説明

油脂の乾式分別法

溶剤を使用せず、植物バター・エステル交換油脂・異性化硬化油脂等の分画において、結晶部における液体成分の残存量の低減により高濃度のG2U成分を濃縮する手法を提供することを目的とする。G2UとGU2を含有する油脂(A)を晶析・固液分離することにより、G2Uの濃縮された結晶画分(AF)とGU2の濃縮された液体画分(AL)とに分画し、この結晶画分(AF)をGU2の濃度が液体画分(AL)中のそれより低い液体のG2U含有油脂(B)と混合後、結晶画分(BF)と液体画分(BL)に分離することを特徴とする、油脂の乾式分別方法。但し、Gは飽和またはトランス酸型脂肪酸残基、Uはシス型不飽和脂肪酸残基であって、G2UはG2残基U1残基結合したトリグリセリド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はハードバター製造などに有用な油脂を乾式分別により得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油脂分別技術には、溶剤分別法、乾式分別法が一般に知られている。ここに言う分別の技術は、結晶化特性の差を利用して油脂を結晶画分と液体画分に分画する技術であるが、分別方法によって結晶画分と液体画分の分画性能に違いが出てくる。溶剤分別法の場合、油脂に溶剤(アセトン、ヘキサン、アルコール等)を0.5〜5倍加えて溶解後冷却し、結晶を析出させて分画する方法で結晶画分と液体画分の分画性能は極めて良好であり、結晶部における液体成分の残存量は乾式分別法に比べて概して低い。しかし、溶剤を使用することによる安全性の確認には、乾式分別法に比べてコストが高くつく問題がある。
【0003】
乾式分別法においては、結晶画分と液体画分の収率は分画温度によって調節できるものの、圧搾、圧濾等で固液分離する際、溶剤を使用していないため、結晶画分における液体成分の残存量は溶剤分別法に比べ極めて高いものであり、固液分離した後の液体成分の残存量を低減することが出来なかった。この液体成分の残存量は、ハードバターとして使用する油脂の品質に大きな影響を与えるが、その解決は容易なものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、乾式分別法において結晶画分への液体成分の残存量を低減するために、固液分離する際の圧搾の圧力を高めたり、濾布の種類(材質、メッシュ度合等)を変えたりしたが、結晶画分における液体成分の残存量の低減には限界があり、乾式分別法の結晶画分の品質は溶剤分別法に比べ、良好とは言えないものであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、液体画分に比べ液体側の主成分含量が少なく、結晶側の主成分含量が多い液体油脂と結晶画分を混合後濾過圧搾し、結晶画分と液体画分として固液分離することで、結晶画分における液体成分の残存量を低減した結晶画分の品質良好な乾式分別法を完成するに至った。
【0006】
すなわち、
(1)G2UとGU2を含有する油脂(A)を晶析・固液分離することにより、G2Uの濃縮された結晶画分(AF)とGU2の濃縮された液体画分(AL)とに分画し、この結晶画分(AF)をGU2の濃度が液体画分(AL)中の濃度より低い液体のG2U含有油脂(B)と混合後、結晶画分(BF)と液体画分(BL)に分離することを特徴とする、油脂の乾式分別方法。
但し、Gは飽和またはトランス酸型脂肪酸残基、Uはシス型不飽和脂肪酸残基であって、G2UはG残基が2個、U残基が1個結合したトリグリセリド、GU2はG残基が1個、U残基が2個結合したトリグリセリド。
(2)GU2の濃度が液体画分(AL)中の濃度より低い液体のG2U含有油脂(B)が油脂(A)である(1)の分別方法。
(3)液体画分(BL)を油脂(A)の一部または全部として循環使用する(1)の分別方法。
(4)油脂(A)が植物バター、もしくはその中融点画分、液体油と2位がオレイン酸に富む油脂の1、3位に選択的に飽和脂肪酸を導入して得たエステル交換反応油、または異性化硬化油である(1)または(2)の分別方法。
(5)植物バターが、パーム油、シア脂、イリッペ脂である請求項3記載の分別方法。
(6)G2Uが1,3−ジ飽和−2−不飽和トリグリセリド(SUS S:飽和脂肪酸残基、U:シス型不飽和脂肪酸残基)である(1)または(2)の乾式分別法。
(7)飽和脂肪酸残基(S)の炭素数が16個から22個、及び不飽和脂肪酸残基(U)の炭素数が18個である(5)の乾式分別法。
(8)油脂(A)が、液体画分(AL)を原料とするエステル交換反応油である(3)の分別方法。
(9)結晶画分(AF)と油脂(B)の混合比率が1:1〜1:4である(1)の分別方法。
(10)結晶画分(AF)と油脂(B)の混合比率が1:1〜1:2である(8)の分別方法。
(11)温度管理された油脂(B)が、ケーキ状の結晶画分(AF)と混合される(1)の分別方法。
(12)結晶画分(AF)を解砕して油脂(B)と混合させる(1)の乾式分別法である。
【発明の効果】
【0007】
このように、G2UとGU2を含有する油脂(A)を晶析・固液分離することにより、G2Uの濃縮された結晶画分(AF)とGU2の濃縮された液体画分(AL)とに分画し、この結晶画分(AF)をGU2の濃度が液体画分(AL)中の濃度より低い液体のG2U含有油脂(B)と混合後、結晶画分(BF)と液体画分(BL)に分離することで、結晶画分における液体成分の残存量を低減することが出来、その結果、ハードバターとして良好な品質の油脂を得ることが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の油脂(A)は、G2UとGU2を含有する油脂であり、Gは飽和またはトランス酸型脂肪酸残基、Uはシス型布飽和脂肪酸残基であって、G2UはG残基が2個、U残基が1個結合したトリグリセリド、GU2はG残基が1個、U残基が2個結合したトリグリセリドのことを言う。G2UとGU2を含有する油脂であれば、どのような油脂を用いても良いが、パーム油、シア脂、イリッペ脂等の所謂植物バター、もしくはその中融点画分、2位がオレイン酸に富む油脂の1、3位に選択的に飽和脂肪酸を導入して得たエステル交換反応油、またはトランス酸含量を高めるように異性化硬化した油脂が例示される。
【0009】
エステル交換反応油としては、G(飽和またはトランス酸型脂肪酸)もしくはそのエチルエステルとUUU(シス型不飽和脂肪酸)を1,3位置特異性リパーゼを触媒として反応させることでG2UとGU2を含有する油脂を得ることが出来る。
【0010】
ハードバターに用いられるG2Uとしては対称型トリグリセリドである1,3−ジ飽和−2−不飽和トリグリセリド(SUS S:飽和脂肪酸残基、U:シス型不飽和脂肪酸残基)が好ましく、飽和脂肪酸残基(S)としては、炭素数が16個のパルミチン酸、18個のステアリン酸、20個のアラキジン酸、22個のベヘン酸が挙げられる。また、シス型不飽和脂肪酸残基(U)としては、炭素数が18個のもので二重結合が1個のオレイン酸、二重結合が2個のリノール酸、二重結合が3個のリノレン酸が挙げられる。この中でもシス型不飽和脂肪酸残基(U)としてはオレイン酸が好ましい。
【0011】
この油脂(A)を晶析・固液分離することで、G2Uの濃縮された結晶画分(AF)と、GU2の濃縮された液体画分(AL)に分画する。(分画フローを図1に示す。)この時、得られた結晶画分(AF)をGU2濃度が固液分離して分画された液体画分(AL)中のGU2濃度よりも低い液体のG2U含有油脂(B)と混合した後、結晶画分(BF)と液体画分(BL)に分離することで結晶画分中の液体成分含量(GU2、U3濃度)の残存量を低下することが出来る。
【0012】
結晶画分(AF)と油脂(B)の混合比率は、結晶画分(AF):油脂(B)=1:1〜4、好ましくは結晶画分(AF):油脂(B)=1:1〜2が適している。結晶画分(AF)に対して油脂(B)が1未満の場合、結晶画分(AF)の結晶分に対する液体分の比率が低いために混合度合が悪く、分画性能が低下する傾向がある。また、結晶画分(AF)に対して油脂(B)が4を超えると、液体分の比率が高くなり、結晶画分(AF)のG2Uが融解し、結晶画分(BF)の収率が低下する傾向がある。結晶画分(AF)に対して油脂(B)が1〜2の場合、混合度合、及び分画性能が更に向上する。
【0013】
結晶画分(AF)と油脂(B)を混合する場合、ケーキ状の結晶画分(AF)を解砕しておくことが好ましい。結晶画分(AF)と油脂(B)の混合は、G2UとGU2及びU3の溶解度を利用することで分画性能を向上させることが出来る。液体成分(GU2及びU3)に対する結晶成分(G2U)の溶解度を求める最終製品の結晶成分含量にするよう調製することが好ましい。これを満足する方法として、圧搾して得られた結晶画分(AF)を圧搾した品温で解砕し、加温した油脂(B)と混合することが例示される。
【0014】
結晶画分(AF)と油脂(B)を混合する場合、油脂(B)を加温して液体状態にするが、油脂(B)の加温は、結晶画分(AF)中のG2U、及びGU2のトリグリセリドの分子種、及びその濃度に応じた温度に加温を行えばよく、例えば、1,3-ジステアロ-2‐オエレオイルトリグリセライド(StOSt)の場合、結晶画分(AF)と油脂(B)を混合した後の品温は34℃〜36℃が適している。特に、圧搾した品温の結晶画分(AF)を40℃程度に加温した油脂(B)と混合すると、混合後の品温が34〜36℃になる時間を短くでき、また混合物を固液分離した後の求める最終製品の品質、及び収率を良好にすることが出来る。
【0015】
GU2濃度が固液分離して分画された液体画分(AL)中のGU2濃度よりも低い液体のG2U含有油脂(B)としては、例えば油脂(A)を使用することができる。すなわち液体状態である加温された油脂(B)が、結晶画分(AF)中の結晶成分を殆ど溶解せず、結晶画分(AF)中の液体成分と置き換わることにより、GU2濃度を低下させるものであり、G、及びUが結晶画分(AF)中のG、及びUと略同一のものが好ましい。
【0016】
油脂(B)として油脂(A)を使用して結晶画分(AF)と混合した場合、固液分離して得られた液体画分(BL)は、油脂(A)に一部または全部循環使用することが出来る。
【0017】
GU2の濃縮された液体画分(AL)は、1、3位を選択的にエステル交換反応の原料とすることが出来る。前に記載したエステル交換反応は、1,3位置特異性リパーゼを触媒として反応させることで、GUG、GUU成分のトリグリセライドが多く、この反応油を油脂(A)の一部または全部として使用し固液分離することで、結晶画分(AF)にはGUGが、液体画分(AL)にはGUU成分を多くすることができる。
【0018】
油脂(B)に油脂(A)を使用すると、液体画分(AL)、及び液体画分(BL)は油脂(A)のエステル交換反応の原料、または、油脂(A)の一部または全部として使用することができ、反応系外に廃油が出ない環境に良い生産システムとすることができる。
【0019】
固液分離後の分画する方法は、圧搾、吸引濾過、自然濾過等、固体と液体を分離する方法であれば、特に限定はされないが、求める結晶画分、液体画分の収率、及び品質を考慮すると圧搾方法が好ましい。圧搾の際の圧力(圧搾)度合は、結晶画分と液体画分が分画され、圧搾後の結晶画分の要求品質に応じて圧搾圧力や圧搾時間を調整すれば良く、特に限定はない。また、分画する際のフィルターのメッシュ度合についても、結晶画分の粒径に合わせて選択すれば良く、特に限定されない。
【0020】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の実施例(数値等)はこれに限られるものではない。
【実施例1】
【0021】
<G2U及びGU2を含有する油脂の調製>
ステアリン酸エチルエステルとハイオレイックヒマワリ油に1,3位特異性を有するリパーゼを触媒としてエステル交換反応を行い、その後エチルエステルを蒸留除去しエステル交換反応油(A1)を調製した。このエステル交換反応油(StOSt、StOO、StStSt、StSt-DG等を含む)を50℃以上で完全融解後、23℃で固化させ(品温23℃)、圧搾濾過により固液分離し、結晶画分(AF)(収率52%)、及び液体画分(AL)(収率48%)を得た。エステル交換反応油(A1)、結晶画分、液体画分のStOSt、StOO、StStSt、StSt-DGの含有量を下記に示す。成分分析は高速液体クロマトグラフィーにて行った。
【0022】
〔表1〕

【0023】
固液分離して得た結晶画分(AF)を圧搾温度と同じ23℃にて解砕し、これとBとして40℃に加温して液状にしたA1を混合した。
(混合重量比は結晶画分(粉体AF):エステル交換反応油(液体A1)=1:1.5で素早く混合する。)その後30分間静置し、35℃の室温(装置温度)にてフィルタープレスを用いて圧搾濾過(圧搾圧2.9Mpa、圧搾時間60分間)を行い、結晶画分BFと液体画分BFを得た。結果を表2に示す。
【0024】
〔比較例1〕
実施例と同様にG2UおよびGU2を含むエステル交換脂(A1)を用い、50℃で完全に融解した後、冷却晶析を行い、フィルタープレスで冷却晶析の終点温度の室温(装置温度)23℃にて圧搾濾過(圧搾圧力2.9Mpa、圧搾時間90分間)を行った。結果を表2に示す。
【0025】
〔表2〕

【0026】
実施例は比較例に比べ残存率が5.5ポイントも高くなっているにもかかわらず、本例製品の方が結晶画分中のG2Uの濃度が高く、液体画分の主成分であるGU2の濃度が減少しており、分画性能が向上していること、及びハードバターとして良好であることがわかる。
【0027】
G2U及びGU2を含有する油脂(A1)の合成時に使用したハイオレイックヒマワリ油の代わりに図1に示す。液体画分(AL)を用い、蒸留除去されたオレイン酸エチルエステルを全水添処理したステアリン酸エチルエステルと1,3位特異性を有するリパーゼを触媒としてエステル交換反応して得られたエステル交換反応油(A)の場合も、実施例と同等の効果を示し、G2Uの濃度が増え、GU2の濃度が減少した結晶画分(BF)が得られ、ハードバターとして好ましい品質であった。
【実施例2】
【0028】
原料としてパーム中融点画分油脂(PMF:各含有量 POP46.2%、POL5.7%、POO14.4%、PPP1.1%)を用いた。PMFを70℃以上で完全融解後、品温が22℃になるよう予備冷却し、その後20℃で24Hr晶析を行い、結晶画分1を得た。通常の乾式分別法で得られる結晶画分はこの結晶画分1であるが、更にこの結晶画分1と22℃になるよう予備冷却した液体状のPMFを30:100の重量比で混合後、圧搾濾過にて固液分離し、結晶画分2と液体画分2を得た。
【0029】
〔表3〕

【0030】
上記の結果、パーム中融点画分油脂を分別して得られるPOP脂含有油脂についても、G2U(POP)、含有油脂(B)として、液体状のPMFと混合後、結晶画分と液体画分に分離することでG2U(POP)の濃度が増え、GU2の濃度が減少した結晶画分2が得られ、ハードバターとして好ましい品質であった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本願発明の乾式分別のフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
G2UとGU2を含有する油脂(A)を晶析・固液分離することにより、G2Uの濃縮された結晶画分(AF)とGU2の濃縮された液体画分(AL)とに分画し、この結晶画分(AF)をGU2の濃度が液体画分(AL)中の濃度より低い液体のG2U含有油脂(B)と混合後、結晶画分(BF)と液体画分(BL)に分離することを特徴とする、油脂の乾式分別方法。
但し、Gは飽和またはトランス酸型脂肪酸残基、Uはシス型不飽和脂肪酸残基であって、G2UはG残基が2個、U残基が1個結合したトリグリセリド、GU2はG残基が1個、U残基が2個結合したトリグリセリド。
【請求項2】
GU2の濃度が液体画分(AL)中の濃度より低い液体のG2U含有油脂(B)が油脂(A)である請求項1記載の分別方法。
【請求項3】
液体画分(BL)を油脂(A)の一部または全部として循環使用する請求項1記載の分別方法。
【請求項4】
油脂(A)が植物バター、もしくはその中融点画分、液体油と2位がオレイン酸に富む油脂の1、3位に選択的に飽和脂肪酸を導入して得たエステル交換反応油、または異性化硬化油である請求項1または2記載の分別方法。
【請求項5】
植物バターが、パーム油、シア脂、イリッペ脂である請求項3記載の分別方法。
【請求項6】
G2Uが1,3−ジ飽和−2−不飽和トリグリセリド(SUS S:飽和脂肪酸残基、U:シス型不飽和脂肪酸残基)である請求項1または2記載の乾式分別法。
【請求項7】
飽和脂肪酸残基(S)の炭素数が16個から22個、及び不飽和脂肪酸残基(U)の炭素数が18個である請求項5記載の乾式分別法。
【請求項8】
油脂(A)が、液体画分(AL)を原料とするエステル交換反応油である請求項3記載の分別方法。
【請求項9】
結晶画分(AF)と油脂(B)の混合比率が1:1〜1:4である請求項1記載の分別方法。
【請求項10】
結晶画分(AF)と油脂(B)の混合比率が1:1〜1:2である請求項8記載の分別方法。
【請求項11】
温度管理された油脂(B)が、ケーキ状の結晶画分(AF)と混合される請求項1記載の分別方法。
【請求項12】
結晶画分(AF)を解砕して油脂(B)と混合させる請求項1記載の乾式分別法。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/063952
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516562(P2005−516562)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018711
【国際出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】