説明

油圧ユニット

【課題】作動油の劣化診断におけるユーザの手間を軽減し、油圧ユニットの運転中に生じる作動油の劣化を即座に検知すること。
【解決手段】油圧ユニット10は、積算処理部51、劣化判定部55、及び警告部57を備えている。積算処理部51では、油圧ポンプ21の吐出圧力P、油圧ポンプ21の吐出流量V、及び油タンク24内の作動油の温度Tの検出値(または算出値)を用いて所定時間毎に演算が行われ、演算値が積算される。劣化判定部55では、積算処理部51の積算値が所定値に達すると、作動油が劣化したと判定される。警告部57では、劣化判定部55で作動油が劣化したと判定されると、劣化が警告される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油を油圧アクチュエータへ供給する油圧ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧ユニットから油圧アクチュエータへ供給される作動油を劣化診断する装置が知られている。例えば、特許文献1には、この種の診断装置が開示されている。この診断装置は、油圧ユニットから採取された作動油のサンプルに光を照射する照射部と、該照射部からサンプルの上部と下部へそれぞれ透過した光を別々に受光する2つの受光部と、該2つの受光部から出力される光信号を解析して作動油の劣化を診断する劣化診断部とを備えている。
【0003】
この診断装置では、作動油の劣化が進行した際に生成される酸化物(スラッジ等)や金属磨耗粉をサンプルの下部に沈降させた状態で、劣化診断が行われる。これらの物質は、一定の波長の光を吸収する性質を持っている。そのため、サンプルの下部を透過した光のスペクトルは、サンプルの上部を透過した光のスペクトルと異なるものとなる。この装置では、この2つの透過光のスペクトル差に基づいて、作動油の劣化度合が診断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−139696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の装置を用いて作動油の劣化を診断する場合、作動油を採取して診断用のサンプルを作製するユーザの手間が大きいため、継続的な診断が難しく、定期的な診断をせざるを得なかった。そのため、例えば、油圧ユニットの運転中に作動油が急激に劣化しても、それを即座に検知することが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、作動油の劣化診断におけるユーザの手間を軽減し、油圧ユニットの運転中に生じる作動油の劣化を即座に検知することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、油タンク(24)と該油タンク(24)から油圧アクチュエータへ作動油を供給する油圧ポンプ(21)とが接続された油圧回路(20)を有する油圧ユニットを前提としている。そして、この油圧ユニットは、上記油圧ポンプ(21)の吐出圧力、上記油圧ポンプ(21)の吐出流量、及び上記油圧回路(20)の作動油の温度の内、少なくとも1つを用いて所定時間毎に演算し、該演算した値を積算する積算処理部(51)と、上記積算処理部(51)の積算値が所定値に達すると、作動油が劣化したと判定する劣化判定部(55)と、上記劣化判定部(55)で作動油が劣化したと判定されると、該作動油の劣化を警告する警告部(57)とを備えている。
【0008】
上記第1の発明では、油圧ポンプ(21)の吐出圧力、油圧ポンプ(21)の吐出流量、油圧回路(20)の作動油の温度の内、少なくとも1つを用いて演算が行われる。これら3つのパラメータは、値が大きいときは作動油の劣化速度が速くなり、値が小さいときは作動油の劣化速度が遅くなる傾向にある。そのため、そのパラメータを用いた演算を行うことで、作動油の劣化速度を表す指標値が求められる。この演算は、所定時間毎に行われ、該演算値は積算される。演算値(作動油の劣化速度を表す指標値)が積算されると、積算値として、作動油の劣化度合を表す指標値が求められる。油圧ユニット(10)では、この作動油の劣化度合を表す指標値(積算値)が所定の閾値に達すると、作動油が劣化したと判定され、劣化の警告が発せられる。
【0009】
このように、上記第1の発明では、油圧ユニット(10)の運転中に、油圧ユニット(10)において、自律的に作動油の劣化診断が行われる。そのため、従来のように、ユーザが油圧ユニットから作動油を採取して、専用の診断装置で劣化診断する必要がなくなる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記油圧ポンプ(21)の電動機(22)の回転数を制御する回転数制御部(40)と、上記電動機(22)の回転数と上記油圧ポンプ(21)の容積とから上記油圧ポンプ(21)の吐出流量を算出して、上記積算処理部(51)へ出力する流量算出部(54)とを備えているものである。
【0011】
上記第2の発明では、作動油の劣化度合を表す指標値を求めるための油圧ポンプ(21)の吐出流量が、流量算出部(54)において算出される。そのため、油圧ポンプ(21)の吐出流量を取得するために、新たに流量センサを設ける必要がない。
【0012】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記油圧ポンプ(21)の吐出圧力を検出して上記積算処理部(51)へ出力する圧力センサ(28)と、上記油タンク(24)内の作動油の温度を検出して上記積算処理部(51)へ出力する温度センサ(27)との内、少なくとも一方を備えているものである。
【0013】
上記第3の発明では、油圧ポンプ(21)の吐出圧力を検出する圧力センサ(28)と、油タンク(24)内の作動油の温度を検出する温度センサ(27)の内、少なくとも一方が設けられている。圧力センサ(28)は油圧ポンプ(21)の吐出圧力の制御に、温度センサ(27)は油タンク(24)内の作動油の温度管理にそれぞれ用いることができ、さらに、この2つのセンサ(27,28)は作動油の劣化を診断するために用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油圧ユニット(10)の運転中に、作動油の劣化に影響を及ぼす3つのパラメータ(油圧ポンプ(21)の吐出圧力、油圧ポンプ(21)の吐出流量、及び油圧回路(20)の作動油の温度)の内、少なくとも1つを用いて所定時間毎に演算し、作動油の劣化速度を表す指標値を求めるようにした。そして、この演算値(作動油の劣化速度を表す指標値)を積算して、作動油の劣化度合を表す指標値を求めるようにした。そして、この積算値(作動油の劣化度合を表す指標値)が所定値に達すると、作動油が劣化したと判定して警告するようにした。このように本発明では、油圧ユニット(10)の運転中に、油圧ユニット(10)において、自律的に作動油の劣化診断を行うことができる。そのため、ユーザが油圧ユニット(10)から作動油を採取して、専用の診断装置で劣化診断する必要がなくなり、ユーザの手間を軽減することができる。さらに、油圧ユニット(10)の運転中に生じる作動油及び油圧ポンプ(21)の劣化を即座に検知することができる。そのため、作動油の劣化に起因した油圧アクチュエータや油圧ポンプ等の破損を確実に防ぐことができる。
【0015】
また、第2の発明によれば、作動油の劣化度合を表す指標値を求めるための油圧ポンプ(21)の吐出流量を、電動機(22)の回転数と油圧ポンプ(21)の容積とから算出するようにした。そのため、油圧ポンプ(21)の吐出流量を取得するために、新たに流量センサを設ける必要がなくなり、装置を低コスト化及び小型化することができる。
【0016】
また、第3の発明によれば、油圧ポンプ(21)の吐出圧力を検出する圧力センサ(28)と、油タンク(24)内の作動油の温度を検出する温度センサ(27)の内、少なくとも一方を設けて、各センサ(27,28)の検出値を積算処理部(51)へ出力するようにした。これにより、油圧ポンプ(21)の吐出圧力の制御や油タンク(24)内の作動油の温度管理のために設けられるセンサ(27,28)を、作動油の劣化を診断するために流用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る油圧ユニットの全体構成を示す油圧回路図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る電力供給部の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る油劣化診断部の制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1に示す本実施形態の油圧ユニット(10)は、油圧シリンダ(1)等の油圧アクチュエータに作動油を供給し、該油圧アクチュエータを作動させるものである。油圧ユニット(10)は、例えば、マシニングセンタ等の工作機械に搭載され、ワークや工具を挟んで固定するチャック機構を開閉動作させる油圧シリンダ(1)に接続されている。
【0020】
油圧ユニット(10)は、油圧回路(20)とコントローラ(30)を備えている。油圧回路(20)は、油圧シリンダ(1)に接続され、油圧シリンダ(1)へ作動油を供給すると共に該油圧シリンダ(1)から作動油を回収して、作動油が循環するように構成されている。この油圧回路(20)には、油圧ポンプ(21)、方向切換弁(23)、及び油タンク(24)が接続されている。
【0021】
油圧ポンプ(21)は、油タンク(24)内の作動油を吸入して油圧シリンダ(1)へ吐出するものである。この油圧ポンプ(21)は、例えばギアポンプ、トロコイドポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ等の固定容量型ポンプで構成されている。
【0022】
油圧ポンプ(21)には、電動機(22)が設けられている。この電動機(22)は、油圧ポンプ(21)を駆動する可変速モータであり、後述するインバータ部(40)において回転制御される。
【0023】
方向切換弁(23)は、第1電磁ソレノイド(23a)および第2電磁ソレノイド(23b)を有する4ポート3位置スプリングセンタ式電磁切換弁である。方向切換弁(23)は、4ポートのうち、Pポートが油圧ポンプ(21)の吐出側に接続され、Tポートが油タンク(24)に接続されている。また、方向切換弁(23)のAポートが油圧シリンダ(1)のヘッド室(1a)に接続され、Bポートが油圧シリンダ(1)のロッド室(1b)に接続されている。
【0024】
方向切換弁(23)は、各電磁ソレノイド(23a,23b)のON/OFF動作によって、中立位置と第1位置と第2位置とに切り換わる。方向切換弁(23)は、中立位置では4つのポートが互いに遮断状態になり、第1位置ではPポートとAポートが連通し且つBポートとTポートが連通し、第2位置ではPポートとBポートが連通し且つAポートとTポートが連通する。
【0025】
油タンク(24)は、気密性を有する容器であり、作動油を貯蔵するように構成されている。この油タンク(24)は、油圧ポンプ(21)の吸入側に接続されている。
【0026】
油タンク(24)には、貯留された作動油の温度Tを検出するための温度センサ(27)が設けられている。また、油圧ポンプ(21)の吐出側には、油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pを検出するための圧力センサ(28)が設けられている。これら2つのセンサ(27,28)は、検出値を後述する積算処理部(51)へ出力するように構成されている。また、電動機(22)には、電動機(22)の回転数を検出するための回転数センサ(図示せず)が設けられている。
【0027】
コントローラ(30)は、インバータ部(40)と油劣化診断部(50)を備えている。
【0028】
インバータ部(40)は、交流電源(図示せず)から供給される電力を所定の周波数の電力に変換して電動機(22)に供給することで、電動機(22)の回転数を制御するものであり、本発明の回転数制御部を構成している。インバータ部(40)は、電力供給部(41)とインバータ制御部(45)を備えている。
【0029】
電力供給部(41)は、図2に示すように、コンバータ回路(42)とインバータ回路(43)を有している。コンバータ回路(42)は、交流電源(例えば200Vの三相交流)に接続され、交流を直流に変換する。インバータ回路(43)は、内部のスイッチング素子(図示せず)のオンオフ動作によって、コンバータ回路(42)の出力を所定の周波数の電力に変換し、その変換された電力を電動機(22)に供給する。
【0030】
インバータ制御部(45)は、インバータ回路(43)のスイッチング素子のオンオフ動作を制御する。具体的に、インバータ制御部(45)では、回転数センサ(図示せず)で検出された電動機(22)の回転数(回転速度)と目標回転数(目標回転速度)を入力して比例積分(PI)制御を行うことで電流指令値が生成される。そして、その電流指令値に基づいてスイッチング素子をオンオフ動作するための制御信号が生成され、その制御信号がインバータ回路(43)へ出力される。
【0031】
〈油劣化診断部〉
油劣化診断部(50)は、油圧回路(20)内の作動油の劣化を診断するものであり、図1に示すように、積算処理部(51)、劣化判定部(55)、警告部(57)、及び流量算出部(54)を備えている。
【0032】
積算処理部(51)は、所定時間毎に演算し、その演算値を積算することで、油圧回路(20)内の作動油の劣化度合を導出するように構成されている。積算処理部(51)は、演算部(52)、積算部(53)を有している。
【0033】
演算部(52)は、作動油の劣化に影響を及ぼす3つのパラメータの値を所定時間毎に入力し、その入力値を演算するように構成されている。作動油の劣化に影響を及ぼす3つのパラメータとは、油圧ポンプ(21)の吐出圧力P、油圧ポンプ(21)の吐出流量V、油タンク(24)内の作動油の温度Tである。油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pは、圧力センサ(28)の検出値であり、油タンク(24)内の作動油の温度Tは、温度センサ(27)の検出値である。また、油圧ポンプ(21)の吐出流量Vは、流量算出部(54)の算出値である。
【0034】
油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pや油圧ポンプ(21)の吐出流量Vが大きくなると、油圧ポンプ(21)の回転によって作動油中の添加剤である高分子化合物が切断されて低分子化されるため、作動油の劣化速度が速くなる。また、油タンク(24)内の作動油の温度Tが高くなると、作動油が化学変化(例えば、酸化)しやすくなるため、作動油の劣化速度が速くなる。このように、3つのパラメータは、その値が大きくなると作動油の劣化速度が速くなり、その値が小さくなると作動油の劣化速度が遅くなる傾向にある。そのため、演算部(52)では、その値を演算することによって、作動油の劣化速度を表す指標値(以下、作動油の劣化速度と言う)が求められる。この作動油の劣化速度は、積算部(53)に出力される。
【0035】
演算部(52)では、演算式がユーザによって予め設定される。例えば、本実施形態では、3つのパラメータの入力値にそれぞれ劣化係数を乗算し、この3つの乗算値を加算して作動油の劣化速度を表す指標値を導出するように、演算式が設定されている。劣化係数は、劣化の影響度を考慮した係数であり、固定の値でも、テーブルや式によって定義された可変の値でも構わない。
【0036】
積算部(53)は、演算部(52)から所定時間毎に演算値(作動油の劣化速度)を入力して積算するように構成されている。積算部(53)では、作動油の劣化速度を積算することによって、作動油の劣化度合を表す指標値(以下、作動油の劣化度Dと言う)が求められる。この作動油の劣化度Dは、劣化判定部(55)に出力される。
【0037】
劣化判定部(55)は、積算処理部(51)から作動油の劣化度Dを入力し、その作動油の劣化度Dと所定の劣化閾値Dthを比較して劣化を判定するように構成されている。劣化判定部(55)では、作動油の劣化度Dが劣化閾値Dthに達している場合は、作動油は劣化したと判定され、作動油の劣化度Dが劣化閾値Dthに達していない場合は、作動油は劣化していないと判定される。作動油が劣化したと判定されると、その判定結果は警告部(57)に出力される。
【0038】
警告部(57)は、劣化判定部(55)から劣化したという判定結果が入力されることで、その劣化を警告するように構成されている。警告部(57)の警告手段は、警告ランプ等のように表示するものであっても、ブザー等のように音を発するものであっても、別途設けられた受信部(図示省略)へ送信するものであっても構わない。
【0039】
流量算出部(54)は、電動機(22)の回転数を入力し、その電動機(22)の回転数と油圧ポンプ(21)の容積とから油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを算出するように構成されている。この電動機(22)の回転数は、インバータ部(40)から所定時間毎に入力される。一方、油圧ポンプ(21)の容積はユーザによって予め設定される。この油圧ポンプ(21)の吐出流量Vの算出値は、積算処理部(51)の演算部(52)に出力される。
【0040】
−運転動作−
ここでは、工作機械のチャック機構を閉じ動作させて加工物等を固定し(掴み)、チャック機構を開き動作させて加工物等を放す動作を例として説明する。
【0041】
待機状態では、方向切換弁(23)は中立位置にある。この時、油圧ポンプ(21)の回転数は油圧回路(20)の漏れ流量を補う程度の低い状態であり、油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pは設定圧力で保圧されている。
【0042】
チャック機構を閉じる時、方向切換弁(23)が第1位置に切り換わり、油圧ポンプ(21)から油圧シリンダ(1)のヘッド室(1a)へ作動油が供給される。油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pは急激に低下する一方、油圧ポンプ(21)の回転数は、設定流量まで急速に増大した後、設定流量で駆動されることでシリンダは一定速度で駆動される。そして、チャックが加工物を掴んだことで、シリンダの動きは停止し、油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pは設定圧力まで上昇し、この圧力を維持するように油圧ポンプ(21)の回転数は低下し、待機状態と同様に保圧状態となる。
【0043】
また、チャックを開く時、上記状態から方向切換弁(23)が第2位置に切り換わり、油圧ポンプ(21)から油圧シリンダ(1)のロッド室(1b)へ作動油が供給され、シリンダは後退方向に移動を開始する。シリンダ停止までの油圧ポンプ(21)の作動については、チャック機構を閉じる場合と同様である。
【0044】
〈油劣化診断部の制御動作〉
上述のように、油圧ポンプ(21)が回転して油圧ユニット(10)が運転する間、油劣化診断部(50)では、作動油の劣化診断が行われる。
【0045】
図3に示すように、先ず、ステップST1では、作動油の劣化に影響する3つのパラメータの値が検出(または算出)される。油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pは、圧力センサ(28)で検出され、油タンク(24)内の作動油の温度Tは温度センサ(27)で検出される。油圧ポンプ(21)の吐出流量Vは、流量算出部(54)において、電動機(22)の回転数と油圧ポンプ(21)のポンプ容積から算出される。これら3つのパラメータの検出値(または算出値)は、演算部(52)に入力される。
【0046】
ステップST2では、演算部(52)において、3つのパラメータの検出値(または算出値)から演算値が導出される。具体的には、3つのパラメータの検出値(または算出値)に対して、各パラメータの劣化係数がそれぞれ乗算され、さらに、その3つの乗算値が加算されることによって、演算値が導出される。
【0047】
ステップST3では、積算部(53)において、ステップST2で行われた演算が1回目か否かが判定される。この演算回数は、油圧ユニット(10)を初めて稼動させてからの累積回数であり、運転を停止することでゼロになるものではない。演算が1回目である場合は、ステップST4へと進む。一方、演算が1回目でない場合は、ステップST5へと進む。
【0048】
ステップST4では、積算部(53)において、ステップST2での演算値が積算値として記憶される。演算値が記憶されると、ステップST6へと進む。
【0049】
ステップST5では、積算部(53)において、記憶された積算値にステップST2での演算値を加算することによって、新たな積算値が導出され、その積算値が記憶される。積算値が記憶されると、ステップST6へと進む。
【0050】
ステップST6では、劣化判定部(55)において、積算部(53)の積算値が作動油の劣化度Dとして所定の劣化閾値Dthと比較される。作動油の劣化度Dが大きくなるにつれ、作動油の劣化は進行したと推定される。そして、その作動油の劣化度Dが劣化閾値Dthに達している場合は、作動油は劣化したと判定され、ステップST7へと進む。一方、作動油の劣化度Dが劣化閾値Dthに達していない場合は、作動油は劣化していないと判定され、ステップST1へと進む。
【0051】
ステップST7では、作動油が劣化したという判定結果が警告部(57)に入力されることによって、警告部(57)においてその劣化の警告が行われる。
【0052】
油劣化診断部(50)では、油圧ユニット(10)の運転中、所定時間毎にステップST1からステップST6を繰り返し実行することで、作動油が劣化したか否かの判定が繰り返し行われる。そして、劣化判定部(55)において劣化したと判定されると、ステップST7において劣化の警告が行われる。
【0053】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、油圧ユニット(10)の運転中に、作動油の劣化に影響を及ぼす3つのパラメータ(油圧ポンプ(21)の吐出圧力P、油圧ポンプ(21)の吐出流量V、油タンク(24)内の作動油の温度T)の検出値(または算出値)を用いて所定時間毎に演算し、作動油の劣化速度を求めるようにした。そして、その演算値(作動油の劣化速度)を積算して、作動油の劣化度Dを求めるようにした。そして、この積算値(作動油の劣化度D)が所定の劣化閾値Dthに達すると、作動油が劣化したと判定して警告するようにした。このように本実施形態では、油圧ユニット(10)の運転中に、油圧ユニット(10)において、自律的に作動油の劣化診断を行うことができる。そのため、ユーザが油圧ユニット(10)から作動油を採取して、専用の診断装置で劣化診断する必要がなくなり、ユーザの手間を軽減することができる。さらに、油圧ユニット(10)の運転中に生じる作動油の劣化を即座に検知することができる。そのため、作動油の劣化に起因した油圧アクチュエータや油圧ポンプ等の破損を確実に防ぐことができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、作動油の劣化度合を表す指標値を求めるための油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを、電動機(22)の回転数と油圧ポンプ(21)の容積とから算出するようにした。そのため、油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを取得するために、新たに流量センサを設ける必要がなくなり、装置を低コスト化及び小型化することができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pを検出する圧力センサ(28)と、油タンク(24)内の作動油の温度Tを検出する温度センサ(27)の内、少なくとも一方を設けて、各センサ(27,28)の検出値を積算処理部(51)へ出力するようにした。これにより、油圧ポンプ(21)の吐出圧力の制御や油タンク(24)内の作動油の温度管理のために設けられるセンサ(27,28)を、作動油の劣化を診断するために流用することができる。
【0056】
〈その他の変形例〉
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0057】
上記実施形態では、演算部(52)において、3つのパラメータ(油圧ポンプ(21)の吐出圧力P、油圧ポンプ(21)の吐出流量V、油タンク(24)内の作動油の温度T)を用いた演算式が設定されている。しかし、この演算式は、これら3つのパラメータの内、少なくとも1つを用いるものであれば、パラメータの数及び組合せは如何なるものでも構わない。また、上記実施形態の演算式は、3つのパラメータの値に劣化係数を乗算し、この3つの乗算値を加算して演算値を導出するように設定されている。しかし、3つのパラメータを用いた演算式はこれに限らず、例えば、3つのパラメータの値に劣化係数を乗算し、この3つの乗算値をさらに乗算して演算値を導出するように設定しても構わない。
【0058】
また、上記実施形態では、積算処理部(51)の演算部(52)で演算される作動油の温度Tを、油タンク(24)内で検出している。しかし、この作動油の温度Tを検出する場所は、油タンク(24)内に限らず、例えば、油圧ポンプ(21)の吐出側の配管内でも、油圧シリンダ(1)から油タンク(24)へ作動油が戻る配管内でも構わない。
【0059】
また、上記実施形態では、油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pを圧力センサ(28)で検出して、積算処理部(51)の演算部(52)に入力している。しかし、油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pを取得する方法はこれに限らず、例えば、インバータ部(40)から出力される電動機(22)の負荷トルク情報から油圧ポンプ(21)の吐出圧力Pを算出して入力しても構わない。
【0060】
また、上記実施形態では、流量算出部(54)において油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを算出している。しかし、油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを取得する方法はこれに限らず、例えば、油圧ポンプ(21)の吐出側に流量センサを設け、その流量センサによって油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを検出しても構わない。
【0061】
また、上記実施形態では、流量算出部(54)において油圧ポンプ(21)の吐出流量Vを算出してから、その算出値を演算部(52)に入力して演算しているが、演算部(52)において吐出流量Vの算出と演算をまとめて行っても構わない。
【0062】
また、上記実施形態では、電動機(22)の回転数をインバータ部(40)から流量算出部(54)へ入力しているが、回転数センサから直接、流量算出部(54)へ入力しても良い。また、その電動機(22)の回転数を、電動機(22)に供給される電圧と電流の検出値から算出しても構わない。
【0063】
また、上記実施形態では、油劣化診断部(50)をインバータ部(40)とは別に設けているが、インバータ部(40)に組み込んで設けても構わない。インバータ部(40)に油劣化診断部(50)を組み込むと、油圧ユニット(10)として回路基板の数を減らすことができ、部品点数低下によって、コストを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明は、油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ユニットとして有用である。
【符号の説明】
【0065】
10 油圧ユニット
20 油圧回路
21 油圧ポンプ
22 電動機
24 油タンク
27 温度センサ
28 圧力センサ
40 回転数制御部(インバータ部)
51 積算処理部
54 流量算出部
55 劣化判定部
57 警告部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油タンク(24)と該油タンク(24)から油圧アクチュエータへ作動油を供給する油圧ポンプ(21)とが接続された油圧回路(20)を有する油圧ユニットであって、
上記油圧ポンプ(21)の吐出圧力、上記油圧ポンプ(21)の吐出流量、及び上記油圧回路(20)の作動油の温度の内、少なくとも1つを用いて所定時間毎に演算し、該演算した値を積算する積算処理部(51)と、
上記積算処理部(51)の積算値が所定値に達すると、作動油が劣化したと判定する劣化判定部(55)と、
上記劣化判定部(55)で作動油が劣化したと判定されると、該作動油の劣化を警告する警告部(57)とを備えている
ことを特徴とする油圧ユニット。
【請求項2】
請求項1において、
上記油圧ポンプ(21)の電動機(22)の回転数を制御する回転数制御部(40)と、
上記電動機(22)の回転数と上記油圧ポンプ(21)の容積とから上記油圧ポンプ(21)の吐出流量を算出して、上記積算処理部(51)へ出力する流量算出部(54)とを備えている
ことを特徴とする油圧ユニット。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記油圧ポンプ(21)の吐出圧力を検出して上記積算処理部(51)へ出力する圧力センサ(28)と、上記油タンク(24)内の作動油の温度を検出して上記積算処理部(51)へ出力する温度センサ(27)との内、少なくとも一方を備えている
ことを特徴とする油圧ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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