説明

油粕及び動物用飼料並びにサルモネラの増殖抑制方法

【課題】サルモネラの増殖を抑制することができる油粕及び動物用飼料並びにそれらにおけるサルモネラの増殖抑制方法を提供する。
【解決手段】油粕の含水率が15質量%未満であり、乳酸菌が添加されている油粕、及びこれを含有する動物用飼料、並びに含水率が15質量%未満の油粕又は当該油粕を含有する動物用飼料の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことによる油粕又は動物用飼料中のサルモネラの増殖抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルモネラの増殖を抑制できる油粕及び動物用飼料並びにそれらにおけるサルモネラの増殖抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの食中毒の抑制、特にサルモネラによる感染の予防や治療のために、特定の乳酸菌を含む食品等を投与することが有効であることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、家畜のサルモネラによる感染の予防や治療のために、特定の乳酸菌の発酵ブロスに由来する成分を添加した飼料等を投与することが有効であることが知られている(特許文献2参照)。
【0004】
更に、家畜の消化管内でのヒトの食中毒細菌(サルモネラ等)の増殖防止のために、乳酸菌由来のプロテアーゼ耐性バクテリオシンを含む家畜用抗菌剤が添加された飼料を投与することが有効であることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−180836号公報
【特許文献2】再公表WO00/30661号公報
【特許文献3】特開2006−169197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、動物用飼料中のサルモネラの増殖抑制、特に動物用飼料に使用される油粕が雨などで濡れ、さらにサルモネラがコンタミネーションした場合における油粕中のサルモネラの増殖を抑制することができる技術が求められている。
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1〜3はヒトや家畜の体内におけるサルモネラの増殖防止等について開示するものにすぎず、油粕中のサルモネラ増殖抑制については何ら教示するものではなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、サルモネラの増殖を抑制することができる油粕及び動物用飼料並びにそれらにおけるサルモネラの増殖抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、油粕の含水率が15質量%未満であり、乳酸菌が添加されていることを特徴とする油粕を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するために、上記本発明の油粕を含むことを特徴とする動物用飼料を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するために、乳酸菌を油粕に添加する工程を有することを特徴とする含水率が15質量%未満である油粕の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するために、含水率が15質量%未満の油粕の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことを特徴とする油粕中のサルモネラの増殖抑制方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達成するために、含水率が15質量%未満の油粕を含有する動物用飼料の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことを特徴とする動物用飼料中のサルモネラ菌の増殖抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、サルモネラの増殖を抑制することができる油粕及び動物用飼料並びにそれらにおけるサルモネラの増殖抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】油粕が水に濡れた場合のサルモネラ増殖抑制効果についての試験結果を示す図である(実施例)。
【図2】油粕が水に濡れていない場合のサルモネラ増殖抑制効果についての試験結果を示す図である(参考例)。
【図3】乳酸菌濃度とサルモネラ増殖抑制効果の関係についての試験結果を示す図である(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔本発明の実施の形態に係る油粕〕
本発明の実施の形態に係る油粕は、油粕の含水率が15質量%未満であり、乳酸菌が添加されていることを特徴とする。
【0017】
(油粕の種類)
本発明の実施の形態に係る油粕は、特に限定されるものではないが、大豆粕、菜種粕、アマニ粕、エゴマ粕などの植物性脱脂油粕全般を使用することが可能である。
【0018】
(油粕の含水率)
本発明の実施の形態に係る油粕の含水率は、15質量%未満である。2〜14質量%であることがより好ましく、5〜13質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
(乳酸菌の種類)
本発明の実施の形態に係る油粕に添加される乳酸菌は、特に限定されるものではないが、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、及び/又はラクトバチルス・アジリス(Lactobacillus agilis)を使用することが好ましい。中でも、ラクトバチルス・アジリス(Lactobacillus agilis)を使用することがより好ましく、ラクトバチルス・アジリスOFB9株を使用することが最も好ましい。
【0020】
乳酸菌は、油粕に対して10〜1010cfu/油粕gの濃度で添加されることが好ましく、10〜1010cfu/油粕gの濃度で添加されることがさらに好ましい。特にラクトバチルス・アジリス(Lactobacillus agilis)を使用する場合には、その添加量が多いほど好ましく、油粕に対して10〜1010cfu/油粕gの濃度で添加されることが好ましく、10〜1010cfu/油粕gの濃度で添加されることがさらに好ましい。
【0021】
(その他の添加物)
本発明の実施の形態に係る油粕は、上記乳酸菌以外に本発明の効果を損なわない範囲内でその他の物質が添加されてもよい。例えば、エンテロコッカス フェーカリス、エンテロコッカス フェシウム、クロストリジウム ブチリカム、バチルス コアグランス、バチルス サブチルス、バチルス セレウス、バチルス バディウス、ビフィドバクテリウム サーモフィラム、ビフィドバクテリウム シュードロンガム、ラクトバチルス アシドフィルス、ラクトバチルス サリバリウスなどの生菌剤などを含むことができる。
【0022】
(油粕の製造方法)
本発明の実施の形態に係る含水率が15質量%未満である油粕の製造方法は、乳酸菌を油粕に添加する工程を有することを特徴とする。
具体的には、例えば、上記の乳酸菌を前培養する。前培養は、乳酸菌をその増殖温度にて公知の培地中で培養する。公知の培地として、MRS液体培地(DIFCO社製)、GAMブイヨン(日水製薬株式会社製)、GYP培地、WYP培地などが挙げられる。
乳酸菌を前培養した後、公知の方法で製造した菜種粕等の油粕へリン酸生食で洗浄した前培養液を乳酸菌が前述の濃度となるように接種する。接種後はよく撹拌し、接種菌を分散させることで、本実施の形態に係る含水率が15質量%未満である油粕を製造することができる。公知の方法で製造した油粕の含水率は一般的に13質量%前後であるので、これより含水率が低い油粕を製造する場合には、例えば前培養液を接種する前に油粕を乾燥処理して含水率を調節する。
【0023】
〔本発明の実施の形態に係る動物用飼料〕
本発明の実施の形態に係る動物用飼料は、上記の本発明の実施の形態に係る油粕を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の実施の形態に係る動物用飼料の含水率は、15質量%未満であることが好ましい。2〜14質量%であることがより好ましく、4〜13.5質量%であることがさらに好ましく、5〜13質量%であることが最も好ましい。
【0025】
(その他の添加物)
本発明の実施の形態に係る動物用飼料は、上記油粕以外に本発明の効果を損なわない範囲内でその他の物質を含むことができる。例えば、前述の生菌剤などを含むことができる。
【0026】
〔本発明の実施の形態に係るサルモネラの増殖抑制方法〕
本発明の実施の形態に係る油粕中のサルモネラの増殖抑制方法は、含水率が15質量%未満の油粕の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の実施の形態に係る動物用飼料中のサルモネラの増殖抑制方法は、含水率が15質量%未満の油粕を含有する動物用飼料の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことを特徴とする。
【0028】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、サルモネラの増殖を抑制することができる油粕及び動物用飼料並びにそれらにおけるサルモネラの増殖抑制方法を提供することができる。従って、雨水や雪等に晒されても乳酸菌によりサルモネラの増殖を抑制できる安全な油粕及び動物用飼料を提供することができる。
【0029】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
本発明の油粕にサルモネラの増殖抑制効果があることを以下の方法により確認した。
【0031】
〔油粕が水に濡れた場合のサルモネラ増殖抑制効果〕
下記表1の乳酸菌6種それぞれをMRS液体培地(DIFCO社製)にて35℃で24時間、前培養した。培養液200μlを遠心集菌し、上澄みを除去した。集菌した菌体にリン酸生食(pH7.2)200μlを添加し(乳酸菌の菌数:約108〜109cfu/200μl)、得られた乳酸菌6種の懸濁液をそれぞれ菜種粕(水分含量:約13質量%)10gに添加した。添加後の菜種粕(本発明の油粕)の乳酸菌の菌数は約10〜10cfu/油粕g、水分は約13質量%であった。
【0032】
本発明の油粕が雨等により水に濡れた場合を想定して、上記で得られたそれぞれの菜種粕を10g入れた50ml容の各遠沈管に対して滅菌イオン交換水を4.6mlずつ入れた。そこへサルモネラ懸濁液を接種した(サルモネラの菌数は約10〜10cfu/油粕g)。なお、サルモネラ懸濁液は、サルモネラ(搾油用穀物原料ダストより採取)をMRS液体培地(DIFCO社製)にて35℃で24時間、前培養し、培養液を遠心集菌し、上澄みを除去し、集菌した菌体にリン酸生食(pH7.2)を200μl入れて再懸濁して得た(サルモネラの菌数:約10〜10cfu/200μl)。
【0033】
対照区(乳酸菌無添加区)として、50ml容の遠沈管に乳酸菌無添加の菜種粕10gと水4.8mlを入れたものに上記サルモネラ懸濁液を200μl接種したものを準備した。
【0034】
これらを密栓して35℃で3日間培養後、菜種粕全量をストマッカー袋に移し、90mlのペプトン水で抽出後、抽出液を段階的にリン酸生食(pH7.2)で希釈したものをDHL寒天培地(DIFCO社製)に塗沫してサルモネラの菌数を確認した。
【0035】
また、接種する前培養液200μl中の乳酸菌濃度が5倍の試料を作成し、上記同様の実験を行なった。
【0036】
<使用した乳酸菌>
使用した6種の乳酸菌は、下記の表1の通りである。いずれも独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所保有の菌株である。
【0037】
【表1】

【0038】
<結果>
図1に、対照区(乳酸菌無添加区)のサルモネラの菌数を100としたときの、実施例1〜6の試験区のサルモネラの菌数を相対菌数で示した。
実施例1〜6の試験区のいずれも対照区に比べてサルモネラの菌数が減少し、中でも実施例5の試験区は顕著な減少が確認された。特に、実施例5の試験区のうち乳酸菌濃度を5倍にしたものは極めて顕著な減少が確認された。
【0039】
〔油粕が水に濡れていない場合のサルモネラ増殖抑制効果〕(参考例)
上記表1の乳酸菌6種それぞれをMRS液体培地(DIFCO社製)にて35℃で24時間、前培養した。培養液を遠心集菌し、上澄みを除去した。集菌した菌体にリン酸生食(pH7.2)200μlを添加し(乳酸菌の菌数:約10〜10cfu/200μl)、得られた乳酸菌6種の懸濁液をそれぞれ菜種粕(水分含量:約13質量%)10gに添加した。添加後の菜種粕(本発明の油粕)の乳酸菌の菌数は10〜10cfu/油粕g、水分は約13質量%であった。さらに前述の搾油用穀物原料ダスト採取したサルモネラ懸濁液を接種した(サルモネラの菌数は約10〜10cfu/油粕g)。対照区(乳酸菌無添加区)として、乳酸菌無添加の菜種粕10gと水200μlを入れたものに上記サルモネラ懸濁液を接種したものを準備した(サルモネラの菌数は約10〜10cfu/油粕g)。
【0040】
これらを密栓して35℃で3日間培養後、菜種粕全量をストマッカー袋に移し、90mlのペプトン水で抽出後、抽出液を段階的にリン酸生食(pH7.2)で希釈したものをDHL寒天培地(DIFCO社製)に塗沫してサルモネラの菌数を確認した。
【0041】
<結果>
図2に、対照区(乳酸菌無添加区)のサルモネラの菌数を100としたときの、参考例1〜6の試験区のサルモネラの菌数を相対菌数で示した。参考例1〜6の試験区で使用した乳酸菌は、それぞれ実施例1〜6の試験区で使用した乳酸菌に対応する。
参考例1〜6の試験区のいずれも対照区に比べてサルモネラ菌数の減少は殆ど認められなかった。
【0042】
〔乳酸菌濃度とサルモネラ増殖抑制効果の関係〕
上記表1の実施例5のLactobacillus agilis OFB9株をMRS液体培地(DIFCO社製)にて35℃で24時間前培養した。培養液200μlを遠心集菌し、上澄みを除去した。集菌した菌体に200μlのリン酸生食を添加した。また、この菌液を10−3〜10−7にリン酸生食を用い段階希釈(10倍希釈を7段階まで)をした。得られた5つの異なる濃度の希釈液を菜種粕(水分含量:約13質量%)10gにそれぞれ添加した。添加後の菜種粕(本発明の油粕)の乳酸菌数は2.5×10〜10cfu/油粕g、水分は約13質量%であった。さらに前述の搾油用穀物原料ダストより採取したサルモネラをMRS液体培地(DIFCO社製)にて35℃で24時間前培養し、この前培養液を10−6にリン酸生食を用い段階希釈し、200μl接種した(サルモネラの菌数は8.1cfu/油粕g)。対照区(乳酸菌無添加区)として乳酸菌無添加の菜種粕10gを入れたものに上記サルモネラ希釈液200μl接種したものを準備した(サルモネラの菌数は8.1cfu/油粕g)。
【0043】
これらを密栓して35℃で3日間培養後、菜種粕全量をストマッカー袋に移し、90mlのペプトン水で抽出後、抽出液を段階的にリン酸生食(pH7.2)で希釈したものをDHL寒天培地(DIFCO社製)に塗沫してサルモネラの菌数を確認した。
【0044】
<結果>
図3に、対照区(乳酸菌無添加区)のサルモネラの菌数を100としたときの、試験区のサルモネラの菌数を相対菌数で示した。Lactobacillus agilisの添加濃度が10cfu/油粕g以上の添加でも、サルモネラの増殖を抑制しているが、10cfu/油粕g以上の添加でより抑制し、10cfu/油粕g以上では、さらに抑制していることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油粕の含水率が15質量%未満であり、乳酸菌が添加されていることを特徴とする油粕。
【請求項2】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス・アジリス(Lactobacillus agilis)であることを特徴とする請求項1に記載の油粕。
【請求項3】
前記乳酸菌が、10cfu/油粕g以上の濃度で添加されていることを特徴とする請求項1に記載の油粕。
【請求項4】
前記乳酸菌が、10cfu/油粕g以上の濃度で添加されていることを特徴とする請求項2に記載の油粕。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の油粕を含むことを特徴とする動物用飼料。
【請求項6】
乳酸菌を油粕に添加する工程を有することを特徴とする含水率が15質量%未満である油粕の製造方法。
【請求項7】
含水率が15質量%未満の油粕の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことを特徴とする油粕中のサルモネラの増殖抑制方法。
【請求項8】
含水率が15質量%未満の油粕を含有する動物用飼料の製造に際し、当該油粕中に乳酸菌を添加しておくことを特徴とする動物用飼料中のサルモネラの増殖抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−244704(P2011−244704A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118463(P2010−118463)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】