説明

油圧緩衝器

【課題】 インナチューブの内周にピストンを摺接させる油圧緩衝器において、減衰力発生機構の安定を図ること。
【解決手段】 油圧緩衝器10において、ピストンロッド23の先端部に上下2段をなす上下のピストン26、27を固定し、上下のピストン26、27の間に中間油室21Cを設け、中間油室21Cに接し、ピストンロッド23の伸縮ストロークに起因する油室21の油量変化によって拡縮することにより、その油室21の油量変化を補償する中間空気室60を設け、ピストンロッド23の伸縮ストロークに対する、油溜室22の上部空気室22Bの空気圧縮率を中間空気室60の空気圧縮率以上に設定してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
アウタチューブとインナチューブの内部にダンパシリンダを備えない油圧緩衝器として、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に油室を区画するとともに、該隔壁部材の上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に通してインナチューブに摺動自在に挿入し、前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを固定してなるものがある。
【0003】
この従来の油圧緩衝器として、特許文献1には、図15に示す如く、アウタチューブ1の内周の開口部と、インナチューブ2の外周の先端部のそれぞれに固定したシール手段1A、2Aを介して、アウタチューブ1内にインナチューブ2を摺動自在に挿入し、該アウタチューブ1の内周と、インナチューブ2の外周と、前記2つのシール手段1A、2Aとで囲まれる環状油室3を区画し、前記インナチューブ2の内周に隔壁部材4を設け、下部に油室5を区画するとともに、上部に油溜室6を区画するものが開示されている。そして、この油圧緩衝器では、前記インナチューブ2に挿入したピストンロッド7の先端部に該インナチューブ2の内周に摺接するピストン7Aを固定し、前記油室5を前記ピストンロッド7が収容されるピストンロッド側油室5Aと前記ピストンロッド7が収容されないピストン側油室5Bに区画し、前記環状油室3を前記インナチューブ2に設けた油孔3Aを介して前記ピストンロッド側油室5A又はピストン側油室5Bに連通し、ピストン7Aに設けたピストンロッド側油室5Aとピストン側油室5Bを連絡する圧側流路と伸側流路のそれぞれに圧側減衰力発生バルブ8Aと伸側減衰力発生バルブ8Bを設けている。更に、この油圧緩衝器では、前記環状油室3の断面積S1を前記ピストンロッド7の断面積S2より大きく形成し、かつ、前記隔壁部材4に伸側行程時に前記油室5から前記油溜室6への流れを阻止するチェック弁9Aを設けるとともに、前記隔壁部材4に前記油室5と前記油溜室6を通過する微小流路9Bを設けている。
【0004】
特許文献1に記載の油圧緩衝器では、圧側行程でインナチューブ2に進入するピストンロッド7の進入体積分の作動油がインナチューブ2の内周の油室5Aからインナチューブ2の油孔3Aを介して環状油室3に移送される。このとき、環状油室3の体積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド7の体積増加分ΔS2より大きいから、環状油室3への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室6からチェック弁9Aを介して補給される。この圧側行程では、圧側減衰力発生バルブ8Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
【0005】
また、伸側行程でインナチューブ2から退出するピストンロッド7の退出体積分の作動油が環状油室3からインナチューブ2の油孔3Aを介してインナチューブ2の内周の油室5Aに移送される。このとき、環状油室3の体積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド7の体積減少分ΔS2より大きいから、環状油室3からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が微小流路9Bを介して油溜室6へ排出される。この伸側行程では、伸側減衰力発生バルブ8Bの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、微小流路9Bの通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-269515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の油圧緩衝器では、圧側行程でピストン7Aにより圧縮されるピストン側油室5Bの作動油が圧側減衰力発生バルブ8Aを撓み変形させることにより、安定した圧側減衰力を発生する。
【0008】
しかしながら、伸側行程では、隔壁部材4の微小流路9Bで発生する伸側減衰力が、該微小流路9Bの通路抵抗の設定と、該微小流路9Bを通過する前述の(ΔS1−ΔS2)の少量の余剰油量に起因するものであり、不安定である。従って、特許文献1に記載の油圧緩衝器では、安定した伸側減衰力を発生することの課題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の油圧緩衝器では、伸側行程で、ピストン7Aにより圧縮されるピストンロッド側油室5Aの作動油の圧力がアウタチューブ1とインナチューブ2のシール手段1A、2Aに直接かかる。このため、シール手段1Aのセルフシール効果による大きな緊迫力がインナチューブ2に作用してフリクションが悪化する傾向と、シール手段1Aへの圧力負荷の関係から、伸側減衰力の最大値が制限される。
【0010】
また、特許文献1に記載の油圧緩衝器では、圧側行程で、アウタチューブ1とインナチューブ2の上部の油溜室6の空気室が圧縮されて空気ばねとして機能するが、その圧力が圧側減衰力発生バルブ8Aにそのまま加わるため、圧側ストローク奥で硬さ感を生じる。
【0011】
本発明の課題は、インナチューブの内周にピストンを摺接させる油圧緩衝器において、減衰力発生機構の安定を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に油室を区画するとともに、該隔壁部材の上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に通してインナチューブに摺動自在に挿入し、前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを固定してなる油圧緩衝器において、前記ピストンロッドの先端部に上下2段をなす上下のピストンを固定し、上ピストンの上側にピストンロッドが収容される上油室を設け、下ピストンの下側にピストンロッドが収容されない下油室を設け、上下のピストンの間に中間油室を設け、前記上ピストンに設けた上油室から中間油室に向かう流路に伸側減衰力発生手段を設け、下ピストンに設けた下油室から中間油室に向かう流路に圧側減衰力発生手段を設け、前記隔壁部材に、油溜室と油室を連通する体積補償流路を設け、前記中間油室に接し、ピストンロッドの伸縮ストロークに起因する油室の油量変化によって拡縮することにより、その油室の油量変化を補償する中間空気室を設け、前記ピストンロッドの伸縮ストロークに対する、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を中間空気室の空気圧縮率以上に設定してなるようにしたものである。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記中間空気室が、中間油室に配置された可撓隔壁手段により区画されてなるようにしたものである。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記中間空気室が、中間油室に連通する外部に配置された可撓隔壁手段により区画されてなるようにしたものである。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記中間空気室が、大気に開放されてなるようにしたものである。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記中間空気室が、油溜室の上部空気室に連通されてなるようにしたものである。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において更に、前記上油室が、アウタチューブの内周とインナチューブの外周との間の環状油室に連通されてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
(請求項1)
(a)ピストンロッドの先端部に上下2段をなす上下のピストンを固定し、上ピストンの上側にピストンロッドが収容される上油室を設け、下ピストンの下側にピストンロッドが収容されない下油室を設け、上下のピストンの間に中間油室を設け、上ピストンに設けた上油室から中間油室に向かう流路に伸側減衰力発生手段を設け、下ピストンに設けた下油室から中間油室に向かう流路に圧側減衰力発生手段を設け、隔壁部材に、油溜室と油室を連通する体積補償流路を設け、中間油室に接し、ピストンロッドの伸縮ストロークに起因する油室の油量変化によって拡縮することにより、その油室の油量変化を補償する中間空気室を設け、ピストンロッドの伸縮ストロークに対する、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を中間空気室の空気圧縮率以上に設定した。
【0019】
(b)従って、圧側行程では、油溜室の上部空気室の方が中間空気室より縮み、上部空気室の方が高圧化する結果、油溜室の油が上油室に流入し、中間空気室はインナチューブへのピストンロッドの進入体積分に上述の上油室への油流入分を加えた体積だけ縮む。
【0020】
圧側行程で加圧された下油室の油が下ピストンの圧側減衰力発生手段を撓み変形させて圧側減衰力を発生するとき、中間空気室は圧側減衰力発生手段の下流側にあり、圧側減衰力を不安定にしない。
【0021】
圧側行程から伸側行程に反転したときに、加圧されることとなる上油室は上述の油溜室からの油の流入によって正圧化しており、伸側反転時の減衰力のサボリ(減衰力の発生の遅れ)も生じない。
【0022】
(c)伸側行程では、油溜室の上部空気室の方が中間空気室よりも膨らみ、上部空気室の方が低圧化する結果、上油室の油が油溜室に流出し、中間空気室はインナチューブからのピストンロッドの退出体積分に上述の上油室からの油流出分を加えた体積だけ膨らむ。
【0023】
伸側行程で加圧された上油室の油が上ピストンの伸側減衰力発生手段を撓み変形させて伸側減衰力を発生するとき、中間空気室は伸側減衰力発生手段の下流側にあり、伸側減衰力を不安定にしない。
【0024】
伸側行程から圧側行程に反転したときに、加圧されることとなる下油室は負圧化されておらず(伸側行程における上油室から油溜室への流出油量は、圧側行程で油溜室から上油室に流入した余剰油量であり、上下の油室の油量に不足を生じない)、圧側反転時の減衰力のサボリも生じない。
【0025】
(請求項2)
(d)中間油室に配置された可撓隔壁手段が、前記中間油室に接し、ピストンロッドの伸縮ストロークに起因する油室の油量変化によって拡縮することにより、その油室の油量変化を補償する中間空気室を区画できる。
【0026】
(請求項3)
(e)中間油室に連通する外部に配置された可撓隔壁手段が、前記中間油室に接し、ピストンロッドの伸縮ストロークに起因する油室の油量変化によって拡縮することにより、その油室の油量変化を補償する中間空気室を区画できる。これにより、大容量の中間空気室を形成し、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を、簡易に、中間空気室の空気圧縮率以上に設定できる。
【0027】
(請求項4)
(f)中間空気室を大気に開放することにより、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を、簡易に、中間空気室の空気圧縮率以上に設定できる。
【0028】
(請求項5)
(g)中間空気室を油溜室の上部空気室に連通することにより、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を中間空気室の空気圧縮率と同等に設定できる。
【0029】
(請求項6)
(h)上油室が、アウタチューブの内周とインナチューブの外周との間の環状油室に連通されてなるものとすることにより、中間空気室の縮み量又は膨らみ量が環状油室の体積変化分だけ減じられる。これにより、中間空気室の空気圧縮率を減じ、可撓隔壁手段の体積の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は実施例1の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図2】図2は図1の要部拡大断面図である。
【図3】図3は実施例2の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図4】図4は図3の要部拡大断面図である。
【図5】図5は実施例3の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図6】図6は図5の要部拡大断面図である。
【図7】図7は実施例4の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図8】図8は図7の要部拡大断面図である。
【図9】図9は実施例5の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図10】図10は図9の要部拡大断面図である。
【図11】図11は実施例6の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図12】図12は図11の要部拡大断面図である。
【図13】図13は実施例7の油圧緩衝器を示す模式断面図である。
【図14】図14は図13の要部拡大断面図である。
【図15】図15は従来例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施例1)(図1、図2)
油圧緩衝器10は、図1に示す如く、アウタチューブ11の下端開口部の内周に固定したシール手段11Aを介して、アウタチューブ11の内部にインナチューブ12を摺動自在に挿入する。アウタチューブ11の上端開口部にはキャップ13が液密に螺着され、アウタチューブ11の外周には不図示の車体側取付部材が設けられる。インナチューブ12の下端開口部にはボトムブラケット15が液密に螺着され、ボトムブラケット15には車輪側取付部材16が設けられる。
【0032】
油圧緩衝器10は、インナチューブ12の上端側内周に液密に、隔壁部材19を設け、隔壁部材19のロッドガイド部19Aより下部に油室21を区画するとともに、上部に油溜室22を区画する。油溜室22の中でその下側領域は油室22A、上側領域は上部空気室22Bである。
【0033】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11に取付けたピストンロッド23を隔壁部材19のロッドガイド部19Aに摺動自在に挿入する。
【0034】
油圧緩衝器10は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aからインナチューブ12に挿入したピストンロッド23の先端部に、インナチューブ12の内周に摺接するピストン26、27を固定している。即ち、ピストンロッド23の先端部に上下2段をなす上下のピストン26、27を固定し、前記油室21を上油室21Aと下油室21Bと中間油室21Cに区画する。上油室21Aは上ピストン26の上側に設けられ、ピストンロッド23を収容する。下油室21Bは下ピストン27の下側に設けられ、ピストンロッド23を収容しない。中間油室21Cは上下のピストン26、27の間に設けられる。
【0035】
尚、油圧緩衝器10にあっては、アウタチューブ11の内周と、インナチューブ12の外周との間の環状油室28を、油溜室22に直に連通している。
【0036】
油圧緩衝器10は、図2に示す如く、上ピストン26に設けた上油室21Aから中間油室21Cに向かう流路に、伸側ディスクバルブ等の伸側減衰力発生手段31と、上油室21Aから中間油室21Cへの流れのみを許容するチェック弁32とを設ける。また、上ピストン26に設けた中間油室21Cから上油室21Aに向かう流路に、中間油室21Cから上油室21Aへの流れのみを許容するチェック弁33を設ける。
【0037】
油圧緩衝器10は、下ピストン27に設けた下油室21Bから中間油室21Cに向かう流路に、圧側ディスクバルブ等の圧側減衰力発生手段41と、下油室21Bから中間油室21Cへの流れのみを許容するチェック弁42とを設ける。また、下ピストン27に設けた中間油室21Cから下油室21Bに向かう流路に、中間油室21Cから下油室21Bへの流れのみを許容するチェック弁43を設ける。
【0038】
油圧緩衝器10は、隔壁部材19に、油室21(上油室21A)と油溜室22(油室22A)を連通する体積補償流路として、チェック弁51とオリフィス52を並列に設ける。チェック弁51は油室22Aから上油室21Aへの流れのみを許容する。
【0039】
油圧緩衝器10は、中間油室21Cに接し、ピストンロッド23の伸縮ストロークに起因する油室21の油量変化によって拡縮することにより、その油室21の油量変化を補償する中間空気室60を設けている。本実施例では、中間油室21Cに配置され、ピストンロッド23まわりに設けられた可撓隔壁手段61により、中間空気室60が中間油室21Cに対して区画される。可撓隔壁手段61は、ブラダ61Aにより構成されている。
【0040】
油圧緩衝器10は、ピストンロッド23の伸縮ストロークに対する、油溜室22の上部空気室22Bの空気圧縮率A1を、可撓隔壁手段61が区画した中間空気室60の空気圧縮率A2以上に設定している(A1≧A2)。
【0041】
油圧緩衝器10にあっては、アウタチューブ11とインナチューブ12の内部又は外部に懸架ばねを設けている。油圧緩衝器10は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架ばねの伸縮振動により吸収する。そして、油圧緩衝器10は、前述の伸側減衰力発生手段31と圧側減衰力発生手段41で以下の如くに発生する減衰力により、懸架ばねの伸縮振動を制振する。
【0042】
(圧側行程)(図2の実線矢印)
圧側行程では、加圧される下油室21Bの油が下ピストン27のチェック弁42から圧側減衰力発生手段41を通って中間油室21Cに流れ、このときの圧側減衰力発生手段41の流路抵抗に起因する圧側減衰力を発生する。また、拡張される上油室21Aに対し、中間油室21Cの油が上ピストン26のチェック弁33を通って上油室21Aに流れ、同時に油溜室22の油室22Aの油がチェック弁51を通って上油室21Aに流れる。
【0043】
この圧側行程では、油溜室22の上部空気室22Bの方が中間空気室60より縮み、上部空気室22Bの方が高圧化する結果、油溜室22の油室22Aの油が隔壁部材19のチェック弁51を通って上油室21Aに流入し、中間空気室60はインナチューブ12へのピストンロッド23の進入体積分に上述の上油室21Aへの油流入分を加えた体積だけ縮む。
【0044】
圧側行程で加圧された下油室21Bの油が下ピストン27の圧側減衰力発生手段41を撓み変形させて圧側減衰力を発生するとき、中間空気室60は圧側減衰力発生手段41の下流側にあり、圧側減衰力を不安定にしない。
【0045】
圧側行程から伸側行程に反転したときに、加圧されることとなる上油室21Aは上述の油溜室22からの油の流入によって正圧化しており、伸側反転時の減衰力のサボリ(減衰力の発生の遅れ)も生じない。
【0046】
(伸側行程)(図2の鎖線矢印)
伸側行程では、加圧される上油室21Aの油が上ピストン26のチェック弁32から伸側減衰力発生手段31を通って中間油室21Cに流れ、このときの伸側減衰力発生手段31の流路抵抗に起因する伸側減衰力を発生する。また、拡張される下油室21Bに対し、中間油室21Cの油が下ピストン27のチェック弁43を通って下油室21Bに流れる。
【0047】
この伸側行程では、油溜室22の上部空気室22Bの方が中間空気室60よりも膨らみ、上部空気室22Bの方が低圧化する結果、上油室21Aの油が隔壁部材19のオリフィス52を通って油溜室22の油室22Aに流出し、中間空気室60はインナチューブ12からのピストンロッド23の退出体積分に上述の上油室21Aからの油流出分を加えた体積だけ膨らむ。
【0048】
伸側行程で加圧された上油室21Aの油が上ピストン26の伸側減衰力発生手段31を撓み変形させて伸側減衰力を発生するとき、中間空気室60は伸側減衰力発生手段31の下流側にあり、伸側減衰力を不安定にしない。
【0049】
伸側行程から圧側行程に反転したときに、加圧されることとなる下油室21Bは負圧化されておらず(伸側行程における上油室21Aから油溜室22への流出油量は、圧側行程で油溜室22から上油室21Aに流入した余剰油量であり、上下の油室21A、21Bの油量に不足を生じない)、圧側反転時の減衰力のサボリも生じない。
【0050】
従って、本実施例によれば、圧側行程でも、伸側行程でも、上述した如くに安定した減衰力を発生できる。
【0051】
また、油室21の圧力がアウタチューブ11のシール手段11Aにかかることがなく、シール手段11Aがインナチューブ12に及ぼす緊迫力や、シール手段11Aへの圧力負荷の関係から、圧側減衰力や伸側減衰力の最大値が制限されることもない。
【0052】
また、圧側行程で、油溜室22の上部空気室22Bが圧縮されて空気ばねとなって機能するとき、その圧力が下ピストン27の圧側減衰力発生手段41にそのまま加わることなく、圧側ストローク奥で硬さ感を生ずることもない。
【0053】
また、中間油室21Cに配置された可撓隔壁手段61が、前記中間油室21Cに接し、ピストンロッド23の伸縮ストロークに起因する油室21の油量変化によって拡縮することにより、その油室21の油量変化を補償する中間空気室60を区画できる。
【0054】
(実施例2)(図3、図4)
実施例2が実施例1と異なる点は、可撓隔壁手段61をフリーピストン61Bにより構成したことにある。
【0055】
可撓隔壁手段61は、フリーピストン61Bの内周がピストンロッド23の外周に、フリーピストン61Bの外周がピストンロッド23の外周まわりに設けた一端開口の有天筒状部23Aの内周に、それぞれ液密に嵌合される。これにより、フリーピストン61Bが筒状部23Aの上部空間を中間空気室60として区画するものになる。
【0056】
(実施例3)(図5、図6)
実施例3が実施例1と異なる点は、可撓隔壁手段61に代わる可撓隔壁手段70により中間空気室60を区画したことにある。
【0057】
可撓隔壁手段70は、中間油室21Cに連通する外部に配置される。即ち、ピストンロッド23の上部に密閉空間71が形成され、密閉空間71の内部を上下に仕切るブラダ70Aをピストンロッド23の上部に設ける。密閉空間71の内部でブラダ70Aの下部空間は、ピストンロッド23に穿設した連絡路72により中間油室21Cに連通する外部油室21Dとされる。密閉空間71の内部でブラダ70Aの上部空間が中間空気室60として区画されるものになる。
【0058】
本実施例により、インナチューブ12内の中間油室21Cの容量に限定されない大容量の中間空気室60を、中間油室21Cに連通する外部に形成できる。これにより、油溜室22の上部空気室22Bの空気圧縮率A1を、簡易に、中間空気室60の空気圧縮率A2以上に設定できる。
【0059】
(実施例4)(図7、図8)
実施例4が実施例3と異なる点は、可撓隔壁手段70をフリーピストン70Bにより構成したことにある。
【0060】
可撓隔壁手段70は、フリーピストン70Bの外周が密閉空間71の内周に液密に嵌合され、フリーピストン70Bが密閉空間71の上部空間を中間空気室60として区画するものになる。
【0061】
(実施例5)(図9、図10)
実施例5が実施例1と異なる点は、中間空気室60を大気に開放したことにある。
可撓隔壁手段61のブラダ61Aにより区画された中間空気室60が、ピストンンロッド23に穿設した連絡路81を介して大気に開放される。これにより、油溜室22の上部空気室22Bの空気圧縮率A1を、簡易に、中間空気室60の空気圧縮率A2以上に設定できる。
【0062】
(実施例6)(図11、図12)
実施例6が実施例1と異なる点は、中間空気室60を油溜室22の上部空気室22Bに連通したことにある。
【0063】
可撓隔壁手段61のブラダ61Aにより区画された中間空気室60が、ピストンンロッド23に穿設した連絡路82により、油溜室22の上部空気室22Bに連通される。これにより、油溜室22の上部空気室22Bの空気圧縮率A1を中間空気室60の空気圧縮率A2と同等に設定できる。
【0064】
(実施例7)(図13、図14)
実施例7が実施例1と異なる点は、アウタチューブ11の内周とインナチューブ12の外周との間の環状油室28が、インナチューブ12に設けた連絡孔91により、上油室21Aに連通されたことにある。環状油室28は、アウタチューブ11の内周とインナチューブ12の外周と、アウタチューブ11の下端開口部の内周に固定したシール手段11Aと、インナチューブ12の上端開口部の外周に固定したシール手段12Aにより囲まれて区画され、油溜室22との連通を遮断されている。
【0065】
本実施例によれば、油圧緩衝器10の圧側行程と伸側行程で、中間空気室60の縮み量又は膨らみ量が、環状油室28の体積変化分だけ減じられる。これにより、中間空気室60の空気圧縮率を減じ、可撓隔壁手段61の小型化を図ることができる。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に油室を区画するとともに、該隔壁部材の上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に通してインナチューブに摺動自在に挿入し、前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを固定してなる油圧緩衝器において、前記ピストンロッドの先端部に上下2段をなす上下のピストンを固定し、上ピストンの上側にピストンロッドが収容される上油室を設け、下ピストンの下側にピストンロッドが収容されない下油室を設け、上下のピストンの間に中間油室を設け、前記上ピストンに設けた上油室から中間油室に向かう流路に伸側減衰力発生手段を設け、下ピストンに設けた下油室から中間油室に向かう流路に圧側減衰力発生手段を設け、前記隔壁部材に、油溜室と油室を連通する体積補償流路を設け、前記中間油室に接し、ピストンロッドの伸縮ストロークに起因する油室の油量変化によって拡縮することにより、その油室の油量変化を補償する中間空気室を設け、前記ピストンロッドの伸縮ストロークに対する、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を中間空気室の空気圧縮率以上に設定した。これにより、インナチューブの内周にピストンを摺接させる油圧緩衝器において、減衰力発生機構の安定を図ることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 油圧緩衝器
11 アウタチューブ
12 インナチューブ
19 隔壁部材
21 油室
21A 上油室
21B 下油室
21C 中間油室
22 油溜室
22A 油室
22B 上部空気室
23 ピストンロッド
26 上ピストン
27 下ピストン
28 環状油室
31 伸側減衰力発生手段
41 圧側減衰力発生手段
51 チェック弁(体積補償流路)
52 オリフィス(体積補償流路)
60 中間空気室
61 可撓隔壁手段
70 可撓隔壁手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、
前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に油室を区画するとともに、該隔壁部材の上部に油溜室を区画し、
前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に通してインナチューブに摺動自在に挿入し、
前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを固定してなる油圧緩衝器において、
前記ピストンロッドの先端部に上下2段をなす上下のピストンを固定し、上ピストンの上側にピストンロッドが収容される上油室を設け、下ピストンの下側にピストンロッドが収容されない下油室を設け、上下のピストンの間に中間油室を設け、
前記上ピストンに設けた上油室から中間油室に向かう流路に伸側減衰力発生手段を設け、下ピストンに設けた下油室から中間油室に向かう流路に圧側減衰力発生手段を設け、
前記隔壁部材に、油溜室と油室を連通する体積補償流路を設け、
前記中間油室に接し、ピストンロッドの伸縮ストロークに起因する油室の油量変化によって拡縮することにより、その油室の油量変化を補償する中間空気室を設け、
前記ピストンロッドの伸縮ストロークに対する、油溜室の上部空気室の空気圧縮率を中間空気室の空気圧縮率以上に設定してなることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記中間空気室が、中間油室に配置された可撓隔壁手段により区画されてなる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記中間空気室が、中間油室に連通する外部に配置された可撓隔壁手段により区画されてなる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
前記中間空気室が、大気に開放されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
前記中間空気室が、油溜室の上部空気室に連通されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
前記上油室が、アウタチューブの内周とインナチューブの外周との間の環状油室に連通されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の油圧緩衝器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate