説明

油圧ジャッキ

【課題】ジャッキアップの作業効率を向上させる。
【解決手段】長尺形状のハンドル30を上下に揺動させたときの操作力を利用して、ベース10に対して揺動可能に連結されたリンク部材26を含むリンク機構により、オイルタンク18からシリンダ12にジャッキオイル20を供給する一対のポンプピストン24を逆位相で作動させる。そして、シリンダ12に往復動可能に嵌挿されたピストン14を上方に突出させ、対象物をジャッキアップする。このため、ハンドル30を上方又は下方のどちらに動かしても、一方のポンプピストン24からシリンダ12にジャッキオイル20が供給され、対象物をジャッキアップすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体などの対象物をジャッキアップする油圧ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
車体などの対象物をジャッキアップするため、特開2002−87767号公報(特許文献1)に記載されるような油圧ジャッキが知られている。この油圧ジャッキは、ポンプピストンの近傍を支点として揺動するハンドルを上下させることで、オイルタンクからシリンダにジャッキオイルを供給し、シリンダに嵌挿されたピストンを突出させて対象物をジャッキアップする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−87767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の油圧ジャッキでは、ハンドルを上方に動かしたときに、オイルタンクからポンプピストンにジャッキオイルが吸い込まれる一方、ハンドルを下方に動かしたときに、ポンプピストンからシリンダにジャッキオイルが供給されていた。このため、ハンドルを下方に動かしたときのみ対象物がジャッキアップされ、その作業効率が良好ではなかった。
【0005】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、ハンドルを上方又は下方のどちらに動かしても対象物がジャッキアップされるようにし、その作業効率を向上させた油圧ジャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、作動油を貯蔵するオイルタンクと、対象物をジャッキアップするピストンが往復動可能に嵌挿されたシリンダと、オイルタンクからシリンダに作動油を供給する一対のポンプピストンと、設置面となるベースに対して上下に揺動可能に取り付けられる長尺形状のハンドルと、ハンドルの揺動に応じて一対のポンプピストンを逆位相で作動させるリンク機構と、を含んで油圧ジャッキを構成する。ここで、「一対のポンプピストンを逆位相で作動させる」とは、一方のポンプピストンのロッドを引き出すときに、他方のポンプピストンのロッドを押し込むように作動させることをいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ハンドルを揺動させると、一対のポンプピストンが逆位相で作動するため、オイルタンクからシリンダの作動室に連続的に作動油が供給されることとなる。従って、ハンドルを上方又は下方のどちらに動かしても対象物がジャッキアップされ、その作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を実施するための実施形態における油圧ジャッキの説明図
【図2】油圧ジャッキの油圧回路図
【図3】一対のポンプピストンを逆位相で作動させる他の機構の説明図
【図4】補助ベースの第1実施例を示し、(A)は収納時、(B)は使用時の説明図
【図5】補助ベースの第2実施例を示し、(A)は収納時、(B)は使用時の説明図
【図6】補助ベースの第3実施例を示し、(A)は収納時、(B)は使用時の説明図
【図7】補助ベースの第3実施例の変形例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照して、本発明を実施するための実施形態を詳述する。
図1は、本実施形態における油圧ジャッキの一例を示す。
路面などに載置される略矩形形状をなすベース10の上面には、その板面に対して垂直となるように、薄肉円筒形状をなすシリンダ12の基端が固定される。シリンダ12には、略円柱形状をなす中実又は中空のピストン14が往復動可能に嵌挿される。シリンダ12の先端から上方に突出するピストン14の先端には、例えば、対象物のジャッキポイントを支持する略円板形状をなすサドル16が取り付けられる。なお、サドル16は、公知のアジャスターを介してピストン14の先端に取り付けられてもよい。
【0010】
また、ベース10の上面には、シリンダ12と略同心に配置されつつこれを取り囲むように、上端が中心軸方向に向かって屈曲した略薄肉円筒形状をなすオイルタンク18の基端が固定される。そして、オイルタンク18は、その内周面,ベース10の上面及びシリンダ12の外周面により区画される領域に、作動油としてのジャッキオイル20を貯蔵する。
【0011】
さらに、ベース10の上面には、ベース10の上面,シリンダ12の内周面及びピストン14の下面により区画される作動室22にジャッキオイル20を供給するため、一対のポンプピストン24が立設される。一対のポンプピストン24は、具体的には、ベース10の周縁の近傍であって、矩形の外縁を形成する縦辺又は横辺に沿って離間した状態で立設される。各ポンプピストン24の軸心を結んだ線分の略中央に位置するベース10には、例えば、矩形形状をなすリンク部材26の中間が揺動可能に連結されるブラケット28が立設される。リンク部材26には、ブラケット28への連結点を挟んだ両側に、例えば、クレビスを介して、各ポンプピストン24から上方に突出するロッド24Aが揺動可能に連結される。ここで、一対のポンプピストン24のロッド24Aは、ハンドル30の操作力が上下で等しくなるように、ブラケット28に対するリンク部材26の連結点から略等距離の位置に連結することが望ましい。また、リンク部材26の一端には、これと略同軸になるように、長尺形状のハンドル30を着脱可能に嵌合するハンドルスリーブ32の基端が一体化される。
【0012】
一方のポンプピストン24の作動室24Bは、図2に示すように、第1の油路34を介してオイルタンク18の下部に連通接続されると共に、第2の油路36を介してピストン14の作動室22に連通接続される。第1の油路34には、オイルタンク18から一方のオイルピストン24へと向かう方向にのみ開弁する第1のチェックバルブ38が配設される一方、第2の油路36には、一方のオイルピストン24からピストン14の作動室22へと向かう方向にのみ開弁する第2のチェックバルブ40が配設される。
【0013】
他方のポンプピストン24の作動室24Bは、第3の油路42を介してピストン14の作動室22に連通接続されると共に、第4の油路44を介してオイルタンク18の下部に連通接続される。第3の油路42には、他方のポンプピストン24からピストン14の作動室22へと向かう方向にのみ開弁する第3のチェックバルブ46が配設される一方、第4の油路44には、オイルタンク18から他方のポンプピストン24へと向かう方向にのみ開弁する第4のチェックバルブ48が配設される。
【0014】
また、ピストン14の作動室22は、リリースバルブ50が配設された連通路52を介して、オイルタンク18の下部に連通接続される。
なお、第1の油路34,第2の油路36,第3の油路42,第4の油路44及び連通路52は、夫々、ベース10の内部に形成される。
そして、ハンドル30を上方に動かすと、リンク部材26とブラケット28との連結点を中心として、一方のポンプピストン24のロッド24Aが引き出されると共に、他方のポンプピストン24のロッド24Aが押し込まれる。一方のポンプピストン24のロッド24Aが引き出されると、その作動室24Bの容積が増大して負圧となることから、オイルタンク18に貯蔵されたジャッキオイル20が第1の油路34を介して作動室24Bに吸い込まれる。このとき、第2の油路36に配設された第2のチェックバルブ40が開弁しないため、ピストン14の作動室22に供給されたジャッキオイル20がポンプピストン24の作動室24Bに逆流することを阻止できる。また、他方のポンプピストン24のロッド24Aが押し込まれると、その作動室24Bの容積が減少して圧力が上昇することから、作動室24Bに吸い込まれたジャッキオイル20が第3の油路42を介してピストン14の作動室22に供給される。このとき、第4の油路44に配設された第4のチェックバルブ48が開弁しないため、ポンプピストン24の作動室24Bからオイルタンク18にジャッキオイル20が逆流することを阻止できる。
【0015】
ハンドル30を下方に動かすと、リンク部材26とブラケット28との連結点を中心として、一方のポンプピストン24のロッド24Aが押し込まれると共に、他方のポンプピストン24のロッド24Aが引き出される。一方のポンプピストン24のロッド24Aが押し込まれると、その作動室24Bの容積が減少して圧力が上昇することから、作動室24Bに吸い込まれたジャッキオイル20が第2の油路36を介してピストン14の作動室22に供給される。このとき、第1の油路34に配設された第1のチェックバルブ38が開弁しないため、ポンプピストン24の作動室24Bからオイルタンク18にジャッキオイル20が逆流することを阻止できる。また、他方のポンプピストン24のロッド24Aが引き出されると、その作動室24Bの容積が増大して負圧となることから、オイルタンク18に貯蔵されたジャッキオイル20が第4の油路44を介して作動室24Bに吸い込まれる。このとき、第3の油路42に配設された第3のチェックバルブ46が開弁しないため、ピストン14の作動室22に供給されたジャッキオイル20がポンプピストン24の作動室24Bに逆流することを阻止できる。
【0016】
このように、ハンドル30を上方又は下方に動かすと、一方のポンプピストン24のロッド24Aが引き出されるときに、他方のポンプピストン24のロッド24Aが押し込まれるように、一対のポンプピストン24が逆位相で作動する。このため、ハンドル30の上下に伴って、オイルタンク18からピストン14の作動室22に連続的にジャッキオイル20が供給されることとなる。従って、ハンドル30を上方又は下方のどちらに動かしても対象物がジャッキアップされ、その作業効率を向上させることができる。
【0017】
なお、対象物をジャッキダウンするときには、リリースバルブ50を開弁させることで、ピストン14の作動室22に供給されたジャッキオイル20が連通路52を介してオイルタンク18に排出される。
ハンドル30を上方又は下方に動かしたときに、一対のポンプピストン24を逆位相で作動させる機構として、図3に示すように、一方のポンプピストン24のロッド24Aの上下動を、歯面が対向する一対のラック60及びこれらに噛み合うピニオン62を介して、他方のポンプピストン24のロッド24Aに伝達するようにしてもよい。この場合、一方のポンプピストン24のロッド24Aを上下動させる機構としては、公知のリンク機構を適宜適用すればよい。
【0018】
かかる油圧ジャッキの設置安定性を向上させるため、ベース10の下面に、図4に示すように、任意に引き出し可能な補助ベース70を取り付けてもよい。即ち、ベース10の下面に、その矩形の交差する対角線に沿って移動可能なように、ベース10と同一形状をなす板材を複数、例えば、隣接する2辺に平行な線分で4分割した分割体からなる補助ベース70を取り付ける。補助ベース70は、同図(A)に示すように、平面視でベース10の範囲内に収まる「収納位置」と、同図(B)に示すように、ベース10の外縁から外方へと引き出された「引出位置」と、の間で移動できるようにする。ここで、ベース10に対する補助ベース70の取り付けは、例えば、ベース10に略T字断面をなす溝10Aを形成する一方、補助ベース70に略T字形状をなすピン70Aを立設し、溝10Aとピン70Aとを嵌合すればよい。
【0019】
そして、油圧ジャッキを使用するときには、図4(B)に示すように、補助ベース70を引出位置まで引き出すことで、路面などに対する油圧ジャッキの設置範囲が拡大し、油圧ジャッキの設置安定性を向上させることができる。一方、油圧ジャッキを使用しないときには、図4(A)に示すように、補助ベース70を収納位置まで移動させることで、油圧ジャッキの外形寸法が小さくなり、例えば、車載が困難となることを抑制できる。
【0020】
なお、補助ベース70は、多方向に対する油圧ジャッキの設置安定性を向上させるため、ベース10と同一形状の板材について、隣接する2辺に平行な線分であって、図心を通る線分で略等面積に4分割した形状とすることが望ましい。
補助ベース70は、図5に示すように、ベース10と同一形状の板材について、2つの対角線で4分割した略等面積の略三角形状とし、ベース10の図心を通る、隣接した2辺に平行な線に沿って移動可能としてもよい。
【0021】
また、補助ベース70は、図6に示すように、ベース10の四隅に回動可能に取り付けられた略矩形形状をなす4つの板材とし、これを同図(A)に示す「収納位置」と、同図(B)に示す「引出位置」と、の間で回動(移動)できるようにしてもよい。ここで、ベース10の下面に、補助ベース70を収納位置まで回動させたときに、これが嵌まりつつその下面まで突出する凸部10Bを形成することが望ましい。このようにすれば、ベース10の凸部10Bも油圧ジャッキの設置に資するため、例えば、設置に係る面圧が必要以上に増大することを抑制できる。また、補助ベース70は、多方向に対する油圧ジャッキの設置安定性を向上させるため、図7に示すように、ベース10の2つの対角線上を引出位置としてもよい。
【0022】
なお、本発明は、シリンダ12とオイルタンク18とが略同心に配置されておらず、例えば、オイルタンク18が独立して設けられている油圧ジャッキにも適用可能である。また、本発明は、補助ベース70の適用が制限されるが、ベース10が略矩形形状をなしていないものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0023】
10 ベース
12 シリンダ
14 ピストン
18 オイルタンク
20 ジャッキオイル
24 ポンプピストン
24A ロッド
26 リンク部材
28 ブラケット
30 ハンドル
32 ハンドルスリーブ
60 ラック
62 ピニオン
70 補助ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油を貯蔵するオイルタンクと、
対象物をジャッキアップするピストンが往復動可能に嵌挿されたシリンダと、
前記オイルタンクからシリンダに作動油を供給する一対のポンプピストンと、
設置面となるベースに対して上下に揺動可能に取り付けられる長尺形状のハンドルと、
前記ハンドルの揺動に応じて、前記一対のポンプピストンを逆位相で作動させるリンク機構と、
を含んで構成されたことを特徴とする油圧ジャッキ。
【請求項2】
前記リンク機構は、
前記ベースの垂直面上で揺動可能なように、該ベースに対して中間が連結されたリンク部材と、
前記リンク部材の一端にハンドルを着脱可能に嵌合するハンドルスリーブと、
を含んで構成され、
前記リンク部材の連結点を挟んだ両側に、前記一対のポンプピストンのロッドが揺動可能に連結されたことを特徴とする請求項1記載の油圧ジャッキ。
【請求項3】
前記一対のポンプピストンのロッドは、前記ベースに対するリンク部材の連結点から略等距離の位置に連結されたことを特徴とする請求項2記載の油圧ジャッキ。
【請求項4】
前記リンク機構は、一方のポンプピストンにおけるロッドの往復運動を、歯面が対向する一対のラック及び該一対のラックに噛み合うピニオンを介して、他方のポンプピストンにおけるロッドに伝達することを特徴とする請求項1記載の油圧ジャッキ。
【請求項5】
前記ベースの下面に、平面視において、前記ベースの範囲内に収まる収納位置と、前記ベースの外縁から外方へと引き出した引出位置と、の間で移動可能な補助ベースを取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の油圧ジャッキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−56651(P2012−56651A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199193(P2010−199193)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)