説明

油糧植物からの油脂抽出方法及び油糧植物の脱脂物の製造方法

【課題】ヘキサン等の有機溶剤を用いることなく、加熱処理によりもたらされるエネルギー消費の増大の問題と油脂の劣化の問題とを回避し、抽出後に付加的な分離操作を必要とすることなく、油糧植物から油脂を抽出する。
【解決手段】油糧植物を二酸化炭素の超臨界流体を接触させて、油糧植物に含まれる油脂を、酸価を増加させることなく抽出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油糧植物からの油脂抽出方法及び油糧植物の脱脂物の製造方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、米糠やナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)等のように酸化安定性の低い油脂を含有する油糧植物からの油脂抽出に好適な方法、さらには飼料用等の食用として供するのに好適な安全性の高い油糧植物の脱脂物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素社会の実現に向けて、軽油やA重油代替燃料として利用可能な、油糧植物に含まれる油脂から製造されるバイオディーゼル燃料のニーズが拡大しつつある。また、油糧植物に含まれる油脂は、C重油代替燃料として重油炊きボイラー燃料等にも利用することができ、そのニーズが拡大しつつある。かかる状況を鑑みると、油糧植物に含まれる油脂のニーズは、今後さらに拡大するものと考えられる。
【0003】
ところで、油糧植物から油脂を採取する方法としては、圧搾法と溶剤抽出法が一般的な手法として知られており、油脂収量を向上させる観点から、特にヘキサンを溶剤とする溶剤抽出法が用いられている。
【0004】
ヘキサンを溶剤とする溶剤抽出法については、例えばソックスレー抽出により、米糠から、短時間で効率よく油脂を抽出する方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0005】
また、特許文献1では、米糠を亜臨界状態の水と接触させて、米糠から油脂を抽出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−215437号広報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Zullaikah et al., Bioresource Technology, 96, 1889-1896(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ヘキサンを利用した溶剤抽出法は、油糧植物をヘキサンに浸漬し、油分をヘキサンに移行させた後に、減圧蒸留によってヘキサンを分離除去し、油脂を得るものであることから、煩雑な操作と多くのエネルギー消費を伴う問題がある。
【0009】
また、非特許文献1のようにソックスレー抽出法を採用した場合、ヘキサンの分離除去操作だけでなく、抽出時にも加熱を必要とすることから、溶剤抽出法と比較してさらに多くのエネルギー消費を伴うことになる。
【0010】
さらに、溶剤抽出法とソックスレー抽出法のいずれにおいても、毒性の強い有機溶剤であるヘキサンに油糧植物を浸漬する必要がある。したがって、脱脂後の油糧植物の用途が制限される問題が生じる。例えば、米糠の場合には、飼料用等の食用として脱脂後の米糠を有効利用し得るが、ヘキサンに米糠を浸漬する以上、ヘキサンの毒性により食用としての安全性が害され、食用としての利用は困難なものとなる。従って、脱脂後の油糧植物の有効利用のためには、脱脂後の油糧植物からも減圧蒸留によりヘキサンを除去する必要があり、結果としてさらなるエネルギー消費をともない、低炭素社会の実現のニーズにそぐわないこととなる。
【0011】
また、減圧蒸留過程や抽出過程における加熱処理は、油脂の酸価を上昇させる要因となる。油脂の酸価が上昇すると、油脂をバイオ燃料として利用する上で不要な遊離脂肪酸を多く含有することになり、油脂特性が著しく低下することになる。このことから、油脂の酸価の上昇を引き起こし得る加熱処理を行うことは望ましいこととは言えない。
【0012】
特許文献1に記載の油脂抽出方法においても、水を亜臨界状態、即ち110℃〜374℃でその温度における飽和蒸気圧以上の高温高圧状態としていることから、油脂の酸価の上昇を引き起こし得る加熱処理が行われていることになり、油脂のバイオ燃料としての利用を図る上では、望ましい方法とは言えない。
【0013】
さらに言えば、特許文献1に記載の油脂抽出方法について、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、米糠を亜臨界状態の水と接触させると、水と油脂とが混合したタール状物質が生成し、室温に戻しても水と油脂が分離しないことが確認された。したがって、特許文献1に記載の油脂抽出方法を用いて油脂を抽出する場合、結局は、ヘキサン等の非極性有機溶媒を抽出溶媒として添加し、この溶媒に油脂を移行させ、減圧蒸留によって溶媒を分離除去し、油脂を得る必要があることがわかった。このことから、特許文献1に記載の油脂抽出方法のように、亜臨界状態の水を用いても、結局は、従来の溶剤抽出法を採用せざるを得ず、煩雑な操作と多くのエネルギー消費を伴う問題とに加えて、加熱処理による油脂の酸価の上昇の問題も生じ得ることがわかった。
【0014】
そこで、本発明は、ヘキサン等の有機溶剤を用いることなく、加熱処理によりもたらされるエネルギー消費の増大の問題と油脂の劣化の問題とを回避し、抽出後に付加的な分離操作を必要とすることなく、油糧植物から油脂を抽出する方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、ヘキサン等の有機溶剤を用いることなく、油糧植物の脱脂物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意検討を重ねた結果、二酸化炭素の超臨界流体を米糠と接触させることで、二酸化炭素の超臨界流体中に米糠に含まれる油脂を抽出できることを知見した。しかも、二酸化炭素の超臨界流体は常温・常圧下では気体となることから、米糠と接触させた二酸化炭素の超臨界流体を常温・常圧に移行させることで、二酸化炭素が気体となって除去されて、油脂のみを分離抽出できることを知見するに至った。このことは、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)の種子に対しても同様に成立した。
【0017】
本願発明者等は、これらの知見に基づき、米糠やナンヨウアブラギリに限らず、油糧植物全般について、二酸化炭素の超臨界流体を用いることにより、ヘキサン等の有機溶剤を用いることなく、加熱処理によりもたらされるエネルギー消費の増大の問題と油脂の劣化の問題とを回避し、抽出後に付加的な分離操作を必要とすることなく、油糧植物に含まれる油脂を抽出できる可能性が導かれることを知見し、さらに種々検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明の油脂抽出方法は、油糧植物を二酸化炭素の超臨界流体を接触させて、油糧植物に含まれる油脂を、酸価を増加させることなく抽出するようにしている。
【0019】
また、本発明の油糧植物の脱脂物の製造方法は、二酸化炭素の超臨界流体を油糧植物と接触させて、油糧植物を脱脂するようにしている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の油脂抽出方法によれば、ヘキサン等の有機溶剤を用いることなく、加熱処理によりもたらされるエネルギー消費の増大の問題と油脂の劣化の問題とを回避し、抽出後に付加的な分離操作を必要とすることなく、油糧植物から油脂を抽出することが可能となる。したがって、しかも加熱処理や付加的な分離操作に必要とされる設備やコスト、手間を抑えて、しかも安全且つ効率よく油脂を抽出することが可能となる。
【0021】
また、加熱処理を必要としないので、油脂の酸価の加熱による上昇を抑えて、良質な油脂を効率良く抽出することが可能となる。したがって、酸価が上昇し易い油脂を含む米糠やナンヨウアブラギリから、良質な油脂を抽出することができる。
【0022】
また、本発明の脱脂植物の脱脂物の製造方法によれば、ヘキサン等の有機溶剤を用いることなく、油糧植物の脱脂物を製造することが可能となる。したがって、脱脂物からの溶媒除去の操作をすることなく、脱脂物を飼料用等の食用として供することが可能となる。つまり、飼料用等の食用として安全な油糧植物の脱脂物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施するための油脂分離抽出装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
本発明の油脂抽出方法は、二酸化炭素の超臨界流体を油糧植物と接触させて、前記油糧植物に含まれる油脂を抽出するようにしている。
【0026】
また、本発明の油糧植物の脱脂物の製造方法は、二酸化炭素の超臨界流体を油糧植物と接触させて、油糧植物を脱脂するようにしている。
【0027】
本発明の油脂抽出方法と油糧植物の脱脂物の製造方法を実施するための装置の一例を図1に示す。図1に示す装置1において、ボンベ2と圧力容器3の入口は昇圧機4を介して配管で接続されている。圧力容器3の出口と第一捕捉容器6は背圧弁5を介して配管で接続されている。これにより、圧力容器3内への昇圧機3を介した二酸化炭素の圧入によって圧力容器3内の圧力を上昇させて二酸化炭素の超臨界流体を生成することができ、背圧弁5により圧力容器3内から油脂を含む二酸化炭素の超臨界流体の排出量を制御して、圧力容器3内の圧力を一定に保持しながら、第一捕捉容器6内に油脂を捕集可能としている。尚、図1において、符号7は予熱管、符号8は恒温槽、符号9は第二捕捉容器を示しているが、これらは、必須の構成要素ではなく、圧力容器3内の温度が31.1℃(二酸化炭素が超臨界状態となる臨界温度)以上となる場合には、予熱管7と恒温槽8がなくとも、圧力容器3内に二酸化炭素の超臨界流体を生成することが可能である。また、第二捕捉容器9も、第一捕捉容器6において油脂が殆ど捕集される場合には、設ける必要はない。また、圧力容器3内の上部と下部にはそれぞれ焼結金属フィルタ等のフィルタが備えられて、圧力容器3内に収容された油糧植物による入口と出口の閉塞を防ぐようにしている。
【0028】
二酸化炭素は、臨界温度31.1℃、臨界圧力7.4MPaにて超臨界状態となることから、この温度・圧力以上の領域では超臨界状態を示す。本発明では、この温度・圧力以上の超臨界状態の二酸化炭素を油脂抽出溶媒として用いる。具体的には、圧力容器3内に供給される二酸化炭素の圧力を、圧力容器3内が7.4MPa以上となるように昇圧機4により制御する。また、圧力容器3内の温度が31.1℃未満となる場合には、予熱管7を介して温められた二酸化炭素を圧力容器3内に導入すると共に、恒温槽8により圧力容器3内を加温する。但し、温度を高く設定し過ぎると油脂の酸価が上昇して劣化する虞があるので、二酸化炭素の超臨界状態が安定に維持され得る範囲でできるだけ低温とすることが好ましい。
【0029】
圧力容器3内には油糧植物を収容して密閉する。
【0030】
本発明において利用できる油糧植物は、特に限定されるものではなく、米糠、ナンヨウアブラギリ、ダイズ、ナタネ、ゴマ、ヒマワリ、ベニバナ、綿実、落花生、オリーブ、パーム、トウモロコシ胚芽等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、油糧植物は粉砕してから圧力容器3内に収容することが好適である。これにより、油糧植物と二酸化炭素の超臨界流体との接触面積を増加させて、油脂をより抽出し易いものとできる。
【0031】
また、油糧植物は、搾油後の搾り滓としてもよい。本願発明者等の実験によれば、15〜25重量%の割合で油脂を含む米糠からも良好に油脂を抽出することが可能であることが確認されたことから、搾油後の絞り滓、例えば、ナンヨウアブラギリ、ダイズ、ナタネ、ゴマ、ヒマワリ、ベニバナ、綿実、落花生、オリーブ、パーム等の搾油後の搾り滓を本発明における油脂抽出に使用することができる。
【0032】
ここで、油糧植物として米糠を利用する場合には、精米後、できるだけ早期に本発明により油脂抽出を行うことが好ましい。これにより、米糠に含まれるリパーゼの作用による糖の加水分解に起因する油脂の劣化を抑制することができる。
【0033】
圧力容器3内にて生成された二酸化炭素の超臨界流体は、圧力容器3内に収容されている油糧植物と接触する。これにより、二酸化炭素の超臨界流体中に油糧植物に含まれる油脂のみが抽出される。
【0034】
圧力容器3の出口からは、背圧弁5により圧力容器3内の圧力が一定に維持されるように二酸化炭素の超臨界流体が排出される。圧力容器3から排出された二酸化炭素の超臨界流体は、直ちに圧力低下、さらには予熱管7や恒温槽8を用いている場合には室温への温度低下が起こって、気相に相変化する。その結果、捕捉容器6には、圧力容器3内にて二酸化炭素の超臨界流体に抽出された油脂のみが捕集される。つまり、本発明によれば、何ら付加的な分離処理を行うことなく、分離された油脂を回収することができる。
【0035】
この処理を一定時間継続した後、圧力容器3内への二酸化炭素の供給を停止する。尚、処理時間は、設定した温度・圧力、圧力容器の内容積、油糧植物の処理量等に応じて適宜設定される。
【0036】
圧力容器3内への二酸化炭素の供給を停止すると、背圧弁5からの二酸化炭素の超臨界流体の排出のみが起こり(臨界温度・圧力未満となった後には、気相の二酸化炭素の排出のみが起こり)、圧力容器3内が常圧・常温(大気圧・室温)となる。そして、圧力容器3を開放することで、脱脂された油糧植物を回収可能となる。本発明では、ヘキサン等の有機溶媒を用いずに脱脂を行うことができることから、有機溶剤に侵されていない安全な脱脂物を提供することができる。したがって、油糧植物の脱脂物を食用、特に飼料として供することができる。例えば、飼料として多くの需要がある脱脂米糠を安全な飼料として提供することが可能となる。また、糠漬け用の糠床として供することもできる。尚、本発明により得られる油糧植物の脱脂物は、上記の通り、飼料等の食用として供するのに極めて好適であるが、他の用途、例えば肥料等として供することもできる。本発明によれば、ヘキサン等の有機溶剤に油糧植物を浸漬していた従来法を採用していた場合に油糧植物からのヘキサン等の有機溶剤の減圧蒸留等の除去をしなければならないことで制限されていた油糧植物の脱脂物の用途を操作行程の削減でコスト低減がなされ拡大することができ、油糧植物の脱脂物の有効利用の促進に多大なる貢献をもたらし得るものと考えられる。
【0037】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0039】
<実施例>
図1に示す装置と同様のものを用いて、二酸化炭素の超臨界流体を利用した油脂抽出試験を実施した。尚、本実施例では、圧力容器3の内容積を2L(内径76mm、高さ420mm、筒型)とし、水が収容されて温度40℃に制御された恒温槽8内に予熱管7と圧力容器3を浸漬した。
【0040】
試験は以下のように実施した。即ち、油糧植物を圧力容器3内に充填して容器を閉じ、水温40℃の恒温槽8内に予熱管7と圧力容器3を浸漬して1時間静置した後、ボンベ2から昇圧機3を介して圧力容器3内に二酸化炭素を導入し、圧力容器3内の圧力が25MPaに達したところで二酸化炭素の供給を停止して30分間静置した。次に、圧力容器3内の圧力を25MPaに保持しながら、二酸化炭素を流量50mL/分(液体換算)で導入し続け、背圧弁5から常圧で排出される二酸化炭素に同伴する抽出物を第一捕捉容器6と第二捕捉容器9に捕集した。第一捕捉容器6は1時間毎に交換し、捕集量の経時変化を記録した。
【0041】
抽出試験終了後、ボンベ2からの二酸化炭素の供給を停止し、圧力容器3内の圧力を徐々に下げて常圧に戻した後、圧力容器3を恒温槽8から取り出して、室温に冷却し、翌日に圧力容器3を開放して内容物を回収して秤量した。
【0042】
(実施例1)
油糧植物を米糠として、油脂抽出試験を実施した。圧力容器3内には901.34gの米糠を収容し、二酸化炭素を流量50mL/分で導入し始めてから6時間、抽出試験を継続した。試験結果を表1に示す。尚、実施例1の抽出試験においては、3時間目処理途中でボンベ2の二酸化炭素がなくなったため、ボンベ交換を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
本実施例における二酸化炭素の超臨界流体による米糠からの油脂抽出量は118.69gであり、仕込み量に対して13.2%であった。また、1〜3時間で抽出量が次第に減少したが、ボンベ交換の際に試験を一時停止した間に二酸化炭素の超臨界流体中への油分の抽出が進み、4時間目には抽出量が再度上昇する傾向が見られた。
【0045】
また、抽出物は処理前半では若干赤味がかった濃い黄色であったが、処理が進行するにつれて赤味のない黄色となった。また、抽出試験終了後に圧力容器3から回収した残渣は、圧力容器3内の上部の試料は白色に近い茶色で下部に向かうにつれて色が濃くなっていた。しかも、上部の残渣は油分を殆ど含まないサラサラな粉状であったが、下部の残渣は若干湿っていた。
【0046】
本実施例における最大抽出速度は1時間当たり2.7%であり、6時間目においても1.5%の抽出が行われていた。このことと、抽出試験終了後に圧力容器3から回収した残渣の下部が若干湿っていたことからすれば、処理時間を延長することで、さらに油脂の回収ができたものと考えられた。
【0047】
以上の結果から、二酸化炭素の超臨界流体によって、米糠から油脂を分離抽出することが可能であることが明らかとなった。
【0048】
(実施例2)
油糧植物をナンヨウアブラギリの種子粉末として、油脂抽出試験を実施した。圧力容器3内には357.84gのナンヨウアブラギリの種子粉末を収容し、二酸化炭素を流量50mL/分で導入し始めてから6時間、抽出試験を継続した。試験結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
本実施例における二酸化炭素の超臨界流体によるナンヨウアブラギリの種子粉末からの油脂抽出量は99.46gであり、仕込み量に対して27.8%であった。
【0051】
また、抽出物は処理前半では黄味を帯びた透明な液であったが、処理後半では白濁色の液が回収された。また、抽出試験終了後に圧力容器3から回収した残渣は、若干湿っていた。
【0052】
また、6時間経過しても、抽出量は5時間目と比較して僅かに減少しているに過ぎないこと、抽出試験終了後に圧力容器3から回収した残渣が若干湿っていたことからすれば、処理時間を延長することで、さらに油脂の回収ができたものと考えられた。
【0053】
以上の結果から、二酸化炭素の超臨界流体によって、ナンヨウアブラギリの種子粉末から油脂を分離抽出することが可能であることが明らかとなった。
【0054】
<比較例>
誘導撹拌式オートクレーブユニットFC−10(株式会社東洋高圧製、容積1L)を用いて、亜臨界水を利用した油脂抽出試験を実施した。
【0055】
試験は以下のように実施した。即ち、油糧植物と水をオートクレーブ内に収容し、オートクレーブ内部を窒素置換して常圧に戻した。次に、オートクレーブ内を、撹拌しながら電気炉でできるだけ急速に加熱し、300℃に到達したらこの温度を維持して20分間撹拌を続けた。20分経過後、撹拌を続けながら冷却した後、オートクレーブを開け、内容物を回収した。
【0056】
(比較例1)
油糧植物を米糠として、油脂抽出試験を実施した。オートクレーブ内には、米糠100gと水(市販試薬純水)300gを収容した。試験は3回実施した。また、内容物を回収した後、オートクレーブ内を約150mLの水(市販試薬純水)で洗浄した。昇温時の内温、外温及び圧力変化を表3に示す。また、試験結果を表4に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
ここで、この試験では、いずれの場合も油層の分離が認められなかったことから、油分含有量の確認のために、以下の追加処理を実施した。
(1)1回目処理済み試料の液体(水層)2mLにヘキサンを等量添加し、撹拌及び遠心分離後、ヘキサン層を減圧濃縮して秤量した。
(2)1回目処理済み試料の沈殿物2gを少量のアセトンで洗浄後、ヘキサン及び水を添加してヘキサン層を回収し、再び水を添加して洗浄した。この水洗を3回繰り返した後、ヘキサン層を減圧濃縮して秤量を行った。
(3)2回目処理済み試料及び洗浄液について、液体と沈殿物を濾過分離した後、それぞれを秤量した。
(4)2回目処理済み試料の沈殿物2gについて少量のアセトンで洗浄後、ヘキサン及び水を添加してヘキサン層を回収し、再び水を添加して洗浄した。この水洗を3回繰り返した後、ヘキサン層に無水硫酸ナトリウムを適当量添加して脱水を行い、減圧濃縮して秤量を行った。
【0060】
追加処理結果を表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
100gの米糠と300gの水を用いて300℃で20分間の亜臨界水処理を行った処理回収物356.26gから濾過により沈殿物88.50gが得られ、さらにオートクレーブ内を水で洗浄して得た回収物160gから沈殿物7.13gを得た。沈殿物の合計は95.63gとなった。濾過により得られた沈殿物88.50gについて、このうちの2.01gを用いて室温でヘキサン抽出、水洗、乾燥後、ヘキサンを減圧除去して得られた油分は0.51gであり、沈殿物に対して25.4%の抽出率となった。
【0063】
以上の結果より、米糠を亜臨界状態の水と接触させても、油層を分離させることはできず、ヘキサン等の有機溶剤を用いなければ、油分の回収ができないことが明らかとなった。
【0064】
また、亜臨界状態の水を用いる場合、表3に示すように、高温の水が米糠と接触することになる。したがって、油脂の酸価が上昇して、油脂の劣化が生じることとなり、油糧植物からの油脂をバイオ燃料として供する上で障害となることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の超臨界流体を油糧植物と接触させて、前記油糧植物に含まれる油脂を、酸価を増加させることなく抽出することを特徴とする油脂抽出方法。
【請求項2】
二酸化炭素の超臨界流体を油糧植物と接触させて、前記油糧植物を脱脂することを特徴とする油脂植物の脱脂物の製造方法。

【図1】
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