説明

油圧ハンマの消音器

【課題】杭の打設音を大幅に低減できるコンパクトな油圧ハンマの消音器を提供する。
【解決手段】油圧ハンマ10のスリーブ12の外周側にすき間Sをあけて配置される両端開口の筒状のカバー体2と、カバー体2の下端部にスリーブ12よりも内周側に突出して取り付けられる環状の弾性部材3と、すき間Sに配置される吸音材4とを備えているので、油圧ハンマ10で杭14を打設する際には、スリーブ12の下端開口12aでは、スリーブ12と杭14とのすき間Sを弾性部材3で覆って、下端開口12aから発せられる打設音を弾性部材3で反射させ、すき間Sがカバー体2の上端開口2aを通じてカバー体2の外部と連通しているので、反射させた打設音はこのすき間Sにこもることなく、カバー体2の上端開口2aに向かって進入し、その過程で吸音材4によって減衰される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ハンマの消音器に関し、さらに詳しくは、油圧ハンマが杭を打設する際に生じる騒音を大幅に低減できるコンパクトな油圧ハンマの消音器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ハンマにより杭を打設する際には、騒音となる打設音が発生する。この騒音を低減させる消音器は種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている消音器は、ハンマ本体の外周側にすき間をあけて配置される筒状防音壁部を有している。この筒状防音壁部の下端部には環状の防音シールが設けられ、この消音器によってハンマ本体の略下半部と杭頭とは密閉的に被覆される構造になっている。即ち、杭と筒状防音壁部とのすき間は密閉された空気通路になっている。
【0003】
したがって、この消音器では、打設音が密閉された空気通路にこもるので、直接、外部に打設音が伝わる場合に比して騒音を抑えることが可能である。しかしながら、密閉された空気通路にこもった音が、筒状防音壁部を通じて外部に伝わるため、騒音を大幅に低減させるには改善の余地があった。
【0004】
杭の打設音は様々な位置から発せられるが、本発明者らは、最大の騒音源が油圧ハンマのスリーブの下端開口であることを解明した。そのため、騒音を大幅に低減させるには、この位置から発せられる打設音を低減させることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−81720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、油圧ハンマが杭を打設する際に生じる騒音を大幅に低減できるコンパクトな油圧ハンマの消音器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の油圧ハンマの消音器は、油圧ハンマのスリーブの外周側にすき間をあけて配置される両端開口の筒状のカバー体と、このカバー体の下端部に前記スリーブよりも内周側に突出して取り付けられる環状の弾性部材と、前記すき間に配置される吸音材とを備え、前記カバー体をスリーブの外周側に配置した際に、前記すき間がカバー体の上端開口を通じてカバー体の外部と連通することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記カバー体の上方位置に、前記すき間を覆うように、このカバー体の上端とすき間をあけて配置される上端カバー部が設けられた仕様にすることもできる。前記カバー体が前記スリーブの上に設置されたアンビルから吊設される仕様にすることもできる。或いは、前記カバー体が前記スリーブの外周面に固定される仕様にすることもできる。前記カバー体の下端部に配置される吸音材が、上端部に配置される吸音材よりも密度が大きく設定されている仕様にすることもできる。前記弾性部材の上面に、吸音材が配置された仕様にすることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の消音器によれば、油圧ハンマのスリーブの外周側にすき間をあけて配置される両端開口の筒状のカバー体と、このカバー体の下端部に前記スリーブよりも内周側に突出して取り付けられる環状の弾性部材と、前記すき間に配置される吸音材とを備えているので、この消音器を取り付けた油圧ハンマで杭を打設する際には、スリーブの下端開口では、スリーブと杭とのすき間を環状の弾性部材で覆うことが可能になる。そのため、スリーブの下端開口から発せられる打設音は弾性部材で反射して外部への漏れが抑制され、また、カバー体によっても外部への漏れが抑制される。また、コンパクトな構成にすることができ、取り扱い、移動、保管等が容易になり、コスト低減にも有利になる。
【0010】
そして、前記カバー体をスリーブの外周側に配置した際には、スリーブの外周面とカバー体とのすき間がカバー体の上端開口を通じてカバー体の外部と連通しているので、反射させた打設音は、すき間をカバー体の上端開口に向かって進入し、このすき間にこもることがない。進入した打設音は、その過程ですき間に配置された吸音材によって減衰されるので、コンパクトな構成でありながら騒音となる打設音を大幅に低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の油圧ハンマの消音器の実施形態を例示する正面図である。
【図2】図1の消音器の縦断面図である。
【図3】図1の消音器の横断面図である。
【図4】消音器の別の実施形態を例示する縦断面図である。
【図5】図4の消音器に外側カバー部材を取り付けた実施形態を例示する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の油圧ハンマの消音器を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図3に例示するように、本発明の消音器1は、油圧ハンマ10に取り付けられて使用される。油圧ハンマ10は、ラムを内設したハンマ本体10aの下端部にアンビル11が設けられ、アンビル11から下方に筒状のスリーブ12が延設されている。スリーブ12の下端は開口し、その内周面には打設する杭14をガイドする突出部13が、周方向に間隔をあけて設けられている。スリーブ12の内周面には突出部13がない場合もある。
【0014】
油圧ハンマ10は、クレーンのワイヤによって吊られて、スリーブ12を杭14の頭部に外嵌させて設置される。この状態で、ハンマ本体10aに内設されたラムをアンビル11に落下させて、アンビル11を介して杭14の頭部を打撃することにより杭14が打設される。
【0015】
消音器1は、両端開口の筒状のカバー体2と、カバー体2の下端部に取り付けられる環状の弾性部材3と、カバー体2の内部に配置される吸音材4とを備えている。カバー体2は、油圧ハンマ10のスリーブ12の外周側にすき間Sをあけて配置される。弾性部材3は、スリーブ12よりも内周側に突出して取り付けられる。吸音材4は、すき間Sに配置される。カバー体2をスリーブ12の外周側に配置した際には、すき間Sがカバー体2の上端開口2aを通じてカバー体2の外部と連通する構造になっている。
【0016】
カバー体2の外周面には取付部2cが突設され、アンビル11の上面には取付部11aが突設されている。そして、上下に対向する取付部2c、11aに接続されたシャックル8a、8aは、取付けワイヤ7およびターンバックル8bによって連結されている。このようにカバー体2は、スリーブ12の上に設置されたアンビル11から吊設されてスリーブ12の外周側に配置されている。尚、消音器1の不測の落下を防止するために、上下に対向するシャックル8a、8aには、落下防止ワイヤ9が接続されている。
【0017】
取付部11aは、アンビル11の上面に限らず他の位置に設けることもできる。例えば、ハンマ本体10aに取付部11aを突設することもできる。
【0018】
このように吊設される消音器1によれば、既存の油圧ハンマ10に対する着脱が容易になる。したがって、消音器1が必要な場合にだけ油圧ハンマ10に取付けるようにして、不要な場合には取り外して油圧ハンマ10を使用することができる。
【0019】
カバー体2は一般炭素鋼等により形成されていて、スリーブ12と同様に円筒状が好ましい。カバー体2の壁厚は、例えば12mm〜25mm程度である。
【0020】
弾性部材3としては、ゴム、軟質樹脂等を用いることができる。弾性部材3は、その内周面3aが、打設する杭14の外周面14aに僅かに当接する、或いは、外周面14aとは0〜20mm程度の間隔を有するように設置される。即ち、弾性部材3はカバー体2の下端開口2bを塞ぐように設置される。打設音の抑制や弾性部材3の摩耗等を考慮すると、弾性部材3は内周面3aが外周面14aと0〜10mmの間隔を有するように設置するのがより好ましい。
【0021】
スリーブ12の外周面とカバー体2の内周面とのすき間Sの間隔は、例えば50mm〜250mm程度である。このすき間Sの全範囲を充填するように吸音材4が配置されている。
【0022】
吸音材4としては、例えば、グラスウール、発泡ゴムや発泡樹脂等の発泡体を使用することができる。グラスウールの場合は、例えば、その密度は20kg/m3〜120kg/m3である。
【0023】
この実施形態では、カバー体2の上方位置に、すき間Sを覆うように、カバー体2の上端とすき間S1をあけて配置される環状の上端カバー部5が設けられている。上端カバー部5を設けない場合は、カバー体2の上端開口2aを通じてすき間Sに雨等が入り込んで吸音材4が濡れることある。吸音材4が濡れると打設音を減衰させる性能が悪化するという不具合が生じる。一方、上端カバー部5を設けると、このような不具合を防止することができる。すき間Sへの雨等の浸入をより確実に防止するために、上端カバー部5は、カバー体2よりも外周側に突出させるとともに、外周側へ向かって下方に傾斜した環状体にするとよい。
【0024】
上記のように本発明の消音器1は、油圧ハンマ10のスリーブ12を覆う程度の大きさにできるのでコンパクトになる。これに伴って、消音器1の取り扱い、移動、保管等が容易になる。消音器1の製造コストを低減するにも有利になる。
【0025】
本発明の消音器1を用いると、コンパクトな構成でありながら、最も大きな騒音源となるスリーブ12の下端開口12aから発せられる打設音が弾性部材3で反射する。これにより、下端開口12aから消音器1の外部へ漏れる打設音が抑制される。
【0026】
反射した打設音は、すき間Sをカバー体2の上端開口2aに向かって進入する。進入した打設音は、その過程ですき間Sに配置されている吸音材4によって減衰されるので、騒音となる打設音を大幅に低減させることが可能になる。スリーブ12の外周面とカバー体2とのすき間Sを、カバー体2の上端開口2aを通じてカバー体2の外部と連通させているので、浸入した打設音がすき間Sにこもらないようになっている。
【0027】
例えば、本発明の消音器1を用いることによって、ラム重量10トン級の油圧ハンマで杭を打設する際の打設音の騒音レベルを、31.5Hz〜8kHzの周波数範囲を評価したオールパスで6dB以上低減させることが可能になる。
【0028】
吸音材4は、すべての位置で同じ仕様にすることができるが、配置する位置によって密度を異ならせることもできる。杭14を打設する際には、カバー体2の下端開口2bのすき間Sから発せられる打設音が最も大きな騒音源になるので、例えば、カバー体2の下端部に配置される吸音材4の密度を、上端部に配置される吸音材4の密度よりも大きくする。一般的な範囲内であれば、吸音材4の密度が高い程、打設音を減衰させる効果が大きくなるので、騒音源に近い場所の吸音材4の密度をより高くすると、騒音を抑制するには有利になる。或いは、吸音材4の密度を、カバー体2の上端部に配置される吸音材4、中央部に配置される吸音材4、下端部に配置される吸音材4の順に徐々に大きくすることもできる。
【0029】
必要に応じて、弾性部材3の上面に吸音材4aが配置することもできる。これにより、弾性部材3を通じてカバー体2の外部に漏れる打設音を抑制するには一段と有利になる。この吸音材4aは、杭14の外周面14aに当接しないようにすき間をあけて配置するとよい。
【0030】
カバー体2がアンビル11から吊設される仕様の場合は、消音器1と杭14との一体性に欠けるため、打設した杭14の位置確認等する測量の際のマーキングを消音器1に付することができない。そのため、マーキングできない範囲を小さくするためには、消音器1(カバー体2)の筒軸方向長さを小さくすることが望ましい。一方で、騒音低減効果を向上させるには、すき間Sの長さを確保するため、ある程度の筒軸方向長さが必要である。そのため、カバー体2の筒軸方向長さを1.0m〜2.5m程度にすることが好ましい。
【0031】
図4に例示する消音器1の実施形態では、カバー体2がスリーブ12の外周面に固定されている。具体的には、カバー体2の内周面に周方向に間隔をあけてスペーサ6が突設されていて、スペーサ6がスリーブ12の外周面に溶接されている。カバー体2はボルト等の締結部材を用いてスリーブ12に固定することもできる。
【0032】
スリーブ12の外周面とカバー体2とのすき間Sには吸音材4が充填され、カバー体2の下端部にはスリーブ12よりも内周側に突出して環状の弾性部材3が取り付けられている。また、カバー体2をスリーブ12の外周側に配置した際に、すき間Sがカバー体2の上端開口2aを通じてカバー体2の外部と連通している。この実施形態は、カバー体2をスリーブ12の外周側に配置する手段が異なる以外は、先の実施形態と同様の構造である。このようにカバー体2がスリーブ12と一体的に固定されている仕様にすると、打設した杭14の位置確認等する測量の際のマーキングをカバー体2に付することが可能になるという利点がある。これに伴って、カバー体2の筒軸方向長さを自由に設定することが可能になる。
【0033】
図5に例示するように、アンビル11、上端カバー部5およびカバー体2を覆って、下端を開口した外側カバー部材15を設けることもできる。外側カバー部材15は、一般的な樹脂シートや帆布シート、一般炭素鋼等の金属で形成されたものを用いることができる。外側カバー部材15の上端部は油圧ハンマ10に適宜固定する。模型実験においては、外側カバー部材15を取り付けた消音器1を用いることによって、打設音の騒音レベルを、31.5Hz〜8kHzの周波数範囲を評価したオールパスで10dB以上低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1 消音器
2 カバー体
2a 上端開口
2b 下端開口
2c 取付部
3 環状の弾性部材
3a 内周面
4 4a 吸音材
5 上端カバー部
6 スペーサ
7 取付けワイヤ
8a シャックル
8b ターンバックル
9 落下防止ワイヤ
10 油圧ハンマ
10a ハンマ本体
11 アンビル
11a 取付部
12 スリーブ
12a 下端開口
13 突出部
14 杭
14a 外周面
15 外側カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ハンマのスリーブの外周側にすき間をあけて配置される両端開口の筒状のカバー体と、このカバー体の下端部に前記スリーブよりも内周側に突出して取り付けられる環状の弾性部材と、前記すき間に配置される吸音材とを備え、前記カバー体をスリーブの外周側に配置した際に、前記すき間がカバー体の上端開口を通じてカバー体の外部と連通することを特徴とする油圧ハンマの消音器。
【請求項2】
前記カバー体の上方位置に、前記すき間を覆うように、このカバー体の上端とすき間をあけて配置される上端カバー部が設けられた請求項1に記載の油圧ハンマの消音器。
【請求項3】
前記カバー体が前記スリーブの上に設置されたアンビルから吊設される請求項1または2に記載の油圧ハンマの消音器。
【請求項4】
前記カバー体が前記スリーブの外周面に固定される請求項1または2に記載の油圧ハンマの消音器。
【請求項5】
前記カバー体の下端部に配置される吸音材が、上端部に配置される吸音材よりも密度が大きく設定されている請求項1〜4のいずれかに記載の油圧ハンマの消音器。
【請求項6】
前記弾性部材の上面に、吸音材が配置された請求項1〜5のいずれかに記載の油圧ハンマの消音器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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