説明

油分吸着粒子、油分吸着粒子の製造方法、及び水処理方法

【課題】工場排水や家庭排水に含まれる油分、または河川や海洋などに流出した油分などの汚染物質を効率よく吸着し、水を汚染することがなく、かつ優れた作業性で水処理することを可能にする水処理材及びその製造方法、並びに前記水処理材を用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】担体と、前記担体の表面に被着したシェラック樹脂とを具える油分吸着材を準備し、この油分吸着材を水中に分散させ、前記水中の油分を吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水や家庭排水などに含まれる汚染物質、あるいは河川や海洋などに流出した油分などを選択的に吸着することができる油分吸着性粒子及びその製造方法、並びにそれを用いて排水などから汚染物質を除去する水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場、飲食店、一般住宅などから排出される排水には汚染物質、特に鉱物油や植物油から成る油分が含まれることが多く、河川や海洋への流出によって環境保護の観点から大きな問題となっていた。一般的には、河川や海洋などに大量に流出した油分の除去は、オイルフェンスを用いて油分の拡散を防止し、オイルフェンス内の油分を回収することにより行われる。さらには、油ゲル化剤などにより油分を吸着、固形化し、回収する方法などもおこなわれている。
【0003】
しかしながら、河川の流速が早い場合や海洋が荒れている場合は油分の吸着固定化が難しい。このような場合には、固定できなかった油分が海岸などに漂着し、海鳥や海産資源へ大きな影響を与える。特に、周辺に生息する生物への影響は非常に大きく、生態系の影響は計り知れないものがあった。
【0004】
一方、微量な油分が水中に拡散された排水から油分を除去する排水処理設備では、フィルターにより濾過することにより油分除去を行うことが一般的である。しかしながら、このような方法では、排水に含まれる油分によりフィルターの目詰まりが頻繁に発生し、フィルター交換などの排水処理装置のメンテナンスにかかる時間と費用が多いという問題があった。
【0005】
また、排水中に油分が多量に混入した場合には、油分が分離して排水の上層に存在することがある。このような場合にはそのまま濾過するとフィルターが直ちに目詰まりを起こすため、親油性ポリマーなどから成る有機系油分吸着剤や、シリカ、パーライト等の無機吸着剤を散布し、その後に濾過するなどの煩雑な処理が必要であった。また、有機吸着剤は散布した後に回収が難しいことが、あり、そのことにより無機吸着剤は、十分な吸着能が得られず、吸着した油分を処理することが問題となっていた。
【0006】
このような吸着剤に起因する問題点を解決するために、種々の試みがなされている。水中の油を吸着させる方法としては、親水性ブロックと親油性ブロックとを有する吸着ポリマーを用いて油を吸着させ、その後その吸着ポリマーを水から除去する方法が挙げられる。このようなポリマーは例えば特許文献1などに開示されている。しかし、この方法では吸着ポリマーと水の分離に労力がかかるだけでなく、油が吸着したポリマーが軟化、凝集して作業性が悪いという問題もある。
【0007】
また、磁性化された吸着性粒子を用いて、油類を吸着した後の吸着性粒子を磁気を用いて分離する方法も知られている。例えば特許文献2には、磁性体表面をステアリン酸で修飾し、その磁性体に水中の油を吸着させ、回収する方法が開示されている。しかし、この方法では磁性体の表面修飾に低分子化合物であるステアリン酸やシランカップリング剤を使用するため、それらの低分子化合物が逆に水を汚染してしまう可能性が高いという問題がある。
【0008】
さらに油分吸着石油系ポリマーを用いた磁性を有した機能粉の場合には、粒子が微細な場合、磁石による回収ができずに河川への流出の可能性が大きく、石油系ポリマーは分解されずに長期に渡り河川を汚染し、油分吸着機能粉は生態系への影響が大きいものであった。さらに、ポリマーを用いて機能粉を製造する際に有機溶媒を用いることにより、微量な有機溶媒を含んだポリマーが流出する可能性があった。
【特許文献1】特開平07−102238号公報
【特許文献2】特開2000−176306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みて、工場排水や家庭排水に含まれる油分、または河川や海洋などに流出した油分などの汚染物質を効率よく吸着し、水を汚染することがなく、かつ優れた作業性で水処理することを可能にする水処理材及びその製造方法、並びに前記水処理材を用いた水処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様は、担体と、前記担体の表面に被着したシェラック樹脂と、を具えることを特徴とする、油分吸着材に関する。
【0011】
また、本発明の一態様は、シェラック樹脂と溶媒とを混合し、前記シェラック樹脂を含む溶液を調整する工程と、前記溶液を担体の表面に接触させて、前記シェラック樹脂を前記担体の前記表面に被着させる工程と、前記シェラック樹脂及び前記担体に対して加熱処理を施し、前記シェラック樹脂を前記担体の前記表面上に固定させる工程と、を具えることを特徴とする、油分吸着材の製造方法に関する。
【0012】
さらに、本発明の一態様は、上記油分吸着材を水中に分散させ、前記水中の油分を吸着させるステップを具えることを特徴とする、水処理方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工場排水や家庭排水に含まれる油分、または河川や海洋などに流出した油分などの汚染物質を効率よく吸着し、水を汚染することがなく、かつ優れた作業性で水処理することを可能にする水処理材及びその製造方法、並びに前記水処理材を用いた水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
(油分吸着材)
最初に、油分吸着材について説明する。この油分吸着材は、担体の表面にシェラック樹脂が被着して構成される。
【0016】
<シェラック樹脂>
シェラック樹脂は、セラックとも呼ばれ、インドやタイ、ビルマ、インドシナ等を主要な原産国として桑科(アコウ、インド菩提樹等)、豆科(ビルマネム、アメリカネム、カッチ、オバマメノキ、キマメ、アラビアゴムモドキ等)の植物の枝に寄生するラックカイガラ虫が分泌する樹脂状物質で、枝が分泌物で覆われ、固化した状態のスチックラックを原料としているものである。
【0017】
前記樹脂状物質は比重差分離法を用いて分離し、得ることができる。例えば、前記樹脂状物を枝ごと切り取って水に浸漬させると、樹脂分は沈降し、枝および不純物は浮くようになるので、沈降した樹脂分をそのまま前記シェラック樹脂として使用することができる。 なお、このようにして得たシェラック樹脂は一般にシードラックと呼ばれる。
【0018】
また、前記シードラックを精製して漂白した後に前記シェラック樹脂とすることもできる。この場合、前記シェラック樹脂は、樹脂酸エステルを主成分とし、白シェラックと呼ばれる。さらに、上述のようにして得た白シェラック等を脱ろうした後のものを前記シェラック樹脂とすることもできる。
【0019】
シェラック樹脂の性状は淡黄色から暗褐色で推定構造はアリュリチン酸、シェロール酸及びその誘導体および各種有機酸からなっているもので、自然界では外気温の熱履歴を受けることにより架橋反応が進行し、不溶、不融状態になり硬化が完了してしまう。したがって、自然界で生成されたシェラック樹脂を使用するに際しては、加熱により溶融し、流動性を示す状態とする。
【0020】
なお、上記シェラック樹脂は自然界に存在するものの他、市販品として提供されており、例えば、日本シェラック工業株式会社より、レモンNo.1、NSC(脱ロウ品)、NST−2(含ロウ品),乾燥透明白ラック(脱ロウ/漂白品)、乾燥乳状白ラック(脱ロウ/漂白品)等の商品名で販売されている。また、(株)岐阜セラック製造所より、GSA、GS、GSN、脱色セラック(PEAL−N811)、乳状白ラックS−GB、乳状白ラックS−GBD、透明白ラックGBN、透明白ラックGBND等の商品名で販売されている。
【0021】
上記シェラック樹脂は、以下に示すような方法で目的とする油分吸着材を製造する観点から、微粉化処理して使用することができる。また、硬化反応性、機械特性の点からは脱ロウ品が好ましく、ロウ含有品は機械特性の低下を招く恐れがある。また、着色の点からは色素を完全に除去した漂白品が特に好ましい。
【0022】
なお、特に理由は明確でないが、上述したシェラック樹脂は高い親油性を示し、以下に説明する水処理方法において、水中に含まれる油分を高い割合で吸着することができる。
【0023】
また、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含むことが好ましい。理由は定かではないが、前記シェラック樹脂がヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含むことによって、親油性がより増大し、油分に対する吸着度合いがより向上する。
【0024】
<担体>
次に、油分吸着材を構成する担体について説明する。前記担体は前記油分吸着材のコアをなすものであって、水中に短時間浸漬しても大きな化学変化を起こさないものから適宜選択する。したがって、かかる要件を満足するものであれば、前記担体の種類は問わないが、例えば、無機粒子、金属粒子等から構成することができる。
【0025】
前記無機粒子及び前記金属粒子としては、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、雲母等のセラミック粒子、アルミニウム、鉄、銅、及びこれらの合金等、又は及びこれらの酸化物である磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、等を用いることができる。
【0026】
特に、以下に説明するように、上記油分吸着材を回収する際に有利であることから、前記無機粒子及び前記金属粒子は、磁性体を含むことが好ましい。
【0027】
磁性体は特に限定されるものではないが、室温領域において強磁性を示す物質であることが望ましい。しかしながら、本実施形態に当ってはこれらに限定されるものではなく、強磁性物質を全般的に用いることができ、例えば鉄、および鉄を含む合金、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、などが挙げられる。
【0028】
これらのうち水中での安定性に優れたフェライト系化合物であればより効果的に本発明を達成することができる。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0029】
また、本実施形態では、上記無機粒子及び金属粒子自体を磁性体とすることができる。この場合、前記磁性体は磁性粉として構成されるが、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。また、望ましい磁性粉としての粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すれば良く、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。ここで、球状とは、完全な球である必要はなく、外観的に球形を呈していればよく、楕円球状や一部に凹凸が形成されていたり、非連続な曲部が形成されていたりする場合をも含むものである。
【0030】
鋭角な角を持つ粒子であると、後の噴霧処理を経て表面を被覆するポリマー層を傷つけ、樹脂複合体、すなわち目的とする油分吸着材の形状を維持しにくくなってしまうことがあるためである。これらの磁性粉は、必要であればCuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理が施しされていてもよい。また、その表面が腐食防止などの目的で表面処理されていてもよい。
【0031】
また、上記磁性体は、上述のように直接磁性粉として構成される代わりに、前記磁性粉が樹脂等のバインダーで結合されたものであってもよい。また、前記磁性粉に対して、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシシランなどのアルコキシシラン化合物で表面処理がなされ、疎水化処理されていてもよい。すなわち、前記磁性体を磁力によって回収する際に、前記磁力が及ぶだけの磁性を有すれば特に限定されるものでない。
【0032】
また、上記無機粒子等として、平均粒子径が40nm以下の微細シリカも好ましく用いることができる。このようなシリカは油分の吸着能力が高いため、最終的に得た油分吸着材は、上述したシェラック樹脂のみではなく、前記シリカによっても油分吸着能を呈するようになるため、前記油分吸着材全体の油分吸着能を増大させることができる。
【0033】
前記シリカの具体例としては、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル200V、アエロジル200CF、アエロジル200FAD、アエロジル300、アエロジル300CF、アエロジル380、アエロジルR972、アエロジルR972V、アエロジルR972CF、アエロジルR974、アエロジルR202、アエロジルR805、アエロジルR812、アエロジルR812S、アエロジルOX50、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170、アエロジルCOK84、アエロジルRX200、アエロジルRY200(以上、すべて商品名:日本アエロジル株式会社製)などがあり、特に油分吸着能力に優れた親油性シリカがこのましい。
【0034】
上記担体の大きさは、処理設備の磁力、流速、吸着方法のほか、前記担体の密度、種々の条件によって変化する。しかしながら、本態様における前記担体の大きさは、一般に0.05〜100μmである。前記担体の大きさの測定は、例えばレーザー回折法により測定することができる。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。
【0035】
前記担体の大きさが100μmよりも大きいと、水中での沈降が激しくなり、水への分散が悪くなる傾向があり、また得られる油分吸着材の実効的な表面積が減少して、油類などの吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また前記担体の大きさが0.05μmより小さくなると、1次粒子が緻密に凝集し、処理液の上層に浮遊する状態となり、分散性が低下する傾向があるので好ましくない。また、担体の粒径が小さい場合には排水の流速により回収が完全にできない問題が生ずる。
【0036】
なお、前記担体の大きさを上述のような範囲に設定することによって、0.2μm〜5mm、好ましくは10μm〜2mmの大きさの油分吸着材を得ることができるようになる。この際に得られる作用は、前記担体の大きさを上述した範囲に設定した場合と同様であり、その結果、前記油分吸着材の油分吸着能がより向上するようになる。
【0037】
ここで“担体の大きさ”とは、前記担体の形態に依存して決定されるものであって、前記担体の形態に特徴的な部分の大きさを意味する。例えば、前記担体が粒子状であれば、前記担体の大きさは平均粒子径を意味し、前記担体が多面体や不定形である場合は、その最大長さ及び最大幅等を意味するものである。
【0038】
さらに、前記担体は、球状、多面体、不定形等の他に、繊維状、シート状、ひも状及びネット状の形状を有する場合も含む。
【0039】
特に繊維状の担体としては、チタニア、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、塩基性マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイト、マグネシア、硫酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、二ホウ化チタン、α−アルミナ、クリソタイル、ワラストナイトなどのウィスカー類、また、Eガラス繊維、シリカアルミナ繊維、シリカガラス繊維などの非晶質繊維の他チラノ繊維、炭化ケイ素繊維、ジルコニア繊維、γアルミナ繊維、α−アルミナ繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの結晶性繊維などの無機系繊維の他、有機系繊維としてポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0040】
(油分吸着材の製造)
次に、上述した本実施形態の油分吸着材の製造方法について説明する。
【0041】
最初に、シェラック樹脂と溶媒とを混合し、前記シェラック樹脂を含む溶液を調整する。この場合、前記シェラック樹脂は、前記溶媒中に溶解している必要はなく、均一に分散していれば足りる。前記溶媒としてはアルコール等を用いることができる。
【0042】
次いで、前記溶液を担体の表面に接触させて、前記シェラック樹脂を前記担体の前記表面に被着させる。例えば、室温で、前記担体を混合機に仕込み、高速回転させて、前記シェラック樹脂を含む溶液を滴下または噴霧することにより、前記担体の前記表面に前記シェラック樹脂を被着させることができる。
【0043】
次いで、前記シェラック樹脂及び前記担体に対して、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下の温度で加熱処理を施し、前記シェラック樹脂を前記担体の前記表面に固定させる。加熱処理温度が200℃を超えると、前記シェラック樹脂の有機基の切断が始まり、油分吸着性能の低下を招く場合がある。
【0044】
なお、前記加熱処理温度の下限値は、例えば70℃とすることができる。これより加熱処理温度が低いと、前記シェラック樹脂の前記担体への固定が十分に行われない場合がある。
【0045】
また、上述のような混合機に代えて回転造粒機を用いることにより、目的とする油分吸着材を所定の大きさに造粒することができる。また、スプレードライを用いることにより、均一な大きさの油分吸着材を得ることができるようになる。
【0046】
(水処理方法)
次に、上述の油分吸着材を用いた水処理方法について説明する。本態様における水処理方法は、汚染物質を含む水から、前記汚染物質を分離するものである。ここで、前記汚染物質とは、処理しようとする水に含まれており、その水を利用するに当たって除去すべきものを意味する。但し、本態様では、油分吸着材を用いて水処理を行うことから、汚染物質として有機物、特に油類を含む水を処理するのに用いることが好ましい。
【0047】
ここで油類とは、一般に常温において液体であり、水に難溶性であり、粘性が比較的高く、水よりも比重が小さいものをいう。より具体的には、鉱物油、動植物性油脂、炭化水素、芳香油などである。
【0048】
前記水処理方法は、最初に、前記汚染物質を含む水中に、前記油分吸着材を浸漬させ、分散させる。このとき、前記油分吸着材の上記シェラック樹脂と前記汚染物質との親和性により、汚染物質が前記シェラック樹脂、すなわち前記油分吸着材に吸着される。このとき、前記油分吸着材の前記シェラック樹脂は長鎖炭化水素基を有しているので、特に親油性が高く、前記汚染物質の吸着効率が高い。
【0049】
実際、前記油分吸着材による油分吸着率は、その添加量及び表面積、並びに前記汚染物質の濃度にも依存するが非常に高く、一般に80%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の前記汚染物質が前記油分吸着材に吸着される。
【0050】
前記油分吸着材が前記汚染物質を吸着した後、前記油分吸着材を水から分離することによって、前記水中に存在した前記汚染物質が分離除去されることになる。なお、前記油分吸着材を分離する際には、公知の方法、例えば上述した重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力を用いて容易に行うことができる。さらに、上記担体が磁性体を含む場合は、磁気による分離をも併用することが可能となる。
【0051】
次いで、前記油分吸着材を溶媒で洗浄して吸着した油分を除去する。この溶媒は、前記油分吸着材に使用されている上記シェラック樹脂を溶解しないものでなくてはならない。具体的には、前記溶媒への前記シェラック樹脂の溶解度が1000mg/L以下のものを用いる。
【0052】
このような溶媒は、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノールや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジメチルアニリン、フロン、n−ヘキサン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0053】
この中でも、特に非極性の溶媒が好ましい。非極性の溶媒は疎水性を示し、特に油分との親和性が高くなるので、前記油分吸着材に吸着した前記油分の洗浄を簡易かつ効率的に行うことができる。また非極性溶媒を用いた場合には、劣化した吸着材の分離除去が非常に容易になる。なお、“疎水性”とは、水の溶解度が10%以下で、水と分離するものと定義する。特に、ヘキサンが油の溶解力が高く、沸点も約70℃であって室温では常に安定した液体であるため、扱いやすく好ましい。
【0054】
また、前記溶媒としてはアルコールをも好ましく用いることができる。この場合は、油分吸着材の表面に付着あるいは吸着した水と置換しやすく、油分以外の不純物を除去しやすい。アルコール類の中では、沸点の低いメタノールとエタノールが特に好ましい。
【0055】
本工程において、上記油分吸着材は、例えばカラムに充填し、その内部に前記溶媒を通過させる方法や、特に前記油分吸着材が磁性体を含むような場合は、洗浄槽中に入れるとともに多量の溶媒を投入し、サイクロンや磁力などの方法で分離させる方法が挙げられる。
【0056】
このような操作によって、前記油分吸着材に吸着した上記汚染物質が除去されるので、前記油分吸着材は再利用することができる。
【0057】
次に、上記油分吸着材を用いた水処理方法の具体例を、図面を参照しながら簡単に説明する。
【0058】
図1は、小規模な水処理装置の一例の概略構成を示す図である。この装置は、排水の流量が少ない家庭の排水処理などに利用する場合に好ましいものである。なお、使用する油分吸着材の担体は磁性体から構成している。排水入口1から導入された排水は、矢印で示すように、磁石3が周囲に配置された配管2を通過して、処理済排水出口4から排出される。この場合、排水入口1から導入される前の排水に、上記油分吸着材を混合する。排水中の油分は前記油分吸着材に吸着され、前記油分を吸着した前記油分吸着材は、磁石3の配置された配管の内側に堆積し、集められ回収される。
【0059】
図2は、大規模な水処理装置の一例の概略構成を示す図である。この装置は、大量の排水処理が必要とされる工場やタンカーの座礁などにより海洋に油が流出した場合などに有効なものである。この装置も、図1の装置と同様に排水に本態様の油分吸着材を混合した後に排水入口11から前記排水を配管12を介して導入し、タンク15に近接した超伝導磁石13により前記排水中に浮遊する、油分を吸着した後の油分吸着材を集めて除去し、処理済排水を出口14から排出する。
【0060】
なお、図1及び2では、前記油分吸着材をマグネットに固定化して回収するようにしているが、処理能力を高めるため、ネット状磁石を配管2及び12内に配置して前記油分吸着材を固定化し、回収するようにすることもできる。
【0061】
吸着した前記油分を回収するためには、前記油分吸着材を配管2及び12内またはタンク15内から取り出し、アルコール、n−ヘキサンなどの油分抽出溶媒または油分洗浄溶媒で洗浄し、前記汚染物質を脱離させて、前記油分吸着材を回収し、再生を行う。
【0062】
特に、図2に示す装置は、設置固定するほか、海洋、河川などの現場での処理に対応するため、移動型としてこれらの装置を有した処理船などに登載して利用することも可能である。
【実施例】
【0063】
<油分吸着材の製造>
【0064】
(実施例1)
担体としての、磁性粉として平均粒子径が0.79μmの球状フェライト(磁性強度84.4emu/g)100gをミキサーに仕込み、回転速度15700rpmの条件下でシェラック樹脂(乾燥透明白ラック(脱ロウ/漂白品)30重量%含有のアルコール溶液5gを滴下噴霧し、5分間高速混合した。次いで120℃の乾燥機で20時間熱処理し、油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0065】
(実施例2)
シェラック樹脂(乾燥透明白ラック(脱ロウ/漂白品)30重量%含有のアルコール溶液を5gから2gにした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0066】
(実施例3)
シェラック樹脂(乾燥透明白ラック(脱ロウ/漂白品)30重量%含有のアルコール溶液を5gから1gにした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0067】
(実施例4)
シェラック樹脂(乾燥透明白ラック(脱ロウ/漂白品)30重量%含有のアルコール溶液5gに代えて、シェラック樹脂(レモンNo.1)30重量%含有のアルコール溶液2gにした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0068】
(実施例5)
シェラック樹脂(乾燥透明白ラック(脱ロウ/漂白品)30重量%含有のアルコール溶液5gに代えて、シェラック樹脂(乳状白ラックS−GBD)30重量%含有のアルコール溶液2gにした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0069】
(実施例6)
担体を球状フェライトに代えてポリプロピレンネット(目開き32メッシュ)にした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0070】
(実施例7)
担体を球状フェライトに代えてカーボンファイバー(単繊維径30μm) にした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0071】
(実施例8)
担体を球状フェライトに代えてポリエステルファイバー(単繊維径50μm)にした以外は、実施例1と同様にして油分吸着材を製造した。なお、前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含んでいる。
【0072】
(比較例1〜3)
平均粒子径が200、780および920μmの、親油性のスチレン・ブタジエンコポリマーを油分吸着材として準備した。なお、平均粒子径は、200μm(比較例1)、780μm(比較例2)及び920μm(比較例3)とした。
【0073】
<油吸着粒子の評価>
実施例1〜8及び比較例1〜3で得た油分吸着材について、以下の項目について評価した。
(1)油分吸着粒子の吸着性能評価:純水20mLに所定の鉱物油分50μL 、100μL、110μL、120μLをそれぞれ添加し、分散させたものに油分吸着材を0.1g添加し、振とう器により5分間の均一混合処理を行った後、前記油分吸着材を磁石により除去した。その後、油分抽出溶媒であるn-ヘキサンを加え、油分を完全に溶解抽出して、前記油分を溶解したn-ヘキサン溶液を得、この溶液をガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)で分析し、残存する油分量を定量して油分吸着率(当初の油分量に対する吸着油分の割合)を算出した。結果を表1に示す。
(2)油分吸着時の粒子の状態:(1)において均一混合処理後の油吸着材の状態を目視観察した。結果を表2に示す。
(3)油分抽出溶媒に対する耐性:(1)において油分抽出溶媒で処理する際、溶媒に浸漬された後の油吸着材の状態を目視観察した。結果を表2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、本発明に従って得た油分吸着材では、比較例のスチレン・ブタジエンコポリマーからなる親油性のポリマーに比較して、高い油分吸着率を呈し、ほぼ100%に近い油分吸着率を有することが分かる。
【0076】
【表2】

【0077】
表2から明らかなように、本発明に従って得た油分吸着材では、比較例のスチレン・ブタジエンコポリマーからなる親油性のポリマーに比較して、油分吸着時の粒子の状態及び油分抽出溶媒に対する耐性も良好であることが判明した。
【0078】
また、実施例2で得た油分吸着材を用いて油分吸着・脱離の繰り返し試験を実施したところ、7回までの繰り返し試験において、油分吸着率及び脱離率はほぼ一定で、100%に近い値を示すことが判明した。結果として、前記油分吸着材は回収後においても繰り返し油分吸着材として使用できることが判明した。
【0079】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】小規模な水処理装置の一例の概略構成を示す図である。
【図2】大規模な水処理装置の一例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1,11 排水入口
2,12 配管
3,13 磁石
4,14 出口
15 タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、
前記担体の表面に被着したシェラック樹脂と、
を具えることを特徴とする、油分吸着材。
【請求項2】
前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の油分吸着材。
【請求項3】
前記担体は、無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の油分吸着材。
【請求項4】
前記担体は磁性体であることを特徴とする、請求項3に記載の油分吸着材。
【請求項5】
前記担体の大きさが0.05μm〜100μmであって、前記油分吸着材の大きさが0.2μm〜5mmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の油分吸着材。
【請求項6】
シェラック樹脂と溶媒とを混合し、前記シェラック樹脂を含む溶液を調整する工程と、 前記溶液を担体の表面に接触させて、前記シェラック樹脂を前記担体の前記表面に被着させる工程と、
前記シェラック樹脂及び前記担体に対して加熱処理を施し、前記シェラック樹脂を前記担体の前記表面上に固定させる工程と、
を具えることを特徴とする、油分吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理は、200℃以下の温度で行うことを特徴とする、請求項6に記載の油分吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記シェラック樹脂は、ヒドロキシ脂肪酸及びセスキテルペン酸を含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の油分吸着材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一に記載の油分吸着材を水中に分散させ、前記水中の油分を吸着させるステップを具えることを特徴とする、水処理方法。
【請求項10】
前記油分を吸着した後の前記油分吸着材を溶媒で洗浄し、前記油分吸着材から前記油分を分離し、前記油分吸着材を回収するステップを具えることを特徴とする、請求項9に記載の水処理方法。
【請求項11】
前記溶媒はアルコールであることを特徴とする、請求項10に記載の水処理方法。
【請求項12】
前記アルコールはメタノール及びエタノールの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項11に記載の水処理方法。
【請求項13】
前記溶媒は非極性溶媒であることを特徴とする、請求項10に記載の水処理方法。
【請求項14】
前記非極性溶媒はヘキサンであることを特徴とする、請求項13に記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−110695(P2010−110695A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285232(P2008−285232)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】