説明

油水分離用フィルター部材

【課題】油中の水滴を分離するためのフィルターに用いて好適な油水分離用フィルター部材を提供する。
【解決手段】油水分離用フィルター部材であって、基体1と、親水性を有する第1の無機微粒子2bと、第1の無機微粒子2aを基体上に保持するための、共有結合により表面にシランモノマー3が結合した第2の無機微粒子の群とを備え、第2の無機微粒子の群は、第2の無機微粒子同士が表面のシランモノマー間の化学結合を介して結合し、且つ、第2の無機微粒子の群がシランモノマーと基体との化学結合によって基体と結合することにより、第1の無機微粒子を保持するためのスペース8を形成している。油水分離用フィルター部材は、親水性に優れ、油水分離性に優れた特性を有することから、様々な油水分離用フィルターシステムに応用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中の水と油を分離するためのフィルターに用いるのに好適な油水分離用フィルター部材に関する。
【背景技術】
【0002】
石油ファンヒーターやガソリンや軽油などを使用する内燃機関は、使用する油に水滴が存在すると、該水滴が配管内壁や噴射ノズルの先端に付着して、配管内壁の腐食の発生や噴射ノズル先端の目詰まりの原因になったり、或いは、燃焼効率の低下や出力低下などの問題を引き起こすことが知られている。
【0003】
これまで、油中の水と油を分離する方法としては、親水性且つ非親油性高分子からなる多孔質膜を燃料タンクの底に設置する方法(特許文献1)、親水化処理した極細繊維からなるシートを充填したフィルターを利用する方法(特許文献2)、微細孔を有する疎水性多孔質膜をフィルターに用いる方法(特許文献3)、撥水性樹脂繊維と無機繊維とを含有する織布をフィルターに用いる方法(特許文献4)などが提案されている。
【特許文献1】特開昭61−216701号公報
【特許文献2】特開平04−313312号公報
【特許文献3】特開2000−312802号公報
【特許文献4】特開2007−181819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている親水性高分子を燃料タンクの底に設置する方法では、油水分離膜材が機能するには油水分離膜に十分な水分が常に含まれることが必要であり、比較的含水率が低い燃料に使用する場合には、油水分離膜が乾燥しないように注意を払う必要がある。また、特許文献2では、親水化処理した極細繊維を束ねたフィルターを使用することからフィルターの細孔径が細く、そのため、分離した水滴を粗大化することが困難であり、比重差で分離する油水分離システムには適応できない。さらに、特許文献3では、0.03μm〜5μmの細孔を有した疎水性多孔質膜を使用するため、油に浮遊している微細な塵などが細孔を閉塞し、時間の経過と共に圧力損失が高くなる問題がある。また、特許文献4では、撥水性樹脂繊維と無機繊維とからなる織布をフィルターとして用いることから、撥水性樹脂繊維と無機繊維の構成比率によっては、含水率が変動したときに分離が不十分になるなどの問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、従来よりも多様な使用環境に適応可能である油水分離用フィルター部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、第1の発明は、基体と、親水性を有する第1の無機微粒子と、前記第1の無機微粒子を基体上に保持するための、シランモノマーが表面に化学結合した第2の無機微粒子の群とを備え、前記第2の無機微粒子の群は、前記第2の無機微粒子同士が表面の前記シランモノマー間の化学結合を介して結合し、且つ、前記第2の無機微粒子の群が前記シランモノマーと基体との化学結合によって基体と結合することにより、前記第1の無機微粒子を保持するためのスペースを形成していることを特徴とする油水分離用フィルター部材である。
【0007】
また、第2の発明は、親水性を有する第1の無機微粒子および不飽和結合部または反応性官能基を有するシランモノマーが表面に化学結合した第2の無機微粒子の群が分散されたスラリーを基体に塗布し、前記第2の無機微粒子同士を表面の前記シランモノマー間の化学結合により結合させるとともに、前記シランモノマーの不飽和結合部または反応性官能基と基体表面との化学結合により、前記第2の無機微粒子の群を基体と結合させて前記第1の無機微粒子を保持するためのスペースを形成し、前記第1の無機微粒子を当該スペースにて保持することを特徴とする油水分離用フィルター部材である。
【0008】
さらに、第1または第2の発明において、前記シランモノマーと無機微粒子間の化学結合が脱水縮合による共有結合であり、前記シランモノマー間の化学結合がラジカル重合による共有結合であり、かつ前記シランモノマーと前記基体との化学結合がグラフト重合による共有結合であることを特徴とする油水分離フィルター部材である。
【0009】
第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明において、前記第1の無機微粒子は、モノマー、オリゴマー、またはそれらの混合物であるバインダー成分を介して前記第2の無機微粒子と結合していることを特徴とする油水分離用フィルター部材である。
【0010】
第5の発明は、上記第1から第4の発明のいずれか1つにおいて、基体が繊維構造体であることを特徴とする油水分離用フィルター部材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基体に結合した第2の無機微粒子の群により形成されたスペースにおいて親水性を有する第1の無機微粒子が基体上に強固に保持されるため、剥がれなどを抑制することができる。つまり、第1の無機微粒子の水に対する濡れ性が良好に維持され、油に含まれる水滴は親水性の高い無機微粒子膜の表面に付着して拡散することから、効率良く油から水滴を分離することが可能となり、フィルターの孔径を用途から想定される孔径よりも極端に小さくすることも要しない、自由な設計の油水分離フィルター部材が提供できる。
【0012】
また、第2の無機微粒子の群をその表面のシランモノマーを介して基体上に固定したことにより、本実施形態の油水分離用フィルター部材は当該フィルター部材の表面に微細な細孔を有しているので、この細孔に含浸した水分は安定にフィルター部材表面に留まり、長期間親水性が維持できる。よって、従来よりも多様な使用環境に適応可能な油水分離フィルター部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態の油水分離用フィルター部材100の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態の油水分離用フィルター部材100は、油中の水分と油を分離するための油水分離用フィルター部材であって、通液性を有する基体1上に親水性を有する無機微粒子2−b(本発明の第1の無機微粒子に相当)が、無機微粒子2−a(本発明の第2の無機微粒子に相当)の群10により、基体1上に保持される構成である。
【0014】
なお、図1では本発明の実施形態を判りやすく模式的に示すため、無機微粒子2−a、2−bは異なる無機化合物であって、それぞれ1種類の無機化合物である場合を表したが、これに限定されない。すなわち、無機微粒子2−aと2−bは同種の無機微粒子でもよいし、それぞれが2種類以上の無機微粒子からなるようにしてもよい。
【0015】
以下、本実施形態の油水分離用フィルター部材100の構成について、詳細に説明する。本実施形態の油水分離用フィルター部材100に用いられる基体1としては、シランモノマー3による共有結合5が可能なものであれば良い。このような基体1としては、少なくとも基体1表面が、例えば、各種樹脂や、合成繊維や、綿、麻、絹等の天然繊維や、天然繊維から得られた和紙などにより構成されたものが挙げられる。
【0016】
基体1の表面ないし全体を構成する樹脂としては、石油や灯油或いは軽油などの油で膨潤や溶解しない材料であれば良く、合成樹脂や天然樹脂が用いられる。その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、PTFEなどの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0017】
また、本実施形態では、基体1の形態は通液性を有する限り特に限定されず、使用目的や処理対象となる油の種類などに応じて変更可能であるが、例えば樹脂からなる繊維状材料から構成される織物・編物・不織布などを含む繊維構造体とすることができる。さらに、種々の形状及びサイズ等についても、使用目的に合ったものとすることができる。なお、本明細書において、基体上とは、基体1が不織布状の場合は不織布を形成する糸の表面を意味する。
【0018】
本実施形態の油水分離用フィルター部材100に係る基体1上には、無機微粒子2−aの群10が固定されている。無機微粒子2−aは、表面に脱水縮合反応による共有結合7によりシランモノマー3が結合しており、また、無機微粒子2−a同士は、表面のシランモノマー3間で形成されたラジカル重合による共有結合6(以下、単に共有結合6と称す)により、結合している。さらに、無機微粒子2−aの群10は、シランモノマー3と基体1との間に形成される共有結合5(後述するグラフト重合による共有結合)により、基体1に結合している。そして、無機微粒子2−a同士の結合、および無機微粒子2−aの群10と基体1との結合により、基体1上には、無機微粒子2−bを保持するためのスペース8が形成される。
【0019】
ここで、シランモノマー3が不飽和結合部や反応性官能基を無機微粒子2−aの外側に向けて配向して結合する理由について詳述する。これは、シランモノマー3の片末端であるシラノール基が親水性であるため、同じく親水性である無機微粒子2−aの表面に引きつけられやすく、一方、逆末端の不飽和結合部や反応性官能基は疎水性であるため、無機微粒子2−aの表面から離れようとするからである。このため、シランモノマー3のシラノール基は、無機微粒子2−aの表面に脱水縮合反応により共有結合7し、シランモノマー3は不飽和結合部を外側に向けて配向しやすい。したがって、多くのシランモノマー3については、不飽和結合部を外側に向けて無機微粒子2−aと共有結合7している。
【0020】
すなわち、本実施形態の油水分離用フィルター100は、不飽和結合部又は反応性官能基を有する反応性に優れたシランモノマー3を用いることで、シランモノマー3が有するシラノール基の共有結合6により基体1上の複数の無機微粒子2−a同士を結合するとともに、基体1と対向する無機微粒子2−a表面のシランモノマー3との間で共有結合5を形成することで、無機微粒子2−aの群10を基体1上に固定している。そして、無機微粒子2−a同士の結合および無機微粒子2−aの群10と基体1との結合により形成されたスペース8に無機微粒子2−bを保持している。当該スペース7は外部と連通しており、無機微粒子2−bは、その親水性が維持された状態で基体1上に保持されている。すなわち本発明の1つの態様において、無機微粒子2−bは、親水性が維持された状態で、基体1上において少なくとも無機微粒子2−aおよび当該無機微粒子2−aに結合したシランモノマー3によって囲まれている。
【0021】
無機微粒子2−aに脱水縮合により共有結合7するシランモノマー3が有する不飽和結合部としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基などが挙げられる。
【0022】
本実施形態の油水分離用フィルター部材100で用いられるシランモノマー3の一例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0023】
本実施形態の油水分離用フィルター部材100に係る無機微粒子2−a、および無機微粒子2−bとしては、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物などの親水性を示すものが好適に用いられる。無機微粒子2の結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、ギブサイト、ベーマイト、ダイスポア、γ、δ、θなどの結晶性を有する酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、過酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化インジウムなどが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイト、エリナイトなどのゼオライト類、ハイドロキシアパタイトなどのアパタイト類、酸化チタンバリウム、酸化コバルトアルミニウム、酸化ジルコニウム鉛、酸化ニオブ鉛、TiO2−WO3、AlO−SiO、WO−ZrO、WO−SnOなどが挙げられる。これらの無機微粒子は単体で用いても2種以上混合して用いても良い。
【0024】
本実施形態において、含有される無機微粒子2(2−a、2−b)の粒子径としては、平均の粒子径が500nm以下とすることが好ましい。500nmより大きい場合では、基体1に対する無機微粒子2の密着性が低下して500nm以下である場合よりも無機微粒子2が剥がれやすくなるため、メンテナンスの手間やコストが多くかかってしまう。また、その使用環境や使用経時などにより、無機微粒子2の剥離が発生する場合があることから、無機微粒子2同士の密着強度を考慮すると、無機微粒子2の平均粒子径は10nmから300nm以下であることが特に好ましい。
【0025】
さらに、本実施形態の油水分離用フィルター部材においては、無機微粒子2−bは、モノマー、オリゴマー、またはこれらの混合物からなるバインダー成分4を介して無機微粒子2−aに結合するようにしてもよい。言い換えれば、本実施形態の油水分離用フィルター部材は、無機微粒子2−bの親水性が維持された状態(無機微粒子2−bの表面のうち少なくとも一部が外部に露出された状態)で当該無機微粒子2−bと無機微粒子2−aを結合する、モノマー、オリゴマー、またはこれらの混合物からなるバインダー成分4を備えるようにしてもよい。これにより、石油や灯油或いは軽油などによる無機微粒子2−bの基体1上からの脱落を防止できるため、親水性の低下を抑制することができる。なお、図1に示すように、バインダー成分4は、無機微粒子2−aと無機微粒子2−bとを結合させるだけでなく、無機微粒子2−bと基体1とを結合したり、無機微粒子2−a同士、および無機微粒子2−b同士を結合するようにしてもよい。また、無機微粒子2−aの表面に、バインダー成分4によって無機微粒子2−bを固定するような構成とすることもできる。さらに、本実施形態では、以下に例を示したバインダー成分4について、脱水縮合反応による共有結合を形成して無機微粒子2−a、2−b、および基体1に結合しているがこれに限定されるものではなく、他の態様によって結合または吸着するようにしてもよい。
【0026】
モノマー及びオリゴマーとしては不飽和結合部を有する単官能、2官能、多官能のビニル系モノマー、例えば、アクリル酸、メチルエチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、イタコン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが用いられる。
【0027】
また、バインダー成分4として、不飽和結合を有するシランモノマーである、例えば、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが用いられる。
【0028】
さらに、バインダー成分4としては、Si(OR14(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシラン化合物、例えば、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR34n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、例えば、メチルトリメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなどが用いられるようにしてもよい。当該アルコキシシランを結合させることにより、無機微粒子2−bがより強く保持されるようになるほか、油水分離用フィルター部材の親水性もより高くなる。
【0029】
バインダー成分4の量は、バインダーとしての機能を発揮し、且つ無機微粒子2−bの親水性が維持される範囲で適宜設定することができるが、例えばシランモノマー3が結合した無機微粒子2−aおよび無機微粒子2−bの合計100質量%に対して、0.1質量%以上の含有量となるように、バインダー成分4を添加すればよい。バインダー成分4を有することにより、無機微粒子2の石油や灯油或いは軽油に対する耐久性、および本実施形態の油水分離用フィルター部材100の親水性の低下をさらに抑制することができる。
【0030】
また、バインダー成分4だけではなく、さらに何らかの性能を付与するための機能性材料も用いる事ができる。例えば、後述する製造工程において、親水性のモノマーやオリゴマーを添加すると、さらに親水性能を向上させることが可能となるし、撥水性のモノマーやオリゴマーを添加すると、親水性能と撥水性能を併せ持つため、含水率の変動があるような油水の分離に、より柔軟に対応できる油水分離用フィルター部材100を提供できる。また、バインダー成分4や他の機能性材料は1種類だけでなく、複数種類用いることも可能であり、それぞれの添加濃度については使用環境にあわせて適宜選択できる。これら機能性材料の結合または吸着方法も特に限定されず、油水分離用フィルター部材100の使用目的等に応じて適宜変更可能である。
【0031】
次に、本実施形態の油水分離用フィルター部材100の製造方法について説明する。まず、無機微粒子2、具体的にはシランモノマー3が脱水縮合により共有結合7して当該シランモノマー3により被覆された無機微粒子2−a、および親水性を有する無機微粒子2−bをメタノールやエタノール、MEK,アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に混合し、分散させる。ここで、分散を促進させる為に、必要に応じて界面活性剤や、塩酸、硫酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸などのカルボン酸などを加えるようにしてもよい。続いて、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて無機微粒子2を分散媒中で解砕・分散させ、無機微粒子2を含むスラリーを作製する。
【0032】
なお、無機微粒子2−aと不飽和結合部または反応性官能基を有するシランモノマー3との共有結合7は通常の方法により形成させることができ、例えば、分散液に、シランモノマー3を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子2−aの表面にシランモノマー3を脱水縮合反応により共有結合7させてシランモノマー3からなる薄膜を形成する方法や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー3を加えた後、或いは、シランモノマー3を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー3を無機微粒子2−aの表面に脱水縮合反応により共有結合7させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
【0033】
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー3を加えた後、或いは、シランモノマー3を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー3を無機微粒子2−aの表面に脱水縮合反応による共有結合7させる場合、シランモノマー3の量は、無機微粒子2−aの平均粒子径にもよるが、無機微粒子2−aの質量に対して0.01%質量から40.0質量%であれば無機微粒子2−a同士、および無機微粒子2−aの群10と基体1との結合強度は実用上問題ない。また、結合に預からない余剰のシランカップリングモノマー3があっても良い。
【0034】
続いて、以上のようにして得られた無機微粒子2が分散したスラリーに、必要に応じてバインダー成分4を添加し充分に混合した後、当該スラリーを固定する基体1の表面に塗布する。具体的な無機微粒子2が分散したスラリーの塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャストコート法、バーコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法を用いればよく、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0035】
次に、必要に応じて、加熱乾燥などで分散媒を除去した後、基体1と、無機微粒子2と、バインダー成分4とを化学結合する。具体的には、無機微粒子2−aの表面のシランモノマー3間で共有結合6を形成させることにより無機微粒子2−a同士を結合させるとともに、結合した無機微粒子2−aの群10を、シランモノマー3と基材1表面との間の共有結合5を形成させることにより、基体1上に固定させる。このとき、無機微粒子2−bは、無機微粒子2−a同士の間や無機微粒子2−aと基体1との間に形成されたスペース8に嵌ることにより、当該スペース8において保持される。また、併せて、バインダー成分4を無機微粒子2−aおよび無機微粒子2−bに結合させることにより、無機微粒子2−aと無機微粒子2−bとを結合させる。本実施形態においては、基体1とシランモノマー3とを共有結合5させる方法として、グラフト重合による結合方法を用いるのが好ましい。
【0036】
本実施形態の油水分離用フィルター部材100におけるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられ、形状や形態に応じて適宜選択して用いられる。なお、パーオキサイド触媒による処理、熱や光エネルギーによる処理、および放射線による処理によって、無機微粒子2−a表面のシランモノマー間のラジカル重合による共有結合6、およびバインダー成分4と無機微粒子2−aおよび2−bとの脱水縮合反応により共有結合が形成されたことによる無機微粒子2−aおよび2−bの結合についても、併せて形成させることができる。
【0037】
ここで、シランモノマー3のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるために、予め、基体1の表面を、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などの親水化処理をしてもよい。
【0038】
以上、本実施形態の油水分離用フィルター部材100によれば、基体1に結合した無機微粒子2−aの群10により形成されたスペース8において親水性を有する無機微粒子2−bが保持される。このため、無機微粒子2−bは強固に基体1上で保持されるので、剥がれなどを抑制することができる。また、無機微粒子2−bが無機微粒子2−aの群10によって形成されたスペース8で基体1上に保持されることにより、無機微粒子2−bは水に対する良好な濡れ性を有している。したがって、油に含まれる水滴は親水性の高い無機微粒子2−bの表面に付着して拡散するため、効率良く油から水滴を分離することが可能となり、フィルターの孔径を用途から想定される孔径よりも極端に小さくすることも要しない、自由な設計の油水分離フィルター部材が提供できる。また、従来よりも油水分離作用の維持(メンテナンス)についても、孔径を極端に小さくした場合と比較して目詰まり等が抑制されてより長期間の使用が可能となるため、容易となる。
【0039】
また、基体1上にシランモノマーが脱水縮合により共有結合7した無機微粒子2−aの群10を固定したことにより、本実施形態の油水分離用フィルター部材100は、その表面に微細な細孔が形成されている。この細孔に含浸した水分は安定に油水分離用部材の表面に留まる。よって、無機繊維を用いてフィルターを構成した場合よりも長期間親水性が維持できるため、従来よりも多様な使用環境(例えば、含水率や使用されるフィルター部材が実装される構造体の形式などが異なる場合)に適応可能である。
【0040】
さらに、本実施形態に係る基体1上に固定された無機微粒子2は、無機微粒子2−bと、不飽和結合部や反応性官能基を有するシランモノマー3が脱水縮合反応により表面に共有結合7(図中の黒丸で示した部分)した無機微粒子2−aとから構成されているため、これらの無機微粒子2の混合比率を変えることで、必要とする濡れ性が容易に得られることから、目的に合わせた自由なフィルターの構造設計が可能となる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
<油水分離用フィルター部材の作製>
実施例1:
無機微粒子としてγ―アルミナ(大明化学工業株式会社製、TM−300)、および不飽和結合を有するシランモノマーであるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を通常の方法により脱水縮合させ表面に共有結合させた酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS、)をメタノールにプレ分散後、ビーズミルにて平均粒子径が37nmとなるように解砕・分散し、それぞれの粒子が分散したスラリーを得た。γ―アルミナの充填量は固形分に対して(1)30質量%、(2)50質量%、(3)70質量%とした。次に固形分が5質量%になるようにメタノールを加えて調整した。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。
【0043】
また、メッシュ数80のナイロン製メッシュ(NBC株式会社製、NB0680)の表面をコロナ処理により親水化処理した後、固形分を5質量%に調整したスラリーにナイロンメッシュを浸漬し、余剰分のスラリーを除去した後、100℃、5分間乾燥した。その後、200kVの加速電圧で電子線を5Mrad照射し、油水分離用フィルター部材を得た。
【0044】
実施例2:
γ―アルミナ、およびメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを酸化ジルコニウム粒子の固形分に対し、5.0質量%になるように脱水縮合により表面に結合させた酸化ジルコニウム粒子が分散されており、γ―アルミナが70質量%である実施例1で用いたスラリーに、オルガノシラン(信越化学工業株式会社製、KMB−04)を、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが結合した酸化ジルコニウム粒子とγ―アルミナ粒子の固形分に対して4.0質量%になるように加えて分散した。その後、メタノールにて固形分を5.0質量%に調整した以外は実施例1と同一の条件でナイロンメッシュからなる油水分離用フィルター部材を得た。
【0045】
実施例3:
実施例2で用いたナイロン製メッシュの代わりに、ナイロン製不織布(旭化成繊維株式会社製、1020)を用い、実施例2で用いたスラリーに不織布を浸漬してスラリーを塗布した以外は、実施例2と同様の条件で油水分離用フィルター部材を得た。
【0046】
比較例1:
実施例1で用いたナイロン製メッシュを実施例と同一の条件でコロナ処理し、油水分離用フィルター部材として用いた。
【0047】
比較例2:
実施例2で用いたナイロン製不織布を実施例と同一の条件でコロナ処理し、油水分離用フィルター部材として用いた。
【0048】
(親水性の評価)
親水性の評価は、メッシュや不織布では正確な親水性が評価できない為、50μmの厚さのナイロンフィルム(東レ株式会社製、レイファン8000)を用いて実施した。実施例1および実施例2、3の場合では、作成時に用いたスラリーをナイロンフィルム表面にバーコーターで塗布し、100℃、5分間乾燥後、200kVの加速電圧で電子線を5Mrad照射し親水性の評価に用いた。また、比較例1および2の場合では、ナイロンフィルムに比較例1と同様の条件でコロナ処理を実施し親水性の評価に用いた。親水性は協和界面科学株式会社製固液界面解析装置DropMaster300を用いて、それぞれのナイロンフィルム表面に蒸留水を1.0μL滴下し、形成した水滴の接触角を測定することで評価した。
【0049】
(油水分離性の評価)
イオン交換水に直接染料(日本化薬株式会社製、Supra Brown GL 125)を加えて褐色に着色した。次に、当該着色したイオン交換水を灯油に3質量%となるように加え、ホモジナイザーで3分間分散し、水を懸濁させた灯油を調製した。実施例1〜3の油水分離用フィルター部材および比較例1、2をそれぞれ2.7mmの厚さに重ね、ガラス製の焼結フィルター上に設置し、その上にガラス製ファンネルを固定した。固定したファンネルに水を懸濁させた灯油を注ぎ、減圧下で200mL/分の流量で吸引し、ろ過後の染色した水の分離性を目視にて観察し評価した。これらの得られた結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
上記結果より、無機微粒子とシランモノマーで被覆した無機微粒子とを分散したスラリーで処理したナイロンフィルム、言い換えれば、シランモノマーが結合した無機微粒子の群を基体上に固定することにより形成されたスペースに親水性を有する無機微粒子を保持させた実施例1〜3に関連するナイロンフィルムの親水性は、処理しない比較例1および2に関連するナイロンメッシュと比較して著しく優れていることが確認できた。当該結果から、基体1をナイロン製メッシュ、またはナイロン製不織布とした実施例1〜3についても、通水性について、同様の差があるものと考えられる。また、灯油に分散した水は実施例1〜3の油水分離用フィルター部材では完全に分離できたのに対し、比較例1のナイロン製メッシュ、および比較例2のナイロン製不織布では油水分離ができなかった。さらにバインダー成分としてアルコキシシランを加えた実施例2および3では親水性がさらに高まり、実施例1と同様に灯油と水を分離できることも示された。以上のとおり、本発明の油水分離用フィルター部材は、油水分離に優れた有用な油水分離用フィルター部材であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態の油水分離用フィルターを部分拡大した模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1: 基体
2a: 無機微粒子(第2の無機微粒子)
2b: 無機微粒子(第1の無機微粒子)
3: シランモノマー
4: バインダー成分
5: グラフト重合による共有結合
6: ラジカル重合による共有結合
7: シランモノマーと無機微粒子2aとの脱水縮合反応による共有結合
8: 空間部(スペース)
10: 無機微粒子2aの群
100: 油水分離用フィルター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
親水性を有する第1の無機微粒子と、
前記第1の無機微粒子を基体上に保持するための、化学結合により表面にシランモノマーが結合した第2の無機微粒子の群とを備え、
前記第2の無機微粒子の群は、前記第2の無機微粒子同士が表面の前記シランモノマー間の化学結合を介して結合し、且つ、前記第2の無機微粒子の群が前記シランモノマーとの化学結合によって基体と結合することにより、前記第1の無機微粒子を保持するためのスペースを形成していることを特徴とする油水分離用フィルター部材。
【請求項2】
親水性を有する第1の無機微粒子および不飽和結合部または反応性官能基を有するシランモノマーが表面に化学結合した第2の無機微粒子の群が分散されたスラリーを基体に塗布し、
前記第2の無機微粒子同士を表面の前記シランモノマー間の化学結合により結合させるとともに、前記シランモノマーの不飽和結合部または反応性官能基と基体表面との化学結合により、前記第2の無機微粒子の群を基体と結合させて前記第1の無機微粒子を保持するためのスペースを形成し、前記第1の無機微粒子を当該スペースにて保持することを特徴とする油水分離用フィルター部材。
【請求項3】
前記シランモノマーと無機微粒子間の化学結合が脱水縮合による共有結合であり、
前記シランモノマー間の化学結合がラジカル重合による共有結合であり、かつ、
前記シランモノマーと前記基体との化学結合がグラフト重合による共有結合であることを特徴とする請求項1または2に記載の油水分離用フィルター部材。
【請求項4】
前記第1の無機微粒子は、モノマー、オリゴマー、またはそれらの混合物であるバインダー成分を介して前記第2の無機微粒子と結合していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の油水分離用フィルター部材。
【請求項5】
前記基体が繊維構造体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の油水分離用フィルター部材。

【図1】
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