説明

油水分離器

【課題】ビルジ水等の被処理液中に含まれる微小径の乳化油を解乳化して油滴として効率的に吸着濾過することができ、関連する装置全体の小型化が可能で狭い場所でも設置でき、長期間使用できて、小型船舶におけるビルジ水処理等に好適なフィルター式の油水分離器を提供する。
【解決手段】カートリッジ式のフィルターの空隙部9に、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等を溶出し解乳化作用を有する1種または2種以上のイオン溶出物質10を通水用の隙間を残して充填し、ビルジ水等に含まれる乳化油を解乳化して吸着濾過できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水分離器に関し、特に、小型船舶で発生するビルジ水(含油排水)中の乳化油を除去可能な油水分離器に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶において発生するビルジ水は油分濃度を規定値以下に抑えて船外に排出することが要求される。そのため、船舶にはビルジ水処理用の油水分離装置を設置する必要がある。そして、そのビルジ水処理用の油水分離装置として、例えば、ビルジタンクに貯留したビルジ水をビルジポンプで汲み上げ、平行板式等の浮上油分離機に導いて大きな油滴を浮上分離させた後、石膏等の充填材を充填した解乳化槽を有する解乳化装置に導いて、充填材から溶出する陽イオンとビルジ水中の界面活性剤とを反応させて乳化油を解乳化させ、解乳化された被処理液を、コアレッサーを内蔵する凝縮分離槽等の浮上油分離器に導いて、油滴を集合させて浮上分離させるようにした油水分離装置(例えば、特許文献1参照。)が従来から使用されている。図5はそうした従来型の油水分離装置を使用するビルジ水処理システムの概略図である。図5において、BWはビルジ水、1はビルジタンク、2はビルジポンプ、3は浮上油分離機、4は解乳化装置、5は浮上油分離器を示す。
【0003】
また、ビルジ水処理用の油水分離装置として、フィルター式の油水分離器で処理して船外に排出するようにしたものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、フィルター式の油水分離器として、油含有水中に含まれる直径1μm程度の微細な乳化油を確実に分離できるようにするために、フィルターカートリッジの筒状部内を仕切板によって複数のブロックに分け、各ブロックに、油の捕獲力のあるフィルター材を充填して、乳化油を含む油の捕獲を複数回行うようにしたものも従来から知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−281123号公報
【特許文献2】特開2005−87926号公報
【特許文献3】特開平10−290902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
総トン数100トン以上の船舶の場合は、かねてから、油水分離器を設置してビルジ水排出時の油分濃度を15ppm以下に抑えるように法規制されていることもあって、重力式の浮上油分離機と解乳化装置とを組み合わせた上記のような従来型の油水分離装置が搭載されているが、このような従来型の油水分離装置を搭載できるのは、スペースに比較的余裕のある大型の船舶であって、小型船舶の場合は、内部が狭いため、重力式の浮上油分離機と解乳化装置とを組み合わせた従来型の大きな油水分離装置は設置できない。しかし、現在では、100トン未満の船舶、例えば沿岸漁船やレジャーボートなどの小型船舶についても、油分濃度が15ppmを超えるビルジ水の排出を禁じる法規制が実施されており、そのような小型船舶に搭載する油水分離装置としては、小型化できるように、ビルジタンクから汲み上げられたビルジ水を直接吸着濾過するフィルター式の油水分離器を使用するのが普通である。
【0007】
しかし、ビルジ水に含有する油には、浮上油とよばれる非乳化油と、撹拌や界面活性剤の効果によって分散されたエマルジョンである乳化油があり、このうち、浮上油は、そのままフィルターで吸着分離できるが、乳化油は、1ミクロン以下の微小径の油滴として水中に分散しているため、微小径の油滴を集合させて径の大きな油滴としなければ、フィルターで効率的に吸着分離することはできない。
【0008】
乳化油を分離する手段としては、膜分離の方法もあるが、膜分離の場合は目詰まりが激しく洗浄の頻度が高くて実用性に乏しい。
【0009】
また、乳化油を除去するために、フィルターによる分離の前処理として、凝集剤などを添加する工程を設けることも考えられるが、そのように前処理工程を設けるのでは装置が肥大化し、小型船舶への応用ができなくなる。
【0010】
それに対し、ビルジタンクから汲み上げられたビルジ水を直接吸着濾過するフィルター式の油水分離器、特に、カートリッジ式に装填可能なフィルターを有する油水分離器は、長期間使用でき、小型船舶のビルジ水処理用として有効である。しかしながら、従来のフィルター式の油水分離器では上述のように乳化油を効率よく吸着濾過することができない。
【0011】
本発明は、ビルジ水等の被処理液中に含まれる微小径の乳化油を解乳化して油滴として効率的に吸着濾過することができ、関連する装置全体の小型化が可能で狭い場所でも設置でき、長期間使用できて、小型船舶におけるビルジ水処理等に好適なフィルター式の油水分離器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、フィルターの構造に注目し、フィルターの空隙部に通水性を大きく阻害しない範囲内で、解乳化作用を有する物質を充填することにより、フィルター自体に解乳化機能を付加することができ、ビルジ水等の被処理液中に含まれる微小径の乳化油を解乳化して油滴として効率的に吸着濾過できることを見出し、これを、小型で長期間使用可能なカートリッジ式のフィルターを有する油水分離器において具現化したものである。
【0013】
すなわち、本発明の油水分離器は、カートリッジ式のフィルターを有する油水分離器において、解乳化作用を有する物質として、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンのいずれかを溶出する1種または2種以上の物質を、フィルターの空隙部に、通水用の隙間を残して充填することを特徴とする。
【0014】
解乳化作用を有する物質を充填する空隙部は、フィルターの被処理液が侵入する側の厚さ0.5〜5mmの範囲における空隙部に限定してもよい。
【0015】
この油水分離器は、特に、船のビルジ水に含まれる乳化油を解乳化して吸着濾過するビルジ水処理用の油水分離器として好適である。
【0016】
ビルジ水中には、撹拌や界面活性剤によって分散されたエマルジョンである乳化油が、直径1μm程度あるいはそれ以下の微小径の油滴となって分散している。例えば、油滴−R−COONa(R=Cn2n)の形であったものが、油滴−R−COO-+Na+の形に電離し、電気的反発で乳化分散している。本発明の油水分離器は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンのいずれかを溶出する1種または2種以上の物質が、フィルターの空隙部に、通水用の隙間を残して充填されていて、それらの物質から溶出するイオンにより、電離分散した乳化油を中和して乳化分散の効果を低減し油滴を集合させる解乳化を行うことができ、微小径の油滴を集合させて大きくしフィルターで吸着濾過することができる。例えばCa2+(カルシウムイオン)が溶出すると、Ca2+は二価の陽イオンであるので、油滴−R−COO-+Na+の形に電離していたものを、油滴−Ca−OOC−R−油滴の形で結合させ、乳化分散の効果を低減させて油滴を大きくすることができる。3価の陽イオンの場合も同様の現象を示す。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明の油水分離器は、ビルジ水等の被処理液中に含まれる微小径の乳化油を解乳化して油滴として効率的に吸着濾過することができ、しかも、フィルター自体に解乳化機能が付加されるため、別途解乳化装置を設置する必要がなく、関連する装置全体の小型化が可能で狭い場所でも設置でき、また、フィルターがカートリッジ式であってメンテナンス容易で長期間使用でき、ビルジ水を油分濃度を規定値以下に抑えて船外に排出するためのビルジ処理用の油水分離器として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るビルジ水処理システムの概略図である。
【図2】図1のシステムにおける油水分離器のフィルターの空隙部へのイオン溶出物質の充填状態を示す模式図である。
【図3】図1のシステムにおける油水分離器のフィルターの断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る実施例の効果を示すグラフである。
【図5】従来型の油水分離装置を使用したビルジ水処理システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態の一例を示している。この実施形態は、小型船舶の船内に発生するビルジ水を処理し油分濃度を規定値以下(法律では15PPM以下に規制されている)に抑えて船外に排出するためのビルジ水処理システムに本発明の油水分離器を用いたものである。
【0020】
このビルジ水処理システムは、ビルジタンク1に貯留したビルジ水(BW)をビルジポンプ2で汲み上げ、解乳化機能を付加したフィルター式の油水分離器6により、ビルジ水に含まれる乳化油を解乳化して、非乳化油共々、吸着濾過するよう構成されている。
【0021】
油水分離器6は、円筒状のカートリッジ(図示せず)にフィルター7(図2参照)が装填されたものである。そして、図2に示すように、フィルター7はファイバー(繊維)8が絡み合った構造で、空隙部9を形成し、その空隙部9には、解乳化作用を有する1種または2種以上のイオン溶出物質10が、通水用の隙間を残して充填されている。
【0022】
空隙部9に充填されるイオン溶出物質10は、例えば、二水石膏(CaSO4・2H2O)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、珪酸カルシウム(2CaO・SiO2,3CaO・SiO2など)、アルミン酸カルシウム(3CaO・Al23など)等の、カルシウムイオンを溶出する物質、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2),酸化マグネシウム(MgO)、ドロマイト(CaO・MgO),炭酸マグネシウム(MgCO3)等の、マグネシウムイオンを溶出する物質、水酸化アルミニウム(Al23・3H2O,Al(OH)3)等の、アルミニウムイオンを溶出する物質、水酸化鉄(Fe(OH)3)、酸化鉄(FeO,Fe23など)等の、鉄イオンを溶出する物質の1種または2種以上の組み合わせである。
【0023】
フィルター7の空隙部9における、イオン溶出物質10の充填度合いは、容積比で30〜70%、好ましくは40〜60%とする。イオン溶出物質10がフィルター7の空隙部9全体に充満したのでは、通水性が無くなり、フィルター本来の機能が失われる。したがって、イオン溶出物質10は、通水性を阻害しない範囲で充填する必要がある。充填度合いが30%未満では、溶出するイオン量が少なくて解乳化作用が十分でない。また、70%を超えると、通水性が大きく阻害され圧力損失が膨大になる。図2は、フィルター7の空隙部9にイオン溶出物質10が適切な充填度合いで充填されている状態(破線枠で囲った部分に典型的に現れている)を示している。
【0024】
また、このようにイオン溶出物質10を充填すると、フィルター7のファイバー8がイオン溶出物質10によって被覆される形になるため、非乳化油および解乳化した油を吸着濾過するためには、充填するイオン溶出物質10を、非乳化油および解乳化した油を吸収するような多孔性を有するものとする必要がある。そのため、充填するイオン溶出物質10の気孔率を、20〜60%、好ましくは30〜50%に設定する。気孔率が20%未満では、油吸収量が寡少でフィルター機能が十分でなくなり、60%を超えると、強度不足で、解乳化作用を付与する物質の耐久性が十分でなくなる。充填したイオン溶出物質10は、非乳化油および解乳化した油を吸収すると溶解して減量していき、それにつれ、吸収された油はフィルター7本来のファイバー8に吸着される割合が多くなる。
【0025】
イオン溶出物質10は、フィルター7全体の空隙部9に充填してもよいが、乳化油の含有量が小さい場合や、圧力損失が問題になる場合は、図3に示すように、イオン溶出物質10を充填する範囲を、被処理液が侵入する側(被処理液侵入方向前側)の厚さ0.5〜5mmに限定して、この範囲を解乳化層11とし、それより後側(被処理液侵入方向後側)は本来のフィルター構造のままにしておくことも可能である。
【0026】
このように、被処理液侵入方向の前側に解乳化層11を設け、後側を本来のフィルター構造のままとすることで、解乳化処理は前処理工程として前段で実施され、後段ではフィルター本来の特性による吸着濾過を行うようにできる。すなわち、被処理液を前段でイオンの効果によって解乳化し、集合して大きくなった油滴を本来のフィルター7の機能で吸着濾過することができる。
【0027】
解乳化層11の厚さは、上述のように0.5〜5mmで、好ましくは1〜3mmに設定する。解乳化層11の厚さが0.5mm以下では、解乳化効果が十分でなく、5mm以上では、通過抵抗が増大する。
【0028】
このように被処理液侵入方向の前側に解乳化層11を限定して設けた場合も、解乳化層11においてフィルター7の空隙部9に対するイオン溶出物質10の充填度合い、およびイオン溶出物質10の気孔率の適正範囲は、フィルター7全体の空隙部9にイオン溶出物質10を充填する場合の充填度合い、および気孔率の適正範囲と同様である。すなわち、イオン溶出物質10の充填度合いは、容積比で30〜70%、好ましくは40〜60%とし、気孔率は、20〜60%、好ましくは30〜50%に設定する。
【0029】
この実施形態では、油水分離器6のフィルター7に充填されたイオン溶出物質10から溶出するカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン等の解乳化作用により、電離分散していた乳化油が中和されて、乳化分散の効果が低減し、微小径の油滴が集合して大きくなる。そして、解乳化された油がフィルター7本来の機能により吸着濾過される。こうして、被処理液中に含まれる直径1μm程度の微細な乳化油も確実に分離でき、油分濃度を規定値以下に抑えるよう油水分離処理できる。しかも、別途解乳化装置を設置する必要がなく、装置(システム)全体の小型化が可能で、小型船舶の狭い場所でも設置でき、また、フィルター6がカートリッジ式であってメンテナンス容易で長期間使用できる。したがって、漁船やプレジャーボートを含む総トン数100トン未満の船舶のビルジ水処理に最適で、環境汚染の改善に大きく貢献できる。
【0030】
なお、上記実施形態は、船内に発生するビルジ水を処理し油分濃度を規定値以下に抑えて船外に排出するビルジ水処理システムの場合であるが、本発明の油水分離システムは、ビルジ水処理以外に、工場廃水や生活廃水等の処理にも適用することができる。
【実施例】
【0031】
68mmφ×250mm高さ、通孔径50μmのポリプロピレン製カートリッジフィルターに、二水石膏の乳液を真空含浸して十分に乾燥させ、二水石膏の充填量が25gとなったフィルターに、非乳化の軽油の濃度が400ppmで、乳化した軽油の濃度が100ppmの含油排水を、毎時100リットルで3時間通過させた。その結果は、図4に四角プロットのグラフで示すとおりで、油分濃度は規制値の15ppmを大幅にクリアした。
【0032】
また、68mmφ×250mm高さ、通孔径50μmのポリプロピレン製カートリッジフィルターの外周面に、水酸化マグネシウムのスラリーを擦り込みにより塗布することにより、1.3mmの厚さの範囲に水酸化マグネシウムが5g充填されたフィルターを用い、非乳化の軽油の濃度が400ppmで、乳化した軽油の濃度が100ppmの含油排水を、毎時100リットルで3時間通過させた。その結果は、図4に三角プロットのグラフに示すとおりで、油分濃度は規制値の15ppmをクリアした。
【0033】
なお、図4のひし形プロットのグラフは、イオン溶出物質を充填していない68mmφ×250mm高さ、通孔径50μmのポリプロピレン製カートリッジフィルターをそのまま使用し、非乳化の軽油の濃度が400ppmで、乳化した軽油の濃度が100ppmの含油排水を、毎時100リットルで3時間通過させた結果である。この場合は、油分濃度は規制値の15ppmをクリアできていない。
【符号の説明】
【0034】
1 ビルジタンク
2 ビルジポンプ
6 油水分離器
7 フィルター
8 ファイバー
9 空隙部
10 イオン溶出物質
11 解乳化層
BW ビルジ水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カートリッジ式のフィルターを有する油水分離器において、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンのいずれかを溶出する1種または2種以上の物質を、前記フィルターの空隙部に、通水用の隙間を残して充填することを特徴とする油水分離器。
【請求項2】
カートリッジ式のフィルターを有する油水分離器において、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンのいずれかを溶出する1種または2種以上の物質を、前記フィルターの被処理液が侵入する側の厚さ0.5〜5mmの範囲における空隙部に、通水用の隙間を残して充填することを特徴とする油水分離器。
【請求項3】
船のビルジ水に含まれる乳化油を解乳化して吸着濾過するためのものである請求項1または2記載の油水分離器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−5358(P2011−5358A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148508(P2009−148508)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(593064951)兵神機械工業株式会社 (7)