
【0053】
図5は従来例と実施例との原子炉停止余裕の燃焼変化を示す線図である。図5に示す通り、従来例では制限値を満足するものの原子炉停止余裕はサイクル初期のみ十分な設計余裕が確保できていないので、実施例の第2の毒物含有燃料棒G13に含有する可燃性毒物濃度は集合体最低濃度とすることが経済性の観点から望ましい。第2の毒物含有燃料棒G13を備えることにより、軸方向中央部の冷温時出力ピークを従来例より緩やかにすることが可能であり、これが原子炉停止余裕の改善につながる。
【0054】
図6は熱的制限値のひとつである最大線出力密度の従来例と実施例との燃焼変化を示す線図である。図6に示す通り、特にサイクル初期の熱的余裕を改善できることが示された。これは上部が毒物を含まない通常のウラン燃料を装荷した第2の毒物含有燃料棒G14を備えることにより、特にサイクル初期の熱的余裕を改善できることが示唆された。
【0055】
図7は従来例と実施例における余剰反応度の燃焼変化を示す線図である。第2の毒物含有燃料棒G13及び第2の毒物含有燃料棒G14を備えることにより余剰反応度は低下しているが、サイクル末期ではほぼ同等となっており、著しく経済性を損なうことはない。
【0056】
図8は第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル初期原子炉停止余裕の関係を示した図である。図9は第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル末期余剰反応度の関係を示した図である。これらの図には、前述の数1で示した式の下限値(FPL×FGd)及び上限値(2×FPL×FGd)が示されている。
【0057】
図8に示す通り、計算精度を考慮し通常設定する原子炉停止余裕の設計目標を1.5%dkとした場合、望ましい第2の毒物含有燃料棒本数割合は、下限値より大きい範囲となる。また、図9に示す通り、第2の毒物含有燃料棒の採用により低下するサイクル末期の余剰反応度を0.05%dk以内にとどめようとする場合、望ましい第2の毒物含有燃料棒本数割合は、上限値より小さい範囲となる。尚、本実施例1では、FPL=0.15、FGd=0.21、α=0.04であり、第2の毒物含有燃料棒本数割合αは、前述の数1で示した式の範囲内にある。
【0058】
以上の通り、本実施例の燃料集合体は、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保できる。
【0059】
3.実施例2
図10は本発明のBWR用燃料集合体の別の実施例の構成を示す説明図である。図10に示す通り、本実施例2の燃料集合体20では、実施例1と同様に、10×10の正方格子状に燃料棒21,22,23,24,25,G21,G22,G23,G24を束ね、チャンネルボックス27内に配置して構成されている。チャンネルボックス27の中心軸から反制御28側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。なお、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブランケットが設けられており、燃料有効長にはこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とする。
【0060】
燃料棒21,22,23,24,25,G21,G22,G23,G24は、可燃性毒物を含有しない燃料棒21,22,23,24,25と、可燃性毒物を含有する燃料棒G21,G22,G23,G24との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有しない燃料棒は、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒21と4.40wt%の燃料棒22と2.40wt%の燃料棒23との長尺燃料棒と、ウラン235濃縮度が4.90wt%と2.40wt%で有効長が長尺燃料棒の14/24である部分長燃料棒24,25に分けられる。
【0061】
可燃性毒物を含有する燃料棒は、燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘って、複数濃度の可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒G21,G22と、軸方向の下部側から有効長途中までにのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G23,G24との2種類に分けられる。第1の毒物含有燃料棒G21,G22はともに、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、G21のガドリニア濃度は8.0wt%と5.0wt%の2種類であり、G22のガドリニア濃度は6.0wt%と5.0wt%の2種類である。なお、第1の毒物含有燃料棒G21の下部領域(8.0wt%)可燃性毒物濃度は燃料集合体中の最大濃度となっている。
【0062】
第2の毒物含有燃料棒G23,G24は、可燃性毒物を含有する領域の上端位置が相違する2種類の第2の毒物含有燃料棒G23と第2の毒物燃料棒G24とを備える。具体的には、第2の毒物含有燃料棒G23,G24はともにウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒である。高位置の第2の毒物含有燃料棒G23は、長尺燃料棒であり、16/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。低位置の第2の毒物含有燃料棒G24は、長尺燃料棒であり、8/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。なお、第2の毒物含有燃料棒G23,G24の可燃性毒物濃度は集合体中の最低濃度となっている。
【0063】
本実施例2の燃料集合体20では、軸方向有効長の途中まで可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G23及び第2の毒物含有燃料棒G24を備えることにより、軸方向中央領域の冷温時の反応度を低下でき、サイクル初期における停止余裕は改善する。また、第2の毒物含有燃料棒G24を備えることによりサイクル初期における下部ピークを抑制し、最大線出力密度の改善を図ることができる。尚、本実施例2では,FPL=0.15、FGd=0.19、α=0.04であり、第2の毒物含有燃料棒本数割合αは、前述の数1で示した式の範囲内にある。
【0064】
4.実施例3
図11は本発明のBWR用燃料集合体の別の実施例の構成を示す説明図である。図11に示す通り、本実施例の燃料集合体では、図10に示した燃料集合体の相対的に高位置にある第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物を含有する領域の高さが、可燃性毒物を含有しない部分長燃料棒4,5の燃料有効長と同一となった例であり、個々の燃料棒の配置も変わっていない。
【0065】
すなわち、本実施例3の燃料集合体30では、実施例2と同様に、10×10の正方格子状に燃料棒31,32,33,34,35,G31,G32,G33,G34を束ね、チャンネルボックス37内に配置して構成されている。チャンネルボックス37の中心軸から反制御38側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。なお、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブランケットが設けられており、燃料有効長にはこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とする。
【0066】
燃料棒31,32,33,34,35,G31,G32,G33,G34は、可燃性毒物を含有しない燃料棒31,32,33,34,35と、可燃性毒物を含有する燃料棒G31,G32,G33,G34との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有する燃料棒は、燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘って、複数濃度の可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒G31,G32と、軸方向の下部側から有効長途中までにのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G33,G34との2種類に分けられる。第1の毒物含有燃料棒G21,G22はともに、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、G21のガドリニア濃度は8.0wt%と5.0wt%の2種類であり、G22のガドリニア濃度は6.0wt%と5.0wt%の2種類である。なお、第1の毒物含有燃料棒G21の下部領域(8.0wt%)可燃性毒物濃度は燃料集合体中の最大濃度となっている。
【0067】
第2の毒物含有燃料棒G33,G34は、可燃性毒物を含有する領域の上端位置が相違する2種類の第2の毒物含有燃料棒G33と第2の毒物燃料棒G34とを備える。具体的には、第2の毒物含有燃料棒G33,G34はともにウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒である。高位置の第2の毒物含有燃料棒G33は、長尺燃料棒であり、14/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。低位置の第2の毒物含有燃料棒G34は、長尺燃料棒であり、8/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。なお、第2の毒物含有燃料棒G33,G34の可燃性毒物濃度は集合体中の最低濃度となっている。
【0068】
本実施例3の燃料集合体30でも、軸方向有効長の途中まで可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G33及び第2の毒物含有燃料棒G34を備えることにより、軸方向中央領域の冷温時の反応度を低下でき、サイクル初期における停止余裕は改善する。また、第2の毒物含有燃料棒G33の可燃性毒物の含有領域の上端が、可燃性毒物を含有しない部分長燃料棒4,5の燃料有効長上端と等しくしているため、部分長燃料棒の存在する下部断面と部分長燃料棒の存在しない上部断面における、可燃性毒物燃料棒本数割合それぞれ、最適範囲内に容易に収めることが可能となる。
【0069】
さらに、第2の毒物含有燃料棒G34を備えることによりサイクル初期における下部ピークを抑制し、最大線出力密度の改善を図ることができる。尚、本実施例3では,FPL=0.15、FGd=0.19、α=0.04であり、第2の毒物含有燃料棒本数割合αは、前述の数1で示した式の範囲内にある。
【符号の説明】
【0070】
10 ,20 ,30 …燃料集合体、
11 ,21 ,31 …燃料棒(長尺燃料棒)、
12 ,22 ,32 …燃料棒(長尺燃料棒)、
13 ,23 ,33 …燃料棒(長尺燃料棒)、
14 ,24 ,34 …燃料棒(部分長燃料棒)、
15 ,25 ,35 …燃料棒(部分長燃料棒)、
G11,G21,G31…第1の毒物含有燃料棒、
G12,G22,G32…第1の毒物含有燃料棒、
G13,G23,G33…第2の毒物含有燃料棒、
G14,G24,G34…第2の毒物含有燃料棒、
17 ,27 ,37 …チャンネルボックス、
18 ,28 ,38 …制御棒、
W …ウォータチャンネル、
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉(以下、BWRと記す)に供する燃料集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、経済性向上のため、プラント高効率運転を目指した長期サイクル運転や出力向上運転への対応やウラン資源有効利用のための高燃焼度化への対応が原子燃料に対して求められている。これらは、燃焼前のウラン濃縮度を高めることで対応できるが、現在実用化されている燃料をそのまま高濃縮度化するだけでは、熱的余裕の悪化や原子炉停止余裕の悪化が発生し、原子炉プラントを安全に運転することが困難となる。
【0003】
長期サイクル運転時の軸方向出力分布を平坦化し、熱的余裕を向上する手段として、未燃焼時の可燃性毒物濃度が一様で、且つ、可燃性毒物濃度の添加領域の上端位置が異なる3種類の燃料棒を備える提案があった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この発明では、軸方向平坦化範囲を適切に行うため、軸方向下方領域と中央領域にのみ可燃性毒物を添加する燃料棒の全燃料棒本数の割合を4〜8%,軸方向下方領域にのみ可燃性毒物を添加する燃料棒の全燃料棒本数の割合を3〜6%と規定している。
【0005】
また、燃料が高濃縮度化すると一般的に、減速材ボイド係数の絶対値が増大する。減速材ボイド係数の絶対値が増大すると、負のボイドフィードバックが大きくなり炉心安定性が悪化する。
【0006】
これらの課題に対して、熱的余裕確保のため格子数を増やし、集合体あたりの燃料棒本数を増やす研究がなされている。燃料集合体に装荷される燃料棒本数が増えることにより次の利点が生じ、熱的余裕の増大につながる。
(1) 同じ集合体出力でも燃料棒本数が増えることにより、燃料棒単位長さあたりの発熱量である線出力密度を小さくでき、熱的余裕が大きくなる。
(2) 濡れぶち長さが増大することにより、冷却能力が増し、沸騰遷移をおこす限界出力が向上する。
【0007】
その一方で、濡れぶち長さが大きくなることにより摩擦圧損が増加するといったデメリットも生じる。集合体圧力損失が大きくなると、集合体内を流れる冷却材流量が少なくなり、冷却能力の減少、ひいては沸騰遷移をおこす限界出力の低下につながる。
【0008】
また、格子数を大きくして燃料棒本数を増やし、高濃縮度化が達成できたとしても、減速材ボイド係数の絶対値の増加や原子炉停止余裕が十分に確保できないといった課題は解決されない。
【0009】
これに対し、減速材ボイド係数の絶対値の増大の緩和及び十分な炉停止余裕を確保するための手段として、部分長燃料棒を集合体コーナー部や集合体外周部に配置している提案もあった(例えば、特許文献2参照)。この提案では原子炉停止余裕の改善に寄与の大きい軸方向上部領域の冷温時反応度を下げるために、この効果の大きい箇所に部分長燃料棒を配置することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3598092号
【特許文献2】特許第4078062号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図12は従来の燃料集合体の可燃性毒物配置例を示す説明図である。図12に示す通り、例えば従来の燃料集合体は、10×10の正方格子状に燃料棒1,2,3,4,5,G1,G2を束ね、チャンネルボックス7内に配置して構成されている。チャンネルボックス7の中心軸から反制御棒8側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。尚、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブラケットが設けられていおり、燃料有効長はこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とする。
【0012】
燃料棒1,2,3,4,5,G1,G2は、可燃性毒物を含有しない燃料棒1,2,3,4,5と、可燃性毒物を含有する燃料棒G1,G2との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有しない燃料棒は、濃縮度が4.90wt%の燃料棒1と4.40wt%の燃料棒2と2.40wt%の燃料棒3との長尺燃料棒と、濃縮度が4.90wt%と2.40wt%との14ノードまでの部分長燃料棒4,5とに分けられる。
【0013】
未燃焼のガドリニアを可燃性毒物として含有する2種類の燃料棒の本数は、上下1ノード分の上下端のブランケット部を除く有効長すべての領域で同一であり、これら2種類の可燃性毒物含有燃料棒の各々が、その燃料棒内に複数の可燃性毒物濃度領域を有している。また、集合体中における可燃性毒物の最高濃度の領域は、軸方向下部領域に存在する。
【0014】
即ち、可燃性毒物を含有する燃料棒は、共に濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、一方の毒物含有燃料棒G1は、下から20ノードの下部領域が8.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域であり、その上部領域が6.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域であり、他方の毒物含有燃料棒G2は、下から20ノードの下部領域が6.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域であり、その上部領域が5.0wt%のガドリニア入り燃料棒領域である。
【0015】
ところで、原子炉の運転期間や出力向上割合及び目標とする取出平均燃焼度に応じて、可燃性毒物を含有する燃料棒の本数割合には最適な範囲がある。可燃性毒物燃料棒本数が過剰な場合、原子炉停止余裕は十分に確保できるが、所要の原子炉出力や運転期間を達成できず、経済性が劣ることとなる。
【0016】
一方、可燃性毒物燃料棒本数割合が不足すると、所要の原子炉出力や運転期間を満足するものの、原子炉停止余裕の確保が難しくなる。さらに、燃料集合体中の可燃性毒物を有しない一部の燃料棒に部分長燃料棒を採用した場合には、部分長燃料棒の存在により軸方向下部領域では可燃性毒物燃料棒本数割合が前記の最適範囲から不足し、反対に軸方向上部領域では過剰となる場合がある。
【0017】
上述のような従来技術を利用し、長期サイクル運転、出力向上運転、あるいは高燃焼度化を同時に達成しようとした場合であっても、軸方向上部領域の冷温時の反応度を十分に下げることは可能である。
【0018】
しかしながら、軸方向中央領域の冷温時反応度に対しては反応度を低下させるよう構造上の特段の配慮をしない場合には、冷温時の中性子束分布の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においては、原子炉停止余裕の十分な確保が難しくなる傾向があることがわかった。
【0019】
本発明は、長期サイクル運転、出力向上運転、あるいは高燃焼度化を同時に達成すると共に軸方向上部領域の冷温時反応度は十分下げることができ、尚且つ、冷温時の中性子束分布の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においても、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保したBWR用燃料集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、燃料有効長が燃料集合体の有効長と等しい全長燃料棒と、それより短い部分長燃料棒を有し、かつ、可燃性毒物を含有する燃料棒と可燃性毒物を含有しない燃料棒とを複数本束ねた沸騰水型燃料集合体において、
可燃性毒物を含有する燃料棒が、
燃料集合体の燃料有効長の上下端部を除くほぼ全長に亘って可燃性毒物を含有し、且つ、未燃焼時の可燃性毒物濃度が異なる少なくとも2つの可燃性毒物領域を含有する第1の毒物含有燃料棒と、
軸方向の下部側から有効長途中までの部分軸方向領域にのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、
第2の毒物含有燃料棒が可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むことを特徴とするものである。
【0021】
請求項2に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1に記載の少なくとも1本の第1の毒物含有燃料棒の軸方向下部側領域の可燃性毒物濃度が燃料集合体の最高濃度であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項3に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1又は2に記載の少なくとも1本の第2の毒物含有燃料棒の未燃焼時の可燃性毒物濃度が燃料集合体中の最低濃度であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項4に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜3の何れか1項に記載の第2の毒物含有燃料棒の本数割合が、下式で示されることを特徴とするものである。
FPL×FGd < α < 2×FPL×FGd
ここで、
FPL : 部分長燃料棒本数割合
FGd : 毒物含有燃料棒本数割合
α : 第2の毒物含有燃料棒本数割合
【0024】
請求項5に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜4の何れか1項に記載の第2の毒物含有燃料棒が部分長燃料棒を含むことを特徴とするものである。
【0025】
請求項6に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜5の何れか1項に記載の第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置が、
前記相対的に高位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/3〜2/3の位置、
前記相対的に低位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/4〜1/3の位置にあることを特徴とするものである。
【0026】
請求項7に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜6の何れか1項に記載の部分長燃料棒が集合体外周部に配置されていることを特徴とするものである。
【0027】
請求項8に記載された発明に係るBWR用燃料集合体は、請求項1〜7の何れか1項に記載の燃料棒が10行10列以上の格子状配列で束ねられ、且つ、燃料棒9本分の領域が角型ウォータチャンネルに置換されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、長期サイクル運転、出力向上運転、あるいは高燃焼度化を同時に達成するとともに、軸方向上部領域の冷温時反応度は十分下げることができ、尚且つ、冷温時の中性子束の上部ピークの程度が比較的小さいサイクル初期においても、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のBWR用燃料集合体の一実施例の構成を示す説明図である。
【図2】燃料集合体のサイクル初期及びサイクル末期における平衡炉心の冷温時の軸方向相対出力分布を示す線図であり、a図は図12に示す従来例、b図は図1に示す実施例である。
【図3】従来例と実施例とのサイクル初期の運転時軸方向出力分布を示す線図である。
【図4】従来例と実施例との軸方向出力ピーキング係数の燃焼変化を示す線図である。
【図5】従来例と実施例との原子炉停止余裕の燃焼変化を示す線図である。
【図6】従来例と実施例との熱的制限値のひとつである最大線出力密度の燃焼変化を示す線図である。
【図7】従来例と実施例における余剰反応度の燃焼変化を示す線図である。
【図8】第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル初期原子炉停止余裕の関係を示した図である。
【図9】第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル末期余剰反応度の関係を示した図である。
【図10】本発明のBWR用燃料集合体の別の実施例の構成を示す説明図である。
【図11】本発明のBWR用燃料集合体の更に別の実施例の構成を示す説明図である。
【図12】従来の燃料集合体の可燃性毒物配置例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明においては、BWR用燃料集合体において、
可燃性毒物を含有する燃料棒が、
燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘る軸方向領域に可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒と、
軸方向の下部側から前記燃料有効長の途中までの部分軸方向領域のみに可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、
第2の毒物含有燃料棒が、可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むため、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保することができる。
【0031】
本発明の第1の毒物含有燃料棒は、好ましくは相対的に未燃焼時の可燃性毒物濃度の異なる少なくとも2つの可燃性毒物含有領域を含み、更に好ましくは、少なくとも1本の第1の毒物含有燃料棒の軸方向下部側領域の可燃性毒物濃度が燃料集合体の最高濃度とする。このため、運転時の中性子束分布の下部ピークの程度が比較的大きいサイクル初期においても経済性を損なうことなく十分な熱的余裕を確保できる。
【0032】
また、第2の毒物含有燃料棒を適用しない場合でも、サイクル初期以外は十分な原子炉停止余裕が確保できている時には、経済性の観点から可燃性毒物濃度はできるだけ小さい方が望ましい。少なくとも1本の第2の毒物含有燃料棒の未燃焼時の可燃性毒物濃度は、好ましくは、燃料集合体中の最低濃度とすることが望ましい。
【0033】
ところで、原子炉の運転期間や出力向上割合及び目標とする取出平均燃焼度に応じて、可燃性毒物を含有する燃料棒の本数割合には最適な範囲があるが、燃料集合体中の一部の燃料棒に部分長燃料棒を採用した場合に、この部分長燃料棒の存在により、可燃性毒物本数割合が軸方向下部領域ではこの最適範囲から不足し、反対に軸方向上部領域では過剰となる。これについて、第2の毒物含有燃料棒本数割合を下式の数1の通りの範囲内とすることで、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕が確保できる。
【0034】
(数1)
FPL×FGd < α < 2×FPL×FGd
ここで、
FPL : 部分長燃料棒本数割合
FGd : 毒物含有燃料棒本数割合
α : 第2の毒物含有燃料棒本数割合
【0035】
なお、第2の毒物含有燃料棒本数割合が上式の範囲より少ない場合は、原子炉停止余裕の十分な確保に到らず、反対に上式の範囲より多い場合は、十分な原子炉停止余裕が確保できるものの、サイクル末期での可燃性毒物の燃え残りにより、目標とする取出平均燃焼度が達成できないこととなる。
【0036】
また、第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置は、冷温時軸方向出力分布の中央ピークを緩和する観点から、燃料集合体の有効長の1/3程度以上の位置で、できるだけ高い方が望ましく、運転時の軸方向出力分布の下部ピークを緩和する観点から、相対的に高位置にある第2の毒物含有燃料棒の上端位置は、燃料有効長の2/3程度以下でできるだけ低い方が望ましい。
【0037】
また、相対的に低位置にある第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置は、運転時の軸方向出力分布の下部ピークを緩和する観点から、燃料集合体の有効長の1/4程度以上の位置で、できるだけ高い方が好ましく、サイクル末期での可燃性毒物の燃え残りをできるだけ避ける観点から、相対的に低位置にある第2の毒物含有燃料棒の上端位置は、燃料有効長の1/3程度以下できるだけ低いほうが望ましい。
【0038】
したがって第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の好ましい上端位置は、相対的に高位置にある毒物含有燃料棒においては、燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/3〜2/3の位置、相対的に低位置にある毒物含有燃料棒においては、燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/4〜1/3の位置である。
【0039】
さらに、部分長燃料棒は、軸方向上部領域の冷温時反応度を抑制する観点から非沸騰領域に隣接させる配置が好ましく、集合体外周部及び/またはウォータチャンネル(ウォータロッド)周りに配置されているものである。なお、第2の毒物含有燃料棒本数割合が上式の範囲より少ない場合は、後述する図8に示す通り、原子炉停止余裕の十分な確保に到らず、反対に上式の範囲より多い場合は、十分な原子炉停止余裕が確保できるものの、後述する図9に示す通りサイクル末期での可燃性毒物の燃え残りにより、目標とする取出平均燃焼度が達成できないこととなる。
【実施例】
【0040】
1.実施例1
図1は本発明のBWR用燃料集合体の一実施例の構成を示す説明図である。図1に示す通り、本実施例1の燃料集合体10は、10×10の正方格子状に燃料棒11,12,13,14,15,G11,G12,G13,G14を束ねてチャンネルボックス内17内に配置して構成されている。チャンネルボックス17の中心軸から反制御18側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。尚、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブランケットが設けられており、燃料有効長としてはこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とした。
【0041】
燃料棒11,12,13,14,15,G11,G12,G13,G14は、可燃性毒物を含有しない燃料棒11,12,13,14,15と、可燃性毒物を含有する燃料棒G11,G12,G13,G14との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有しない燃料棒は、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒11と4.40wt%の燃料棒12と2.40wt%の燃料棒13との長尺燃料棒と、ウラン235濃縮度が4.90wt%と2.40wt%で有効長が長尺燃料棒の14/24である部分長燃料棒14,15に分けられる。
【0042】
可燃性毒物を含有する燃料棒は、燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘って、複数濃度の可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒G11,G12と、軸方向の下部側から有効長途中までにのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G13,G14との2種類に分けられる。第1の毒物含有燃料棒G11,G12はともに、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、G11のガドリニア濃度は8.0wt%と6.0wt%の2種類であり、G12のガドリニア濃度は9.0wt%と6.0wt%と5.0wt%の3種類である。なお、第1の毒物含有燃料棒G12の下部領域(9.0wt%)可燃性毒物濃度は燃料集合体中の最大濃度となっている。
【0043】
第2の毒物含有燃料棒G13,G14は、可燃性毒物を含有する領域の上端位置が相違する2種類の第2の毒物含有燃料棒G13と第2の毒物含有燃料棒G14とを備える。具体的には、第2の毒物含有燃料棒G13,G14はともにウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒である。高位置の第2の毒物含有燃料棒G13は、14/24ノードまでの部分長燃料棒であり、その部分長燃料棒のほぼ全領域でガドリニア濃度は2.0wt%である。低位置の第2の毒物含有燃料棒G14は、長尺燃料棒であり、8/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は2.0wt%である。なお、第2の毒物含有燃料棒G13,G14の可燃性毒物濃度は集合体中の最低濃度となっている。
【0044】
本実施例の燃料集合体10では、軸方向有効長の途中まで可燃性毒物を含有する部分長燃料棒の第2の毒物含有燃料棒G13を備えることにより、軸方向中央部の冷温時の反応度を低下できる。このため、サイクル初期における原子炉停止余裕が改善する。また、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物の含有領域の上端が可燃性毒物を含有しない他の部分長燃料棒14,15の有効長上端と等しくしている。
【0045】
更に上部が可燃性毒物を含まない通常の核燃料を装荷した第2の毒物含有燃料棒G14を備えることにより、サイクル初期における下部ピークを抑制し、最大線出力密度の改善を図ることができる。また、第1の毒物燃料棒G11,G12の可燃性毒物濃度を下部領域と上部領域とで相違させることにより、サイクル末期における可燃性毒物の燃え残りを改善し、目標とする取出平均燃焼度を達成することが可能となる。
【0046】
2.実施例1と従来例との比較
以下、図1の実施例と図12の従来例それぞれについて、例えばG12燃料棒の本数が異なる2種類の燃料から構成した平衡炉心について、運転期間19ヶ月の長期サイクル運転,取出平均燃焼度50GWd/t以上といった高燃焼度化を達成しようとした場合の炉心特性を比較して本発明の効果を説明する。
【0047】
図2は燃料集合体のサイクル初期及びサイクル末期における平衡炉心の冷温時の軸方向相対出力分布を示す線図であり、a図は図12に示す従来例、b図は図1に示す実施例である。a図に示す通り、サイクル初期には軸方向中央部が、サイクル末期では軸方向上部の冷温時の相対出力が高くなっている。
【0048】
これに対し、b図に示す通り、本実施例の燃料集合体では、部分長燃料棒の全領域にガドリニアを含有する第2の毒物含有燃料棒G13を備えることにより、軸方向中央部の冷温時の軸方向相対出力分布の出力ピークを図2に示す従来例より緩やかにすることが可能となる。
【0049】
図3は従来例と実施例とのサイクル初期の運転時の軸方向出力分布を示す線図である。従来例に対して実施例では下部ピークの程度を緩和することが可能である。図2に示す通り、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物含有領域の上端位置は、冷温時軸方向出力分布の中央ピークを緩和する観点から、燃料集合体の燃料有効長の1/3程度以上の位置でできるだけ高い方が望ましい。
【0050】
それに加えて、図3に示す通り、運転時の軸方向出力分布の下部ピークを緩和する観点から、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料有効長の2/3程度以下でできるだけ低いほうが望ましい。また、第2の毒物含有燃料棒G14の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料集合体の燃料有効長の1/4から1/3程度の範囲にあることが望ましい。
【0051】
これらの条件により、第2の毒物含有燃料棒G13の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料集合体の燃料有効長の1/3から2/3程度の範囲にあることが望ましく、第2の毒物含有燃料棒G14の可燃性毒物含有領域の上端位置は、燃料集合体の燃料有効長の1/4から1/3程度の範囲にあることが望ましい。
【0052】
図4は従来例と実施例との軸方向出力ピーキング係数の燃焼変化を示す線図である。図4に示す通り、実施例はサイクル初期より、軸方向出力ピーキング係数の変化が従来例に比べて緩やかであることが解る。
【0053】
図5は従来例と実施例との原子炉停止余裕の燃焼変化を示す線図である。図5に示す通り、従来例では制限値を満足するものの原子炉停止余裕はサイクル初期のみ十分な設計余裕が確保できていないので、実施例の第2の毒物含有燃料棒G13に含有する可燃性毒物濃度は集合体最低濃度とすることが経済性の観点から望ましい。第2の毒物含有燃料棒G13を備えることにより、軸方向中央部の冷温時出力ピークを従来例より緩やかにすることが可能であり、これが原子炉停止余裕の改善につながる。
【0054】
図6は熱的制限値のひとつである最大線出力密度の従来例と実施例との燃焼変化を示す線図である。図6に示す通り、特にサイクル初期の熱的余裕を改善できることが示された。これは上部が毒物を含まない通常のウラン燃料を装荷した第2の毒物含有燃料棒G14を備えることにより、特にサイクル初期の熱的余裕を改善できることが示唆された。
【0055】
図7は従来例と実施例における余剰反応度の燃焼変化を示す線図である。第2の毒物含有燃料棒G13及び第2の毒物含有燃料棒G14を備えることにより余剰反応度は低下しているが、サイクル末期ではほぼ同等となっており、著しく経済性を損なうことはない。
【0056】
図8は第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル初期原子炉停止余裕の関係を示した図である。図9は第2の毒物含有燃料棒本数割合とサイクル末期余剰反応度の関係を示した図である。これらの図には、前述の数1で示した式の下限値(FPL×FGd)及び上限値(2×FPL×FGd)が示されている。
【0057】
図8に示す通り、計算精度を考慮し通常設定する原子炉停止余裕の設計目標を1.5%dkとした場合、望ましい第2の毒物含有燃料棒本数割合は、下限値より大きい範囲となる。また、図9に示す通り、第2の毒物含有燃料棒の採用により低下するサイクル末期の余剰反応度を0.05%dk以内にとどめようとする場合、望ましい第2の毒物含有燃料棒本数割合は、上限値より小さい範囲となる。尚、本実施例1では、FPL=0.15、FGd=0.21、α=0.04であり、第2の毒物含有燃料棒本数割合αは、前述の数1で示した式の範囲内にある。
【0058】
以上の通り、本実施例の燃料集合体は、経済性や熱的余裕を損なうことなく、十分な原子炉停止余裕を確保できる。
【0059】
3.実施例2
図10は本発明のBWR用燃料集合体の別の実施例の構成を示す説明図である。図10に示す通り、本実施例2の燃料集合体20では、実施例1と同様に、10×10の正方格子状に燃料棒21,22,23,24,25,G21,G22,G23,G24を束ね、チャンネルボックス27内に配置して構成されている。チャンネルボックス27の中心軸から反制御28側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。なお、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブランケットが設けられており、燃料有効長にはこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とする。
【0060】
燃料棒21,22,23,24,25,G21,G22,G23,G24は、可燃性毒物を含有しない燃料棒21,22,23,24,25と、可燃性毒物を含有する燃料棒G21,G22,G23,G24との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有しない燃料棒は、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒21と4.40wt%の燃料棒22と2.40wt%の燃料棒23との長尺燃料棒と、ウラン235濃縮度が4.90wt%と2.40wt%で有効長が長尺燃料棒の14/24である部分長燃料棒24,25に分けられる。
【0061】
可燃性毒物を含有する燃料棒は、燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘って、複数濃度の可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒G21,G22と、軸方向の下部側から有効長途中までにのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G23,G24との2種類に分けられる。第1の毒物含有燃料棒G21,G22はともに、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、G21のガドリニア濃度は8.0wt%と5.0wt%の2種類であり、G22のガドリニア濃度は6.0wt%と5.0wt%の2種類である。なお、第1の毒物含有燃料棒G21の下部領域(8.0wt%)可燃性毒物濃度は燃料集合体中の最大濃度となっている。
【0062】
第2の毒物含有燃料棒G23,G24は、可燃性毒物を含有する領域の上端位置が相違する2種類の第2の毒物含有燃料棒G23と第2の毒物燃料棒G24とを備える。具体的には、第2の毒物含有燃料棒G23,G24はともにウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒である。高位置の第2の毒物含有燃料棒G23は、長尺燃料棒であり、16/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。低位置の第2の毒物含有燃料棒G24は、長尺燃料棒であり、8/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。なお、第2の毒物含有燃料棒G23,G24の可燃性毒物濃度は集合体中の最低濃度となっている。
【0063】
本実施例2の燃料集合体20では、軸方向有効長の途中まで可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G23及び第2の毒物含有燃料棒G24を備えることにより、軸方向中央領域の冷温時の反応度を低下でき、サイクル初期における停止余裕は改善する。また、第2の毒物含有燃料棒G24を備えることによりサイクル初期における下部ピークを抑制し、最大線出力密度の改善を図ることができる。尚、本実施例2では,FPL=0.15、FGd=0.19、α=0.04であり、第2の毒物含有燃料棒本数割合αは、前述の数1で示した式の範囲内にある。
【0064】
4.実施例3
図11は本発明のBWR用燃料集合体の別の実施例の構成を示す説明図である。図11に示す通り、本実施例の燃料集合体では、図10に示した燃料集合体の相対的に高位置にある第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物を含有する領域の高さが、可燃性毒物を含有しない部分長燃料棒4,5の燃料有効長と同一となった例であり、個々の燃料棒の配置も変わっていない。
【0065】
すなわち、本実施例3の燃料集合体30では、実施例2と同様に、10×10の正方格子状に燃料棒31,32,33,34,35,G31,G32,G33,G34を束ね、チャンネルボックス37内に配置して構成されている。チャンネルボックス37の中心軸から反制御38側に偏心させた位置に3×3の燃料棒分のウォータチャンネルWを備えている。なお、長尺燃料棒を24分割した上下端1ノードずつには、低濃縮度(0.71wt%)の天然ウランブランケットが設けられており、燃料有効長にはこれら最上部ノードと最下部ノードとを含んだ定義とする。
【0066】
燃料棒31,32,33,34,35,G31,G32,G33,G34は、可燃性毒物を含有しない燃料棒31,32,33,34,35と、可燃性毒物を含有する燃料棒G31,G32,G33,G34との2種類に分けられる。可燃性毒物を含有する燃料棒は、燃料集合体の燃料有効長のほぼ全長に亘って、複数濃度の可燃性毒物を含有する第1の毒物含有燃料棒G31,G32と、軸方向の下部側から有効長途中までにのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G33,G34との2種類に分けられる。第1の毒物含有燃料棒G21,G22はともに、ウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒であり、G21のガドリニア濃度は8.0wt%と5.0wt%の2種類であり、G22のガドリニア濃度は6.0wt%と5.0wt%の2種類である。なお、第1の毒物含有燃料棒G21の下部領域(8.0wt%)可燃性毒物濃度は燃料集合体中の最大濃度となっている。
【0067】
第2の毒物含有燃料棒G33,G34は、可燃性毒物を含有する領域の上端位置が相違する2種類の第2の毒物含有燃料棒G33と第2の毒物燃料棒G34とを備える。具体的には、第2の毒物含有燃料棒G33,G34はともにウラン235濃縮度が4.90wt%の燃料棒である。高位置の第2の毒物含有燃料棒G33は、長尺燃料棒であり、14/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。低位置の第2の毒物含有燃料棒G34は、長尺燃料棒であり、8/24ノードまでの領域でガドリニア濃度は5.0wt%である。なお、第2の毒物含有燃料棒G33,G34の可燃性毒物濃度は集合体中の最低濃度となっている。
【0068】
本実施例3の燃料集合体30でも、軸方向有効長の途中まで可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒G33及び第2の毒物含有燃料棒G34を備えることにより、軸方向中央領域の冷温時の反応度を低下でき、サイクル初期における停止余裕は改善する。また、第2の毒物含有燃料棒G33の可燃性毒物の含有領域の上端が、可燃性毒物を含有しない部分長燃料棒4,5の燃料有効長上端と等しくしているため、部分長燃料棒の存在する下部断面と部分長燃料棒の存在しない上部断面における、可燃性毒物燃料棒本数割合それぞれ、最適範囲内に容易に収めることが可能となる。
【0069】
さらに、第2の毒物含有燃料棒G34を備えることによりサイクル初期における下部ピークを抑制し、最大線出力密度の改善を図ることができる。尚、本実施例3では,FPL=0.15、FGd=0.19、α=0.04であり、第2の毒物含有燃料棒本数割合αは、前述の数1で示した式の範囲内にある。
【符号の説明】
【0070】
10 ,20 ,30 …燃料集合体、
11 ,21 ,31 …燃料棒(長尺燃料棒)、
12 ,22 ,32 …燃料棒(長尺燃料棒)、
13 ,23 ,33 …燃料棒(長尺燃料棒)、
14 ,24 ,34 …燃料棒(部分長燃料棒)、
15 ,25 ,35 …燃料棒(部分長燃料棒)、
G11,G21,G31…第1の毒物含有燃料棒、
G12,G22,G32…第1の毒物含有燃料棒、
G13,G23,G33…第2の毒物含有燃料棒、
G14,G24,G34…第2の毒物含有燃料棒、
17 ,27 ,37 …チャンネルボックス、
18 ,28 ,38 …制御棒、
W …ウォータチャンネル、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料有効長が燃料集合体の有効長と等しい全長燃料棒と、それより短い部分長燃料棒を有し、かつ、可燃性毒物を含有する燃料棒と可燃性毒物を含有しない燃料棒とを複数本束ねた沸騰水型燃料集合体において、
可燃性毒物を含有する燃料棒が、
燃料集合体の燃料有効長の上下端部を除くほぼ全長に亘って可燃性毒物を含有し、且つ、未燃焼時の可燃性毒物濃度が異なる少なくとも2つの可燃性毒物領域を含有する第1の毒物含有燃料棒と、
軸方向の下部側から有効長途中までの部分軸方向領域にのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、
第2の毒物含有燃料棒が可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むことを特徴とする沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項2】
少なくとも1本の第1の毒物含有燃料棒の軸方向下部側領域の可燃性毒物濃度が燃料集合体の最高濃度であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項3】
少なくとも1本の第2の毒物含有燃料棒の未燃焼時の可燃性毒物濃度が燃料集合体中の最低濃度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項4】
第2の毒物含有燃料棒の本数割合が、下式で示されることを特徴とする請求項1〜3何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
FPL×FGd < α < 2×FPL×FGd
ここで、
FPL : 部分長燃料棒本数割合
FGd : 毒物含有燃料棒本数割合
α : 第2の毒物含有燃料棒本数割合
【請求項5】
第2の毒物含有燃料棒が部分長燃料棒を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項6】
第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置が、
前記相対的に高位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/3〜2/3の位置、
前記相対的に低位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/4〜1/3の位置にあることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項7】
部分長燃料棒が集合体外周部に配置されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項8】
燃料棒が10行10列以上の格子状配列で束ねられ、且つ、燃料棒9本分の領域が角型ウォータチャンネルに置換されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項1】
燃料有効長が燃料集合体の有効長と等しい全長燃料棒と、それより短い部分長燃料棒を有し、かつ、可燃性毒物を含有する燃料棒と可燃性毒物を含有しない燃料棒とを複数本束ねた沸騰水型燃料集合体において、
可燃性毒物を含有する燃料棒が、
燃料集合体の燃料有効長の上下端部を除くほぼ全長に亘って可燃性毒物を含有し、且つ、未燃焼時の可燃性毒物濃度が異なる少なくとも2つの可燃性毒物領域を含有する第1の毒物含有燃料棒と、
軸方向の下部側から有効長途中までの部分軸方向領域にのみ可燃性毒物を含有する第2の毒物含有燃料棒とを含み、
第2の毒物含有燃料棒が可燃性毒物を含有する部分軸方向領域の上端位置が相対的に高位置と低位置とに異なる2種類の毒物含有燃料棒を含むことを特徴とする沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項2】
少なくとも1本の第1の毒物含有燃料棒の軸方向下部側領域の可燃性毒物濃度が燃料集合体の最高濃度であることを特徴とする請求項1に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項3】
少なくとも1本の第2の毒物含有燃料棒の未燃焼時の可燃性毒物濃度が燃料集合体中の最低濃度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項4】
第2の毒物含有燃料棒の本数割合が、下式で示されることを特徴とする請求項1〜3何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
FPL×FGd < α < 2×FPL×FGd
ここで、
FPL : 部分長燃料棒本数割合
FGd : 毒物含有燃料棒本数割合
α : 第2の毒物含有燃料棒本数割合
【請求項5】
第2の毒物含有燃料棒が部分長燃料棒を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項6】
第2の毒物含有燃料棒の可燃性毒物含有領域の上端位置が、
前記相対的に高位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/3〜2/3の位置、
前記相対的に低位置にある毒物含有燃料棒においては燃料集合体の燃料有効長の下部側からほぼ1/4〜1/3の位置にあることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項7】
部分長燃料棒が集合体外周部に配置されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【請求項8】
燃料棒が10行10列以上の格子状配列で束ねられ、且つ、燃料棒9本分の領域が角型ウォータチャンネルに置換されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の沸騰水型原子炉用燃料集合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−122937(P2012−122937A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275649(P2010−275649)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)
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