説明

油性インキ

【課題】 発色性が良く、色合いを自由に選択でき、経時的に安定であって、かつ、コート紙、アート紙など光沢紙に滲みや裏抜けを生じないですみやかに吸収され、さらに、スタンプ台や朱肉や浸透印の蓋を開放放置しても盤面や印面が乾燥せず、インキの吐出が良好で、インキをインキ吸蔵体へ注入容易とする油性インキの開発が望まれていた。
【解決手段】 主溶剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルと、滲み防止剤としてプロピレングリコールと、着色剤として染料と、浸透剤として低級アルコールを配合させてなるスタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキを吸収する紙(以下、「吸収紙」と総称する。)を被押印対象とする染料系のスタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキに関するものであって、特に、光沢を有するコート紙、アート紙などインキを吸収しにくい紙(以下、「光沢紙」と総称する。)を被押印対象とする染料系のスタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来用いられているスタンプ台用油性インキや朱肉用油性インキや浸透印用油性インキは、着色剤として顔料を用いたものと染料を用いたものに大別できる。前者は、顔料の性質上耐光性に優れているが、一般に発色性が悪く、顔料が沈降したり、凝集する欠点がある。一方、後者は、一般に発色性が良く、溶剤に完全に溶解するので沈降等の問題が生じない利点があった。
また、他のインキの区分の方法として、溶剤が水性のものと油性のものに大別できる。水性のものは、主に上質紙を被押印対象とし、インキが吸収乾燥されることによって着色する。また、溶剤の特性から、スタンプ台や朱肉の盤面が乾燥しない、浸透印の印面が乾燥しないという優れた性質を有している。しかし、表面を酸化チタン等でコーティングしたコート紙など光沢紙に対しては、インキの吸収が極めて遅く、手指を汚すばかりか他の書類を汚し、事実上使用不可能であった。一方、油性のものは、更に揮発性有機溶剤のものと不揮発性有機溶剤のものとに区分できる。揮発性有機溶剤からなる油性インキは、押印後、すぐに溶剤が揮発し、着色剤を樹脂によって固着させるものなので、一見被押印対象を選ばないかに思われる。しかし、コート紙、上質紙など吸収紙に対しては、浸透力が過剰であり、滲みや裏抜けが顕著であって、とても使用には耐えられないものであった。更に、スタンプ台や朱肉や浸透印の蓋を開けたまま放置したり、密閉が完全でない場合は盤面や印面が短時間で乾燥してしまい、しばしば押印不可能となっていた。このような場合、使用者は溶剤を滴下して、染料や樹脂を再溶解して使用しなければならず、不便きわまりなかった。一方、不揮発性有機溶剤からなる油性インキは、滲みや裏抜けがほとんど無く、盤面が乾燥しないという優れた性質を有するが、表面を酸化チタン等でコーティングしたコート紙、アート紙など光沢紙では、インキの吸収が極めて遅く、手指を汚すばかりか他の書類を汚し、事実上使用不可能であった。
【0003】
また、長期保存してもインキが偏りにくく、印字跡にヌケやカスレの発生を抑制し、また同時に印字跡の滲みを抑制し鮮明な印字画像を得ることが出来るスタンプ用インキとして、特開平10−219159号、特開平11−071542号、特開平11−106691号などが開示されている。しかし、これらの油性インキは、樹脂を配合して粘度を高く設定してあったり、塑性又はチクソ性いわゆるゲル性を付与して粘度を高く設定してあるので、コート紙、アート紙など光沢紙では、インキの吸収が極めて遅く、手指を汚すばかりか他の書類を汚し、事実上使用不可能であった。また、その流動性が非ニュートン流体となるように設計されているので、インキが移動しにくく、インキの吐出が不良となると共にインキをインキ吸蔵体へ注入困難とする欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−219159号公報
【特許文献2】特開平11−071542号公報
【特許文献3】特開平11−106691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、発色性が良く、色合いを自由に選択でき、経時的に安定であって、かつ、コート紙、アート紙など光沢紙に滲みや裏抜けを生じないですみやかに吸収され、さらに、スタンプ台や朱肉や浸透印の蓋を開放放置しても盤面や印面が乾燥せず、インキの吐出が良好で、インキをインキ吸蔵体へ注入容易とする油性インキの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する為に、主溶剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルと、滲み防止剤としてプロピレングリコールと、着色剤として染料と、浸透剤として低級アルコールを配合させてなるスタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本願発明者は鋭意研究の結果、前記課題を解決した染料系のスタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキを見出すことに成功した。
本発明の油性インキは、ゲル性をほとんど有さないニュートン流体であるので、インキの流動が滑らかであって、かつ、インキ粘度も約100〜200mPa・sと低粘度なのでインキ吸蔵体へ注入容易となる特徴がある。また、低級アルコールは揮発性なので、インキ吸蔵体へインキ注入後から低級アルコールがすばやく蒸発し、ほとんどの低級アルコールが蒸発すると、インキ吸蔵体中のインキ粘度が500mPa・s以上1000mPa・s未満となって、コート紙、アート紙など光沢紙に対して最適なインキとなる特徴がある。
低級アルコール揮発後のインキは、発色性が良く、色合いを自由に選択でき、経時的に安定であって、かつ、コート紙、アート紙など光沢紙に滲みや裏抜けを生じないですみやかに吸収され、さらに、スタンプ台や朱肉や浸透印の蓋を開放放置しても盤面や印面が乾燥せず、インキの吐出が良好となる効果を有するものである。また、PPC再生用紙や上質紙に対しても、滲みや裏抜けを生じない優れた特徴を示す。
したがって、本発明の油性インキは、スタンプ台又は朱肉又は浸透印用のインキとして適しており、特に補充用のインキとして最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の油性インキは、スタンプ台や朱肉や浸透印に用いられる油性インキであって、主溶剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルと、滲み防止剤としてプロピレングリコールと、着色剤として染料と、浸透剤として低級アルコールを必須構成要件とする。
あ 本発明の油性インキは、ゲル性をほとんど有さないニュートン流体なので、常温で粘度を約100mPa・s〜200mPa・sに調整すればよいが、特に、20℃〜30℃の間で粘度を100mPa・s〜200mPa・sに調整することが好ましい。
【0009】
本発明の油性インキに主溶剤として用いられる溶剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルであって、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをエチレンオキサイド:プロピレンオキサイド=1〜10:1〜10の割合で触媒下において開環重合して得られるランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいづれかであるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンの末端水素の1つを、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−プロピル基などのアルキル基で置換した高分子化合物を指し、R−O−(CO)−(CO)−H(R:アルキル基)の化学式を有するものである。具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノエチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノn−ブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノイソブチルエーテルなどをあげることができ、重合度が30〜100(m及びn=30〜100)のものが好ましく用いられる。本発明では、本発明の油性インキが特定粘度となるように上記の溶剤を単独または二種以上混合して用いることができ、その配合比はインキ組成中40〜90重量%、好ましくは45〜80重量%である。
【0010】
本発明の油性インキに滲み防止剤として用いられる溶剤は、プロピレングリコールである。前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルを主溶剤とする油性インキを用いて、コート紙、アート紙などの光沢紙や、PPC再生用紙や上質紙に押印すると、インキが紙中に広がり、文字が滲んでしまう欠点があったが、当該プロピレングリコールを配合したインキは、押印部分にインキが留まり、結果として滲みを防止することができることを見出した。本発明では、プロピレングリコールをインキ組成中20〜50重量%、好ましくは25〜40重量%である。20重量%未満では滲みを有効に防止できないし、50重量%を超過すると粘度が低くなりすぎ、スタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキとして適当でない。
【0011】
本発明の油性インキに用いられる着色剤としては、上記の溶剤に可溶な公知の直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料、油溶性染料を用いることができ、一般に市販されているモノアゾ、ジスアゾ、金属錯塩型モノアゾ、アントラキノン、フタロシアニン、トリアリルメタン等の油溶性染料を用いることができる。また、造塩タイプ油溶性染料も使用することができる。造塩タイプ油溶性染料は、酸性染料・直接染料・塩基性染料等の親水基を疎水基に置換した染料であって、酸性染料の親水基をカチオン活性剤・樹脂塩基・アミン・塩基性染料等の疎水基で置換したもの、直接染料の親水基をカチオン活性剤・樹脂塩基・アミン・塩基性染料等の疎水基で置換したもの、塩基性染料の親水基をアニオン活性剤・樹脂酸・酸性染料・直接染料等の疎水基で置換したものを使用できる。具体的には、C.I.ソルベントイエロー16、同19、同21、同34、同56、同82、C.I.ソルベントオレンジ2、同5、同14、C.I.ソルベントレッド1、同3、同8、同18、同24、同49、同82、同100、同124、同132、C.I.ソルベントバイオレット8、同21、同27、C.I.ソルベントブルー2、同5、同25、同44、C.I.ソルベントブラウン3、同5、同37、C.I.ソルベントグリーン3、C.I.ソルベントブラック3、同5、同7、同22、同23、同27、同29、同50、C.I.ダイレクトブル−87、タートラジンとローダミン6Gの造塩染料、ビクトリアピュアブルーと酸性フタロシアニンブルーの造塩染料、アシッドブラック52と有機アミンの造塩染料、加えて前記以外の色相のクロム錯体染料、コバルト錯体染料等を例示することができる。これらの染料はそれぞれ単独もしくは2種以上混合使用してもよい。その配合量は溶解度に応じた量もしくは、所望する色相、濃度等により適宜量定めればよいが、インキ組成中1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%とするのがよい。金属錯塩型染料を用いた場合は耐光性が向上する。染料を採用することによって、発色性が良く、色合いを自由に選択でき、経時的に安定である油性インキが得られる。
【0012】
本発明の油性インキに用いられる浸透剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどの低級アルコールを用いることができる。
低級アルコールは、溶剤への染料の溶解を助ける作用があり、かつ、全体のインキ粘度を低下させてインキ吸蔵体へのインキ補充性を良好とする。
低級アルコールは常温で揮発するので、本発明の油性インキをインキ吸蔵体などに注入した後は低級アルコールが徐々に蒸発し、経時後は低級アルコールをほとんど含有しない油性インキがインキ吸蔵体に残存する。その際の常温におけるインキ粘度が500mPa・s以上1000mPa・s未満となるように調整しておくと、コート紙、アート紙など光沢紙に対して適したインキとなる。
本発明では、前記条件に合致するように低級アルコールを配合することが求められ、インキ組成中1〜50重量%、好ましくは10〜25重量%である。
【0013】
本発明は、吸収紙を対象とし、インキを吸収しない金属、ガラス、ビニール、ビニールコートされた紙を対象外とするため、樹脂を必要としない。それどころか、粘度の調整が困難であること、経時的に粘度が上昇してしまうこと、ゲル状インキになりやすいことから樹脂を配合することは好ましくない。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル等の染料溶解助剤、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリンポリオキシプロピレントリオール等の界面活性剤、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール系化合物、クエン酸、ビタミンC、ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤などを適宜配合することもできる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテル 45.0重量%
プロピレングリコール 30.0重量%
エタノール 20.0重量%
C.I.ベーシックブルー7 4.8重量%
4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール) 0.2重量%
上記成分を攪拌機で混合し、20℃におけるインキ粘度が150mPa・sの青色の油性インキを得た。その後、当該油性インキをインキ吸蔵体に含浸させ、常温で1日放置し、低級アルコールの大部分を蒸発させた。その際の20℃におけるインキ粘度は600mPa・sであった。
【0015】
(比較例1)
上記実施例1のプロピレングリコールを全てポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテルとし、同様に青色の油性インキを得た。
【0016】
(実施例2)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテル 35.0重量%
プロピレングリコール 35.0重量%
i−プロパノール 15.0重量%
C.I.ソルベントブラック27 14.8重量%
ジブチルヒドロキシトルエン 0.2重量%
上記成分を攪拌機で混合し、20℃における粘度が190mPa・sの黒色の油性インキを得た。その後、当該油性インキをインキ吸蔵体に含浸させ、常温で1日放置し、低級アルコールの大部分を蒸発させた。その際の20℃におけるインキ粘度は650mPa・sであった。
【0017】
(比較例2)
上記実施例2のプロピレングリコールを全てポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテルとし、同様に黒色の油性インキを得た。
【0018】
(実施例3)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテル 35.0重量%
プロピレングリコール 35.0重量%
エタノール 20.0重量%
C.I.ソルベントレッド132 9.8重量%
ブチルヒドロキシアニソール 0.2重量%
上記成分を攪拌機で混合し、20℃における粘度が170mPa・sの赤色の油性インキを得た。その後、当該油性インキをインキ吸蔵体に含浸させ、常温で1日放置し、低級アルコールの大部分を蒸発させた。その際の20℃におけるインキ粘度は660mPa・sであった。
【0019】
(比較例3)
上記実施例3のプロピレングリコールを全てポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテルとし、同様に赤色の油性インキを得た。
【0020】
以下、試験結果を表に示す。
表1は、実施例1〜3及び比較例1〜3の油性インキを、連続気泡を有するポリウレタン製スタンプ台にそれぞれ含浸させ、常温で1日放置し、低級アルコールの大部分を蒸発させた後、各試験を行なったものである。
表2は、実施例1〜3及び比較例1〜3の油性インキを、連続気泡を有するポリエチレン製浸透印にそれぞれ含浸させ、常温で1日放置し、低級アルコールの大部分を蒸発させた後、各試験を行なったものである。
(試験方法及び評価基準)
※被押印対象物は、コート紙、アート紙、PPC再生紙とした。
1.滲み試験…印影を目視により観察した。
○…滲み無し △…滲み少し有り ×…滲み有り
2.裏抜け試験…印影を目視により観察した。
○…裏抜け無し △…裏抜け少し有り ×…裏抜け有り
3.セット時間…押印後、上質紙を重ねて1kg/cmの力を加え、転写しなくなるまでの時間を計測した。
4.乾燥性試験…スタンプ台の蓋を開放放置した状態において、盤面が押印不可能となるまでの時間を計測した。浸透印のキャップを開放放置した状態において、押印不可能となるまでの時間を計測した。
【0021】
(表1)

【0022】
(表2)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主溶剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルと、滲み防止剤としてプロピレングリコールと、着色剤として染料と、浸透剤として低級アルコールを配合させてなるスタンプ台又は朱肉又は浸透印用油性インキ。