説明

油の炭化試験方法

【課題】200℃以下の温度であっても試料としての油からコーキングを生成させて、その炭化現象を検証できる油の炭化試験方法を提供する。
【解決手段】油の炭化試験方法であって、容器を回転させて油を膜状に拡げているので効率的に酸素と接触できる。さらに200℃以下の温度であっても試料としての油からコーキングを生成させて、その炭化現象を検証することができる。そのため、200℃以下の温度においてコーキングの生成を抑制できる油を、効率よく開発・設計できるという効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油の炭化試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関から導かれる排気ガスの運動エネルギーを利用して、内燃機関に圧縮した空気を供給し、内燃機関の性能を向上させる過給機が使用されている。過給器内には、回転翼等を円滑に回転させるための潤滑油が供給されている。過給機のタービン部には内燃機関からの排気ガスが導入される。しかし、エンジンの動作が止まった際、潤滑油の循環も止まるため、冷却効果が無くなり、運転時よりも過給機の温度が上昇する(ヒートソーク)。ヒートソーク時、タービン部の近傍に設けられ且つ潤滑油が流動する流路の温度は、200℃〜300℃に上昇することがある。流路の温度が上昇することで、流路内の潤滑油が炭化・変質し、炭化物(いわゆるコーキング)となる現象が見られた。また、過給機のコンプレッサ部では、外部から導入された空気が圧縮されるため、その内部温度は上昇する。コンプレッサ部の内部温度は、タービン部近傍に設けられた潤滑油用流路に比べて低く、200℃以下である。しかし、コンプレッサ部の内部においても、供給された潤滑油が炭化・変質し、炭化物となる現象が見られた。
【0003】
コーキングが生成されると過給機の効率が低下する等の不具合が生じるため、コーキングが生成されにくい潤滑油が求められている。そこで、潤滑油の炭化現象を検証するために、非特許文献1に開示されたパネルコーキング試験方法等が用いられている。このパネルコーキング試験方法は、加熱されたパネルに試料油としての潤滑油を連続で撥ね掛けさせ、パネル表面にコーキングを生成させるものである。パネルコーキング試験方法を用いることで潤滑油の炭化現象を検証でき、コーキングの生成を抑制できる潤滑油の開発・設計を行うことができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−23736号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】パネルコーキングテストによる潤滑油の評価(潤滑 7巻 4号 P172−178 (1962))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術には、以下のような課題が存在する。
上述した従来技術は、パネル温度を250℃以上にした状態での潤滑油・コーキングの評価方法であり、200℃以下のパネル温度ではパネル表面にコーキングを生成させることが困難であった。そのため、内部温度が200℃以下のコンプレッサ部における潤滑油の炭化・変質現象を検証することができず、コンプレッサ部でのコーキングの生成を抑制できる潤滑油を効率よく開発・設計することが難しいという課題があった。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、200℃以下の温度であっても試料としての油からコーキングを生成させて、その炭化現象を検証できる油の炭化試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、油の炭化試験方法であって、上記油を膜状に拡げ、上記油に酸素を接触させつつ、上記油を加熱する、という方法を採用する。
本発明では、膜状に拡げられた上記油に酸素を接触させつつ加熱することで、上記油が炭化・変質し、コーキングが生成される。
【0009】
また、本発明は、上記油を所定の容器内に貯溜し、該容器を回転させて上記油を膜状に拡げる、という方法を採用する。
【0010】
また、本発明は、上記油を160℃以上200℃以下の温度で加熱する、という方法を採用する。
【0011】
また、本発明は、上記油を所定の容器内に貯溜し、該容器内に酸素を含む気体を0.2MPa以上の充填圧力で充填する、という方法を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、油を膜状に拡げているので効率的に酸素と接触できる。また、本発明によれば、容器を回転させているので、より油を膜状に拡げられ、さらに200℃以下の温度であっても試料としての油からコーキングを生成させて、その炭化現象を検証することができる。そのため、200℃以下の温度においてコーキングの生成を抑制できる油を、効率よく開発・設計できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】低温炭化試験装置1の全体構成を示す概略図である。
【図2】密閉容器3の構成を示す概略図である。
【図3】コンプレッサ部に生じたコーキングの元素分析結果を示す概略図である。
【図4】パネルコーキング試験により生じたコーキングの元素分析結果を示す概略図である。
【図5】油の低温炭化試験を用いて生成されたコーキングの元素分析結果を示す概略図である。
【図6】熱重量分析法を用いて各コーキングの状態を分析した結果を示す概略図である。
【図7】パネルコーキング試験における、パネル温度とコーキング量との関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図1から図7を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態における低温炭化試験装置1の構成を、図1を参照して説明する。
図1は、低温炭化試験装置1の全体構成を示す概略図である。なお、図1における紙面上下方向は鉛直方向である。
低温炭化試験装置1は、試料としての油(試料油X、図2参照)を所定の時間加熱し、試料油Xを炭化・変質させることでコーキングを生成させ、その炭化現象を検証するためのものである。低温炭化試験装置1は、恒温槽2と、密閉容器3と、圧力計4と、回転駆動部5と、温度調節部6とを有している。
【0016】
恒温槽2は、密閉容器3を所定の温度に維持する槽であって、槽の内部には温度調節部6によって所定の温度に維持される熱媒油Lが貯溜されている。熱媒油Lは、温度調節部6からの熱を媒介して密閉容器3を加熱するための油である。
【0017】
密閉容器3は、気密に構成された容器であって、その内部の貯溜空間S(図2参照)に炭化現象の検証対象である試料油Xが貯留される容器である。密閉容器3は、有蓋及び有底の略円筒状に形成されており、その中心軸方向が鉛直方向に対して傾いた姿勢で、恒温槽2に貯留された熱媒油L内に配置されている。また、密閉容器3は、熱媒油L内にその中心軸周りで回転自在に設けられている。密閉容器3の内部構成は後述する。
【0018】
圧力計4は、密閉容器3内の気体の圧力を測定し、その測定値を表示するためのものである。圧力計4は、恒温槽2の外部に設けられている。圧力計4と密閉容器3とは、筒部材である導管41によって互いに連結されている。すなわち、圧力計4は、導管41を介して密閉容器3の貯溜空間Sと連通しており、貯溜空間S内の気体の圧力を測定できる構成となっている。導管41は、恒温槽2に設置される導管軸受21によって、回転自在に支持されている。
【0019】
導管41には、気体導入口42が設けられている。気体導入口42は、導管41を介して密閉容器3内に気体を導入するための導入口である。気体導入口42には、酸素を含む所定の気体が充填されたガスボンベ43が接続される。なお、本実施形態におけるガスボンベ43には酸素のみが充填されている。また、気体導入口42には、不図示の調整弁が設けられており、ガスボンベ43を接続し圧力計4の表示を確認しつつ調整弁を操作することで、密閉容器3内の気体の圧力を所定の値に設定することができる。
【0020】
回転駆動部5は、密閉容器3をその中心軸周りで回転させる駆動部である。回転駆動部5は、モータ51と、容器ホルダ52とを有している。
【0021】
モータ51は、密閉容器3を所定の回転速度で回転させる電動機である。モータ51は、恒温槽2の外部に設置されている。モータ51には、不図示の回転制御部が接続されている。
【0022】
容器ホルダ52は、恒温槽2の内側に回転自在に設けられ、密閉部材3を保持する部材である。容器ホルダ52は、恒温槽2に設置されるホルダ軸受22によって、回転自在に支持されている。容器ホルダ52は駆動ベルト53等を介して、恒温槽2の外部に設置されるモータ51と接続されている。よって、密閉容器3は、容器ホルダ52及び駆動ベルト53等を介してモータ51と接続され、モータ51の駆動によって回転できる構成となっている。
【0023】
温度調節部6は、熱媒油Lを加熱し所定の温度に維持するものである。温度調節部6は、ヒータ61と、温度測定器62と、温度制御部63とを有している。
【0024】
ヒータ61は、恒温槽2の内部に設置され、熱媒油Lを加熱するものである。温度測定器62は、恒温槽2の内部に設置され、熱媒油Lの温度を測定するものである。温度制御部63は、熱媒油Lを所定の温度に維持するための制御部である。温度制御部63はヒータ61及び温度測定器62と電気的に接続されており、温度測定器62が測定した熱媒油Lの温度の測定値を取得して、ヒータ61の発熱量を制御するように構成されている。また、温度制御部63はタイマー機能を備えており、所定の時間で熱媒油Lを加熱することができる。
【0025】
次に、密閉容器3の構成を、図2を参照して詳細に説明する。
図2は、密閉容器3の構成を示す概略図であって、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A線視断面図である。なお、図2(a)における紙面上下方向は鉛直方向である。
密閉容器3は、密閉容器本体31と、蓋部32と、試料容器(容器)33とを有している。
【0026】
密閉容器本体31は、有底の略円筒状に成形された部材である。蓋部32は、密閉容器本体31の開口部を密閉するための部材である。密閉容器本体31及び蓋部32は、金属材料等を用いて成形され、貯溜空間Sに充填される気体の充填圧力に耐えうる剛性を備えている。蓋部32には、密閉容器3の中心軸方向で貫通する貫通孔32aが形成され、貫通孔32aには導管41が一体的に接続されている。
【0027】
密閉容器本体31と蓋部32との接続部には雄ネジ部及び雌ネジ部がそれぞれ形成され、密閉容器本体31と蓋部32とは一体的に螺合している。また、密閉容器本体31と蓋部32との接続部には、密閉容器3に必要とされる気密性を確保するための、略円環状のシール部34が設けられている。
【0028】
試料容器33は、密閉容器本体31の内部に設けられ、試料油Xを貯留するための容器である。試料容器33は、ガラス等を用いて成形され、有底の略円筒状に成形された部材である。試料容器33の外形は、密閉容器本体31の内面に隙間なく接触して挿入される大きさとなっている。試料容器33の内部には、試料油Xを貯留するための貯溜空間Sが形成される。
【0029】
試料容器33の内部には、200℃以下の温度で加熱したときの炭化現象の検証対象である試料油Xが貯留されている。密閉容器3が鉛直方向に対して傾いて設けられているため、試料油Xは、試料容器33における内周面33a及び底面33bに接して貯留される。試料油Xとしては、例えば過給機のコンプレッサ部に混入する潤滑油が挙げられる。試料油Xには、基油のみ、又は基油に添加剤を添加したものが用いられる。
【0030】
基油としては、石油を精製して得られる鉱物油、石油や天然ガスを化学的に分解し再合成して得られるポリアルファオレフィンやエステル等の化学合成油、及びそれらを混合して得られる部分合成油等が用いられる。また、ひまし油等の植物油を用いてもよい。
【0031】
添加剤は、基油の諸性能を調整するために添加されるものである。添加剤としては、基油の潤滑性能を向上させる摩擦調整剤や粘度指数向上剤、基油の酸化劣化を防ぐための酸化防止剤、油流路内を清浄に保つための清浄分散剤、低温時の基油の凝固を防止するための流動点降下剤等が用いられ、一般的にはこれらの複数種類の添加剤が同時に添加されている。
【0032】
続いて、本実施形態に係る、油の炭化試験方法を、図1及び図2を参照して説明する。
まず、試料容器33内に、炭化現象の検証対象である試料油Xを所定の量で貯留する。試料容器33を、密閉容器本体31内に挿入した後、密閉容器本体31と蓋部32を互いに螺合して接続する。試料油Xは、密閉された空間である貯溜空間S内に貯留される。
【0033】
次に、密閉容器3を、恒温槽2内に貯留された熱媒油L内に浸入させ、容器ホルダ52に取り付けて保持する。また、導管41を、導管軸受21に取り付けて回転自在に保持する。気体導入口42にガスボンベ43を接続し、圧力計4の表示を確認しつつ気体導入口42の調整弁を操作して、密閉容器3内の気体の圧力を所定の値に設定する。この圧力は、例えば過給機におけるコンプレッサ部内の圧力である0.2MPa以上に設定される。本実施形態のガスボンベ43には酸素のみが充填されているので、試料容器33の貯溜空間S内には酸素が充填される。なお、これに限定されるものではなく、試料油Xの炭化速度を調整するため、酸素と不活性ガス(窒素、アルゴン等)を混合したガスを充填してもよい。
【0034】
次に、温度調節部6の作動によって、恒温槽2内に貯留された熱媒油Lを所定の温度に加熱して維持する。温度制御部63は、温度測定器62の測定結果を取得し、熱媒油Lを設定された所定の温度に維持するように、ヒータ61の発熱を調整する。熱媒油Lの温度としては、例えば160℃以上200℃以下の温度が設定される。密閉容器3は、熱媒油L内に設けられているため、熱媒油Lによって加熱される。さらに、密閉容器3内に貯留されている試料油Xも、熱媒油Lの熱が密閉容器本体31及び試料容器33を介して伝わることで加熱される。結果として、試料油Xは、熱媒油Lの温度に維持される。
【0035】
次に、回転駆動部5の作動によって、密閉容器3を回転させる。モータ51は回転制御部の制御により、所定の回転速度(例えば、100rpm)で密閉容器3を回転させる。密閉容器3とともに試料容器33が回転すると、試料油Xは試料容器33の内周面33a及び底面33bで、周方向に向かって膜状に拡がる。
【0036】
ここで、試料容器33内の貯溜空間S内には所定の充填圧力で酸素が充填されており、試料油Xには酸素が接触する。膜状に拡げられ且つ加熱された試料油Xに酸素が接触することで、試料油Xは炭化・変質してコーキングが生成される。試料油Xを膜状に拡げることで、試料油Xに酸素を効率よく接触させることができ、従来のコーキング試験装置ではコーキングが生成されなかった200℃以下の温度でも、実機で発生しているものと同様なコーキングを生成することができる。また、試料油Xは密閉容器3内に貯留され、密閉容器3の外部との間で試料油Xの循環等も無いため、所定の量の試料油Xに対して繰り返し酸素を接触させることができ、試料油Xの炭化・変質を促進させることができる。さらに、酸素の充填圧力を上昇させることで、試料油Xの炭化・変質を促進させることができる。
【0037】
最後に、生成されたコーキングの量や成分等を検証し、試料油Xの炭化・変質に対する性質を検証する。
以上で、試料油Xの炭化試験方法が完了する。
【0038】
次に、本実施形態に係る、油の炭化試験方法を用いて、複数種類の油からコーキングを生成させた結果を、表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
まず、油の炭化試験の条件を説明する。使用した油は、実施の車両で使用した後に回収した回収オイルA及び回収オイルB、並びに新品のC社製オイル及びD社製オイルの4種類である。各油の貯溜量は、各油ごとに準備された試料容器33内にそれぞれ1.0gずつである。密閉容器3の貯溜空間S内には、酸素のみを0.6MPaの充填圧力で充填する。密閉容器3の回転数は、100rpmである。加熱時間は24時間とする。また、各油に対する加熱温度を、140℃、160℃又は180℃とする。すなわち、計12回の炭化試験を実施した。
【0041】
表1に示すように、140℃では、いずれの油においてもコーキングは生成されなかった。160℃では、回収オイルA及び回収オイルBで、流動性を有するコーキングが生成された。一方、160℃のC社製オイル及びD社製オイルでは、コーキングは生成されなかった。180℃では、いずれの油においてもコーキングが生成された。したがって、本実施形態に係る、油の炭化試験方法を用いた場合には、従来のコーキング試験装置ではコーキングが生成されなかった200℃以下の温度でも、少なくとも160℃以上であればコーキングを生成させることができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る、油の炭化試験方法を用いて生成させたコーキングに含まれる元素及びコーキングの状態を、過給機のコンプレッサ部で生じたコーキングと比較した結果を、図3から図6を参照して説明する。コンプレッサ部から得られたコーキングは、そのスクロール面及び圧縮空気の吐出口の2箇所において生じたものである。なお、従来のパネルコーキング試験によって生成されたコーキングとも比較している。
【0043】
図3は、コンプレッサ部に生じたコーキングの元素分析結果を示す概略図であって、(a)はスクロール面に付着したコーキングの元素分析結果を示し、(b)は吐出口に付着したコーキングの元素分析結果を示している。図4は、従来のパネルコーキング試験により生じたコーキングの元素分析結果を示す概略図である。図5は、油の低温炭化試験を用いて生成されたコーキングの元素分析結果を示す概略図であって、(a)は回収オイルAから生じたコーキングの元素分析結果を示し、(b)は回収オイルBから生じたコーキングの元素分析結果を示している。図6は、熱重量分析法(Thermo Gravimetric Analysis、いわゆるTG分析法)を用いて各コーキングの状態を分析した結果を示す概略図である。なお、図3から図6までの、各コーキングに含まれる元素の割合、及び各コーキングに含まれ所定の状態にある物質の割合は、いずれも重量パーセントで表している。
【0044】
図3から図5に示す元素分析では、CHNO分析及び蛍光X線分析を用いて各コーキングに含まれる元素を分析する。CHNO分析は、ヘリウムの熱伝導性が不純物の混入により低下すること利用した、炭素、水素及び窒素を分析するCHN分析に加えて、酸素の分析をも行うものである。CHNO分析では、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び酸素(O)を分析し、蛍光X線分析では、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、硫黄(S)及びリン(P)を分析する。CHNO分析及び蛍光X線分析によって分析不可能な元素は、その他とする。図3から図5において、紙面左側にはCHNO分析による分析結果を、紙面右側には蛍光X線分析による分析結果を示す。なお、従来のパネルコーキング試験では、新品のC社製オイルからコーキングを生成させている。
【0045】
図6には、各コーキングに含まれ所定の状態にある物質の割合を重量パーセントで示している。物質の状態としては、カーボン、スラッジ、オイル、低分子、及びその他としている。カーボンはそのほとんどが炭素からなる固形物であり、スラッジは高分子の物質である。なお、図6には、図3から図5を参照して説明した各コーキングの他に、新品のC社製オイルから本実施形態に係る炭化試験方法を用いて生成させたコーキング(紙面右側から3番目のグラフ)、及び回収オイルAから従来のパネルコーキング試験方法を用いて生成させたコーキング(紙面の最も右側のグラフ)の状態を分析した結果も合わせて記載している。
【0046】
図3から図6に示す分析結果を検証する。本実施形態に係る、油の低温炭化試験方法を用いて回収オイルA、回収オイルB、及びC社製オイルから生じたコーキングを、従来のパネルコーキング試験により生じたコーキング(C社製オイル及び回収オイルAから生じたもの)と比較すると、コーキングに含まれる元素の割合、及び各コーキングに含まれ所定の状態にある物質の割合のいずれもが大きく異なっている。
【0047】
一方、回収オイルA、回収オイルB、及びC社製オイルから生じたコーキングを、スクロール面及び吐出口にて生じたコーキングと比較すると、コーキングに含まれる元素の割合、及び各コーキングに含まれ所定の状態にある物質の割合のいずれもが類似するものとなっている。特に、高分子物質からなるスラッジ分の割合が多く含まれている点が類似している。したがって、本実施形態に係る、油の低温炭化試験方法を用いることで、内部温度が200℃以下のコンプレッサ部における潤滑油の炭化現象を検証することができる。結果として、コンプレッサ部でのコーキングの生成を抑制できる潤滑油を効率よく開発・設計することが可能となる。
【0048】
最後に、従来のパネルコーキング試験を用いてコーキングを生成するときの、パネル温度とコーキング量との関係を、図7を参照して説明する。
図7は、従来のパネルコーキング試験における、パネル温度とコーキング量との関係を示す概略図である。図7において、横軸はパネル温度(℃)を示し、縦軸は生成されたコーキング量(mg)を示している。
【0049】
図7に示すパネルコーキング試験では、新品のオイル(新オイル)と車両から回収した回収オイルを使用している。回収オイルでは、220℃辺りから生成されるコーキング量が増加し始め、新オイルでは、250℃辺りから生成されるコーキング量が増加し始めている。すなわち、従来のパネルコーキング試験では、パネル温度を200℃以下に設定したときには、コーキングを生成することは困難であることがわかる。
【0050】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、200℃以下の温度であっても試料油Xからコーキングを生成させて、その炭化現象を検証することができる。そのため、200℃以下の温度においてコーキングの生成を抑制できる油を、効率よく開発・設計できるという効果がある。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0052】
例えば、本実施形態では、試料油Xは密閉された密閉容器3内に貯留されているが、これに限定されるものではなく、膜状に拡げられた試料油Xに酸素が接触できる構成であれば、密閉された容器内に貯留されなくともよい。
【0053】
また、本実施形態では、試料油Xが貯留された密閉容器3を回転させて、試料油Xを膜状に拡げているが、これに限定されるものではなく、例えば試料油Xを滴下した平板をその板面に平行に往復移動又は回転させて試料油Xを膜状に拡げてもよい。
【0054】
なお、本実施形態における、試料油Xの貯溜量、貯溜空間S内の酸素の充填圧力、及び加熱時間は適宜変更してよい。
【符号の説明】
【0055】
33…試料容器(容器)、X…試料油(油)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油の炭化試験方法であって、
前記油を膜状に拡げ、前記油に酸素を接触させつつ、前記油を加熱することを特徴とする油の炭化試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の油の炭化試験方法において、
前記油を所定の容器内に貯溜し、前記容器を回転させて前記油を膜状に拡げることを特徴とする油の炭化試験方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油の炭化試験方法において、
前記油を160℃以上200℃以下の温度で加熱することを特徴とする油の炭化試験方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の油の炭化試験方法において、
前記油を所定の容器内に貯溜し、前記容器内に酸素を含む気体を0.2MPa以上の充填圧力で充填することを特徴とする油の炭化試験方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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