説明

油分回収方法

【課題】水中の油分を吸着する吸着材を用いた油分回収方法を簡易かつ効率的に行い、前記方法を低コストで実現する。
【解決手段】所定のスラリー溶液を噴霧乾燥して、無機粒子等をコアとし、その表面をポリマーで被覆してなる油分吸着材を得、これを水中に浸漬及び分散させて油分を吸着し、前記油分を水中から回収する。この際、製造直後の油分吸着材から規格外のものを取り出し、再利用に供するようにするとともに、前記油分回収後の使用済の前記油分吸着材に対し、規格内のものは洗浄後再利用し、規格外のものは前記ポリマーを溶解して前記無機粒子等を取り出し、再度油分吸着材の原材料として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中からの油分回収方法と、油分吸着材の再利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、工業排水などの廃水の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには水の浄化、すなわち水中から他の物質を分離することが必要である。
【0003】
液体からほかの物質を分離する方法としては、各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集、さらには所定の吸着材による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。
【0004】
これらのうち、膜分離はもっとも一般的に使用されている方法のひとつであるが、水中に分散した油類を除去する場合には膜の細孔に油が詰まり易く、膜の寿命が短くなりやすいという問題がある。このため、水中の油類を除去するには膜分離は適切でない場合が多い。このため重油等の油類が含まれている水からそれらを除去する手法としては、例えば重油の浮上牲を利用し、水上の設置されたオイルフェンスにより水の表面に浮いている重油を集め、表面から吸引および回収する方法、または、重油に対して吸着性をもった疎水性材料を水上に敷設し、重油を吸着させて回収する方法等が挙げられる。
【0005】
かかる観点より、近年においては、油分吸着材を用い、油類が分散した水中内に浸漬させることによって、前記油分吸着材に前記油類を吸着させ、前記水中から除去する試みがなされている。例えば、特許文献1には、磁性体粒子の表面に樹脂等の有機質を吸着させてなる油分吸着材を用い、水中から油分を吸着除去する技術が開示されている。しかしながら、この方法では、当初に塩基性の水溶液を用い、これに界面活性剤を添加して有機媒体相とした後に前記樹脂を溶解させて原料となる溶液を調整しなければならず、極めて作業性が悪いという問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、親水性ブロックと親油性ブロックとを有する油分吸着材としての吸着ポリマーを用いて油を吸着させ、その後その吸着ポリマーを水から除去する方法が開示されている。しかしながら、このような方法では吸着ポリマーと水の分離に労力がかかるだけでなく、油が吸着したポリマーが軟化して作業性が悪いという問題もある。
【0007】
一方で、特許文献3には、磁性化された吸着性粒子を用いて、油類を吸着した後の吸着性粒子を、磁気を用いて分離する方法も知られている。例えば、磁性体表面をステアリン酸で修飾し、その磁性体に水中の油を吸着させ、回収する方法が開示されている。しかしながら、この方法でも磁性体の表面修飾に低分子化合物であるステアリン酸やカップリング剤を使用するため、それらの低分子化合物が逆に水を汚染してしまう可能性が高いという問題がある。
【0008】
また、上述した特許文献1〜3のいずれにおいても、油分吸着材は油分を吸着した後はそのまま廃棄されてしまい、前記油分吸着材の利用効率が悪いという問題がある。さらに、利用に供する油分吸着材においても、その製造過程において規格外となるものはそのまま廃棄されてしまうことになり、かかる観点からも前記油分吸着材の利用効率が劣化してしまうことになる。この結果、必要な油分を吸着除去するには比較的多量の油分吸着材が必要となり、油分除去操作に関するコストが必然的に増大してしまうという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−97087号
【特許文献2】特開平07−102238号
【特許文献3】特開2000−176306号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題に鑑み、水中の油分を吸着する吸着材を用いた油分回収方法を簡易かつ効率的に行い、前記方法を低コストで実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方、ポリマー、及びこのポリマーを溶解しうる溶媒Aを調合し組成物を製造するステップと、前記組成物から油分吸着材を製造するステップと、前記油分吸着材から規格外の油分吸着材を除去し、この規格外の油分吸着材を前記スラリー溶液中に溶解させるステップと、前記油分吸着材を用いて油分を吸着するステップと、前記油分を吸着した前記油分吸着材を、前記ポリマーを溶解させないような溶媒Bで洗浄し、前記油分吸着材と前記油分とを分離させるステップと、前記油分及び前記溶媒Bを含んだ溶液から前記油分を分離させるステップと、前記油分吸着材から前記溶媒Bを除去するステップと、を具えることを特徴とする、油分回収方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水中の油分を吸着する吸着材を用いた油分回収方法を簡易かつ効率的に行い、前記方法を低コストで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態における油分回収方法のフローチャートである。以下、図1と関連させながら、本実施形態における油分回収方法について詳述する。
【0014】
油分吸着材の製造工程(S1〜S3)
最初に、無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方、ポリマー、及びこのポリマーを溶解しうる溶媒Aを調合し組成物を製造する。この組成物は次のステップで吸着材を製造するのに用いる。その形態は製造方法により異なるが、例えば溶媒Aにポリマーを溶解させた溶液と無機粒子又は金属粒子を別々に準備したものや、溶媒A、ポリマー、無機粒子又は金属粒子を混合したスラリーなどが挙げられる。噴霧乾燥法で吸着材を製造する場合には、スラリー状のものを用いる(S1)。
【0015】
前記無機粒子及び前記金属粒子は、後に得られる油分吸着材のコアをなすものであって、水中に短時間浸漬しても大きな化学変化を起こさないものから適宜選択する。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、雲母等のセラミック粒子及び、アルミニウム、鉄、銅、及びこれらの合金等の金属粒子、及びこれらの酸化物である磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、等を用いることができる。
【0016】
特に、以下に説明するように、上記油分吸着材を回収する際に有利であることから、前記無機粒子及び前記金属粒子は、磁性体を含むことが好ましい。
【0017】
磁性体は特に限定されるものではないが、室温領域において強磁性を示す物質であることが望ましい。しかしながら、本実施形態に当ってはこれらに限定されるものではなく、強磁性物質を全般的に用いることができ、例えば鉄、および鉄を含む合金、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、などが挙げられる。
【0018】
これらのうち水中での安定性に優れたフェライト系化合物であればより効果的に本発明を達成することができる。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0019】
また、本実施形態では、上記無機粒子及び金属粒子自体を磁性体とすることができる。この場合、前記磁性体は磁性粉として構成されるが、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。また、望ましい磁性粉としての粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すれば良く、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。
【0020】
鋭角な角を持つ粒子であると、後の噴霧処理を経て表面を被覆するポリマー層を傷つけ、樹脂複合体、すなわち目的とする油分吸着材の形状を維持しにくくなってしまうことがあるためである。これらの磁性粉は、必要であればCuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理が施しされていてもよい。また、その表面が腐食防止などの目的で表面処理されていてもよい。
【0021】
また、上記磁性体は、上述のように直接磁性粉として構成される代わりに、前記磁性粉が樹脂等のバインダーで結合されたものであってもよい。すなわち、前記磁性体を磁力によって回収する際に、前記磁力が及ぶだけの磁性を有すれば特に限定されるものでない。
【0022】
上記磁性粉の大きさは、磁性粉の密度、用いられるポリマーの種類や密度、表面修飾する官能基の種類と量、など種々の条件によって変化する。しかしながら、本実施形態では、前記磁性粉の平均粒子径は、一般に0.05〜100μm、好ましくは0.2〜5μmである。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。
【0023】
上記磁性粉の平均粒子径が100μmよりも大きいと、凝集する粒子が大きくなりすぎて、水への分散が悪くなる傾向があり、また粒子の実効的な表面積が減少して、油類などの吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また粒子径が0.05μmより小さくなると、1次粒子が緻密に凝集し、樹脂複合体の表面積が小さくなる傾向があるので好ましくない。
【0024】
なお、上述した平均粒子径は磁性粉の場合に限られず、上述したセラミック粒子等の無機粒子や非磁性の金属粒子に対しても好ましく、同様の作用効果を奏する。
【0025】
また、上記ポリマーとしては目的に応じて任意のものを選択することができるが、前記ポリマーは後の工程を経て得た油分吸着材の表面に形成され、水中から除去しようとする油分を効率よく吸着するような親油性を呈するものであることが好ましい。例えば、ポリスチレン樹脂、水添加ポリスチレン樹脂、ブタジエン樹脂、イソプレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、またはシクロオレフィン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリレート及びこれらの共重合体などが挙げられる。
【0026】
特に、以下に説明する溶媒Bによる油分の洗浄の際に、前記溶媒Bに対して極めて低い溶解度(例えば1000mg/L以下)でほとんど溶解しないようなポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート及びこれらの共重合体を好ましく用いることができる。このようなポリマーを用いることにより、最終的に得た油分吸着材は、溶媒Bによる50回以上の洗浄を経ても再利用が可能である。
【0027】
また、上述したポリマーは、水に対する溶解性が低く、具体的には、水に対する溶解度が10mg/L以下であり、さらには10μg/L以下である。したがって、得られた油分吸着材が、油分吸着のために水中に浸漬された場合でも、前記ポリマーが水中に溶出するのを防ぐこともできる。
【0028】
上記溶媒Aは、上述した無機粒子等とポリマーとを溶解し、上述したスラリー溶液を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは極性溶媒とする。極性溶媒は親水性に優れるので、無機粒子等の表面に微量に存在する水酸基と溶媒Aとが親和し、前記無機粒子等が凝集せず溶媒A中に均一に分散するようになる。このため、以下に説明するスプレードライ法によって目的とする油分吸着材を製造した際に、その粒子径が小さい/大きいに関わらず組成が均一になるため、実際の油分吸着に適したものを選別するに際しては、前記粒子径に関する分級だけで良い。
【0029】
なお、本実施形態で、“親水性”とは、水と自由に混和するものと定義し、具体的には1気圧において温度20℃で同容量の純水と緩やかにかき混ぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものである。
【0030】
上記溶媒Aを非極性溶媒とすると、前記溶媒Aは疎水性溶媒(水の溶解度が10%以下のものと定義する)となるので、スラリー溶液中で無機粒子が凝集して不均一となる。このため以下に説明するスプレードライにより油分吸着材を製造すると、無機粒子を含まないものや、無機粒子ばかりのものができてしまい、実際の油分吸着に適さない不良品の分別に多くの工程が必要になる。さらに、不良品の組成も均一でないため、再利用の際に、上記スラリー溶液に戻すには、その溶液濃度を設定値に保持すべく、前記不良品に対する組成分析が必要になり、再利用の工程が煩雑になってしまう。
【0031】
上記親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、などが挙げられる。好ましくは、様々なポリマーを溶解させることのできるアセトン、テトラヒドロフランが良い。
【0032】
次に、上述したステップS1で得た樹脂組成物を用いて油分吸着材を得る(S2)。油分吸着材の製造方法は、無機粒子または金属粒子の表面にポリマーを被覆して凝集体となっていればよく、その方法は特に限定されるところではない。例えば、造粒機のように流動する無機粒子にポリマーを噴霧する方法や、ヘンシェルミキサー等の混合機中でポリマーと溶剤を接触させ被覆する方法や、スラリー溶液を製造して噴霧乾燥する方法が挙げられる。この中でも、粒度分布の狭い凝集体が得られる噴霧乾燥法が好ましい。
【0033】
前記噴霧乾燥には、いわゆる有機物含有溶液から有機溶媒を除去して粒子状の前記有機物を得ることができるスプレードライ法を用いる。本実施形態において、前記有機物は、前記無機粒子等をコアとし、その周囲を上記ポリマーで被覆してなる樹脂複合体粒子であり、(1次の)油分吸着材である。
【0034】
スプレードライ法によれば、スプレードライの環境温度や噴出速度などを調整することにより1次粒子が凝集した2次凝集体の平均粒子径が調整できる上、凝集した1次粒子の間から有機溶媒が除去される際に孔が形成され、油分吸着材として好適な多孔質構造を容易に形成させることもできる。
【0035】
スプレードライ法は公知のいかなるものでも構わないが、例えばディスクタイプ、加圧ノズルタイプ、2流体ノズルタイプが挙げられる。
【0036】
上記油分吸着材は、好ましくは5μm以上1mm以下、さらに好ましくは10μm以上100μm以下の平均粒子径を持つことが好ましい。この範囲であると、以下に説明する、油分の分離工程において、一般的な固液分離装置であるろ過やサイクロンでの分離が容易となる。
【0037】
次いで、上述のようにして得た(1次の)油分吸着材に対して規格評価(1)を行い、その組成及び粒子径が、以下に説明する油分吸着の操作に対して適しているか否かの評価を行う(S3)。規格評価(1)、組成の均一性、粒度分布、油分の吸着量評価等によって行う。例えば、組成に関しては、前記油分吸着材の全体に亘って均一であるか否かの評価を行う。もし、組成の不均一性、すなわち上記無機粒子等を被覆する上記ポリマーの被覆度合が不均一であって、油分を十分に吸着できないような場合は、規格外とする。さらに、粒子径が、例えば上述した好ましい範囲である5μm以上1mm以下の要件を満足しない場合は、上述した油分の分離工程が困難となるので、規格外とする。
【0038】
なお、上述したように、溶媒Aを極性溶媒とすると、無機粒子等の表面に微量に存在する水酸基と溶媒Aとが親和し、前記無機粒子等が凝集せず溶媒A中に均一に分散するようになり、その粒子径が小さい/大きいに関わらず組成が均一になるため、実際の油分吸着に適したものを選別するに際しては、前記粒子径に関する分級だけでよい。
【0039】
上記(1次の)油分吸着材に対して規格評価を行うことにより分別された規格外の油分吸着材は、組成が均一なもの関してはそのまま前記スラリー溶液中に溶解し、油分吸着材として再利用に供するようにする。一方、組成が不均一なもの関しては、組成分析を実施し、前記スラリー溶液の濃度を変化させないようなものであれば前記スラリー溶液中に溶解し、油分吸着材として再利用に供するようにする。
【0040】
以上のような工程を得ることによって、実際の油分吸着に供することのできる油分吸着材Aを得る。この油分吸着材Aは、上述した無機粒子及び/又は金属粒子をコアとして、その表面を上述したポリマーが被覆したような構成を採る。
【0041】
この場合、前記油分吸着材Aにおいて、上述した無機粒子等は、その形状を維持するための骨格(コア)として機能する。特に水中に分散する油を回収する場合には、前記油分吸着材が油を吸着した時に表面に形成された樹脂が軟化し、形状を維持しにくくなってしまい、場合によっては吸着材同士が凝集して、回収が困難になってしまうことがある。
【0042】
また、上記油分吸着材Aが上述したような構成を採ることにより、相対的な比重が高くなるため、以下に示す油分吸着後の、吸着材と油分との分離の際に、重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力を用いて前記分離を容易に行うことができるようになる。さらに、上記無機粒子等が磁性体を含む場合は、磁気による分離をも併用することが可能となるため、前記分離を迅速に行うことができる。
【0043】
なお、上記油分吸着材Aにおいては、上記無機粒子から構成されるコアの大きさを0.5〜5μmにすることが好ましい。これより小さいと、前記油分吸着材Aのポーラス径が小さくなり、油分の脱離速度が遅くなる場合があり、これより大きいと表面積が小さくなり油分吸着量が小さくなる場合があるからである。
【0044】
油分吸着工程(S4)
本実施形態では、上述のようにして油分吸着材Aを製造した後、この油分吸着材Aを用い、油分を含んでなる水から、前記油分を分離する(S4)。ここで“油分”とは、水中に混和/分散している有機物のうち、一般に常温において液体であり、水に難溶性であり、粘性が比較的高く、水よりも比重が低いものをいう。より具体的には、動植物性油脂、炭化水素、芳香油などである。これらは、脂肪酸グリセリド、石油、高級アルコールなどに代表される。これらの油類はそれぞれ有する官能基などに特徴があるので、それに応じて油分吸着材Aを構成するポリマーや官能基を選択する。
【0045】
本実施形態における油分吸着工程では、最初に、油分を含んでなる水に、上記油分吸着材Aを浸漬、分散させる。上述したように、油分吸着材Aの表面には親油性のポリマーが形成されているので、前記ポリマーと前記油分との親和性により、前記油分が前記ポリマーに吸着される。このとき、吸着材の表面は平滑ではなく、好ましくは多孔質構造であると、油分の吸着効率が高くなるが、上述したように、スプレードライ法を用いて油分吸着材Aを製造した際は、比較的多孔質となりやすいので、前記油分の吸着効率を必然的に向上させることができるようになる。
【0046】
前記油分吸着材Aが前記油分を吸着した後、前記油分吸着材Aを水から分離し、結果として、前記水中に存在した前記油分を分離除去する。なお、前記油分吸着材Aを分離する際には、公知の方法、例えば上述した重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力を用いて容易に行うことができる。さらに、上記無機粒子等が磁性体を含む場合は、磁気による分離をも併用することが可能となる。
【0047】
水処理の対象とされる水は特に限定されない。具体的には工業排水、下水、生活排水などに用いることができる。処理しようとする水に含まれる油分濃度も特に限定されない。
【0048】
なお、油分吸着材Aが劣化していると、被覆したポリマーの剥離などによって形が崩れ、コアの無機粒子等がむき出しになることが多い。このように無機粒子がむき出しになった状態で疎水性溶媒中に分散すると、この無機粒子が凝集する。このため、沈降やろ過、サイクロンなどの方法で分離しやすくなる。
【0049】
油分吸着材と油分の分離工程(S5)
上述のようにして、油分吸着材Aによって油分を吸着して水中から除去した後は、前記油分吸着材Aを溶媒Bで洗浄し、吸着した油分を除去する(S5)。この溶媒Bは、前記油分吸着材Aに使用されているポリマーを溶解しないものでなくてはならない。具体的には、溶媒Bへの溶解度が1000mg/L以下のものを用いる。
【0050】
このような溶媒は被覆するポリマーや表面修飾により異なるが、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールや、アセトン、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、イソブタノール、イソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、キシレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、ジオキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ジブチルエーテル、ジメチルアニリン、テトラヒドロフラン、トルエン、ブタノール、フロン、ヘキシルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0051】
この中でも、特に非極性の溶媒が好ましい。非極性の溶媒は疎水性を示し、特に油分との親和性が高くなるので、前記油分吸着材Aに吸着した前記油分の洗浄を簡易かつ効率的に行うことができる。また非極性溶媒を用いた場合には、劣化した吸着材の分離除去が非常に容易になる。なお、“疎水性”とは、水の溶解度が10%以下で、水と分離するものと定義する。特に、ヘキサンが油の溶解力が高く、沸点も約70度であって室温では常に安定した液体であるため、扱いやすく好ましい。
【0052】
また、溶媒Bとしてはアルコールをも好ましく用いることができる。この場合は、油分吸着材Aの表面に付着あるいは吸着した水と置換しやすく、油分以外の不純物を除去しやすい。アルコール類の中では、沸点の低いメタノールとエタノールが特に好ましい。
【0053】
本工程において、油分吸着材Aは、例えばカラムに充填し、その内部に溶媒Bを通過させる方法や、特に油分吸着材Aが磁性体を含むような場合は、洗浄槽中に入れるとともに多量の溶媒を投入し、サイクロンや磁力などの方法で分離させる方法が挙げられる。
【0054】
溶媒と油分の分離工程(S6)
上述のようにして油分吸着材Aから溶媒Bによる洗浄によって油分を除去した後は、
油分が溶け込んだ溶媒Bから前記油分を油分Dとして分離させる(S6)。この分離工程においては、蒸留法を用いることができ、分離して回収した油分Dを適宜燃焼させて熱源とすることができる。なお、蒸留によって分離された溶媒Bは、上述した油分吸着材と油分の分離工程(S5)において再利用することができる。
【0055】
油分吸着材の乾燥及び再利用工程(S7〜S9)
上述のようにして、油分吸着材Aから油分を除去した後は、洗浄に使用した溶媒Bを油分吸着材から除去する(S7)。他の溶媒(例えば水など)と置換したり、乾燥させたりする方法が挙げられる。この中でも乾燥による除去が好ましい。乾燥工程は特に限定されないが、例えば風通しの良いところで乾燥させたり、減圧乾燥させたり、カラムにつめて通風したりして溶媒を除去する。この時、先の分離工程で出た油分を燃焼した熱を用いると、油分Dを有効活用できるため好ましい。この際、油分吸着材の温度がポリマーの軟化温度以下になるようにすると、吸着材の劣化を防ぐことができる。
【0056】
また溶媒Bを除去後、油分吸着材Aの規格評価(2)を行う(S8)。油分吸着材Aが劣化しておらず、規格内となっている場合は、溶媒Bを完全に取り除くことで、もう一度油分吸着材(再生油分吸着材B)として再利用できる。
【0057】
一方、油分吸着材Aにおいて規格外のものは、溶媒Aで洗浄してコアを構成している無機粒子等を回収する(S9)。この無機粒子等は再度油分吸着材を製造する時に無機粒子等Cとして利用することができる。但し、上記油分吸着材のみならず、適宜その他の用途に使用することもできる。
【0058】
なお、上記規格評価(2)は、油分吸着材の組成、油分吸着性能、粒子形状、再生回数などで判断される。例えば、組成に関しては、油分吸着材Aの全体に亘って均一であるか否かの評価を行う。もし、組成の不均一性、すなわち上記無機粒子等を被覆する上記ポリマーの被覆度合が不均一であって、油分を十分に吸着できないような場合は、規格外とする。さらに、粒子径が、例えば上述した好ましい範囲である5μm以上1mm以下の要件を満足しない場合は、上述した油分の分離工程が困難となるので、規格外とする。また油分吸着材の再生回数をカウントし、一定回数以上再生した場合は規格外とする。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
油分吸着材の製造工程(S1〜S3)
ポリスチレン6重量部を、300mlのテトラヒドロフラン中に溶解させて溶液とし、その溶液中に平均粒子径800nmの球状マグネタイト粒子40重量部(比表面積5.7m/g)を分散させて組成物を得た。この組成物を、ミニスプレードライヤー(柴田科学株式会社製、B−290型)を用いて噴霧し、球状に凝集した平均2次粒子径が約20μmの樹脂複合体を作成した。この樹脂複合体を篩を用いて12μm未満の粒子(約30wt%)を不良品として取り除き、残りを油分吸着材の良品として回収した。
【0060】
なお、取り除いた不良品に関し、TG/DTAを用いて被覆した樹脂を熱分解してその被覆量を求めたところ、樹脂10gに対しポリスチレン1.5gとほぼ均一の組成物であった。この不良品46重量部を300mlのテトラヒドロフランに溶解・分散させて組成物を得て、ミニスプレードライヤーで噴霧したところ、まったく同じ粒度分布を持つ凝集体が得られた。以下、この12μmの粒子を使いまわすことにより、12μm以上の油吸着粒子を得た。
【0061】
油分吸着工程(S4)及び油分吸着材と油分の分離工程(S5)
このようにして得られた油吸着粒子1gを1Lの共栓付三角フラスコに測り取り、直鎖脂肪族の油500μLを含む水200mlを加え、よく撹拌して油吸着粒子に油を吸着させた。その後、磁石を用いて油吸着粒子を三角フラスコに取り出した後、ヘキサン100mlを添加してよく撹拌し、水中の油を抽出した。このヘキサンをガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析し、油吸着粒子の油の吸着量を求めたところ499.9μL以上の油を吸着していた。また、このとりだした樹脂複合体を10mlのヘキサン中に投入しよく攪拌した。このヘキサン中から磁石を用いて油吸着粒子を取り出し、ヘキサンを分析したところ、全量の油を脱離していた。
【0062】
溶媒と油分の分離工程(S6)
次いで、上記ヘキサンを減圧蒸留することにより、491.0μLの油分を回収した。
【0063】
油分吸着材の乾燥及び再利用工程(S7〜S9)
上述のようにして、油吸着粒子を洗浄した後、ステンレスバットに入れ、有機ドラフト中で30分乾燥させたところ、全量のヘキサンが飛んでいることがわかった。この後、油吸着粒子を乾式のサイクロンにかけ、小さい粒子を除去し、残りを良品として回収した。この小さい粒子を電子顕微鏡で観察したところ、凝集体から抜け落ちた磁性体と小さなポリマーであることがわかった。この分別した粒子をテトラヒドロフランに溶解してろ過することにより、磁性体を回収することができた。
【0064】
上記のように、良品と判断された油吸着粒子を再生油吸着粒子として使用し、同様の試験で500μLの油含む水200mL中に投入し油を吸着させたところ、499.9μl以上の油分を回収していることがわかった。同様の再生を繰り返し、10回洗浄後(都合11回目の使用)においても498.4μLの油分を吸着し、繰り返し使用が可能であることがわかった。
【0065】
(実施例2)
油吸着粒子に吸着した油分を洗浄する際に、ヘキサンに代えてメタノールを用いたこと以外は実施例1と同様に吸着試験と再生試験を繰り返したところ、1回目の再生では499.9μLを吸着し、10回洗浄後でも499.2μLの油を吸着し、繰り返し使用が可能であることがわかった。
【0066】
メタノールを用いた場合の作業性は、劣化した吸着材から脱離した磁性体が細かく分散してしまうため、分離に時間がかかりよくなかった。
【0067】
(実施例3)
スプレードライをする前の溶媒をテトラヒドロフランからシクロヘキサン(疎水性溶媒)に変更し、ポリマーをポリエチレンからシクロオレフィンに変更し、油分を洗浄する際の溶媒をヘキサンからメタノールに変更した以外は実施例1と同様に吸着、再生試験をおこなった。
【0068】
ミニスプレードライヤーで樹脂複合体を製造した後、12μm未満の粒子を篩い分けして電子顕微鏡で観察したところ、磁性体を多く含む凝集体と樹脂を多く含む凝集体が存在していた。TG/DTAを用いて被覆樹脂を熱分解して樹脂量を求めたところ、磁性体10gに対し、樹脂1.4〜1.7gという分析結果(平均1.62g)が得られた。このため、磁性体を少し加えて樹脂量を調整した後に再度シクロヘキサンに溶解し、同じように凝集粒子を製造したところ、同じ粒度分布をもつ吸着材が得られた。
【0069】
この吸着材を同様の油分吸着試験を行ったところ、油分500μLを全量回収していた(GC/MSの検出限界以下)。メタノールで洗浄し同様の試験を繰り返したところ、1回目の再生では499.8μL、10回目の再生でも499.0μLの油分を吸着し、再利用が可能であった。
【0070】
(実施例4)
マグネタイトの代わりに、平均粒子径500nmのシリカ(比表面積6.4m/g)に変更したこと以外は実施例1と同様に吸着、再生試験をおこなった。同様の試験で500μLの油含む水200mL中に投入し油を吸着させたところ、499.9μl以上の油分を回収していることがわかった。同様の再生を繰り返し、10回洗浄後(都合11回目の使用)においても499.8μLの油分を吸着し、繰り返し使用が可能であることがわかった。しかし、磁性体を含有していないため水中から油分吸着材を分離するのに沈降させなくてはならず、時間がかかった。
【0071】
(実施例5)
ポリスチレン6重量部を、100mlのテトラヒドロフラン中に溶解させて溶液とした。造粒機(ASONE製PZ-02R)に平均粒子径800nmの球状マグネタイト粒子40重量部(比表面積5.7m/g)を入れ、混合しながら先に作製した溶液を滴下させた。溶剤揮発後に、約5μm〜1mmの大きさの凝集体が形成されており、これを篩い分けして100μm以下の粒子をとり、油分吸着材の良品として回収し、実施例1と同様に吸着、再生試験をおこなった。同様の試験で500μLの油含む水200mL中に投入し油を吸着させたところ、499.9μl以上の油分を回収していることがわかった。同様の再生を繰り返し、10回洗浄後(都合11回目の使用)においても497.1μLの油分を吸着し、繰り返し使用が可能であることがわかった。
【0072】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0073】
例えば、上記実施例では、油吸着粒子を構成する金属粒子をマグネタイトとし、同じく無機粒子をシリカとしているが、これら以外の材料を用いた場合にも同様の結果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施形態における油分回収方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方、ポリマー、及びこのポリマーを溶解しうる溶媒Aを調合し組成物を製造するステップと、
前記組成物から油分吸着材を製造するステップと、
前記油分吸着材から規格外の油分吸着材を除去し、この規格外の油分吸着材を前記スラリー溶液中に溶解させるステップと、
前記油分吸着材を用いて油分を吸着するステップと、
前記油分を吸着した前記油分吸着材を、前記ポリマーを溶解させないような溶媒Bで洗浄し、前記油分吸着材と前記油分とを分離させるステップと、
前記油分及び前記溶媒Bを含んだ溶液から前記油分を分離させるステップと、
前記油分吸着材から前記溶媒Bを除去するステップと、
を具えることを特徴とする、油分回収方法。
【請求項2】
前記組成物は、無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方、ポリマー、及びこのポリマーを溶解しうる溶媒Aからなるスラリー溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の油分回収方法。
【請求項3】
前記スラリー溶液を噴霧乾燥することによって、前記油分吸着材を製造することを特徴とする、請求項2に記載の油分回収方法。
【請求項4】
前記油分吸着材からの前記溶剤Bの除去は、熱エネルギーにより行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項5】
前記熱エネルギーは、分離した前記油分を燃焼することによって得ることを特徴とする、請求項4に記載の油分回収方法。
【請求項6】
洗浄後の前記油分吸着材から除去された前記規格外の油分吸着材を、前記溶媒Aで洗浄して前記ポリマーを除去した後、前記無機粒子及び金属粒子の前記少なくとも一方とし、再度前記油分吸着材を製造して前記油分吸着材として再利用するステップを具えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項7】
洗浄後の前記油分吸着材から除去された前記規格外の油分吸着材を、前記溶媒Aで洗浄して前記ポリマーを除去し、前記無機粒子及び前記金属粒子の前記少なくとも一方として回収するステップを具えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項8】
前記油分吸着材から前記溶媒Bを除去した後、規格外の油分吸着材を除去し、規格内の油分吸着材を前記油分吸着材として再利用するステップを具えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項9】
前記溶媒Aが極性溶媒であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項10】
前記溶媒Aがアセトンであることを特徴とする、請求項9に記載の油分回収方法。
【請求項11】
前記溶媒Aがテトラヒドロフランであることを特徴とする、請求項9に記載の油分回収方法。
【請求項12】
前記溶媒Bがアルコールであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項13】
前記溶媒Bがメタノール及びエタノールの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項12に記載の油分回収方法。
【請求項14】
前記溶媒Bが非極性溶媒であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項15】
前記溶媒Bがヘキサンであることを特徴とする、請求項14に記載の油分回収方法。
【請求項16】
前記無機粒子及び前記金属粒子の前記少なくとも一方は、磁性体を含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項17】
前記磁性体はマグネタイトであることを特徴とする、請求項16に記載の油分回収方法。
【請求項18】
前記ポリマーは、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート及びこれらの共重合体の少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項19】
前記無機粒子及び前記金属粒子の平均粒子径が0.05ミクロン以上10ミクロン以下であることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一に記載の油分回収方法。
【請求項20】
前記油分吸着材の平均粒子径が10ミクロン以上1000ミクロン以下であることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一に記載の油分回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−99575(P2010−99575A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272452(P2008−272452)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】