説明

油圧シリンダ

【課題】シリンダチューブに対してピストンロッドが回転してロッドカバーが緩んでしまうようなことがあっても、パッキンの脱輪を防止して油漏れを引き起こすことがない油圧シリンダを提供する。
【解決手段】シリンダチューブ31と、該シリンダチューブ内に摺動自在に挿入されたピストンロッド32と、前記シリンダチューブのロッド側開口に螺着されて前記ピストンロッドを摺動可能かつ液密に保持するロッドカバー33とを備えた油圧シリンダにおいて、前記シリンダチューブに、前記ロッドカバーの外端面に係止可能な係止部45を有する抜止部材36を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダに関し、特に、チュービング装置のジャッキシリンダとして好適に用いることができる油圧シリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシングチューブの押し込み、引き抜きを行うチュービング装置(ケーシングドライバ)は、ケーシングチューブの外面を把持する複数のチャックを設けた回転体と、該回転体を回転可能に支持する昇降フレームと、該昇降フレームに設けられて前記回転体を回転させる回転駆動装置と、前記昇降フレームの昇降用シリンダを立設したベースフレームと、前記チャックを作動させるチャックフレームと、前記ベースフレームの四隅に設けられたジャッキシリンダとを備え、ジャッキシリンダにより装置の水平度を調節した状態で、各フレームを貫通するようにして設けたケーシング挿通孔に挿通したケーシングチューブをチャックで把持し、回転駆動装置で回転体を回転させながら昇降用シリンダで昇降フレームを降下させることにより、ケーシングチューブを地盤に圧入するように形成されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
前記ジャッキシリンダには、一般的な構造を有する油圧シリンダ、すなわち、図4の要部断面図に示すように、シリンダチューブ1と、該シリンダチューブ1内に摺動自在に挿入されたピストンロッド2と、前記シリンダチューブ1のロッド側開口に螺着されて前記ピストンロッド2を摺動可能かつ液密に保持するロッドカバー3とを備えた油圧シリンダが用いられている。また、シリンダチューブ1の外周にはフランジ4が設けられており、このフランジ4をボルト5で前記ベースフレーム6に固着している。さらに、ピストンロッド2の先端(下端)には球面座7が設けられており、この球面座7を介して地表に支持されている。
【0004】
前記ロッドカバー3の外周には、シリンダチューブ1にロッドカバー3を螺合させるための工具が係合する複数の切欠部3aが設けられるとともに、シリンダチューブ1の端面外周には鍔部1aが設けられており、ロッドカバー3をシリンダチューブ1に螺着した後、切欠部3a部分の鍔部1aを切欠部3a内に突出するようにカシメてカシメ部1bと切欠部3aとを係合させることにより、ロッドカバー3が回転しないようにしている。また、ロッドカバー3の内周や外周には、作動油の漏れを防止するための複数のパッキン8a〜8dが設けられ、ロッドカバー3とピストンロッド2との間にはブッシュ9が設けられている。
【特許文献1】特開平7−252833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
施工時のチュービング装置は、ケーシングチューブを押し込んだり、引き抜いたりしながら、正転させたり、逆転させたりを繰り返すため、その回転反力によってチュービング装置全体には水平方向の力が加わる。施工時におけるケーシング装置の重量や水平方向の力は、ジャッキシリンダの球面座がすべて受ける状態になっているため、球面座への当たり具合が片寄ったときに球面座に回転力が発生することがある。
【0006】
このとき、球面座の球面受けとロッド球面部との間の潤滑が切れていたり、荷重が大きかったりすると、ピストンロッドに回転力が伝わり、このピストンロッドの回転がパッキンやブッシュを介してロッドカバーを緩める方向に回転させることがある。ロッドカバーは、前述のようにシリンダチューブの端部に設けた鍔部を切欠部内に突出するようにカシメることで緩みが防止されてはいるが、強い回転力が繰り返されると、カシメ部が均されてロッドカバーが緩み、ねじ角部に設けたパッキン(Oリング8d)、さらに、シリンダチューブ1の内周面に接するパッキン(Oリング8c)が脱輪して油漏れを引き起こすおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、シリンダチューブに対してピストンロッドが回転してロッドカバーが緩むことを抑え、また、緩んでしまうようなことがあっても、パッキンの脱輪を防止して油漏れを引き起こすことがない油圧シリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の油圧シリンダは、シリンダチューブと、該シリンダチューブ内に摺動自在に挿入されたピストンロッドと、前記シリンダチューブのロッド側開口に螺着されて前記ピストンロッドを摺動可能かつ液密に保持するロッドカバーとを備えた油圧シリンダにおいて、前記シリンダチューブに、前記ロッドカバーの外端面に係止可能な係止部を有する抜止部材を設けたことを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の油圧シリンダは、前記シリンダチューブの外周に油圧シリンダを機器に固着するためのフランジが設けられ、前記抜止部材は、油圧シリンダを前記機器に固着するボルトにより前記フランジに共締めされていることを特徴とし、また、前記抜止部材は、前記フランジと共に前記機器に共締めされる環状板部と、該環状板部から前記ロッドカバーの外周部に向けて突出した筒状部と、該筒状部の突出端から内周側に向けて突出した前記係止部とを有していることを特徴としている。そして前記油圧シリンダが、チュービング装置のジャッキシリンダであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油圧シリンダによれば、ピストンロッドが回転してロッドカバーが回転しようとしたとき、あるいは、回転して緩んでしまったとしても、ロッドカバーの外端面に係止部が係止し、ロッドカバーが抜け方向にそれ以上移動することを規制するので、パッキンが脱輪することがなく、油漏れの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1乃至図3は本発明の油圧シリンダをチュービング装置に適用した一形態例を示すもので、図1は要部の一部断面正面図、図2はチュービング装置の一部断面正面図、図3は同じく平面図である。
【0012】
まず、図2及び図3に示すように、チュービング装置10は、前述のように、ケーシングチューブ11の外面を把持する複数のチャック12を設けた回転体13と、該回転体13を回転可能に支持する昇降フレーム14と、該昇降フレーム14に設けられて前記回転体13を回転させる回転駆動装置15と、前記昇降フレーム14を昇降させる昇降用シリンダ16を立設したベースフレーム17と、前記チャック12を作動させるチャックフレーム18と、前記ベースフレーム17の四隅に設けられたジャッキシリンダ19とを備えており、ベースフレーム17の側方には、必要に応じて押し込み反力をと受けるウエイト20を載置するためのウエイト台21が設けられる。また、ベースフレーム17の側面には、掘削機や相伴用のクレーンに連結したりするなどして施工時の回転反力を受けるためのビーム22が設けられている。
【0013】
ジャッキシリンダ19は、シリンダチューブ31と、該シリンダチューブ31内に摺動自在に挿入されたピストンロッド32と、前記シリンダチューブ31のロッド側開口に螺着されて前記ピストンロッド32を摺動可能かつ液密に保持するロッドカバー33とを備えており、ピストンロッド32の下端には球面座34が設けられている。また、シリンダチューブ31の外周には、ジャッキシリンダ19を前記ベースフレーム17に取り付けるためのフランジ35が設けられており、フランジ35の下面に抜止部材36を沿わせた状態で固定ボルト37によってベースフレーム17に共締めされて固着されている。
【0014】
ロッドカバー33は、シリンダチューブ31の内部に挿入される筒部33aと、シリンダチューブ31の開口端面に当接する鍔部33bとを有しており、筒部33aの内周面には、ピストンロッド32の外周面が摺接するブッシュ38と、該ブッシュ38の上下両端にそれぞれ配置されてピストンロッド32との間を液密に保持するための一対の環状パッキン39a,39bとが設けられている。また、筒部33aの外周面には、シリンダチューブ31の内面下端部に設けられた雌ねじ31aに螺合する雄ねじ40と、該雄ねじ40の上下にそれぞれ配置されてシリンダチューブ31との間を液密に保持するための一対の環状パッキン(Oリング)41a,41bとが設けられている。
【0015】
さらに、鍔部33bには、ロッドカバー螺合用の工具を係合させるための切欠部42が4箇所に等間隔で設けられるとともに、シリンダチューブ31の端面外周には鍔部31bが設けられており、ロッドカバー33をシリンダチューブ31のロッド側開口に螺着した後、各切欠部42に対応する部分の鍔部31bを切欠部42内に突出するようにカシメて、切欠部42にカシメ部31cを係合させることにより、ロッドカバー33の回転を防止するようにしている。
【0016】
抜止部材36は、フランジ35と共にベースフレーム17に共締めされる環状板部43と、該環状板部43からロッドカバー33の外周部に向けて突出した円錐形状の筒状部44と、該筒状部44の突出端から内周側に向けて突出し、ロッドカバー33の鍔部33bの外端面(下面)に係止可能な状態で配置される係止部45とを有している。係止部45の鍔部33b側の面(上面)の位置は、組み付け時に鍔部33bの下面に当接するように形成することもできるが、製作誤差を考慮して鍔部33bの下面と係止部45の上面との間に、ロッドカバー33が緩んでも下方のOリング41bが脱輪しない範囲で、適度な隙間が生じるように形成することが好ましい。
【0017】
このように、ロッドカバー33の下面に係止可能な係止部45を有する抜止部材36をシリンダチューブ31に設けることにより、何らかの原因でロッドカバー33が緩んだとしても、抜止部材36の係止部45によって下方のOリング41bが脱輪しない範囲にロッドカバー33を保持することができるので、Oリング41bの脱輪、さらに、Oリング41aの脱輪によって油漏れが発生することを防止できる。
【0018】
特に、前記チュービング装置10においては、ピストンロッド32の下端に設けた球面座34を介してチュービング装置10の重量と前記ウエイト20の重量とを4本のジャッキシリンダ19が支持するだけでなく、引き抜き時には、その引き抜き力をも受けることになる。また、図3に矢印で示すように、ケーシングチューブ11をトルクTmで回転させると、ビーム22を掘削機などに連結している部分にトルクTmの反力が横荷重Fmとして掛かるので、この横荷重Fm分の力がケーシングチューブ11にも横荷重として作用する。
【0019】
ケーシングチューブ11は、地面で支持されている状態になっているが、前記トルクTmが大きいと横荷重Fmも大きくなり、ケーシングチューブ11と共にチュービング装置10も横方向に僅かにズレることがある。特に、羽根付き鋼管杭を支持層に根入れする場合は、正転押し込み時のトルクTmと逆転引き抜き時のトルクTnとが交互に繰り返して作用するため、一方からの横荷重Fmと他方からの横荷重Fnとによる僅かなズレが左右に頻繁に繰り返される。
【0020】
このため、前述のように、球面座34の座面(底面)と地面との当たり具合が片寄ったときに、球面座34の球面受け34aとロッド球面部34bとの間の潤滑が切れていたり、球面座34に加わる荷重が大きかったりすると、ピストンロッド32に回転力が伝わり、このピストンロッド32の回転が環状パッキン39a,39bやブッシュ38を介してロッドカバー33を緩める方向に回転させ、強い回転力が繰り返してロッドカバー33に加わると、その回転力によってカシメ部31cが均されて切欠部42との係合力が弱くなり、ロッドカバー33の回転を防止する機能が失われ、ロッドカバー33が次第に緩んでくる。
【0021】
この場合、抜止部材36が無い状態では、ロッドカバー33の緩みが進んで下方のねじ角部に設けたダスト防止用のOリング41bが脱輪し、さらに、シリンダチューブ31の内周面に接するOリング41aが脱輪して油漏れを引き起こすおそれがあるが、前述のように抜止部材36を設けることにより、係止部45がロッドカバー33の下面に係止してロッドカバー33の緩みを規制するので、Oリング41bが脱輪しない範囲にロッドカバー33を保持することができ、油漏れの発生を防止できる。
【0022】
また、フランジ35を利用して抜止部材36をベースフレーム17に共締めすることにより、ジャッキシリンダ19には、従来から用いられているものをそのまま使用することができるので、ジャッキシリンダ自体の構造変更やチュービング装置10の構造変更を必要とせず、既存のチュービング装置10にも、固定ボルト37の長さを変えるだけで適用可能である。
【0023】
なお、前記形態例では、抜止部材36を、環状板部43、筒状部44及び係止部45により形成し、環状板部43をフランジ35と共にベースフレーム17に共締めするように形成し、ジャッキシリンダ19と抜止部材36とを同時にベースフレーム17に取り付けることによって製造工程の簡略化を図っているが、抜止部材36の形状、構造はこれに限るものではない。
【0024】
例えば、前記形態例と同様に、環状板部43、筒状部44及び係止部45で形成した抜止部材36における環状板部43を、シリンダチューブ31をベースフレーム17に固着するための前記フランジ35とは別に設けたフランジ状の突出部材に別途固着するようにしてもよく、前記固定ボルト37とは別の取付ボルトでフランジ35に固着するようにしてもよい。また、筒状部及び係止部にて抜止部材を形成し、筒状部をシリンダチューブの外周にボルトで固着したり、溶接で固着したり、あるいは、螺着にて固着したりすることも可能である。さらに、抜止部材を周方向に複数に分割した形状の部材に形成し、分割した複数の各部材を前記フランジやシリンダチューブ外周などにそれぞれ固着するように形成することも可能であり、抜止部材36の環状板部43,筒状部44及び係止部45の一部を、油圧ポートを避けるようにカットした形状、例えばC字形に形成することもできる。また、本発明の油圧シリンダは、シリンダチューブやロッドカバーに対してピストンロッドを回転させる力が発生するような状態で使用される各種油圧シリンダに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の油圧シリンダをチュービング装置に適用した一形態例を示す要部の一部断面正面図である。
【図2】チュービング装置の一部断面正面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】従来のジャッキシリンダの一構造例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10…チュービング装置、11…ケーシングチューブ、12…チャック、13…回転体、14…昇降フレーム、15…回転駆動装置、16…昇降用シリンダ、17…ベースフレーム、18…チャックフレーム、19…ジャッキシリンダ、20…ウエイト、21…ウエイト台、22…ビーム、31…シリンダチューブ、31a…雌ねじ、31b…鍔部、31c…カシメ部、32…ピストンロッド、33…ロッドカバー、33a…筒部、33b…鍔部、34…球面座、34a…球面受け、34b…ロッド球面部、35…フランジ、36…抜止部材、37…固定ボルト、38…ブッシュ、39a,39b…環状パッキン、40…雄ねじ、41a,41b…Oリング、42…切欠部、43…環状板部、44…筒状部、45…係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダチューブと、該シリンダチューブ内に摺動自在に挿入されたピストンロッドと、前記シリンダチューブのロッド側開口に螺着されて前記ピストンロッドを摺動可能かつ液密に保持するロッドカバーとを備えた油圧シリンダにおいて、前記シリンダチューブに、前記ロッドカバーの外端面に係止可能な係止部を有する抜止部材を設けたことを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項2】
前記シリンダチューブの外周に油圧シリンダを機器に固着するためのフランジが設けられ、前記抜止部材は、油圧シリンダを前記機器に固着するボルトにより前記フランジに共締めされていることを特徴とする請求項1記載の油圧シリンダ。
【請求項3】
前記抜止部材は、前記フランジと共に前記機器に共締めされる環状板部と、該環状板部から前記ロッドカバーの外周部に向けて突出した筒状部と、該筒状部の突出端から内周側に向けて突出した前記係止部とを有していることを特徴とする請求項2記載の油圧シリンダ。
【請求項4】
前記油圧シリンダは、チュービング装置のジャッキシリンダであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の油圧シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−121571(P2009−121571A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295235(P2007−295235)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】